説明

義歯の加工方法と、それを用いた義歯の加工装置

【課題】本発明は、義歯の加工方法と、それを用いた義歯の加工装置に関するもので、義歯の加工ストレスの軽減を目的とするものである。
【解決手段】そしてこの目的を達成するために本発明は、ワーク2のコーピング5、6とポンティック4の外周を、ワーク2を回転させて削る荒加工と、ワーク2の回転を止めて削る中荒加工と、仕上げ加工とを備え、前記荒加工は、削りはじめのコーピング5については、もっとも投影面積が大きくなるところまでは、荒加工代を残して削り、この最大投影面積を超えた後は、この最大投影面積で、ポンティック4方向に削る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯の加工方法と、それを用いた義歯の加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科医療においては、歯が持つ機能を回復させると共に、審美性を高めたいという要求が高まってきており、従来の金属製の義歯に変わり、セラミックを材料とした義歯に注目が集まっている。
【0003】
このセラミックを材料とした義歯は、耐久性と強度に優れ、かつより天然歯に近い色調を再現できるので、義歯としての強度を保ちながら審美性を高めることができる。さらに、金属ではないので、金属アレルギーの発生を抑制することができ、義歯の材料としては好適な物である。
【0004】
そして、このセラミックを加工する方法が、例えば下記特許文献1、2に提案されている。
【特許文献1】特開2006−271435号公報
【特許文献2】特開平7−138123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来例における課題は、義歯を緻密焼結したセラミック製のワークから削り出す際に、セラミックが高硬度であるために加工抵抗が大きく、すなわち、削り出す義歯に対する加工ストレスが大きいということであった。
【0006】
そこで本発明は、義歯の加工ストレスの軽減を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そしてこの目的を達成するために、本発明の義歯の加工方法は、支持歯の両側に連結部を介して第1の橋脚歯と第2の橋脚歯を連結した義歯の加工方法であって、ワークの第1、第2の橋脚歯と支持歯の外周を、ワークを回転させて削る荒加工と、ワークの回転を止めて削る中荒加工と、仕上げ加工とを備え、前記荒加工は、削りはじめの第1の橋脚歯については、もっとも投影面積が大きくなるところまでは、荒加工代を残して削り、この第1の橋脚歯の最大投影面積を超えた後は、この最大投影面積で、支持歯方向に削り、この支持歯が手前の前記第1の橋脚歯の最大投影面積よりも外周に突出している場合には、突出している外周の部分の荒加工代を広げた状態で後方の第2の橋脚歯方向に削り、この第2の橋脚歯においても前記第1の橋脚歯および前記支持歯の最大投影面積よりも外周に突出している場合には、突出している外周の部分の荒加工代を広げて削っていく加工であり、前記中荒加工は、第1の橋脚歯と支持歯と第2の橋脚歯を、仕上げ代を残して削る加工であり、前記仕上げ加工は、支持歯と第1の橋脚歯、第2の橋脚歯と連結部の仕上げを行う加工であることを特徴とするものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明の義歯の加工方法は、支持歯の両側に連結部を介して第1の橋脚歯と第2の橋脚歯を連結した義歯の加工方法であって、ワークの第1、第2の橋脚歯と支持歯の外周を、ワークを回転させて削る荒加工と、ワークの回転を止めて削る中荒加工と、仕上げ加工とを備え、前記荒加工は、削りはじめの第1の橋脚歯については、もっとも投影面積が大きくなるところまでは、荒加工代を残して削り、この第1の橋脚歯の最大投影面積を超えた後は、この最大投影面積で、支持歯方向に削り、この支持歯が手前の前記第1の橋脚歯の最大投影面積よりも外周に突出している場合には、突出している外周の部分の荒加工代を広げた状態で後方の第2の橋脚歯方向に削り、この第2の橋脚歯においても前記第1の橋脚歯および前記支持歯の最大投影面積よりも外周に突出している場合には、突出している外周の部分の荒加工代を広げて削っていく加工であり、前記中荒加工は、第1の橋脚歯と支持歯と第2の橋脚歯を、仕上げ代を残して削る加工であり、前記仕上げ加工は、支持歯と第1の橋脚歯、第2の橋脚歯と連結部の仕上げを行う加工であることを特徴とするものであるので、義歯の加工ストレスの軽減をすることができる。
