説明

耐油性シート状物

【課題】 低い透気抵抗度でかつ優れた耐油性能を備え、特に食用油を使用した食品の包装材料として好ましく使用できる耐油性シート状物を提供する。
【解決手段】 デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を含む少なくとも1層の塗工層を基材の少なくとも片面に1.5〜20g/m設けることにより耐油性シート状物が得られる。この塗工層にさらに架橋剤を含有させることにより、耐油性能が向上する。この塗工層の上に、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を主成分とする塗工層、またはポリビニルアルコールを主成分とする塗工層をさらに塗工して少なくとも2層の塗工層を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油性、耐グリース性に優れるシート状物に関する。更に詳しくはフライ等の食用油を使用した食品の包装材料として好ましく使用できるシート状物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シート状物に耐油性を付与するために、加工処理面の臨界表面張力を油性物質の表面張力より小さくする方法が取られていた。このような機能を有する処理薬品を耐油剤と称し、フッ素系の耐油剤を用いたものが耐油性シート状物の主流となっていた。
【0003】
例えば特許文献1に新規な耐油剤としてフッ素系耐油剤の紹介があるように、過フッ素炭化水素のアクリレートまたはリン酸エステル等のようにフッ素系化合物を用いたものが低コストでかつ効果的であるので主流となっていた。
【0004】
フッ素系の耐油剤を用いた耐油性シート状物は、耐油剤自身が優れた撥油性能を持ち、さらに強力な撥水性能を有していることから、シート状物表面に皮膜を生成する必要がなく、そのためシート状物自体の透気抵抗度を低くすることが可能であった。しかし、近年になってこのようなフッ素系化合物の耐油剤を用いた耐油性シート状物を使用してフライ等を包装し、電子レンジ等で100℃以上の高温で処理した際に、人体に蓄積され害を及ぼすガス(フッ化アルコールガス、フッ化水素ガス等)が発生することが明らかになり、フッ素系の耐油剤の使用が大きな問題となってきた。また電子レンジ等で加熱しなくても、100℃以上の食材の包装に使用する際にも同様のガスが発生する危険が指摘されており、さらには、フッ素系の有機化合物は生分解性が非常に悪く、これら物質の地球規模での汚染が懸念されてきた。このように、フッ素系化合物の使用は人体への影響及び地球環境への影響が懸念されており、社会的に大きな問題となっている。
【0005】
特許文献2には、フッ素系化合物を使用しない耐油性シート状物に関する発明として、架橋したポリビニルアルコールおよび/またはデンプンと耐水化剤とを主成分とするバリヤー層にシリコン樹脂及びヒートシール用接着剤を塗工し、それを容器とする耐油性容器が提案されている。しかし、この耐油性容器は、必ずしも満足し得る耐油性能を有するものではなく、更にシリコン樹脂が高価であるため容器のコストがかかるという問題点があった。また、ポリビニルアルコールおよび/またはデンプンと耐水化剤とを主成分とするバリヤー層は非常に皮膜性が高く、充分な耐油性能を得ようとすると透気抵抗度が10000秒を越え、食品包装材料等としては後述するように不適なものであった。
【0006】
さらに、特許文献3、特許文献4、特許文献5にはアクリルエマルジョンを耐油剤として使用した耐油紙が提案されている。しかし、これらの文献で提案された耐油紙は、耐油性能を満足するためにはしっかりとしたアクリル樹脂の皮膜を必要とし、このため透気抵抗度が非常に高くなり食品包装材料としての性能を損なうものであった。食品包装材料の透気抵抗度が高くなると、食品を包装材料に入れたまま加熱若しくは保温した場合、食品から発散する水蒸気が包装材料の中で充満し、結露した水が食品に付着する結果、食品の食感や味覚が大きく損なわれたり、あるいは食品包装材料に食品を入れたまま電子レンジ等で再加熱した場合、急速に発生する水蒸気が外部に放出しきれず破袋するといった危険があった。また充分な耐油性能を得るために必要な皮膜を形成させるには多くの塗布量を必要とし、その結果包装材料のコストがかかるという問題点があった。
【0007】
また、前記したように、食品を包装材料に入れたまま電子レンジ等で再加熱したような場合、そこで発生する水蒸気の外部への放出されやすさは、透気抵抗度の他にも水蒸気透過性で表現される場合もある。水蒸気透過性を測定する方法としては、JIS Z−0208(1976年)による防湿材料の透湿度測定方法があり、ここでは透湿度の定義として「一定時間に単位面積の膜状物質を通過する水蒸気の量」とされている。しかし、この方法は非常に時間がかかることと、実際に食品用包装材料として使用された際の問題点である包装袋内における結露や、電子レンジで加熱した際において急速に発生する水蒸気が外部に放出しきれず破袋するようなケースを想定すると試験方法としては適しないと考えられる。従って、本発明のようなケースにおける透湿度の評価試験としては、実際に食品を包装するか、それに代わるものを使用して、包装袋内部の結露発生状況や破袋の状況を調査することが好ましい。
【0008】
一方、高い耐油性能を確保するため、シート状物にフィルムをラミネートする方法が一般的に行われてきた。しかしながら、フィルムをラミネートすると、耐油性能は確保できてもシート状物の透気抵抗度が極端に高くなり、前述したように食品包装材料としては問題があった。
【0009】
透気抵抗度が極端に高くなるのを防ぐ為、特許文献6では微孔を有する紙等の基材の少なくとも片面に基材と同様な微孔を有する熱可塑性フィルムを積層させたことを特徴とする通気性のある耐油紙が提案されている。また、不織布と紙との積層体にするという提案もなされている。しかし、このようなシート状物では透気抵抗度の面では問題なくても、食品油の外部への染み出しが防ぎきれず、肝心の良好な耐油性能が得られないという問題があった。
【0010】
特許文献7では疎水性のデンプンを使用した耐油紙が提案されている。しかし、疎水性デンプンのみで充分な耐油性能を確保しようとすると、極端に多量の疎水性デンプンを塗布する必要があり、コスト的に非現実的である。また、塗布量の増加による透気抵抗度の上昇も問題となる。更に、疎水化デンプンのみではデンプンが水に溶けやすいため、食品包装材料として使用した場合、食品から発生する水蒸気によってデンプンが溶け出し食材に付着するという問題点があった。
