耐変色性が改善された繊維、及びそれで構成されてなる繊維成形体
【課題】耐変色性が極めて優れており、かつ高い吸液性及び高い耐久親水性を持った繊維及び繊維成形体、とりわけ不織布を提供する。
【解決手段】少なくとも1種の熱可塑性樹脂を主体とする繊維であって、下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む繊維処理剤が付着している繊維であり、該繊維処理剤の有効成分基準で、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各々の構成比率が3質量%以上で10質量%未満であり、成分(D)の構成比率が40〜60質量%であり、成分(A)の構成比率(質量%)と成分(C)の構成比率(質量%)とが成分(C)≦成分(A)を満たすことを特徴とする繊維。
成分(A):アルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩
成分(B):トリアルキルグリシン誘導体
成分(C):ヒドロキシカルボン酸
成分(D):アルキル基の炭素数が10〜14のアルキルホスフェート金属塩
【解決手段】少なくとも1種の熱可塑性樹脂を主体とする繊維であって、下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む繊維処理剤が付着している繊維であり、該繊維処理剤の有効成分基準で、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各々の構成比率が3質量%以上で10質量%未満であり、成分(D)の構成比率が40〜60質量%であり、成分(A)の構成比率(質量%)と成分(C)の構成比率(質量%)とが成分(C)≦成分(A)を満たすことを特徴とする繊維。
成分(A):アルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩
成分(B):トリアルキルグリシン誘導体
成分(C):ヒドロキシカルボン酸
成分(D):アルキル基の炭素数が10〜14のアルキルホスフェート金属塩
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐変色性と吸液性に優れた繊維に関する。また、本発明は、耐変色性と吸液性に優れた繊維を用いた繊維成形体、例えば不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
熱融着による成形ができる熱融着性繊維は、熱風や加熱ロール等の熱エネルギーを利用して、安全性が高く風合いの良好な不織布を得ることが容易であることから、おむつ、ナプキン、吸収パッド等の衛生材料、或いは生活用品やフィルター等の産業資材等に広く用いられている。特に衛生材料に用いられる場合は、尿、経血等の液体を素早くかつ繰り返し吸収する必要性から、高い吸液性が求められている。
一方、これらの方法によって得られる熱融着性繊維には、ラジカル発生による劣化防止を目的としてジブチルヒドロキシトルエンなどの酸化防止剤が添加・含有されており、日光の当たる場所や蛍光灯直下等に長期間保管しておくと変色を起こしやすく、製品の品位を損なうといったトラブルが度々発生している。
そこで、繊維表面に付着させる繊維処理剤にヒドロキシカルボン酸を加えることで耐変色性を改善する提案がある(例えば特許文献1)。また、繊維処理剤にアルキル燐酸アンモニウムを用いることで繊維製造時や保管中に発生する黄変現象を防止しようとする提案がある(例えば特許文献2)。
一方、所定の成分を含む繊維処理剤を用いて不織布などの繰り返し透水性を高めることが提案されている(例えば特許文献3、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4381579号明細書
【特許文献2】特開2001−140168号公報
【特許文献3】特開2002−161477号公報
【特許文献4】特開2003−239172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術により繊維の耐変色性を改善する提案があるものの、ヒドロキシカルボン酸は親水性付与としての機能が低いため、繊維の吸液性を阻害してしまう恐れがある。また、アルキル燐酸アンモニウムは耐久親水性付与としての機能が低く、高い耐久親水性を得るのは難しいという問題がある。
ここで、吸液性とは、パルプシートなどの吸収層の上に、不織布といった繊維成形体を配置した状態で、該不織布などの側から尿や経血などの液体を接触(滴下など)させた場合に、液体を速やかに吸収層へ移行させる能力のことをさす。この吸液性は、透液性や通液性などとも呼ばれている。また、ここで耐久親水性とは、繰り返しの吸液性を意味する。
このような問題に鑑み、本発明の課題は、耐変色性が極めて優れており、かつ高い吸液性及び高い耐久親水性を持った繊維及び繊維成形体、特に不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アルキルホスフェート金属塩、トリアルキルグリシン誘導体、及びヒドロキシカルボン酸を各々、所定量で含んだ繊維処理剤を繊維に付着させることで上記課題を達成することを見出した。
従って本発明は、以下の構成を有する。
[1] 少なくとも1種の熱可塑性樹脂を主体とする繊維であって、下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む繊維処理剤が付着している繊維であり、該繊維処理剤の有効成分基準で、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各々の構成比率が3質量%以上で10質量%未満であり、成分(D)の構成比率が40〜60質量%であり、成分(A)の構成比率(質量%)と成分(C)の構成比率(質量%)とが成分(C)≦成分(A)を満たすことを特徴とする繊維。
成分(A):アルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩
成分(B):トリアルキルグリシン誘導体
成分(C):ヒドロキシカルボン酸
成分(D):アルキル基の炭素数が10〜14のアルキルホスフェート金属塩
[2] 該繊維処理剤が、該繊維処理剤の有効成分基準で、さらに下記の成分(E)を10〜20質量%、及び成分(F)を15〜25質量%の構成比率で含んでいる、上記[1]記載の繊維。
成分(E):ポリオキシアルキレン変性シリコーン
成分(F):ヒドロキシステアリン酸グリセライドのアルキレンオキシド付加物とマレイン酸とのエステルであり、かつ該エステルの水酸基を炭素数10〜22のモノカルボン酸で封鎖した化合物
[3] 前記[1]または[2]に記載の繊維を主体として構成されている繊維成形体。
[4] 不織布である前記[1]記載の繊維成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従って繊維に、アルキルホスフェート金属塩、トリアルキルグリシン誘導体、及びヒドロキシカルボン酸を各々、所定量で含んだ繊維処理剤を付着させることで、優れた吸液性と耐久親水性を有し、かつ耐変色性に優れた繊維が得られる。また、そのような繊維から構成される、優れた吸液性と耐久親水性を有し、かつ耐変色性に優れた繊維成形体、例えば不織布が達成できる。
本発明によれば、繊維及び繊維成形体において吸液性、耐久親水性及び耐変色性の好ましい両立が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(A)は、アルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩である。そのアルキル基の炭素数としては、4〜8が好ましく、よりこの好ましくは6〜8である。該金属塩としては、アルカリ金属塩が例示される。アルカリ金属塩としてナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられ、中でも好ましくはカリウム塩である。
【0008】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(B)は、トリアルキルグリシン誘導体であって、グリシン分子構造中の窒素原子に3つのアルキル基が結合している第4級アンモニウムとカルボキシル基の分子内塩、所謂ベタイン構造を有する化合物である。アルキル基の炭素数としては、1〜22のものから任意に選んで構成され、特に2個のアルキル基がメチル、エチル等の炭素数4までの低級アルキル基で、1個が炭素数12以上の長鎖アルキル基を有するものが好ましい。トリアルキルグリシン誘導体の具体例としては、ジメチルオクタデシルグリシンヒドロキサイド、ヘプタデシルイミダゾリウムヒドロシキエチルグリシンヒドロキサイド等がある。
【0009】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(C)は、ヒドロキシカルボン酸である。該ヒドロキシカルボン酸としては、クエン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコール酸等が挙げられ、特にクエン酸が好ましい。
