説明

義歯安定用シートおよびその粉末組成物

【課題】横滑りしたり義歯と口腔粘膜の間から滑り出る恐れがない義歯安定シートを提供する。
【解決手段】義歯床の形状に合致した形状を有する一対の布帛の間に保持される粉末組成物であって、20℃における1重量%水溶液の粘度が320〜380mPa・sのアルギン酸ナトリウムと950〜1100mPa・sのアルギン酸ナトリウムを0:1〜1:1、好ましくは1:4〜1:1の重量割合で含む義歯安定用の粉末組成物。重量割合が0:1〜1:1の範囲を逸脱すると、接着強さと滑り抵抗力のバランスが悪く、高い接着強さと大きな滑り抵抗力を共に備えた義歯安定用シートが得られない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯床を顎堤、特に歯茎や口蓋などの義歯との接触面に安定して装着させて義歯のガタツキをなくし咀嚼力の低下を改善するために用いられる義歯安定用シートに関し、さらに詳しくは、高い粘着強さと大きな滑り抵抗力を共に備えた義歯安定用シートに関する。
【0002】
本発明はまた、上記義歯安定用シートを構成する義歯安定用の粉末組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
義歯安定剤としては、従来、パウダータイプ、ペーストタイプ、クリームタイプ、ガムベースのクッションタイプ、シートタイプ等の義歯安定剤が知られているが、シートタイプすなわち義歯安定用シートは、使用法が比較的簡便であるので、短時間で義歯を装着することが可能になる上に、比較的容易に義歯を洗浄することができるため、好適に使用されている。
【0004】
義歯安定用シートは、一般に、一対の綿不織布の間に義歯安定用の粉末組成物が保持され、粉末組成物は、一対の綿不織布の間に介在された樹脂層によって綿不織布間に保持されている。
【0005】
従来、この粉末組成物としては、粘着剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレンオキシド(分子量約400万)、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール又はこれらの混合物、pH調整剤としてのリン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等を含むものが知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−000453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カルボキシメチルセルロースナトリウムとポリエチレンオキシドの組み合わせを含む粉末組成物を用いて作製した義歯安定用シートは、粘着強さが低いため義歯を口中に安定的に保持する力が小さい上に、横方向への滑り抵抗力が低いため義歯を口中に固定した際に同シートが横滑りしたり義歯と口腔粘膜の間から滑り出てしまうという問題がある。20℃における1重量%水溶液の粘度が950〜1100mPa・sのアルギン酸ナトリウムを細粒化したものを含む粉末組成物を用いて作製した義歯安定用シートは、粘着強さおよび滑り抵抗力の点では問題ないが、製品の製造中に細粒化物が綿不織布の隙間からこぼれ出てしまい、製品として成り立たない。粘度が320〜380mPa・sのみのアルギン酸ナトリウム含む粉末組成物を用いて作製した義歯安定用シートは、粘着強さは高いが、滑り抵抗力が低いため上述のように義歯を口中に固定した際に義歯安定用シートが横滑りしたり義歯と口腔粘膜の間から滑り出てしまう。
【0007】
本発明は、このような問題を解消することができる義歯安定用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、義歯床の形状に合致した形状を有する一対の布帛の間に保持される粉末組成物であって、20℃における1重量%水溶液の粘度が320〜380mPa・sのアルギン酸ナトリウムと950〜1100mPa・sのアルギン酸ナトリウムを0:1〜1:1、好ましくは1:4〜1:1の重量割合で含む義歯安定用の粉末組成物である。重量割合が0:1〜1:1の範囲を逸脱すると、接着強さと滑り抵抗力のバランスが悪く、高い接着強さと大きな滑り抵抗力を共に備えた義歯安定用シートが得られない。
【0009】
