説明

耐湿熱性再生ポリエステル繊維

【課題】 リサイクルポリエステルを使用していても物性値のバラツキが少なく、布帛とし、染色を行った際にも染色斑が生じにくく、色調にも優れており、かつ、耐加水分解性に優れ、高温、高湿度条件下で繰り返し使用しても品位や糸質性能の低下が少なく、好適に使用することができる耐湿熱性再生ポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】 リサイクルポリエステルを解重合した低分子量体を用いて再重合してなるポリエステルを含有するポリエステル成分からなる繊維であって、繊維中のアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物が特定式を同時に満足する量含有されており、かつカルボキシル末端基濃度が25eq/t以下である耐湿熱性再生ポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用後回収されたポリエステル(以下、リサイクルポリエステルという)を解重合し、再重合してなるポリエステルを含有するポリエステルからなる再生ポリエステル繊維に関するものであり、色調に優れ、糸質性能に優れており、かつ熱水処理や湿熱滅菌処理を繰り返し行っても、品位や糸質性能の低下の少ない耐湿熱性再生ポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)を始めとするポリエステルは、高融点で耐薬品性があり、また、低コストであるために、繊維はもちろんのこと、フィルム成型品等に幅広く用いられている。
【0003】
これらのポリエステル製品は使用後に廃棄処分されているが、燃焼させる場合には高熱が発生し、焼却炉の傷みが大きく、焼却炉の寿命が短くなるという問題がある。また、焼却しない場合は腐敗分解しないため半永久的に残ることになり、環境の面からも問題となっている。
【0004】
資源の再利用、環境問題等の面から、様々の分野や素材でリサイクルの試みが行われている。使用量が多く、今後も使用量の大幅な増加が予想されるポリエステルにおいても、液体飲用品用PETボトル等に一度成形使用されたポリエステルを回収し、再度使用することは、資源の再利用に貢献するものであり、地球環境にやさしい企業活動の一環として重要である。そして、このようなリサイクルポリエステルを使用した製品の一つとして、ポリエステルフィラメントがあり、これらのフィラメントは衣料用途あるいは産業資材用途に使用される。
【0005】
ポリエステルフィラメントの用途の一つとして、抄紙装置に使用される抄紙カンバスがある。抄紙カンバスは熱水の存在下、高温、高湿度条件下で繰り返し使用されるので、フィラメントの耐加水分解性、耐久性が要求される。
【0006】
また、衣料用途においても、手術衣、白衣、シーツ等、医薬・医療、介護、食品等の分野では、湿熱滅菌処理が必要な用途があり、これらの用途に使用される繊維においても、フィラメントの耐加水分解性、耐久性が要求される。
【0007】
しかしながら、リサイクルポリエステルは、様々な製品に加工され、使用された後に回収されたものであるため、溶融粘度、分子量、結晶化度等の物性に大きなバラツキを有しており、ロット間の物性もあまり安定したものではなく、着色や変色が生じやすい。したがって、リサイクルポリエステルより得られたフィラメントの種々の物性も未使用のポリエステル(以下、バージンポリエステルという)フィラメントよりも劣るものであり、このフィラメントより得られた布帛は耐久性等の性能に劣るものとなりやすく、染色を行った場合には、製品内で色斑を生じたり、梱包単位間で色差を生じるという問題がある。
【0008】
そこで、リサイクルポリエステルのみではなく、バージンポリエステルとリサイクルポリエステルを併用することが提案されている。
【0009】
そのひとつとして、両ポリエステルを混合して得られたフィラメントがある。例えば、溶融前のチップの段階でバージンポリエステルとリサイクルポリエステルを混合して、溶融紡糸したり、各々別々に溶融押し出しされたバージンポリエステルとリサイクルポリエステルをノズルパック内で混練する方法により得られた混合フィラメントが提案されている。
【0010】
しかしながら、この混合フィラメントでは、リサイクルポリエステルの特性は変化していないため、性能の向上は不十分であり、リサイクルポリエステル部分の品質が変動したり、染色斑等の色斑が発生するという問題も十分に解決できなかった。特許文献1に記載されているような芯鞘構造とし、リサイクルポリエステルを繊維表面に露出させないようにすることで、リサイクルポリエステル特有の問題の解決を図ることも行われているが、繊維の形態が限定され、リサイクルポリエステルの割合を多くすることもできず、上記の問題を十分に解決できなかった。
