説明

義歯安定剤

【課題】不快な甘味を感じることなく、義歯を口腔内に装着することができる義歯安定剤を提供する。
【解決手段】義歯安定剤は、水と、エタノールと、セルロース誘導体11〜25%とを含み、セルロース誘導体の25℃における2%粘度が30〜45mPa・sであるものである。セルロース誘導体としては、水溶性のセルロースエーテルであるメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシ化されたアルキルセルロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、カルボキシメチルセルロース、アルカリ金属カルボキシメチルセルロース(カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム等)、アルカリ金属セルロース硫酸塩が例示される。中でもヒドロキシル化されたアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルカリ金属カルボキシメチルセルロースが好ましく、カルボキシメチルセルロースナトリウムがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯床と顎堤の間の隙間に充填して、義歯のガタツキをなくし咀嚼力の低下を改善するために用いられる義歯安定剤に関し、さらに詳しくは、口腔内に義歯を装着した際に甘味による不快感をもたらすことがない水溶性ペースト状義歯安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯安定剤には、主に酢酸ビニル樹脂からなる非水溶性のペースト状義歯安定剤、鉱物油に水溶性高分子を分散させた水溶性のペースト状義歯安定剤、および、水溶性高分子からなる粉末状義歯安定剤がある。
【0003】
非水溶性ペースト状義歯安定剤は義歯と口腔粘膜との間にできた隙間を埋めるもので、粘着性は示さない。一方水溶性のペースト状義歯安定剤は唾液に溶解することで粘着性を示すものの、主剤が鉱物油(主にワセリン類、パラフィン類)であるため、口腔内に油系製剤特有の不快感を呈する。
粉末状義歯安定剤は義歯に塗布する際、粉末が飛び散り、塗布時の操作性が良くない。
【0004】
これらの問題を解決する手段として特許文献1では、水溶性高分子と多価アルコールと水または人工唾液とからなる義歯安定剤が提案され、特許文献2では、水または人工唾液と水溶性高分子とグリセリンとからなる義歯安定剤が提案されている。これらの義歯安定剤は、水溶性ペースト状であってかつ鉱物油を含まないため、油系製剤特有の不快感を呈さないものである。
【特許文献1】特開昭57−99511号公報
【特許文献2】特許第3515761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に提案の義歯安定剤は、義歯安定剤の可塑剤として多価アルコールを含んでおり、これが口腔内で甘味を感じさせるため、口腔内に義歯を装着した際、甘味による不快感をもたらすこととなる。
【0006】
本発明は、この問題を解決すべく工夫されたもので、不快な甘味を感じることなく、義歯を口腔内に装着することができる義歯安定剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、特定のセルロース誘導体と水とエタノールを組み合わせることにより、口腔内に義歯を装着した際に甘味による不快感をもたらすことがなく、適正な塗布のしやすさを有し、義歯を口腔内に安定性よく維持することができる水溶性ペースト状義歯安定剤が得られるという知見を得、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明による義歯安定剤は、水と、エタノールと、セルロース誘導体11〜25%とを含み、セルロース誘導体の25℃における2%粘度が30〜45mPa・sであるものである。
【0009】
特許請求の範囲および明細書全体を通して、%は重量%である。
【0010】
本発明で用いるセルロース誘導体としては、水に溶解もしくはゲル化して粘着性を生じるものが好ましく、例えば水溶性のセルロースエーテルであるメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシ化されたアルキルセルロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、カルボキシメチルセルロース、アルカリ金属カルボキシメチルセルロース(カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム等)、アルカリ金属セルロース硫酸塩が例示される。中でもヒドロキシル化されたアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルカリ金属カルボキシメチルセルロースが好ましく、カルボキシメチルセルロースナトリウムがより好ましい。
【0011】
セルロース誘導体の配合量は11〜25%である。セルロース誘導体の配合量が少な過ぎると、義歯安定剤がペースト状を保ちえず、充分な粘着性を示すことができず、義歯を口腔内に安定性よく維持することができない。セルロース誘導体の配合量が多過ぎると、義歯安定剤が固くなり、チューブ容器から押出しにくく、義歯への塗布が容易にできない。
【0012】
セルロース誘導体の25℃における2%粘度は30〜45mPa・sである。好ましくは、32〜35mPa・sである。セルロース誘導体の25℃における2%粘度が低すぎると、義歯安定剤がペースト状を保ちえず、充分な粘着性を示すことができず、義歯を口腔内に安定性よく維持することができない。セルロース誘導体の25℃における2%粘度が高すぎると、義歯安定剤が固くなり、チューブ容器から押出しにくく、義歯への塗布が容易にできない。セルロース誘導体の25℃における2%粘度が上記範囲にある場合、使用感が良好である上に、チューブ容器からの義歯安定剤の押出しがスムーズになし得る。 セルロース誘導体と水との配合比は、好ましくは1:3以上である。
【0013】
