説明

耐油紙

【課題】
油性食品と接触した場合に油が漏れ出さず、油が耐油紙の表面に広がらず、油しみが目
立たない耐油性を有し、水蒸気透過性、不透明性、安全性、資源の再利用可能な離解性(
リサイクル性)を兼備する耐油紙を提供する。
【解決手段】
基紙の少なくとも片面にセルロースナノファイバーからなる塗工層を設けた耐油紙。前記セルロースナノファイバーはその水溶液濃度が2質量%の際、B型粘度(60rpm、20℃)が500〜2000mPa・sであることが好ましい。また、前記セルロースナノファイバーはセルロース系原料に、N−オキシル化合物、並びに臭化物、ヨウ化物又はこれらの混合物の存在下で、酸化剤を添加し、水中にて前記セルロース系原料を処理して酸化されたセルロースを調製し、該酸化されたセルロースを湿式微粒化処理してナノファイバー化されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油紙に関するものであり、詳しくは、油分を多く含んだ食品と接触するシートであり、良好な耐油性と水蒸気透過性、内容物が外から見え難い不透明性、有害物質を含まない安全性、資源の再利用可能な離解性(リサイクル性)を有する食品包装用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
惣菜類のような調理済食品やハンバーガー等のファーストフードを店頭において包装する場合には、耐油性と水蒸気透過性を有する耐油紙を袋状にした包装材が使用されてきた。
【0003】
包装材にプラスチックフィルムやプラスチックフィルムと紙とのラミネート加工紙を用
いると、包装材の通気性が悪く、例えば、14〜20μmのポリエチレン層を有する通常のラミネート加工紙では透湿度が約50g/m・24hr以下であるため、天ぷらなどの揚げ物類ないしフライドチキン等を包装した場合や、包装したこれらを保温機器や電子レンジで加熱した場合には、食品から発散する水蒸気が袋内部に充満して揚げ物等の衣が水分を含んで過度に柔らかくなり味覚が著しく損なわれてしまう。
【0004】
従って、耐油性と水蒸気透過性を有する耐油紙として、プラスチックフィルムと紙とのラミネート加工紙や合成樹脂塗工紙が用いられることは少なく、専ら、パーフルオロアルキル基を持つポリアクリレートまたはリン酸エステルなどのフッ素系化合物を使用した
ものが用いられてきた。
【0005】
これらの耐油紙に用いられるパーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物は、リン酸エステル基などがその親水性によって紙に定着すること、パーフルオロアルキル基が紙表面で外側に向けて配向し、加工処理面の表面張力が油性物質の表面張力より低くなることによって撥油性に基づく耐油性が発現する。従がって、フッ素系化合物を用いた加工紙の表面には水蒸気の透過を妨げるバリア層がなく、このため耐油性と水蒸気透過性を兼備した耐油紙が得られるのである。
【0006】
しかし、フッ素系化合物を用いた加工紙は、該フッ素系化合物の有する高い撥油性により印刷インキをもはじいてしまうため、グラビア印刷等をした際にベタ印刷部分における白抜けが発生するなどの問題がある。
【0007】
また、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物は燃焼時に有毒物質であるフッ化水素を発生し、更に近年、電解重合法によるフッ素系化合物製造工程で生成するパーフルオロオクタンスルホン酸類が人間や動物の血液や海水など環境中に広く蓄積していること、及び電解重合法やテロメリゼーション法で製造されたフッ素系化合物は製造法に係わらず100℃以上の加熱で環境蓄積性の高いパーフルオロアルコールを生成すること等が明らかになり、また、その他の低分子フッ素化合物も一般的に難分解性であることから、特に食品包装用途では、フッ素系化合物を用いずに耐油性と水蒸気透過性を兼備した耐油紙が望まれている。
【0008】
食品包装用耐油紙に要求される耐油性とは、油が紙を通過して反対面に漏れ出さない油バリア性を有すること、付着した油が耐油紙の表面に広がりにくく、油が染み込んだような外観を呈さないことなどの特性をいう。更に、食品包装用耐油紙に要求される他の機能として、前記した水蒸気透過性、食品を包装した際に内容物が外から見え難いこと、有害物質を含まないこと、離解性(リサイクル性)があり資源の再利用ができること等が挙げられる。
【0009】
なお、一般に食品と接触して用いる食品包装用紙は、衛生面から使用後に回収して再利用されることは殆ど無いため、本発明における離解性(リサイクル性)とは、耐油紙の製造工程で発生する製品裁ち屑などを水中で離解し、抄紙原料として使用可能な状態にできる特性を意味している。
【0010】