【0009】
すなわち、本発明においては、支持歯の両側に連結部を介して2つの橋脚歯を連結した義歯を、ワークから、回転加工で削る荒加工と、走査加工あるいは等高線加工で削る中荒加工と、走査加工あるいは等高線加工で削る仕上げ加工を用いて、削り出すものである。
【0010】
まず、前記荒加工では、ワークを回転させながら、第1の橋脚歯、支持歯、第2の橋脚歯と削っていく際に、荒加工代を外周方向に徐々に広げていくように加工するため、工具が回転軸方向に彫り込む事が無くなり、よって、その彫り込みによる衝撃をなくすことができ、結果として、義歯に対する加工ストレスを軽減した加工を行うことができるものとなる。
【0011】
つぎに、前記中荒加工では、ワークの回転を止めた状態で、走査加工あるいは等高線加工を用いて、荒加工代から内周方向に、仕上げ代まで加工を行う。
【0012】
そして、最後に仕上げ加工では、ワークの回転を止めたままの状態で、走査加工あるいは等高線加工を用いて、仕上げ代を精密に仕上げるものであるので、その結果として、義歯の加工ストレスの軽減ができるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、支台歯に被せる2つの橋脚歯と消失した歯を補うための1つの義歯が連結している連続歯の加工方法を例にして、添付図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、上顎の連続歯1が、緻密焼結した柱状のセラミック体であるワーク2から削り出された状態を示すものである。連続歯1は、ワークの未加工部との連結部3を介してワーク2と連結されている。
【0015】
なお、連続歯1は、ワーク2から削り出された後、ワークの未加工部との連結部3の位置でワークから切り離され、歯科技工士により陶材が盛られ、義歯に整形されていくことになる。
【0016】
本実施形態では、加工例として、連続歯1をワーク2から削り出す方法を図面1を用いて説明する。
【0017】
さて、この連続歯1において、支持歯(以下ポンティックと称す)4は、上顎で消失した歯を補うための義歯であり、ポンティック4に、前方の橋脚歯(以下コーピングと称す)5と後方の橋脚歯(以下コーピングと称す)6が、連結部(以下コネクタと称す)7、8を介してそれぞれ連結されている。このコーピング5、6は、消失した歯の前後の歯を削って作成した2つの支台歯(図示せず)に被せるために、コーピング5、6の内部を彫りこんでおり、そのため、コーピング5、6の内部9は、中空の状態となっている。
【0018】
これに対し、ポンティック4、コネクタ7、8は、内部が詰まった固体である。
【0019】
さて、図2は、図1で示した状態を上方から見た図であり、ワーク2の破線部10を削り取って、連続歯1を削りだしていくことを示している。
【0020】
まず、上述の連続歯1を加工するための、本実施形態における加工装置の構成を、図3を用いて説明する。
【0021】
さて図3において、ワーク2は、支持部材11によって回転自在に支持されており、モータ12により回転が伝えられる。ワーク2は支持部材11とモータ12と一体となってX軸、Y軸方向に移動できるような構成となっている。
【0022】
なお、ワーク2を加工する工具13は、ダイヤモンド粒子を金属によって保持した工具であり、支持部14によって回転自在に支持されており、モータ15により回転が伝えられる。この工具13、支持部14、モータ15は、一体となって、Z軸方向に移動できるような構成となっており、ワーク2と工具13の動作によりワーク2に対して、通常の3軸加工が可能な構成となっている。
【0023】
また、前記モータ12、15は、電源部16、制御部17にそれぞれ接続されており、電源部16から電力の供給を受け、制御部17により回転が制御される。
【0024】
さらに、この制御部17には、加工データ入力部18から入力された加工データを記憶する記憶部19と、ユーザーが操作を行う操作部20が接続されている。
【0025】
