説明

置換フェニルヒドラジンの調製方法

本発明は、式Iの置換フェニルヒドラジン


[式中、Rは明細書に記載した意味を有する]を調製する方法であって、式IIのジクロロフルオロベンゼン


を、ヒドラジン、ヒドラジン水和物およびヒドラジンの酸付加塩から選択されるヒドラジン源と反応させることを含み、場合により、少なくとも1種の有機溶媒の存在下で行われる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式Iの置換フェニルヒドラジン
【化1】

[式中、Rは下記のとおりの意味を有する]
を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式Iの置換フェニルヒドラジンは、様々な農薬の製造において重要な中間体生成物である(例えばWO 00/59862、EP-A 0 187 285、WO 00/46210、EP-A 096645、EP-A 0954144およびEP-A 0952145を参照)。
【0003】
EP-A 0 224 831は、ハロゲン化芳香族化合物をヒドラジンまたはヒドラジン水和物と反応させることによる、様々なフェニルヒドラジンの調製について記載している。調製例V-1によれば、2,6-ジクロロ-3-フルオロ-4-トリフルオロメチルフェニルヒドラジンは、3,5-ジクロロ-2,4-ジフルオロベンゾトリフルオリドとヒドラジン水和物を、エタノール中、還流状態で反応させることによって得られる。
【0004】
式Iの置換フェニルヒドラジンを調製する方法も、従来技術から公知である。
【0005】
例えばEP-A 0 187 285には、3,4,5-トリクロロトリフルオロメチル-ベンゼン(本明細書では3,4,5-トリクロロベンゾトリフルオリドとも称する)と5モル当量のヒドラジン水和物を、ピリジン中115〜120℃の温度で48時間反応させることによる、2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジン(異名:1-[2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]ヒドラジン)の調製について記載されている。所望の最終生成物は、収率83%、ガスクロマトグラフィ測定による純度90%で得られる(調製例1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、EP-A 0 187 285に記載されている方法は、比較的高い温度と比較的長い反応時間を必要とする。この方法の他の欠点は、所望の最終生成物の選択性が限られることである。さらに、ヒドラジン源は比較的高い過剰量で用いなければならない。しかしながら、ヒドラジンの過剰量は後にワークアップするか、あるいは破壊しなければならず、経済上コストがかかり、また、環境保全の観点から好ましくない。加えて、上記の方法はピリジンを溶媒として行われ、その回収および除去も工業スケールにおいては問題となる。
【0007】
そこで本発明は、式Iの置換フェニルヒドラジンを調製するための改良された方法を提供すること、特に、適度な温度で行うことができ、反応時間が短く、それと同時に所望の最終生成物の経済上許容できる収率と高い選択性を達成することができる手順を見出すことを目的とする。本発明の別の目的は、式Iの置換フェニルヒドラジンの調製による環境への影響を減らすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的およびさらなる目的は、式Iの置換フェニルヒドラジン
【化2】

[式中、RはC1-C4ハロアルキル、C1-C4ハロアルコキシまたはC1-C4ハロアルキルチオである]
を調製する方法であって、式IIのジクロロフルオロベンゼン
【化3】