【0011】
また、上記したような抄紙カンバス用や湿熱滅菌処理が多く行われる衣料用に使用する際には、ポリエステル繊維特有の加水分解されやすい性質を改良するために、特許文献2に示すように、ポリエステルに末端封鎖剤や共重合成分を添加させることが提案されている。
【0012】
しかしながら、リサイクルポリエステルを用いた場合、溶融粘度、分子量、結晶化度等の物性に大きなバラツキを有しているため、通常のバージンポリエステルにおいて耐加水分解性を向上させるための方法として採用される末端封鎖剤を添加する方法を採用したとしても、末端カルボキシル基濃度を低下させることが困難であり、末端封鎖剤を多量に入れると末端カルボキシル基濃度は低下するものの、操業性が非常に悪化するという問題があった。
【特許文献1】特開2000-328369号公報
【特許文献2】特開2002-20931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような問題点を解決し、リサイクルポリエステルを使用していても物性値のバラツキが少なく、布帛とし、染色を行った際にも染色斑が生じにくく、色調にも優れており、かつ、耐加水分解性に優れ、高温、高湿度条件下で繰り返し使用しても品位や糸質性能の低下が少なく、好適に使用することができる耐湿熱性再生ポリエステル繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、リサイクルポリエステルを解重合して低分子量体とし、この低分子量体を再重合することにより、リサイクルポリエステルの着色や性能のバラツキを減少させることが可能となり、さらに、再重合の際、ポリエステルの重縮合触媒として用いられるアンチモン化合物とコバルト化合物、リン化合物を併用し、これらの含有量を適正化することによって、ポリエステルのカルボキシル末端濃度の増加を抑制することができ、耐湿熱性に優れる再生ポリエステル繊維が得られることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、リサイクルポリエステルを解重合した低分子量体を用いて再重合してなるポリエステルを含有するポリエステル成分からなる繊維であって、繊維中のアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物が下記式(1)〜(3)を同時に満足する量含有されており、かつカルボキシル末端基濃度が25eq/t以下であることを特徴とする耐湿熱性再生ポリエステル繊維を要旨とするものである。
(1)0.5×10-4≦〔Sb〕≦3.0×10-4
(2)0.1×10-4≦〔Co〕≦0.6×10-4
(3)0.1×10-4≦〔P〕≦20.0×10-4
なお、〔Sb〕はアンチモン化合物の含有量、〔Co〕はコバルト化合物の含有量、〔P〕はリン化合物の含有量を表し、単位は「モル/酸成分モル」である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の耐湿熱性再生ポリエステル繊維は、一旦使用され、回収されたリサイクルポリエステルを使用していながら、カルボキシル末端基濃度が25eq/t以下と低いため、耐加水分解性に優れ、繰り返し高温処理されても強力劣化が少なく、高温多湿での使用がなされる抄紙カンバス用途、高温及び高圧洗浄を必要とする医療用や工業用のユニフォーム用途に好適に使用することが可能となる。さらに、リサイクルポリエステルを使用していながら、着色がなく、白度に優れ、布帛として染色を行った際にも染色斑が生じにくく、良好な色調の製品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明の再生ポリエステル繊維は、原料としてリサイクルポリエステルを使用するものであるが、リサイクルポリエステルとは、液体飲食品用PETボトルやフィルム、繊維などのペレット以外の形に成形された後、低分子に戻されずに再び成形するために回収された樹脂のことをいう。リサイクルポリエステルとしては、中でもPETボトルを回収したものが比較的品質がよいため好ましい。
【0019】
そして、本発明の再生ポリエステル繊維は、リサイクルポリエステルを解重合した低分子量体を用いて再重合してなるポリエステル成分からなる繊維であり、このようなポリエステル成分について説明する。
