説明

耐湿性に優れた板状シリカ乃至板状シリカ複合体の製造方法

【課題】バーミキュライトを出発原料とし、これを酸処理することにより得られ、SiOの薄層が積層された劈開性積層体粒子からなっているにもかかわらず、耐湿性だけでなく耐熱性に優れた、板状シリカ及び板状シリカ複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】バーミキュライトの酸処理物の水分散液を調製する工程、
前記酸処理物の水分散液をpHが5.0乃至13.0の範囲に調整する工程、
前記pH調整した酸処理物の分散液を80乃至250℃の温度で熱処理する工程、得られた処理液を乾燥及び/または焼成する工程、
からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ乃至シリカ複合体の製造方法に関するものであり、より詳細には、バーミキュライトを出発原料として得られる耐湿性に優れた板状シリカ乃至板状シリカ複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリカは、塗料、樹脂成形品、紙、化粧料、筆記具等の各種の分野において、填剤として広く使用されている。
【0003】
このようなシリカとして、バーミキュライトを酸処理して得られる非晶質シリカが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
バーミキュライトを酸処理して得られる非晶質シリカは、SiOの薄層が積層された劈開性積層体粒子からなる葉片状、鱗片状または板状と呼ばれる形状を有しており、多数積層されているシリカの薄層が層として独立した挙動を示しうるという特性即ち劈開性を示し、従来公知のシリカに見られない性質を有している。具体的には、樹脂等の媒質中に薄い形で分布することができ、分散性が高く、被覆力、密着性、保護効果、ガスに対するバリヤー性などが向上しているという特性を有している。
【特許文献1】特許第3689174号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バーミキュライトから得られる非晶質シリカは、劈開性を有しているといっても、SiOの薄層が多数積層された構造を有しているため、これらの薄層の一部が剥離するに過ぎず、薄層の全てが剥離して独立した挙動を示すわけではない。即ち、嵩密度が高く、樹脂などに対して大きな体積で配合させて所望の効果を達成させるためには、かなり多量に配合しなければならず、未だ改善の余地がある。
【0006】
また、樹脂等の填剤として使用されるシリカは、耐湿性も要求される。吸湿性が高いシリカは、各種の材に混合して熱成形などに供したとき、含有水分によって発泡を生じるなどの不都合を生じてしまうからである。しかるに、上述したバーミキュライト由来のシリカは、吸湿性が高いという点でも不満足であり、この点でも改善が求められている。
【0007】
耐湿性を高めるための手段としては、焼成が知られているが、一般にシリカを焼成すると、粒子の収縮を生じてしまい、嵩密度の増大などをもたらしてしまうため、嵩密度を低くし、配合量を低減させるという観点からは、焼成により耐湿性を高めることは適当でない。
【0008】
従って、本発明の目的は、バーミキュライトを出発原料とし、これを酸処理することにより得られ、SiOの薄層が積層された劈開性積層体粒子からなっているにもかかわらず、耐湿性だけでなく耐熱性に優れた、板状シリカ乃至板状シリカ複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、先に、バーミキュライトの酸処理物を特定のpHの範囲で水熱処理するときには、バーミキュライトに由来する層状ケイ酸構造を有し、しかもかかる層状構造は劈開性に優れているとともに、嵩密度が低く、軽量性に優れた非晶質シリカが得られることを見出し、かかる非晶質シリカ及びその製造方法について特許出願した(特願2006−58027号)。本発明者等は、このようなシリカについてさらに検討を重ねた結果、このシリカを、さらに焼成した場合には、粒子の収縮が抑制された、葉片状、鱗片状または板状と呼ばれる形状(以後、板状と記載)が保持されたまま、耐湿性を向上させ得るという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、