グラシン紙やトレーシングペーパー、剥離紙用原紙、パーチメント紙などは油に対するバリア性が高いため、フッ素系化合物の登場以前から耐油性の要求される用途に耐油紙として転用されてきた。これらの紙は、高度に叩解した原料を用い、スーパーカレンダー加工を併用して空隙が少ない紙層構造を形成させたり、紙層表面を硫酸で溶解してフィルム状にして空隙部分を小さくしているため、油の透過はある程度抑えることができるものの、紙層内に僅かに残る空隙へ油が浸透するため油しみを皆無にすることは困難であった。
【0011】
更に、原料を高度に叩解しているため紙層の透明性が高く、油にまみれた内容物が外から見えたり、耐油紙に付着した油が紙をさらに透かして見せ、あたかも油が紙を透過して染み出ているように感じられるため、外観が悪くなるという難点があった。
【0012】
特開平8−188980号公報(特許文献1)には、セルロース繊維を高度に叩解した微細繊維化パルプを50質量%以上配合して繊維間を密着させ、高温高圧のスーパーカレンダー処理により更に空隙を少なくすることにより油性物質に対するバリア性を付与した透明紙が開示されている。しかし、微細繊維化パルプの製造に振動式ミルのような特殊な叩解機が必要であり、生産効率が低くなるという問題がある。
【0013】
皮膜形成性の高い物質を塗工し耐油性を高めることも行なわれており、ワックス、アクリルなどの合成樹脂、デンプン、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子物質が一般的に使用されている。特開平4−2900号公報(特許文献2)には透気抵抗度200秒のグラシン紙にデンプンを0.5〜5g/m塗工し、更にスーパーカレンダー加工して透気抵抗度を7万秒以上にして油性マジックインキが裏抜けしないバリア紙が記載されている。
【0014】
しかし、透気抵抗度5〜1,000秒程度の基紙を用いた場合、デンプンなどの水溶性高分子を用いて十分なバリア性を得るには片面5g/m以上塗工する必要がある。その結果、このような紙は紙表面にべたつきが生じるため、表面を剥離剤が覆う剥離紙原紙として使用した場合は問題ないが、食品包装用耐油紙として使用するには手で触った際のべたつきのため使用感が悪く、食品の貼り付きが起こるため好ましくない。また、水溶性高分子溶液の塗工量が多くなると、乾燥負荷が大きく生産性が劣る。
【0015】
ポリビニルアルコール系樹脂は皮膜形成性が高くデンプンなどよりも少量の塗工によってバリア性を得ることができるため、特開平4−2900号公報(特許文献2)ではデンプンへの配合使用例が記載されており、更に、特開平7−60905号公報(特許文献3)では、ポリビニルアルコール系樹脂を単独で塗工したグラシン紙が記載されている。
【0016】
しかし、ポリビニルアルコール系樹脂は、塗工の際に発泡しやすく、塗工面のピンホールを無くするには、設備上種々の工夫が必要となるうえ、油との接触角が小さくなり、紙表面に付着した油が広がり外観不良になるという欠点がある。したがって、ポリビニルアルコール系樹脂などは、オリーブ油などの食用油を使用した揚げ物などの包装紙に使用した場合は、表面に付着した油があたかも漏れているかのように見えるため好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平8−188980号公報
【特許文献2】特開平4−2900号公報
【特許文献3】特開平7−60905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
以上のように、これまでに食品包装用途に適した耐油性と水蒸気透過性、更に、不透明性、安全性、離解性(リサイクル性)を兼ね揃えた耐油紙は見出されていなかった。
本発明が解決しようとする課題は、油性食品と接触した場合に油が紙を通過して反対面に漏れ出さず、付着した油が耐油紙の表面に広がりにくく、油が染み込んだような外観を呈さない耐油性を有し、加熱直後の揚げ物から発散する水蒸気を透過させる水蒸気透過性を有し、内容物が外から見え難い不透明性、有害物質を含まない安全性、資源の再利用可能な離解性(リサイクル性)を兼備する耐油紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、セルロースナノファイバーを含有する塗工層を設けることにより、耐油度、透気抵抗度が向上し、優れた水蒸気透過性を有する耐油紙が得られることを見出し、本発明を成すに至った。
【0020】