この制御部17は、操作部20からの加工開始命令を受け取ると、記憶部19に記憶された加工データを読み出し、その加工データに基づいて、モータ12および支持部11を介してワーク2の回転および停止、さらにX軸、Y軸方向への移動を制御し、モータ15および支持部14を介して工具13を回転させ、この工具13をZ軸方向に動かすことでワーク2に対して加工を行っていく。
【0026】
この加工については、後で詳細に説明する。
【0027】
さて、加工においては、工具13を、加工に適した大きさの工具に取り替える必要があり、ツールチェンジャー21には、径の違う工具が準備されている。そして、記憶部19に記憶された加工データに基づいて、制御部17が工具13をツールチェンジャー21まで移動させ、工具を交換した後、さらに加工を続けていく。
【0028】
なお、工具13はダイヤモンド粒子を金属によって保持した工具であるため、加工を続けると、加工の摩擦により、徐々に工具が摩耗していき、工具13の長さが短くなっていく。この工具13の摩耗を測定するために、測長器22が設けられている。
【0029】
この測長器22は、接触式の測長器であり、工具を測長する時には、まず、制御部17が加工を一時中断し、工具13を測長器22に移動させ、工具13を測長器22に直接当てる。つぎに、測長器22に接続された測長部23が、工具13を測長する。
【0030】
なお、この測長部23には、工具復帰位置決定部24が接続されており、工具13の工具復帰位置、すなわち作業の再開位置を決定し、制御部17に伝える。すると、制御部17は、工具復帰位置に工具13を移動させ、加工を再開することになる。
【0031】
以上のように構成された、連続歯の加工装置において、本実施形態の特徴点である加工方法について説明する。
【0032】
本実施形態では、柱状のワーク2の材料として、特許第2945935号公報に記載される方法により、酸化ジルコニウム65.9〜69.9重量%、酸化セリウム10.1〜11.1重量% 、酸化アルミニウム19.5〜23.5重量%、酸化チタン0.01〜0.03重量% 、及び酸化マグネシウム0.04〜0.08重量% を含む原料配合物を調整し、調整した原料配合物をCIP成形して圧粉体を作成し、これを円柱体状に整形加工して整形加工体を得た。そして、得られた整形加工体を1450℃で緻密焼結したセラミックスを使用する。
【0033】
そして、このワーク2に対して、荒加工と、中荒加工と、仕上げ加工を行い、連続歯1を削り出していく。
【0034】
まず、荒加工では、ワーク2を回転させながら、コーピング5、コネクタ7、ポンティック4、コネクタ8、コーピング6、及びワークの未加工部との連結部3と削っていく際に、荒加工代を外周方向に徐々に広げていくように加工するため、工具13が図4の回転軸25方向に彫り込む事が無くなり、よって、その彫り込みによる衝撃をなくすことができ、結果として、連続歯1に対する加工ストレスを軽減した加工を行うことができるものとなる。
【0035】
つぎに、前記中荒加工では、ワーク2の回転を止めた状態で、走査加工あるいは等高線加工を用いて、荒加工代から内周方向に、仕上げ代まで加工を行う。
【0036】
そして、最後に仕上げ加工では、ワーク2の回転を止めたままの状態で、走査加工あるいは等高線加工を用いて、仕上げ代を精密に仕上げ、連続歯1を作成するのである。
【0037】
以上の3加工の詳細を、以下に図面を用いて、それぞれ説明する。
【0038】
まず最初に、荒加工について説明する。
【0039】
この荒加工では、荒加工代を設定し、その荒加工代まで削りだし加工を行う。荒加工代は、連続歯1に仕上げ代(例えば150μm)を加えた以上の大きさに設定される。この荒加工代の設定方法は、後で詳細に説明する。
【0040】
図4を用いて、荒加工の手順を説明する。
【0041】
まず、ワーク2を、回転軸25を中心に軸回転させる。つぎに、先端が球面形状の工具13を回転させながらワーク2の先端面26に当て、その後、工具13の先端球面27と側面27Aとを使用して、ワーク2の後方に向けて加工を行い、加工終端面28まで加工していく。
【0042】
さて、図5は、ワーク2を先端側から見た図であり、この図からも分かるとおり、連続歯1は、回転軸25に対して非対称である。また、29は、加工終端面28での荒加工代線であり、これは、連続歯1を、加工終端面28に投影したときの最大投影面積に仕上げ代(例えば150μm)を加えたものとなる。
【0043】
