説明

耐屈曲ケーブル

【課題】子撚導線同士の摩耗を最小限に抑え、十分な耐屈曲性及び引張強度を得ることができる耐屈曲ケーブルを提供する。
【解決手段】複数本の素線2を撚った子撚導線3a及び3bを円周方向に複数本並べると共にこれを撚り合わせて撚線4を形成し、撚線4の外周に絶縁体層5、補強編組層6、シース7を順次被覆して形成した耐屈曲ケーブル1において、円周方向で隣接する子撚導線3a及び3bの素線の撚り方向を互いに異ならせたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電動ブレーキ用ケーブルなど耐屈曲性、引張強度が要求される環境に用いられる耐屈曲ケーブルに係り、特に、内部の導体構造が子撚導線を撚り合わせた構造となっている耐屈曲ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車においては、各種機器の電気化が進んでいることから、電動ブレーキ用ケーブルを始めとする各種自動車用ケーブルが使用されている。自動車用ケーブルは、過酷な条件下で使用されることから、耐屈曲性、引張強度といった特性が要求される。例えば、電動ブレーキ用ケーブルは、サスペンションの動作(駆動)による揺動が頻繁に加わることから、耐屈曲性、引張強度が要求される。
【0003】
耐屈曲性、引張強度が要求される環境に用いられる自動車用ケーブルとしては、図4に示すような耐屈曲ケーブル40が提案されている。
【0004】
耐屈曲ケーブル40は、複数本の素線を撚った子撚導線41を、複数本撚り合わせてなる撚線42の外周に、絶縁体層43、補強編組層44、シース45を順次被覆して形成され、シース45下の補強編組層44によって耐屈曲性、引張強度を向上させている。
【0005】
このように子撚導線を撚り合わせた構造のケーブルでは、撚線を構成する子撚導線同士が接触しているため、屈曲を受けるとその接触部に応力が掛かる。この応力を繰返し受けることにより、最終的にケーブルが断線してしまう可能性がある。
【0006】
従来、この問題を解決するために、撚線の中心に配置される子撚導線を他の子撚導線よりも小径とした自動車用アルミケーブルや(特許文献1)、撚線を構成する子撚導線の少なくとも1本に潤滑剤を塗布した自動車用アルミケーブル(特許文献2)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−87436号公報
【特許文献2】特開2003−303517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような補強編組層を有する耐屈曲ケーブルでは、撚線に補強編組層からの締め付け圧が付与される上、強靱な補強編組層に覆われていることで、屈曲時に子撚導線が逃げる余裕がなく、屈曲時には子撚導線同士の接触部に強い接触圧が掛かり、子撚導線同士が揺動することで接触部に摩耗が発生する。
【0009】
そのため、例え、特許文献1,2に記載されたような構造を耐屈曲ケーブル40に適用したとしても、自動車用ケーブルに要求される耐屈曲性を十分に満たすとは言えず、過酷な条件下では断線の虞があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、子撚導線同士の摩耗を最小限に抑え、十分な耐屈曲性及び引張強度を得ることができる耐屈曲ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、複数本の素線を撚った子撚導線を円周方向に複数本並べると共にこれを撚り合わせて撚線を形成した耐屈曲ケーブルにおいて、円周方向で隣接する子撚導線の素線の撚り方向を互いに異ならせた耐屈曲ケーブルである。
【0012】
請求項2の発明は、前記子撚導線を中心介在の外周に複数本並べると共にこれを撚り合わせて前記撚線を形成した請求項1に記載の耐屈曲ケーブルである。
【0013】
請求項3の発明は、前記子撚導線をダミー線の外周に複数本並べると共にこれを撚り合わせた後、前記ダミー線を抜き取って前記撚線を形成した請求項1に記載の耐屈曲ケーブルである。
【0014】
請求項4の発明は、前記撚線の中心部が中心介在であることを特徴とする請求項1に記載の耐屈曲ケーブルである。
【0015】
請求項5の発明は、前記撚線の中心部が中空であることを特徴とする請求項1に記載の耐屈曲ケーブルである。
【0016】
請求項6の発明は、前記撚線の外周に絶縁体層、補強編組層、シースを順次被覆して形成した請求項1〜5のいずれかに記載の耐屈曲ケーブルである。
【0017】
請求項7の発明は、前記隣接する子撚導線の素線の撚りピッチを互いに等しくした請求項1〜6のいずれかに記載の耐屈曲ケーブルである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シース下に補強編組層を有する耐屈曲ケーブルにおいて、子撚導線同士の摩耗を最小限に抑え、十分な耐屈曲性及び引張強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係る耐屈曲ケーブルを示す横断面図である。