【0020】
リサイクルポリエステルを解重合する際には、リサイクルポリエステルにグリコール成分を添加することにより重合体を低分子量化し、得られた低分子量体を単量体として一旦回収することなく、低分子量体の状態とする。そして、この低分子量体を続いて再重合するものである。再重合としては、通常の重合方法と同様に、溶融重合や固相重合する方法等が挙げられ、解重合したポリエステルの低分子量体を再重合することにより重合体(ポリエステル)とする。
【0021】
このように、リサイクルポリエステルを解重合により一旦低分子量体に分解し、この低分子量体を再度重合したポリエステルを用いているため、従来のように、リサイクルポリエステルをそのまま溶融し、再利用することにより得られたポリエステル繊維と異なり、溶融粘度、分子量、結晶化度等の物性値が均一化、安定化し、色調も向上する。
【0022】
また、ケミカルリサイクルのように、解重合して得られた低分子量体をさらに単量体として一旦精製して回収することもないので、コスト的にも有利である。
【0023】
本発明における解重合して低分子量化した低分子量体としては、分子量(数平均分子量)が1000〜4000程度のものとすることが好ましい。分子量が4000を超えるものであると、解重合が十分でないため、上記のような物性値の均一化、安定化、色調の向上の効果が不十分となる。一方、分子量を1000未満とするにはコスト的に不利となる。なお、前記したような分子量の低分子量体とするには、リサイクルポリエステルに対するグリコール成分の添加量、反応温度、圧力等を調整することによって可能である。
【0024】
リサイクルポリエステルを解重合した低分子量体のみを用いて再重合すると、リサイクルポリエステル100%のポリエステル(以下、ポリエステルMとする)を得ることができる。また、リサイクルポリエステルを解重合した後、再重合時にバージンポリエステルのオリゴマーを添加し、リサイクルポリエステルを解重合した低分子量体とバージンポリエステルの単量体とを再重合させたポリエステル(以下、ポリエステルNとする)としてもよい。この場合、再重合時に添加するバージンポリエステルのオリゴマー量によりリサイクルポリエステル由来の成分の含有量を調整することができる。
【0025】
つまり、本発明の再生ポリエステル繊維を構成するポリエステル成分は、リサイクルポリエステルを解重合した低分子量体を用いて再重合してなる上記のようなポリエステルを含有するものであり、ポリエステル成分としては以下に示すような態様のものが挙げられる。
(a)ポリエステルMのみからなるポリエステル成分。
(b)ポリエステルMにバージンポリエステルをブレンドしたポリエステル成分。
(c)ポリエステルNのみからなるポリエステル成分。
(d)ポリエステルNとバージンポリエステルをブレンドしたポリエステル成分。
【0026】
さらには、本発明の再生ポリエステル繊維を構成するポリエステル成分としては、(a)〜(d)のポリエステル成分を複数種ブレンドして用いてもよい。
【0027】
さらに、本発明の再生ポリエステル繊維において、リサイクルポリエステル由来の成分の含有量がポリエステル成分中の30質量%以上であることが好ましい。本発明の再生ポリエステル繊維においては、地球環境保全に貢献する観点から、リサイクルポリエステルをできるだけ多く含むことが好ましいため、リサイクルポリエステル由来の成分の含有量を30質量%以上とし、中でも40質量%、さらには60質量%以上とすることが好ましい。
【0028】
一方、リサイクルポリエステル由来の成分の含有量は90質量%以下とすることが好ましい。90質量%を超えると得られる繊維の物性値の均一性や色調が低下しやすくなる。
【0029】
ポリエステル成分中のリサイクルポリエステル由来の成分の含有量を30〜90質量%とするには、上記したポリエステル成分の(b)〜(d)態様において、バージンポリエステルの割合を適宜選択することにより調整することができる。
【0030】
さらに、本発明の再生ポリエステル繊維は、繊維中にアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物を含有するものである。
【0031】
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、塩化アンチモン、酢酸アンチモン等が挙げられ、コバルト化合物としては、酢酸コバルト、塩化コバルト、安息香酸コバルト等が挙げられる。中でも重縮合触媒活性、得られるポリエステル繊維の物性及びコストの点から、三酸化アンチモンと酢酸コバルトを用いることが好ましい。
