義歯削合機
【課題】患者の咬合運動に適合した削合を行うことができ、しかも騒音の少ない義歯削合機を提供する。
【解決手段】義歯を保持する義歯保持台11と、義歯保持台11に保持された義歯を削合する削合工具15と、削合工具15を保持する本体12と、義歯保持台11と本体12を相対的に移動させる移動機構13と、本体12と義歯保持台11を相対的に駆動する駆動機構16とを備える。移動機構13は、削合部分データに基づいて義歯保持台11と本体12を相対的に三次元座標方向に移動させ、削合工具15は、義歯の咬合面を該咬合面に直角な方向から削合する。
【解決手段】義歯を保持する義歯保持台11と、義歯保持台11に保持された義歯を削合する削合工具15と、削合工具15を保持する本体12と、義歯保持台11と本体12を相対的に移動させる移動機構13と、本体12と義歯保持台11を相対的に駆動する駆動機構16とを備える。移動機構13は、削合部分データに基づいて義歯保持台11と本体12を相対的に三次元座標方向に移動させ、削合工具15は、義歯の咬合面を該咬合面に直角な方向から削合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は義歯の咬合面を削合する義歯削合機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、義歯の咬合面の削合は、研磨器具を用いて手動で行われていた。このため、歯科医の長年の経験と咬合学的知識が必要であり、患者の咬合運動に適合した削合作業を行うには想到な熟練が必要であった。
【0003】
特許文献1には、咬合器の上顎枠に上顎義歯を保持し、下顎脇に下顎枠を保持し、上顎枠を少なくとも左右方向に往復運動させる人口歯の自動削合機が記載されている。
しかし、特許文献1の削合機は、上顎と下顎の義歯を直接接触させた状態で上顎枠を往復運させるだけであり、往復運動は患者の咬合運動に適合したものではないため、正しい咬合状態が得られなかった。また、上顎と下顎の義歯が摺接し、大きな騒音が発生するため、歯科医院で作動させると、治療に支障をきたすことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−45749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、患者の咬合運動に適合した削合を行うことができ、しかも騒音の少ない義歯削合機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、
義歯を保持する義歯保持台と、
前記義歯保持台に保持された義歯を削合する削合工具と、
前記削合工具を保持する本体と、
前記義歯保持台と前記本体を相対的に移動させる移動機構と、
前記本体と前記義歯保持台を相対的に駆動する駆動機構とを備え、
前記移動機構は、削合部分データに基づいて前記義歯保持台と前記本体を相対的に三次元座標方向に移動させ、
前記削合工具は、前記義歯の咬合面を該咬合面に直角な方向から削合するものである。
【0007】
前記削合工具は、先端に軸線に対して傾斜し、前記義歯を構成する人工歯の運動側側の咬合ファセット、作業側側の咬合ファセット、前方運動時の咬合ファセットの少なくともいずれか1つに対向する研磨面を有することが好ましい。
【0008】
前記駆動機構は、超音波振動子による振動装置であることが好ましい。
【0009】
前記削合部分データは、
(1)患者の顎運動を測定して顎関係再現条件を決定し、該顎関係再現条件に従って咬合状態再現器上で患者の顎状態を再現する顎関係再現段階、
(2)前記咬合状態再現器上で前記顎関係再現条件に合わせて義歯を排列し、削合前義歯を作製する削合前義歯作製段階、
(3)前記顎関係再現条件と前記義歯の位置関係を示す標点と、前記義歯の咬合面とを含む3次元画像データである標点付き義歯データを測定する標点付き義歯データ測定段階、
(4)前記顎関係再現条件を利用して、前記標点付き義歯データの咬合状態を3次元画像上で再現する咬合状態再現段階、
(5)再現された咬合状態の前記3次元画像上で上下顎の画像で囲まれる部分から、動的条件や設定された条件にて削合部分の削合データを決定する削合データ決定段階、
(6)前記標点付き義歯データに前記削合データを追加した削合データ付き標点付き義歯データを作成する削合データ付き標点付き義歯データ作成段階、
により作成されたデータを用いる。
【発明の効果】
【0010】
本発明(請求項1)によれば、従来の手作業に比べて迅速かつ正確に削合を行える。
治療時間内に研磨作業を実施し完了できる。上下顎の適合性が良い。
義歯に負担をかけずに研磨できる為、義歯の破損を防ぐことができる。
切削片の鋭利な部分が緩和される。
振動の種類を変えることで、研磨量を変更することができる。
咬合調整などの小さな部位の面を、切削し研磨するのに適している。
XYZ軸移動に加え、XYZ軸回転移動ができる移動機構を利用することで、より精密な義歯を作製することができる。
【0011】
本発明(請求項2)によれば、先端部が切削方向に適している為、義歯保持台の移動も少なく、切削時間を軽減できる。同じ角度のジグを利用するため、研磨面を一定にすることができる。
【0012】
本発明(請求項3)によれば、静かで安定的な研磨が可能であり、診療所などで設置することができる。
【0013】
本発明(請求項4)によれば、された義歯データの咬合状態から3次元画像上で再現し、上下顎の画像で囲まれる部分から決定された削合データを用いるので、上下顎の適合性及び上下顎の接触性がよくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の義歯削合方法を示すフローチャート。
【図2】漂点を有する要咬合器に上下顎模型を装着した状態を示す斜視図。
【図3】上下顎の咬合面の三次元データを3次元空間上で表示した図。
【図4】上下顎の咬合面の3次元データを咬合させた状態を示す図。
【図5】(a)は上下顎の咬合面の3次元データで囲まれた部分を示す図、(b)は上下顎の咬合面の削合部分を示す図。
【図6】咬合面の削合部分を示す図。
【図7】義歯削合機の概略構成図。
【図8】第1実施例の削合工具の正面図及び加工部を先端から見た図。
【図9】図8の削合工具により義歯の咬合面を研削する状態を示す斜視図。
【図10】第2実施例の削合工具の正面図及び側面図。
【図11】第3実施形態の研削工具の正面図とその加工部の拡大図、側面図とその加工部の拡大図。
【図12】第4実施形態の研削工具の正面図及び側面図。
【図13】第5実施形態の梨型研削工具の正面図。
【図14】研削工具による義歯の研削順序を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に従って説明する。
【0016】
一般に、義歯を作製する工程は、以下の通りである。
1.患者の口腔内の型をとって印象を作製する。
2.印象から患者の口腔の模型を石膏で作製し、この模型上に構成樹脂のベースプレートを作製する。
3.型枠にワックスを流し込んでアーチ型に固まらせ、このワックスをベースプレートの上に載置して、人工歯を排列するための蝋提を作製する。この蝋提とベースプレートを合わせて咬合床と称する。
4.咬合床を患者に装着し、咬合を採得する。
5.咬合床を装着した上顎と下顎の模型を咬合器に装着し、咬合状態を咬合器上で再現する。
6.患者に合った人工歯を選択して、まず上顎の前歯の人工歯を上顎の蝋提に排列し、続いて下顎の前歯の人工歯を下顎の蝋提に排列する。
7.咬合器のインサイザルポールを調整して上顎の高さを少し上げて、下顎と上顎の臼歯の人工歯を蝋提に排列する。
8.咬合器のインサイザルポールを元の状態に戻して、高い部分を削る咬合調整を行う。咬合調整では、上顎と下顎の間に咬合紙を挟み、強く当たっている部分を削る。
9.前歯の歯頸部(生え際)と歯肉部の状態を再現する。
10.咬合床に人工歯を排列した義歯模型を患者の口腔内への試適し、修正を加えるべき情報を得る。
11.情報に従って修正すべき箇所を修正する。
12.義歯模型をフラスコ(枠)に容れて石膏に埋没し、固まらせる。
13.フラスコに熱を加えて義歯模型のワックスを軟化させた後、フラスコを分離してワックスを溶かすと、鋳型が完成する。
14,鋳型の石膏部分に分離材を塗布してから、鋳型に床用レジン(合成樹脂)を注入し、上下の型枠を合わせてプレスにより圧力をかける。
15.余剰のレジンを取り除き、上下の型枠を合わせた後、熱を加えてレジンを硬化させる。