バーミキュライトを酸水溶液で処理し、ろ過及び水洗して得られた酸処理物のろ過ケーキを水に分散させて酸処理物の水分散液を調製する工程、
前記酸処理物の水分散液をpHが5.0乃至13.0の範囲に調整する工程、
前記pH調整した酸処理物の分散液を80乃至250℃の温度で熱処理する工程、
得られた処理液を乾燥及び/または焼成する工程からなることを特徴とする、
嵩密度が0.50g/ml以下、75%RHでの平衡吸湿量が7.5%以下、吸油量(JIS K 5101−13−2:2004)が50ml/100g以上の範囲にある板状シリカ乃至板状シリカ複合体の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明においては、
(1)前記pHの調整を、NHOH水溶液で行うこと、
(2)前記pHの調整を、Caの酸化物/水酸化物を使用して行うこと、
(3)前記pHの調整を、Mgの酸化物/水酸化物を使用して行うこと、
(4)前記熱処理を加圧下で行うこと、
(5)前記酸処理物の水分散液の酸処理物濃度が5乃至25重量%の範囲にあること、
(6)前記焼成を800乃至1200℃の温度で行うこと、
が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により得られる板状シリカ乃至板状シリカ複合体は、バーミキュライトの酸処理工程を経て得られるものであるため、SiOの薄層が積層された層状ケイ酸構造を有しており、板状形状を有している。このため、樹脂等の媒質中に薄い形で分散させることができ、被覆力、密着性、保護効果、ガスに対するバリヤー性など、極めて優れた特性を示す。
【0013】
本発明により得られる板状シリカ乃至板状シリカ複合体は、耐湿性に優れており、75%RHでの平衡吸湿量が7.5%以下と極めて低く、このため、樹脂等に配合して熱成形などの熱履歴に供された場合においても発泡などの不都合を生じることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[バーミキュライト]
本発明の板状シリカ乃至板状シリカ複合体の原料として使用されるバーミキュライト(vermiculite)は、バーミキュライト群粘土鉱物あるいは雲母群粘土鉱物に分類される加水雲母を主成分とする鉱物であり、蛭石とも呼ばれている。この鉱物を一定温度以上に急熱すると、面指数(001)の面に垂直な方向(C軸方向)に著しく延び、蛭に似た形態になるのが名前の由来となっている。このバーミキュライトには、基本的に下記式(1)で表わされる化学構造を有する3八面体型のものと、下記式(2)で表わされる化学構造を有する2八面体型のものとがあり、何れも使用することができる。
【0015】
{E0.6〜0.8・4〜5HO}(Mg,Fe3+,Fe2+,Al)
・[Si,Al]10(OH) …(1)
{E0.6〜0.8・nHO}(Al,Fe,Mg)・[Si,Al]
・O10(OH) …(2)
尚、上記式中、Eは層間イオンであり、主としてKやMgからなる。
【0016】
また、バーミキュライトの化学的組成は、産地等によっても相違するが、代表的な組成は以下の通りである。
SiO:35〜45重量%
Al:10〜20重量%
MgO:7〜30重量%
Fe:5〜22重量%
CaO:0〜3重量%
NaO:0〜1重量%
O:0〜10重量%
Fe以外の重金属含量(Pb,Cr,Cd等):0.2重量%以下
灼熱減量(1050℃):3〜25重量%
【0017】
(シリカの製造方法)
本発明の製造を行うにあたっては、先ず、上記のようなバーミキュライトを酸処理する。このような酸処理を行うことにより、結晶構造が破壊され、且つ有色成分が除去され、白色性が向上し、重合体等に配合した場合の着色を抑えることができる。
【0018】
酸処理に使用される酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸が使用され、その使用量は、バーミキュライト中のFeを含む塩基性成分に対して過剰量である。また、酸濃度は、一般に、15乃至40重量%、特に20乃至35重量%とするのがよく、酸処理温度は、10乃至110℃の範囲とするのがよい。特に処理温度の高いほうが酸濃度を低くしても処理が短時間で行える。酸処理時間は、酸濃度や酸の使用量、温度等によっても異なり、一概に規定することはできないが、酸処理によって、シリカ(SiO換算)含量が、82重量%以上、特に85重量%以上、白色度が85%以上、特に88%以上に高められる程度の時間、酸処理を行うのがよく、通常、6乃至48時間程度である。
