説明

耐摩耗性難燃組成物

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は耐摩耗性難燃組成物に関するものであり、更に詳しくは、燃焼時にハロゲンガスなどの有毒ガスの発生がないと同時に燃焼時にチャー(炭化層)形成による耐ドリップ性があり、可撓性、機械的特性、耐薬品性を保持し、特に耐摩耗性および耐熱性にすぐれ、かつ高難燃性を示す難燃性組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリオレフィン系樹脂は物理的性質及び化学的性質にすぐれるところから、押出成形、射出成形等の種々の成形法でフィルム、シート、パイプ、容器、電線、ケーブル等に成形され、家庭用、工業用として多くの用途に用いられる最も需要の多い汎用樹脂である。上記ポリオレフィン系樹脂は、易燃性であるため、これを難燃化するための方法が従来から種々提案されている。その最も一般的な方法としては、該ポリオレフィン系樹脂にハロゲンまたはリン系等の有機難燃剤を添加することにより難燃化する方法である。しかしながら、これらの難燃剤は少量の配合量で効果を有するものの、燃焼時に有害なガスを発生するという欠点を有している。そこで最近では、燃焼時に有害ガスの発生がなく、低煙性で、無公害型の難燃剤として水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの無機金属化合物の水和物を添加する方法が種々検討されている(特開平2ー53845号公報、特開平2ー145632号公報)。しかるに、無機系難燃剤を使用した難燃性組成物においては、その難燃性を高めるためには無機系難燃剤を高充填する必要がある。しかし、充填量を高めると機械的強度や可撓性、加工性が低下するばかりでなく、耐摩耗性を著しく損なうという欠点を生じるので、製造時、配線・組み立て時、搬送時あるいは通常の使用時に、高温の苛酷な条件下で振動、摩擦などにより外傷を受け易く、しかも難燃性とともに耐摩耗性が要求されるような電線・ケーブルなどの電気絶縁材料、保護管、ジョイントカバーなどの電気材料、シート、床材などの内装材、キャビネット、ボックスなどの成形品に対しては適用できないという問題がある。これらの問題を解決するために、架橋助剤の存在下で架橋する技術(特開昭62ー252442号公報、特開昭62ー275139号公報)、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体で変成されたエチレン−α−オレフィン共重合体を用いる方法(特開昭62ー10149号公報)、ポリオレフィン系樹脂に分子内にカルボキシル基またはカルボン酸塩を含むエチレン系樹脂と分子内にマレイン酸または無水マレイン酸を付加した熱可塑性エラストマーを混合した混合物をベースポリマーとする方法(特開平2ー53845号公報)などが開示されているが、いずれも加工性、耐摩耗性に改良の余地があり、さらなる改良が求められている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の耐摩耗性難燃組成物は、燃焼時にハロゲンガスなどの有毒ガスの発生がなく、かつ、機械的強度、可撓性、加工性、高度の難燃性を保持させながら耐摩耗性、耐熱性を向上せしめたバランスの良い諸物性を有する難燃組成物を提供するものであり、該組成物は、フィルム、シート、容器、電線、ケーブル、パッキング、シール剤、ホース類、射出製品等の成形用途として利用されるものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、(I) A)密度0.94 g/cm3以上のポリエチレンB)下記(B1)〜(B4)から選ばれた少なくとも1種のエチレン(共)重合体またはゴム(B1)密度が0.86〜0.94 g/cm3未満の高圧ラジカル重合法による低密度ポリエチレンまたはエチレン・αーオレフィン共重合体、(B2)エチレンービニルエステル共重合体、(B3)エチレンーα, βー不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、(B4)ゴム、を含む重合体成分(I)100重量部と、(II) 無機系難燃剤 30〜200重量部を含む組成物であって、重合体成分(I)中の密度0.94 g/cm3以上のポリエチレン(A)の含有量が50〜90重量%、エチレン(共)重合体またはゴム(B)の含有量が50〜10重量%であり、かつ重合体成分(I)中に下記a〜fから選択された少なくとも1種の官能基を、全重合体成分1g当たり10-8〜10-3g当量を有していることを特徴とする耐摩耗性高難燃組成物である。
a:カルボン酸基または酸無水基、b:エポキシ基、c:ヒドロキシル基、d:アミノ基、e:アルケニル環状イミノエーテル基f:シラン基