16.型枠を外して、石膏を取り除き、義歯を掘り出す。
17.義歯を再度、咬合器に取り付け、レジン硬化時の収縮により生じた咬合のくるいを修正する。咬合修正では、咬合紙を使用する。
18.顎を前後左右に動かしたときの噛み合わせを、咬合紙を使用して調整する(この調整は最終の咬合調整であり、削合とも言う)。
19.レジンのバリを削り取り、研磨を行う。
【0017】
義歯を作製する工程において、口腔内の型を取り、蝋堤を作製し、人工歯を並べた後、ロストワックス法にて蝋を樹脂に置き換えたとき、樹脂の収縮により、人工歯の位置関係がずれ、義歯として上下顎で噛み合わせた場合に干渉する。この干渉部分を調整することが削合である。また、義歯上で噛み合わせが正しく出来たとしても、患者の口腔内の状況に合わせて、咬合関係を変更する為に、削合を行ったりする。これは患者の顎の動きに合わせて調整するものである。
本発明はこれらの一連の作業を、プログラムを用いて容易に実施するものである。
ここで、義歯削合方法の場合は総義歯であることが好ましい。又は部分義歯であっても、上下顎が義歯の組み合わせの場合も用いることができる。
【0018】
1.義歯削合方法
本発明の義歯削合方法は、図1に示すように、以下の段階からなる。
(1)顎関係再現段階
(2)削合前義歯作製段階
(3)標点付き義歯データ測定段階
(4)噛合状態再現段階
(5)削合部分決定段階
(6)削合データ及び標点付き義歯データ作成段階
(7)削合前義歯削合段階
【0019】
(1)患者の顎の条件を再現できる顎関係再現条件を決定し、顎関係を再現する顎関係再現段階について説明する。
顎関係再現段階とは、義歯を作製する前に、患者の上下顎の位置関係を再現するものである。通常は咬合器を用いて、顎の動きに合わせて咬合器の顆路の動きや切歯の動きを調整することにより、咬合器上で上下顎の動きを再現する。
上下顎の中心咬合位の位置から、咀嚼運動や開口・閉口運動時を想定した動く方向を決める必要がある。
患者の顎の条件とは、静的条件や動的条件であり、代表的には中心咬合位の位置や、前方運動・側方運動の方向、場合によっては蝶番運動の方向を含む。
これらの咬合状態を再現できるものとしては咬合状態再現器であり、代用的なものは咬合器である。咬合器は静的関係、動的関係を的確に再現できる。
顎関係再現条件としては、矢状顆路傾斜度、平衡側側方顆路、イミディエイト・サイドシフトの調節機構、作業側側方顆路角調節機構などがあり、切歯路調節機構としては、矢状切歯路傾斜度、側方切歯路誘導角などがある。
患者の状態に合わせて顎運動の近似値を用いる方法も一般的である。例えば、標準的な顆頭間距離を110mm、上弓・下弓間距離を110mm、最大開口角を120°、矢状顆路傾斜度を30°、側方顆路角を15°とすることができる。
ここで重要なのは中心咬合位から側方運動した場合の下顎に対して上顎がどの様に動くかを明確になることである。
また、最も単純な方法として、中心咬合位から上顎が前方10°に下顎に平行に滑走し、また、更に中心咬合位から上顎が咬合面から左右20°の上方向に滑走するように設定することも可能である。
近年においては顎運動をそのまま再現する方法についても研究が進められ、顎運動測定装置が開発されている。この顎運動測定装置により直接顎運動を取得して、顎運動再現装置にて顎運動を再現しても良い。
【0020】
(2)咬合状態再現器の顎関係再現条件に合わせて義歯を作製し、削合する前までの削合前義歯を作製する削合前義歯作製段階について説明する。
削合前義歯作製段階では、前記咬合状態再現段階で得られた上下顎の関係に合わせて義歯を作製する段階であり、通常の義歯の作製段階である(前述の義歯作製工程のステップ6.7)。代表的な工程としては、蝋提を作製し、人工歯を排列し、ロストワックス法にて削合前義歯を作製する段階である。ここでの作成方法は特に限定するものではないが、通常の方法で作製することができる。
削合前義歯は削合をしていないので、咬合状態再現器上で未だ正しい咬合ができない。咬合状態再現器上で正しい咬合をする為に咬合面を本発明にて削合する。
【0021】
(3)咬合状態再現器と義歯の位置関係を示す標点と共に義歯の咬合面の3次元画像データである標点付き義歯データを測定する標点付き義歯データ測定機にて標点付き義歯データを測定する標点付き義歯データ測定段階について説明する。
この段階では、作製された削合前義歯の3Dデータを取得すると共に、コンピュータの中で咬合状態を再現できる様に咬合状態再現器のどの位置に削合前義歯が有するのかを計測する。咬合状態再現器の上下顎の関係を事前に設定することにより、咬合状態を再現することができる。
再現器の各上下弓のそれぞれには、最低でも3点の標点が必要である。3つの辺でも良い。好ましいのは1つの辺と1つの点である。具体的には3つの針状又は球面(好ましくは球状)で構成しても良いし、再現器の真直な辺と球面の組合せでも良い。ここでは3Dデータがコンピュータ上で再現される上下顎の関係を正確に算出する為の標点であることが必要であり、3Dデータをコンピュータ上で一致させる為には、球面が好ましい。
義歯削合方法に用いられる顎関係再現条件を決定する咬合状態再現器は、図2に示すように、咬合状態再現器が上顎模型1が装着される上弓2および下顎模型3が装着される下弓4を有する咬合器5であり、上弓2および下弓4それぞれに標点6a、6b、6c,標点7a、7b、7cを有することが好ましい。
【0022】
(4)顎関係再現条件を利用して、標点付き義歯データの咬合状態を再現する咬合状態再現段階について説明する。
この段階では、咬合状態をコンピュータ上で再現する。コンピュータ上で咬合状態再現器の上下顎の関係を任意に設定することができる。
ここではコンピュータの空間の中で、上下顎の位置関係を正確にシミュレーションできる。コンピュータの中では上下顎の顎の静的関係が示されており、その関係には3Dデータを取得する時に用いた標点データを有する。コンピュータの空間中で上下顎の3Dデータが静的関係を示すように上下顎運動をシュミレーションさせる。
好ましくは下顎の直交座標軸系と上顎の直交座標軸系を設定する。ある任意の上下顎の位置関係から、上下顎の咬合状態を再現する様に、下顎直交座標軸系に対して上顎直交座標軸系が移動する方向を任意に算出できれば良い。
図3に示すように、下顎の直交座標軸系と上顎の直交座標軸系に有する標点をコンピュータ空間上の標点に一致させることによって、上顎の義歯データ8と下顎の義歯データ9の動きの関係を再現できることが好ましい。
各直交座標軸系にはそれぞれの標点の位置を定め、義歯データ測定段階で得られた義歯データの位置合わせをする。
図4に示すように、それぞれの座標軸が咬合状態再現段階で示した下顎の義歯データ9に対する上顎の義歯データ8の動きをする様に下顎直交座標軸系に対して上顎直交座標軸系が動く様に設定することもできる。
【0023】
(5)再現された咬合状態から上下顎の画像で囲まれる部分から、動的条件や設定された条件にて削合データを決定する削合部分決定段階について説明する。
ここでは、咬合状態再現段階にて合わせられた3Dデータに囲まれた範囲、すなわち図4に示すように、上顎の人工歯の咬合面と下顎の人工歯の咬合面とが重なる範囲に注目する。
3Dデータで囲まれた範囲が少ない場合は、義歯が安定感に欠けるため、上顎の3Dデータを蝶番運動させ、若しくは咬合高径を下げる方向に移動させて、上下顎の3Dデータが重なる部分を調整する。もし、3Dデータが重なる部分が多い場合は、切削が多く、咬頭が無くなるため、上顎の3Dデータを蝶番運動させ、若しくは咬合高径を上げる方向に移動させて、上下顎の3Dデータが重なる部分の調整を実施する。蝶番運動若しくは咬合高径の移動については任意に組み合わせて利用してもよい。
次に、図5(a)に示すように、3Dデータが重なる部分Aを、上下顎が運動する場合に擦動する様に、上顎又は下顎の3Dデータ8,9を移動させて、削合面を決定する。これは3Dデータが中心咬合位から前方運動、後方運動、側方運動時に各3Dデータが重なり合う部分を任意に定めた削合面Sに沿って切り取る。
削合面Sは、上下顎の3Dデータが重なり合う部分内を通らなくても良いが、上下顎の3Dデータ8,9が重なり合う部分内を通ることが好ましい。図5(b)に示すように、この3Dデータ8,9が重なり合う部分内の削合面Sで延長される面で囲まれる咬頭の部分B,Cが切削される部分となる。これらの部分を削合部分といいそのデータを削合データという。
