説明

耐熱セラミックシート

【課題】有機バインダーを使用することなく、常温でのハンドリング性を確保し、煙や臭いの発生もなくコスト高とならず、しかも、耐熱性を落とすことなく、常温〜600℃近辺でも高い機械的強度を確保し、常温〜1600℃の温度領域で使用でき、多岐の用途に使用加能な汎用性の高い耐熱セラミックシートを提供する。
【解決手段】融点が1000℃以上のセラミック繊維60〜95質量%と、軟化点が600℃以上で平均繊維径1μm未満のガラス短繊維2〜20質量%と、軟化点が600℃以上で平均繊維径3〜20μmのガラス長繊維0〜10質量%と、自己造膜性を有する薄片状無機粒子3〜20質量%とを少なくとも含む材料から湿式抄紙して得られ、前記繊維材料が前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子によって結着され、実質的に無機材料のみで構成される密度0.30g/cm3未満のシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材、耐熱濾過材、耐熱電気絶縁材、耐熱シール材、耐熱パッキン材、耐熱緩衝材、耐熱クッション材、耐熱触媒担持材等として使用される耐熱セラミックシート、特に、常温〜1600℃の任意の温度領域で使用し得る汎用性の高い耐熱セラミックシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱セラミックシートとしては、シリカ−アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ−アルミナ−ジルコニア繊維等のセラミック繊維に、少量の有機バインダーを添加して湿式抄造されたものが主流として使用されている。
【0003】
耐熱用途として用いられる耐熱セラミックシートの使用温度は通常600〜1600℃であるが、有機バインダーの耐熱温度はせいぜい450℃までである。つまり、前記耐熱セラミックシートは、有機バインダーの分解が始まる200〜300℃近辺の温度に達すると、機械的強度が大きく低下し、400℃以上では、殆どの有機バインダーが分解または焼失し、有機バインダーによるバインダー効果は殆どなくなり、耐熱セラミックシートの実質的な構成物は前記セラミック繊維のみとなる。一般的なセラミック繊維(例えば、シリカ−アルミナ繊維、アルミナ繊維)の繊維径は3μm程度であるため、セラミック繊維のみとなった耐熱セラミックシートでは、繊維の絡みによる強度確保が殆ど期待できず、ハンドリング性がなくなり、綿状に崩れてしまう。
【0004】
そこで、特許文献1には、セラミック繊維と、600〜800℃で軟化する中軟化ガラス繊維、800℃以上で軟化する高軟化ガラス繊維の2種類のガラス繊維とを混合使用するか、あるいは、セラミック繊維と、350〜600℃で軟化する低軟化ガラス繊維、600〜800℃で軟化する中軟化ガラス繊維、800℃以上で軟化する高軟化ガラス繊維の3種類のガラス繊維とを混合使用するようにし、有機バインダーが分解または焼失した後も、一定レベルの機械的強度を維持できるようにした耐熱セラミックシートが提案されている。
【0005】
前記特許文献1の耐熱セラミックシートでは、前記ガラス繊維として繊維径1μm以下の微細径ガラス繊維を少なくともその一部に用いるようにしており、前記中軟化ガラス繊維と前記高軟化ガラス繊維の2種類のガラス繊維を混合使用した場合には、有機バインダーによるバインダー効果が失われ始める200℃近辺から、中軟化ガラス繊維のバインダー効果が発揮され始める600℃近辺までの温度領域において、前記微細径ガラス繊維の絡み効果により一定レベルの機械的強度が維持される。また、前記低軟化ガラス繊維と前記中軟化ガラス繊維と前記高軟化ガラス繊維の3種類のガラス繊維を混合使用した場合では、前記微細径ガラス繊維の絡み効果に加え、前記低軟化ガラス繊維の軟化によるバインダー効果が発揮され、200〜600℃近辺の温度領域における機械的強度が更に高められる。
【0006】