【0032】
アンチモン化合物の特徴としては十分な重縮合活性を示すが、ポリエステルの色調を悪化させるという欠点がある。アンチモン化合物によるポリエステルの色調の悪化を防ぐものとして、コバルト化合物を用いる。アンチモン化合物とともにコバルト化合物を併用し、アンチモン化合物の添加量は十分な重縮合反応速度が発揮される範囲で少なくし、コバルト化合物を色調改良効果が発現する量とすることにより、重縮合触媒活性が増強されるとともに、ポリエステルの色調が良好となる。
【0033】
しかしながら、コバルト化合物には、重縮合反応後期で熱分解を促進する作用もあるので、多量に添加すると耐湿熱特性が低下した繊維となる。そこで、ポリエステル繊維中のアンチモン化合物及びコバルト化合物の含有量をそれぞれ(1)式、(2)式を満足するものとする。
【0034】
繊維中のアンチモン化合物の含有量は(1)式で定める範囲のうち、中でも、0.8×10-4≦〔Sb〕≦2.5×10-4とすることが好ましい。(1)式で定める値より少ない場合は、十分な重縮合活性を示さず、重縮合反応時間が長くなるため熱分解反応が進行し、カルボキシル末端基濃度が高くなり、耐湿熱性が劣るものとなる。
【0035】
一方、繊維中のアンチモン化合物の含有量が(1)式で定める値より多い場合は、ポリエステルの色調を悪化させ、色調に劣った繊維となるため、衣料用途に使用することが困難となる。さらに、熱分解反応も促進されるため、カルボキシル末端基濃度が高くなり、耐湿熱性が劣るものとなる。
【0036】
繊維中のコバルト化合物の含有量は(2)式で定める範囲のうち、中でも、0.15×10-4≦〔Co〕≦0.5×10-4とすることが好ましい。繊維中のコバルト化合物の含有量が(2)式で定める値より少ない場合は、十分な色調改良効果が奏されず、色調に劣ったポリエステル繊維となるため、衣料用途に使用することが困難となる。一方、繊維中のコバルト化合物の含有量が(2)式で定める値より多い場合は、耐湿熱特性が低下した繊維となる。
【0037】
本発明のポリエステル繊維は、アンチモン化合物とコバルト化合物に加えて、リン化合物も含有していることが重要である。繊維中のリン化合物の含有量は(3)式を満足する量とすることが必要であり、中でも0.5×10-4≦〔P〕≦10.0×10-4とすることが好ましい。リン化合物としては、リン酸又はそのエステルから誘導されたリン酸又はそのエステル(モノ−、ジ−及びトリ−エステル)が好ましく、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル及びリン酸トリス−2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0038】
リン化合物は、アンチモン化合物によるポリエステル繊維の色調の悪化を抑制し、コバルト化合物による熱分解作用を抑制する効果を奏するものである。繊維中のリン化合物の含有量が(3)式で定める値より少ない場合は、これらの効果が不十分となり、式(1)、(2)を満足していたとしても、繊維の色調を十分に良好にし、耐湿熱特性を向上させることが困難となる。一方、繊維中のリン化合物の含有量が(3)式で定める値より多い場合は、重縮合反応時にポリエステル反応系内が酸性となることにより、副反応物であるエーテル結合が生成するため、耐湿熱性が劣るばかりでなく強度も低下する。
【0039】
本発明の繊維においては、アンチモン化合物、コバルト化合物、リン化合物の含有量を全て適切な量(式(1)〜(3)で示す量)としたことによって、耐湿熱性能が向上し、かつ色調も良好な繊維を得ることができたものである。そして、さらに本発明の繊維においては、上記の効果を十分に奏するためには、アンチモン化合物、コバルト化合物、リン化合物の含有量が式(4)、式(5)を同時に満足することが好ましい。
【0040】
つまり、上記したように、リン化合物は、アンチモン化合物によるポリエステル繊維の色調の悪化を抑制し、コバルト化合物による熱分解作用を抑制する効果を奏するものであるため、アンチモン化合物との割合を示す式(4)を満足し、かつ、コバルト化合物との割合を示す式(5)を満足することが好ましい。
【0041】
そして、本発明の再生ポリエステル繊維は、耐湿熱性に優れる特性として、カルボキシル末端基濃度が25eq/t以下であることが必要であり、中でも20eq/t以下、さらには18eq/t以下であることが好ましい。カルボキシル末端基濃度が25eq/tを超えて高くなると、耐湿熱性に劣るものとなる。