そして、ワーク2が回転すると、たとえば、この荒加工代線29からワーク2の最外周部30までの領域を加工する時には、工具13は、その先端が荒加工代線29をなぞるように、回転軸25に近づいたり遠ざかったりしながら加工が行われる。
【0044】
このように、工具13は、回転軸25と直角方向に上下運動しながら、図4の先端面26から加工終端面28まで加工を行っていく。また、柱状のワーク2は硬いセラミックでできているため、このセラミックを加工していく時には、工具13に大きな加工ストレスが加わってくる。
【0045】
この加工ストレスを軽減するために、本実施形態の荒加工では、図6に示すように、工具13をワーク2の先端側へしならせながら、つまり加工ストレスをワーク2の先端側へ逃がしながら、連続歯1を削りだしていく。その結果として、連続歯1への加工ストレスを低減することが出来る。また、工具13をしならせることで同時に工具13に与えるストレスも軽減させることが出来る。
【0046】
この加工13のしなりによる荒加工への影響は、後で詳細に説明する。
【0047】
また、荒加工において、工具13のしなりとともに重要なものが、ワーク2の回転軸25方向への工具13の彫り込みを防止するということである。
【0048】
図7は、工具13の先端30Aが、加工面30Bよりも回転軸25方向に彫りこんだ状態を示しており、この状態では、工具13は、ワーク2の回転軸25方向に先端30Aが突っ込んだ状態となっている。そして、この状態になると、ワーク2が硬いため、工具13は、工具の長さ方向30Cに向けて、ワーク2からの激しい加工抵抗をまともに受けることになるのである。
【0049】
その結果、工具13およびワーク2は、激しい加工ストレスを受けることになり、つまり、連続歯1に対する加工ストレスを増大させることになる。
【0050】
したがって、本実施形態の荒加工においては、図4の先端面26から加工終端面28に向かって加工するときに、荒加工代線31が示すように、荒加工代を、直前の荒加工代と同じ大きさか、あるいは、外周方向に徐々に大きくするように加工していくのである。
【0051】
その結果、加工が進むに従って、加工はワーク2の回転軸25から外周へ外周へと遠ざかって行われることになり、つまり工具13が回転軸25方向、すなわち連続歯1に彫りこむことは無く、結果として加工ストレスを低減した加工が実現できる。
【0052】
ここで、荒加工代の設定方法について、もう少し詳しく説明すると、図8は、最先端のコーピング5に荒加工代を加えたものを、ワーク2の先端から図4のA1−A2面に投影した形(投影線32)を表した物であり、この投影線32で囲まれた面積が、コーピング5の最大投影面積となり、また、この投影線32が、コーピング5の加工においての最大の荒加工代となる。
【0053】
そして、削りはじめのコーピング5については、図4の先端面26から削り始め、もっとも荒加工代が大きくなるところまで、つまり図8の投影線32までは、歯の形状に沿った荒加工代まで加工し、このコーピング5の最大の荒加工代(投影線32)に達した後は、投影線32を荒加工代として、図4のポンティック4方向に加工していく。
【0054】
さて、図9は、ポンティック4に荒加工代を加えたものをワーク2の先端から図4のB1−B2面に投影した形(投影線33)を表した物であり、この投影線33で囲まれた面積が、ポンティック4の最大投影面積となる。また、図10は、図8の投影線32と、図9の投影線33を重ね合わせたものである。
【0055】
ここで、ポンティック4の加工は、図4のA1−A2面での荒加工代の形状、すなわち投影線32を荒加工代として加工を開始し、ポンティック4が、この荒加工代よりも外周に突出している箇所(図10の突出部34)に来たときには、突出している外周の部分の荒加工代を広げた状態、つまり投影線32と投影線33を重ねた時の最大外周35を荒加工代として、後方のコーピング6方向に削っていく。
【0056】
さて、図11は、コーピング6に荒加工代を加えたものをワーク2の先端から図4のC1−C2面に投影した形(投影線36)を表した物であり、この投影線36で囲まれた面積が、コーピング6の最大投影面積となる。また、図12は、図10の最大外周35と、図11の投影線36を重ね合わせたものである。
【0057】