特許請求の範囲および明細書全体を通して、低粘度のアルギン酸ナトリウムとは20℃における1重量%水溶液の粘度が320〜380mPa・sのアルギン酸ナトリウムをいい、高粘度のアルギン酸ナトリウムとは同様の粘度が950〜1100mPa・sのアルギン酸ナトリウムをいう。また粘度の測定は、例えばブルックフィールド粘度計を用いて測定する。
【0010】
請求項2に係る発明は、アルギン酸ナトリウムを粉末組成物の全体重量中50〜100重量%、好ましくは50〜70重量%を含む請求項1記載の義歯安定用の粉末組成物である。アルギン酸ナトリウムの含有量が50重量%未満であると、高い接着強さと大きな滑り抵抗力を共に備えた義歯安定用シートが得られない。
【0011】
請求項3に係る発明は、義歯床の形状に合致した形状を有する一対の布帛の間に請求項1記載の義歯安定用の粉末組成物が保持されてなる義歯安定用シートである。一対の布帛のうち少なくとも顎堤に接触する側の布帛が綿不織布からなることが好ましい。
【0012】
請求項4に係る発明は、一対の布帛の間に樹脂層が介在され一対の布帛の少なくとも一部が接合されている請求項3記載の義歯安定用シートである。一対の布帛の接合は、樹脂層の融着によって分散状に行うことが好ましい。一対の布帛の接合は、ニードルパンチによって行ってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明による義歯安定用シートは、粘着強さが高くて、義歯を口中に安定的に保持することができ、しかも、滑り抵抗力が高いため、義歯を口中に固定した際に同シートが横滑りしたり義歯と口腔粘膜の間から滑り出る恐れがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による義歯安定用シートの層構造の一例を図1に示す。義歯安定用シート(16)は、下側の綿不織布(11)と、その上に形成された義歯安定用の粉末組成物からなる粉末堆積層(12)と、その上に重ね合わされた熱融着用の樹脂層(13)と、さらにその上に形成された義歯安定用の粉末組成物からなる粉末堆積層(14)と、その上に重ね合わされた上側の綿
不織布(15)とからなり、上下綿不織布(15)(11)は熱溶融した樹脂層(13)によって接合され、これにより上下綿不織布(15)(11)間に粉末組成物が保持されている。樹脂層(13)の熱融着は、分散的な接合部(17)においてなされている。
【0015】
義歯安定用シート(16)の作製は、例えば、つぎのように行うことができる。
【0016】
下側の綿不織布(11)の上に義歯安定用の粉末組成物を堆積させ、得られた粉末堆積層(12)の上に熱融着用の樹脂層(13)を形成するための有機高分子製の布帛を重ね合わせ、さらに、その上に再度義歯安定用の粉末組成物を堆積させ、得られた粉末堆積層(14)の上に上側の綿不織布(15)を重ね合わせる。こうして得られた多層体をローラで挟んで加熱圧縮し、得られた最終生成物を適切な形状に切断する。こうして、多層構造を有する義歯安定用シート(16)を作製する。
【0017】
義歯安定用シート(16)には下顎用シートと上顎用シートがあり、必要に応じてそのいずれか一方又は双方が使用される。各シートの形状は、それぞれ下顎用義歯及び上顎用義歯の義歯床の義歯付着面の形状に対応しており、これらに適切に貼り付けることができる。
【0018】
この義歯安定用シートにおいては、上下綿不織布(15)(11)は有機高分子製の布帛から形成された樹脂層(13)の熱融着によって接合され、これら綿不織布間に粉末組成物が保持される。樹脂層(13)の熱融着による上下綿不織布(15)(11)の接合は、全面的又は分散的(散点状、格子状など)のいずれの形態でなされてもよい。また上下綿不織布はナイロン、ポリエステル等の高分子を複合し、破れにくいように強度を上げたものを用いてもよい。
【0019】
熱融着用の樹脂層(13)を形成するための有機高分子製の布帛としては、口中での使用が安全である限り、比較的低温で溶融する種々の材料が使用され得る。布帛の代表例としては、ポリプロピレン・ポリエチレン複合不織布、ポリプロピレン布帛、ポリエチレン布帛、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル或いはその複合体からなる布帛が挙げられる。
【0020】
