説明

耐加水分解性ポリエステル樹脂

【課題】 ポリエステル素材に対して接着力があり、優れた耐加水分解性を保持し、生産性に優れた共重合ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】全カルボン酸成分中に炭素数15以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸を5〜20モル%含むことを特徴とする耐加水分解性ポリエステル樹脂。カルボン酸としては、ジカルボン酸のほか必要に応じてヒドロキシカルボン酸を用いることができる。また、85℃、85%RH状態に1000時間放置した後の相対粘度保持率が75%以上である前記ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル素材への接着性、耐加水分解性能に優れた共重合ポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル基材用の接着剤としては、一般に、該ポリエステルの構成成分と類似した共重合ポリエステルが好適であるが、ポリエステル樹脂は本質的に加水分解しやすく、高温高湿条件で使用する場合はしばしば問題になっている。
【0003】
耐加水分解性を付与する方法として、特許文献1や特許文献2ではジカルボン酸としてダイマー酸を共重合している。
【0004】
【特許文献1】特開2002−47471号公報
【特許文献2】特開2003−183365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ダイマー酸は、耐加水分解性を改良することができる反面、接着強度が必ずしも優れたものとはいえず、また、このモノマーは常温での粘度が高く重合釜に投入しにくいなどの問題があった。本発明の課題は、ポリエステルの耐加水分解性を保持しつつ、接着性を高め、同時に生産性に優れるポリエステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するため鋭意研究した結果、モノマー成分として、特定の脂肪族ジカルボン酸を使用することにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)全カルボン酸成分中に炭素数15以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸を5〜20モル%含むことを特徴とする耐加水分解性ポリエステル樹脂。
(2)85℃、85%RH状態に1000時間放置した後の相対粘度保持率が75%以上である(1)記載のポリエステル樹脂。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリエステル素材に対して10N/20mm以上の十分な接着力と、85℃、85%RH、1000時間放置した後の相対粘度保持率が75%以上のハイレベルな耐加水解性能を保持するポリエステル樹脂が提供され、産業上の利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明でいうポリエステル樹脂とは、主としてジカルボン酸(A)成分とグリコール(B)成分の等モル量から構成され、必要に応じてヒドロキシカルボン酸(C)成分などが共重合されたものである。
【0011】
ジカルボン酸成分(A)としては、耐加水分解性の点から、炭素数15以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸を使用する必要がある。炭素数の上限は特になく、大きいほど耐加水分解性は良好となるが、22以下が通常入手可能な範囲である。炭素数15以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸は常温で固体であり、原料として粉末状で重合装置に投入できる。従来使用されていたダイマー酸は常温で粘稠な液体であるため、減粘のための加温式投入設備を必要としていたのに比べ、本発明では特別な設備を必要とせず、生産設備を簡略化することができる。
【0012】
直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸として、ペンタデカン二酸(炭素数15)、ヘキサデカン二酸(同16)、オクタデカン二酸(同18)、エイコサン二酸(同20)などが市販されており、それぞれCognis社製製品名EMEROX115、同社製EMEROX116、同社製EMEROX118、岡村製油社製製品名SL20として容易に入手することができる。
【0013】
炭素数15以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸成分の割合は、全カルボン酸成分中、5モル%〜20モル%にすることが好ましく、5モル%〜13モル%にすることがさらに好ましい。5モル%よりも小さいと耐加水分解性能が不十分になり、20モル%よりも大きいとポリエステル素材に対する接着性能が不良になるので好ましくない。なお、「全カルボン酸成分」とは、本発明のポリエステルの構成成分とすることのできるジカルボン酸(A)成分、ヒドロキシカルボン酸(C)成分、モノカルボン酸成分、3価以上のカルボン酸成分などの総和を意味する。
【0014】
(A)成分を構成する他のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ジカルボキシビフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸の脂環族ジカルボン等を例示できる。これらは無水物であってもよい。
【0015】
前記のジカルボン酸成分の中では、芳香族ジカルボン酸が好ましく、中でも汎用性があるテレフタル酸とイソフタル酸が好ましい。
【0016】