[式中、Rは上記で定義したものと同じ意味を有する]
を、ヒドラジン、ヒドラジン水和物およびヒドラジンの酸付加塩から選択されるヒドラジン源と反応させることを含み、場合により、少なくとも1種の有機溶媒の存在下で行われる方法によって、全体として、あるいは部分的に達成することができる。
【発明の効果】
【0009】
驚くべきことに、式IIのジクロロフルオロベンゼンを出発原料として用いることにより、式Iの置換フェニルヒドラジンが従来技術の方法と比べて穏やかな条件で、かつ高い転化率および選択性で得られることがわかった。さらに、この反応は非極性溶媒から高極性溶媒までの幅広い種類の有機溶媒中で行うことができる。このことは、式Iの置換フェニルヒドラジンの合成のために用いることができる有機溶媒の選択肢を拡げ、例えばピリジンのように環境的に好ましくない、あるいは高価な溶媒の使用を避けることができるようになる。さらに、出発原料と反応させるヒドラジン源の量を大幅に減らすことができ、回収および廃棄物処理を改善し、コストを最小限に抑えることができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で用いる用語「C1-C4ハロアルキル」は、1個以上(例えば2、3、4、5、6もしくは7個)のハロゲン原子(下記に定義のとおり)をさらに含むC1-C4アルキル基(下記に定義のとおり)、例えばモノ-、ジ-およびトリフルオロメチル、モノ-、ジ-およびトリクロロメチル、1-フルオロエチル、1-クロロエチル、2-フルオロエチル、2-クロロエチル、1,1-ジフルオロエチル、1,1-ジクロロエチル、1,2-ジフルオロエチル、1,2-ジクロロエチル、2,2-ジフルオロエチル、2,2-ジクロロエチル、2,2,2-トリフルオロエチル、2,2,2-トリクロロエチルおよびヘプタフルオロイソプロピルを意味する。
【0011】
本明細書で、関連する用語「C1-C4ハロアルキル」において用いる用語「C1-C4アルキル」は、1〜4個の炭素原子を有する直鎖または分岐の脂肪族アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチルを意味する。
【0012】
本明細書で用いる用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素と理解される。
【0013】
本明細書で用いる用語「C1-C4ハロアルコキシ」は、1個以上(例えば2、3、4、5、6もしくは7個)の上記で定義したハロゲン原子をさらに含むC1-C4アルコキシ基(下記に定義のとおり)、例えばモノ-、ジ-およびトリフルオロメトキシ、モノ-、ジ-およびトリクロロメトキシ、1-フルオロエトキシ、1-クロロエトキシ、2-フルオロエトキシ、2-クロロエトキシ、1,1-ジフルオロエトキシ、1,1-ジクロロエトキシ、1,2-ジフルオロエトキシ、1,2-ジクロロエトキシ、2,2-ジフルオロエトキシ、2,2-ジクロロエトキシ、2,2,2-トリフルオロエトキシ、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ、2,2,2-トリクロロエトキシ、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロイソプロポキシ、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロポキシ、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエトキシおよびヘプタフルオロイソプロポキシを意味する。
【0014】
本明細書で用いる用語「C1-C4ハロアルキルチオ」は、1個以上(例えば2、3、4、5、6もしくは7個)の上記で定義したハロゲン原子をさらに含むC1-C4アルキルチオ基(下記に定義のとおり)、例えばモノ-、ジ-およびトリフルオロメチルチオ、モノ-、ジ-およびトリクロロメチルチオ、1-フルオロエチルチオ、1-クロロエチルチオ、2-フルオロエチルチオ、2-クロロエチルチオ、1,1-ジフルオロエチルチオ、1,1-ジクロロエチルチオ、1,2-ジフルオロエチルチオ、1,2-ジクロロエチルチオ、2,2-ジフルオロエチルチオ、2,2-ジクロロエチルチオ、2,2,2-トリフルオロエチルチオ、1,1,2,2-テトラフルオロエチルチオ、2,2,2-トリクロロエチルチオ、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルチオ、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルチオ、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエチルチオおよびヘプタフルオロイソプロピルチオを意味する。
【0015】
本明細書で、関連する用語「C1-C4ハロアルコキシ」において用いる用語「C1-C4アルコキシ」は、酸素原子を介して結合したC1-C4アルキル基(上記で定義のとおり)、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、sec-ブトキシ、iso-ブトキシおよびtert-ブトキシを意味する。
【0016】
本明細書で、関連する用語「C1-C4ハロアルキルチオ」において用いる用語「C1-C4アルキルチオ」は、硫黄原子を介して結合したC1-C4アルキル基(上記で定義のとおり)、例えばメチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、n-ブチルチオ、sec-ブチルチオ、iso-ブチルチオおよびtert-ブチルチオを意味する。
【0017】
本発明の方法において、式Iにおいて、ならびに従って式IIにおいても、RがC1-C4-ハロアルキル、特にトリフルオロメチルである場合が特に有利であることがわかった。
【0018】
本発明の特に好ましい実施形態は、従って、式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジン
【化4】