エタノールの配合量は本発明の効果を損なわない範囲で適宜採用できるが、エタノールの配合により、製剤のちょう度を適宜調節することが可能となるので、義歯を口腔内に装着する際に、所望の広がりやすさを有する義歯安定剤とすることができる。エタノールの配合量は、好ましくは10%以下、より好ましくは2.5〜7.5%である。水、エタノール混合系に所定のセルロース誘導体を配合する場合に、水の配合割合を多くすると製剤のちょう度は大きくなるので、より広がりやすいものとすることができ、エタノールの配合割合を多くすると製剤のちょう度は小さくなるので、より広がりにくいものとすることができる。義歯安定剤としてのちょう度は適宜採用できるが、好ましくは35〜70mm、より好ましくは39〜59mmである。一方、エタノールの配合量が10%を超えると、義歯を口腔内に装着した際、エタノールによる刺激を生ずることがある。
【0014】
本発明による義歯安定剤には、水、エタノールおよびセルロース誘導体の外に、義歯安定剤に所望の性状を与えるために可塑剤、乳化剤、粘度調整剤、水不溶性粉体、湿潤剤、防腐剤、金属石けん、溶剤、可溶化剤、安定化剤、消臭剤、機能性成分、清涼剤、香料、着色料、酵素など公知の添加剤を本発明の効果を損なわない限りにおいて、適宜配合してもよい。
【0015】
可塑剤としては、ミツロウ、木ロウ、カルナウバロウ、キャンデリラワックスが例示される。
【0016】
乳化剤としては、グリセリンモノステアレートのようなグリセリンの脂肪酸エステル、ソルビタンモノステアレートのようなソルビタンの脂肪酸エステル、ステアリン酸スクロース、ラウリン酸スクロースのようなショ糖脂肪酸エステルが例示される。
【0017】
水不溶性粉体としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、プラスチックパウダー、タルク、シリカ、ベントナイト、ゼオライト等が例示される。
【0018】
湿潤剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ヒアルロン酸等が例示される。
【0019】
防腐剤としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンが例示される。
【0020】
金属石けんとしては、ステアリン酸カルシウムが例示される。
【0021】
溶剤としては、フェノキシエタノールが例示される。
【0022】
可溶化剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノオレイン酸ポリエチレングリコールのようなポリオキシエチレン脂肪酸エステル、N-ラウロイルサルコシンナトリウムのようなN-アシルアミノ酸塩、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインのようなアルキル(アミド)ベタイン、ポリオキシエチレンラウリルエーテルのようなポリオキシアルキレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドのようなアルキルアルカノールアミド等が例示される。
【0023】
安定化剤としては、酸化チタン、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、乳酸アルミニウム等が例示される。
【0024】
消臭剤としては、銅クロロフィリンナトリウム、コーヒー、緑茶、ブドウ等から抽出されるポリフェノール類等が例示される。
【0025】
機能性成分としては、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸塩、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸塩のような抗炎症剤、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン類、ヒノキチオールのような殺菌剤、抗生物質、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、酢酸トコフェロール等のビタミン類等が例示される。
【0026】
酵素としては、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、溶菌酵素、リゾチーム等が例示される。
【0027】
清涼剤としては、l−メントール、dl−メントール、メントール誘導体、カルボン等が例示される。
【0028】
また、口中での義歯安定剤の唾液への溶解性を低下させ同剤が徐々に溶け出すようにするためにナトリウム/カルシウム・メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体塩を添加することも好ましい。
【0029】
本発明による義歯安定剤を製造するには、例えば、水、エタノールおよびセルロース誘導体を混合し、水にセルロース誘導体を溶解もしくはゲル化させ、水溶性ペーストを得る。
【0030】
本発明による義歯安定剤は、通常は製剤中の成分の揮発や製剤の汚染が防止できるチューブ容器に収められた形態を取り、好ましくはアルミニウム製チューブ、アルミニウム・エポキシフェノール樹脂製多層チューブ、アルミニウム・ポリエチレン製多層チューブ、アルミニウム・ポリエチレン・エポキシフェノール樹脂製多層チューブ等のアルミラミネートチューブに収められた形態を取る。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、口腔内に義歯を装着した際に甘味による不快感をもたらすことがなく、しかも適正な塗布のしやすさを有し、義歯を口腔内に安定性よく維持することができる水溶性ペースト状義歯安定剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げ、さらに得られた義歯安定剤の性能試験結果を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1〜6、比較例1〜7
表1に示す成分を表1に示す重量比で配合し、充分に撹拌し、水にセルロース誘導体を溶解もしくはゲル化させ、水溶性ペースト状の義歯安定剤を得た。
【表1】