従って、本発明は、基紙の少なくとも片面にセルロースナノファイバーからなる塗工層を設けた耐油紙である。さらに、前記セルロースナノファイバーはその水溶液の濃度が2質量%のとき、B型粘度(60rpm、20℃)が500〜2000mPa・sであることが好ましい。また、前記セルロースナノファイバーは、セルロース系原料に、N−オキシル化合物、並びに臭化物、ヨウ化物又はこれらの混合物の存在下で、酸化剤を添加し、水中にて前記セルロース系原料を処理して酸化されたセルロースを調製し、該酸化されたセルロースを湿式微粒化処理してナノファイバー化されたものであることが好ましい。また、前記基紙はショッパーろ水度85〜90°SRの製紙用天然繊維により抄紙された坪量30〜60g/mの紙であり、この基紙の少なくとも片面にセルロースナノファイバーが0.2g/m以上塗布されてなり、耐油紙の透気抵抗度は45,000秒以上、透湿度は2,000g/m・24hr以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、油分を多く含んだ食品を包装しても油の漏れや広がりが無く、油しみがほとんどできない良好な耐油性を有し、かつ揚げ物の衣を過度に柔らかくする結露水を生成させない水蒸気透過性、及び内容物が外から見え難い不透明性を兼備し、安価で安全性の高い耐油紙を提供するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の製紙用添加剤であるセルロースナノファイバーは、水に分散させると透明な液体となり、適度な粘調性を示すので、所望の濃度に調整するだけで塗料として好適に使用できる。好ましくは、水溶液濃度2質量%の際、B型粘度(60rpm、20℃)が500〜2000mPa・sであることが好ましい。このようなセルロースナノファイバーは、例えば、セルロース系原料をN−オキシル化合物と、並びに臭化物、ヨウ化物又は混合物の存在下で、酸化剤を添加して、前記セルロース系原料を処理して酸化されたセルロースを調製し、さらに該酸化されたセルロースを湿式微粒化処理してナノファイバー化することによって製造することができる。
【0023】
本発明で用いるN−オキシル化合物としては、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPOとする)、4−ヒドロキシTEMPO誘導体が好ましい。4−ヒドロキシTEMPO誘導体としては、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基を炭素数4以下の直鎖或いは分岐状炭素鎖を有するアルコールでエーテル化するか、カルボン酸或いはスルホン酸でエステル化したものを使用することが好ましい。特に、炭素数が4以下であれば飽和、不飽和結合の有無に関わらず水溶性となり、酸化触媒として機能する。しかし、炭素数が5以上になると疎水性が顕著に向上し、水に不溶性となるため、酸化触媒としての機能を失う。
【0024】
4−ヒドロキシTEMPO誘導体の使用量は、セルロース系原料をナノファイバー化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.01〜10mmol、好ましくは0.01〜1mmol、さらに好ましくは0.05〜0.5mmol程度である。
【0025】
本発明のセルロース系原料の酸化方法は、前記4−ヒドロキシTEMPO誘導体と、並びに臭化物、ヨウ化物及びこれら混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、酸化剤を用い水中にて行うことを特徴とするもので、これにより得られた酸化されたセルロース系原料は効率良くナノファイバー化することができる。この臭化物またはヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などが使用できる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmol、好ましくは0.1〜10mmol、さらに好ましくは0.5〜5mmol程度である。
【0026】
酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。生産コストの観点から、使用する酸化剤として現在工業プロセスにおいて最も汎用されている安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好適である。酸化剤の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度である。
【0027】
本発明で用いるセルロース系原料は特に限定されるものではなく、各種木材由来のクラフトパルプあるいはサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末状セルロースや酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末を使用できる。
【0028】
本発明の方法は温和な条件であっても酸化反応を円滑に進行させることができるという特色がある。そのため、反応温度は15〜30℃程度の室温であってもセルロース系原料を効率良く酸化できる。なお、反応の進行に伴ってセルロースにカルボキシル基が生成し、反応液のpH低下が認められる。そのため、酸化反応を効率良く進行させるためには、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが望ましい。