【0011】
また、特許文献8では、無サイズの紙にデンプン、ポリビニルアルコール、アクリル系耐油剤を均一に含有する耐油紙を提案している。しかし、この発明においても食品包装材料としての耐油性能は不十分であり、また、耐油性能を確保するため多量の塗工量を必要とする結果、透気抵抗度が高くなるという問題点があった。
【0012】
特許文献9では紙基材に2層の塗膜を設け、該塗膜の構成が下層にゴムラテックス等のエラストマーまたは保水性/吸水性ポリマーと糊化可能デンプン類との混合物の塗膜、上層に低粘度化デンプンまたはデンプン誘導体の塗膜である耐油紙を提案している。この方法では主にデンプンとエラストマーまたは保水性/吸水性ポリマーで耐油性能を確保しているため、前述したように耐油性能を確保するためには透気抵抗度を犠牲にしなくてはならず、その結果、耐油性能に優れ、かつ透気抵抗度の低い耐油性シート状物を得ることができなかった。また、デンプンのフィルムを形成することが目的である該発明は、透気抵抗度についてはまったく考慮されていない。
【0013】
一方、アルキルケテンダイマーを塗工層に含ませることは従来から行なわれていた。これはアルキルケテンダイマーの疎水性を利用して紙に撥水性を持たせるものである。例えば、特許文献10では、紙の表面を撥水処理する表面処理剤が提案されており、該発明ではアルキルケテンダイマーと酸化デンプンを併用しても好適に使用できるとしている。しかし、該発明は撥水性を得るためのものであって、耐油性能を得ることを目的とする本発明とは根本的に異なる。つまり、撥水性を示すものは親油基を有するものが多いと考えるのが通常であるため、本発明のように、撥水性を付与するアルキルケテンダイマーを用いることで耐油性能を得るという発明を創作するのは困難である。実際、アルキルケテンダイマー単独を紙基材に塗布しても耐油性能はまったく発現しない。さらには、該発明は塗布量が少ないため、実用的な耐油性能を得ることは困難であると考えられる。その理由は、該発明のようにアルキルケテンダイマーを撥水剤として使用し、酸化デンプンを表面紙力剤として塗工した場合、一般的に塗工量は1g/m以下であるからである。以上のように、アルキルケテンダイマーが耐油性能を付与するとは従来、考えられていなかった。
【0014】
特許文献11では、ロッドメタリングサイズプレスの潤滑剤としてアルキルケテンダイマーを塗工液中に添加することを提案している。また、特許文献12では、印刷用紙に撥水性を持たせるためにアルキルケテンダイマーを使用することを提案している。しかし、これらの発明は、アルキルケテンダイマーの撥水性、滑り性を利用したものであり、アルキルケテンダイマーを油の浸透を阻害する目的で使用しているわけではない。ましてや、耐油性向上を目的としてアルキルケテンダイマーを耐油性シート状物に使用するということはまったく検討されてこなかった。
【0015】
一方、アルケニル無水コハク酸については、通常ステキヒトサイズ度を上げる目的で内添サイズ剤として使用されており、塗工層に添加するケースはほとんど無く、ましてや耐油性向上を目的として塗工液に添加することはまったく検討されなかった。
【0016】
特許文献13では、疎水化デンプンと架橋剤を含む層による耐油性シート状物を提案している。しかしながら、該発明では耐油性能は確保できるが、充分な耐油性能を得ようとすると透気抵抗度が高くなりすぎるという問題があった。
【0017】
このように、耐油性能、透気性能、生産性を同時に満足できる食品包装材料として好適な耐油性シート状物は、従来技術によっては得ることができなかった。
【0018】
【特許文献1】特開平12−026601号公報
【特許文献2】特公平6−2373号公報
【特許文献3】特開平9−3795号公報
【特許文献4】特開平9−111693号公報
【特許文献5】特開2001−303475号公報
【特許文献6】特開平11−021800号公報
【特許文献7】特開2002−69889号公報
【特許文献8】特開2005−29943号公報
【特許文献9】特開2005−29941号公報
【特許文献10】特開2003−221795号公報
【特許文献11】特開2004−300590号公報
【特許文献12】特開2003−278096号公報
【特許文献13】特願2003−291028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、従来の耐油性シート状物において、フッ素系耐油剤を使用した耐油性シート状物による人体への有害性、環境への負荷といった問題点、あるいは非フッ素系耐油剤を使用した耐油性シート状物における高い透気抵抗度、高コストといった問題点を解決することを課題とする。具体的には、低い透気抵抗度を有し、人体に安全であり、耐油性能に優れ、且つ生産性に優れる耐油性シート状物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
すなわち本発明の請求項1に係る発明は、デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を含む少なくとも1層の塗工層を基材の少なくとも片面に1.5〜20g/m設けたことを特徴とする耐油性シート状物である。
【0021】
本発明の請求項2に係る発明は、塗工層に更に架橋剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の耐油性シート状物である。
【0022】
本発明の請求項3に係る発明は、架橋剤がエピクロルヒドリン系であることを特徴とする請求項2に記載の耐油性シート状物である。
【0023】
本発明の請求項4に係る発明は、デンプンが疎水化デンプンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐油性シート状物である。
【0024】