【0005】以下、本発明を詳細に説明する。本発明におけるA)成分の密度0.94 g/cm3以上のポリエチレンとは、公知技術のチーグラー系触媒などを用いて、液相法または気相法で中低圧で重合される高密度ポリエチレンで、エチレン単独またはエチレンと炭素数3〜12のαーオレフィンの共重合体およびそれらの混合物であり、具体的なαーオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1ーヘキセン、1−オクテン、1−ドデセン等を挙げることができる。上記高密度ポリエチレンのメルトフローレート(MFRと称する)は、0.01〜20g/10min.、好ましくは0.1〜10g/10min.、さらに好ましくは0.5〜7g/10min.の範囲から選択することが望ましい。MFRが0.01g/10min.未満では、加工性が低下し、20g/10min.以上では、耐摩耗性が不十分となる。
【0006】本発明における B)成分とは、(B1)密度が0.86〜0.94g/cm3 未満の高圧ラジカル重合法による低密度ポリエチレンまたはエチレン・αーオレフィン共重合体、(B2)エチレンービニルエステル共重合体、(B3)エチレンーα,βー不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、(B4)ゴムから選ばれた少なくとも1種であるエチレン(共)重合体またはゴムである。
【0007】該(B1)密度0.86〜0.94 g/cm3未満の高圧ラジカル重合法による低密度ポリエチレンまたはエチレン・αーオレフィン共重合体とは、高圧ラジカル重合法による密度0.91〜0.94 g/cm3未満の低密度ポリエチレン(以下LDPEと略す)および、チーグラー触媒などを用いる中低圧法及びその他の公知の方法による密度0.86〜0.91 g/cm3未満のエチレンと炭素数3〜12のαーオレフィンとの共重合体(超低密度ポリエチレン、以下VLDPEと略す)や、密度0.91〜0.94 g/cm3未満のエチレンと炭素数3〜12のαーオレフィンとの共重合体(直鎖状低密度ポリエチレン、以下LLDPEと略す)である。炭素数3〜12のαーオレフィンの具体的な例としては、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1ーヘキセン、1−オクテン、1−ドデセンなどを挙げることができる。これらのうち好ましいのは1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1ーヘキセン、1−オクテンであり、とくに好ましいのは1ーブテンである。エチレン共重合体中のαーオレフィン含有量は5〜40モル%であることが好ましい。
【0008】本発明のVLDPEとは、密度が0.86 g/cm3〜0.91 g/cm3未満であり、示差走査熱量測定法(DSC)による最大ピーク温度(Tm )100℃以上、かつ沸騰n−ヘキサン不溶分10重量%以上の性状を有し、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)とエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとの中間の性状を示すポリエチレンである。更に詳しくは、エチレンと炭素数3〜12のαーオレフィンとの共重合体であって、このVLDPEはLLDPEが示す高結晶部分とエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムが示す非晶部分とを合わせ持つ樹脂であって、前者の特徴である機械的強度、耐熱性などと、後者の特徴である自己粘着性、ゴム状弾性、耐低温衝撃性などがバランスよく共存しており、本発明に用いるときは極めて有用である。該VLDPEは、少なくともマグネシウムとチタンを含有する固体触媒成分に有機アルミニウム化合物を組み合わせた触媒系を用いて製造することができる。
【0009】本発明の(B2)エチレンービニルエステル共重合体は、高圧ラジカル重合法で製造されるエチレンを主成分とするプロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオル酢酸ビニルなどのビニルエステル単量体との共重合体である。これらの中でも特に好ましいものとしては、エチレンー酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと略す)を挙げることができる。
【0010】本発明の(B3)エチレンーα, βー不飽和カルボン酸アルキルエステルまたはその誘導体との共重合体としては、エチレンーα, βー不飽和カルボン酸エステル共重合体、およびそれらの金属塩、アミド、イミド等が挙げられるが、好ましくは高圧ラジカル重合法で製造される。具体的にはエチレンー(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレンー(メタ)アクリル酸エチル共重合体などが挙げられ、特にエチレンーアクリル酸エチル共重合体(以下、EEAと略す)が挙げられる。