【0010】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各々の構成比率は、繊維処理剤有効成分中で、3質量%以上で10質量%未満である。さらに具体的には、成分(A)と成分(C)との構成比率(質量%)が成分(C)≦成分(A)を満たすことが必要である。さらに成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各成分の構成比率(質量%)が、成分(C)≦成分(B)≦成分(A)を満たすことがより好ましい。
【0011】
成分(C)のヒドロキシカルボン酸は、耐変色性に効果があるものである。成分(C)のヒドロキシカルボン酸の構成比率が3質量%以上で10質量%未満にあると、耐変色性の効果が充分であるとともに、吸液性が極端に低下することがない。成分(C)のヒドロキシカルボン酸の構成比率は好ましくは、3〜5質量%である。
繊維処理剤に成分(C)のヒドロキシカルボン酸を構成成分として加えることで繊維処理剤の吸液性が低下する傾向があるため、その吸液性を補うための成分として、成分(A)のアルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩が必要となる。アルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩は、吸液性を維持、向上させる成分である。その構成比率は繊維処理剤有効成分を基準として3質量%以上で10質量%未満である。成分(A)がこの範囲にあることで耐久親水性を損なうことがなく、より好ましくは5質量%以上で10質量%未満の構成比率である。
繊維処理剤を構成する成分(A)のアルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩と成分(C)のヒドロキシカルボン酸の各々の構成比率の関係は、前記にあるように、成分(A)は成分(C)を加えることによる吸液性の低下を補うものであるため、成分(C)と成分(A)の構成比率(質量%)の関係が成分(C)≦成分(A)となることが必要である。
【0012】
成分(B)のトリアルキルヒドロキシグリシン誘導体は、耐久親水性を付与する成分であり、その構成比率は、繊維処理剤の有効成分基準で、3質量%以上で10質量%未満である。この成分(B)は、成分(A)のアルキルホスフェート金属塩を加えることによる耐久親水性の低下を補うものである。成分(B)は上記の構成比率であることにより、良好な耐久親水性を付与でき、さらに耐変色性が低下しない。成分(B)は、より好ましくは3〜7質量%の構成比率である。
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤において、成分(B)のトリアルキルヒドロキシグリシン誘導体と、成分(A)のアルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩と、成分(C)のヒドロキシカルボン酸の構成比率の関係は、各々の成分の構成比率(質量%)が、成分(C)≦成分(B)≦成分(A)となることが、耐変色性と吸液性、及び耐久親水性の面から、さらに好ましいものである。
なお、上記有効成分とは繊維処理剤全体から水分を除いた成分のことである。
【0013】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(D)は、アルキル基の炭素数が10〜14のアルキルホスフェート金属塩である。成分(A)と同様に吸液性及び制電性を付与する成分であるが、成分(A)よりも炭素数が大きいため、吸液性に加えて、繊維表面の平滑性の向上や耐久親水性を付与する成分を補助する役割を持つ。アルキル基の炭素数が10〜14の範囲にあることで、吸液性が大きく低下することがない。該金属塩として、アルカリ金属塩が例示される。アルカリ金属塩としてナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられ、中でも好ましくはカリウム塩である。
成分(D)のアルキルホスフェート金属塩の繊維処理剤有効成分中の構成比率は、40〜60質量%の範囲で、より好ましくは45〜55質量%の範囲である。
【0014】
本発明の繊維の具体的な実施態様として、有効成分基準で下記成分(E)を10〜20質量%、及び成分(F)を15〜25質量%の構成比率でさらに含む繊維処理剤が付着している、繊維が挙げられる。
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(E)は、ポリオキシアルキレン変性シリコーンであって、好ましくは、下記の一般式で表されるものである。
【化1】
(式中、Rはメチレン、プロピレン、N−(アミノメチル)メチルイミノ、又はN−(アミノプロピル)プロピルイミノを表し、Xはポリオキシアルキレン基を表す。n及びmは、Siの含有率が20〜70質量%で、かつ、分子量が1,000〜100,000なる範囲で選ばれる整数を示す。)
【0015】
この変性シリコーン中のSi含有率は20〜70質量%であり、ポリオキシアルキレン基として、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、及びこれらの構成モノマーが共重合されたもの等を例示できるが、少なくともポリオキシエチレン部をポリオキシアルキレン部に対して、20質量%以上含有するものである。また、分子量は1,000〜100,000、特に7,000〜15,000のものが親水性付与の点から好ましい。繊維処理剤における成分(E)の構成比率は10〜20質量%が適当である。成分(E)の構成比率が10〜20質量%であると、充分な親水性が発揮され速やかな透水性が得られるとともに、液戻りの量も抑えられるし、また、耐久親水性の低下がなく、透水等による繊維からの処理剤の脱落が起こりにくい。
【0016】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(F)は、ヒドロキシステアリン酸グリセライドのアルキレンオキシド付加物とマレイン酸とのエステルであり、かつ該エステルの水酸基を炭素数10〜22のモノカルボン酸で封鎖した化合物である。ヒドロキシステアリン酸グリセライドのアルキレンオキシド付加物は、多価アルコールのグリセリンとヒドロキシステアリン酸とからなるエステルにアルキレンオキシドを付加反応することにより得られる。成分(F)は、この化合物とマレイン酸とのエステルであり、その反応モル比は好ましくは1.5:1.0〜2.0:1.0であって、かつ、このエステルの水酸基がラウリン酸やステアリン酸といった炭素数10〜22のモノカルボン酸で封鎖されている。
成分(F)は分子量が大きく、その作用で処理剤に耐久性を付与しており、他の親水性が高い成分が透水等によって繊維表面から脱落するのを抑制することができる。繊維処理剤における成分(F)の構成比率は15〜25質量%が適当である。成分(F)の構成比率がこの範囲にあると、耐久親水性が良好であるとともに、処理剤の親水性が維持されて吸液に対する抵抗が大きくなることがない。
【0017】
本発明の繊維又は繊維成形体、例えば不織布において、上記の繊維処理剤の有効成分が繊維質量に対して0.1〜1.0質量%付着していることが適当であって、好ましくは0.3〜0.8質量%付着しているものである。繊維に対してこの付着量が0.1質量%以上であると、帯電防止性が充分になり繊維処理剤が付着した繊維を不織布といった繊維成形体に加工する工程で静電気が発生せず、加工が容易となる傾向があり、好ましい。また付着量が1.0質量%以下であると、繊維を加工する工程で、繊維からの繊維処理剤の脱落が少なく、機器への蓄積も増加することがなく、加工性を低下させることがなく、好ましい。
繊維へ該繊維処理剤を付着させる態様として、繊維へ該繊維処理剤を付着させて、その後、該繊維が必要に応じ繊維成形体へ加工されてもよい。あるいは、繊維から繊維成形体へ加工した後、該繊維成形体へ該繊維処理剤を付着させてもよい。
本発明の繊維成形体、例えば不織布は、上記繊維処理剤を付着させた繊維を用いて適当な工程により加工し製造することができ、あるいは、繊維から適当な工程により加工して得た繊維成形体へ、上記繊維処理剤を付着させることで製造することができる。例えば不織布といった繊維成形体に繊維処理剤を付着させる場合は、全体に均一に付着させることはもちろん、必要に応じて任意の部分に付着させることができ、また、付着させる部分ごとの付着量に差をつけてもよい。
【0018】
具体的には、繊維処理剤は、イオン交換水などで3〜30質量%濃度に希釈したエマルションの状態で繊維や不織布といった繊維成形体に付着させることができる。繊維を生産する工程、いわゆる紡糸工程、延伸工程及び捲縮工程において、繊維処理剤を付着させてもよいし、繊維を繊維成形体へ加工した後、例えば繊維を不織布化したのちに、該不織布に対して、付着量が所望の範囲となるように繊維処理剤を付着させてもよい。繊維処理剤を繊維に付着させる方法としては、オイリングロール法、浸漬法、噴霧法など、公知の方法を利用できる。また、例えば不織布へ繊維処理剤を付着させる方法としては、オイリングロール法(コーティング法)、浸漬法、噴霧法などが挙げられ、付着の効率や固着性を向上させるために、前処理として、不織布に対してコロナ放電処理や常圧プラズマ放電処理を施してもよい。
