説明

耐火物の施工方法、耐火物、及び窯炉

【課題】高温のアルカリ成分を含むガス雰囲気などの過酷な条件において、耐久性を保ち長寿命である耐火物の施工方法を提供すること。
【解決手段】窯炉内部に施工され、アルカリ成分を含むガス雰囲気に熱間で曝される耐火物600の施工方法において、前記窯炉内部に耐火物600を内張りする工程と、内張りされた耐火物表面に、750℃以上で溶融し、シリカを主成分として、アルカリ金属の酸化物、及びアルミナを含むコーティング材605を塗布する工程とが実施される。コーティング材を塗布して皮膜を形成することにより、コーティング材がアルカリ成分と反応してガラス化層を形成するため、コーティング材を塗布しない場合よりも耐火物にアルカリ成分を含むガスが侵入することを確実に防止して耐火物の耐久性を向上させ、長寿命化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物の施工方法、耐火物、及び窯炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窯炉等の内部に内張りされる定形、不定形の耐火物は、稼働面が高温環境下に曝されるため、稼働面に種々のコーティング材を塗布することが行われている。
このような高温環境下に曝される稼働面にコーティング材を施す技術としては、例えば、アルカリ成分の含有量の多い廃棄物の焼却においても焼却灰の付着が少なくすることを目的として、焼却炉に内張りされたアルミナ質又はアルミナ−シリカ質のキャスタブルの稼働面にMgO80質量%以上のマグネシア質コーティングを施す技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、他の技術としては、コークス炉において、コークス炉の内壁へのカーボンの付着を防止してコークスの押し出し抵抗を低減することを目的として、耐火物表面に燐酸アルカリ塩を含むコーティング剤を塗布する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
ところで、前述したような内部に定形、不定形の耐火物が内張りされる窯炉においては、製鉄ダストやスラッジを還元して亜鉛等の不純物を除去し、得られた還元鉄を高炉の原料等に再利用することが行われることがあり、例えば、図7は、製鉄ダストやスラッジを還元するのに用いられる回転炉床式還元炉100を示す図である。
この回転炉床炉100は、中空の円環状である炉200と、炉内において周回する円環状の炉床300と、炉200の側壁に設けられた所定数のバーナー400と、を備えている。炉200は、鉄製である外壁210の内側にアルミナ−シリカ質の耐火物220が内張りされ、1000℃〜1300℃になる炉内の高温に耐えるようになっている。
【0004】
ペレット状に固められた製鉄ダストやスラッジが炉床に供給されると、ペレット500が炉床300とともに炉内を回る。炉内を回る際にバーナー400からの加熱昇温によりペレット500中に含まれる亜鉛等の不純物が取り除かれる。そして、不純物が除去されたペレット500が回収される。
このように回収されたペレット500がリサイクルされる。
【0005】
ここで、製鉄ダストやスラッジにはナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ成分が酸化物、炭酸塩、または塩化物等の形態で含まれているので、炉内でペレット500を加熱昇温すると、アルカリ成分が酸化物、炭酸塩、または塩化物等の形態のまま、あるいはナトリウム(Na)やカリウム(K)などが分解して揮発し、炉内のガスにアルカリ成分が含まれることになる。すると、揮発したアルカリ成分が耐火物のなかに侵入し、耐火物中のアルミナおよびシリカと反応する。
【0006】
耐火物中のアルミナおよびシリカにアルカリ成分が反応すると、反応生成物としてやカリオファライト(K2O・Al23・2SiO2)やルーサイト(K2O・Al23・4SiO2)などが生成され、大きな体積膨張が生じる。このように耐火物220のなかで部分的に体積膨張が生じる結果、耐火物220が剥落し、耐火物220の寿命が短くなるという問題が生じていた。