しかし、前記特許文献1の前記中軟化ガラス繊維と前記高軟化ガラス繊維の2種類のガラス繊維を混合使用した耐熱セラミックシートでは、有機バインダーによるバインダー効果が失われる200〜600℃近辺の温度領域においても、微細径ガラス繊維の絡み効果により一定レベルの機械的強度が維持できるとされているが、耐熱セラミックシートの全繊維材料中に5〜50質量%程度しか含まれない微細径ガラス繊維の絡み効果だけでは、実際に維持できる機械的強度のレベルは低い。この微細径ガラス繊維の絡み効果だけでより高い機械的強度を確保しようとすると、ガラス繊維の配合量をできるだけ多くしなければならず、セラミック繊維の配合量が減り、耐熱セラミックシートの耐熱性の低下を招く。したがって、耐熱セラミックシートの耐熱性を落とすことなく200〜600℃近辺での高い機械的強度を確保することができない。
【0007】
また、前記特許文献1の前記低軟化ガラス繊維と前記中軟化ガラス繊維と前記高軟化ガラス繊維の3種類のガラス繊維を混合使用した耐熱セラミックシートでは、前記微細径ガラス繊維の絡み効果に加え、前記低軟化ガラス繊維の軟化によるバインダー効果が発揮され、同じく200〜600℃近辺の温度領域での機械的強度はある程度高いレベルが確保されるものの、低軟化ガラス繊維を使用したことにより副作用的にもたらされる共融作用により、セラミック繊維の融点が低下し、耐熱セラミックシートの耐熱性が大きく低下する(例えば、600℃以上、特に800℃以上の温度で、面収縮率及び線収縮率が大きくなり、反り等の変形を生じる)。しかも、前記低軟化ガラス繊維の軟化によるバインダー効果が発揮され始めるのは350℃以上の温度領域においてであり、少なくとも200〜350℃近辺の温度領域においては、高いレベルの機械的強度を確保することができない。
【0008】
そこで、特許文献2には、繊維材料を結着するバインダー材料として、有機バインダーとともに、乾燥固結性無機物からなる無機バインダーを併用することで、前記特許文献1のように、200〜600℃近辺の温度領域における機械的強度を確保するための方策により生じる、微細径ガラス繊維の絡み効果を目的として微細径ガラス繊維を多く配合するとセラミック繊維の配合量が減り耐熱セラミックシートの耐熱性低下を招くという弊害や、低軟化ガラス繊維によるバインダー効果を目的として低軟化ガラス繊維を配合すると共融作用によりセラミック繊維の融点が低下し耐熱セラミックシートの耐熱性低下を招くという弊害を受けることなく、前記有機バインダーによるバインダー効果が失われる200〜600℃近辺の温度領域においてもバインダー効果を維持できるようにし、常温〜1600℃に亘る全温度領域で高い機械的強度を確保でき、200〜1600℃の任意の温度領域を使用温度とした多岐の用途に好適に使用し得る汎用性の高い耐熱セラミックシートが提案されている。
【0009】
ただ、前記特許文献2の耐熱セラミックシートにおいても、常温での十分なハンドリング性(通常取扱いの他、二次加工、製品組立、自動ライン対応など)を確保するためには、繊維材料を結着するバインダー材料として、乾燥固結性無機物からなる無機バインダーのみでは機械的強度が十分でないため、有機バインダーの使用が依然として避けられなかった。
【0010】
しかし、近年では、耐熱セラミックシートを耐熱パッキン材や耐熱電気絶縁材として電化製品に組み込む使われ方も増えてきており、このような電化製品用途の場合、有機バインダーを使用した耐熱セラミックシートでは、200〜400℃の初期加熱時の煙や臭いの発生を嫌う風潮があり、また電化製品の高精密な電子化に伴う悪影響(誤作動、故障等)への懸念もあり、耐熱セラミックシートを予め加熱処理して有機バインダーを消失させてから使用するようにしているが、コスト高となるという問題があり、有機バインダーを含まない耐熱セラミックシートの開発が求められている。
【0011】
【特許文献1】特開昭62−207780号公報