(B)成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、ビスフェノールAP、4,4′−ビフェノールのエチレンオキサイド付加体またはプロピレンオキサイド付加体、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、中でも、汎用性があるエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールが好ましい。
【0017】
本発明のポリエステルには、適度な柔軟性、接着性の向上、ガラス転移温度の調整などの目的に応じて、ヒドロキシカルボン酸(C)を用いることができる。(C)成分は全カルボン酸成分の0〜50モル%とすることが好ましく、10〜40モル%にすることがより好ましく、20〜40モル%にすることがさらに好ましい。(C)成分の割合が50モル%よりも高いと、ポリエステル素材に対する接着力が小さくなり、耐加水分解性能も低下する傾向にある。
【0018】
(C)成分としては、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、o−ヒドロキシ安息香酸、乳酸、オキシラン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられ、これらの中でも、汎用性があるε−カプロラクトンが好ましい。
【0019】
少量であれば、3官能以上のカルボン酸成分やアルコール成分を共重合成分として添加してもよい。
【0020】
3官能以上のカルボン酸成分としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水べンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸等の芳香族カルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族カルボン酸が挙げられる。
【0021】
3官能以上のアルコール成分としては、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコース、マニトール、ソルビトールが挙げられる。
【0022】
これらは必ずしも1種類で用いる必要はなく、樹脂に対し付与したい特性に応じて複数種以上混合して用いることが可能である。このとき、3官能以上のモノマーの割合としては、全カルボン酸成分または全アルコール成分に対して0.2〜5モル%程度が適当である。0.2モル%未満では添加した効果が発現せず、5モル%を超える量を含有せしめた場合には、重合の際、ゲル化点を超えゲル化が問題になる場合がある。
【0023】
また、ポリエステル樹脂には、モノカルボン酸、モノアルコールが共重合されていてもよい。モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸等、モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0024】
ポリエステル樹脂は前記のモノマーを組み合わせて、公知の方法により重縮合させることにより製造することができ、例えば、全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下で180〜250℃、2.5〜10時間程度反応させてエステル化反応をおこない、引き続いて、130Pa以下の減圧下に220〜280℃の温度で所望の分子量に達するまで重縮合反応を進めてポリエステル樹脂を得る方法等を挙げることができる。
【0025】
エステル化反応および重縮合反応の際には、必要に応じて、テトラブチルチタネ−トなどの有機チタン酸化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機錫化合物を用いて重合をおこなう。その際の触媒使用量は、生成する樹脂質量に対し、1.0質量%以下で用いるのが好ましい。
【0026】
また、ポリエステル樹脂に所望の酸価や水酸基価を付与する場合には、前記の重縮合反応に引き続き、多塩基酸成分や多価グリコール成分をさらに添加し、不活性雰囲気下、解重合を行うことができる。
【0027】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は85℃、85%RHに1000時間放置して際、相対粘度保持率が75%以上であることが好ましい。上記の条件で相対粘度保持率が75%以下であると十分な耐加水分解性能を得ることができない。
【0028】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量は4,000以上とすることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、12,000以上であることがさらに好ましく、15,000以上であることが特に好ましい。数平均分子量が4,000未満では、ポリエステル素材に対して十分な接着力を得ることができないので好ましくない。
【0029】
また、共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度(以下、Tgとする)は、特に限定されないが、ポリエステルに対する接着性の面から−40〜40℃が好ましく、−10〜10℃が最も好ましい。
【0030】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂には、必要に応じて硬化剤、各種添加剤、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料、染料、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、セルロース誘導体等を配合することができる。
【0031】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂には、必要に応じて、顔料分散剤、紫外線吸収剤、離型剤、顔料分散剤、滑剤等の添加剤を配合することができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
(1)共重合ポリエステル樹脂の構成
1H−NMR分析(バリアン社製,300MHz)より求めた。