樹脂層(13)は、ポリプロピレン・ポリエチレン複合不織布などの布帛を上下綿不織布(15)(11)の間に粉末組成物と共に介在させ、これを圧締しつつ加熱し、布帛を溶融させることによって形成される。この加熱圧締をエンボス加工を伴って布帛面に対して分散状に行えば、義歯安定用シート(16)全体に柔軟性を維持することが出来る。樹脂層の熱融着による接合部(17)の分散形態としては、点状、線状又はこれらの複合状態が挙げられる。ただし、樹脂層の全面を溶着することも可能である。樹脂層(13)の厚さは好ましくは約0.02mmである。
【0021】
なお、熱融着用の樹脂層を用いず、ニードルパンチにより上下綿不織布を物理的に接合することも可能である。
【0022】
上下綿不織布(15)(11)は、粉末組成物を保持するための保持体として機能し、熱溶融された樹脂層(13)によって互いに接合されている。上下綿不織布(15)(11)は、内側に保持された粉末組成物が綿不織布の目を通り抜けて外部にこぼれないように、約20g/m以上の目付を有することが望ましい。綿不織布の厚さは、約0.1mm〜約1mmであるこ
とが好ましい。
【0023】
義歯安定用の粉末組成物は、20℃における1重量%水溶液の粘度が320〜380mPa・sのアルギン酸ナトリウムと950〜1100mPa・sのアルギン酸ナトリウムを0:1〜1:1の重量割合で含まれる。また、全アルギン酸ナトリウムは粉末組成物中50〜100重量%含まれる。
【0024】
粉末組成物には、他に例えば、粘着剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム及びポリエチレンオキシド(分子量約400万)、pH調整剤としてのリン酸ナトリウムが含まれる。このような粉末組成物30は、乾燥状態において粉末状であり、湿潤状態において粘着性を呈する。なお、粘着剤としては、上述のカルメロースナトリウム及びポリエチレンオキシドの他、ポリビニルアルコール又はこれらの混合物などが使用され得る。また、pH調節剤としては、リン酸ナトリウムの他にも、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等を用いることができる。これらのpH調節剤は、薬剤を中性に保つことを確実にするので、薬剤が口腔粘膜を損傷する可能性を低下させることができる。
【0025】
粉末堆積層(14)(12)の重量は好ましくは25g/m、厚さは好ましくは約0.1mmである。
【0026】
つぎに、本発明による義歯安定用シートの使用方法を説明する。
【0027】
まず、義歯安定用シートを温水又は水に浸し、良く洗浄した義歯の義歯床上に湿潤状態の義歯安定用シートを貼り付ける。義歯安定用シートは、義歯床の形状に合わせてしわを伸ばし、義歯床をはみ出る余分な部分があれば、はさみ等でこの部分を予め切り落としておくことが望ましい。
【0028】
義歯安定用シートは、両表面が綿不織布で構成されているので、吸水性及び保水性が高く、上下綿不織布の内側に保持された義歯安定用粉末組成物が迅速に溶解する。また、吸水性が高いので、水分を含むことにより得られる綿不織布自体の付着性も迅速に高まる。従って、本発明による義歯安定用シートは、シートを温水又は水に浸した後、比較的短時間で粘着性を発揮する。さらに、綿不織布は、湿潤状態での引張り伸度が比較的高いので、義歯床の形状に合わせて適切に貼り付けやすい。
【0029】
このようにして義歯床上に義歯安定用シートを適切に貼り付けた後、義歯を顎堤(歯茎や口蓋など)に嵌め、これを固定するまで噛み締める。
【0030】
綿不織布は、湿潤状態での柔らかさが良好であり、ざらつき感が低いので、顎堤と接触しても不快感を与えにくく、良好な装着感を提供する。また、水分を含んだ綿不織布は膨張して、義歯と顎堤との間にクッション効果を提供するので、義歯の装着感がさらに良好になる。このように綿不織布を用いた場合には、疎水性の化学繊維などを用いた場合と異なり、綿繊維自体が水分を吸収して膨潤し、これにより繊維自体の柔軟性も高まるので、より良好な装着感が得られる。
【0031】
上記義歯安定用シートは、上下一対の綿不織布を用いて構成されているが、顎堤と接触する片側面のみに綿不織布を用い、義歯床と接触する反対側面には、綿以外の材料からなる不織布又は織布を用いる構成としてもよい。この綿以外の布帛としては、種々の合成繊維又は天然繊維を材料とする布帛が使用され得、口中で使用した場合に安全性が保証されるものであれば、任意の布帛を用いることができる。
【0032】