を調製する方法であって、式II-1の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン(以下、「3,5-ジクロロ-4-フルオロベンゾトリフルオリド」とも称する)
【化5】

を本明細書で定義されるヒドラジン源と反応させることを含み、場合により、少なくとも1種の有機溶媒の存在下で行われる方法を提供する。
【0019】
式IIのジクロロフルオロベンゼン(例えば、式II-1の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼンなど)は公知の化合物であり、公知の方法、例えばEP-A 0 034 402、US 4,388,472、US 4,590,315およびJournal of Fluorine Chemistry, 30 (1985), pp. 251-258に記載されている方法、もしくはそれと同様の方法により調製することができる。
【0020】
通常、ヒドラジン源は式IIのジクロロフルオロベンゼンに対して少なくとも等モル量、あるいはやや過剰量で用いられる。式IIのジクロロフルオロベンゼン1モルに対して、ヒドラジン源を1〜6モル、特に1〜4モル用いることが好ましく、1〜3モル用いることがより好ましい。
【0021】
好ましい実施形態においては、式IIのジクロロフルオロベンゼン(特に、式II-1の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン)をヒドラジン水和物と反応させる。ヒドラジン水和物の量は、式IIのジクロロフルオロベンゼン(特に式II-1の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン)1モルに対して、通常1〜6モル、特に1〜4モルであり、1〜3モルとすることがより好ましい。
【0022】
用語「ヒドラジンの酸付加塩」は、鉱酸のような強酸から形成されたヒドラジン塩(例えば硫酸ヒドラジンおよび塩酸ヒドラジン)を意味する。
【0023】
本発明の方法は、原則としてバルクでも行うことができるが、少なくとも1種の有機溶媒の存在下で行うことが好ましい。
【0024】
適した有機溶媒は、ほとんど全ての不活性有機溶媒であり、環式または脂肪族エーテル、例えばジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル(ジグリム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグリム)、ジブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキサンなど;芳香族炭化水素、例えばトルエン、キシレン(オルト-キシレン、メタ-キシレンおよびパラ-キシレン)、エチルベンゼン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソールなど;アルコール、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノールなど;第3級C1-C4アルキルアミン、例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなど;複素環芳香族化合物、例えばピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、5-エチル-2-メチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン(コリジン)、ルチジン(2,6-ジメチルピリジン、2,4-ジメチルピリジンおよび3,5-ジメチルピリジン)、4-ジメチルアミノピリジンなど;ならびに上記の溶媒の任意の混合物が含まれる。
【0025】
好ましい有機溶媒は環状エーテル(特に上記で定義したもの)、アルコール(特に上記で定義したもの)、芳香族炭化水素(特に上記で定義したもの)および複素環芳香族化合物(特に上記で定義したもの)ならびにそれらの任意の混合物である。より好ましくは、有機溶媒は、環状エーテル(特に上記で定義したもの)および芳香族炭化水素(特に上記で定義したもの)ならびにそれらの任意の混合物から選択される。
【0026】
従って、驚くべきことに、非極性溶媒、弱極性溶媒、極性プロトン性溶媒および極性非プロトン性溶媒を含む広範囲の様々な有機溶媒を式Iの置換フェニルヒドラジンを調製するために用いることができる。
【0027】
好ましい実施形態においては、誘電率が25℃の温度で12以下、好ましくは8以下の非極性または弱極性有機溶媒が本発明の方法において用いられる。そのような非極性または弱極性の有機溶媒は、当業者に公知の様々な有機溶媒、特に上記で挙げたものから選択することができる。上記の要件を満たす有機溶媒の具体例としては、芳香族炭化水素、特にトルエン(25℃で2.38の誘電率を有する)、および環状エーテル、特にテトラヒドロフラン(25℃で7.58の誘電率を有する)が挙げられる。
【0028】
好ましい有機溶媒は、芳香族炭化水素、特に上記で挙げたもの、ならびにそれらの任意の混合物である。芳香族炭化水素のなかでもトルエンが最も好ましい。
【0029】
複素環芳香族化合物、特に上記で挙げたもの、ならびにそれらの任意の混合物も好ましく、ピリジンが最も好ましい。
【0030】
最も好ましい有機溶媒は、環状エーテル、特に4〜8個の炭素原子を有する環状エーテルであり、より好ましくはテトラヒドロフランである。
【0031】
有機溶媒は、通常、式IIのジクロロフルオロベンゼン1モルに対して、1〜15モル、特に2〜10モル、そしてより好ましくは3〜8モルの量で用いられる。
【0032】
本発明の方法は、反応混合物の沸点以下の温度で行うことができる。有利なことに、本発明の方法は予想外に低い温度、例えば60℃以下で行うことが可能である。好ましい温度範囲は0℃〜60℃であり、より好ましくは10℃〜55℃、さらにより好ましくは15℃〜50℃、とりわけ好ましくは15〜45℃、および最も好ましくは20℃〜40℃である。
【0033】
式IIのジクロロフルオロベンゼンとヒドラジン源の反応は、減圧下、常圧(すなわち大気圧)下または加圧下で行うことができる。大気圧の領域で反応を行うことが好ましい。
【0034】
反応時間は、広範囲に渡って様々であり、様々な要因、例えば反応温度、有機溶媒、ヒドラジン源およびその量に依存する。必要な反応時間は、通常1〜120時間、特に12〜120時間、より好ましくは24〜120時間の範囲内である。
【0035】