本発明の請求項5に係る発明は、透気抵抗度が10000秒以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐油性シート状物である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、低い透気抵抗度を有し、人体に安全であり、優れた耐油性能を示し、且つ生産性に優れる耐油性シート状物を得ることができる。本発明による耐油性シート状物は、特に食用油を使用した食品の包装材料として、好ましく使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の耐油性シート状物における塗工層は、デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を含む必要がある。塗工層にデンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を含むことにより、それ単独では考えられなかった程に耐油性能が飛躍的に向上することが明らかとなった。本発明でいう耐油性シート状物とは、油の浸透をブロックする性能を持ったシート状物すべてを指す。油の浸透をブロックする性能とは、ヒマシ油の浸透時間が0.5時間以上であることをいう。一般的に、油の浸透をブロックする性能は、ヒマシ油等の油の浸透時間を測定することにより評価される。油の浸透時間は、測定する油を、通常は23℃50%R.H.の環境下においてサンプルに1滴垂らし、その油が完全に染み込んで裏面に到達するまでの時間で表される。完全に染み込むとは、垂らした面積と同じ面積が裏面に染み込んだ状態を意味し、これを目視にて確認する。
【0027】
本発明で使用されるデンプンは、通常のデンプンの他、グラフト化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルデンプン、カチオンデンプン、酢酸デンプン、リン酸デンプン、リン酸ジデンプン、オクテニルコハク酸デンプン、グリセロールジデンプン、白色デキストリン、黄色デキストリン、ブリティッシュガム、マルトデキストリン、酸化デンプン、酸処理デンプン、アルファ化デンプン等といったエーテル化デンプン、エステル化デンプン、架橋デンプン、焙焼デンプン、疎水化デンプン、酵素変性デンプン等が使用できる。この他、造粒された粒状デンプン、多孔質化した吸油性デンプン等も好適に使用できる。特に疎水化デンプンを使用すると、耐油性能が高くなるの好ましい。疎水化デンプンを使用すると耐油性能が高まる理由は定かでは無いが、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸と疎水化デンプンが何らかの反応を起こすことにより、耐油性能が向上しているのではないか推測する。
【0028】
本発明における疎水化デンプンとは、デンプンが疎水化処理されているものすべてを指す。デンプンの疎水化処理としては、デンプンをアルミン酸アルカリまたは水酸化アルカリの存在下でオルガノシラン水溶液と密に接触させる方法、シリコンやアルケニルで誘導体化する方法、水性系においてオクテニルコハク酸無水物やドゼセニルコハク酸無水物等の有機酸無水物とデンプンを反応させる方法、デンプンにアクリロニトリル等の疎水性モノマーや疎水性不飽和単量体を共重合させる方法、エーテル化、エステル化により炭化水素基を含む疎水基をデンプンに付与させる方法、コハク酸デンプンアルキルとする方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に、水性系において有機酸無水物とデンプンを反応させ、デンプンを6〜22個の炭素原子の炭化水素基で加工して得られる疎水化デンプンは、より優れた耐油性能を発現するため好適に使用できる。
【0029】
本発明において使用されるアルキルケテンダイマーは、どのような方法で製造されたものであっても、またどのような形態であっても使用することができる。一般的なアルキルケテンダイマーの製造方法としては、ステアリン酸やパルミチン酸をホスゲン法、あるいは三塩化リン法で脂肪酸クロリドに変換し、それをトリエチルアミンで処理することにより得られるが、これに限定されるものではない。また、一般的なアルキルケテンダイマーの形態としては、リグノスルホン酸のようなアニオン性高分子、硫酸アルミニウム、カチオン性デンプンなどの共存下に高いせん断力をかけてエマルション化されているものがあるが、これに限定されるものではない。また、オレイン酸、イソステアリン酸などを出発原料として二重結合を導入し、常温で液体状態を保持するように処理されたアルキルケテンダイマーも使用できる。アルキルケテンダイマーは、例えば星光PMC株式会社から商品名「サイズ剤AD1602」、「サイズ剤AD1604」、「表面サイズ剤SE2160」等として市販されている。また、荒川化学工業株式会社から商品名「サイズパインK−903」、「サイズパインK−910」、「サイズパインK−287」、「サイズパインK−920」等が、ハリマ化成株式会社から商品名「ハーサイズL−50」、BASFジャパン株式会社から商品名「バソプラスト860Dap」等として市販されている。無論、本発明で使用されるアルキルケテンダイマーは、これらに限られるものでは無い。
【0030】
本発明において使用されるアルケニル無水コハク酸も、製造方法および形態を問わない。アルケニル無水コハク酸は製紙用サイズ剤として一般的に使用されている。一般的には炭素数16〜18の外部オレフィンを触媒により異性化して内部オレフィン混合物とし、無水マレイン酸とともに加熱処理することによりエン付加反応によってアルケニル鎖に無水コハク酸基を導入して合成される。抄紙工程では、通常添加前にカチオンデンプン等でエマルション化して添加するのが一般的であるが、本発明ではエマルション化してもよいし、それ以外の形態で添加してもよい。アルケニル無水コハク酸は、例えば荒川化学工業株式会社から商品名「サイズパインSA−862」、「サイズパインSA−864」等として市販されている。また、星光PMC株式会社から商品名「サイズ剤AS1532」、「サイズ剤AS1524」、日本エヌエスシー株式会社から商品名「FIBRAN81」等として市販されている。無論本発明で使用されるアルケニル無水コハク酸は、これらに限られるものでは無い。
【0031】
本発明で使用されるアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸の融点は20℃以上であることが好ましく、更に好ましくは40℃以上である。20℃未満であると、基材に塗工してシート状物としたときに、シート状物が油っぽくなり扱いづらい。40℃未満であると、食品包装材料として使用した場合、加熱や保温時にアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸が溶け出し、耐油性能が悪化する場合がある。