【0011】本発明の(B4)ゴムとしては、エチレンプロピレン系ゴム、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、イソブチレンゴムなどが挙げられ、これらは単独でも混合物でもよい。
【0012】上記エチレンプロピレン系ゴムとしては、エチレンおよびプロピレンを主成分とするランダム共重合体(EPM)、および第3成分としてジエンモノマー(ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン等)を加えたものを主成分とするランダム共重合体(EPDM)が挙げられる。
【0013】上記ブタジエン系ゴムとは、ブタジエンを構成要素とする共重合体をいい、スチレンーブタジエンブロック共重合体(SBS)およびその水添または部分水添誘導体であるスチレンーブタジエンーエチレン共重合体(SBES)、1, 2ーポリブタジエン(1, 2ーPB)、無水マレイン酸ーブタジエンースチレン共重合体、コアシェル構造を有する変性ブタジエンゴム等が例示される。
【0014】上記イソプレンゴムとは、イソプレンを構成要素とする共重合体をいい、スチレンーイソプレンブロック共重合体(SIS)およびその水添または部分水添誘導体であるスチレンーイソプレンーエチレン共重合体(SIES)、コアシェル構造を有する変性イソプレンゴム等が例示される。
【0015】本発明におけるB)成分のエチレン(共)重合体またはゴムの中では、エチレンー酢酸ビニル共重合体、エチレンーアクリル酸エチル共重合体が好ましい。エチレンー酢酸ビニル共重合体としては、エチレン50〜99.5重量%、酢酸ビニル0.5〜50重量%からなる共重合体が好ましい。エチレンーアクリル酸エチル共重合体としては、エチレン50〜99.5重量%、アクリル酸エチルエステル0.5〜50重量%からなる共重合体が好ましい。該エチレンー酢酸ビニル共重合体や該エチレンーアクリル酸エチル共重合体のメルトフローレート(MFR)は、0.1〜50g/10min.、好ましくは0.5〜20g/10min.の範囲から選択することが望ましい。該MFRが0.1g/10min.未満では、樹脂組成物の流動性が悪くなり、50g/10min.以上では、引張強度などの低下が起こり望ましくない。また、該EVAや該EEAのVA含有量またはEA含有量は0.5〜50重量%、好ましくは5〜30重量%のものが物理的、経済的な理由から選択される。
【0016】本発明の組成物は、A)成分、B)成分を必須成分とする重合体成分(I)100重量部と、(II)成分の無機系難燃剤が30〜200重量部とからなり、かつ重合体成分(I)中にa:カルボン酸基または酸無水基、b:エポキシ基、c:ヒドロキシル基、d:アミノ基、e:アルケニル環状イミノエーテル基、f:シラン基から選択された少なくとも1種の官能基が、全重合体成分1g当たり10-8〜10-3g当量の範囲にあることが肝要である。
【0017】上記重合体成分(I)中のA)成分とB)成分の配合割合は、A)成分が50〜90重量%、B)成分が50〜10重量%の範囲で、好ましくはA)成分が60〜80重量%、B)成分が40〜20重量%の範囲から選択するとよい。A)成分の配合割合が50重量%未満またはB)成分の配合割合が50重量%を超える場合は剛性、耐熱性、耐摩耗性、加工性が劣り、A)成分の配合割合が90重量%を超える場合またはB)成分の配合割合が10重量未満の場合は、高度の難燃性を達成するために多量の無機系難燃剤を充填すると耐衝撃性、特に低温下における耐衝撃性、機械的強度などが低下する。したがって、上記の範囲から選択するのがよい。
【0018】前記官能基a:カルボン酸基または酸無水基を導入する化合物としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸またはこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸等の不飽和モノカルボン酸等が挙げられる。
【0019】官能基b:エポキシ基を導入する化合物としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステルおよびα−クロロアクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマール酸等のグリシジルエステル類またはビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレンなどが挙げられるが、特に好ましいものとしてはメタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエ−テルを挙げることができる。
【0020】官能基c:ヒドロキシル基を導入する化合物としては、1−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】官能基d:アミノ基を導入する化合物としては、アミノエチル(メタ)アクリレート、プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】官能基e:アルケニル環状イミノエーテル基を導入する化合物としては、以下の構造式(化1)で表されるものである。