ここで、コーピング6の加工は、図4のB1−B2面での荒加工代の形状、すなわち最大外周35を荒加工代として加工を開始し、コーピング6がこの荒加工代よりも外周に突出している箇所(図12の突出部37)に来たときには、突出している外周の部分の荒加工代を広げた状態、つまり最大外周35と投影線36を重ねた時の最大外周38を荒加工代として、後方の加工終端面28まで加工していくのである。
【0058】
すなわち、本実施形態の荒加工は、ワーク2を回転させながら、コーピング5、ポンティック4、コーピング6と削っていく際に、荒加工代を外周方向に徐々に広げていくように加工をおこなうため、工具13が回転軸25方向に彫り込む事が無くなり、よって、その彫り込みによる衝撃をなくすことができ、結果として、連続歯1に対する加工ストレスを逃がしつつ加工を行うことができるものとなる。
【0059】
なお、荒加工を行った結果を横から見ると、図13に示すごとく、荒加工代線31のようになる。この荒加工代線31から、仕上げ代線39までを、次の工程である中荒加工で切削していく。
【0060】
つぎに、中荒加工を、図13を用いて説明する。
【0061】
さて、中荒加工で注意すべきは、コネクタ7とコネクタ8の加工である。図13からも分かるとおり、コネクタ7、8は義歯を連結する物であり、ポンティック4、コーピング5、6よりも小さくなっている部分である。
【0062】
特にコーピング5、6は、支台歯に被せるために、中荒加工で内部9を中空の状態に加工する。そのため、コーピング5、6とコネクタ7、8の接面40、41は、他の部分に比べて弱くなり、特に、加工ストレスによる破損に注意すべき部分となる。
【0063】
ここで、中荒加工では、走査線加工あるいは等高線加工を用いて加工を行う。
【0064】
まず、ワーク2の回転を止める。つぎに、加工する場所に適した工具を、図3のツールチェンジャー21から取り出し、支持部14にセットする。そして、この変更した工具13を用いて、荒加工代線31から内周方向に向かって、仕上げ代線39まで加工していく。なお、工具13は中荒加工の過程においてツールチェンジャー21を用いて適宜交換する。
【0065】
この加工は、通常の3軸加工で行われ、たとえば、コーピング5、6の内部9を加工するときは等高線加工を用い、その他の部分を加工するときは、走査線加工を用いて加工していく。なお、本実施形態では、仕上げ代として、連続歯1の周りを、例えば、150μm残すようにする。
【0066】
その後、最後に残った仕上げ代を、仕上げ加工でとっていく。この仕上げ加工は、ワーク2の回転を止めた状態で、中荒加工と同じく、加工する場所に適した工具を、図3のツールチェンジャー21から取り出し、支持部14にセットする。
【0067】
そして、この変更した工具13を用いて、仕上げ代を、通常の3軸加工、つまり走査線加工あるいは等高線加工で精密加工していく。なお、工具13は仕上げ加工の過程においてツールチェンジャー21を用いて適宜交換する。
【0068】
すると、その結果として、連続歯1が、加工ストレスの小さな状態で、ワーク2から削り出されるのである。
【0069】
最後に、荒加工時における工具のしなりに伴う問題について図6を用いて説明する。
【0070】
荒加工においては、回転加工による加工ストレスを逃がすために、図6に示すように工具13を、ワーク2の先端方向にしならせながら、ワーク2の後端方向に加工していく。なお、ダイヤモンド粒子を金属によって保持した工具を使用するため、加工による摩耗により、その長さが徐々に短くなっていき、結果として削り残し42が徐々に累積していくことになる。
【0071】
ここで、この削り残し42をある範囲内に納めるために、図3の制御部17は、一定期間毎に工具13の測長を行う。この測長の際には、制御部17が加工を一時停止し、工具13を測長器22に運び、そして、その長さを測長部23が測定する。その後、測長部23は工具の長さを制御部17に伝え、制御部17は、工具13の摩耗を考慮に入れて、引き続き工具13の制御を行うことになる。
【0072】
さて、測長を終えた工具13は、中断していた加工位置に復帰することになるのであるが、ここで、加工を中断した状態は、図6に示すように、工具13のしなりの影響による削り残し43が発生した状態である。つまり、測長を終えた工具13を加工を中断した位置に戻すと、しなりによる削り残し43に斜面44で衝突し、工具13と連続歯1間に火花が飛ぶほど急激に負荷がかかる状態となり、最悪の場合には工具あるいは連続歯1の破損につながる。
【0073】