【0029】
本発明のセルロースナノファイバーは、前述の酸化処理されたセルロースを湿式微粒化処理して解繊処理することにより製造することができる。湿式微粒化処理を行う方法としては、例えば、高速せん断ミキサーや高圧ホモジナイザーなど公知の混合・攪拌、乳化・分散装置を必要に応じて単独もしくは2種類以上組合せて処理することによってセルロースナノファイバー化することができる。湿式微粒化処理装置としては、100MPa以上の圧送圧力を可能とする高圧ホモジナイザーの使用が好ましい。
【0030】
本発明のセルロースナノファイバーは、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースシングルミクロフィブリルである。また、カルボキシル基量としては0.5mmol/g以上であるものが望ましい。このセルロースナノファイバーを紙に塗工すると、透気抵抗度を向上させることができ、さらに油の浸透抑制、バリア性の向上等の機能を付与することができる。
【0031】
上述したセルロースナノファイバーは、基紙に内添してもよいし、外添(表面に塗工)してもよいが、外添の方がセルローナノファイバーを紙表面付近に多く存在させることが可能であり、バリア性の向上の点では好ましい。このため、本発明においては、セルロースナノファイバーを含有する塗工液を基紙表面に塗布した後、乾燥機等で乾燥し、基紙表面にセルロースナノファイバーを含有する塗工層を設ける。セルロースナノファイバーを含有する塗工液を塗布する方法としては、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコータ等の公知の塗工機を用いることができる。
【0032】
本発明において、セルロースナノファイバーの好ましい塗工量は、片面当たりの塗工量として0.2g/m以上であり、好ましくは0.5g/m以上である。セルロースナノファイバーの塗工量が少ないと前述した効果が小さくなる傾向がある。塗工量が多いほど油の浸透抑制、バリア性が向上するが、耐油紙の柔軟性が損なわれる傾向がある。
【0033】
また、セルロースナノファイバーからなる塗工層には、必要に応じて水溶性樹脂、樹脂エマルジョン、サイズ剤、耐水化剤、撥水剤、填料等の薬品を、本発明の効果を損なわない程度に混合して使用できる。
【0034】
本発明の基紙は木材パルプ等の製紙用天然繊維を用いて公知の抄紙機にて製造されるが、その抄紙条件は特に規定されるものではない。製紙用天然繊維としては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等の木材パルプ、マニラ麻パルプ、サイザル麻パルプ、亜麻パルプ等の非木材パルプ、およびそれらのパルプに化学変性を施したパルプ等が挙げられる。パルプの種類としては、硫酸塩蒸解法、酸性・中性・アルカリ性亜硫酸塩蒸解法、ソーダ塩蒸解法等による化学パルプ、グランドパルプ、ケミグランドパルプ、サーモメカニカルパルプ等を使用することができる。
抄紙機としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等が使用される。なお、多層紙や板紙を製造するには、円網式抄紙機が使用される。
【0035】
また、本発明の耐油紙の基紙は、ショッパーろ水度85〜90°SRに叩解した製紙用天然繊維を用いて製造されることが好ましい。上記製紙用天然繊維は、通常のリファイナーまたはビーターなど公知の装置でろ水度85〜90°SRまで叩解するが、ろ水度が85°SRに満たない場合、必要とされる耐油性を得ることができない恐れがある。なお、上記製紙用天然繊維には、必要に応じてサイズ剤や乾燥紙力剤、湿潤紙力剤等一般的な抄紙薬品を添加することができる。
【0036】
基紙の坪量は、特に限定されないが通常30〜60g/m、好ましくは30〜40g/mのものが用いられる。坪量が30g/mに満たない場合、紙にピンホールが多くなり十分な耐油性が得られず、また耐油紙として使用するために必要な強度が得られない恐れがある。一方、坪量が60g/mを越えると抄紙機ワイヤー上での脱水や、ドライヤーでの乾燥が遅くなるため生産性が低下し、コストが上昇する傾向にある。
【0037】
本発明の耐油紙は、透気抵抗度を45,000秒以上とすることが必要である。透気抵抗度が低い場合は、紙層内の繊維間空隙が大きくなっていると考えられ、毛細管現象によって油が紙層内に浸透し易くなる。また、基紙表面に塗布されたセルロースナノファイバーからなる塗工層に空隙が多くなっているとも考えられ、耐油性、特に油の広がりを抑制する効果が低下する。
【0038】