上記実施形態の義歯安定用シートの構造とは異なり、下側綿不織布を設けない構造とすることも可能である。この場合には、上側綿不織布に分散状又は全面的に溶着された樹脂層を義歯床側に接触させ、上側綿不織布を顎堤側に接触させるように義歯安定用シートを使用すれば、上述したような良好な装着感を得ることができる。
【0033】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げる。
【0034】
<粉末組成物の調製>
実施例1〜5、比較例1〜8
表1に示す割合で成分を配合し、義歯安定用の粉末組成物を調製した。
【0035】
<シートの作製>
作製例1
図1において、綿不織布(11)の上に義歯安定用の粉末組成物を25g/mとなるように均一に堆積させ、得られた粉末堆積層(12)の上に熱融着用の樹脂層(13)を重ね合わせ、さらに、その上に再度粉末組成物を25g/mとなるように均一に堆積させ、得られた粉末堆積層(14)の上に厚さ上部綿不織布(15)を重ね合わせた。こうして得られた多層体をローラで挟んで加熱圧縮し、多層構造を有する義歯安定用シート(16)を作製した。上下綿不織布の厚さは約0.15mm、上下粉末堆積層の厚さは約0.1mm、樹脂層の厚さは約0.02mmである。樹脂層(13)はポリプロピレン・ポリエチレン複合不織布からなる。義歯安定用の粉末組成物は表1に示す組成からなる。
【0036】
義歯安定用シート(16)において、上下綿不織布(11)(15)は樹脂層の熱融着によって接合され、これら綿不織布間に粉末組成物が保持されている。樹脂層の熱融着による上下綿不織布の接合は、分散的な接合部(17)においてなされている。
【0037】
作製例2
熱融着用の樹脂層を用いず、ニードルパンチにより上下の綿不織布を接合した以外、作製例1と同様の操作で義歯安定用シートを作製した。
【0038】
<性能評価試験>
i)粘着強さ試験は、下記のように行う。
【0039】
a)試験装置
図2に示す試験装置を用いる。図中、(1) は試験台、(2) は試料ホルダーで、直径22mm、高さ5.0mmの凸部(5) を有するメタクリル樹脂板(JIS K 6718−2)からなる。(3) は感圧軸で、底面直径20mmのメタクリル樹脂板(JIS K 6718−2)からなる。(4) は荷重検出部である。別に恒温水槽と、試薬として純水、蒸留水若しくはイオン交換水又はこれらに準ずるものを用意する。
【0040】
b)試験操作
1)実施例および比較例で調製した粉末組成物を用いて作製例1の方法で作製した義歯安定用シートを25mm×25mmになるようにカットし、試料(S) を作製する。得られた試料(S) を温度37±2℃に維持された恒温水槽の水中に5秒間浸漬した後、取り出して1回振り試料表面の水を除く。
【0041】
2)直ちに試料(S) を試料ホルダ(2) の凸部(5) の全表面を均一に覆うように置き、試料(S) の中心に荷重が掛かるように試料ホルダ(2) を試料台(1) 上に固定する。
【0042】
3)試料(S) を感圧軸(3) の下降によって圧着速度5mm/分、9.8Nの荷重で圧着し、その状態を30秒間保持した後、感圧軸(3) を引張り速度5mm/分で上昇させて試料(S) を反圧着方向に引張る。このとき、感圧軸(3) に掛かる最大力を測定し、粘着強さとする。
【0043】
上記操作を5回行い、その平均値を求める。
【0044】
ii)滑り抵抗力試験は下記のように行う。
【0045】
義歯安定用シートを30mm×40mmにカットして試料を作製する。得られた試料を温度37±2℃の水に5秒間浸漬する。下部アクリル板上に試料を30mm×30mmの部分だけ載せ、さらにその上から上部アクリル板を載せる(試料の30mm×10mmの部分は上下アクリル板からはみ出ている)。上部アクリル板の上に500gの重りを1分間載せる。レオメーター(サン科学社製)の冶具で試料のはみ出し部分を固定し、引張速度60mm/minで一対のアクリル板間から試料を引き抜き、そのときの最大負荷値を測定し、滑り抵抗力とする。
【0046】
上記操作を5回行い、その平均値を求める。
【0047】
iii) 粉末組成物の漏出については、製品の製造中に粉末組成物が綿不織布の隙間からこぼれ出るか否かを目視観察で調べる。
【0048】
試験結果を表1に示す。
【表1】

【0049】
表1中、
CMCNa 041018:第一工業製薬社製のカルボキシメチルセルロースナトリウム(エーテル化度1.43、1重量%水溶液の粘度890mPa・s)