繊維あるいは繊維成形体への繊維処理剤の付着量の調整は、オイリングロールなどのロールで付着させる場合は、ロールの回転数などで、噴霧法によって付着させる場合は、その噴霧量などによって行うことができる。
繊維へ付着した繊維処理剤の量を定量的に確認する方法として、溶媒による抽出法がある。付着量を確認したい繊維処理剤が可溶な溶剤、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどに一定量の繊維や繊維成形体を浸漬した後、溶剤のみを熱などで揮発させ、その残量を計量することで単位質量当たりの繊維処理剤の付着量を確認することができる。具体的には、迅速法、ソックスレー法が挙げられる。
【0019】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤には、本発明の効果を妨げない範囲でその他の公知の界面活性剤成分を使用することができる。界面活性剤成分として例えば、アルカンスルホネートナトリウム塩等の帯電防止剤や、ソルビタン酸エステル等のノニオン成分が挙げられる。
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤にはまた、本発明の効果を妨げない範囲で、各種添加剤を配合することができる。添加剤として例えば、乳化剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、消泡剤などが挙げられる。
【0020】
本発明の繊維は単一成分の繊維であってもよいし、複合繊維であってもよい。繊維を構成する熱可塑性樹脂として特に限定されないが、例えば高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、プロピレンを主成分とするエチレン−プロピレン共重合体、プロピレンを主成分とするエチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、ポリブテン−1、ポリヘキセン−1、ポリオクテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1、ポリメチルペンテン、1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリブタジエンといったポリオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートやポリブチレンアジペートテレフタレート、共重合ポリエステル(コポリエステル)といったポリエステル系樹脂などが挙げられる。これら2種類以上を含む混合物からなる繊維であってもよい。
【0021】
複合繊維であれば、断面構造としては同心鞘芯構造、偏心鞘芯構造、サイド・バイ・サイド構造の複合繊維、または、交互放射状等の分割型複合繊維などが挙げられる。繊維の形状としては円形、星形、楕円型、三角形、四角形、五角形、多葉形、中空型などが挙げられる。また、複合繊維の具体的な樹脂の組み合わせ(鞘/芯、或いは、低融点成分/高融点成分としての組み合わせ)としては、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/プロピレン、エチレン−オクテン共重合体/ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体/ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体/ポリプロピレン、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、エチレン‐オクテン共重合体/ポリエチレンテレフタレート、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。鞘/芯、或いは、低融点成分/高融点成分の割合は、質量比で10/90〜90/10の範囲であることが好ましく、紡糸性、延伸性、不織布加工性の点から、30/70〜70/30の範囲であることが特に好ましい。
【0022】
本発明の繊維を構成する熱可塑性樹脂には、本発明の効果を妨げない範囲内でさらに、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤等の添加剤を適宜必要に応じて添加してもよい。
【0023】
また、本発明の繊維には、本発明の効果を妨げない範囲内で、抗菌剤、難燃剤、平滑剤、帯電防止剤、顔料、柔軟性を付与するための無機微粒子を適宣必要に応じて添加してもよい。添加方法としては、これらのパウダーを直接添加、或いはマスターバッチ化して練り込む方法などを挙げることができる。マスターバッチ化に用いる樹脂は、繊維を構成する熱可塑性樹脂と同じものを用いることが最も好ましいが、本発明の要件を満たすものであれば特に限定されず、異なる樹脂を用いてもよい。
【0024】
本発明の繊維は、例えば、上記熱可塑性樹脂を含む樹脂を用いた溶融紡糸法やスパンボンド法により好適に得ることができる。短繊維の場合は、溶融紡糸法にて未延伸繊維を得た後、延伸工程で一部配向結晶化を進めた上で捲縮工程において捲縮を付与し、その後熱風乾燥機等を用いて所定の温度で一定時間熱処理を施し、任意の長さにカットすることで得ることができる。
【0025】
本発明の繊維の繊度は特に限定されないが、0.3〜12.0dtexが好ましく、当該繊維を不織布に加工する過程の点から1.0〜8.0dtexがより好ましく、さらに好ましいのは1.2〜6.0dtexである。
【0026】
本発明の繊維の繊維長は特に限定されず、繊維を不織布にする方法ごとに任意に決めることができる。例えばローラーカード機を用いて繊維ウェブを形成するような短繊維である場合、その繊維の繊維長は25〜125mmが好ましく、より好ましくは38〜76mmである。またエアレイド機を用いるような場合、繊維長は3〜25mmが好ましく、より好ましくは3〜12mmである。
【0027】
繊維を不織布に加工する方法は、特に限定されないが、繊維ウェブを形成した後に、熱処理を行い、繊維ウェブを構成する繊維の交絡点を熱接着させて不織布化する手法を用いることが好ましい。繊維ウェブを形成する方法としては、ローラーカード機に通過させるカーティング法やエアーにてフォーミングするエアレイド法、長繊維を積層させるスパンボンド法などが挙げられる。繊維ウェブを熱処理し、熱接着させる方法としては、熱風循環型乾燥機、熱風通気式熱処理機、リラクシング式熱風乾燥機、熱板圧着式乾燥機、ドラム型乾燥機、赤外線乾燥機、部分熱圧着加工機等公知のものを用いることができる。
【0028】
本発明の繊維を不織布に加工した場合の不織布の目付(単位面積あたりの質量)は、特に限定されず、使用用途に応じて決めることができる。例えば、使い捨ておむつや生理用ナプキンの表面材であれば10〜50g/m2が好ましく、より好ましくは20〜35g/m2である。
【0029】
本発明の繊維成形体は、上記したような不織布のほか、繊維トウ、繊維ウェブ、繊維積層物、ネット、編織物及びこれらを熱処理してシート状や固まりに加工したもの、不織布を層状や波状に重ねて熱処理などの2次加工を施したものなどを包含する。本発明の繊維成形体として特に不織布が挙げられる。
【0030】
本発明の繊維又は繊維成形体、例えば不織布を用いた繊維製品としては、おむつ、ナプキン、失禁パット等の吸収性物品、ガウン、術衣等の医療衛生材、壁用シート、障子紙、床材等の室内内装材、カバークロス、清掃用ワイパー、生ゴミ用カバー等の生活関連材、使い捨てトイレ、トイレ用カバー等のトイレタリー製品、ペットシート、ペット用おむつ、ペット用タオル等のペット用品、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材、インクタンク用吸着材等の産業資材、一般医療材、寝装材、介護用品などが挙げられる。本発明の繊維又は繊維成形体は、さまざまな繊維製品への用途に利用が可能である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、各例における製造、加工、測定、試験は以下に示す方法で行った。
【0032】
<実施例1〜9及び比較例1〜5>
(熱可塑性樹脂)
繊維を構成する熱可塑性樹脂として以下の樹脂を用いた。
樹脂1:密度0.96g/cm3、MFR(190℃ 荷重21.18N)が16g/10min、融点が130℃である高密度ポリエチレン(略記号PE−1)
樹脂2:密度0.96g/cm3、MFR(190℃ 荷重21.18N)が41g/10min、融点が130℃である高密度ポリエチレン(略記号PE−2)
樹脂3:MFR(230℃ 荷重21.18N)が16g/10min、融点が162℃であるポリプロピレン(略記号PP−1)
樹脂4:MFR(230℃ 荷重21.18N)が28g/10min、融点が162℃であるポリプロピレン(略記号PP−2)
樹脂5:MFR(230℃ 荷重21.18N)が11g/10min、融点が162℃であるポリプロピレン(略記号PP−3)
樹脂6:MFR(230℃ 荷重21.18N)が16g/10min、融点が131℃であるエチレン含有量4.0重量%、1−ブテン含有量2.65重量%のエチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体。(略記号co−PP)
【0033】