【0042】
本発明の再生ポリエステル繊維においては、リサイクルポリエステルを解重合して低分子量体とし、これを再重合する際にアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物を添加することが好ましい。
【0043】
つまり、リサイクルポリエステルの再重合時にアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物を添加し、重縮合反応させることが好ましい。そして、本発明においては、これらの化合物の繊維中の含有量が式(1)〜(3)を同時に満足するものとし、さらに好ましくは、式(4)〜(5)を同時に満足するものする。
【0044】
通常、カルボキシル末端基濃度の低い耐湿熱性に優れた繊維を得るためには、ポリエステルの重縮合反応において、溶融重合と固相重合を行う必要があるが、上記のように重縮合反応時にアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物を添加することによって、溶融重合のみで耐湿熱性に優れた繊維を得ることができるものである。
【0045】
さらに、本発明の再生ポリエステル繊維が色調に優れている指標として、繊維の色調を示すL値が85以上、b値が5.0以下であることが好ましく、中でもL値が87以上、b値が4.0以下であることが好ましい。
【0046】
L値は色の白度を示す指標となり、b値は色の黄度を示す指標となるものであり、L値が85未満であると黒味がかった色となり、b値は低いほど青味がかった色となり、5.0を超えると黄味色が強くなりすぎる。したがって、L値が85未満であったり、b値が5.0を超えると、フィラメント糸を原糸の状態、あるいは布帛として使用した場合ともに、外観的な色調が悪く、品位の悪いものとなる。
【0047】
なお、本発明におけるL値、b値は、得られた繊維を筒編したもの(染色せず)を重ねて、MINOLTA社製色彩色差計 CR-300にてL値及びb値を測定したものである。
【0048】
本発明の再生ポリエステル繊維においては、リサイクルポリエステル、バージンポリエステルともに種々のポリエステルを用いることが可能であるが、両者は同種のものとすることが好ましく、リサイクルポリエステルは上記したようにPETボトル由来のものが好ましいため、バージンポリエステルもPETとすることが好ましい。
【0049】
また、本発明の再生ポリエステル繊維中には、本発明の効果を損なわない範囲であれば共重合成分が含有されていてもよい。共重合成分としては、3 ,3'-ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸などの脂肪族ジカルボン酸、ジエチレングリコール、1 ,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂肪族、脂環式ジオール、P-ヒドロキシ安息香酸などがあげられる。これらはリサイクルポリエステル、バージンポリエステルのいずれに含有されていてもよいし、再重合時に添加されてもよい。
【0050】
さらに、本発明の再生ポリエステル繊維中には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ヒンダードフェノール系化合物等の酸化防止剤、その他顔料、添加剤等が配合されていてもよい。中でも酸化チタンを1.5〜10質量%含有することが好ましい。
【0051】
酸化チタンを含有することにより、布帛にした際の隠蔽性、すなわち白度を向上させることができる。酸化チタンの含有量が1.5質量%未満であると白度の向上効果が不十分となる。酸化チタンの含有量が10質量%を超えると、紡糸時のフィルター昇圧やガイドの摩耗等の問題が生じて操業性が悪化しやすくなる。
【0052】
さらに、繊維の特性として、強度(湿熱処理前)が4.0cN/dtex以上、下記に示す湿熱処理後の強度が3.5cN/dtex以上であり、下記に示す強度保持率が80%以上であることが好ましい。
〔湿熱処理と強度保持率〕
ポリエステル繊維をオートクレーブ中、135℃の飽和水蒸気で16時間処理し、処理後の繊維の引張強度を測定し、処理前の繊維の引張強度値と比較して下記式にて強度保持率を算出する。
強度保持率(%)= (処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100
【0053】