そこで、このようなアルカリ成分を含むガス雰囲気に熱間で曝される環境で用いられる耐火物220の表面に、前記各特許文献に開示されるコーティング材を塗布し、耐久性を向上させることが考えられる。
【0007】
【特許文献1】特開平11−79871号公報
【特許文献2】特開平10−259080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記特許文献1に開示されるコーティング材を耐火物表面に塗布して形成された皮膜は、耐火物との接着性についての言及がなく、窯炉の長期稼働による耐久性が不明である。
また、前記特許文献2に開示されるコーティング材は、SiO質の耐火物表面に燐酸アルカリ塩をコーティングし、表面を軟化させて摩擦力を下げるものであるが、長期稼働時には耐火物の厚さが減少してしまい、皮膜がなくなってしまうという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、高温のアルカリ成分を含むガス雰囲気などの過酷な条件において、耐久性を保ち長寿命である耐火物の施工方法、耐火物、及び窯炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔1〕 本発明は、アルカリ成分を含むガス雰囲気に熱間で曝される窯炉内部の耐火物を施工する際に、耐火物表面に所定の成分を含むコーティング材を塗布することにより、耐火物の耐久性を大幅に向上することができるという知見に基づいてなされたものである。
具体的には、本発明に係る耐火物の施工方法は、窯炉内部に施工され、アルカリ成分を含むガス雰囲気に熱間で曝される耐火物の施工方法であって、前記窯炉内部に耐火物を内張りする工程と、内張りされた耐火物表面に、750℃以上で溶融し、シリカを主成分として、アルカリ金属の酸化物、及びアルミナを含むコーティング材を塗布する工程とが実施されることを特徴とする。
【0011】
ここで、使用するコーティング材としては、シリカを主成分として、アルカリ金属の酸化物、及びアルミナを含むものが用いられるが、コーティング材の各成分は、シリカ70〜97質量%、アルカリ金属の酸化物2〜10質量%、及びアルミナ1〜20質量%とするのが好ましく、コーティング材は、これらの他に、例えば、MgO、B等を含んでもよい。
コーティング材は、750℃以上で溶融し、回転円筒法(例えば、「溶鉄・溶滓の物性値便覧」(日本鉄鋼協会偏)P35を参照)で測定した粘度が1200℃において0.1Pa・s以上となるのが好ましく、50μm以上、1mm以下の膜厚で被膜を形成するのが好ましい。
【0012】
膜厚が50μm未満では、アルカリ成分を含むガスの遮断効果が薄れるため、長期の稼働に耐えられない可能性があるからである。より好ましくは、100μm以上である。
一方、膜厚を1mm以下とするのは、それを超えるとアルカリ成分を含むガスの遮断効果がかわらないにもかかわらず、溶液の特性上、複数回の塗布が必要となり作業量が増えるためである。
また、塗布する溶液の粘度の温度を1200℃を基準としたのは、ガスを扱う炉における使用温度相当と考えられるためである。また、上記の溶液の粘度の上限値は特に規定するものではないが、0.5Pa・s以下が施工性という点で好ましい。
【0013】
本発明では、上記のコーティング材は、常温で吹き付け、ハケ塗り等の種々の方法で塗布し、乾燥して水分を除去しガラス化させる。その後、稼動温度まで上昇させて、炉内温度が750℃以上となると一部溶融を開始して、耐火物全体を覆い、稼動時にはアルカリ成分を含むガスと反応してガラス化層を形成し、その後のアルカリ成分を含むガスの浸入を防止することができる。尚、750℃以上で溶融を開始させるのは、アルカリ成分を含むガスの揮発温度が750℃前後であるためである。
このようにコーティング材を塗布して被膜を形成することにより、コーティング材がアルカリ成分と反応してガラス化層を形成するため、コーティング材を塗布しない場合よりも、耐火物にアルカリ成分を含むガスが侵入することを確実に防止して耐火物の耐久性を向上させ、長寿命化を図ることができる。
【0014】