【特許文献2】特開2006−37269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、前記従来の問題点に鑑み、有機バインダーを使用することなく、常温でのハンドリング性を確保するとともに煙や臭いの発生を嫌う用途にもコスト高とならず煙や臭いの発生をなくし、しかも、耐熱セラミックシートの耐熱性を落とすことなく、常温〜600℃近辺での高い機械的強度を確保し、常温〜1600℃の任意の温度領域を使用温度とした多岐の用途に好適に使用し得る汎用性の高い耐熱セラミックシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の耐熱セラミックシートは、前記目的を達成するべく、請求項1に記載の通り、融点が1000℃以上のセラミック繊維60〜95質量%と、軟化点が600℃以上で平均繊維径1μm未満のガラス短繊維2〜20質量%と、軟化点が600℃以上で平均繊維径3〜20μmのガラス長繊維0〜10質量%と、自己造膜性を有する薄片状無機粒子3〜20質量%とを少なくとも含む材料から湿式抄紙して得られ、前記繊維材料が前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子によって結着され、実質的に無機材料のみで構成される密度0.30g/cm3未満のシートであることを特徴とする。
【0014】
また、請求項2記載の耐熱セラミックシートは、請求項1記載の耐熱セラミックシートにおいて、前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子が、ベントナイト、スメクタイト、マイカ、シリカから選択される1種または2種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、有機バインダーを使用することなく、常温でのハンドリング性を確保するとともに煙や臭いの発生を嫌う用途にもコスト高とならず煙や臭いの発生をなくし、しかも、耐熱セラミックシートの耐熱性を落とすことなく、常温〜600℃近辺での高い機械的強度を確保し、常温〜1600℃の任意の温度領域を使用温度とした多岐の用途に好適に使用し得る汎用性の高い耐熱セラミックシートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の耐熱セラミックシートは、融点が1000℃以上のセラミック繊維60〜95質量%と、軟化点が600℃以上で平均繊維径1μm未満のガラス短繊維2〜20質量%と、軟化点が600℃以上で平均繊維径3〜20μmのガラス長繊維0〜10質量%と、自己造膜性を有する薄片状無機粒子3〜20質量%とを少なくとも含む材料から湿式抄紙して得られ、前記繊維材料が前記薄片状無機粒子によって結着され、実質的に無機材料のみで構成される密度0.30g/cm3未満のシートである。前記耐熱セラミックシートの組成は、前記セラミック繊維60〜95質量%、前記ガラス短繊維2〜20質量%、前記ガラス長繊維0〜10質量%、前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子3〜20質量%を少なくとも含むものであることが好ましい。前記耐熱セラミックシートは、密度が0.30g/cm3未満であるため空隙率が高いシートとなり、断熱材(空気層が多いと断熱性能が良くなる)や耐熱濾材(空隙が多いと濾過抵抗や濾過寿命が良くなる)等として特に有利であり、密度が0.25g/cm3未満であればより好ましい。前記耐熱セラミックシートの空隙率は85%、更には90%以上であることが好ましい。
【0017】
本願において、ガラス短繊維とは、火炎法や遠心法等によって得られるウール状ガラス繊維を指し、ガラス長繊維とは、連続繊維のガラスフィラメントを適当な繊維長にカットして得られるチョップドガラス繊維を指す。
【0018】
また、本願において、「(薄片状無機粒子が)自己造膜性を有する」とは、薄片状無機粒子を単独で、水中で分散させて乾燥固化させたときに自ら造膜する性質を言う。つまり、水中で分散させ分散液を得る際に他の添加材を併用することで乾燥固化後に造膜する性質をもたらすものは多いが、このように他の材料の力を借りて造膜するのではなく、薄片状無機粒子単独で造膜するものを指す。また、本願において、薄片状無機粒子とは、薄片状、板状、鱗片状の無機粒子を指す。