【0019】
また、酸処理に先立って、必要により、200乃至500℃の温度で加熱処理を行うこともできる。この加熱処理は、膨積処理と呼ばれるものであり、バーミキュライトの層状構造をバラバラにするために行われ、特にアスペクト比の高い板状シリカを得るために有効である。
【0020】
尚、上記のような酸処理の前後に、必要により、夾雑する脈石の分離を行うのが好ましい。この分離は、水簸、液体サイクロンなどによる湿式分級方法および風簸、サイクロン、ミクロンセパレータなどによる乾式分級方法が一般に適用できる。
【0021】
本発明においては、上記で得られたバーミキュライトの酸処理物をpH5.0乃至13.0に調整後熱反応に供し、これにより、本発明の板状シリカ及び板状シリカ複合体の前駆体を得ることができる。即ち、このようなpHでの熱反応により、酸処理して得られたシリカの各粒子で、小さい粒子のSiO成分が溶解し大きい粒子の表面に縮合等を介して再配列して析出するオストワルドの熟成が進行することにより、バーミキュライトに由来する特有の層状ケイ酸構造や劈開性を維持したまま、後述する嵩密度、BET比表面積などの物性が発現する。
【0022】
従って、本発明では、上記pHでの熱反応を行うために、バーミキュライトの酸処理で得られたシリカの水分散液を調製し(水分散液調製工程)、次いで該水分散液のpHを調整する(pH調整工程)。
【0023】
酸処理物の水分散液は、バーミキュライトの酸処理によって得られた酸処理物をろ過、水洗し、余剰の酸を除去することにより得られた酸処理物のろ過ケーキを、必要により粉砕して再度水に分散することにより調製される。
【0024】
このようにして調製される酸処理物の水分散液の酸処理物濃度は、通常、5乃至25重量%の範囲にあることが好適である。この濃度が低いと、生産性が低下してしまうし、また必要以上に高濃度であると、以後の工程で分散液の撹拌が困難となるおそれがある。
【0025】
分散液のpHは、5.0乃至13.0、特に7.0乃至12.0の範囲になるように調整すれば良い。pH調整に用いるものは、特に制限されないが、pH調整が容易であることなどの観点から、NHOH水溶液、Caの酸化物/水酸化物またはMgの酸化物/水酸化物のいずれかを用いるのがよい。また、珪酸ソーダ、NaOH、KOHも使用することができる。もちろん、酸処理物の水分散液を調製する工程で、上記のpH範囲にあれば、pH調整剤を用いなくてもよい。
なお、pH調整剤の種類によって、焼成時の結晶化挙動が若干異なるため、シリカの用途に応じてpH調整剤の種類を選択するのがよい(後述の実施例等を参照)。
【0026】
また、pHを上記範囲とすることは極めて重要であり、pHが上記範囲よりも高いと、酸処理物の多くが溶解してしまい、バーミキュライトに由来する層状ケイ酸構造や劈開性が消失してしまう。また、pHが上記範囲よりも低いと、酸処理物であるシリカ表面に存在するSiOの溶解が有効に生ぜず、この結果、後述する嵩密度等の物性を得ることができなくなってしまう。
【0027】
上記のようなpH調整工程は、pHが上記範囲内で安定し、酸処理物が均一に分散する程度に行えばよく、通常、pH調整剤との攪拌下の混合を30乃至60分程度行えばよい。
【0028】
本発明においては、かくして得られたpH調整した分散液を、80乃至250℃、好ましくは80乃至200℃、更に好ましくは90乃至190℃の温度で熱処理することにより、シラノール基(SiOH基)量及び比表面積が低減された板状シリカ及び板状シリカ複合体を得ることができる。即ち、かかる熱反応により、SiOの溶解及び再配列が生じ、各種物性の改質が行われるのである。熱処理温度が、上記範囲よりも低いと、SiOの溶解及び再配列が不十分となり、各種物性の改質が満足する程度に行われない。また、熱処理温度が上記範囲よりも高いと、改質効果が充分得られないばかりか、バーミキュライトに由来する層状ケイ酸構造や劈開性が損なわれてしまう。
【0029】
また、上記の熱処理は、常圧、或いはオートクレーブ等による加圧のどちらで行っても構わない。好適には、1気圧以上の圧力下で行った場合、即ち加圧することで、SiOの溶解や再配列を促進させ、熱処理を短時間で行うことができる。
【0030】