(メルトマスフローレート(MFR)の測定)
JIS K 7210に準拠し、メルトマスフローレートの測定を行った。ここで、MIは、附属書A表1の条件D(試験温度190℃、荷重2.16kg)に準拠し、MFRは、条件M(試験温度230℃、荷重2.16kg)に準拠して測定した。
【0034】
(繊維の製造)
以下の表1及び表2に示すように、熱可塑性樹脂を、同心鞘芯型の断面になる紡糸口金を用いて、所定の押出温度で繊維断面の体積比が50/50となるように押出量を調整して溶融紡糸し、未延伸繊維を得た。その際、表1及び表2に示す繊維処理剤をエマルションとし、オイリングロールを用いて繊維に付着させた。得られた未延伸繊維を、90℃の熱ロールにて延伸して2.2dtexとし、捲縮付与した後、熱風循環型乾燥機にて乾燥させ、カッターにて51mmにカットして短繊維を得た。
なお、表1〜表2の繊維処理剤付着時の形態の欄に示すとおり、実施例1〜7及び比較例1〜4は、繊維へ繊維処理剤を付着させた例であり、実施例8及び9、及び比較例5は後述するように不織布へ繊維処理剤を付着させた例である。
【0035】
(繊維処理剤の組成)
各例で使用した繊維処理剤の組成を表1〜表2に示す。この組成の単位は質量%で、繊維処理剤中の有効成分の全量で100質量%とする。
表1〜2中の繊維処理剤の成分を以下のように略号で示す。
A:オクチルホスフェートカリウム塩
B:ジメチルオクタデシルグリシンヒドロキサイド
C:クエン酸
D1:ラウリルホスフェートカリウム塩
D2:トリデシルホスフェートカリウム塩
E:ポリオキシエチレン変性シリコーン
F:ポリオキシエチレン(20モル)カスターワックスのマレイン酸エステル(2:1モル比)とステアリン酸とのエステル(2:1モル比)
【0036】
(不織布加工)
実施例1〜7及び比較例1〜4では、上記工程で得られた短繊維をローラーカード試験機((有)大和機工製)にて繊維ウェブとし、このウェブをサクションドライヤーで、表1〜表2記載の温度のスルーエア加工(表1及び2中の略号としてTA)にて熱接着させ、目付が約23±2g/m2の不織布を得た。
【0037】
<実施例8、9及び比較例5>
実施例8では、上記の繊維の製造において、繊維処理剤を付着させずに得た短繊維をローラーカード試験機((有)大和機工製)にて繊維ウェブとし、このウェブをサクションドライヤーで、表2記載の温度のスルーエア加工(略号としてTA)にて熱接着させ、目付が約23±2g/m2の不織布を得た。
また、実施例9、及び比較例5では、表2に記載の樹脂を用い、スパンボンド法にてスパンボンド不織布を得た。具体的には、同心鞘芯型の断面になる紡糸口金を用いて、表2記載の押出温度で繊維断面の体積比が50/50となるように押出量を調整し、紡糸口金から吐出した複合長繊維群をエアーサッカーに導入して索引延伸し、2.2dtexの繊維径とし、続いてエアーサッカーにより排出された前記長繊維群を帯電装置により同電荷を付与させ帯電させた後、反射板に衝突させて開繊し、開繊した長繊維群を裏面に吸引装置を設けた無端ネット状コンベアー上に、長繊維ウェッブとして捕集し、線圧80N/mm、圧着面積率21%のエンボスロール(凸部)/フラットロールで部分熱圧着加工(表2中の略号としてPB)を施し、目付が約23±2g/m2の不織布を得た。
これらの不織布を表2に示す繊維処理剤のエマルションの中に浸漬した後、所定の付着量になるように脱水、乾燥させた。
【0038】
(処理剤の付着量測定)
繊維を製造する工程内で繊維処理剤を付着させた短繊維の場合は、該繊維をローラーカード試験機にて繊維ウェブとしたもの2gを用いて、迅速残脂抽出装置(東海計器(株)製「R−II型」)で測定を行った。不織布に加工した後に繊維処理剤を付着させた場合は、不織布2gを用いて、測定を行った。抽出溶媒としてメタノール25mlを用いた。
以下の式で付着量を算出した。
処理剤の付着量(質量%)=抽出量(g)÷2×100
【0039】
(耐変色試験)
繊維を製造する工程内で繊維処理剤を付着させた短繊維の場合は、該繊維をローラーカード試験機にてカードウェブとし、このウェブをニードルパンチ加工法にて目付が200±20g/m2の不織布としたものを縦8cm×横8cmにカットして試験サンプルとした。
不織布に加工した後に繊維処理剤を付着させた場合は、該不織布を縦80mm×横80mmにカットし、合計の目付が200±20g/m2になるように重ね合わせたものを試験サンプルとした。試験サンプルを石油ストーブ火源の上部80cmに設置し(雰囲気温度は100±5℃)燃焼ガスに3時間暴露した後に試料を取り出した。色差計(スガ試験(株)製「Model SM−4」)にて試験前後の試験サンプルの表面のYI(Yellow Index)の数値を測定し、その差であるΔYIを算出した。
なお、試験結果については、ΔYIの数値が、6以下であれば、耐変色性が非常に優れていることから、‘A’と表記した。また、7〜8の数値であれば‘B’としたが、9以上の数値では変色性が高いと言えることから、‘C’と表記した。
【0040】
(吸収試験)
EDANA RECOMMEND TEST METHODSのNONWOVENS/LIQUID STRIKE−THROUGH TIMEに準じた吸液試験を行った。また、これを3回繰り返して耐久親水性を試験した。試験装置として、Lenzing Instruments社「Lister」を用いた。試験サンプルとして、不織布に加工したものを縦100mm×横100mmでカットしたものを用いた。濾紙(吸水紙)として、「キムタオルワイパーホワイト((株)クレシア製)」を用いた。
なお、吸液試験の結果は、吸液に要した時間によって以下のように3段階に分けて表記した。
[短繊維をスルーエア加工して不織布としたもの]
0.5sec以下であれば、吸液性に非常に優れているとして‘A’とした。
0.5secを越えて1.0sec未満では‘B’とした。
1.0sec以上は、吸液性に劣るとして‘C’とした。
[スパンボンド法にて部分熱圧着加工して不織布としたもの]
1.5sec以下であれば、吸液性に非常に優れているとして‘A’とした。
1.5secを越えて2.0sec未満では‘B’とし、
2.0sec以上は、吸液性に劣るとして‘C’とした。
【0041】
3回目の吸液試験の結果を、耐久親水性の指標とし、吸液に要した時間によって以下のように3段階に分けて表記した。
[短繊維をスルーエア加工して不織布としたもの]
1.5sec以下であれば、耐久親水性に非常に優れているとして‘A’とした。
1.5secを越えて2.0sec未満では‘B’とした。
2.0sec以上は、耐久親水性に劣るとして‘C’とした。
[スパンボンド法にて部分熱圧着加工して不織布としたもの]
3.0sec以下であれば、耐久親水性に非常に優れているとして‘A’とした。
3.0secを越えて4.0sec未満では‘B’とした。
4.0sec以上は、耐久親水性に劣るとして‘C’とした。
【0042】
各実施例及び比較例について、繊維及びその繊維を用いた不織布を得た条件、及びそれらの性能を上記試験及び測定方法に基づき試験、測定した結果を以下の表1及び表2に合わせて示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の繊維は、アルキルホスフェート金属塩、トリアルキルグリシン誘導体、及びヒドロキシカルボン酸を所定量で含む繊維処理剤を付着させていることによって、優れた耐変色性と吸液性及び耐久親水性を併せ持つ繊維である。本発明の実施にあたって、繊維処理剤の有効成分としてさらにポリオキシアルキレン変性シリコーン、及びヒドロキシステアリン酸グリセライドのアルキレンオキシド付加物とマレイン酸とのエステルであり、かつ該エステルの水酸基をモノカルボン酸で封鎖した化合物を付着させることで、よりよい繊維を提供できる。
更に、本発明の繊維から構成されている例えば不織布といった繊維成形体は、高い吸液性と高い耐久親水性を有し、かつ、耐変色性に極めて優れていることから、おむつ、ナプキン、失禁パット等の吸収性物品、ガウン、術衣等の医療衛生材、壁用シート、障子紙、床材等の室内内装材、カバークロス、清掃用ワイパー、生ゴミ用カバー等の生活関連材、使い捨てトイレ、トイレ用カバー等のトイレタリー製品、ペットシート、ペット用おむつ、ペット用タオル等のペット用品、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材、インクタンク用吸着材等の産業資材、一般医療材、寝装材、介護用品など様々な繊維製品への用途に有利に使用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐変色性と吸液性に優れた繊維に関する。また、本発明は、耐変色性と吸液性に優れた繊維を用いた繊維成形体、例えば不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
熱融着による成形ができる熱融着性繊維は、熱風や加熱ロール等の熱エネルギーを利用して、安全性が高く風合いの良好な不織布を得ることが容易であることから、おむつ、ナプキン、吸収パッド等の衛生材料、或いは生活用品やフィルター等の産業資材等に広く用いられている。特に衛生材料に用いられる場合は、尿、経血等の液体を素早くかつ繰り返し吸収する必要性から、高い吸液性が求められている。