【図2】本発明の耐屈曲ケーブルの導体構造を示す側面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態に係る耐屈曲ケーブルを示す横断面図である。
【図4】従来の耐屈曲ケーブルを示す横断面図である。
【図5】図4の耐屈曲ケーブルにおける断線メカニズムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0021】
先ず、図4に示した従来の耐屈曲ケーブル40における断線メカニズムを説明する。
【0022】
従来の耐屈曲ケーブル40は、主に素線の撚り方向が同じ子撚導線41を用いて撚線42を形成していた。そのため、隣接する子撚導線41の表面部の素線は互いに交差する方向で接触する(図5参照)。交差部では点接触となるので、即ち、接触面積が小さくなるので、接触部の接触圧が高くなり屈曲するとより強い応力を受け、ケーブルが断線する。
【0023】
また、耐屈曲ケーブル40では、ケーブルが捻れたりして加工性が悪化するのを防止するため、例えば、経験的に中心の子撚導線41をS撚り、その外周の子撚導線41をZ撚りとしてケーブルの捻れを抑制するようにしている。
【0024】
このように構成した撚線42では、中心の子撚導線41とその外周の子撚導線41は素線の撚り方向が互いに異なるため、表面部の素線は互いに平行に近い方向で接触(線接触)させることができる。また、中心の子撚導線41とその外周の子撚導線41の撚りピッチ(素線が360°回転するのに要する長手方向の距離)、撚線42の撚りピッチを互いに等しくすることにより、表面部の素線は互いに平行な方向で接触(線接触)させることができる。従って、接触部の面積が大きくなり、屈曲によって受ける応力集中を緩和することができる。
【0025】
しかし、中心の子撚導線41はその外周の子撚導線41と比べて撚りによる変形(曲げ変形など)が小さいため、屈曲時には、表面部の素線が必ずしも平行な方向で接触するとは言えず、やはりこの部分も屈曲時に強い応力を受け断線の起点となる場合があった(図5参照)。
【0026】
本発明者らは、これらの断線メカニズムを考慮し、隣接する子撚導線の素線がケーブル長手方向に亘って略平行な方向で接触するような導体構造の耐屈曲ケーブルを発明した。
【0027】
図1は、本実施の形態に係る耐屈曲ケーブルを示す横断面図であり、図2は、その導体構造を示す側面図である。
【0028】
図1及び図2に示すように、本実施の形態に係る耐屈曲ケーブル1においては、複数本の素線2を撚った子撚導線3a(S撚り)及び3b(Z撚り)を円周方向に複数本並べると共にこれを撚り合わせて撚線4を形成し、円周方向で隣接する子撚導線3a及び3bの素線の撚り方向を互いに異ならせたことを特徴とする。
【0029】
このように、素線2を撚り合わせた子撚導線3a及び3bをさらに撚り合わせて撚線4を形成するのは、ケーブルの耐屈曲性を向上させるためである。
【0030】
撚線4は、素線の撚り方向が異なる子撚導線3a及び3bを交互に中心介在8の外周に複数本並べると共にこれを撚り合わせて形成される。つまり、このとき、撚線の中心部は中心介在である。また、本実施の形態に係る耐屈曲ケーブル1は、撚線4の外周に絶縁体層5、補強編組層6、シース7を順次被覆して形成されるが、本発明は、特にこの構造に限定されるものではなく、耐屈曲ケーブルに求められる特性に応じて適宜変更してもよい。
【0031】
中心介在8は、例えば、シリコンチューブや樹脂紐からなり、ケーブルが屈曲したときに外周に撚り合わされた子撚導線3a及び3bを逃がして、子撚導線3a及び3bに掛かる応力を低減することができるように配置するものである。また、中心介在8は、子撚導線3a及び3bを円状に撚り合わせるための芯材としての機能も有する。
【0032】
なお、隣接する子撚導線3aと子撚導線3bの素線の撚りピッチを互いに等しくなるように構成するとよい。これにより、隣接する子撚導線3a及び3bの表面部の素線2が平行な方向で接触する。
【0033】
子撚導線3a又は3bは芯材として用いない。その理由は以下の通りである。
【0034】
子撚導線3a(3b)を芯材として用いた場合、芯材としての中心の子撚導線3a(3b)とその外周の子撚導線3b(3a)は素線の撚り方向が互いに異なるため、表面部の素線は互いに平行に近い方向で接触(線接触)させることができる。また、芯材としての中心の子撚導線3a(3b)とその外周の子撚導線3b(3a)の撚りピッチを互いに等しくすることにより、表面部の素線は互いに平行な方向で接触(線接触)させることができる。従って、接触部の面積が大きくなり、屈曲によって受ける応力集中を緩和することができる。
【0035】