本発明において、上述した熱処理は、圧力によっても異なるが、一般的には、1乃至10時間程度行えばよい。
【0031】
熱処理後は、得られた処理液を乾燥し、用途に応じて適度な粒度に粉砕することにより、未焼成の板状シリカ及び板状シリカ複合体が得られる。
【0032】
また、pHの調整にCaの酸化物/水酸化物をCaO換算で2.5%を超えて15%未満で使用し、熱処理を加圧下(140乃至190℃)で行った場合は、乾燥のみで後述の焼成工程を行わなくても、本発明の物性を有する板状シリカ複合体が得られる(後述の実施例を参照)。
【0033】
上記のようにして得られる未焼成の板状シリカは、原料のバーミキュライトに由来して、シリカ薄層の劈開性積層体粒子構造を有している。図2は、本発明の板状シリカ複合体の粒子構造を示す電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)である(実施例26)。図2から理解されるように、本発明の板状シリカ複合体は、積層体粒子を形成する非晶質シリカの薄層の独立性(劈開性)が高く、積層数が小さい範囲まで剥離してばらばらになっていることが判る。
【0034】
(焼成工程)
本発明においては、上記のような工程を経て得られた板状シリカ及び板状シリカ複合体を、焼成することにより、さらにシラノール基(SiOH基)の縮合が生じ、耐湿性が大幅に向上する。
【0035】
また、驚くべきことに、かかる焼成工程では、図3の電子顕微鏡写真(実施例28)から判るように、バーミキュライト由来の劈開性層状ケイ酸構造をそのまま保持しており、さらには、粒子の収縮が有効に抑制され、さらには細孔の閉塞も有効に抑制されており、このため、このような焼成により得られる本発明の板状シリカ及び板状シリカ複合体は、耐熱性に優れている。
【0036】
本発明の焼成工程において、焼成温度が低いと、焼成による耐湿性向上効果が不十分となり、一方、焼成温度が高いと、粒子間の焼結が生じ、前述した劈開性構造が失われ、板状粒子形状が維持できず、粒子の収縮や細孔の閉塞が大きくなる。
本発明の板状シリカ乃至板状シリカ複合体の物性を得るためには、焼成温度は、800乃至1200℃、特に900乃至1200℃の間で行われるのが好ましい。
【0037】
本発明において、上記のような温度での焼成は、平衡吸湿量が前述した範囲となる程度の時間、例えば0.1乃至2時間程度行われる。なお焼成は、熱処理後の濾過ケーキ、濾過ケーキ乾燥物、濾過ケーキ乾燥物を粉砕、分級して粒度調製した粉末の、いずれで行っても良い。粒度調製していない焼成物は、焼成後に粉砕、分級して用途に応じた粒度に調製すればよい。
【0038】
(板状シリカ乃至板状シリカ複合体)
このようにして、得られた本発明の板状シリカ乃至板状シリカ複合体の物性は、嵩密度が0.50g/ml以下、75%RHでの平衡吸湿量が7.5%以下の範囲にある。また、吸油量は、50ml/100g以上の範囲にあり、未焼成シリカに比してほぼ同程度、或いは焼成温度によっては高い値を示すものもある。即ち、焼成によって吸油量がほとんど低下していないことは、焼成時に粒子の収縮が有効に抑制され、さらには細孔の閉塞も抑制されていることを示している。特に、NHOH水溶液でpHを調整した板状シリカは、900乃至1200℃で焼成したものが好ましく75%RHでの平衡吸湿量が6.0%以下の範囲にある。更に900乃至1100℃で焼成したものは、嵩密度が0.20g/ml以下、吸油量は、100ml/100g以上の範囲で特に好ましい。
例えば、後述する実施例からも理解されるように、前述した未焼成シリカを焼成した場合には、焼成による吸油量の低下が低く、例えば後述の実施例において、焼成温度900℃で処理したときの吸油量が140ml/100gであり(実施例9)、焼成温度が1200℃で処理したときの吸油量が80ml/100gとなっており(実施例11)、その低下が小さい。一方、沈降法で製造した非晶質シリカを焼成した場合、焼成温度900℃での吸油量が200ml/100gであり、焼成温度が1200℃での吸油量が40ml/100gとなっており(比較例21)、本発明に比して吸油量の低下が極めて大きく、粒子の収縮や細孔の閉塞が大きいことが判る。
【0039】