本発明の再生ポリエステル繊維は、長繊維、短繊維のいずれであってもよく、長繊維の場合は、マルチフィラメント、モノフィラメントのいずれであってもよい。中でも衣料用途に好適に使用されるため、マルチフィラメント(長繊維)とすることが好ましい。
【0054】
さらに、本発明の再生ポリエステル繊維の形状は特に限定するものではなく、丸断面形状のもののみならず、多角形状や多葉形状のものであってもよく、また中空を有するものであってもよい。
【0055】
また、本発明の再生ポリエステル繊維を構成するポリエステル成分の固有粘度は、特に限定しないが、繊維の強度や耐湿熱性能を考慮すると、0.55〜0.72とすることが好ましい。
【0056】
次に、本発明の再生ポリエステル繊維の製造方法について一例を用いて説明する。リサイクルポリエステルとしてPETボトル由来のものを用いた場合、リサイクルポリエステルに対してエチレングリコールを5〜30質量%添加し、微加圧下で240〜260℃で解重合反応を行い、低分子量化させる。そして、解重合後にはフィルターで異物を除去することが好ましい。これにより紡糸時の操業性も良好となるばかりでなく、品位も安定する。
【0057】
続いて、バージンポリエステルとして、テレフタル酸とエチレングリコールを常法によってエステル化し、バージンポリエステルのオリゴマーを得る。
【0058】
得られたオリゴマーを低分子量化させたリサイクルポリエステルに添加し、再重合を行う。まず、265℃〜290℃で溶融重合を行う。このとき、アンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物を添加し、常法により重縮合反応を行なうことが好ましい。そして、ポリエステル中のリサイクルポリエステルの量を所望の量とするには、バージンポリエステルのオリゴマーの添加量を調整する。
【0059】
そして、溶融重合によりポリエステルの固有粘度を 0.55〜0.72程度とし、末端カルボキシル基濃度が15eq/t以下のポリエステル成分を得ることが好ましい。このポリエステル成分を常法によりペレット化し、次にこのペレットを固相重合することなく、通常の溶融紡糸装置を用いて溶融紡糸を行う。このとき、2000m/min以上の高速紡糸により、半未延伸糸として巻き取るPOY法、あるいは一旦2000m/min以上の高速紡糸又は2000m/min未満の低速紡糸で溶融紡糸し、一旦巻き取った糸条を別工程で延伸熱処理する方法、さらには、一旦巻き取ることなく、紡糸に連続して延伸を行う紡糸延伸法のいずれの方法を採用してもよい。この際、溶融紡糸温度は、ポリエステル繊維のカルボキシル末端基濃度が25eq/t、より好ましくは、20eq/t以下となるように、できるだけ低温(270〜285℃)とすることが好ましい。そして、本発明のポリエステル繊維を長繊維のマルチフィラメントとする場合は、通常の仮撚装置により、仮撚加工を施してもよい。
【0060】
以上のように、本発明の再生ポリエステル繊維においては、リサイクルポリエステルを解重合した低分子量体を用いて再重合しているポリエステルを含有する再生ポリエステルからなるので、リサイクルポリエステルの性能や着色のバラツキを減少させることが可能となる。そして、このような再生ポリエステルであるため、再重合時にアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物を重合触媒として添加することができ、これらの化合物の添加量を適正な値としているので、溶融重合のみで末端カルボキシル基濃度が低いポリエステルとすることができ、得られる繊維中の末端カルボキシル基濃度を25当量/トン以下とすることができる。このように、本発明の再生ポリエステル繊維は、リサイクルポリエステルを使用していても、着色や染色斑が生じることなく、耐加水分解性に優れた繊維とすることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例における各種の値の測定及び評価は次の通りに行った。
(1)極限粘度
フェノールと四塩化エタンの質量比1/1の混合物を溶媒とし、20℃で測定した。
(2)強度、伸度
得られたポリエステル繊維をJIS L-1013に従い、オリエンテック社製テンシロンRTC1210 型を用い、試料長10cm、引張速度10cm/分で測定した。
(3)末端カルボキシル基濃度の測定
ポリエステル成分:得られた再生ポリエステル(溶融紡糸前のペレット状のもの)150mgを粉砕してベンジルアルコール10mlに溶解後、クロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定し、ブランクとの滴定量の差より算出した。なお、比較例7においては、PETボトル屑を溶融しペレット化したものを用いて、上記と同様に測定、算出した。このとき、サンプル数を10とし、その平均値とした。