任意に定めた削合面Sとは、前方運動、後方運動、側方運動時の運動方向に沿った面であり、各面の角度は咬合平面に対して任意に設定することができる。咬合平面に対して、削合面Sは、5度〜60度に設定することが好ましい。更に、前方運動、後方運動の場合に咬頭が接する面は5度から45度好ましく、側方運動の場合は20度〜60度が好ましい。
【0024】
運動方向は、上顎の3Dデータと下顎の3Dデータで囲まれた範囲の任意の点における下顎の直交座標軸系に対して、上顎の直交座標軸系が咬合状態再現段階で示された動的関係により、移動する方向である。本運動方向は直線であることが好ましいが、曲線の場合もある。直線に近似して適用することもできるが、曲線のまま構成してもよい。即ち、直線もしくは曲面である。好ましくは直線または円柱面である。
また、上顎の3Dデータ8と下顎の3Dデータ9で囲まれた範囲Aの任意の点は、上顎の3Dデータ8と下顎の3Dデータ9で囲まれた範囲の重心Gであることが好ましい。
この重心Gは、上顎の3Dデータ8と下顎の3Dデータ9で囲まれた範囲が空間上のn個の点で示されている場合、それぞれ下顎座標軸系若しくは上顎座標軸系XYZ軸を同じ直交座標軸系に換算し、XYZそれぞれの値の和をn個で割ったX’Y’Z’の値として算出することが好ましい。削合面Sは、このX’Y’Z’の値を通る下顎に対して上顎の運動方向を含む面である。
この運動方向は咬合状態再現段階で示された再現方法により算出されるが、たとえば、咬合器により再現された場合は、アルコン型咬合器若しくはコンダイラー型咬合器どちらの場合でも、これらの調整機構をコンピュータ上で再現することができる。好ましくはアルコン型である。
咬合器の顆頭間距離は50〜170mm好ましくは80〜140mm、更に好ましくは100〜120mmである。110mmという平均的な顆頭間距離を固定値で有することが好ましい。上弓下弓間距離は80〜120mm程度である。上弓下弓間距離は任意に設定できれば十分である。
顆頭間距離及び上弓下弓間距離は、咬合器の上下顎の動きを規定している顆路調節機構、切歯路調節機構により予め設定された数値から算出される。
具体的には顆路調節機構として、矢状顆路傾斜度、平衡側側方顆路、イミディエイト・サイドシフトの調節機構、作業側側方顆路角調節機構などがあり、切歯路調節機構としては、矢状切歯路傾斜度、側方切歯路誘導角などがある。
矢状顆路傾斜度は−30°〜+90°であり、好ましくは−20°〜+80°、更に好ましくは−0°〜+50°である。
平衡側側方顆路は0°〜+40°であり、好ましくは0°〜+30°、更に好ましくは+10°〜+20°である。
イミディエイト・サイドシフトの調節機構は0〜10mm好ましくは0〜8mm、更に好ましくは0〜5mmである。
作業側側方顆路角調節機構−50°〜+60°であり、好ましくは−40°〜+50°、更に好ましくは−30°〜+30°である。
矢状切歯路傾斜度は、−30°〜+90°であり、好ましくは−20°〜+80°、更に好ましくは−10°〜+75°である。
側方切歯路誘導角は、−0°〜+90°であり、好ましくは−0°〜+50°である。
これらの調節機構に合わせて動く下顎直交座標軸系に対する上顎直交座標軸系を算出する。
好ましくは市販の咬合器の名称等から、調整項目のみを適宜選択できる設定が好ましい。更に、調整ができない咬合器を利用している場合は、その咬合器の固定値が咬合器名の名称を選んだ場合に固定で入力されることが好ましい。設定された条件とは、上下顎がスムーズに擦れ合って上下顎が引っかからない様に、突起部分を削除する様に設定された条件であることが好ましい。
本段階で得られた削合データはCADデータとして利用され、後で示される削合前義歯削合段階で加工用のNCプログラムが作成され機械工作において工具の移動量や移動速度などをコンピュータによって数値で制御するコンピュータ数値制御(CNC)によって、義歯の削合を行う。このことをCAMという。
【0025】
図6は、咬合面の削合が行われる面を示す図である。左右ほぼ対称に削合される為、1,2,3の引き出し線は片方の顎のみを示している。上下顎が咬合された場合に上下顎が接触する咬合小面は面で接触し、顎の動きに合わせて擦れ合う面となる。
引き出し線の1は前方咬合小面、2は後方咬合小面、3は平衡咬合小面である。
符号の説明において、1.同一角度に削合される面部分、2.別の同一角度に削合される面部分、3.また別の同一角度に削合される面部分としたが、これらは一例である。咬合の静的関係、動的関係を考えた場合に、その面が正しい方向に擦れ合う様に、面の角度を調整または算出されることが好ましい。しかし、近似的に同一角度に削合される面部分であってもよい。
【0026】
(6)標点付き義歯データに削合データを追加した削合データ付き標点付き義歯データを作成する削合データ付き標点付き義歯データ作成段階について説明する。
前記削合データである削合面を標点付き義歯データと合わせて、削合部分を定め、削合データ付き標点付き義歯データとする。ここで重要なことは、削合してはいけない部分と削合する部分が標点を基準に定められていることである。
このことから、義歯の位置関係を示す標点指示部と削合データ付き標点付き義歯データの標点部分を重ね合わせることにより、義歯の削合する部分を決定することができる。
【0027】
(7)削合データ付き標点付き義歯データを元に削合前義歯を削合する削合前義歯削合段階について説明する。
削合データはCADデータとして利用され、本段階で加工用のNCプログラムを作成する。これは機械工作において、工具の移動量や移動速度などをコンピュータによって数値で制御するコンピュータ数値制御(CNC)のプログラムである。本プログラムより、義歯の削合を行う。
【0028】
図7は本発明に係る義歯削合機の概略構成を示す。義歯削合機10は、義歯保持台11と、義歯保持台11の上方に設けられ削合機本体12とからなっている。
【0029】
義歯保持台11はXY軸平面内に義歯保持面を有し、その義歯保持面に削合の対象となる義歯を固定して保持できるように構成されている。義歯保持台11は、移動機構13により、6自由度(X,Y,Z軸方向の移動と各軸回りの回転)で移動又は回転可能になっている。
【0030】
削合機本体12はチャック14を有し、該チャック14により削合工具15をXY軸平面に垂直なZ軸に平行に保持できるように構成されている。削合機本体12には、駆動機構として、削合工具15を義歯保持台11に対してZ軸方向に相対的に駆動する超音波振動子による振動装置16が設けられている。この振動装置16による削合工具15の振動により、削合部分データに基づいて、義歯保持台11上の義歯を咬合面に直角な方向から咬合面を研磨して削合することができるように構成されている。
【0031】
振動装置16による削合工具15の振動数は、10kHz〜100kHz、好ましくは15kHza〜30kHzである。削合工具15の振動方向は、削合工具15の軸方向すなわちZ軸方向である。超音波振動に加えて、削合面に対して平行に円運動又は往復運動、あるいは周波数帯域の異なる超音波や振動を削合工具15に付与することが、削合効率を向上する上で好ましい。
【0032】
この実施形態のように、移動機構13を義歯保持台11に設け、駆動機構16を削合機本体12に設ける代わりに、移動機構13を削合機本体12に設け、駆動機構16を義歯保持台11に設けてもよい。
【0033】
削合工具15の軸の断面形状は、チャック14に固定するときに位置決めが容易なように、円形以外の形状、例えば、D形、三角形、四角形が好ましい。
【0034】
削合工具15の先端は、咬合面と平行でない面を有することが好ましい。なぜなら、義歯を形成する人工歯の咬頭の斜面は、平衡咬合小面、後方咬合正面、前方咬合小面で形成されているからである。一般に、各人口歯の平衡咬合小面、後方咬合正面、前方咬合小面は一定である。この場合、各人工歯の同じ咬合小面は同じ角度で削合するため、同じ削合工具を使用することができる。また、各人口歯の平衡咬合小面、後方咬合正面、前方咬合小面が一定である場合、XYZ軸回りの回転の3自由度は不要であり、XYZ軸横行の移動の3自由度は必要である。
【0035】
図8は、円形断面の軸と三角錐に形成された先端の加工面を有する削合工具15aを示し、三角錐の各加工面17a,17b,17cは、図9に示すように、平衡咬合小面、後方咬合正面、前方咬合小面を削合できるように形成されている。この削合工具15aは、1顎につき、上顎左側、上顎右側、下顎左側、下顎右側の4本で足りる。
【0036】
図10は、円形断面の軸と所定の角度で斜めに形成された加工面18を有する削合工具15bを示す。