【0023】
【化1】


【0024】ここでnは1、2及び3であり、好ましくは2及び3、より好ましくは2である。またR1 ,R2 ,R3 ,RはそれぞれC1 〜C12の不活性なアルキル基及び/または水素を示し、アルキル基にはそれぞれ不活性な置換基があってもよい。ここでいう不活性とはグラフト反応やその生成物の機能に悪影響を及ぼさないことを意味する。またRはすべて同一である必要はない。好ましくは R1 =R2=H,R3 =HあるいはMe,R=Hすなわち、2−ビニル及び/または2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル及び/または2−イソプロペニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンである。これらは単独でも混合物でもよい。この中でも特に2−ビニル及び/または2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが好ましい。
【0025】官能基f:シラン基を導入す化合物としては、ビニルトリメトキシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセチルシラン、ビニルトリクロロシランなどの不飽和シラン化合物が挙げられる。
【0026】本発明の重合体成分(I)中に官能基を導入する具体的な方法としては、■少なくとも1種の該官能基をA)、B)成分にグラフトした変性重合体として導入する方法、■該官能基を、エチレンと官能基含有化合物とのランダム共重合体として導入する方法、■上記A)成分、B)成分および少なくとも1種の該官能基とを有機過酸化物などの存在下で押出機で付加反応させて導入する方法などが挙げられる。
【0027】上記グラフトした変性重合体の官能基の付加量は、変性重合体1gに対して10-8〜10-5g当量、好ましくは10-7〜10-6g当量の範囲である。10-5g当量を超える濃度の付加量を有する変性重合体を製造することは難しい。また、エチレンまたはオレフィンとのランダム共重合体の場合においては、ランダム共重合体1gに対して10-6〜10-3g当量、好ましくは10-5〜10-4g当量の範囲である。10-3g当量を超える濃度の反応量を有するランダム共重合体を製造することは難しい。本発明において、全重合体量1g当たり含有される官能基の1g当量は、官能基を導入する化合物の1モルを意味する。これら官能基を含有する変性重合体またはエチレンと官能基含有化合物とのランダム共重合体の中でも特に密度0.91〜0.97g/cm3 の無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体が好ましく使用される。
【0028】本発明のグラフトした変性重合体の製造方法としては、ラジカル開始剤の存在下、または不存在下で前記官能基を有する化合物の少なくとも1種を溶融法または溶液法で、グラフトさせることにより得られる。これらの中では溶融法が好ましい。該ラジカル開始剤としては、有機過酸化物、ジヒドロ芳香族化合物、ジクミル化合物等の架橋剤が挙げられる。
【0029】該有機過酸化物としては、例えば、ヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジアルキル(アリル)パーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、ジプロピオニルパーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、パーオキシ琥珀酸、パーオキシケタール、2, 5ージメチルー2, 5ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等が好適に用いられる。
【0030】ジヒドロ芳香族化合物としては、ジヒドロキノリンまたはその誘導体、ジヒドロフラン、1,2−ジヒドロベンゼン、1,2−ジヒドロナフタレン、9,10−ジヒドロフェナントレン等が挙げられる。
【0031】ジクミル化合物の具体的例としては、2, 3ージメチルー2, 3ージフェニルブタン、2, 3ージエチルー2, 3ージフェニルブタン、2, 3ージエチルー2, 3ージ(p−メチルフェニル)ブタン、2, 3ージエチルー2, 3ージ(p−ブロモフェニル)ブタン等が例示され、特に2, 3ージエチルー2, 3ージフェニルブタンが好ましく用いられる。