この状態をさけるために、工具13の復帰を行う際には、まず測長部23が工具長を測長し、この求まった測長値を、工具復帰位置決定部24に送る。つぎに、この工具復帰位置決定部24は、工具13の測長値から削り残し42の大きさを計算する。そして、工具復帰位置決定部24は、この削り残し42を一定の範囲以内に納めるような位置で、また、しなりによる削り残し43の影響が無く工具13をワーク2に対して復帰させる位置を、復帰位置45として決定し、制御部17に送る。
【0074】
すなわち、工具13の測長後の復帰位置は、測長前の位置よりもワーク2の先端側、つまり図6の右側位置とし、これにより、しなりによる削り残し43に復帰後の工具13が衝突するのを避けるようにしている。
【0075】
つまり、この復帰時には、まだ工具13はワーク2を削り始めてはいないので、図6のようなしなりは、発生しておらず、よって、直線状の工具13を図6の位置に戻すと、その先端がしなりによる削り残し43に衝突し、これにより、上述したごとく、火花が飛ぶほど急激に負荷がかかる状態となり、最悪の場合には工具あるいは連続歯1の破損につながってしまうのである。
【0076】
また、制御部17は、この復帰時には、削り残し42よりも上方の位置46で工具13の復帰速度を緩め、ここから徐々に復帰位置44に工具13を復帰させる。
【0077】
すなわち、工具13を、しなりによる削り残し43の影響の無い復帰位置45に、しかも徐々に戻しながら加工を再開するので、工具13および連続歯1は、加工ストレスの少ない状態で、加工を再開できるのである。
【0078】
なお、本実施形態では、コーピング5とコーピング6の間にポンティック4が連結された連続歯の加工を例にあげて説明したが、この加工は、2つのコーピングの間に複数のポンティックが連結された連続歯や、3つのコーピングの各々の間にポンティックが連結されたような5つの連続歯の加工などにも適用できる。
【0079】
また、上記説明では、連続歯の加工を例にあげて説明したが、この加工は、単独歯の場合にも適用ができる。
【0080】
単独歯の加工は、ワーク2と単独歯が連結部で接続された状態となっており、この加工方法は、連続歯と同じ加工方法を用いて行う。
【0081】
つまり、単独歯の荒加工は、連続歯の加工と同様に、工具のしなりを利用して、削りはじめの単独歯については、もっとも投影面積が大きくなるところまでは、荒加工代を残して削り、この単独歯の最大投影面積を超えた後は、この最大投影面積で、削っていく加工である。
【0082】
従って、単独歯の荒加工でも連続歯の荒加工と同様に、図6に示すように、工具13をワーク2の先端側へしならせながら、つまり加工ストレスをワーク2の先端側へ逃がしながら削りだしていくことで、単独歯への加工ストレスを低減することが出来、また、工具13をしならせることで同時に工具13に与えるストレスも軽減させることが出来る。
【0083】
また、単独歯の荒加工でも連続歯の荒加工と同様に、もっとも投影面積が大きくなるところまでは、荒加工代を残して削り、この義歯の最大投影面積を超えた後は、この最大投影面積で、削っていく加工となるため、工具13が回転軸方向25に彫り込む事が無くなり、よって、その彫り込みによる衝撃をなくすことができ、結果として、連続歯と同様に義歯に対する加工ストレスを軽減した加工を行うことができるものとなる。
【0084】
また、従来のように、予備焼結を行ったセラミックス材料を短時間で加工し、その後緻密焼結するという方法においては、補綴物の形状を研削もしくは研削加工した後に緻密焼結する必要がある。よって、緻密焼結時の補綴物の収縮による寸法変化を考慮して加工をした場合でも収縮寸法誤差が生じてしまう。この結果、緻密焼結後に手直しが必要となるとともに、緻密焼結時間そのものの時間も必要となる。
【0085】
一方、緻密焼結したセラミックス材料を加工する場合には、予備焼結セラミックスの加工と比較して、難削材であるため、研削量の多い荒取り工程では工具の先端の磨耗が激しい。そのため、従来の走査線加工あるいは等高線加工では、歯科用補綴物を得るまでの加工時間が非常に長くなるおそれがあったのであるが、本実施形態における加工装置の加工方法を用いると、加工時間の短縮にも効果がある。
【0086】