CMCNa 041019:第一工業製薬社製のカルボキシメチルセルロースナトリウム(エーテル化度0.83、1重量%水溶液の粘度2700mPa・s)
CMCNa 041032:第一工業製薬社製のカルボキシメチルセルロースナトリウム(エーテル化度0.71、1重量%水溶液の粘度8500mPa・s)
アルギン酸Na I−3:キミカ社製のアルギン酸ナトリウム(1重量%水溶液の粘度350mPa・s、低粘度)
アルギン酸Na I−S:キミカ社製のアルギン酸ナトリウム(1重量%水溶液の粘度1025mPa・s、高粘度)
アルギン酸Na I−5:キミカ社製のアルギン酸ナトリウム(1重量%水溶液の粘度550mPa・s、中粘度)
アルギン酸Na I−S−150:キミカ社製のアルギン酸ナトリウム(アルギン酸Na I−Sの細粒化物(150メッシュパス95.0%以上)
表1から明らかなように、カルボキシメチルセルロースナトリウムとポリエチレンオキサイドの組み合わせを含む比較例1、3の粉末組成物を用いて作製した義歯安定用シートは、粘着強さが低く、そのため義歯を口中に安定的に保持する力が小さい上に、滑り抵抗力が低く、そのため義歯を口中に固定した際に同シートが横滑りしたり義歯と口腔粘膜の間から滑り出てしまう。
【0050】
高粘度アルギン酸ナトリウムを細粒化したものを含む比較例2の粉末組成物を用いて作製した義歯安定用シートは、粘着強さおよび滑り抵抗力の点では問題ないが、製品の製造中に細粒化物が綿不織布の隙間からこぼれ出てしまい、製品として成り立たない。
【0051】
低粘度または中粘度アルギン酸ナトリウムを含む比較例4、5の粉末組成物を用いて作製した義歯安定用シートは、粘着強さは高いが、滑り抵抗力が低いため上述のように義歯を口中に固定した際に義歯安定用シートが横滑りしたり義歯と口腔粘膜の間から滑り出てしまう。
【0052】
低粘度アルギン酸ナトリウムの重量割合が全体アルギン酸ナトリウム中80重量%である比較例6の粉末組成物を用いて作製した義歯安定用シートも、同様に粘着強さは高いが、十分な滑り抵抗力が得られない。
【0053】
粉末組成物の全体重量中のアルギン酸ナトリウムの重量割合が10重量%もしくは30重量%である比較例7、8の粉末組成物を用いて作製した義歯安定用シートは、十分な粘着強さと滑り抵抗力が得られない。
【0054】
これに対し、実施例1〜5の粉末組成物を用いて作製した義歯安定用シートは、粘着強さが高くて、義歯を口中に安定的に保持することができ、しかも、滑り抵抗力が高いため、義歯を口中に固定した際に同シートが横滑りしたり義歯と口腔粘膜の間から滑り出る恐れがない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】義歯安定用シートを示す断面図である。
【図2】粘着強さ試験の試験装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
(11):下側の綿不織布
(12)(14):義歯安定用の粉末組成物からなる粉末堆積層
(13):熱融着用の樹脂層
(15):上側の綿不織布
(16):義歯安定用シート
(17):接合部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯床の形状に合致した形状を有する一対の布帛の間に保持される粉末組成物であって、20℃における1重量%水溶液の粘度が320〜380mPa・sのアルギン酸ナトリウムと950〜1100mPa・sのアルギン酸ナトリウムを0:1〜1:1の重量割合で含む義歯安定用の粉末組成物。
【請求項2】
アルギン酸ナトリウムを50〜100重量%含む請求項1記載の義歯安定用の粉末組成物。
【請求項3】
義歯床の形状に合致した形状を有する一対の布帛の間に請求項1または2記載の義歯安定用の粉末組成物が保持されてなる義歯安定用シート。
【請求項4】
一対の布帛の間に樹脂層が介在され一対の布帛の少なくとも一部が接合されている請求項3記載の義歯安定用シート。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−280672(P2006−280672A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105433(P2005−105433)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)