一方、これらの方法によって得られる熱融着性繊維には、ラジカル発生による劣化防止を目的としてジブチルヒドロキシトルエンなどの酸化防止剤が添加・含有されており、日光の当たる場所や蛍光灯直下等に長期間保管しておくと変色を起こしやすく、製品の品位を損なうといったトラブルが度々発生している。
そこで、繊維表面に付着させる繊維処理剤にヒドロキシカルボン酸を加えることで耐変色性を改善する提案がある(例えば特許文献1)。また、繊維処理剤にアルキル燐酸アンモニウムを用いることで繊維製造時や保管中に発生する黄変現象を防止しようとする提案がある(例えば特許文献2)。
一方、所定の成分を含む繊維処理剤を用いて不織布などの繰り返し透水性を高めることが提案されている(例えば特許文献3、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4381579号明細書
【特許文献2】特開2001−140168号公報
【特許文献3】特開2002−161477号公報
【特許文献4】特開2003−239172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術により繊維の耐変色性を改善する提案があるものの、ヒドロキシカルボン酸は親水性付与としての機能が低いため、繊維の吸液性を阻害してしまう恐れがある。また、アルキル燐酸アンモニウムは耐久親水性付与としての機能が低く、高い耐久親水性を得るのは難しいという問題がある。
ここで、吸液性とは、パルプシートなどの吸収層の上に、不織布といった繊維成形体を配置した状態で、該不織布などの側から尿や経血などの液体を接触(滴下など)させた場合に、液体を速やかに吸収層へ移行させる能力のことをさす。この吸液性は、透液性や通液性などとも呼ばれている。また、ここで耐久親水性とは、繰り返しの吸液性を意味する。
このような問題に鑑み、本発明の課題は、耐変色性が極めて優れており、かつ高い吸液性及び高い耐久親水性を持った繊維及び繊維成形体、特に不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アルキルホスフェート金属塩、トリアルキルグリシン誘導体、及びヒドロキシカルボン酸を各々、所定量で含んだ繊維処理剤を繊維に付着させることで上記課題を達成することを見出した。
従って本発明は、以下の構成を有する。
[1] 少なくとも1種の熱可塑性樹脂を主体とする繊維であって、下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む繊維処理剤が付着している繊維であり、該繊維処理剤の有効成分基準で、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各々の構成比率が3質量%以上で10質量%未満であり、成分(D)の構成比率が40〜60質量%であり、成分(A)の構成比率(質量%)と成分(C)の構成比率(質量%)とが成分(C)≦成分(A)を満たすことを特徴とする繊維。
成分(A):アルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩
成分(B):トリアルキルグリシン誘導体
成分(C):ヒドロキシカルボン酸
成分(D):アルキル基の炭素数が10〜14のアルキルホスフェート金属塩
[2] 該繊維処理剤が、該繊維処理剤の有効成分基準で、さらに下記の成分(E)を10〜20質量%、及び成分(F)を15〜25質量%の構成比率で含んでいる、上記[1]記載の繊維。
成分(E):ポリオキシアルキレン変性シリコーン
成分(F):ヒドロキシステアリン酸グリセライドのアルキレンオキシド付加物とマレイン酸とのエステルであり、かつ該エステルの水酸基を炭素数10〜22のモノカルボン酸で封鎖した化合物
[3] 前記[1]または[2]に記載の繊維を主体として構成されている繊維成形体。
[4] 不織布である前記[1]記載の繊維成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従って繊維に、アルキルホスフェート金属塩、トリアルキルグリシン誘導体、及びヒドロキシカルボン酸を各々、所定量で含んだ繊維処理剤を付着させることで、優れた吸液性と耐久親水性を有し、かつ耐変色性に優れた繊維が得られる。また、そのような繊維から構成される、優れた吸液性と耐久親水性を有し、かつ耐変色性に優れた繊維成形体、例えば不織布が達成できる。
本発明によれば、繊維及び繊維成形体において吸液性、耐久親水性及び耐変色性の好ましい両立が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(A)は、アルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩である。そのアルキル基の炭素数としては、4〜8が好ましく、よりこの好ましくは6〜8である。該金属塩としては、アルカリ金属塩が例示される。アルカリ金属塩としてナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられ、中でも好ましくはカリウム塩である。
【0008】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(B)は、トリアルキルグリシン誘導体であって、グリシン分子構造中の窒素原子に3つのアルキル基が結合している第4級アンモニウムとカルボキシル基の分子内塩、所謂ベタイン構造を有する化合物である。アルキル基の炭素数としては、1〜22のものから任意に選んで構成され、特に2個のアルキル基がメチル、エチル等の炭素数4までの低級アルキル基で、1個が炭素数12以上の長鎖アルキル基を有するものが好ましい。トリアルキルグリシン誘導体の具体例としては、ジメチルオクタデシルグリシンヒドロキサイド、ヘプタデシルイミダゾリウムヒドロシキエチルグリシンヒドロキサイド等がある。
【0009】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(C)は、ヒドロキシカルボン酸である。該ヒドロキシカルボン酸としては、クエン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコール酸等が挙げられ、特にクエン酸が好ましい。
【0010】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各々の構成比率は、繊維処理剤有効成分中で、3質量%以上で10質量%未満である。さらに具体的には、成分(A)と成分(C)との構成比率(質量%)が成分(C)≦成分(A)を満たすことが必要である。さらに成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各成分の構成比率(質量%)が、成分(C)≦成分(B)≦成分(A)を満たすことがより好ましい。
【0011】
成分(C)のヒドロキシカルボン酸は、耐変色性に効果があるものである。成分(C)のヒドロキシカルボン酸の構成比率が3質量%以上で10質量%未満にあると、耐変色性の効果が充分であるとともに、吸液性が極端に低下することがない。成分(C)のヒドロキシカルボン酸の構成比率は好ましくは、3〜5質量%である。
繊維処理剤に成分(C)のヒドロキシカルボン酸を構成成分として加えることで繊維処理剤の吸液性が低下する傾向があるため、その吸液性を補うための成分として、成分(A)のアルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩が必要となる。アルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩は、吸液性を維持、向上させる成分である。その構成比率は繊維処理剤有効成分を基準として3質量%以上で10質量%未満である。成分(A)がこの範囲にあることで耐久親水性を損なうことがなく、より好ましくは5質量%以上で10質量%未満の構成比率である。
繊維処理剤を構成する成分(A)のアルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩と成分(C)のヒドロキシカルボン酸の各々の構成比率の関係は、前記にあるように、成分(A)は成分(C)を加えることによる吸液性の低下を補うものであるため、成分(C)と成分(A)の構成比率(質量%)の関係が成分(C)≦成分(A)となることが必要である。
【0012】
成分(B)のトリアルキルヒドロキシグリシン誘導体は、耐久親水性を付与する成分であり、その構成比率は、繊維処理剤の有効成分基準で、3質量%以上で10質量%未満である。この成分(B)は、成分(A)のアルキルホスフェート金属塩を加えることによる耐久親水性の低下を補うものである。成分(B)は上記の構成比率であることにより、良好な耐久親水性を付与でき、さらに耐変色性が低下しない。成分(B)は、より好ましくは3〜7質量%の構成比率である。
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤において、成分(B)のトリアルキルヒドロキシグリシン誘導体と、成分(A)のアルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩と、成分(C)のヒドロキシカルボン酸の構成比率の関係は、各々の成分の構成比率(質量%)が、成分(C)≦成分(B)≦成分(A)となることが、耐変色性と吸液性、及び耐久親水性の面から、さらに好ましいものである。