【0032】本発明の重合体成分(I)中の該官能基は10-8〜10-3g当量の範囲になるように調整される。グラフト変性重合体を用いる場合には該官能基が10-8g当量未満では、またエチレンと官能基含有化合物化合物とのランダム共重合体を用いる場合には該官能基が10-6g当量未満では、重合体成分と(II)成分の無機系難燃剤とのカップリング効果が不十分となり、機械的強度が劣る。また、官能基の含有量が10-3g当量以上では、樹脂組成物の機械的強度や耐摩耗性が低下するおそれがある。また、組成物が燃焼した場合においてのチャー(炭化層)の形成が損なわれ、耐ドリップ性も低下するおそれが生じる。
【0033】本発明の(II)成分である無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、酸化スズの水和物、硼砂等の無機金属化合物の水和物、硼酸亜鉛、メタ硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウムーカルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化スズ等が挙げられる。
【0034】これらは1種または2種以上併用してもよい。これらの中でも特に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイトからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物の水和物、とりわけ水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが難燃効果がよく、経済的にも有利である。またこれら無機系難燃剤の粒径は、種類によって異なるが上記水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどにおいては、平均粒径が20μm以下、好ましくは10μm以下が好ましい。
【0035】本発明の(II)成分の無機系難燃剤の配合量は重合体成分(I)100重量部に対して30〜200重量部、好ましくは40〜150重量部である。該配合量が、30重量部未満では、無機系難燃剤単独では充分な難燃化が難しいので有機系難燃剤の併用が必要となる。一方200重量部を越える量を配合した場合には、耐摩耗性が劣り、耐衝撃強度の低下等の機械的強度の低下、可撓性がなくなり、かつ低温特性が劣る。
【0036】本発明では、上記組成物と無機充填剤を併用することにより、難燃剤の配合量を減少させることもできるし、他の特性を付与させることもできる。上記無機充填剤としては、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム、クレー、珪藻土、タルク、アルミナ、珪砂、ガラス粉、酸化鉄、金属粉、グラファイト、炭化珪素、窒化珪素、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、カーボンブラック、雲母、ガラス板、セリサイト、パイロフィライト、アルミフレーク、黒鉛、シラスパルーン、金属パルーン、ガラスパルーン、軽石、ガラス繊維、炭素繊維、ウイスカー、金属繊維、グラファイト繊維、シリコンカーバイト繊維、アスベスト、ウオラストナイト等が挙げられる。上記無機充填剤は本発明の組成物100重量部に対して100重量部程度まで適用される。上記配合量が100重量部を越えると成形品の衝撃強度等の機械的特性が低下するので好ましくない。
【0037】本発明においては、前記無機系難燃剤もしくは無機充填剤などを使用する場合においては、該難燃剤、充填剤の表面を、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸などの脂肪酸またはその金属塩、パラフィン、ワックス、ポリエチレンワックス、またはそれらの変性物、有機ボラン、有機チタネートなどで被覆するなどの表面処理を施すことが好ましい。
【0038】本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物を製造する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法で製造することができる。例えば、A)成分、B)成分を必須とする重合体成分(I)と、(II)成分の無機系難燃剤および必要に応じて、他の添加剤等を配合し、これらを通常のタンブラー等でドライブレンドしたり、あるいはバンバリーミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロール、等の通常の混練機で溶融混練して均一に分散して樹脂組成物の混合物あるいはそれらからなる成形物を製造する。また、本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物の混合物あるいはそれらからなる成形物を製造し、次いで、有機過酸化物、シラン系架橋剤あるいは電離性放射線等により架橋して使用してもよい。通常の混練機で溶融混練して均一に分散して樹脂組成物の混合物あるいはそれらからなる成形物を製造すると同時に架橋物が得られるようにしてもよい。
【0039】