【0019】
このような自己造膜性を有する薄片状無機粒子は、薄片状無機粒子を水中で分散させると、容易に薄片状無機粒子がばらけて一次粒子近くまでミクロに分散した粘稠な液体を形成し、乾燥固化後に、ばらけていた薄片状無機粒子の薄片状一次粒子同士が再び層状に重なり合うことで互いに強く結び付いて強固な膜を形成するものである。また、前記膜は、薄片状無機粒子のミクロな薄片状一次粒子が層状に重なってできていることから、乾燥しても脆くならず柔軟性がある。
【0020】
前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子は、2〜15質量%程度の濃度で水に分散した状態で粘稠な液体となり(チキソトロピー性を有するものも含む)、50〜200℃程度の乾燥固化後に割れの無い強固な膜を形成する。この作用によって、繊維材料同士を室温から強固に結着させることができる。また、前記膜は柔軟性があるので、乾燥後に脆くならず割れを生じにくい上、耐熱セラミックシートも硬くならず可撓性を維持するため、シート原反のロール巻きが可能で二次加工時や製品組立時や施工時や使用時等における曲げ等の操作や曲面施工にも対応可能である。
【0021】
前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子としては、ベントナイト、スメクタイト、マイカ、シリカ等が挙げられる。特に、少量の添加で高いバインダー効果が得られ、湿式抄造時の歩留まりが良好である点から、合成マイカ、鱗片状シリカのような鱗片状無機粒子の使用が好ましい。尚、ベントナイト、スメクタイト、マイカの耐熱温度は900℃程度であり、シリカの耐熱温度は1000℃程度である。前記鱗片状シリカとしては、例えば、BET法による比表面積当たりの水酸基の量が20μmol/m2以上、レーザー散乱法による平均粒径が2μm以下、アスペクト比が10以上の鱗片状シリカの使用が好ましい。
【0022】
このようなベントナイト、スメクタイト、マイカ、シリカとして市販されているものとしては、例えば、「ベンゲル」(精製ベントナイト、ホージュン社)、「ルーセンタイト」(合成スメクタイト、コープケミカル社)、「ソマシフ」(合成マイカ、コープケミカル社)、「サンラブリー」(合成シリカ、AGCエスアイテック社)等が挙げられる。
【0023】
前記セラミック繊維は融点が1000℃以上のセラミック繊維であり、結晶質繊維のアルミナ繊維(平均繊維径3〜4μm程度、融点2000℃程度、耐熱温度1600℃程度)や、非晶質繊維のシリカ繊維(平均繊維径0.5〜4μm程度、融点1600℃程度、耐熱温度1000℃程度)、シリカ−アルミナ繊維(平均繊維径3〜4μm程度、融点1600℃程度、耐熱温度1200℃程度)、シリカ−アルミナ−ジルコニア繊維(平均繊維径3〜4μm程度、融点1800℃程度、耐熱温度1400℃程度)等が使用できる。ここで、耐熱温度とは、24時間加熱後の線収縮率が3%以下を維持する最高温度を指す。これらのセラミック繊維の中から、耐熱セラミックシートの実際の用途に合わせ、その用途に求められる機能や特性等に応じて、適宜適切なセラミック繊維を選択して使用すればよい。セラミック繊維として最も一般的なシリカ−アルミナ繊維は、比較的安価で入手し易い点で有利である。シリカ繊維は、1μm未満の微細径繊維を使用できる点で有利であるが、他のセラミック繊維に比べて非常に高価であり、不純物を嫌う触媒担持材等の特殊用途以外には通常適さない。
【0024】
前記ガラス短繊維は軟化点が600℃以上で平均繊維径が1μm未満のガラス短繊維であり、ガラス繊維の種類はBガラス繊維、Cガラス繊維、Eガラス繊維等を使用でき、用途によっては高価なシリカ繊維を使用してもよいが、比較的安価に入手できるBガラス繊維やCガラス繊維を使用するのが好ましい。尚、前記耐熱セラミックシートを600℃以上で使用する用途、あるいは、前記耐熱セラミックシートを600℃以上で加熱処理して使用する用途においては、その使用温度や加熱処理温度と前記ガラス短繊維の軟化点との条件が合えば、前記ガラス短繊維が軟化あるいは溶融してバインダー効果を発揮し、600℃以上の温度領域での耐熱セラミックシートの機械的強度の向上に寄与する。尚、前記耐熱セラミックシートがより高い耐熱性を必要とする場合は、前記ガラス短繊維の軟化点は800℃以上とすることが好ましい。