なお、上記有効成分とは繊維処理剤全体から水分を除いた成分のことである。
【0013】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(D)は、アルキル基の炭素数が10〜14のアルキルホスフェート金属塩である。成分(A)と同様に吸液性及び制電性を付与する成分であるが、成分(A)よりも炭素数が大きいため、吸液性に加えて、繊維表面の平滑性の向上や耐久親水性を付与する成分を補助する役割を持つ。アルキル基の炭素数が10〜14の範囲にあることで、吸液性が大きく低下することがない。該金属塩として、アルカリ金属塩が例示される。アルカリ金属塩としてナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられ、中でも好ましくはカリウム塩である。
成分(D)のアルキルホスフェート金属塩の繊維処理剤有効成分中の構成比率は、40〜60質量%の範囲で、より好ましくは45〜55質量%の範囲である。
【0014】
本発明の繊維の具体的な実施態様として、有効成分基準で下記成分(E)を10〜20質量%、及び成分(F)を15〜25質量%の構成比率でさらに含む繊維処理剤が付着している、繊維が挙げられる。
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(E)は、ポリオキシアルキレン変性シリコーンであって、好ましくは、下記の一般式で表されるものである。
【化1】
(式中、Rはメチレン、プロピレン、N−(アミノメチル)メチルイミノ、又はN−(アミノプロピル)プロピルイミノを表し、Xはポリオキシアルキレン基を表す。n及びmは、Siの含有率が20〜70質量%で、かつ、分子量が1,000〜100,000なる範囲で選ばれる整数を示す。)
【0015】
この変性シリコーン中のSi含有率は20〜70質量%であり、ポリオキシアルキレン基として、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、及びこれらの構成モノマーが共重合されたもの等を例示できるが、少なくともポリオキシエチレン部をポリオキシアルキレン部に対して、20質量%以上含有するものである。また、分子量は1,000〜100,000、特に7,000〜15,000のものが親水性付与の点から好ましい。繊維処理剤における成分(E)の構成比率は10〜20質量%が適当である。成分(E)の構成比率が10〜20質量%であると、充分な親水性が発揮され速やかな透水性が得られるとともに、液戻りの量も抑えられるし、また、耐久親水性の低下がなく、透水等による繊維からの処理剤の脱落が起こりにくい。
【0016】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤を構成する成分(F)は、ヒドロキシステアリン酸グリセライドのアルキレンオキシド付加物とマレイン酸とのエステルであり、かつ該エステルの水酸基を炭素数10〜22のモノカルボン酸で封鎖した化合物である。ヒドロキシステアリン酸グリセライドのアルキレンオキシド付加物は、多価アルコールのグリセリンとヒドロキシステアリン酸とからなるエステルにアルキレンオキシドを付加反応することにより得られる。成分(F)は、この化合物とマレイン酸とのエステルであり、その反応モル比は好ましくは1.5:1.0〜2.0:1.0であって、かつ、このエステルの水酸基がラウリン酸やステアリン酸といった炭素数10〜22のモノカルボン酸で封鎖されている。
成分(F)は分子量が大きく、その作用で処理剤に耐久性を付与しており、他の親水性が高い成分が透水等によって繊維表面から脱落するのを抑制することができる。繊維処理剤における成分(F)の構成比率は15〜25質量%が適当である。成分(F)の構成比率がこの範囲にあると、耐久親水性が良好であるとともに、処理剤の親水性が維持されて吸液に対する抵抗が大きくなることがない。
【0017】
本発明の繊維又は繊維成形体、例えば不織布において、上記の繊維処理剤の有効成分が繊維質量に対して0.1〜1.0質量%付着していることが適当であって、好ましくは0.3〜0.8質量%付着しているものである。繊維に対してこの付着量が0.1質量%以上であると、帯電防止性が充分になり繊維処理剤が付着した繊維を不織布といった繊維成形体に加工する工程で静電気が発生せず、加工が容易となる傾向があり、好ましい。また付着量が1.0質量%以下であると、繊維を加工する工程で、繊維からの繊維処理剤の脱落が少なく、機器への蓄積も増加することがなく、加工性を低下させることがなく、好ましい。
繊維へ該繊維処理剤を付着させる態様として、繊維へ該繊維処理剤を付着させて、その後、該繊維が必要に応じ繊維成形体へ加工されてもよい。あるいは、繊維から繊維成形体へ加工した後、該繊維成形体へ該繊維処理剤を付着させてもよい。
本発明の繊維成形体、例えば不織布は、上記繊維処理剤を付着させた繊維を用いて適当な工程により加工し製造することができ、あるいは、繊維から適当な工程により加工して得た繊維成形体へ、上記繊維処理剤を付着させることで製造することができる。例えば不織布といった繊維成形体に繊維処理剤を付着させる場合は、全体に均一に付着させることはもちろん、必要に応じて任意の部分に付着させることができ、また、付着させる部分ごとの付着量に差をつけてもよい。
【0018】
具体的には、繊維処理剤は、イオン交換水などで3〜30質量%濃度に希釈したエマルションの状態で繊維や不織布といった繊維成形体に付着させることができる。繊維を生産する工程、いわゆる紡糸工程、延伸工程及び捲縮工程において、繊維処理剤を付着させてもよいし、繊維を繊維成形体へ加工した後、例えば繊維を不織布化したのちに、該不織布に対して、付着量が所望の範囲となるように繊維処理剤を付着させてもよい。繊維処理剤を繊維に付着させる方法としては、オイリングロール法、浸漬法、噴霧法など、公知の方法を利用できる。また、例えば不織布へ繊維処理剤を付着させる方法としては、オイリングロール法(コーティング法)、浸漬法、噴霧法などが挙げられ、付着の効率や固着性を向上させるために、前処理として、不織布に対してコロナ放電処理や常圧プラズマ放電処理を施してもよい。
繊維あるいは繊維成形体への繊維処理剤の付着量の調整は、オイリングロールなどのロールで付着させる場合は、ロールの回転数などで、噴霧法によって付着させる場合は、その噴霧量などによって行うことができる。
繊維へ付着した繊維処理剤の量を定量的に確認する方法として、溶媒による抽出法がある。付着量を確認したい繊維処理剤が可溶な溶剤、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどに一定量の繊維や繊維成形体を浸漬した後、溶剤のみを熱などで揮発させ、その残量を計量することで単位質量当たりの繊維処理剤の付着量を確認することができる。具体的には、迅速法、ソックスレー法が挙げられる。
【0019】
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤には、本発明の効果を妨げない範囲でその他の公知の界面活性剤成分を使用することができる。界面活性剤成分として例えば、アルカンスルホネートナトリウム塩等の帯電防止剤や、ソルビタン酸エステル等のノニオン成分が挙げられる。
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤にはまた、本発明の効果を妨げない範囲で、各種添加剤を配合することができる。添加剤として例えば、乳化剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、消泡剤などが挙げられる。
【0020】
本発明の繊維は単一成分の繊維であってもよいし、複合繊維であってもよい。繊維を構成する熱可塑性樹脂として特に限定されないが、例えば高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、プロピレンを主成分とするエチレン−プロピレン共重合体、プロピレンを主成分とするエチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、ポリブテン−1、ポリヘキセン−1、ポリオクテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1、ポリメチルペンテン、1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリブタジエンといったポリオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートやポリブチレンアジペートテレフタレート、共重合ポリエステル(コポリエステル)といったポリエステル系樹脂などが挙げられる。これら2種類以上を含む混合物からなる繊維であってもよい。
【0021】