本発明の板状シリカ乃至板状シリカ複合体は、pH調整剤の種類によって焼成時の挙動が異なる。例えば、pH調整剤を使用しなかった場合、或いはpH調整剤として、NHOH水溶液或いはMgの酸化物/水酸化物を用いた場合には、得られる板状シリカ乃至板状シリカ複合体は、900℃〜1000℃で焼成したものでも実質上非晶質であり、X線回折では、結晶性シリカへの完全な転移は認められない。一方、Caの酸化物/水酸化物を用いた場合には、900℃焼成のもので、X線回折によると、石英やクリストバライトなどの結晶に転移しやすいことがわかる。即ち、焼成に際してCaが結晶促進剤として作用するため、Caの添加量が増えるにつれ、結晶化の転移温度が低下する傾向にある。
従って、結晶性シリカを嫌う用途では、NHOH水溶液或いはMgの酸化物/水酸化物をpH調整剤として使用することが好適である。
【0040】
(用途)
上記の本発明の製造方法により得られた板状シリカ乃至板状シリカ複合体は、吸湿性が極めて低く、耐湿性に優れている。さらには、酸処理を経由して得られることから、鉄分等の有色成分含量が著しく少なく、このため、一般にハンター白色度が85%以上、特に88%以上を示し、樹脂等に配合したときの着色を抑えることができるという利点も有している。
【0041】
上述した板状シリカ乃至板状シリカ複合体は、それ単独で、塗料、インク、各種の樹脂乃至エラストマーなどに、充填剤、補強剤、絶縁性向上剤、防錆剤、レオロジー改質剤、難燃助剤などとして配合することができ、例えばその配合量は用途によっても異なるが、一般に樹脂固形分当り100重量部当り、0.1乃至30重量部の量でよい。
【0042】
また、かかる板状シリカ乃至板状シリカ複合体は、それ単独で樹脂等に配合してもよいが、他の無機或いは有機の表面改質剤で処理して、樹脂等に対する分散性を更に高めて使用に供することもできる。このような表面改質剤は、該シリカ当り0.5乃至30重量%、特に1乃至25重量%の量で用いるのが良い。
【0043】
無機の表面改質剤としては、エアロジル、疎水処理エアロジル等の微粒子シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩、カルシア、マグネシア、亜鉛華、酸化鉄、チタニア等の金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩、A型、P型、ZSM−5等の合成ゼオライト及びその酸処理物もしくはその金属イオン交換物、ハイドロタルサイトなどがあり、これらは、その用途に応じて、適宜ブレンドして、まぶして或いは被覆して使用することができる。
【0044】
また、有機の表面改質剤としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等の脂肪酸、脂肪酸のカルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、バリウム塩等の金属石鹸、シランカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、シリコーンオイル、各種ワックス類、未変性乃至変性の各種樹脂(例えばロジン、石油樹脂等)等があり、その用途に応じて、このような表面改質剤を被覆して使用に供することができる。
【0045】
尚、前述したpH調整剤としてCaまたはMgの酸化物/水酸化物を用いて得られた本発明の板状シリカ複合体は、CaまたはMg被覆されているため、それ単独でも、上記のような表面改質剤で処理されたものと同程度の高い分散性を示すという利点がある。
【0046】
また、本発明の板状シリカ乃至板状シリカ複合体は、劈開性が高められ、シリカ薄層の独立性が高められているため、塗料や樹脂等に配合し、分散或いは混練等を行ったとき、粒子にかかる剪断力により、塗装時や成形時の流動配向により容易に層状に分散配向し、各物性の点で好適な層状分布構造を与え、例えばガスバリア性などの特性を著しく高めることができる。
【0047】
このような塗料としては、熱硬化性樹脂塗料、例えば、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂、ケトン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、シリコーン樹脂、油性樹脂、或いは熱可塑性塗料、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−マレイン酸−酢酸ビニル共重合体、アクリル重合体、飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0048】