【0032】
アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸のデンプンに対する添加量は、デンプンの全固形分質量に対して、好ましくは固形分で1〜30質量%、更に好ましくは3〜15質量%である。1質量%未満では充分な耐油性能が出ないので好ましくなく、3質量%未満では、サラダ油等の低粘度の油に対する耐油性能が不十分な場合ある。また、30質量%を超えて添加しても添加量に見合った耐油性能の向上がなく、コスト的に不利になるので好ましくない。また、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸のデンプンに対する添加量が多くなりすぎると、塗工層中のデンプンの割合が少なくなり、シート状物の耐油性能が低下するので好ましくない。また、アルキルケテンダイマーを使用した場合、シート状物表面の摩擦係数が低下する傾向にあり、アルキルケテンダイマーを15質量%を超えて塗工層に添加すると、シート状物表面が非常にすべりやすくなり扱いづらくなる。
【0033】
塗工層にアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸が含まれると耐油性能が格段に向上する。その理由については定かでは無いが、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸によって、浸透する油を塗工層が吸収する能力が増し、その結果、シート状物における油の浸透を妨げるためであると推測する。また、アルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸の単独の層においては耐油性能を確保することができないことから、デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸が何らかの作用、もしくは反応を起こして耐油性能が向上しているのではないかと推測する。
【0034】
アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸には耐油性能を向上させる効果のほか、デンプンに混合して塗工層を設けた場合にデンプンの皮膜形成を阻害する作用があり、結果として透気抵抗度を下げる効果がある。本発明者は、この場合において透気抵抗度が下がるにも関わらず耐油性能は低下せず、逆に向上させることができることを見出した。この優れた特徴は、低い透気抵抗度と高い耐油性能が要求される包装材料、例えば電子レンジに使用される食品用包装材料や、水分を含む食材用の包装材料等に極めて有効である。
【0035】
また、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸が塗工層に含まれると、このアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸が剥離剤の働きをすることで、サイズプレス塗工をする際にドライヤーの汚れを防止する効果を得ることもできる。すなわち、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を塗工層に添加することにより、得られたシート状物の耐油性能を向上させると同時に、サイズプレス塗工時のドライヤーの汚れ防止効果をもたらし、生産性が向上するので好ましい。
【0036】
本発明において、デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を含む塗工層を設ける方法としては、デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を混合して塗布しても良いし、デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を別々に塗布してもよい。もちろん、塗料には必要に応じて架橋剤等の一般的に塗工用添加剤として使用される他の成分を含んでも良い。また、本発明では塗工層にデンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を含有していれば、それらが混合して塗布されたものであっても、別の層として存在していても一向に構わない。
【0037】
デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を含む塗工層は、基材の少なくとも片面に1.5〜20g/m設ける必要がある。1.5g/m未満であると充分な耐油性能が確保できない。また、20g/mより多いと透気抵抗度が高くなる結果、加熱処理時等において破袋しやすくなり、また、透湿性や耐熱水性が悪くなり、さらには塗工量の割に耐油性能が向上せずコスト的に不利である。
【0038】
本発明において、デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を含む塗工層のデンプンに架橋剤を添加して架橋すると耐油性能が向上するので好ましい。この理由は定かではないが、架橋剤のみを基材に塗工してもシート状物の耐油性能が発現しないことから、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸とデンプンに架橋剤の成分が何らかの作用をすることで、シート状物の耐油性能を向上させると推測される。
【0039】
本発明で使用される架橋剤は、デンプンを架橋できるものであれば特に限定されない。例えば架橋剤としては、グリオキザール、ジアルデヒド、ポリアクロレイン、N−メチロール尿素、N−メチロールメラミン、活性化ビニル化合物、各種エステル、ジイソシアネート、ウレタン系架橋剤等が使用できるが、経済性、反応安定性、食品への影響等を考慮すると、エピクロルヒドリン系等のエポキシ化合物を使用することが好ましい。エピクロルヒドリン系等のエポキシ化合物は、例えば荒川化学工業株式会社から商品名「アラフィックス100」、「アラフィックス255」等として市販されている。また、昭和高分子株式会社からは商品名「ポリフィックス259」、「ポリフィックス301」、住友化学工業株式会社からは商品名「スミレーズレジン650」、「スミレーズレジン6615」、星光PMC株式会社からは商品名「湿潤紙力剤WS4002」、「湿潤紙力剤WS40240」、「湿潤紙力剤WS4024」、「湿潤紙力剤WS4044」、「湿潤紙力剤WS4010」、東邦化学工業株式会社からは商品名「スパラミン30」、「スパラミンAX−250F」、「スパラミンC−305」、日華化学株式会社からは商品名「トータス604T」等として市販されている。無論本発明で使用されるエピクロルヒドリン系等のエポキシ化合物はこれらに限られるものでは無い。