式IIのジクロロフルオロベンゼンおよびヒドラジン源は、任意の適切な方法により互いに接触させることができる。式IIのジクロロフルオロベンゼンを、場合により所望の有機溶媒と共に最初に反応容器に入れ、次いでヒドラジン源を得られた混合物に加えることが有利であることが多い。
【0036】
反応混合物はワークアップすることができ、式Iの置換フェニルヒドラジンを、洗浄、抽出、沈殿、結晶化および蒸留といった公知の方法によりそこから単離することができる。
【0037】
所望により、式Iの置換フェニルヒドラジンは、その単離の後に本発明の技術分野で公知の技術、例えば蒸留、再結晶などにより精製してもよい。
【0038】
本発明の方法における式IIのジクロロフルオロベンゼン(特に式II-1の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン)の転化率は、通常10%超、特に50%超、より好ましくは75%超、とりわけ好ましくは90%超である。
【0039】
転化率は、通常、反応溶液から採取した試料のガスクロマトグラフィ分析におけるシグナルの領域-%(以下、「GC領域-%」とも称する)を評価することにより測定する。本発明において、転化率は式Iの置換フェニルヒドラジンのGC領域-%(特に式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンのGC領域-%)と未転化の式IIのジクロロフルオロベンゼンのGC領域-%(特に未転化の式II-1の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン)の和に対する式Iの置換フェニルヒドラジンのGC領域-%(特に式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンのGC領域-%)の割合として定義され、該割合は100をかけてパーセント転化率として算出される。
【0040】
好ましい実施形態と他の好ましい実施形態の組み合わせは、本発明の範囲内である。
【0041】
本発明の方法は、これまで式Iの置換フェニルヒドラジンを調製するのに用いられていた手順に対して数々の利点を有する。第一に、比較的低い温度(例えば20℃〜30℃)および短い反応時間であっても、式IIのジクロロフルオロベンゼン(特に1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン)のほぼ完全な変換が達成可能であることが示された。第二に、本発明の方法は、所望の有用な生成物に対して非常に高い選択性をもたらす。それゆえ、不要な異性体が多量に形成されることがないため、コストがかかるワークアップおよび精製手段をとらずとも、反応混合物をその後の反応に用いることができる。例えば、式II-1の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼンをヒドラジン源(特にヒドラジン水和物)と反応させた場合、所望の式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンの選択性は驚くほど高くなる。1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼンにおいてフッ素原子に代わり塩素が置き換わって生じる置換フェニルヒドラジンは観察されない。唯一の副生成物(場合によりごく少量観察される)は、目的化合物のモノ脱-塩素化された類似化合物、つまり2-クロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンである。また、広範囲の様々の溶媒中で高い転化率と選択性を達成することができる。さらに、テトラヒドロフランのような環状エーテルおよび低過剰量のヒドラジン源を使用することにより、従来技術と比べて利点をもたらす。このことにより、原料コストを抑え、廃棄物処理の手間をも低減させる。要すれば、本発明の方法は、より経済的かつ産業利用に適した式Iの置換フェニルヒドラジンの合成経路を提供する。
【実施例】
【0042】
下記の実施例は本発明の方法の例示であるが、これらに限定されることを意図するものではない。本発明は、さらに下記の比較例(本発明のものではない)により例示される。
【0043】
実施例1:テトラヒドラフラン中における式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンの調製
2.5g(11mmole)の式II-1の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン(純度98%)を5.3g(74mmole)のテトラヒドラフラン中に溶解させた。この溶液に2.1g(41mmole)のヒドラジン水和物(100%)を加えた。得られた混合物を25℃で91時間攪拌した。その後、7.6gの有機相を分離し、そこには生成物である2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンがテトラヒドロフラン中33.5重量%の溶液として含まれていた。これは99%の収率が得られたことを意味する。溶媒を分離した。固体残渣試料を、生成物を特定するための1H-NMRスペクトル測定に用いた。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ/ppm=4.05(s,2H);5.9(s,1H);7.5(s,2H)
【0044】
実施例2:テトラヒドラフラン中における式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンの調製(ヒドラジン水和物の量:2.1当量)
2.5g(11mmole)の式II-1の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン(純度98%)を5.3g(74mmole)のテトラヒドロフラン中に溶解させた。この溶液に1.1g(22mmole)のヒドラジン水和物(100%)を加えた。得られた混合物を25℃で24時間および50℃で2時間攪拌した。その後、7.6gの有機相を分離し、そこには生成物である2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンがテトラヒドロフラン中29.5重量%の溶液として含まれていた。これは87%の収率が得られたことを意味する。
【0045】
比較例1:テトラヒドロフラン中における、3,4,5-トリクロロ-ベンゾトリフルオリドからの式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル-ヒドラジンの調製