また、本発明にいう耐火物の熱間での使用温度としては、750℃以上1400℃以下であることが好ましい。
750℃以上でなければコーティング材が溶融してガラス被膜が生成されにくいからである。
ただし、予めコーティング材が塗布された表面を、所定時間750℃以上に昇温して耐火物の表層にガラス化層を形成させておけば、耐火物の耐火温度である1400℃以下で使用できることはもちろんである。
なお、1400℃を超えると、ガラス被膜が溶融しやすくなるので好ましくない。
【0015】
また、コーティング材が、炉内ガスに含まれるアルカリ成分と熱間で反応して、一旦溶融したのちにガラス化される際に、充分なガラス化層厚を形成するためには、アルカリ成分の濃度としては、0.1容量%以上であることが好ましい。
例えば、製鉄ダストやスラッジを被加熱体として用いた場合、アルカリ成分であるナトリウム(Na)やカリウム(K)は、酸化物、炭酸塩、あるいは塩化物の形態で含まれているため、加熱させたり、一部分解や還元させることで、雰囲気ガスに含まれるアルカリ成分としては、酸化物の形態であるKOやNaO、金属蒸気としてK,Na、炭酸塩、塩化物などが考えられる。このうち、特に、酸化物の形態であるKOやNaO、金属蒸気としてK,Naが、耐火物を体積膨張させる影響が大きい。
【0016】
従って、ガス成分中にKOやNaO、K、Naが0.1容量%以上含まれている場合には、特に、本発明のコーティング材が効力を発揮するため好ましい。一方、ガス中のアルカリ成分濃度の上限としては、後処理設備の腐食やダストの堆積問題を考慮すると、10容量%以下が好ましい。
尚、ガス中のアルカリ成分濃度を直接測定するのは困難なので、実際には、被加熱体中のアルカリ成分濃度と、被加熱体の量と、対象とする炉内容積などから、計算で求めることが現実的である。
また、上記の通り、アルカリ成分のガスが発生するが、雰囲気ガス中のその他の成分としては、酸化雰囲気中での加熱の場合はO、CO、HO、Nなどが、還元雰囲気中での加熱の場合はCO、Hなどが例示できる。
【0017】
また、本発明にいう耐火物の施工方法とは、新規に施工する場合に限られず、稼働設備の窯炉内部の耐火物を補修するような場合も含む概念である。
さらに、内張り施工される耐火物は、キャスタブル等の湿式施工される不定形耐火物や、煉瓦等の定形耐火物も含む概念である。
また、内張り施工される耐火物の材質は特に限定されるものではないが、特に、粒径200μm以下の補助原料と、結合材と、残部がコランダム、ムライト、ボーキサイト、シャモット、ロー石、シリカから選ばれた1種以上の主原料、との混合物からなる耐火物に適用するのが好ましい。
【0018】
ここで、補助原料は、粒径200μm以下のものであるが、炉内に内張りされた耐火物の表層部分に露出していると、炉内ガスに含まれるアルカリ成分と熱間で反応して、一旦溶融したのちにガラス化されるSiOを含む原料をいう。
この補助原料中のSiOが、好ましくは14質量%以下、より好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10質量%の耐火物を施工する際、本発明を好適に適用できる。
このような耐火物は、補助原料のSiOが少ないため、補助原料がガラス化しにくくなり、アルカリ成分を含むガス雰囲気に熱間で曝されると、体積膨張して表面が剥落し易いからである。特に、補助原料中のSiOが10質量%以下となると、補助原料がガラス化しにくくなる傾向が大きくなるため、本発明を適用することで耐火物表面の剥落を防止できる効果が大きい。
【0019】
なお、結合材とは、常温では粉末同士を結合させずに不定形状態を保ち、所定の温度以上に昇温されると、粉末を結合させるものをいう。結合材としては、例えば、アルミナセメントに超微粉アルミナおよび/または超微粉シリカを加えたものや、さらに粘土を加えたものが例として挙げられる。
尚、結合材の含有量は、強度を確保するために5質量%以上とし、耐食性を維持するために22質量%以下とすることが好ましい。
【0020】
〔2〕 本発明では、前記耐火物を内張りする工程の後、コーティング材を塗布する工程の前に、内張りされた前記耐火物を乾燥させる工程を実施するのが好ましい。