図11は、四角形断面の軸と所定の角度で斜めに形成された加工面19を有し、加工面19の両側端は先端に向かって先細りになるようにテーパ20が設けられている。
これらの削合工具15b、15cは、平衡咬合小面、後方咬合正面、前方咬合小面に対して1本ずつ必要であり、合計1顎につき12本必要である。
【0037】
図12は、四角形断面の軸と先端に板状の加工部21を有する削合工具15dを示す。加工部21の両側端には、先端に向かって先細りになるようにテーパ22が設けられている。
【0038】
図12の板状の加工部21を有する削合工具15dを除き、削合工具15a〜15cの加工面17a,17b,17c,18,19の角度は、削合工具15a〜15cの先端が隣接する咬頭と接触しないように80°以下に設定されるが、あまりに傾斜が大きいと折れやすいため、好ましくは30〜60°、さらに好ましくは40〜60°である。
図11,12の削合工具15c、15dの場合、加工面19、加工部21の幅は、1〜6mm、好ましくは2〜4mm、さらに好ましくは3〜4mmである。加工面19、加工部21の幅が広いと他の咬頭に接触し、狭いと広い削合面を削合する時に何度も削合する必要があり、作業効率が悪くなる。
【0039】
削合工具15を形成する切削材の材質は、特に限定しないが、ダイヤモンド系、焼成鯛系(アルミナ、ジルコニア等の無機系の焼成体)、コンポジット系、スチール系などが考えられる。好ましくは、ダイヤモンド系、焼成体系である。
【0040】
図11に示すように、削合工具15cの先端の丸みR1及び先端両側端の丸みR2(いずれも半径)は、0.5〜0.05mm、好ましくは0.4〜0.1mm、さらに好ましくは0.25〜0.15mmである。あまりに細すぎると、摩耗が発生する。削合工具15の先端及び先端両側端の丸みR1,R2は、同一でなくてもよい。
【0041】
一方、削合工具15によって削合される義歯の削合面と削合面の間の溝や窩の幅は、1.0〜0.1mmであることが好ましい。この溝や窩の幅が十分でない場合は、再形成することが可能である。頬側咬頭間や舌側咬頭間の谷間は、0.8〜0.2mmが好ましい。繊細な削合を実施するためには、0.7〜0.4mmであることが好ましい。削合時に溝や窩の形成が不十分な場合は、削合工具の先端部で再構築することができる。
【0042】
代案として、図13に示すように、先端が梨型の加工部22を有する削合工具15eであれば、一軸方向からのみで削合することができる。
【0043】
削合工具15の加工面の形状は加工後の義歯の削合面の状態に大きく影響する。このため、削合機10による削合は、粗削り工程と仕上げ工程に分けて行う。削合工具15毎に加工状態が変化するため、加工前に削合工具15の加工面の形状を測定し、その形状に合わせて加工角度や位置を設定し、削合を行うことが好ましい。また、削合時には、削合工具15に定圧荷重をかけることが好ましい。
【0044】
前歯上顎舌側面の削合は、削合工具15を唇側に倒して行うことが好ましい。
前歯下顎唇面の削合は、削合工具15を舌側に倒して行うことが好ましい。
臼歯の各咬頭の頬側面の削合は、削合工具15を舌側に倒して行うことが好ましい。
臼歯の各咬頭の舌側面の削合は、削合工具15を頬側に倒して行うことが好ましい。
削合工具15を頬側か舌側のどちらに倒すかは、超音波振動の振幅方向の傾きで決定する。
削合工具15の種類を少なくして、削合工具15の角度を変えることで、効率よく削合を行うことができる。
【0045】
削合部分データは、前述の方法により取得される。
【実施例】
【0046】
種々の削合工具と方法により、義歯の人工歯の削合を行い、音の発生、切削時間、研磨面の状態、上下顎の適合性、上下顎の接触状態を評価した。
1.手作業
削合工具としてダイヤモンドバーを装着した電動ルーターを用いた。
2.梨型削合工具による回転切削
直径2mmの梨型加工部を有する梨型回転切削具を用いて、咬合面に直角な方向から義歯の咬合面を削合した。ピッチは、図14(a)に示すように、臼歯側から300μm、速度は1ピッチ当たり2秒とした。
直径1mmの梨型回転切削具も試みたが、切削具が変形し、切削できなかった。
3.梨型削合工具による超音波研磨
直径2mmの梨型加工部を有する梨型回転切削具を用いて、咬合面に直角な方向から義歯の咬合面を削合した。ピッチは、臼歯側から300μm、速度は1ピッチ当たり4秒とした。直径1mmの梨型回転切削具も試みたが、切削具が変形し、切削できなかった。ピッチが300μmでは、研磨面が粗かったため、ピッチを100μmに変更したが、1時間以上の研磨時間を要した。
4.図11の削合工具による超音波研磨
先端及び先端両側端の丸みが直径0.35mm、先端横角度60度、先端幅3.5mmのダイヤモンド研削材からなる図11の削合工具15cを用いた。図14(b)に示すように、片顎の頬側から順次研磨し、最後に前歯を研磨した。
各削合の結果は表1の通りである。
【0047】
【表1】
【0048】
騒音
作業1では、さほど大きな音は発生しなかった。作業2では、大きなモータ音と切削音が発生した。作業3では、特に音はなく、静かであった。作業4では、義歯保持台の移動音が発生するが、それ以外の音はなく、静かであった。
【0049】
切削時間
作業1は、手で研磨しているため、長時間を要した。作業2は、切削力が高く、研磨時間は短かった。作業3では、研磨時間はそれほど長くなく、診療中に咬合調整も可能な程度であった。作業4は、研磨時間はそれほど長くなく、診療中に咬合調整も可能な程度であった。
【0050】
削合面
作業1は、手で研磨しているため、削合面は滑沢な面を有していた。作業2による削合面は、切削痕があり、研磨工程が必要な程度であった。研磨しなければ、プラークが付着する虞が高い。作業3は、きれいな仕上がりで、面荒れはほとんど見られないが、工具痕が若干残っていた。作業4は、きれいな仕上がりで面荒れは見られなかった。
【0051】
上下顎の適合性
作業1は、完全な適合は無理であった。作業2は、切削痕により適合が不十分であった。作業3は、工具痕により多少の抵抗があった。作業4は、抵抗がなく、きれいな仕上がりとなっていた。
【0052】
上下顎の接触状態
作業1は、特定の面のみが当たっていた。作業2では、切削痕により、接触が不十分であった。作業3では、工具痕により接触不十分な部分が発生した。作業4では、工具痕がなく、接触十分であり、全体的に擦動していた。
【符号の説明】
【0053】
10 義歯削合機
11 義歯保持台
12 削合機本体
13 移動機構
15 削合工具
16 振動装置
【技術分野】
【0001】
本発明は義歯の咬合面を削合する義歯削合機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、義歯の咬合面の削合は、研磨器具を用いて手動で行われていた。このため、歯科医の長年の経験と咬合学的知識が必要であり、患者の咬合運動に適合した削合作業を行うには想到な熟練が必要であった。
【0003】
特許文献1には、咬合器の上顎枠に上顎義歯を保持し、下顎脇に下顎枠を保持し、上顎枠を少なくとも左右方向に往復運動させる人口歯の自動削合機が記載されている。
しかし、特許文献1の削合機は、上顎と下顎の義歯を直接接触させた状態で上顎枠を往復運させるだけであり、往復運動は患者の咬合運動に適合したものではないため、正しい咬合状態が得られなかった。また、上顎と下顎の義歯が摺接し、大きな騒音が発生するため、歯科医院で作動させると、治療に支障をきたすことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−45749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、患者の咬合運動に適合した削合を行うことができ、しかも騒音の少ない義歯削合機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、
義歯を保持する義歯保持台と、
前記義歯保持台に保持された義歯を削合する削合工具と、
前記削合工具を保持する本体と、
前記義歯保持台と前記本体を相対的に移動させる移動機構と、
前記本体と前記義歯保持台を相対的に駆動する駆動機構とを備え、
前記移動機構は、削合部分データに基づいて前記義歯保持台と前記本体を相対的に三次元座標方向に移動させ、
前記削合工具は、前記義歯の咬合面を該咬合面に直角な方向から削合するものである。
【0007】