10g(40mmole)の3,4,5-トリクロロベンゾトリフルオリド(純度99.7%)を30g(417mmole)のテトラヒドロフラン中に溶解させた。この溶液に8g(160mmole)のヒドラジン水和物(100%)を加えた。得られた混合物を50℃で24時間攪拌した。その後、40.7gの有機相を分離した。この分離により得られた溶液は、生成物である2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンを0.9重量%の量で、および出発原料である3,4,5-トリクロロベンゾトリフルオリドを27.1重量%の量で含んでいた。これは生成物収率が3.7%より高くはなかったことを意味する。
【0046】
実施例3:ピリジン中における式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンの調製
5.0g(21mmole)の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン(純度98%)を11.7g(147mmole)のピリジン中に溶解させた。この溶液に4.2g(84mmole)のヒドラジン水和物(100%)を加えた。得られた混合物を25℃で20時間攪拌した。試料のガスクロマトグラフィ分析により、97%の転化率が示された。さらに25℃で73時間および50℃で5時間経過した後、16.6gの有機相を分離し、そこには生成物である2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンがピリジン中29.4重量%の溶液として含まれていた。これは95%の収率が得られたことを意味する。
【0047】
実施例4:ピリジン中における式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンの調製(ヒドラジン水和物の量:4当量、反応時間:6時間、反応温度:25℃)
10g(42mmole)の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン(純度99%)を23.5g(297mmole)のピリジン中に溶解させた。この溶液に8.5g(170mmole)のヒドラジン水和物(100%)を加えた。得られた混合物を25℃で6時間攪拌した。その後、36.3gの有機相を分離し、そこには生成物である2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンがピリジン中25重量%の溶液として含まれていた。これは87%の収率が得られたことを意味する。
【0048】
比較例2:ピリジン中における、3,4,5-トリクロロ-ベンゾトリフルオリドからの式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンの調製(ヒドラジン水和物の量:4当量、反応時間:24時間、反応温度:25℃)
10g(40mmole)の3,4,5-トリクロロベンゾトリフルオリド(純度99.7%)を30g(380mmole)のピリジン中に溶解させた。この溶液に8g(160mmole)のヒドラジン水和物(100%)を加えた。得られた混合物を25℃で24時間攪拌した。その後、41.6gの有機相を分離した(低相)。この分離により得られた溶液は、生成物である2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンを0.5重量%の量で、および出発原料である3,4,5-トリクロロベンゾトリフルオリドを26.4重量%の量で含んでいた。これは、生成物収率が2.5%より高くはなかったことを意味する。
【0049】
実施例5:ピリジン中における式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンの調製(ヒドラジン水和物の量:2.1当量)
10g(42mmole)の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン(純度99%)を23.5g(297mmole)のピリジン中に溶解させた。この溶液に4.5g(90mmole)のヒドラジン水和物(100%)を加えた。得られた混合物を25℃で6時間、次いで50℃で2時間攪拌した。その後、24.8gの有機相を分離し、そこには生成物である2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンがピリジン中32重量%の溶液として含まれていた。これは、76%の収率が得られたことを意味する。
【0050】
実施例6:トルエン中における式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンの調製
2.5g(11mmole)の1,3-ジクロロ-2-フルオロ-5-トリフルオロメチルベンゼン(純度98%)を6.8g(74mmole)のトルエン中に溶解させた。この溶液に2.1g(41mmole)のヒドラジン水和物(100%)を加えた。得られた混合物を110℃で24時間還流させた。試料のガスクロマトグラフィ分析により、97%の転化率が示された。その後、22gのトルエンおよび10gの水を加えて反応混合物をワークアップさせた。28.5gの有機相を分離し、そこには生成物である2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンがピリジン中8.4重量%の溶液として含まれていた。これは93%の収率が得られたことを意味する。
【0051】
比較例3:トルエン中における、3,4,5-トリクロロ-ベンゾトリフルオリドからの式I-1の2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル-ヒドラジンの調製
10g(40mmole)の3,4,5-トリクロロベンゾトリフルオリド(純度99.7%)を30g(326mmole)のトルエン中に溶解させた。この溶液に8g(160mmole)のヒドラジン水和物(100%)を加えた。得られた混合物を還流状態(約110℃)で24時間攪拌した。その後、39.4gの有機相を分離した。この分離により得られた溶液は、生成物である2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジンを0.9重量%の量で、および出発原料である3,4,5-トリクロロベンゾトリフルオリドを26.3重量%の量で含んでいた。これは、生成物収率が3.6%より高くはなかったことを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの置換フェニルヒドラジン
【化1】