ここで、乾燥させる工程における乾燥温度は、耐火物中の水分を蒸発させるために、耐火物の背面側で100℃〜300℃程度となるようにするのが好ましい。
この発明によれば、耐火物表面を乾燥させた後に、コーティング材を塗布することで、耐火物中の水分蒸発等で塗布したコーティング材が耐火物表面から浮いたり、ピンホール等が発生することを防止できるため、コーティング材による皮膜により、耐火物表面にアルカリ成分を含むガスが侵入することを確実に防止でき、キャスタブル等の湿式施工の場合に好適である。
【0021】
〔3〕 また、本発明は、窯炉内部に形成される耐火物としても成立し、具体的には、窯炉内部に形成される耐火物であって、前述したいずれかの耐火物の施工方法により施工され、アルカリ成分を含むガス雰囲気に熱間で曝される環境で用いられて、前記耐火物表面に形成されたガラス化層の厚みが、50μm以上、1mm以下であることを特徴とする。尚、前述した通り、ガラス化層の厚みは好ましくは100μm以上である。
この発明によれば、耐火物表面にガラス化層がこのような厚みで形成されているので、耐火物内部にアルカリ成分が侵入することを確実に防止することができる。
【0022】
〔4〕 さらに、本発明は窯炉としても成立するものであり、具体的には、本発明に係る窯炉は、前述した耐火物が形成された複数の区画を備え、かつ、隣接する区間内に設けられる可縮性耐火材を有し、それぞれの区画の設定膨張代が、使用温度での前記耐火物の理論膨張量(D)に対して下記式(1)の範囲内となることを特徴とする。
【0023】
【数1】

【0024】
一般的にガスを対象とする窯炉においては、熱間状態により耐火物が膨張しやすいため、炉内に不定形耐火物を内張りする際に、不定形耐火物で構成される複数の区画に分けて施工され、隣接する区画とは所定の間隔を有することにより、耐火物が加熱されて膨張したときに、お互い押し合ってせり出してしまうこと防止している。
また、この不定形耐火物の少なくとも炉内側に切れ目を施すことにより、この切れ目の幅方向長さに相当する空間も、耐火物が加熱されて膨張したときに、お互い押し合ってせり出してしまうこと防止する効果がある。(以降、「不定形耐火物の区画の所定の間隔」や「切れ目による空間」を総称して、「膨張代」と記載することがある。)
さらに、上記の隣接する区画との間の空間に、耐火物の膨張を吸収できる様に可縮性耐火材が施工される。
【0025】
具体的に図1を用いて説明する。膨張代は、図1に示すように、耐火物の背面まで貫通し、一般にガスが漏れないように可縮率の高い耐火材、すなわち可縮性耐火材102を充填する場合と、表面にある間隔で切れ目105を入れる場合(以降、「スコアライン」と記載することがある。)の主に2通りある。図1に示す膨張代では、耐火物101の背面には、断熱用のれんが103があり、その背面に鉄皮104となる構成となっている。
また、上記の隣接する区画との間の空間に充填される耐火材は可縮性耐火材102が用いられており、ガスを扱う炉では、Al−SiO系のセラミックファイバーやMgO−SiO系のセラミックファイバーなどが例示される。
【0026】
膨張代は、耐火物を窯炉に内張りする際に、事前に設定するものであり、その指標として、使用温度における当該耐火物の理論膨張量が用いられる。この理論膨張量とは、JIS R 2555に定めらた方法により測定した熱間線膨張率により求めることができる。
通常、ガスを扱う炉においては、炉内からガスが漏れない様にするために、膨張代として理論膨張量の0.5未満という値に設定して、耐火物を施工することにより、耐火物の区画同士が可縮性耐火材を強く押し合うため、ガスの漏れを防止できている。この様に、事前に設定する膨張代を、本願では「設定膨張代」と定義する。
【0027】
これに対して、アルカリ成分を含むガスが炉内に存在する場合、すなわち、耐火物がアルカリ成分を含むガス雰囲気に熱間で曝される場合に耐火物の膨張が大きくなることから、設定膨張代を従来よりも大きくすることが重要であることを、新たに見出した。