前記削合工具は、先端に軸線に対して傾斜し、前記義歯を構成する人工歯の運動側側の咬合ファセット、作業側側の咬合ファセット、前方運動時の咬合ファセットの少なくともいずれか1つに対向する研磨面を有することが好ましい。
【0008】
前記駆動機構は、超音波振動子による振動装置であることが好ましい。
【0009】
前記削合部分データは、
(1)患者の顎運動を測定して顎関係再現条件を決定し、該顎関係再現条件に従って咬合状態再現器上で患者の顎状態を再現する顎関係再現段階、
(2)前記咬合状態再現器上で前記顎関係再現条件に合わせて義歯を排列し、削合前義歯を作製する削合前義歯作製段階、
(3)前記顎関係再現条件と前記義歯の位置関係を示す標点と、前記義歯の咬合面とを含む3次元画像データである標点付き義歯データを測定する標点付き義歯データ測定段階、
(4)前記顎関係再現条件を利用して、前記標点付き義歯データの咬合状態を3次元画像上で再現する咬合状態再現段階、
(5)再現された咬合状態の前記3次元画像上で上下顎の画像で囲まれる部分から、動的条件や設定された条件にて削合部分の削合データを決定する削合データ決定段階、
(6)前記標点付き義歯データに前記削合データを追加した削合データ付き標点付き義歯データを作成する削合データ付き標点付き義歯データ作成段階、
により作成されたデータを用いる。
【発明の効果】
【0010】
本発明(請求項1)によれば、従来の手作業に比べて迅速かつ正確に削合を行える。
治療時間内に研磨作業を実施し完了できる。上下顎の適合性が良い。
義歯に負担をかけずに研磨できる為、義歯の破損を防ぐことができる。
切削片の鋭利な部分が緩和される。
振動の種類を変えることで、研磨量を変更することができる。
咬合調整などの小さな部位の面を、切削し研磨するのに適している。
XYZ軸移動に加え、XYZ軸回転移動ができる移動機構を利用することで、より精密な義歯を作製することができる。
【0011】
本発明(請求項2)によれば、先端部が切削方向に適している為、義歯保持台の移動も少なく、切削時間を軽減できる。同じ角度のジグを利用するため、研磨面を一定にすることができる。
【0012】
本発明(請求項3)によれば、静かで安定的な研磨が可能であり、診療所などで設置することができる。
【0013】
本発明(請求項4)によれば、された義歯データの咬合状態から3次元画像上で再現し、上下顎の画像で囲まれる部分から決定された削合データを用いるので、上下顎の適合性及び上下顎の接触性がよくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の義歯削合方法を示すフローチャート。
【図2】漂点を有する要咬合器に上下顎模型を装着した状態を示す斜視図。
【図3】上下顎の咬合面の三次元データを3次元空間上で表示した図。
【図4】上下顎の咬合面の3次元データを咬合させた状態を示す図。
【図5】(a)は上下顎の咬合面の3次元データで囲まれた部分を示す図、(b)は上下顎の咬合面の削合部分を示す図。
【図6】咬合面の削合部分を示す図。
【図7】義歯削合機の概略構成図。
【図8】第1実施例の削合工具の正面図及び加工部を先端から見た図。
【図9】図8の削合工具により義歯の咬合面を研削する状態を示す斜視図。
【図10】第2実施例の削合工具の正面図及び側面図。
【図11】第3実施形態の研削工具の正面図とその加工部の拡大図、側面図とその加工部の拡大図。
【図12】第4実施形態の研削工具の正面図及び側面図。
【図13】第5実施形態の梨型研削工具の正面図。
【図14】研削工具による義歯の研削順序を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に従って説明する。
【0016】
一般に、義歯を作製する工程は、以下の通りである。
1.患者の口腔内の型をとって印象を作製する。
2.印象から患者の口腔の模型を石膏で作製し、この模型上に構成樹脂のベースプレートを作製する。
3.型枠にワックスを流し込んでアーチ型に固まらせ、このワックスをベースプレートの上に載置して、人工歯を排列するための蝋提を作製する。この蝋提とベースプレートを合わせて咬合床と称する。
4.咬合床を患者に装着し、咬合を採得する。
5.咬合床を装着した上顎と下顎の模型を咬合器に装着し、咬合状態を咬合器上で再現する。
6.患者に合った人工歯を選択して、まず上顎の前歯の人工歯を上顎の蝋提に排列し、続いて下顎の前歯の人工歯を下顎の蝋提に排列する。
7.咬合器のインサイザルポールを調整して上顎の高さを少し上げて、下顎と上顎の臼歯の人工歯を蝋提に排列する。
8.咬合器のインサイザルポールを元の状態に戻して、高い部分を削る咬合調整を行う。咬合調整では、上顎と下顎の間に咬合紙を挟み、強く当たっている部分を削る。
9.前歯の歯頸部(生え際)と歯肉部の状態を再現する。
10.咬合床に人工歯を排列した義歯模型を患者の口腔内への試適し、修正を加えるべき情報を得る。
11.情報に従って修正すべき箇所を修正する。
12.義歯模型をフラスコ(枠)に容れて石膏に埋没し、固まらせる。
13.フラスコに熱を加えて義歯模型のワックスを軟化させた後、フラスコを分離してワックスを溶かすと、鋳型が完成する。
14,鋳型の石膏部分に分離材を塗布してから、鋳型に床用レジン(合成樹脂)を注入し、上下の型枠を合わせてプレスにより圧力をかける。
15.余剰のレジンを取り除き、上下の型枠を合わせた後、熱を加えてレジンを硬化させる。
16.型枠を外して、石膏を取り除き、義歯を掘り出す。
17.義歯を再度、咬合器に取り付け、レジン硬化時の収縮により生じた咬合のくるいを修正する。咬合修正では、咬合紙を使用する。
18.顎を前後左右に動かしたときの噛み合わせを、咬合紙を使用して調整する(この調整は最終の咬合調整であり、削合とも言う)。
19.レジンのバリを削り取り、研磨を行う。
【0017】
義歯を作製する工程において、口腔内の型を取り、蝋堤を作製し、人工歯を並べた後、ロストワックス法にて蝋を樹脂に置き換えたとき、樹脂の収縮により、人工歯の位置関係がずれ、義歯として上下顎で噛み合わせた場合に干渉する。この干渉部分を調整することが削合である。また、義歯上で噛み合わせが正しく出来たとしても、患者の口腔内の状況に合わせて、咬合関係を変更する為に、削合を行ったりする。これは患者の顎の動きに合わせて調整するものである。
本発明はこれらの一連の作業を、プログラムを用いて容易に実施するものである。
ここで、義歯削合方法の場合は総義歯であることが好ましい。又は部分義歯であっても、上下顎が義歯の組み合わせの場合も用いることができる。
【0018】
1.義歯削合方法
本発明の義歯削合方法は、図1に示すように、以下の段階からなる。
(1)顎関係再現段階
(2)削合前義歯作製段階
(3)標点付き義歯データ測定段階
(4)噛合状態再現段階
(5)削合部分決定段階
(6)削合データ及び標点付き義歯データ作成段階
(7)削合前義歯削合段階
【0019】
(1)患者の顎の条件を再現できる顎関係再現条件を決定し、顎関係を再現する顎関係再現段階について説明する。
顎関係再現段階とは、義歯を作製する前に、患者の上下顎の位置関係を再現するものである。通常は咬合器を用いて、顎の動きに合わせて咬合器の顆路の動きや切歯の動きを調整することにより、咬合器上で上下顎の動きを再現する。
上下顎の中心咬合位の位置から、咀嚼運動や開口・閉口運動時を想定した動く方向を決める必要がある。
患者の顎の条件とは、静的条件や動的条件であり、代表的には中心咬合位の位置や、前方運動・側方運動の方向、場合によっては蝶番運動の方向を含む。
これらの咬合状態を再現できるものとしては咬合状態再現器であり、代用的なものは咬合器である。咬合器は静的関係、動的関係を的確に再現できる。
顎関係再現条件としては、矢状顆路傾斜度、平衡側側方顆路、イミディエイト・サイドシフトの調節機構、作業側側方顆路角調節機構などがあり、切歯路調節機構としては、矢状切歯路傾斜度、側方切歯路誘導角などがある。
患者の状態に合わせて顎運動の近似値を用いる方法も一般的である。例えば、標準的な顆頭間距離を110mm、上弓・下弓間距離を110mm、最大開口角を120°、矢状顆路傾斜度を30°、側方顆路角を15°とすることができる。
ここで重要なのは中心咬合位から側方運動した場合の下顎に対して上顎がどの様に動くかを明確になることである。
また、最も単純な方法として、中心咬合位から上顎が前方10°に下顎に平行に滑走し、また、更に中心咬合位から上顎が咬合面から左右20°の上方向に滑走するように設定することも可能である。