ポリエステル繊維:得られたポリエステル繊維150mgを細かく切断し、上記と同様にして滴定し、算出した。
(4)繊維中のアンチモン、コバルト、リン含有量
得られたポリエステル繊維をアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平面を有する成型体に形成し、蛍光X線測定装置(理学電機工業株式会社製3270型)に供して、定量分析した。
なお、用いたPETボトル屑中のこれらの化合物の含有量は、一旦、PETボトル屑を溶融しペレット化したものを用いて、ポリエステル繊維と同様にして定量分析した。このとき、サンプル数を10とし、その平均値とした。
(5)繊維の色調
前記の方法で測定した。
(6)耐湿熱性の評価
得られた繊維(繊維A)を筒編して、オートクレーブ中、135℃の飽和水蒸気で16時間処理を行った。処理後の筒編地より取り出した繊維(繊維B)と繊維Aの強度を(2)の方法で測定し、その値から以下に示す式において、強度保持率を求めた。
強度保持率(%)=(繊維Bの強度/繊維Aの強度)×100
(7)染色斑
(5)の測定の際に得た筒編地を染色し、染色斑を目視で判定し、3段階で評価した。
○:良好
△:やや斑がある
×:斑の発生大
染色条件は、Terasil Nevy Blue SGL (Ciba specialty chemicals社製原糸用染料)の2.0%omf、浴比1:50の染液を用いて99℃で60分間、常法により染色した。
【0062】
実施例1
リサイクルポリエステルとして、PETボトル屑(低分子に戻されずに再び成形するために回収されたフレーク状の樹脂であって、樹脂中のアンチモン化合物の含有量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して0.70×10-4モル、コバルト化合物の含有量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して0.09×10-4モル、リン化合物の含有量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して1.70×10-4モルである)を用い、エチレングリコール(EG)をリサイクルポリエステルに対して15質量%添加して、温度250℃で2時間、微加圧下で解重合反応を行った。そして、解重合後には目開き20μmのフィルターで異物の除去を行った。解重合により分子量(数平均分子量)が約2000の低分子量体とした。
続いて、バージンポリエステルとして、テレフタル酸とEGのモル比を1:1.6として常法により温度250℃にてエステル化反応を行い、バージンポリエステルのオリゴマーを得た。
そして得られたオリゴマーを、解重合により低分子量化したリサイクルポリエステルに添加し、再重合を行った。溶融重合として、低分子量化したリサイクルポリエステルとバージンポリエステルのオリゴマーとを質量比60:40の比率で重縮合反応釜に投入した後、触媒として三酸化アンチモンをポリエステルを構成する酸成分1モルに対し0.7×10-4モルと、酢酸コバルトをポリエステルを構成する酸成分1モルに対し0.2×10-4モル、リン化合物としてリン酸トリエチルをポリエステルを構成する酸成分1モルに対し0.4×10-4モル添加した。その後、徐々に減圧し、270 ℃で最終的に 0.1tollの減圧下で 3.5時間重縮合反応(溶融重合のみ)を行い、極限粘度0.64のポリエステルチップを得た。
このポリエステル(ペレット状)を常法により乾燥し、295℃の押出機に供給し、紡糸装置に供給し、溶融紡糸を行った。紡糸口金には、孔径0.25mmの紡糸孔48個が穿設されていた。紡糸された糸条束を空気流により冷却し、オイリング装置を通過させて0.5質量%の付着量となるように油剤を付与し、集束ガイドで集束し、交絡付与後、紡糸速度3500m/minのローラで引き取り、捲取機にて巻き取った。
得られた繊維(半未延伸糸)は255dtex/48fであり、毛羽、単糸切れによる欠点はなかった。次にこれを通常の延伸装置を用い、700m/minの速度で倍率1.53倍、温度180℃で延伸し、167dtex/48fのポリエステル繊維を得た。
【0063】
実施例2〜4