熱可塑性樹脂としては、フィルム、シート、容器や蓋等の形状に成形加工するもの、特にガスバリア性を向上させ得るという見地から、包装材として使用されるものが好適であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、脂環式構造を有するポリオレフィンなどのオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのアミド樹脂;ポリヒドロキシブチレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリアリキレンカーボネートなどの生分解性樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;エチレン−ビニルアルコール共重合体;ポリスチレン;ポリスルホン、セロファン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリカーボネート;ポリアクリロニトリル;塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、軟質塩化ビニル;などを例示することができる。
【0049】
またエラストマーとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンーブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンープロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリルゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどの所謂ゴムや、スチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ウレタン系、エステル系、アミド系などの熱可塑性エラストマーを例示することができる。
【0050】
本発明の板状シリカ乃至板状シリカ複合体は、樹脂用配合剤の他に、メークアップ化粧料等の填剤として、また製紙用填料として有用である。さらに、電子写真用トナー外填剤、車のブレーキの摩擦調整材、或いは触媒担体、特にリパーゼを担持させたエステル合成触媒等として、使用することができる。
【0051】
さらに、本発明の板状シリカ乃至板状シリカ複合体は、耐湿性に優れ、しかも比較的高い吸油量を有しており、さらに熱処理による粒子収縮が小さいなどの特性を有していることから、鉛筆やシャープペンなどの芯材用の填剤としても有用である。例えば、これらの芯材は、黒鉛や窒化ホウ素などの体質剤に塩化ビニル樹脂や可塑剤などを加えて混練後、細線状に押出成形し、空気中で300℃まで加熱し、更に、不活性雰囲気中1000℃で焼成した後、書き味を高めるためにオイルを含浸させたり、さらには染料を加えて着色させることにより作成される。本発明の板状シリカ乃至板状シリカ複合体は、上記のような体質剤に添加することにより、得られる芯材に優れた特性を付与することができる。即ち、焼成に際して粒子の収縮が抑制されているため、耐熱性を付与することができ、また、焼成によって細孔の閉塞も抑制され、適度な吸油量が保持されているため、オイルや染料の含浸乃至保持性も良好となる。但し、Caの酸化物/水酸化物をpH調整剤として用いて得られた板状シリカ複合体は、焼成によって結晶化が促進され、クリストバライト等の結晶性シリカが生成し易いため、上記のような芯材用の填剤として用いた場合には、芯の硬度が増大し、書き味が悪くなったり、折れ易くなることがある。従って、このような用途には、pH調整剤を使用せずに得られたもの、或いはNHOH水溶液またはMgの酸化物/水酸化物をpH調整剤として用いて得られた板状シリカ乃至板状シリカ複合体が好適である。
【実施例】
【0052】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。尚、実施例における測定方法は以下の通りである。
【0053】
(1)吸油量
JIS K 5101−13−1:2004に準拠して測定した。なお、吸油量は、試料の粒径に影響されるため、焼成により粒成長や焼結が生じた試料は、焼成後乳鉢で粉砕し、200meshで篩ったものについて測定を行った。その場合、以下に記載の物性測定も、前記の粉砕処理を行った試料を用いて行った結果である。
