説明

義歯安定シート

【課題】義歯床を安定して歯茎に密着させる。口内に残存するときにこれを可食できるようにして安全性を高める。
【解決手段】義歯安定シートは、オブラートからなる。
【効果】義歯床を安定して歯茎に密着できる。義歯を歯茎に付着するときに、義歯床と歯茎の密着面からはみ出した余分な部分を唾液で溶かして消失し、さらにこれを可食して消化できる。使用するときには、義歯安定シートを義歯床の大きさに正確に合わせて裁断する必要がなく、大きなシートとして使用できる。義歯を口から外したときに、口内に残存する義歯安定シートを、唾液に溶かして消失し、またこれを可食して消化できる。義歯を歯茎から外したときに、義歯安定シートを除去することなく、唾液で口内から完全に除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯床を歯茎の表面に密着させる義歯安定シートに関する。
【背景技術】
【0002】
歯茎と義歯床との間に設けられて、義歯を歯茎に密着させる義歯安定材は開発されている。(特許文献1ないし6参照)
【特許文献1】特開2000−316883号公報
【特許文献2】特開平11−318945号公報
【特許文献3】特開平10−290812号公報
【特許文献4】特開平8−99816号公報
【特許文献5】特開平4−305508号公報
【特許文献6】特開平3−109064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1は、シリコンゴムからなるの義歯安定材を記載する。特許文献2は、酢酸ビニル樹脂を基材とする義歯安定剤を記載する。また、特許文献3は、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルのみを合成単量体とするポリマーを含有し、低級アルコールを含有し、主としてガムベース(ポリ酢酸エステル、脂肪酸エステル類等)を残部とする義歯安定剤を記載する。さらに、特許文献4はポリ酢酸ビニル樹脂を主成分とする義歯安定剤を記載する。さらにまた、特許文献5ハポリジオルガノシロキサン及び水溶性高分子からなる義歯安定剤を記載する。最後の特許文献6は、エチルメタクリレートポリマー、ブチルフタリルブチルグリコール、及びグリセリルトリアセテートを含む義歯安定シートを記載する。
【0004】
これ等の義歯安定シートは、可食性の材料で製造されないために、義歯を外したときに口内に残存し、あるいは義歯を使用するときに分離されて口内に残存するとき、これを口から取り出すのに手間がかかる欠点があった。
【0005】
本発明は、この欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、義歯床を安定して歯茎に密着できることに加えて、口内に残存するときにこれを可食することができる安全性の高い義歯安定シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の義歯安定シートは、前述の目的を達成するために以下の構成を備える。
本発明の義歯安定シートは、水溶性の可食性フィルムからなる。水溶性の可食性フィルムは、澱粉多糖類のフィルムが使用でき、澱粉多糖類をセルロースとすることができる。また、水溶性の可食性フィルムは、澱粉多糖類と澱粉の積層フィルムとすることができる。また、水溶性の可食性フィルムにはオブラートが使用できる。オブラートは、α化された澱粉をシート状にしたもの、α化された澱粉と寒天の混合物をシート状にしたものとすることができる。水溶性の可食性フィルムのの厚さは、10μm〜500μmとすることができる。
【0007】
本発明の義歯安定シートは、楕円を短径方向に切断して形状として、上顎用義歯に使用することができる。さらに、本発明の義歯安定シートは、アーチ状として下顎用義歯に使用することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の義歯安定シートは、義歯床を安定して歯茎に密着できることに加えて、口内に残存するときにこれを可食して安全に使用できる特徴がある。それは、義歯安定シートを、水溶性の可食性フィルムで製造しているからである。水溶性の可食性フィルムからなる義歯安定シートは、義歯を歯茎に付着するときに、義歯床と歯茎の密着面からはみ出した余分な部分を唾液で溶かして消失し、さらにこれを可食して消化できる。このため、使用するときには、義歯安定シートを義歯床の大きさに正確に合わせて裁断する必要がなく、大きなシートとして使用できる。また、義歯を口から外したときに、口内に残存する義歯安定シートは、唾液に溶けて消失し、またこれを可食して消化できるので、義歯を歯茎から外したときに、義歯安定シートを除去することなく、唾液で口内から完全に除去できる特徴もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための義歯安定シートを例示するものであって、本発明は義歯安定シートを以下のものに特定しない。
【0010】
図1は上顎用義歯の義歯安定シート1を示し、図2は下顎用義歯の義歯安定シート1を示す。これ等の図に示す義歯安定シート1は、水溶性の可食性フィルムとしてオブラートで製作される。オブラートの可食性フィルムは、ジャガイモやサツマイモ等の澱粉から製造される。澱粉は、水に溶けず、体内で消化吸収され難い。澱粉は、水に混合して加熱すると、α化して消化吸収されやすい状態となる。義歯安定シートは、以下のようにして、α化された澱粉から製造される。
【0011】
(1) 澱粉と水を混合して煮沸する。澱粉に対する水の混合量は、100重量部の澱粉に対して、100重量部の水を添加する。ただし、澱粉に対する水の添加量は、100重量部の澱粉に対して、50〜300重量部の水を添加して混合することができる。また、この工程で、澱粉に加えて寒天を添加することもできる。寒天の添加量は、例えば100重量部の澱粉に対して、100重量部以下、好ましくは80重量部以下、さらに好ましくは50重量部以下とする。