具体的には、設定膨張代として、使用温度での不定形耐火物の理論膨張量(D)に対して、0.5倍以上、2倍以下とすることが好ましいことがわかり、式で表現すると下記式(1)となる。
【0028】
【数2】

【0029】
尚、式(1)の中辺の意味は、「pA」が可縮性耐火材が使用温度で収縮した際の幅方向長さを意味しており、「ΣBi」は切れ目の幅方向の長さの総和を意味している。
ここで、i、nを0以上の整数としているのは、可縮性耐火材を施工する際の隣接する区画との間隔のみで設定膨張代を設定する場合もあるためである。
【0030】
設定膨張代が上記の理論膨張量(D)に対して0.5倍未満では、アルカリ成分を含むガスと耐火物との反応が促進され、耐火物の膨張量が大きく耐火物がお互いに迫るとともに、炉の冷却時にアルカリとの反応層が剥離して耐火物の厚みが減ってしまう。特に、炭化珪素を用いる際にガス雰囲気中に酸素が存在する場合、この酸素と反応してSiOを生成することで耐火物の膨張がより大きくなるため、耐火物がお互いに迫ることがより顕著になるため、好ましくない。
一方、理論膨張量(D)に対して2倍を超える場合には、隣接する耐火物の区画との間の空間に施工されている可縮性耐火材のシール性が低下するため、炉内ガスが耐火物背面に回り、炉殻である鉄皮が赤熱してしまう可能性があるため、好ましくない。
【0031】
以上において、本発明に係る耐火物の施工方法に用いられるコーティング材は、本発明のように、内張りをした後、耐火物表面に塗布するだけでなく、既に内張りされた耐火物の表面に直接塗布しても、前述したように、耐火物表面にガラス化層が形成されて、アルカリ成分の侵入を防止することが期待できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る耐火物の施工方法によれば、窯炉内の耐火物を、高温のアルカリ成分を含むガス雰囲気などの過酷な条件において使用しても、耐久性を保ち、長寿命とすることができる。また、設定膨張代を十分に確保することで、耐火物が熱間で膨張しても耐火物の押し合いによるせり出しを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔1〕耐火物の材料仕様
内張り施工される耐火物は、コランダム、ムライト、ボーキサイト、シャモット、ロー石、シリカから選ばれた1種以上の主原料と、200μm以下の補助原料と、結合材との混合物から構成されたものを用いて説明する。
主原料の粒子の粒径としては、粒子の粒径としては、3mm以上、1mm〜3mm、200μm〜1mmのものを採用することができる。なお、粒径は、所定のメッシュをもったふるいで分類したものである。
【0034】
また、200μm以下の補助原料中のSiOは、好ましくは14質量%以下、より好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
このように補助原料中のSiOが少なくなると、補助原料がガラス化しにくくなり、アルカリ成分を含むガス雰囲気に熱間で曝されると、体積膨張して表面が剥がれ易くなるため、コーティング材を塗布することの効果が大きく発揮される。
このような補助原料は、SiOを含んでいれば、特に限定されるものではないが、例えば、ボーキサイト、シャモット、ロー石、ムライト等のSiOを含有するものから選ばれたものを採用することができる。
SiOの質量%の算出は、例えば、下記表1に示されるボーキサイト、シャモット、ロー石のSiO含有量に基づいて求めることができる。
【0035】
【表1】

【0036】
具体的な耐火物の材料構成は、例えば、下記表2のようなものを採用することができる。但し、これ以外にも、SiOが上記質量%を超える場合であってもよく、SiOが上記質量%を超える場合には、アルカリ成分を含むガス雰囲気に熱間で曝される環境に曝露されることにより、耐火物の補助原料自体もガラス化するため、コーティング材による表面剥落防止効果をさらに高めることができる。
【0037】
【表2】

【0038】
さらに、結合材はアルミナセメントに超微粉アルミナおよび/または超微粉シリカを加えたものや、さらに粘土を加えたものを採用できるが、超微粉アルミナおよび/または超微粉シリカは、10μm以下のものを採用するのが好ましい。