【作用】本発明の組成物中のA)成分の密度0.94 g/cm3以上のポリエチレンは、加工性、耐摩耗性、耐熱性、剛性、機械的強度を高める役割を有する。B)成分のエチレン(共)重合体またはゴムは、高度の難燃化を保持するために多量の無機系難燃剤を配合した場合において、機械的強度を低下させることなく、可撓性、耐衝撃性などを高める役割を有する。(II)成分の無機系難燃剤は、ハロゲンフリーの高度の難燃化を達成させる役割を有する。重合体成分(I)中の官能基は、重合体成分(I)と(II)成分の無機難燃剤とのカップリング効果と、樹脂相互の相溶性を高め、機械的強度、耐摩耗性、耐熱性および加工性を改良するとともに、燃焼時のチャー(炭化層)形成による耐ドリップ性を向上させる役割を有する。
【0040】本発明において、本発明の耐摩耗性難燃組成物の物性を損なわない範囲で、■鉱油、ワックス、パラフィン類、■高級脂肪酸およびそのエステル、アミドもしくは金属塩、■シリコーン、■多価アルコールの部分的脂肪酸エステルまたは脂肪酸アルコール、脂肪酸、脂肪酸アミド、アルキルフェノールもしくはアルキルナフトールアルキレンオキサイド付加物の少なくとも1種の傷付き白化防止剤、有機フィラー、酸化防止剤、滑剤、有機あるいは無機系顔料、紫外線防止剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、核剤等を添加してもよい。
【0041】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[使用樹脂及び材料]A)成分高密度ポリエチレン(HDPE)
[密度=0.950g/cm3 、MFR=1.0g /10min.日本石油化学(株)製]
B)成分B1-1: エチレン−1−ブテン共重合体(VLDPE)
[密度=0.900g/cm3 、 MFR=1.0g /10min.日本石油化学(株)製]
B1-2: 直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)
[密度=0.920g/cm3 、MFR=1.0g /10min.日本石油化学(株)製]
B1-3: 低密度ポリエチレン(LDPE)
[密度=0.922g/cm3 、MFR=1.0g /10min.日本石油化学(株)製]
B2: エチレンー酢酸ビニル共重合体(EVA)
[VA含量=10wt%、MFR=1.0g /10min. 日本石油化学(株)製]
B3: エチレンーアクリル酸エチル共重合体(EEA)
[EA含量=10wt%、MFR=0.4g /10min. 日本石油化学(株)製]
B4: エチレンープロピレン共重合体ゴム(EPM)
[プロピレン27wt%、MFR=0.7g /10min. 商品名EP07P、日本合成ゴム(株)製]
【0042】C)成分C1 無水マレイン酸変性エチレンーブテンー1共重合体(MAn LL)
[密度=0.91g /cm3 、MFR=1.2g /10min.、無水マレイン酸反応量=0.17wt%、日本石油化学(株)製]
C2: アルケニル環状イミノエーテル変性エチレンーブテンー1共重合体(以下アルケニルと称する)
[密度=0.910g /cm3 、MFR=1.2g /10min.、オキサゾリン=0.2wt%、日本石油化学(株)製]
D)成分エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(E−GMAと略す)
[密度=0.935g /cm3 、MFR=4.0g /10min.、グリシジルメタクリレート=10wt%、日本石油化学(株)製]
【0043】(II)成分水酸化マグネシウム[商品名:キスマ5J 協和化学(株)製]
水酸化アルミニウム[商品名:ハイジライト42M 日本軽金属(株)製]
【0044】(試験法)
(1)引張試験(Kg/cm2 )(YTS、UTS)及び伸び(%)(UEL)
厚さ1mm のシートから3号ダンベルで打ち抜いた試験片で、テンシロンを用いて引張速度200mm/min.の速度で測定した。
(2)酸素指数(O.I.)
JIS K7201に準拠して行った。
(3)耐摩耗性試験(ASTM C501−84)
テーバー式摩耗試験機を用い、摩耗輪H−22、荷重1Kg、1000回転で試験後、重量(mg)減少を測定した。
(4)加熱変形率(%)(耐熱性)
JIS C3005,JIS C3605に準拠して行った。(温度100℃、3Kgfの荷重で測定)
【0045】(実施例1〜13)表1に示す配合の組成物をドライブレンドした後、50mmφの押出機を用い樹脂温度200℃で溶融混練し、ペレタイズした。さらに180℃、圧力100kg/cm2 、時間5分でプレス成形して試料を作成し、試験に供した。試験結果を表1に示す。
【0046】
【表1】


【0047】(比較例1)B)成分として実施例1で使用したEEA100重量部に(II)成分の無機系難燃剤100重量部を配合したものを実施例1と同様にして評価した結果を表2に示した。