(2)共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量
数平均分子量は、GPC分析(島津製作所製の送液ユニットLC−10ADvp型及び紫外−可視分光光度計SPD−6AV型を使用、検出波長:254nm、溶媒:クロロホルム、ポリスチレン換算)により求めた。
(3)共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度
共重合ポリエステル10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求め、これをガラス転移温度(Tg)とした。
(4)相対粘度
共重合ポリエステル樹脂100mgをフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=5/5(質量比)の混合溶媒20mlに溶解し、ウベローデ型自動粘度計を用いて20±0.01℃の温度にて試料溶液および溶媒それぞれの流下時間を測定し、(試料溶液の流下時間/溶媒の流下時間)にて相対粘度を算出した。
(5)相対粘度保持率
テフロン(登録商標)製シート上に各樹脂(シート状またはペレット状)を置き、85℃、85%RHの条件で1000時間放置し、(1000時間放置後の相対粘度/放置前の相対粘度)×100(%)により相対粘度保持率を計算した。実用上、75%以上の値であれば合格値である。
(6)接着強度
卓上型コーティング装置(安田精機製、フィルムアプリケータNo.542−AB型、バーコータ装着)を用いて、ポリエステルフィルム(厚さ40μm、ユニチカ社製)に樹脂液をコーティングした。100℃に設定されたオーブン中で1分間加熱することにより、基材上に厚み約10μmの樹脂被膜を形成させた。続いて、コーティングしたポリエステルフィルムを2枚用意し、塗布面同士を仮接着後、85℃に設定したホットプレスで1分間圧着し、20mm幅に切断したサンプルを作製した。その後、インテスコ社製精密万能材料試験機2020型を用いて温度20℃湿度50%の雰囲気下で、引張速度50mm/minの接着強力を測定した。10N/20mm以上を合格とした。
【0033】
実施例1
テレフタル酸490g(29.5モル部)、イソフタル酸490g(29.5モル部)、オクタデカン二酸(Cognis社製、製品名EMEROX118)350g(11モル部)、ε−カプロラクトン342g(30モル部)、エチレングリコール335g(54モル部)、ネオペンチルグリコール531g(51モル部)、イルガノックス1010 2gからなる混合物を、攪拌しながら、オートクレーブ中で240℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで、260℃に昇温し、触媒として酢酸亜鉛1.3gを投入し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとし、重縮合反応をおこなった。4時間後、系を窒素ガスで加圧状態にしてシート状に樹脂を払い出し表2の共重合ポリエステルを得た。このポリエステルの数平均分子量は25000、ガラス転移点は0℃、相対粘度保持率は80%、接着強度は14N/20mmであった。仕込み組成と製造条件をホ表1に、結果を表2に示す。
【0034】
実施例2〜5、比較例1〜7
使用するモノマーとそのモル比、重合触媒、重合温度を表1のようにし、実施例1と同様の操作をおこなって、表2の共重合ポリエステルを得た。ただし、比較例1では、樹脂をペレット状に払い出した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

実施例1〜5においては、いずれも相対粘度保持率を75%以上有し耐加水分解性に優れ、十分な接着強度も有していた。
【0037】
これに対して、各比較例では次のような問題があった。
【0038】
比較例1では、炭素数15以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸成分を使用しなかったため、耐加水分解性に劣っていた。
【0039】
比較例2では、炭素数15以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸成分の割合が本発明で規定する上限を超えていたため、接着強度が不十分であった。
【0040】
比較例3では、炭素数15以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸成分の割合が本発明で規定する下限を下回っていたため、耐加水分解性に劣っていた。
【0041】
比較例4、5では、炭素数15以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸成分を用いなかったため、耐加水分解性が不十分であった。
【0042】
比較例6では、(C)成分であるヒドロキシカルボン酸の量が本発明で規定する上限を超えていたため、接着強度が低く、また、耐加水分解性にも劣っていた。
【0043】
比較例7では、炭素数15以上の直鎖状脂肪族ジカルボン酸に代えてダイマー酸を使用していたため、接着強度に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全カルボン酸成分中に炭素数15以上の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸を5〜20モル%含むことを特徴とする耐加水分解性ポリエステル樹脂。
【請求項2】
85℃、85%RH状態に1000時間放置した後の相対粘度保持率が75%以上である請求項1記載のポリエステル樹脂。

【公開番号】特開2006−63184(P2006−63184A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246893(P2004−246893)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】