複合繊維であれば、断面構造としては同心鞘芯構造、偏心鞘芯構造、サイド・バイ・サイド構造の複合繊維、または、交互放射状等の分割型複合繊維などが挙げられる。繊維の形状としては円形、星形、楕円型、三角形、四角形、五角形、多葉形、中空型などが挙げられる。また、複合繊維の具体的な樹脂の組み合わせ(鞘/芯、或いは、低融点成分/高融点成分としての組み合わせ)としては、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/プロピレン、エチレン−オクテン共重合体/ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体/ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体/ポリプロピレン、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、エチレン‐オクテン共重合体/ポリエチレンテレフタレート、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。鞘/芯、或いは、低融点成分/高融点成分の割合は、質量比で10/90〜90/10の範囲であることが好ましく、紡糸性、延伸性、不織布加工性の点から、30/70〜70/30の範囲であることが特に好ましい。
【0022】
本発明の繊維を構成する熱可塑性樹脂には、本発明の効果を妨げない範囲内でさらに、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤等の添加剤を適宜必要に応じて添加してもよい。
【0023】
また、本発明の繊維には、本発明の効果を妨げない範囲内で、抗菌剤、難燃剤、平滑剤、帯電防止剤、顔料、柔軟性を付与するための無機微粒子を適宣必要に応じて添加してもよい。添加方法としては、これらのパウダーを直接添加、或いはマスターバッチ化して練り込む方法などを挙げることができる。マスターバッチ化に用いる樹脂は、繊維を構成する熱可塑性樹脂と同じものを用いることが最も好ましいが、本発明の要件を満たすものであれば特に限定されず、異なる樹脂を用いてもよい。
【0024】
本発明の繊維は、例えば、上記熱可塑性樹脂を含む樹脂を用いた溶融紡糸法やスパンボンド法により好適に得ることができる。短繊維の場合は、溶融紡糸法にて未延伸繊維を得た後、延伸工程で一部配向結晶化を進めた上で捲縮工程において捲縮を付与し、その後熱風乾燥機等を用いて所定の温度で一定時間熱処理を施し、任意の長さにカットすることで得ることができる。
【0025】
本発明の繊維の繊度は特に限定されないが、0.3〜12.0dtexが好ましく、当該繊維を不織布に加工する過程の点から1.0〜8.0dtexがより好ましく、さらに好ましいのは1.2〜6.0dtexである。
【0026】
本発明の繊維の繊維長は特に限定されず、繊維を不織布にする方法ごとに任意に決めることができる。例えばローラーカード機を用いて繊維ウェブを形成するような短繊維である場合、その繊維の繊維長は25〜125mmが好ましく、より好ましくは38〜76mmである。またエアレイド機を用いるような場合、繊維長は3〜25mmが好ましく、より好ましくは3〜12mmである。
【0027】
繊維を不織布に加工する方法は、特に限定されないが、繊維ウェブを形成した後に、熱処理を行い、繊維ウェブを構成する繊維の交絡点を熱接着させて不織布化する手法を用いることが好ましい。繊維ウェブを形成する方法としては、ローラーカード機に通過させるカーティング法やエアーにてフォーミングするエアレイド法、長繊維を積層させるスパンボンド法などが挙げられる。繊維ウェブを熱処理し、熱接着させる方法としては、熱風循環型乾燥機、熱風通気式熱処理機、リラクシング式熱風乾燥機、熱板圧着式乾燥機、ドラム型乾燥機、赤外線乾燥機、部分熱圧着加工機等公知のものを用いることができる。
【0028】
本発明の繊維を不織布に加工した場合の不織布の目付(単位面積あたりの質量)は、特に限定されず、使用用途に応じて決めることができる。例えば、使い捨ておむつや生理用ナプキンの表面材であれば10〜50g/m2が好ましく、より好ましくは20〜35g/m2である。
【0029】
本発明の繊維成形体は、上記したような不織布のほか、繊維トウ、繊維ウェブ、繊維積層物、ネット、編織物及びこれらを熱処理してシート状や固まりに加工したもの、不織布を層状や波状に重ねて熱処理などの2次加工を施したものなどを包含する。本発明の繊維成形体として特に不織布が挙げられる。
【0030】
本発明の繊維又は繊維成形体、例えば不織布を用いた繊維製品としては、おむつ、ナプキン、失禁パット等の吸収性物品、ガウン、術衣等の医療衛生材、壁用シート、障子紙、床材等の室内内装材、カバークロス、清掃用ワイパー、生ゴミ用カバー等の生活関連材、使い捨てトイレ、トイレ用カバー等のトイレタリー製品、ペットシート、ペット用おむつ、ペット用タオル等のペット用品、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材、インクタンク用吸着材等の産業資材、一般医療材、寝装材、介護用品などが挙げられる。本発明の繊維又は繊維成形体は、さまざまな繊維製品への用途に利用が可能である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、各例における製造、加工、測定、試験は以下に示す方法で行った。
【0032】
<実施例1〜9及び比較例1〜5>
(熱可塑性樹脂)
繊維を構成する熱可塑性樹脂として以下の樹脂を用いた。
樹脂1:密度0.96g/cm3、MFR(190℃ 荷重21.18N)が16g/10min、融点が130℃である高密度ポリエチレン(略記号PE−1)
樹脂2:密度0.96g/cm3、MFR(190℃ 荷重21.18N)が41g/10min、融点が130℃である高密度ポリエチレン(略記号PE−2)
樹脂3:MFR(230℃ 荷重21.18N)が16g/10min、融点が162℃であるポリプロピレン(略記号PP−1)
樹脂4:MFR(230℃ 荷重21.18N)が28g/10min、融点が162℃であるポリプロピレン(略記号PP−2)
樹脂5:MFR(230℃ 荷重21.18N)が11g/10min、融点が162℃であるポリプロピレン(略記号PP−3)
樹脂6:MFR(230℃ 荷重21.18N)が16g/10min、融点が131℃であるエチレン含有量4.0重量%、1−ブテン含有量2.65重量%のエチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体。(略記号co−PP)
【0033】
(メルトマスフローレート(MFR)の測定)
JIS K 7210に準拠し、メルトマスフローレートの測定を行った。ここで、MIは、附属書A表1の条件D(試験温度190℃、荷重2.16kg)に準拠し、MFRは、条件M(試験温度230℃、荷重2.16kg)に準拠して測定した。
【0034】
(繊維の製造)
以下の表1及び表2に示すように、熱可塑性樹脂を、同心鞘芯型の断面になる紡糸口金を用いて、所定の押出温度で繊維断面の体積比が50/50となるように押出量を調整して溶融紡糸し、未延伸繊維を得た。その際、表1及び表2に示す繊維処理剤をエマルションとし、オイリングロールを用いて繊維に付着させた。得られた未延伸繊維を、90℃の熱ロールにて延伸して2.2dtexとし、捲縮付与した後、熱風循環型乾燥機にて乾燥させ、カッターにて51mmにカットして短繊維を得た。
なお、表1〜表2の繊維処理剤付着時の形態の欄に示すとおり、実施例1〜7及び比較例1〜4は、繊維へ繊維処理剤を付着させた例であり、実施例8及び9、及び比較例5は後述するように不織布へ繊維処理剤を付着させた例である。
【0035】
(繊維処理剤の組成)
各例で使用した繊維処理剤の組成を表1〜表2に示す。この組成の単位は質量%で、繊維処理剤中の有効成分の全量で100質量%とする。
表1〜2中の繊維処理剤の成分を以下のように略号で示す。
A:オクチルホスフェートカリウム塩
B:ジメチルオクタデシルグリシンヒドロキサイド
C:クエン酸
D1:ラウリルホスフェートカリウム塩
D2:トリデシルホスフェートカリウム塩
E:ポリオキシエチレン変性シリコーン
F:ポリオキシエチレン(20モル)カスターワックスのマレイン酸エステル(2:1モル比)とステアリン酸とのエステル(2:1モル比)
【0036】
(不織布加工)
実施例1〜7及び比較例1〜4では、上記工程で得られた短繊維をローラーカード試験機((有)大和機工製)にて繊維ウェブとし、このウェブをサクションドライヤーで、表1〜表2記載の温度のスルーエア加工(表1及び2中の略号としてTA)にて熱接着させ、目付が約23±2g/m2の不織布を得た。
【0037】
<実施例8、9及び比較例5>
実施例8では、上記の繊維の製造において、繊維処理剤を付着させずに得た短繊維をローラーカード試験機((有)大和機工製)にて繊維ウェブとし、このウェブをサクションドライヤーで、表2記載の温度のスルーエア加工(略号としてTA)にて熱接着させ、目付が約23±2g/m2の不織布を得た。
また、実施例9、及び比較例5では、表2に記載の樹脂を用い、スパンボンド法にてスパンボンド不織布を得た。具体的には、同心鞘芯型の断面になる紡糸口金を用いて、表2記載の押出温度で繊維断面の体積比が50/50となるように押出量を調整し、紡糸口金から吐出した複合長繊維群をエアーサッカーに導入して索引延伸し、2.2dtexの繊維径とし、続いてエアーサッカーにより排出された前記長繊維群を帯電装置により同電荷を付与させ帯電させた後、反射板に衝突させて開繊し、開繊した長繊維群を裏面に吸引装置を設けた無端ネット状コンベアー上に、長繊維ウェッブとして捕集し、線圧80N/mm、圧着面積率21%のエンボスロール(凸部)/フラットロールで部分熱圧着加工(表2中の略号としてPB)を施し、目付が約23±2g/m2の不織布を得た。