(比較例2)B)成分として実施例1で使用したEEA100重量部にC)成分のMAnLL5重量部と(II)成分の無機系難燃剤100重量部を配合した組成物を実施例1と同様にして評価した結果を表2に示した。
(比較例3)B)成分としてVLDPEを用いた以外は比較例2と同様にして評価した結果を表2に示した。
(比較例4)B)成分としてEVAを用いた以外は比較例2と同様にして評価した結果を表2に示した。
(比較例5)B)成分としてEPMを用いた以外は比較例2と同様にして評価した結果を表2に示した。
(比較例6)A)成分のHDPE95重量%とB)成分として実施例1で使用したEEA5重量%とからなる重合体成分100重量部にC)成分のMAnLL5重量部と(II)成分の無機系難燃剤100重量部を配合した組成物を実施例1と同様にして評価した結果を表2に示した。
(比較例7)A)成分のHDPE60重量%とB)成分として実施例1で使用したEEA40重量%とからなる重合体成分100重量部にC)成分のMAnLL5重量部と(II)成分の無機系難燃剤20重量部を配合した組成物を実施例1と同様にして評価した結果を表2に示した。
(比較例8)A)成分のHDPE60重量%とB)成分として実施例1で使用したEEA40重量%とからなる重合体成分100重量部にC)成分のMAnLL5重量部と(II)成分の無機系難燃剤220重量部を配合した組成物を実施例1と同様にして評価した結果を表2に示した。
【0048】
【表2】


【0049】
【発明の効果】上述のように、本発明の耐摩耗性難燃組成物は、A)成分の密度0.94 g/cm3以上のポリエチレンと、B)成分のエチレン(共)重合体またはゴムとを特定配合比で含む重合体成分(I)と(II)成分の無機系難燃剤からなる耐摩耗性難燃組成物であって、重合体成分(I)に特定の官能基を特定量含有させたことにより、高難燃性を保持しつつ、可撓性、機械的強度、耐摩耗性、耐熱性の向上が図れたものである。特にA)成分は、結晶性樹脂から構成されるため、耐熱性、耐摩耗性の向上に寄与し、B)成分は、(II)成分の無機系難燃剤の受容性を増大せしめ、機械的強度、可撓性を低下させることなく、難燃効果を高めることができ、そして該官能基は重合体成分(I)と無機系難燃剤もしくは無機充填剤とをカップリングさせる役割を果たし、相互の相溶性を高め、機械的強度、加工性、耐摩耗性等を改良する上、燃焼時においてはチャー(炭化層)の形成に寄与して樹脂のドリッピングを防止し、自消火させる役割も有している。このように本発明の耐摩耗性難燃樹脂組成物は、高度の難燃性を有するとともに、燃焼時にハロゲンガスなどの有毒ガスの発生がなく、耐摩耗性および耐熱性にすぐれ、かつ安全性、可撓性、機械的特性、耐薬品性、電気的特性などにもすぐれているので、フィルム、シート、パイプ等の押出成形品あるいは射出成形品等の成形用途向けや、電線、ケーブル向け等として利用され、繊維、電気、電子、自動車、船舶、航空機、建築、土木等の諸分野で活用されるものであり、産業上の利用価値が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(I) A)密度0.94 g/cm3以上のポリエチレンB)下記(B1)〜(B4)から選ばれた少なくとも1種のエチレン(共)重合体またはゴム(B1)密度が0.86〜0.94 g/cm3未満の高圧ラジカル重合法による低密度ポリエチレンまたはエチレン・αーオレフィン共重合体、(B2)エチレンービニルエステル共重合体、(B3)エチレンーα, βー不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、(B4)ゴム、を含む重合体成分(I)100重量部と、(II) 無機系難燃剤 30〜200重量部を含む組成物であって、重合体成分(I)中の密度0.94 g/cm3以上のポリエチレン(A)の含有量が50〜90重量%、エチレン(共)重合体またはゴム(B)の含有量が50〜10重量%であり、かつ重合体成分(I)中に下記a〜fから選択された少なくとも1種の官能基を、全重合体成分1g当たり10-8〜10-3g当量を有していることを特徴とする耐摩耗性難燃組成物。
a:カルボン酸基または酸無水基、b:エポキシ基、c:ヒドロキシル基、d:アミノ基、e:アルケニル環状イミノエーテル基f:シラン基

【特許番号】特許第3280104号(P3280104)
【登録日】平成14年2月22日(2002.2.22)
【発行日】平成14年4月30日(2002.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−351503
【出願日】平成4年12月9日(1992.12.9)
【公開番号】特開平5−247278
【公開日】平成5年9月24日(1993.9.24)
【審査請求日】平成11年4月1日(1999.4.1)
【出願人】(000231682)日本石油化学株式会社 (33)
【参考文献】
【文献】特開 平4−73495(JP,A)