【0040】
デンプンに対する架橋剤の添加量は、デンプンの全固形分質量に対して、好ましくは固形分で1〜30質量%、更に好ましくは5〜30質量%である。30質量%を超えて添加しても、添加量に見合った効果が出ずコスト的に不利になるので好ましくない。また、架橋剤の添加量が多くなりすぎると、塗料全体に対するデンプンの割合が少なくなるため耐油性能が落ちるので好ましくない。特に、食品包装材料等に使用する場合には、人体への影響を考慮すると、必要以上の薬品を添加すべきではない。逆に1質量%未満では架橋剤を添加する効果が充分に出ない場合もあり、5質量%未満であると、例えば浸透しやすい油に対しての耐油性能が不十分になる場合があるので好ましくない。また、デンプンに対して架橋剤を添加することで、デンプンの溶出を抑える効果も得られる。すなわち、前述した架橋剤をデンプンに添加することによって、水によるデンプンの溶出が抑える効果が発現する。例えば食品包装材料等で使用した場合、食品から発生する水蒸気によってデンプンが溶出し、食品に付着することを防ぐことができるので好ましい
【0041】
デンプンが疎水化デンプンであると、前述したように耐油性能は他のデンプンと比較して向上する。さらに、疎水化デンプンと架橋剤を組み合わせることにより、耐油性能は飛躍的に向上するので好ましい。特に架橋剤がエピクロルヒドリン系であるとその効果が顕著となり好ましい。その理由は定かでないが、疎水化デンプンの疎水基と架橋剤とが他のデンプンにはない何らかの特別な反応を起こしていると推測する。
【0042】
本発明は2層以上の塗工層を基材の片面または両面に形成することもできる。この場合、デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸の塗工層と、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を主成分とする塗工層とを積層形成することができる。または、デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸の塗工層と、ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層とを積層形成することも有効である。この積層形成をする場合においても架橋剤を添加する方が耐油性能の向上を促し、また、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールの溶出防止に有効であるので好ましい。
【0043】
アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を主成分とする塗工層とは、具体的には塗工層の固形分質量に対しアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸が50質量%以上含まれていることを意味する。この場合のアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸以外の成分としては、前述したデンプン、ポリビニルアルコール、架橋剤の他、塗工液の含浸性に影響を与える表面サイズ剤、紙粉等を抑える表面紙力剤等の一般的な塗工薬品を必要に応じて使用することができ、性能を損なわない範囲でこれらの薬品を、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を主成分とする塗工層中に含ませることができる。
【0044】
本発明におけるポリビニルアルコールを主成分とする塗工層とは、具体的には塗工層の固形分質量に対しポリビニルアルコールが50質量%以上含まれていることを意味する。この場合のポリビニルアルコール以外の成分としては、前述したデンプン、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸サイズ剤、架橋剤の他、塗工液の含浸性に影響を与える表面サイズ剤、紙粉等を抑える表面紙力剤等の一般的に紙塗工用として使用される添加薬品が挙げられ、性能を損なわない範囲で、ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層中に含ませることができる。
【0045】
デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸の塗工層と、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を主成分とした層とを別に設けた場合には、2つの塗工層の相乗効果により優れた耐油性能をシート状物に付与することができる。更に、アルキルケテンダイマーを使用した場合、アルキルケテンダイマーの剥離効果により、油を含む食品用の包装材料として使用する際に、シート状物に食材が付着し、その表面が剥がれてしまうことを防止できるので好ましい。また、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を主成分とする塗工層を別に設けることにより、非常に低い透気抵抗度を備え、かつ耐油性能に優れたシート状物を得ることができるので好ましい。
【0046】
デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸の塗工層と、ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層とを別に設けた場合には、前記のアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を主成分とする塗工層を別に設ける場合と比べてシート状物の透気抵抗度が高くなる傾向にあるが、耐油性能は良好になる。このように塗工層を2層に分けて設けることにより、透気抵抗度と耐油性能のバランスを調整することが可能となる。このため、種々の塗工層を単独もしくは組み合わせて設けることにより、用途に応じた性能を備えた耐油性シート状物を得ることができるので好ましい。