耐油紙に油が付着した場合、油に接触した紙面に油が浸透して透明性が高まり、あたかも油が紙を透過して染み出ているように見える。このため、基紙には必要に応じて填料を内添することができる。填料としては通常抄紙で用いられる無機微粒子や有機微粒子を適宜用いることが可能であるが、耐油紙の不透明度を高めるためには、光に対する屈折率が1.8〜3.0で粒子径の小さい填料を内添することが好ましい。填料としては、ルチル型二酸化チタン(屈折率2.76)、アナターゼ型二酸化チタン(屈折率2.52)、酸化ジルコン(屈折率2.40)、酸化亜鉛(屈折率2.01)等の無機顔料、二酸化チタン被覆雲母(屈折率2.3)、酸化鉄被覆雲母(屈折率2.9)、二酸化チタン被覆シリカ、二酸化チタン被覆ガラスフレークのような複合顔料等が挙げられる。これらの填料は、製紙用天然繊維に対して2〜10質量%、好ましくは3〜7質量%内添する。2質量%未満では必要な不透明度および不透明度の低下抑制効果が得られず、また10質量%を超えると基紙の透気抵抗度が低下し油バリア性が低下する恐れがある。
【0039】
かくして、本発明の耐油紙に用いる基紙が得られるが、この後、基紙には、紙層構造内に存在する空隙を充填しかつ紙表面を覆う塗工層を形成させるために前記セルロースナノファイバーを主剤とする塗工層が塗設される。
また、塗工紙は、必要に応じてスーパーカレンダー加工を施すことにより、耐油性、平滑性、印刷適性を高めることができる。
【0040】
本発明の耐油紙の透湿度は、2,000g/m・24hr以上である。透湿度が2,000g/m・24hrに満たないと、揚げたての揚げ物を該耐油紙の袋に入れて密封した場合、袋内に結露が発生して衣が水分を含んで過度に柔らかくなり、味覚が著しく損なわれる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例において質量%とあるものはそれぞれ「固形分質量%」を示す。また、塗工量を示す値は断りのない限り乾燥後の固形分質量を示す。
【0042】
[実施例1]
ろ水度90°SRに叩解した針葉樹クラフトパルプを用いた坪量30g/mの紙に対して、以下のように製造したセルロースナノファイバー分散液をバー塗工にて両面合計0.26g/mとなるように塗工した後、乾燥し、シートを得た。
【0043】
(セルロースナノファイバー分散液の製造)
粉末セルロース(日本製紙ケミカル(株)製、粒径24μm)15g(絶乾)を、TEMPO(SigmaAldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム755mg(5mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、粉末セルロースが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)50ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応した後、遠心操作(6000rpm、30分、20℃)で酸化した粉末セルロースを分離し、十分に水洗することで酸化処理した粉末セルロースを得た。酸化処理した粉末セルロースの2%(w/v)スラリーをミキサーにより12,000rpm、15分処理し、さらに粉末セルローススラリーを超高圧ホモジナイザーにより140MPaの発送圧力で5回処理したところ、透明なゲル状分散液が得られた。得られた2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は890mPa・sであった。
【0044】
[実施例2]
ろ水度90°SRに叩解した針葉樹クラフトパルプを用いた坪量40g/mの紙に対して、前述のセルロースナノファイバー分散液をバー塗工にて両面合計0.24g/mとなるように塗工した後、乾燥してシートを得た。
【0045】
[実施例3]
ろ水度90°SRに叩解した針葉樹クラフトパルプを用いた坪量40g/mの紙に対して、セルロースナノファイバーをバー塗工にて両面合計0.56g/m塗工した後、乾燥してシートを得た。
【0046】
[比較例1]
ろ水度90°SRに叩解した針葉樹クラフトパルプを用いた坪量30g/mの紙に対して、純水をバー塗工にて両面合計純水として30.0g/m塗工した後、乾燥してシートを得た。
【0047】
[比較例2]
ろ水度90°SRに叩解した針葉樹クラフトパルプを用いた坪量40g/mの紙に対して、純水をバー塗工にて両面合計純水として30.0g/m塗工した後、乾燥してシートを得た。
【0048】
[比較例3]
ろ水度90°SRに叩解した針葉樹クラフトパルプを用いた坪量40g/mの紙に対して、バー塗工にてリン酸エステル化澱粉を両面合計0.60g/m塗工した後、乾燥してシートを得た。
【0049】
[比較例4]
ポリエチレンをラミネートした耐油紙として30g/m純白ロール紙と22g/mレーヨン混抄紙の間にポリエチレンを厚さ15μmに溶融押し出し加工して積層した純白ロール紙/ポリエチレン層/レーヨン混抄紙の構成のラミネート耐油紙を用意した。この耐油紙は坪量68g/m、透気抵抗度280,000秒、透湿度45g/m・24hrであった。