【0039】
〔2〕コーティング材
コーティング材は、シリカを主成分として、アルカリ金属の酸化物、及びアルミナを含むものが用いられるが、コーティング材の各成分は、シリカ70〜97質量%、アルカリ金属の酸化物2〜10質量%、及びアルミナ1〜20質量%とするのが好ましい。
具体的には、例えば、表3に示されるコーティング材1〜コーティング材3を例示することができる。いずれも750℃以上で溶融を開始し、1200℃時の粘性が0.1Pa・s以上のものである。
【0040】
【表3】

【0041】
〔3〕耐火物の施工方法
次に、このような成分組成および粒径割合の耐火物を窯炉の内張りに使用する形態について図2〜図5を参照して説明する。
図2〜図5は、図7(背景技術)において説明した回転式炉床炉100の炉200の断面図である。
まず、前述した耐火物1〜耐火物5のいずれかに従って混合した耐火物600を炉内に流し込んで耐火物600を内張りする(図2)。
次に、耐火物600が乾燥した後、前述したコーティング材1〜コーティング材3の配合のコーティング材を、耐火物600の表面にスプレーガン等で吹き付けた後、乾燥させると、耐火物表面にコーティング層605が形成される(図3)。
そして、炉内に製鉄ダストやスラッジのペレット500を供給するとともに、バーナー400を点火して炉内を1000℃〜1300℃に加熱昇温する(図4)。
【0042】
このとき、ペレット500からは亜鉛等の不純物が除去されるとともに、ペレット500に含まれるアルカリ金属の酸化物(NaO,KO)、炭酸塩、塩化物といったアルカリ成分がそのまま揮発したり、あるいは分解や還元されて揮発してくる。
これらのアルカリ成分はダストやスラッジに濃化した成分に由来し、通常は、0.1質量%以上が検出される。この様なダストやスラッジのペレットを熱間で処理することにより、雰囲気ガスには0.1容量%以上のアルカリ成分が含まれることとなる。
【0043】
ペレット500から揮発したアルカリ成分(Na、K)は、耐火物600の表面に形成されたコーティング層605に含まれる、主にシリカ、アルカリ金属酸化物と反応し、耐火物600の表面には、低融点の生成物が生成されるとともに、炉内の高温(1000℃〜1300℃)によって一旦溶融した後、ガラス化される。すると、図5に示されるように、耐火物600の表面にガラス化したガラス被膜610が形成される。
このように耐火物600の表層にガラス被膜610が形成されると、アルカリ成分がガラス被膜610で遮蔽されるため、耐火物600の内部には侵入しない。その結果、耐火物600とアルカリとの反応による体積膨張がないため、耐火物600の耐久性が向上し、耐火物600の寿命が長くなる。
【0044】
〔4〕実炉への適用
次に、実炉に不定形耐火物を施工する場合、その設計の考え方を以下に示す。
まず最初に、予定している操業条件から使用温度を決める。次に、使用温度からJIS
R 2555に従い測定した熱間線膨張率より当該耐火物の理論膨張量が求まる。そして、下記式(1)の上限値と下限値の範囲内で、任意に設定膨張代を決定する。その後、確保するべき設定膨張量に見合う様に、スコアラインの数n、間隔Biと、用いる可縮性耐火材の可縮率に対応した区画の間隔Aが決まる。
【0045】
【数3】

【0046】
具体的に式(1)を用いて設計するに際しての考え方を、回転炉床炉に適用するに際し、回転炉床炉に施工する場合を例に挙げて以下に示す。
回転炉床炉の施工に当って、ほぼ2m間隔でキャスタブルの壁を、実施例1の耐火物を用いて施工する場合を想定する。
予定している操業条件から、使用温度は1300℃とする。その温度での理論膨張率はJISR2555に従い0.8%と求まる。その結果、稼動面の理論膨張量は、16mmとなる。
従って、式(1)から、設定膨張代として、8mm以上32mm以下を確保することが好ましい。そこで、今回は32mmの設定膨張代を確保することを選択した場合を想定する。
【0047】
スコアラインは1箇所のみとして、間隔を11mm確保することとする。その結果、残り21mmの膨張代を耐火物区画の間隔でとる必要がある。ここでは、可縮率70%のAl−SiOのセラミックファイバーを耐火物区画の間の空間に施工するため、区画の間隔Aは、