近年においては顎運動をそのまま再現する方法についても研究が進められ、顎運動測定装置が開発されている。この顎運動測定装置により直接顎運動を取得して、顎運動再現装置にて顎運動を再現しても良い。
【0020】
(2)咬合状態再現器の顎関係再現条件に合わせて義歯を作製し、削合する前までの削合前義歯を作製する削合前義歯作製段階について説明する。
削合前義歯作製段階では、前記咬合状態再現段階で得られた上下顎の関係に合わせて義歯を作製する段階であり、通常の義歯の作製段階である(前述の義歯作製工程のステップ6.7)。代表的な工程としては、蝋提を作製し、人工歯を排列し、ロストワックス法にて削合前義歯を作製する段階である。ここでの作成方法は特に限定するものではないが、通常の方法で作製することができる。
削合前義歯は削合をしていないので、咬合状態再現器上で未だ正しい咬合ができない。咬合状態再現器上で正しい咬合をする為に咬合面を本発明にて削合する。
【0021】
(3)咬合状態再現器と義歯の位置関係を示す標点と共に義歯の咬合面の3次元画像データである標点付き義歯データを測定する標点付き義歯データ測定機にて標点付き義歯データを測定する標点付き義歯データ測定段階について説明する。
この段階では、作製された削合前義歯の3Dデータを取得すると共に、コンピュータの中で咬合状態を再現できる様に咬合状態再現器のどの位置に削合前義歯が有するのかを計測する。咬合状態再現器の上下顎の関係を事前に設定することにより、咬合状態を再現することができる。
再現器の各上下弓のそれぞれには、最低でも3点の標点が必要である。3つの辺でも良い。好ましいのは1つの辺と1つの点である。具体的には3つの針状又は球面(好ましくは球状)で構成しても良いし、再現器の真直な辺と球面の組合せでも良い。ここでは3Dデータがコンピュータ上で再現される上下顎の関係を正確に算出する為の標点であることが必要であり、3Dデータをコンピュータ上で一致させる為には、球面が好ましい。
義歯削合方法に用いられる顎関係再現条件を決定する咬合状態再現器は、図2に示すように、咬合状態再現器が上顎模型1が装着される上弓2および下顎模型3が装着される下弓4を有する咬合器5であり、上弓2および下弓4それぞれに標点6a、6b、6c,標点7a、7b、7cを有することが好ましい。
【0022】
(4)顎関係再現条件を利用して、標点付き義歯データの咬合状態を再現する咬合状態再現段階について説明する。
この段階では、咬合状態をコンピュータ上で再現する。コンピュータ上で咬合状態再現器の上下顎の関係を任意に設定することができる。
ここではコンピュータの空間の中で、上下顎の位置関係を正確にシミュレーションできる。コンピュータの中では上下顎の顎の静的関係が示されており、その関係には3Dデータを取得する時に用いた標点データを有する。コンピュータの空間中で上下顎の3Dデータが静的関係を示すように上下顎運動をシュミレーションさせる。
好ましくは下顎の直交座標軸系と上顎の直交座標軸系を設定する。ある任意の上下顎の位置関係から、上下顎の咬合状態を再現する様に、下顎直交座標軸系に対して上顎直交座標軸系が移動する方向を任意に算出できれば良い。
図3に示すように、下顎の直交座標軸系と上顎の直交座標軸系に有する標点をコンピュータ空間上の標点に一致させることによって、上顎の義歯データ8と下顎の義歯データ9の動きの関係を再現できることが好ましい。
各直交座標軸系にはそれぞれの標点の位置を定め、義歯データ測定段階で得られた義歯データの位置合わせをする。
図4に示すように、それぞれの座標軸が咬合状態再現段階で示した下顎の義歯データ9に対する上顎の義歯データ8の動きをする様に下顎直交座標軸系に対して上顎直交座標軸系が動く様に設定することもできる。
【0023】
(5)再現された咬合状態から上下顎の画像で囲まれる部分から、動的条件や設定された条件にて削合データを決定する削合部分決定段階について説明する。
ここでは、咬合状態再現段階にて合わせられた3Dデータに囲まれた範囲、すなわち図4に示すように、上顎の人工歯の咬合面と下顎の人工歯の咬合面とが重なる範囲に注目する。
3Dデータで囲まれた範囲が少ない場合は、義歯が安定感に欠けるため、上顎の3Dデータを蝶番運動させ、若しくは咬合高径を下げる方向に移動させて、上下顎の3Dデータが重なる部分を調整する。もし、3Dデータが重なる部分が多い場合は、切削が多く、咬頭が無くなるため、上顎の3Dデータを蝶番運動させ、若しくは咬合高径を上げる方向に移動させて、上下顎の3Dデータが重なる部分の調整を実施する。蝶番運動若しくは咬合高径の移動については任意に組み合わせて利用してもよい。
次に、図5(a)に示すように、3Dデータが重なる部分Aを、上下顎が運動する場合に擦動する様に、上顎又は下顎の3Dデータ8,9を移動させて、削合面を決定する。これは3Dデータが中心咬合位から前方運動、後方運動、側方運動時に各3Dデータが重なり合う部分を任意に定めた削合面Sに沿って切り取る。
削合面Sは、上下顎の3Dデータが重なり合う部分内を通らなくても良いが、上下顎の3Dデータ8,9が重なり合う部分内を通ることが好ましい。図5(b)に示すように、この3Dデータ8,9が重なり合う部分内の削合面Sで延長される面で囲まれる咬頭の部分B,Cが切削される部分となる。これらの部分を削合部分といいそのデータを削合データという。
任意に定めた削合面Sとは、前方運動、後方運動、側方運動時の運動方向に沿った面であり、各面の角度は咬合平面に対して任意に設定することができる。咬合平面に対して、削合面Sは、5度〜60度に設定することが好ましい。更に、前方運動、後方運動の場合に咬頭が接する面は5度から45度好ましく、側方運動の場合は20度〜60度が好ましい。
【0024】
運動方向は、上顎の3Dデータと下顎の3Dデータで囲まれた範囲の任意の点における下顎の直交座標軸系に対して、上顎の直交座標軸系が咬合状態再現段階で示された動的関係により、移動する方向である。本運動方向は直線であることが好ましいが、曲線の場合もある。直線に近似して適用することもできるが、曲線のまま構成してもよい。即ち、直線もしくは曲面である。好ましくは直線または円柱面である。
また、上顎の3Dデータ8と下顎の3Dデータ9で囲まれた範囲Aの任意の点は、上顎の3Dデータ8と下顎の3Dデータ9で囲まれた範囲の重心Gであることが好ましい。
この重心Gは、上顎の3Dデータ8と下顎の3Dデータ9で囲まれた範囲が空間上のn個の点で示されている場合、それぞれ下顎座標軸系若しくは上顎座標軸系XYZ軸を同じ直交座標軸系に換算し、XYZそれぞれの値の和をn個で割ったX’Y’Z’の値として算出することが好ましい。削合面Sは、このX’Y’Z’の値を通る下顎に対して上顎の運動方向を含む面である。
この運動方向は咬合状態再現段階で示された再現方法により算出されるが、たとえば、咬合器により再現された場合は、アルコン型咬合器若しくはコンダイラー型咬合器どちらの場合でも、これらの調整機構をコンピュータ上で再現することができる。好ましくはアルコン型である。
咬合器の顆頭間距離は50〜170mm好ましくは80〜140mm、更に好ましくは100〜120mmである。110mmという平均的な顆頭間距離を固定値で有することが好ましい。上弓下弓間距離は80〜120mm程度である。上弓下弓間距離は任意に設定できれば十分である。
顆頭間距離及び上弓下弓間距離は、咬合器の上下顎の動きを規定している顆路調節機構、切歯路調節機構により予め設定された数値から算出される。
具体的には顆路調節機構として、矢状顆路傾斜度、平衡側側方顆路、イミディエイト・サイドシフトの調節機構、作業側側方顆路角調節機構などがあり、切歯路調節機構としては、矢状切歯路傾斜度、側方切歯路誘導角などがある。
矢状顆路傾斜度は−30°〜+90°であり、好ましくは−20°〜+80°、更に好ましくは−0°〜+50°である。
平衡側側方顆路は0°〜+40°であり、好ましくは0°〜+30°、更に好ましくは+10°〜+20°である。
イミディエイト・サイドシフトの調節機構は0〜10mm好ましくは0〜8mm、更に好ましくは0〜5mmである。
作業側側方顆路角調節機構−50°〜+60°であり、好ましくは−40°〜+50°、更に好ましくは−30°〜+30°である。
矢状切歯路傾斜度は、−30°〜+90°であり、好ましくは−20°〜+80°、更に好ましくは−10°〜+75°である。
側方切歯路誘導角は、−0°〜+90°であり、好ましくは−0°〜+50°である。
これらの調節機構に合わせて動く下顎直交座標軸系に対する上顎直交座標軸系を算出する。