【0047】
アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を主成分とする塗工層を別に設ける実施態様において、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を主成分とする塗工層を、デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸の塗工層より、基材から遠い位置に形成することが好ましく、これによりシート状物の耐油性能をより一層高めることができるので好ましい。
【0048】
ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層を別に設ける実施態様においては、デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸の塗工層より、基材に近い層として、または基材から遠い層として、または最外層として形成してもよい。ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層を基材に近い層として設けた場合は、塗工液の基材中への浸透を抑える働きをして、シート状物の透気抵抗度が高くなる場合があるが、耐油性能は高くなる。逆に基材から遠い層として形成した場合には、耐油性能は低くなるが、透気抵抗度の上昇を抑えることができる場合がある。また、最外層として形成した場合には、アルキルケテンダイマーによるシート状物表面の摩擦係数の低下を軽減することができる。
【0049】
上述のような性質を考慮して、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を主成分とする塗工層、またはポリビニルアルコールを主成分とする塗工層をどのような位置に形成すればよいか、シート状物の使用目的に応じて選定することができる。
【0050】
本発明において、ポリビニルアルコールを主成分とする塗工層に使用するポリビニルアルコールは、完全鹸化であっても部分鹸化であっても構わない。また、カルボキシル基、シアノール基等で変性されていても構わない。耐油性能の面から、カルボキシル基、もしくはシアノール基で変性されたポリビニルアルコールであることが好ましい。また、耐油性、透気抵抗度、製袋適性のバランスから鹸化度85〜100%、平均重合度300〜2500であることが好ましい。
【0051】
本発明の耐油性シート状物にヒートシール性、剥離性等の特定の性能をさらに付与させる場合には、ヒートシール剤、剥離剤等の必要な性能に応じて新たな層を追加して設けることもできる。
【0052】
本発明では、性能を損なわない範囲で、塗工層に一般的な抄紙薬品を使用することができる。例えば塗工層に、表面サイズ剤、ドライヤー剥離剤、消泡剤、表面紙力剤、帯電防止剤等が必要に応じて使用できる。
【0053】
本発明で基材に塗工層を設ける方法としては、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、シムサイザー、ビルブレードコーター、ロッドおよびブレードメタリングコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、ダイスロットコーター、ショートドウェルコーター等のコーターやディッピングマシン、各種印刷機等を使用することができるが、これに限られるものではない。塗工層は、必要に応じて基材の両面に設けることもできるが、この場合の塗工量は、両面塗工層の合計が前記塗工量の範囲内となるようにする。サラダ油等の低粘度の油に対して耐油性能を付与したい場合は、塗工層を2.5g/mより多くすると有効である。
【0054】
前記の基材に塗工層を設ける方法において、特にサイズプレスコーターおよび/またはゲートロールコーターおよび/またはシムサイザー等の抄紙工程中に設置された塗工装置により塗工層を設けることは、コスト的に非常に有利である。ここで抄紙工程中に設置された塗工装置とは、抄紙工程中で紙を乾燥する際、乾燥ゾーンをいくつかにわけ、その間で塗布する装置のことである。抄紙工程中に設置された塗工装置で塗工層を設ける場合には、塗工量を1.5〜7g/mとすることが好ましい。7g/mを超えると乾燥時にドライヤーを汚す可能性があるので好ましくない。サイズプレスおよび/またはゲートロールコーターおよび/またはシムサイザー等の抄紙工程中に設置された塗工装置を用いると、その他の塗工方法に比べて耐油性能が向上する。これは、他の塗工方法よりも塗工液が紙中により含浸されやすいためであると推測するが、その原理は定かでは無い。
【0055】
本発明において、塗工層を設ける基材に関しては特に限定しないが、透気抵抗度の点から植物繊維を主成分としたシート状物が好ましい。基材に使用される植物繊維としては、針葉樹晒クラフトパルプ、(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の木材パルプ、楮、三椏、雁皮等の靱皮繊維、藁、竹、ケナフ、バガス等の非木材パルプを単独で、あるいは必要に応じて適宜組み合わせて使用する。さらには必要によって合成パルプ、合成繊維、半合成繊維、無機繊維等を適宜組み合わせて使用することもできる。
【0056】
製紙用パルプを使用する場合は、叩解処理の程度はカナディアンスタンダードフリーネスで100〜500mlが好ましい。叩解度が100mlより低いと、紙を製造する際に抄紙ワイヤー上での濾水性が悪くなり、製造効率が著しく悪くなると同時に紙の密度が高くなりすぎるため透気抵抗度が高くなる傾向があるので好ましくない。また、叩解度が500ml以上であると充分な耐油性能が得られなくなる場合があるので好ましくない。
【0057】
製紙用副資材としては、一般的に製紙用副資材として使用されるものがどれでも使用できる。特に内添薬品としてグアーガム、脂肪酸サイズ剤、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸、耐水化剤、硫酸バンド等を使用すると、紙自体の耐油性能が向上し、本発明の塗工層と組み合わせることにより、優れた耐油性能を得ることができるので好ましい。
【0058】