再重合時の低分子量化したリサイクルポリエステルとバージンポリエステルのオリゴマーの混合比を変更し、ポリエステル中のリサイクルポリエステル由来の成分の割合を表1に示すような値とした以外は実施例1と同様に行い、167dtex/48fの再生ポリエステル繊維を得た。
【0064】
実施例5〜8、比較例1〜6
再重合時に添加するアンチモン化合物(三酸化アンチモン)、コバルト化合物(酢酸コバルト)、リン化合物(リン酸トリエチル)の量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様に行いポリエステル繊維を得た。
【0065】
比較例7
実施例1で用いたリサイクルポリエステル(PETボトル屑)を単に溶融混練し、単一孔の紡糸口金より紡糸を行った以外は実施例1と同様に紡糸、延伸を行い、167dtex/48fの再生ポリエステル繊維を得た。
【0066】
実施例1〜8、比較例1〜7で得られた再生ポリエステルの末端カルボキシル基濃度、得られた繊維の末端カルボキシル基濃度、強度、伸度、強度保持率(耐湿熱性)、色調、染色斑の測定値及び評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、実施例1〜8で得られた再生ポリエステル繊維は、末端カルボキシル基濃度が低く、強度、伸度、強度保持率にも優れ、色調及び染色性の評価も良好であった。
【0069】
一方、比較例1のポリエステル繊維は、リン化合物の含有量が少なかったため、ポリエステルの熱分解反応を抑制する効果が小さく、カルボキシル末端基濃度が高くなり、耐湿熱性能に劣るものとなり、また色調も劣るものであった。比較例2のポリエステル繊維は、リン化合物の含有量が多かったため、耐湿熱性能に劣っており、また強度も低いものであった。比較例3のポリエステル繊維は、アンチモン化合物の含有量が多かったため、色調の劣る繊維となり、耐湿熱性能も劣るものとなった。比較例4のポリエステル繊維は、アンチモン化合物の含有量が少なかったため、重縮合反応時間が長くなり、熱分解反応が進行したため、カルボキシル末端基濃度が高くなり、耐湿熱性が劣るものとなった。また色調にも劣るものとなった。比較例5のポリエステル繊維は、コバルト化合物の含有量が多すぎたため、重縮合反応時に熱分解が促進され、耐湿熱性能に劣るものとなった。比較例6のポリエステル繊維は、コバルト化合物の含有量が少なかったため、色調の改良効果が奏されず、色調に劣ったものとなった。
また、比較例7ではリサイクルポリエステルを解重合せずに用いたものであったため、ポリエステル成分及び得られた繊維は、末端カルボキシル基濃度が高く、強度保持率が低く、耐加水分解性に劣るとともに、染色斑、色調評価にも劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルポリエステルを解重合した低分子量体を用いて再重合してなるポリエステルを含有するポリエステル成分からなる繊維であって、繊維中のアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物が下記式(1)〜(3)を同時に満足する量含有されており、かつカルボキシル末端基濃度が25eq/t以下であることを特徴とする耐湿熱性再生ポリエステル繊維。
(1)0.5×10-4≦〔Sb〕≦3.0×10-4
(2)0.1×10-4≦〔Co〕≦0.6×10-4
(3)0.1×10-4≦〔P〕≦20.0×10-4
なお、〔Sb〕はアンチモン化合物の含有量、〔Co〕はコバルト化合物の含有量、〔P〕はリン化合物の含有量を表し、単位は「モル/酸成分モル」である。
【請求項2】
繊維中に含有されているアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物が下記式(4)〜(5)を同時に満足する請求項1記載の耐湿熱性再生ポリエステル繊維。
(4)〔P〕/〔Sb〕≧0.2
(5)〔P〕/〔Co〕≧1.0
【請求項3】
リサイクルポリエステル由来の成分の含有量がポリエステル成分中の30質量%以上である請求項1又は2記載の耐湿熱性再生ポリエステル繊維。
【請求項4】
繊維の色調を示すL値が85以上、b値が5.0以下である請求項1〜3いずれかに記載の耐湿熱性再生ポリエステル繊維。

【公開番号】特開2006−336122(P2006−336122A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159330(P2005−159330)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】