好ましくは市販の咬合器の名称等から、調整項目のみを適宜選択できる設定が好ましい。更に、調整ができない咬合器を利用している場合は、その咬合器の固定値が咬合器名の名称を選んだ場合に固定で入力されることが好ましい。設定された条件とは、上下顎がスムーズに擦れ合って上下顎が引っかからない様に、突起部分を削除する様に設定された条件であることが好ましい。
本段階で得られた削合データはCADデータとして利用され、後で示される削合前義歯削合段階で加工用のNCプログラムが作成され機械工作において工具の移動量や移動速度などをコンピュータによって数値で制御するコンピュータ数値制御(CNC)によって、義歯の削合を行う。このことをCAMという。
【0025】
図6は、咬合面の削合が行われる面を示す図である。左右ほぼ対称に削合される為、1,2,3の引き出し線は片方の顎のみを示している。上下顎が咬合された場合に上下顎が接触する咬合小面は面で接触し、顎の動きに合わせて擦れ合う面となる。
引き出し線の1は前方咬合小面、2は後方咬合小面、3は平衡咬合小面である。
符号の説明において、1.同一角度に削合される面部分、2.別の同一角度に削合される面部分、3.また別の同一角度に削合される面部分としたが、これらは一例である。咬合の静的関係、動的関係を考えた場合に、その面が正しい方向に擦れ合う様に、面の角度を調整または算出されることが好ましい。しかし、近似的に同一角度に削合される面部分であってもよい。
【0026】
(6)標点付き義歯データに削合データを追加した削合データ付き標点付き義歯データを作成する削合データ付き標点付き義歯データ作成段階について説明する。
前記削合データである削合面を標点付き義歯データと合わせて、削合部分を定め、削合データ付き標点付き義歯データとする。ここで重要なことは、削合してはいけない部分と削合する部分が標点を基準に定められていることである。
このことから、義歯の位置関係を示す標点指示部と削合データ付き標点付き義歯データの標点部分を重ね合わせることにより、義歯の削合する部分を決定することができる。
【0027】
(7)削合データ付き標点付き義歯データを元に削合前義歯を削合する削合前義歯削合段階について説明する。
削合データはCADデータとして利用され、本段階で加工用のNCプログラムを作成する。これは機械工作において、工具の移動量や移動速度などをコンピュータによって数値で制御するコンピュータ数値制御(CNC)のプログラムである。本プログラムより、義歯の削合を行う。
【0028】
図7は本発明に係る義歯削合機の概略構成を示す。義歯削合機10は、義歯保持台11と、義歯保持台11の上方に設けられ削合機本体12とからなっている。
【0029】
義歯保持台11はXY軸平面内に義歯保持面を有し、その義歯保持面に削合の対象となる義歯を固定して保持できるように構成されている。義歯保持台11は、移動機構13により、6自由度(X,Y,Z軸方向の移動と各軸回りの回転)で移動又は回転可能になっている。
【0030】
削合機本体12はチャック14を有し、該チャック14により削合工具15をXY軸平面に垂直なZ軸に平行に保持できるように構成されている。削合機本体12には、駆動機構として、削合工具15を義歯保持台11に対してZ軸方向に相対的に駆動する超音波振動子による振動装置16が設けられている。この振動装置16による削合工具15の振動により、削合部分データに基づいて、義歯保持台11上の義歯を咬合面に直角な方向から咬合面を研磨して削合することができるように構成されている。
【0031】
振動装置16による削合工具15の振動数は、10kHz〜100kHz、好ましくは15kHza〜30kHzである。削合工具15の振動方向は、削合工具15の軸方向すなわちZ軸方向である。超音波振動に加えて、削合面に対して平行に円運動又は往復運動、あるいは周波数帯域の異なる超音波や振動を削合工具15に付与することが、削合効率を向上する上で好ましい。
【0032】
この実施形態のように、移動機構13を義歯保持台11に設け、駆動機構16を削合機本体12に設ける代わりに、移動機構13を削合機本体12に設け、駆動機構16を義歯保持台11に設けてもよい。
【0033】
削合工具15の軸の断面形状は、チャック14に固定するときに位置決めが容易なように、円形以外の形状、例えば、D形、三角形、四角形が好ましい。
【0034】
削合工具15の先端は、咬合面と平行でない面を有することが好ましい。なぜなら、義歯を形成する人工歯の咬頭の斜面は、平衡咬合小面、後方咬合正面、前方咬合小面で形成されているからである。一般に、各人口歯の平衡咬合小面、後方咬合正面、前方咬合小面は一定である。この場合、各人工歯の同じ咬合小面は同じ角度で削合するため、同じ削合工具を使用することができる。また、各人口歯の平衡咬合小面、後方咬合正面、前方咬合小面が一定である場合、XYZ軸回りの回転の3自由度は不要であり、XYZ軸横行の移動の3自由度は必要である。
【0035】
図8は、円形断面の軸と三角錐に形成された先端の加工面を有する削合工具15aを示し、三角錐の各加工面17a,17b,17cは、図9に示すように、平衡咬合小面、後方咬合正面、前方咬合小面を削合できるように形成されている。この削合工具15aは、1顎につき、上顎左側、上顎右側、下顎左側、下顎右側の4本で足りる。
【0036】
図10は、円形断面の軸と所定の角度で斜めに形成された加工面18を有する削合工具15bを示す。
図11は、四角形断面の軸と所定の角度で斜めに形成された加工面19を有し、加工面19の両側端は先端に向かって先細りになるようにテーパ20が設けられている。
これらの削合工具15b、15cは、平衡咬合小面、後方咬合正面、前方咬合小面に対して1本ずつ必要であり、合計1顎につき12本必要である。
【0037】
図12は、四角形断面の軸と先端に板状の加工部21を有する削合工具15dを示す。加工部21の両側端には、先端に向かって先細りになるようにテーパ22が設けられている。
【0038】
図12の板状の加工部21を有する削合工具15dを除き、削合工具15a〜15cの加工面17a,17b,17c,18,19の角度は、削合工具15a〜15cの先端が隣接する咬頭と接触しないように80°以下に設定されるが、あまりに傾斜が大きいと折れやすいため、好ましくは30〜60°、さらに好ましくは40〜60°である。
図11,12の削合工具15c、15dの場合、加工面19、加工部21の幅は、1〜6mm、好ましくは2〜4mm、さらに好ましくは3〜4mmである。加工面19、加工部21の幅が広いと他の咬頭に接触し、狭いと広い削合面を削合する時に何度も削合する必要があり、作業効率が悪くなる。
【0039】
削合工具15を形成する切削材の材質は、特に限定しないが、ダイヤモンド系、焼成鯛系(アルミナ、ジルコニア等の無機系の焼成体)、コンポジット系、スチール系などが考えられる。好ましくは、ダイヤモンド系、焼成体系である。
【0040】
図11に示すように、削合工具15cの先端の丸みR1及び先端両側端の丸みR2(いずれも半径)は、0.5〜0.05mm、好ましくは0.4〜0.1mm、さらに好ましくは0.25〜0.15mmである。あまりに細すぎると、摩耗が発生する。削合工具15の先端及び先端両側端の丸みR1,R2は、同一でなくてもよい。
【0041】
一方、削合工具15によって削合される義歯の削合面と削合面の間の溝や窩の幅は、1.0〜0.1mmであることが好ましい。この溝や窩の幅が十分でない場合は、再形成することが可能である。頬側咬頭間や舌側咬頭間の谷間は、0.8〜0.2mmが好ましい。繊細な削合を実施するためには、0.7〜0.4mmであることが好ましい。削合時に溝や窩の形成が不十分な場合は、削合工具の先端部で再構築することができる。
【0042】
代案として、図13に示すように、先端が梨型の加工部22を有する削合工具15eであれば、一軸方向からのみで削合することができる。
【0043】
削合工具15の加工面の形状は加工後の義歯の削合面の状態に大きく影響する。このため、削合機10による削合は、粗削り工程と仕上げ工程に分けて行う。削合工具15毎に加工状態が変化するため、加工前に削合工具15の加工面の形状を測定し、その形状に合わせて加工角度や位置を設定し、削合を行うことが好ましい。また、削合時には、削合工具15に定圧荷重をかけることが好ましい。
【0044】
前歯上顎舌側面の削合は、削合工具15を唇側に倒して行うことが好ましい。
前歯下顎唇面の削合は、削合工具15を舌側に倒して行うことが好ましい。