【0054】
(2)中位径(D50
Malvern社製Mastersizer2000を使用して、レーザ回折散乱法で測定した。
【0055】
(3)嵩密度
JIS K 6220−1 7.7:2001に準拠して測定した。
【0056】
(4)平衡吸湿量
試料約1gを、予め重量を測定した50mmφの秤量ビンに入れ、110℃の電気恒温乾燥器で3時間乾燥後、デシケーター中で放冷する。次いで試料の重さを精秤し、飽和食塩水で関係湿度(RH)75%に調節したデシケーター中に入れ、重量が平衡に達するまで測定し、平衡吸湿量を求めた。
【0057】
(5)BET比表面積
カルロエルバ社製Sorptomatic Series 1900を使用し、窒素吸着等温線を測定した。比圧0.2以下の吸着枝側窒素吸着等温線からBET法で求めた。
【0058】
(6)X線回折(XRD)
PHILIPS社製のPW1830を用いて、Cu−Kαにて下記の条件にて測定した。
ターゲット:Cu
フィルター:湾曲結晶グラファイトモノクロメーター
検出器:SC
電圧:40kV
電流:30mA
ステップサイズ:0.03°
計数時間:0.6sec
スリット:DS1° SS1° RS0.2mm
測定結果を各表に示すが、ピーク強度が強い順に記載し、括弧内に表記したものはピークが僅かに確認された事を示している。
【0059】
(7)白色度
JIS L−1015 7.17C法に準じて、日本電色(株)製測色色差計ZE−2000型を用いて測定した。
【0060】
(製造例1)
南アフリカ産バーミキュライト原石1.0kgに水5.2kgと98%硫酸2.3kgを加え、95℃で20時間加熱した。次いで、ろ過、水洗、130℃で乾燥し、粉砕後分級し、非晶質シリカを得た。
【0061】
(比較例1〜3)
製造例1で得られた非晶質シリカを表1に示す各温度で1時間焼成を行った。物性測定を行い、結果を表1に示す。なお、表の焼成条件で未焼成とは、130℃で乾燥した試料である(以後も同様である)。
【0062】
(実施例1〜11、比較例4〜7)
製造例1において、ろ過、水洗後のケーキ(固形分濃度50重量%)300gを水700gに分散、撹拌しバーミキュライト酸処理物の水分散液(酸処理物濃度15重量%)を調製した(このバーミキュライト酸処理物の水分散液をA−1とする)。このA−1を常温、攪拌下に、6mol/Lに調整したNHOH水溶液を滴下、良く撹拌し、分散液のpHを8.5/23℃に調整した。得られた分散液を300rpm攪拌下、表1に示す各温度と時間で熱処理を行った。処理後の液をろ過し、乾燥、粉砕、分級を行い、板状シリカを得た。次に、得られた板状シリカについて、表1に示す各温度で1時間焼成を行った。物性測定を行い、結果を表1に示す。
また、試料の白色度をそれぞれ測定したところ、比較例6は91.9%、実施例6は92.5%、実施例7は93.2%、実施例8は94.2%であった。
更に、実施例8の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)を図1に示す。
【0063】
(製造例2;実施例12〜21、比較例8〜11)
前記A−1を常温、攪拌下に、10wt%に調整したCa(OH)水懸濁液を表2に示す添加量を注加、良く撹拌し、30分混合した。得られた分散液を300rpm攪拌下、90℃で1時間熱処理を行った。処理後の液をろ過、乾燥、粉砕、分級を行い、板状シリカ複合体(CaO−SiO複合体)を得た。次に、得られた板状シリカ複合体について、表2に示す各温度で1時間焼成を行った。物性測定を行い、結果を表2に示す。
【0064】
(実施例22〜33、比較例12〜13)
Ca(OH)水懸濁液の添加量と、熱処理の温度及び時間を表3に記載したように行った以外は、前記製造例2と同様にして行い板状シリカ複合体(CaO−SiO複合体)を得た。得られた板状シリカ複合体について、物性測定を行い、結果を表3に示す。
また、試料の白色度をそれぞれ測定したところ、実施例26は91.1%、実施例27は91.9%、実施例28は94.0%であった。
更に、実施例26の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)を図2に、実施例28の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)を図3にそれぞれ示す。