本発明において、所定成分の塗工層を基材に設けると共に、基材自体にもデンプンを含有させることができる。これによってシート状物の耐油性能をより一層向上させることができるので好ましい。この場合のデンプンの含有量は、基材全体の質量に対し1〜15質量%であることが好ましい。1質量%未満であるとデンプンを含有させる効果が充分に発現しない場合があり、15質量%を超えて含有させても耐油性能は向上せず、コスト的に不利になるので好ましくない。基材を紙基材とした場合には、親水性成分であるデンプンが製紙原料中にあまり多く含まれると、抄紙工程での濾水性が悪くなり生産性が著しく低下するので好ましくない。また、基材に含有させるデンプンが疎水化デンプンであると、通常のデンプンよりも耐油性能が向上するので好ましい。なお、製紙原料中には、デンプンとともに、他の製紙用副資材やグアーガム、アルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸等の耐油性能を向上させる薬剤を併用してもよい。
【0059】
本発明における耐油性シート状物の透気抵抗度は10000秒以下であることが好ましい。10000秒を超えると、前述したように食品包装材料として使用した場合、加熱により破裂するおそれがあるので好ましくない。ここでいう透気抵抗度とはJIS P−8117で定められた、紙に対する空気の通過しにくさを測定した値である。
【実施例】
【0060】
[実施例1]
木材パルプとして、広葉樹晒クラフトパルプ50質量%、針葉樹晒クラフトパルプ50質量%を用いた。これをダブルディスクリファイナーにて叩解し、カナディアンスタンダードフリーネスによる叩解度が350mlの原料パルプスラリーを調製した。この原料パルプスラリーにエピクロルヒドリン系湿潤紙力増強剤(商品名「ポリフィックス259」、昭和高分子(株)製)を対パルプ質量当たり固形分濃度で0.5質量%添加し、ロジンサイズ剤(商品名「サイズ剤AL1203」、星光PMC(株)製)を対パルプ質量当たり固形分濃度で0.5質量%添加し、硫酸アルミニウムを4質量%添加して原料スラリーを調製した。この原料スラリーを長網抄紙機により常法にて坪量42g/mになるようにシート化した。次に酸化デンプン、および、アルキルケテンダイマー(商品名「サイズ剤AD1606」、星光PMC(株)製)を対酸化デンプン質量当たりの固形分濃度が5質量%となるように添加して混合した塗工液を調製し、この塗工液による塗工層がシートの両面で3.0g/mになるように、上記で得られた紙基材に手塗りで塗布し、坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0061】
[実施例2]
酸化デンプンが、酢酸エステル化デンプンであること以外は実施例1と同様にして坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0062】
[実施例3]
酸化デンプンが、有機酸無水物とデンプンを反応させて製造した疎水化デンプンであること以外は実施例1と同様にして坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0063】
[実施例4]
アルキルケテンダイマーを、アルケニル無水コハク酸(商品名「サイズパインSA−862」、荒川化学工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0064】
[実施例5]
アルキルケテンダイマーに対し、アルケニル無水コハク酸を50質量%添加した以外は実施例1と同様にして坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0065】
[実施例6]
塗工液に、架橋剤としてポリアミドエピクロルヒドリン樹脂(商品名「紙力剤WS4002」、星光PMC(株)製)を対酸化デンプン質量当たり固形分濃度で10質量%添加した以外は実施例1と同様にして、坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0066】
[実施例7]
塗工液に、架橋剤としてポリアミドエピクロルヒドリン樹脂を有機酸無水物とデンプンを反応させて製造した疎水化デンプン質量当たり固形分濃度で10質量%添加した以外は実施例3と同様にして、坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0067】
[実施例8]
塗工液に、架橋剤としてポリアミドエピクロルヒドリン樹脂を酸化デンプン質量当たり固形分濃度で10質量%添加した以外は実施例4と同様にして、坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0068】
[実施例9]
塗工液に、架橋剤としてポリアミドエピクロルヒドリン樹脂を酸化デンプン質量当たり固形分濃度で10質量%添加した以外は実施例5と同様にして、坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0069】
[実施例10]
塗工量がシートの両面で2.0g/m2 になるようにした以外は実施例7と同様にして坪量44g/mの耐油性シート状物を得た。
【0070】
[実施例11]
塗工量がシートの両面で2.5g/mになるようにした以外は実施例1と同様にして得た耐油性シート状物の表面に、更に鹸化度93〜95%、重合度2000のカルボキシル変性ポリビニルアルコール単独の塗工層を0.5g/m設け、坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0071】
[実施例12]
塗工層がシートの両面で2.5g/mになるようにした以外は実施例1と同様にして得た耐油性シート状物の表面に、更にアルキルケテンダイマー単独の塗工層を0.5g/m設け、坪量45g/m2 の耐油性シート状物を得た。
【0072】
[比較例1]
実施例1で得られた紙基材に、酸化デンプンのみの塗工液を、該塗工液の塗工層が両面で3.0g/mになるように塗布して、坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0073】
[比較例2]
塗工液に、架橋剤としてポリアミドエピクロルヒドリン樹脂を酸化デンプン質量当たり固形分濃度で10質量%添加した以外は比較例1と同様にして、坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0074】