これらの不織布を表2に示す繊維処理剤のエマルションの中に浸漬した後、所定の付着量になるように脱水、乾燥させた。
【0038】
(処理剤の付着量測定)
繊維を製造する工程内で繊維処理剤を付着させた短繊維の場合は、該繊維をローラーカード試験機にて繊維ウェブとしたもの2gを用いて、迅速残脂抽出装置(東海計器(株)製「R−II型」)で測定を行った。不織布に加工した後に繊維処理剤を付着させた場合は、不織布2gを用いて、測定を行った。抽出溶媒としてメタノール25mlを用いた。
以下の式で付着量を算出した。
処理剤の付着量(質量%)=抽出量(g)÷2×100
【0039】
(耐変色試験)
繊維を製造する工程内で繊維処理剤を付着させた短繊維の場合は、該繊維をローラーカード試験機にてカードウェブとし、このウェブをニードルパンチ加工法にて目付が200±20g/m2の不織布としたものを縦8cm×横8cmにカットして試験サンプルとした。
不織布に加工した後に繊維処理剤を付着させた場合は、該不織布を縦80mm×横80mmにカットし、合計の目付が200±20g/m2になるように重ね合わせたものを試験サンプルとした。試験サンプルを石油ストーブ火源の上部80cmに設置し(雰囲気温度は100±5℃)燃焼ガスに3時間暴露した後に試料を取り出した。色差計(スガ試験(株)製「Model SM−4」)にて試験前後の試験サンプルの表面のYI(Yellow Index)の数値を測定し、その差であるΔYIを算出した。
なお、試験結果については、ΔYIの数値が、6以下であれば、耐変色性が非常に優れていることから、‘A’と表記した。また、7〜8の数値であれば‘B’としたが、9以上の数値では変色性が高いと言えることから、‘C’と表記した。
【0040】
(吸収試験)
EDANA RECOMMEND TEST METHODSのNONWOVENS/LIQUID STRIKE−THROUGH TIMEに準じた吸液試験を行った。また、これを3回繰り返して耐久親水性を試験した。試験装置として、Lenzing Instruments社「Lister」を用いた。試験サンプルとして、不織布に加工したものを縦100mm×横100mmでカットしたものを用いた。濾紙(吸水紙)として、「キムタオルワイパーホワイト((株)クレシア製)」を用いた。
なお、吸液試験の結果は、吸液に要した時間によって以下のように3段階に分けて表記した。
[短繊維をスルーエア加工して不織布としたもの]
0.5sec以下であれば、吸液性に非常に優れているとして‘A’とした。
0.5secを越えて1.0sec未満では‘B’とした。
1.0sec以上は、吸液性に劣るとして‘C’とした。
[スパンボンド法にて部分熱圧着加工して不織布としたもの]
1.5sec以下であれば、吸液性に非常に優れているとして‘A’とした。
1.5secを越えて2.0sec未満では‘B’とし、
2.0sec以上は、吸液性に劣るとして‘C’とした。
【0041】
3回目の吸液試験の結果を、耐久親水性の指標とし、吸液に要した時間によって以下のように3段階に分けて表記した。
[短繊維をスルーエア加工して不織布としたもの]
1.5sec以下であれば、耐久親水性に非常に優れているとして‘A’とした。
1.5secを越えて2.0sec未満では‘B’とした。
2.0sec以上は、耐久親水性に劣るとして‘C’とした。
[スパンボンド法にて部分熱圧着加工して不織布としたもの]
3.0sec以下であれば、耐久親水性に非常に優れているとして‘A’とした。
3.0secを越えて4.0sec未満では‘B’とした。
4.0sec以上は、耐久親水性に劣るとして‘C’とした。
【0042】
各実施例及び比較例について、繊維及びその繊維を用いた不織布を得た条件、及びそれらの性能を上記試験及び測定方法に基づき試験、測定した結果を以下の表1及び表2に合わせて示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の繊維は、アルキルホスフェート金属塩、トリアルキルグリシン誘導体、及びヒドロキシカルボン酸を所定量で含む繊維処理剤を付着させていることによって、優れた耐変色性と吸液性及び耐久親水性を併せ持つ繊維である。本発明の実施にあたって、繊維処理剤の有効成分としてさらにポリオキシアルキレン変性シリコーン、及びヒドロキシステアリン酸グリセライドのアルキレンオキシド付加物とマレイン酸とのエステルであり、かつ該エステルの水酸基をモノカルボン酸で封鎖した化合物を付着させることで、よりよい繊維を提供できる。
更に、本発明の繊維から構成されている例えば不織布といった繊維成形体は、高い吸液性と高い耐久親水性を有し、かつ、耐変色性に極めて優れていることから、おむつ、ナプキン、失禁パット等の吸収性物品、ガウン、術衣等の医療衛生材、壁用シート、障子紙、床材等の室内内装材、カバークロス、清掃用ワイパー、生ゴミ用カバー等の生活関連材、使い捨てトイレ、トイレ用カバー等のトイレタリー製品、ペットシート、ペット用おむつ、ペット用タオル等のペット用品、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材、インクタンク用吸着材等の産業資材、一般医療材、寝装材、介護用品など様々な繊維製品への用途に有利に使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑性樹脂を主体とする繊維であって、下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む繊維処理剤が付着している繊維であり、該繊維処理剤の有効成分基準で、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各々の構成比率が3質量%以上で10質量%未満であり、成分(D)の構成比率が40〜60質量%であり、成分(A)の構成比率(質量%)と成分(C)の構成比率(質量%)とが成分(C)≦成分(A)を満たすことを特徴とする繊維。
成分(A):アルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩
成分(B):トリアルキルグリシン誘導体
成分(C):ヒドロキシカルボン酸
成分(D):アルキル基の炭素数が10〜14のアルキルホスフェート金属塩
【請求項2】
該繊維処理剤が、該繊維処理剤の有効成分基準で、さらに下記の成分(E)を10〜20質量%、及び成分(F)を15〜25質量%の構成比率で含んでいる、請求項1記載の繊維。
成分(E):ポリオキシアルキレン変性シリコーン
成分(F):ヒドロキシステアリン酸グリセライドのアルキレンオキシド付加物とマレイン酸とのエステルであり、かつ該エステルの水酸基を炭素数10〜22のモノカルボン酸で封鎖した化合物
【請求項3】
請求項1または2に記載の繊維を主体として構成されている繊維成形体。
【請求項4】
不織布である請求項3記載の繊維成形体。
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑性樹脂を主体とする繊維であって、下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む繊維処理剤が付着している繊維であり、該繊維処理剤の有効成分基準で、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の各々の構成比率が3質量%以上で10質量%未満であり、成分(D)の構成比率が40〜60質量%であり、成分(A)の構成比率(質量%)と成分(C)の構成比率(質量%)とが成分(C)≦成分(A)を満たすことを特徴とする繊維。
成分(A):アルキル基の炭素数が10未満のアルキルホスフェート金属塩
成分(B):トリアルキルグリシン誘導体
成分(C):ヒドロキシカルボン酸
成分(D):アルキル基の炭素数が10〜14のアルキルホスフェート金属塩
【請求項2】
該繊維処理剤が、該繊維処理剤の有効成分基準で、さらに下記の成分(E)を10〜20質量%、及び成分(F)を15〜25質量%の構成比率で含んでいる、請求項1記載の繊維。
成分(E):ポリオキシアルキレン変性シリコーン
成分(F):ヒドロキシステアリン酸グリセライドのアルキレンオキシド付加物とマレイン酸とのエステルであり、かつ該エステルの水酸基を炭素数10〜22のモノカルボン酸で封鎖した化合物
【請求項3】
請求項1または2に記載の繊維を主体として構成されている繊維成形体。
【請求項4】
不織布である請求項3記載の繊維成形体。
【公開番号】特開2012−233273(P2012−233273A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101338(P2011−101338)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】
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