【0034】
表1に示す成分について説明をする。
【0035】
セルロース誘導体(1) :カルボキシメチルセルロースナトリウム、25℃における2%粘度17mPa・s
セルロース誘導体(2) :カルボキシメチルセルロースナトリウム、25℃における2%粘度31mPa・s
セルロース誘導体(3) :カルボキシメチルセルロースナトリウム、25℃における2%粘度33.6mPa・s
セルロース誘導体(4) :カルボキシメチルセルロースナトリウム、25℃における2%粘度45mPa・s
セルロース誘導体(5) :カルボキシメチルセルロースナトリウム、25℃における1%粘度2120mPa・s
ナトリウム/カルシウム・メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体塩

評価試験
実施例および比較例で得られた義歯安定剤を、つぎの項目について性能試験した。
【0036】
a)製剤化
成分を撹拌して水溶性ペースト状の義歯安定剤を得る工程が支障なく行えたかどうかを下記の基準で評価した。
【0037】
○:支障なく行えた
△:やや困難を伴った
×:非常に困難であった
b)塗布のしやすさ
得られた義歯安定剤をアクリル板に塗布する工程が容易に行えたかどうかを下記の基準で評価した。
【0038】
○:ちょうど良い硬さで容易に塗布できた
△:柔らかすぎて塗布できなかった
▲:均質に塗布できなかった
×:固すぎて塗布できなかった
c)接着力
得られた義歯安定剤の接着力を、JIS T 6525−1「義歯床安定用こ(糊)材−第1部:粘着型義歯床安定用こ(糊)材」に記載の「6.5粘着強さ試験I」の測定方法に従って測定した。なお、試料ホルダとしては「試料ホルダI」を用いた。
【0039】
d)呈味
得られた義歯安定剤が甘みによる不快感を生じさせるものかどうかを下記の基準で評価した。
【0040】
○:甘みによる不快感を生じさせない
×:甘みによる不快感を生じさせる
e)ちょう度
得られた義歯安定剤のちょう度を、JIS T 6513「歯科用ゴム質弾性印象材」に記載の「5.4ちょう度試験」の方法に従って測定した。
【0041】
評価試験の結果も表1に示した。
【0042】
表1から明らかなように、本発明による義歯安定剤は、口腔内に義歯を装着した際に甘味による不快感をもたらすことがなく、しかも適正な塗布のしやすさを有し、義歯を口腔内に安定性よく維持することができる水溶性ペースト状製剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、エタノールと、セルロース誘導体11〜25%とを含み、セルロース誘導体の25℃における2%粘度が30〜45mPa・sである義歯安定剤。
【請求項2】
水と、エタノール0.1〜10%と、セルロース誘導体11〜25%とを含み、セルロース誘導体の25℃における2%粘度が30〜45mPa・sである義歯安定剤。
【請求項3】
セルロース誘導体がカルボキシメチルセルロースナトリウムである請求項1又は2に記載の義歯安定剤。

【公開番号】特開2007−97718(P2007−97718A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289260(P2005−289260)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)