臼歯の各咬頭の頬側面の削合は、削合工具15を舌側に倒して行うことが好ましい。
臼歯の各咬頭の舌側面の削合は、削合工具15を頬側に倒して行うことが好ましい。
削合工具15を頬側か舌側のどちらに倒すかは、超音波振動の振幅方向の傾きで決定する。
削合工具15の種類を少なくして、削合工具15の角度を変えることで、効率よく削合を行うことができる。
【0045】
削合部分データは、前述の方法により取得される。
【実施例】
【0046】
種々の削合工具と方法により、義歯の人工歯の削合を行い、音の発生、切削時間、研磨面の状態、上下顎の適合性、上下顎の接触状態を評価した。
1.手作業
削合工具としてダイヤモンドバーを装着した電動ルーターを用いた。
2.梨型削合工具による回転切削
直径2mmの梨型加工部を有する梨型回転切削具を用いて、咬合面に直角な方向から義歯の咬合面を削合した。ピッチは、図14(a)に示すように、臼歯側から300μm、速度は1ピッチ当たり2秒とした。
直径1mmの梨型回転切削具も試みたが、切削具が変形し、切削できなかった。
3.梨型削合工具による超音波研磨
直径2mmの梨型加工部を有する梨型回転切削具を用いて、咬合面に直角な方向から義歯の咬合面を削合した。ピッチは、臼歯側から300μm、速度は1ピッチ当たり4秒とした。直径1mmの梨型回転切削具も試みたが、切削具が変形し、切削できなかった。ピッチが300μmでは、研磨面が粗かったため、ピッチを100μmに変更したが、1時間以上の研磨時間を要した。
4.図11の削合工具による超音波研磨
先端及び先端両側端の丸みが直径0.35mm、先端横角度60度、先端幅3.5mmのダイヤモンド研削材からなる図11の削合工具15cを用いた。図14(b)に示すように、片顎の頬側から順次研磨し、最後に前歯を研磨した。
各削合の結果は表1の通りである。
【0047】
【表1】
【0048】
騒音
作業1では、さほど大きな音は発生しなかった。作業2では、大きなモータ音と切削音が発生した。作業3では、特に音はなく、静かであった。作業4では、義歯保持台の移動音が発生するが、それ以外の音はなく、静かであった。
【0049】
切削時間
作業1は、手で研磨しているため、長時間を要した。作業2は、切削力が高く、研磨時間は短かった。作業3では、研磨時間はそれほど長くなく、診療中に咬合調整も可能な程度であった。作業4は、研磨時間はそれほど長くなく、診療中に咬合調整も可能な程度であった。
【0050】
削合面
作業1は、手で研磨しているため、削合面は滑沢な面を有していた。作業2による削合面は、切削痕があり、研磨工程が必要な程度であった。研磨しなければ、プラークが付着する虞が高い。作業3は、きれいな仕上がりで、面荒れはほとんど見られないが、工具痕が若干残っていた。作業4は、きれいな仕上がりで面荒れは見られなかった。
【0051】
上下顎の適合性
作業1は、完全な適合は無理であった。作業2は、切削痕により適合が不十分であった。作業3は、工具痕により多少の抵抗があった。作業4は、抵抗がなく、きれいな仕上がりとなっていた。
【0052】
上下顎の接触状態
作業1は、特定の面のみが当たっていた。作業2では、切削痕により、接触が不十分であった。作業3では、工具痕により接触不十分な部分が発生した。作業4では、工具痕がなく、接触十分であり、全体的に擦動していた。
【符号の説明】
【0053】
10 義歯削合機
11 義歯保持台
12 削合機本体
13 移動機構
15 削合工具
16 振動装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯を保持する義歯保持台と、
前記義歯保持台に保持された義歯を削合する削合工具と、
前記削合工具を保持する本体と、
前記義歯保持台と前記本体を相対的に移動させる移動機構と、
前記本体と前記義歯保持台を相対的に駆動する駆動機構とを備え、
前記移動機構は、削合部分データに基づいて前記義歯保持台と前記本体を相対的に三次元座標方向に移動させ、
前記削合工具は、前記義歯の咬合面を該咬合面に直角な方向から削合することを特徴とする義歯削合機。
【請求項2】
前記削合工具は、先端に軸線に対して傾斜し、前記義歯を構成する人工歯の運動側側の咬合ファセット、作業側側の咬合ファセット、前方運動時の咬合ファセットの少なくともいずれか1つに対向する研磨面を有することを特徴とする請求項1に記載の義歯削合機。
【請求項3】
前記駆動機構は、超音波振動子による振動装置であることを特徴とする請求項1又は2に記載の義歯削合機。
【請求項4】
前記削合部分データは、
(1)患者の顎運動を測定して顎関係再現条件を決定し、該顎関係再現条件に従って咬合状態再現器上で患者の顎状態を再現する顎関係再現段階、
(2)前記咬合状態再現器上で前記顎関係再現条件に合わせて義歯を排列し、削合前義歯を作製する削合前義歯作製段階、
(3)前記顎関係再現条件と前記義歯の位置関係を示す標点と、前記義歯の咬合面とを含む3次元画像データである標点付き義歯データを測定する標点付き義歯データ測定段階、
(4)前記顎関係再現条件を利用して、前記標点付き義歯データの咬合状態を3次元画像上で再現する咬合状態再現段階、
(5)再現された咬合状態の前記3次元画像上で上下顎の画像で囲まれる部分から、動的条件や設定された条件にて削合部分の削合データを決定する削合データ決定段階、
(6)前記標点付き義歯データに前記削合データを追加した削合データ付き標点付き義歯データを作成する削合データ付き標点付き義歯データ作成段階、
により作成されたデータを用いることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の義歯削合機。
【請求項1】
義歯を保持する義歯保持台と、
前記義歯保持台に保持された義歯を削合する削合工具と、
前記削合工具を保持する本体と、
前記義歯保持台と前記本体を相対的に移動させる移動機構と、
前記本体と前記義歯保持台を相対的に駆動する駆動機構とを備え、
前記移動機構は、削合部分データに基づいて前記義歯保持台と前記本体を相対的に三次元座標方向に移動させ、
前記削合工具は、前記義歯の咬合面を該咬合面に直角な方向から削合することを特徴とする義歯削合機。
【請求項2】
前記削合工具は、先端に軸線に対して傾斜し、前記義歯を構成する人工歯の運動側側の咬合ファセット、作業側側の咬合ファセット、前方運動時の咬合ファセットの少なくともいずれか1つに対向する研磨面を有することを特徴とする請求項1に記載の義歯削合機。
【請求項3】
前記駆動機構は、超音波振動子による振動装置であることを特徴とする請求項1又は2に記載の義歯削合機。
【請求項4】
前記削合部分データは、
(1)患者の顎運動を測定して顎関係再現条件を決定し、該顎関係再現条件に従って咬合状態再現器上で患者の顎状態を再現する顎関係再現段階、
(2)前記咬合状態再現器上で前記顎関係再現条件に合わせて義歯を排列し、削合前義歯を作製する削合前義歯作製段階、
(3)前記顎関係再現条件と前記義歯の位置関係を示す標点と、前記義歯の咬合面とを含む3次元画像データである標点付き義歯データを測定する標点付き義歯データ測定段階、
(4)前記顎関係再現条件を利用して、前記標点付き義歯データの咬合状態を3次元画像上で再現する咬合状態再現段階、
(5)再現された咬合状態の前記3次元画像上で上下顎の画像で囲まれる部分から、動的条件や設定された条件にて削合部分の削合データを決定する削合データ決定段階、
(6)前記標点付き義歯データに前記削合データを追加した削合データ付き標点付き義歯データを作成する削合データ付き標点付き義歯データ作成段階、
により作成されたデータを用いることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の義歯削合機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−24569(P2012−24569A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142004(P2011−142004)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(390011143)株式会社松風 (125)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(390011143)株式会社松風 (125)
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