【0012】
(2) 澱粉に水を添加し、あるいは澱粉と寒天に水を添加して煮沸して糊状になった材料を、ローラーの表面に薄いシート状に付着させる。
(3) ローラーの表面で加熱し、乾燥させてシート状のオブラートとする。
【0013】
以上の工程で製造されるオブラートは、水分率を10〜15重量%と少なくして、澱粉のα化を安定させる。すなわち、オブラートは、α化された澱粉の老化を水分率を小さくして防止する。
【0014】
以上の工程で製造されるオブラートは、図1に示すように、楕円を短径方向に切断した形状に裁断されて、上顎用義歯の義歯安定シートとなる。また、図2に示すように、所定の幅のアーチ状に裁断して、下顎用義歯の義歯安定シートとする。
【0015】
義歯安定シートは、たとえば厚さを10μm以上とし、好ましくは50μm以上とし、さらに好ましくは100μm以上とする。義歯安定シートは、薄すぎると、義歯床の表面に付着するときに破損しやすく、また、義歯床を歯茎に隙間なく密着するのが難しくなる。このことから、義歯安定シートは使用するときに簡単に破損せず、また義歯床を歯茎に隙間なく密着できる厚さとする。ただ、義歯安定シートが厚過ぎると、製造コストが高くなり、また、義歯床の表面に沿って変形する可撓性が少なくなる。このことから、義歯安定シートは、その厚さを、たとえば500μm以下、好ましくは400μm以下、さらに好ましくは300μm以下とする。
【0016】
オブラートの義歯安定シートは、オブラートを製造する工程で、加熱して糊状になった材料をローラーの表面に付着する膜厚で厚さをコントロールできる。ローラーに厚く糊状材料を付着して、オブラートを厚く、すなわち義歯安定シートを厚くできる。反対に、ローラーに付着する糊状材料を薄くして、オブラートを薄くし、義歯安定シートを薄くできる。また、澱粉や寒天に添加する水量をコントロールして、乾燥後におけるオブラートの厚さをコントロールすることもできる。添加する水の量を多くすると、乾燥されるときに薄く収縮する。したがって、水の添加量を多くして、製造される乾燥後のオブラートを薄く、すなわち義歯安定シートを薄くできる。
【0017】
以上の工程で製造される義歯安定シートは、以下のようにして使用される。
(1) 歯茎に密着する義歯床の表面を水で濡らす。
(2) 水で濡れた義歯床の表面に、水溶性の可食性フィルムであるオブラートからなる義歯安定シートを付着させる。
(3) 義歯を口の定位置に入れ、押圧して安定して歯茎に密着するまで噛みしめる。 この状態で、水が補給された水溶性の可食性フィルムからなる義歯安定シートは、ゲル状となり、義歯床と歯茎との隙間に侵入する。この状態で、義歯安定シートは、義歯を歯茎に外れないように密着させる。義歯安定シートは、義歯床を歯茎に接着して付着する必要はなく、義歯床と歯茎とが隙間なく密着して、この間に空気を侵入しなくして、義歯を歯茎に付着させる。口内に入れられた義歯安定シートは唾液によってゲル化して、義歯床を歯茎に隙間なく密着して、外れないように固定する。
【0018】
義歯床と歯茎の間からはみ出した水溶性の可食性フィルムからなる義歯安定シートは、唾液で溶ける。義歯安定シートは、水溶性で可食性のものであるから、これを口から取り出す必要はなく、食べて体内で消失される。このため、義歯床と歯茎の間からはみ出した義歯安定シートを切除する等の方法で除去する必要はない。
【0019】
以上の義歯安定シートは、水溶性の可食性フィルムをオブラートとするが、可食性フィルムには澱粉多糖類のフィルムとすることができる。この澱粉多糖類には、セルロースとすることができる。また、水溶性の可食性フィルムは、澱粉多糖類と澱粉の積層フィルムとすることができる。この義歯安定シートは、澱粉多糖類の両面に澱粉を積層する多層フィルムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例にかかる義歯安定シートの斜視図である。
【図2】本発明の他の実施例にかかる義歯安定シートの斜視図である。
【符号の説明】
【0021】
1…義歯安定シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性の可食性フィルムからなる義歯安定シート。
【請求項2】
水溶性の可食性フィルムが澱粉多糖類のフィルムである請求項1に記載される義歯安定シート。
【請求項3】
澱粉多糖類がセルロースである請求項2に記載される義歯安定シート。
【請求項4】
水溶性の可食性フィルムが澱粉多糖類と澱粉の積層フィルムである請求項1に記載される義歯安定シート。
【請求項5】
水溶性の可食性フィルムがオブラートである請求項1に記載される義歯安定シート。
【請求項6】
オブラートが、α化された澱粉をシート状にしたものである請求項5に記載される義歯安定シート。
【請求項7】
オブラートが、α化された澱粉と寒天の混合物をシート状にしたものである請求項5に記載される義歯安定シート。
【請求項8】
水溶性の可食性フィルムの厚さが10μm〜500μmである請求項1に記載される義歯安定シート。
【請求項9】
楕円を短径方向に切断して形状としてなる上顎用義歯に使用される請求項1に記載される義歯安定シート。
【請求項10】
アーチ状である下顎用義歯に使用される請求項1に記載される義歯安定シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−98057(P2007−98057A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295713(P2005−295713)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(505061986)株式会社デンタス (12)