0.7×A=32mm−11mm=21mm
A=21mm÷0.7=30mm
となる。
この様にして、設定膨張量に見合う様に、耐火物の施工を設計することができる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明の実施例について説明する。尚、本発明は実施例に限定されるものではない。
〔1〕コーティング材の選定
まず、複数種類のコーティング材のうち、どのコーティング材が好ましいかの選定を行った。
(1-1)試験方法
図6に示されるように、中央に凹み部11Aが形成された坩堝本体11と、凹み部11Aを塞ぐ蓋12とを備えた坩堝を準備し、凹み部11Aの底面及び内側面と、蓋12の凹み部11Aの上面を塞ぐ内面とにコーティング材をハケで塗布する。尚、凹み部11Aに塗布できないものは蓋12の内面のみにコーティングする。
尚、使用した坩堝は、通常使用実炉で使用しているキャスタブルを成形したものであり、坩堝本体11の外形はD1=100mm、H1=100mmの円柱状、蓋12は、D1=100、H2=25mmの円板状、凹み部11Aは、D3=50mm、H3=50mmの円柱孔である。
【0049】
塗布が完了してコーティング材を乾燥させたら、坩堝の凹み部11Aにアルカリ源となるKOHを80g投入し、蓋12で凹み部11Aを塞ぐ。
KOHを投入した坩堝を、耐火性を有する箱に並べて入れて、間にコークス粉を詰め、蓋をした後、坩堝を1300℃×5hrの条件で加熱し、これを5回繰り返す。
これが終了したら、坩堝のコーティング材塗布部分を切断し、蓋12、坩堝本体11の侵食状況の観察し、蓋12の残存膨張量と、坩堝本体11側の変形状況で評価した。
【0050】
(1-2)評価を行ったコーティング材
前述した表3におけるコーティング材1〜コーティング材3をそれぞれ実施例1〜実施例3とした。
比較例は、比較例1として溶射材、比較例2としてシリカゾル、比較例3としてアルミナゾルを採用した。また、ブランクとして何も塗布しないものを比較例4とした。
比較例1〜比較例3におけるコーティング材の成分割合を下記表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
(1-3)評価結果
実施例1〜実施例3及び比較例1〜比較例4について、前述した残存膨張量と、施工性を評価したので、その結果を、下記表5に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
表5から判るように、比較例2のシリカゾル、比較例3のアルミナゾルは施工性は問題ないが、何も塗布していない比較例4と比較して残存膨張量の低減が殆ど認められず、コーティング材としては不適であることが確認された。
一方、比較例1の溶射材は、残存膨張量を十分に低減することができたが、施工が困難であるため、実使用には向いていないことが確認された。
結局、残存膨張量の低減及び施工性の双方を満たす、実施例1〜実施例3に応じたコーティング材1〜コーティング材3を選定するのが最も望ましいことが確認された。
【0055】
〔2〕実炉評価
次に、表3におけるコーティング材2を、表2における耐火物1〜耐火物6について、実炉で曝露試験を行った。
(2-1)試験方法
まず、所定の成分の耐火物を、直方体の煉瓦形状に固めてサンプルを作成する。サンプルのサイズは、幅寸法114mm×高さ寸法65mm×奥行寸法230mmである。
次に、各サンプルについて、コーティング材2を塗布したものと塗布しないものを準備する。
【0056】
そして、背景技術で説明した図7の回転炉床炉100の実炉において、ペレット500の供給口から3/4周下流側に位置するマンホール部に各サンプルをセットする。
なお、回転炉としては、新日鉄君津製鉄所の実炉を使用した。
炉内の温度はおよそ1270℃であり、空気比は0.95程度である。ペレットに含まれるアルカリ成分は、KOで1質量%、NaOで1質量%であった。この状態で、3ヶ月間の曝露試験の後、サンプルを回収して、膨張量を測定した。測定する残存膨張量は、サンプルの高さ寸法と奥行寸法のそれぞれの膨張率の平均である。