[式中、RはC1-C4ハロアルキル、C1-C4ハロアルコキシ、またはC1-C4ハロアルキルチオである]
を調製する方法であって、
式IIのジクロロフルオロベンゼン
【化2】

[式中、Rは上記で定義したものと同じ意味を有する]
をヒドラジン、ヒドラジン水和物およびヒドラジンの酸付加塩から選択されるヒドラジン源と反応させることを含み、
場合により、少なくとも1種の有機溶媒の存在下で行われる、前記方法。
【請求項2】
式IIのジクロロフルオロベンゼンとヒドラジン源との反応が、少なくとも1種の有機溶媒の存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機溶媒が、25℃の温度で8以下の誘電率を有する非極性または弱極性の有機溶媒から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
有機溶媒が環状エーテルから選択される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
環状エーテルが4〜8個の炭素原子を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
環状エーテルがテトラヒドロフランである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
反応が15℃〜45℃の範囲の温度で行われる、請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ヒドラジン源がヒドラジン水和物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ヒドラジン水和物を、式IIのジクロロフルオロベンゼン1モルに対して1〜6モルの量で用いる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ヒドラジン水和物を、式IIのジクロロフルオロベンゼン1モルに対して1〜3モルの量で用いる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
式IおよびII中のRがC1-C4ハロアルキルである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
式IおよびII中のRがトリフルオロメチルである、請求項11に記載の方法。

【公表番号】特表2010−521433(P2010−521433A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553101(P2009−553101)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052346
【国際公開番号】WO2008/113661
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】