しかし、外周の子撚導線3aと3bとは、撚り方向が互いに異なるため、外周の子撚導線3a(3b)の素線と、芯材の子撚導線3a(3b)の素線とは、平行に近い方向で接触(線接触)させることができない。その結果、外周の子撚導線3a(3b)の素線と、芯材の子撚導線3a(3b)の素線とは、必ず点接触となり、断線の起点となることから、子撚導線を芯材として用いない。
【0036】
補強編組層6を構成する繊維材としては、ケーブルの屈曲疲労を考慮すると、耐疲労性及び耐摩耗性に優れた材料を用いることが好ましい。この補強編組層6は、把持力、レイアウト保持性、及び引張強度を向上させるための層である。また、シース7の構成材としては、耐熱性、耐候性、及び耐油性が良好なものが好ましい。
【0037】
この耐屈曲ケーブル1では、シース7下に補強編組層6を設けているため、引張強度を向上させることができる。
【0038】
また、素線の撚り方向が異なる子撚導線3a及び3bを交互に中心介在8の外周に複数本並べると共にこれを撚り合わせて撚線4を形成しているので、隣接する子撚導線3a及び3bの表面部の素線をケーブル長手方向に亘って平行な方向で接触させることができ、即ち、線接触させることができ、従来の耐屈曲ケーブル40に比べて大幅に接触面圧を低下させることが可能となり、屈曲時に掛かる応力を低減することができる。つまり、耐屈曲性を大幅に向上させることができる。例えば、従来の耐屈曲ケーブル40では屈曲試験10万回程度で断線していたが、耐屈曲ケーブル1では数10万回〜100万回程度の屈曲寿命を得ることができる。
【0039】
以上、要するに、本実施の形態に係る耐屈曲ケーブル1によれば、子撚導線3a及び3b同士の摩耗を最小限に抑え、十分な耐屈曲性及び引張強度を得ることができる。
【0040】
本実施の形態では、中心介在8の外周に子撚導線3a及び3bを並列し撚り合わせて撚線4を形成したが、図3に示すように、撚線4の中心部を中空としてもよい。このように構成するためには、例えば、子撚導線3a及び3bをダミー線の外周に複数本並べると共にこれを撚り合わせた後、ダミー線を抜き取って撚線9を形成するとよい。この撚線9を用いた耐屈曲ケーブル30でも、上述の耐屈曲ケーブル1と同様に、子撚導線3a及び3b同士の摩耗を最小限に抑え、十分な耐屈曲性及び引張強度を得ることができる。
【0041】
また、撚線4の中心部を中空とした本実施の形態に係る耐屈曲ケーブル1も、撚線4の外周に絶縁体層5、補強編組層6、シース7を順次被覆して形成されるが、本発明は、特にこの構造に限定されるものではなく、耐屈曲ケーブルに求められる特性に応じて適宜変更してもよい。
【0042】
また、撚線4の中心部を中空とした本実施の形態においても、隣接する子撚導線3aと子撚導線3bの素線の撚りピッチを互いに等しくなるように構成するとよい。これにより、隣接する子撚導線3a及び3bの表面部の素線2が平行な方向で接触(線接触)する。
【0043】
なお、上述の耐屈曲ケーブル1,30にシールド層を設けてシールドケーブルとしてもよい。この場合、シールド層は、導体を横巻きして形成することで、耐屈曲性に優れたシールド層とすることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 耐屈曲ケーブル
2 素線
3a 子撚導線(S撚り)
3b 子撚導線(Z撚り)
4 撚線
5 絶縁体層
6 補強編組層
7 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の素線を撚った子撚導線を円周方向に複数本並べると共にこれを撚り合わせて撚線を形成した耐屈曲ケーブルにおいて、
円周方向で隣接する子撚導線の素線の撚り方向を互いに異ならせたことを特徴とする耐屈曲ケーブル。
【請求項2】
前記子撚導線を中心介在の外周に複数本並べると共にこれを撚り合わせて前記撚線を形成した請求項1に記載の耐屈曲ケーブル。
【請求項3】
前記子撚導線をダミー線の外周に複数本並べると共にこれを撚り合わせた後、前記ダミー線を抜き取って前記撚線を形成した請求項1に記載の耐屈曲ケーブル。
【請求項4】
前記撚線の中心部が中心介在であることを特徴とする請求項1に記載の耐屈曲ケーブル。
【請求項5】
前記撚線の中心部が中空であることを特徴とする請求項1に記載の耐屈曲ケーブル。
【請求項6】
前記撚線の外周に絶縁体層、補強編組層、シースを順次被覆して形成した請求項1〜5のいずれかに記載の耐屈曲ケーブル。
【請求項7】
前記隣接する子撚導線の素線の撚りピッチを互いに等しくした請求項1〜6のいずれかに記載の耐屈曲ケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−192533(P2011−192533A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57752(P2010−57752)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】