[比較例3]
塗工層が両面で25g/mになるように塗布されたこと以外は、実施例1と同様にして、坪量67g/m耐油性シート状物を得た。
【0075】
[比較例4]
塗工層が両面で1.0g/mになるように塗布されたこと以外は、実施例1と同様にして、坪量43g/mの耐油性シート状物を得た。
【0076】
[比較例5]
実施例1で得られた紙基材の片面に、厚さ4μmのポリエチレンフィルムをラミネートし、坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0077】
[比較例6]
酸化デンプンが、有機酸無水物とデンプンを反応させて製造した疎水化デンプンであること以外は比較例1と同様にして、坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0078】
[比較例7]
実施例1で得られた紙基材に、アルキルケテンダイマーのみの塗工液を、該塗工液の塗工層が両面で3.0g/mになるように塗布して、坪量45g/mの耐油性シート状物を得た。
【0079】
上記の実施例1〜12および比較例1〜7で得られた耐油性シート状物の性能評価結果を表1に示した。性能評価は、耐油性、透湿性、耐熱水性、破袋の有無、および透気抵抗度について、それぞれ下記の方法により行った。なお、耐熱水性は耐油性シート状物の用途によって要求されない性能であるため、参考として評価した。したがって、耐油性、透湿性、破袋の有無、透気抵抗度のすべてにおいて合格レベル以上であるものを、本発明の耐油性シート状物として合格と評価した。
【0080】
<耐油性の評価試験>
耐油性シート状物にヒマシ油0.5mlを滴下し、ヒマシ油滴下面に5g/cmの荷重を掛け(荷重掛けには金属板を使用)、ヒマシ油滴下部分の反対の面を所定時間後に目視で観察し、滴下したヒマシ油が反対面に浸透する様子を評価した。測定時間は最大で24時間までとし、滴下されたヒマシ油が反対面まで浸透する度合いを目視により判断した。ヒマシ油の浸透度合いの評価基準を次の通りとし、△以上を合格とした。なお、評価基準に記載した「ヒマシ油の浸透」とは、反対面を観察した際に反対面に突き抜けた油によるテカリがわずかでも目視で確認される状態をいう。
◎:ヒマシ油滴下24時間後、ヒマシ油滴下面の反対面へのヒマシ油の浸透が認められない。
○:ヒマシ油滴下後12〜24時間の間で、ヒマシ油滴下面の反対面へのヒマシ油の浸透が認められる。
△:ヒマシ油滴下後6〜12時間の間で、ヒマシ油滴下面の反対面へのヒマシ油の浸透が認められる。
×:ヒマシ油滴下後6時間以内に、ヒマシ油滴下面の反対面へのヒマシ油の浸透が認められる。
【0081】
<透湿性の評価試験>
沸騰水100mlをビーカーに入れ、その上から袋状にした耐油性シート状物サンプルをかぶせて1時間放置し、袋内部の結露状態を目視で判断した。結露状態の判断基準は次の通りとし、△以上を合格とした。尚、結露とは、袋の内部表面に発生した微小な水をいい、水滴とはこの微小な水が複数個集合して滴下、もしくは滴下に至るような大きさになっている状態を示す。
◎:1時間放置後、袋内部に全く結露が見られない状態。
○:1時間放置後、袋内部に若干の結露が見られる状態。
△:1時間放置後、袋内部の全面に結露が見られるが、水滴が発生する程度ではない状態。
×:1時間放置後、袋内部に結露が見られ、水滴が発生した状態。
【0082】
<耐熱水性の評価試験>
耐油性シート状物のサンプルを5cm角に切り、これを100mlの熱水に入れて10分間抽出後にサンプルを取り出し、抽出液を蒸発させて得られた蒸発残渣を測定する方法にて評価した。試験結果は全抽出物量として、2mg/25cm以下を○、それよりも多いものを×とした。
【0083】
<破袋の有無の試験>
スポンジを入れる口を一方に設けた8cm×14cmの耐油性シート状物の袋を作成し、この中に20mlの水を含ませた5cm×7cm×4cmの大きさのスポンジを入れて、袋の口を2回折り曲げ、中央部を1箇所セロハンテープでシールして800W出力の電子レンジに入れ、5分間加温処理した際における袋の破袋の有無を目視で確認した。評価基準は次の通りとし、○を合格とした。
○:袋が破袋せず、セロハンテープの剥がれも確認できないレベル。
×:袋が破袋するか、あるいはセロハンテープが剥がれるレベル。
【0084】
<透気抵抗度>
JIS P−8117により透気抵抗度を測定し、透気抵抗度が10000秒以下を○、透気抵抗度が10000秒を超えるものを×とし、○を合格とした。
【0085】
〈表1〉

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明による耐油性シート状物は、低い透気抵抗度で高度な耐油性、耐グリース性を有するので、フライや天ぷら等の食用油を使用した食品の包装材料として好ましく使用できる。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンとアルキルケテンダイマーおよび/またはアルケニル無水コハク酸を含む少なくとも1層の塗工層を基材の少なくとも片面に1.5〜20g/m設けたことを特徴とする耐油性シート状物。
【請求項2】
塗工層に更に架橋剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の耐油性シート状物。
【請求項3】
架橋剤がエピクロルヒドリン系であることを特徴とする請求項2に記載の耐油性シート状物。
【請求項4】
デンプンが疎水化デンプンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐油性シート状物。
【請求項5】
透気抵抗度が10000秒以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐油性シート状物。


【公開番号】特開2006−307363(P2006−307363A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129136(P2005−129136)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000225049)特種製紙株式会社 (45)
【Fターム(参考)】