すなわち、本実施形態における加工装置では、ワーク2のコーピング5、6とポンティック4の外周を、ワーク2を回転させて削る荒加工と、ワーク2の回転を止めて削る中荒加工と、仕上げ加工とを備え、前記荒加工は、削りはじめのコーピング5については、もっとも投影面積が大きくなるところまでは、荒加工代を残して削り、この最大投影面積を超えた後は、この最大投影面積で、ポンティック4方向に削る。
【0087】
そのため、荒加工では、走査線加工あるいは等高線加工よりも加工時間の短縮が可能な回転加工を用いて、ワーク2の加工ができるようになったので、加工時間の短縮が図れることになる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように本発明は、支持歯の両側に連結部を介して第1の橋脚歯と第2の橋脚歯を連結した義歯の加工方法であって、ワークの第1、第2の橋脚歯と支持歯の外周を、ワークを回転させて削る荒加工と、ワークの回転を止めて削る中荒加工と、仕上げ加工とを備え、前記荒加工は、削りはじめの第1の橋脚歯については、もっとも投影面積が大きくなるところまでは、荒加工代を残して削り、この第1の橋脚歯の最大投影面積を超えた後は、この最大投影面積で、支持歯方向に削り、この支持歯が手前の前記第1の橋脚歯の最大投影面積よりも外周に突出している場合には、突出している外周の部分の荒加工代を広げた状態で後方の第2の橋脚歯方向に削り、この第2の橋脚歯においても前記第1の橋脚歯および前記支持歯の最大投影面積よりも外周に突出している場合には、突出している外周の部分の荒加工代を広げて削っていく加工であり、前記中荒加工は、第1の橋脚歯と支持歯と第2の橋脚歯を、仕上げ代を残して削る加工であり、前記仕上げ加工は、支持歯と第1の橋脚歯、第2の橋脚歯とコネクタの仕上げを行う加工であることを特徴とする義歯の加工方法であるので、義歯の加工ストレスの軽減をすることができる。
【0089】
すなわち、本発明においては、支持歯の両側に連結部を介して2つの橋脚歯を連結した義歯を、ワークから、回転加工で削る荒加工と、走査加工あるいは等高線加工で削る中荒加工と、走査加工あるいは等高線加工で削る仕上げ加工を用いて、削り出すものである。
【0090】
まず、前記荒加工では、ワークを回転させながら、第1の橋脚歯、支持歯、第2の橋脚歯と削っていく際に、荒加工代を外周方向に徐々に広げていくように加工するため、工具が回転軸方向に彫り込む事が無くなり、よって、その彫り込みによる衝撃をなくすことができ、結果として、義歯に対する加工ストレスを軽減した加工を行うことができるものとなる。
【0091】
つぎに、前記中荒加工では、ワークの回転を止めた状態で、走査加工あるいは等高線加工を用いて、荒加工代から内周方向に、仕上げ代まで加工を行う。
【0092】
そして、最後に仕上げ加工では、ワークの回転を止めたままの状態で、走査加工あるいは等高線加工を用いて、仕上げ代を精密に仕上げるものであるので、その結果として、義歯の加工ストレスの軽減ができるものとなる。
【0093】
したがって、義歯の加工方法と、それを用いた義歯の加工装置として、広く活用が期待されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の一実施形態におけるワークの斜視図
【図2】本発明の一実施形態におけるワークの上面図
【図3】本発明の一実施形態における電気的なブロック図
【図4】本発明の一実施形態におけるワークの側面図
【図5】本発明の一実施形態におけるワークの正面図
【図6】本発明の一実施形態における工具のしなりの説明図
【図7】本発明の一実施形態における工具の掘り込みの説明図
【図8】本発明の一実施形態における、コーピング5に荒加工代を加えたものをA1−A2面へ投影した時の形を示す図
【図9】本発明の一実施形態における、ポンティック4に荒加工代を加えたものをB1−B2面へ投影した時の形を示す図
【図10】本発明の一実施形態における、図8と図9を重ね合わせた時の形を示す図
【図11】本発明の一実施形態における、コーピング6に荒加工代を加えたものをC1−C2面へ投影した時の形を示す図
【図12】本発明の一実施形態における、図10と図11を重ね合わせた時の形を示す図
【図13】本発明の一実施形態における中荒加工時のワークの側面図
【符号の説明】
【0095】
1 連続歯
2 ワーク
3 ワークの未加工部との連結部
4 ポンティック
5 コーピング
6 コーピング
7 コネクタ
8 コネクタ
9 内部
10 破線部
11 支持部材
12 モータ
13 工具
14 支持部