【0065】
(実施例34〜42、比較例14〜20)
前記A−1を常温、攪拌下に、10wt%に調整したMg(OH)水懸濁液を表4に示す添加量を滴下、良く撹拌し、30分混合した。得られた分散液を300rpm攪拌下、表4に示す各温度と時間で熱処理を行った以外は、製造例2と同様にして行い板状シリカ複合体(MgO−SiO複合体)を得た。得られた板状シリカ複合体について、物性測定を行い、結果を表4に示す。
また、試料の白色度をそれぞれ測定したところ、比較例17は91.1%、実施例38は92.4%、実施例39は93.2%であった。
更に、実施例39の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)を図4に、比較例20の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)を図5にそれぞれ示す。
【0066】
(比較例21)
市販の沈降法で製造した非晶質シリカ(BET比表面積150m/g)について、温度を変えて焼成を行い、吸油量を測定した。焼成温度900℃での吸油量は200ml/100gであり、焼成温度が1200℃での吸油量は40ml/100gであった。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の板状シリカ(実施例8)の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)。
【図2】本発明の板状シリカ複合体(実施例26)の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)。
【図3】本発明の板状シリカ複合体(実施例28)の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)。
【図4】本発明の板状シリカ複合体(実施例39)の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)。
【図5】比較のシリカ粒子(比較例20)の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーミキュライトを酸水溶液で処理し、ろ過及び水洗して得られた酸処理物のろ過ケーキを水に分散させて酸処理物の水分散液を調製する工程、
前記酸処理物の水分散液をpHが5.0乃至13.0の範囲に調整する工程、
前記pH調整した酸処理物の分散液を80乃至250℃の温度で熱処理する工程、
得られた処理液を乾燥及び/または焼成する工程からなることを特徴とする、
嵩密度が0.50g/ml以下、75%RHでの平衡吸湿量が7.5%以下、吸油量(JIS K 5101−13−2:2004)が50ml/100g以上の範囲にある板状シリカ乃至板状シリカ複合体の製造方法。
【請求項2】
前記pHの調整を、NHOH水溶液で行なう請求項1に記載の板状シリカの製造方法。
【請求項3】
前記pHの調整を、Caの酸化物/水酸化物を使用して行なう請求項1に記載の板状シリカ複合体の製造方法。
【請求項4】
前記pHの調整を、Mgの酸化物/水酸化物を使用して行なう請求項1に記載の板状シリカ複合体の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理を加圧下で行う請求項1乃至4のいずれかに記載の板状シリカ及び板状シリカ複合体の製造方法。
【請求項6】
前記酸処理物の水分散液の酸処理物濃度が5乃至25重量%の範囲にある請求項1乃至5のいずれかに記載の板状シリカ乃至板状シリカ複合体の製造方法。
【請求項7】
前記焼成を800乃至1200℃の温度で行う請求項1乃至6のいずれかに記載の板状シリカ乃至板状シリカ複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−57224(P2009−57224A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223807(P2007−223807)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000193601)水澤化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】