【0050】
実施例、比較例でそれぞれ作成したシートを用いて下記の測定を行い、結果を表1、2に示した。試験方法を下記に示す。
(1)透気抵抗度:JapanTAAPI紙パルプ試験方法No.5-2:2000に従い、王研式(2)平滑度透気度試験器により測定した。
(3)透湿度:JISK7129に従い、温度40±0.5℃、相対湿度90±2%の条件下で、透湿度測定器(Dr.Lyssy社製、L80−4000)を用いて測定した。
(4)JIS耐油度:JISP8146−1976に記載の紙の耐油度試験方法に従った。
(5)不透明度:白色度計(村上色彩(株)製、CMS-35SPX)を用いて測定した。
(6)油適下後不透明度:実施例および比較例で作成した紙にオリーブ油を1ml滴下し、 60℃乾燥機中で1時間放置後にオリーブ油を拭き取り、不透明度を測定した。
(7)揚げ物を入れた際の結露の発生:得られたシートを袋状にした中に、揚げ物を入れ、結露の状態を目視で観察した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
耐油度を比較すると、比較例1,2は測定下限値を下回る値であったのに対して、実施例1,2,3はセルロースナノファイバーを塗布することで耐油度が上昇し、塗工量の増加と共に、耐油度は向上していた。また実施例3と比較例3を比較すると、ほぼ同一な塗工量にも関わらず、セルロースナノファイバーを塗布した方が澱粉を塗布したものより耐油度の上昇幅が大きいことがわかった。
【0054】
実施例1と比較例1、実施例2,3と比較例2をそれぞれ比較すると、セルロースナノファイバーを塗布することで透気抵抗度が上昇した。このことから、紙にセルロースナノファイバーを塗布することで、紙層内の繊維間空隙が充填され、耐油性を向上する効果があると考えられる。また実施例3と比較例3を比較すると、セルロースナノファイバーを塗布した方が澱粉を塗布した場合よりも透気抵抗度の上昇幅が大きいことが示された。
また、ポリエチレン層を有する比較例4では透湿度が45g/m・dayであり、揚げたての揚げ物を該耐油紙の袋に入れて密封した場合、袋内に結露が発生した。結露が発生すると衣が水分を含んで過度に柔らかくなり、味覚が著しく損なわれる。実施例1,2,3の耐油紙の透湿度はいずれも25,575g/m・day以上であり、測定の上限値を上回る値であったことから、セルロースナノファイバーを塗布した耐油紙は水蒸気の透過性を大きく阻害することなく、揚げ物を入れた際の結露の発生はなかった。
【0055】
また、実施例2,3と比較例2の油滴下後不透明度を比較すると、セルロースナノファイバーを塗布した実施例2,3の方が不透明度は高かった。このことから紙にナノファイバーを塗布することで、揚げ物から油が紙へ染み込むことを防ぎ、外観を損なうことなく使用できることが示唆された。
以上のことから、実施例1〜3の耐油紙はセルロースナノファイバーを塗工した紙は、耐油性が向上し、揚げ物の衣を過度に柔らかくする結露水を生成させない水蒸気透過性を有し、内容物からの油の染み込みを防ぐことが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の少なくとも片面にセルロースナノファイバーからなる塗工層を設けた耐油紙。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーは、その水溶液濃度が2質量%の際、B型粘度(60rpm、20℃)が500〜2000mPa・sであることを特徴とする請求項1記載の耐油紙。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーは、セルロース系原料に、N−オキシル化合物、並びに臭化物、ヨウ化物又はこれらの混合物の存在下で、酸化剤を添加し、水中にて前記セルロース系原料を処理して酸化されたセルロースを調製し、該酸化されたセルロースを湿式微粒化処理してナノファイバー化されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐油紙。
【請求項4】
前記基紙が、ショッパーろ水度85〜90°SRの製紙用天然繊維により抄紙された坪量30〜60g/mの紙であり、前記セルロースナノファイバーの塗工量が0.2g/m以上であり、さらに、透気抵抗度が45,000秒以上であり、かつ、透湿度が2,000g/m・24hr以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐油紙。

【公開番号】特開2011−74535(P2011−74535A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228019(P2009−228019)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】