15 モータ
16 電源部
17 制御部
18 加工データ入力部
19 記憶部
20 操作部
21 ツールチェンジャー
22 測長器
23 測長部
24 工具復帰位置決定部
25 回転軸
26 先端面
27 先端球面
27A 側面
28 加工終端面
29 荒加工代線
30 最外周部
30A 先端
30B 加工面
30C 工具の長さ方向
31 荒加工代線
32 投影線
33 投影線
34 突出部
35 最大外周
36 投影線
37 突出部
38 最大外周
39 仕上げ代線
40 接面
41 接面
42 削り残し
43 削り残し
44 斜面
45 復帰位置
46 工具復帰時の工具速度の減速区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持歯の両側に連結部を介して第1の橋脚歯と第2の橋脚歯を連結した義歯の加工方法であって、
ワークの第1、第2の橋脚歯と支持歯の外周を、ワークを回転させて削る荒加工と、ワークの回転を止めて削る中荒加工と、仕上げ加工とを備え、
前記荒加工は、削りはじめの第1の橋脚歯については、もっとも投影面積が大きくなるところまでは、荒加工代を残して削り、この第1の橋脚歯の最大投影面積を超えた後は、この最大投影面積で、支持歯方向に削り、この支持歯が手前の前記第1の橋脚歯の最大投影面積よりも外周に突出している場合には、突出している外周の部分の荒加工代を広げた状態で後方の第2の橋脚歯方向に削り、この第2の橋脚歯においても前記第1の橋脚歯および前記支持歯の最大投影面積よりも外周に突出している場合には、突出している外周の部分の荒加工代を広げて削っていく加工であり、
前記中荒加工は、第1の橋脚歯と支持歯と第2の橋脚歯を、仕上げ代を残して削る加工であり、
前記仕上げ加工は、支持歯と第1の橋脚歯、第2の橋脚歯と連結部の仕上げを行う加工であることを特徴とする義歯の加工方法。
【請求項2】
第1の橋脚歯と第2の橋脚歯間には、連結部を介して複数の支持歯を設ける請求項1に記載の義歯の加工方法。
【請求項3】
第1の橋脚歯と第2の橋脚歯間に、連結部を介して支持歯を設け、第2の橋脚歯と第3の橋脚歯間に連結部を介して支持歯を設けた請求項1または2に記載の義歯の加工方法。
【請求項4】
荒加工時には、工具の先端を削り方向とは反対側にしならせながら、この工具を削り方向に移動させ、この工具の測長後の復帰位置は、測長前の復帰位置よりもワークの先端側とした請求項1から3のいずれか一つに記載の義歯の加工方法。
【請求項5】
ワークの支持部材と、この支持部材を回転させるモータと、前記ワークを削る工具と、前記工具とモータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、請求項1から4のいずれか一つに記載の義歯の加工方法を実行する構成とした義歯の加工装置。
【請求項6】
単独歯の加工方法であって、
ワークの義歯の外周を、ワークを回転させて削る荒加工と、ワークの回転を止めて削る中荒加工と、仕上げ加工とを備え、
前記荒加工は、削りはじめの義歯については、もっとも投影面積が大きくなるところまでは、荒加工代を残して削り、この義歯の最大投影面積を超えた後は、この最大投影面積で、削っていく加工であり、
前記中荒加工は、義歯の仕上げ代を残して削る加工であり、
前記仕上げ加工は、義歯の仕上げを行う加工であることを特徴とする義歯の加工方法。
【請求項7】
荒加工時には、工具の先端を削り方向とは反対側にしならせながら、この工具を削り方向に移動させ、この工具の測長後の復帰位置は、測長前の復帰位置よりもワークの先端側とした請求項6に記載の義歯の加工方法。
【請求項8】
ワークの支持部材と、この支持部材を回転させるモータと、前記ワークを削る工具と、前記工具とモータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、請求項6または7に記載の義歯の加工方法を実行する構成とした義歯の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−227166(P2010−227166A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75552(P2009−75552)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】