【0057】
(2-2)評価結果
表2における耐火物1〜耐火物6について、表3のコーティング材2を塗布したものを実施例4〜実施例9とし、表2における耐火物1及び耐火物2にコーティング材2を塗布しないものを比較例5及び比較例6とし、残存膨張量を測定して実施例及び比較例の対比を行った。評価結果を下記表6に示す。
【0058】
【表6】

【0059】
実施例4及び実施例5と比較例5及び比較例6とを対比すると、コーティング材2を塗布したことにより、残存膨張量が大幅に低減され、コーティング材2によって形成されるガラス化層によるバリア効果を確認することができた。
また、実施例4〜実施例9において、耐火物表面に形成されたガラス化層の厚みを測定してみると、すべて約200μmであった。尚、各実施例におけるガラス化層の厚みは、実炉試験後の各実施例に係るサンプルを、コアボーリングにより切り出し、樹脂に埋め込み、研磨して断面の組織を観察することにより測定した。
さらに、実施例4〜実施例9を比較すると、耐火物の200μm以下の補助原料中のSiO含有割合が増加すると、残存膨張をより少なくすることができ、コーティング材2のバリア効果が一層向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、アルカリ蒸気が発生するガス炉において、好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】設定膨張代を説明するための模式図
【図2】回転式炉床炉の炉を断面した図。
【図3】回転式炉床炉の炉を断面した図。
【図4】回転式炉床炉の炉を断面した図。
【図5】回転式炉床炉の炉を断面した図。
【図6】サンプルの形状を示す図。
【図7】回転炉床式還元炉を示す図。
【符号の説明】
【0062】
11…坩堝本体、11A…凹み部、12…蓋、100…回転式炉床炉、200…炉、210…外壁、220…耐火物、300…炉床、400…バーナー、500…ペレット、600…耐火物、605…コーティング層、610…ガラス被膜、101…耐火物、102…可縮性耐火材、103…断熱れんが、104…鉄皮、105…スコアライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窯炉内部に施工され、アルカリ成分を含むガス雰囲気に熱間で曝される耐火物の施工方法であって、
前記窯炉内部に耐火物を内張りする工程と、
内張りされた耐火物表面に、750℃以上で溶融し、シリカを主成分として、アルカリ金属の酸化物、及びアルミナを含むコーティング材を塗布する工程とが実施されることを特徴とする耐火物の施工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の耐火物の施工方法において、
前記耐火物を内張りする工程の後、前記コーティング材を塗布する工程の前に、内張りされた前記耐火物を乾燥させる工程を実施することを特徴とする耐火物の施工方法。
【請求項3】
窯炉内部に形成される耐火物であって、
請求項1又は請求項2に記載の耐火物の施工方法により施工され、
アルカリ成分を含むガス雰囲気に熱間で曝される環境で用いられて、前記耐火物表面に形成されたガラス化層の厚みが、50μm以上、1mm以下であることを特徴とする耐火物。
【請求項4】
内部に請求項3に記載の耐火物が形成された複数の区画を備え、かつ、隣接する区画間に設けられる可縮性耐火材を有し、
それぞれの区画の設定膨張代が、使用温度での前記耐火物の理論膨張量(D)に対して下記式(1)の範囲内となることを特徴とすることを特徴とする窯炉。
【数1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−107038(P2008−107038A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291579(P2006−291579)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】