【0025】
前記ガラス短繊維として平均繊維径1μm未満の微細径繊維を使用することで、ガラス短繊維の全表面積が大きくなり、抄紙スラリー中で一次粒子近くにまでミクロに分散した前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子を、凝集剤を使用しセラミック繊維等の繊維表面へ歩留まり良く付着させることができ、前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子のできるだけ少ない添加量で耐熱セラミックシートの機械的強度向上の効果が得られる。また、前記ガラス短繊維として平均繊維径1μm未満の微細径繊維を使用することで、繊維同士の絡み合いの効果が高まり耐熱セラミックシートの機械的強度の向上が図られる。
【0026】
前記耐熱セラミックシートには、必要に応じ、軟化点が600℃以上で平均繊維径が3〜20μmのガラス長繊維を添加してもよい。繊維長は2〜30mmであることが好ましい。前記ガラス長繊維を添加することにより、コンクリートに鉄筋や砂利を入れるような骨材効果(芯材効果)が得られ、耐熱セラミックシートの機械的強度、特に、引裂強度や耐折強度が更に高められるので、耐熱セラミックシートにこのような特性が強く求められる用途には好適である。ガラス繊維の種類は、Cガラス繊維、Eガラス繊維、ARガラス繊維、Sガラス繊維(Tガラス繊維)、シリカ繊維、シリカ−アルミナ繊維等を使用できる。尚、前記耐熱セラミックシートがより高い耐熱性を必要とする場合は、前記ガラス長繊維の軟化点は800℃以上とすることが好ましい。
【0027】
前記耐熱セラミックシートは、例えば、前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子3〜20質量%を水中に均一に分散・混合し、次に、前記セラミック繊維60〜95質量%と、平均繊維径1μm未満のガラス短繊維2〜20質量%と、前記ガラス長繊維0〜10質量%とを混合・分散させて抄紙スラリーとし、更に高分子凝集剤を適量添加してこれらを凝集させた後に、湿式抄造により湿潤状態でシート化し、加熱乾燥することによって得ることができる。
【0028】
前記セラミック繊維の配合量は、耐熱セラミックシートの良好な耐熱性を確保するため、60質量%以上の配合量とすることが必要であり、適宜、耐熱セラミックシートの用途、すなわち、耐熱セラミックシートに求められる耐熱性に応じて適切な配合量を選択すればよく、例えば、耐熱セラミックシートが1000℃以上の耐熱性を必要とする場合には、85質量%以上の配合量とすることが好ましい。尚、前記セラミック繊維の配合量が95質量%を超える場合は、相対的に、耐熱セラミックシートのバインダーとして機能させる前記ガラス短繊維、前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子の配合量が少なくなり、耐熱セラミックシートの常温〜1600℃の任意の温度領域における十分な機械的強度を維持できなくなるため不適である。
【0029】
前記ガラス短繊維の配合量は、耐熱セラミックシートの全体に均一分散状態に介在させ、前述した薄片状無機粒子の抄造歩留まりを効率よく高める役割と繊維の絡み合い効果を高める役割とを発揮させるため、2質量%以上の配合量とすることが必要であるが、20質量%を超えると、相対的に、前記セラミック繊維の配合量が少なくなり、耐熱セラミックシートの十分な耐熱性を維持できなくなるため不適である。尚、前記耐熱セラミックシートがより高い耐熱性、柔軟性、クッション性を必要とする場合は、前記ガラス短繊維の配合量は15質量%以下とすることが好ましい。
【0030】
前記ガラス長繊維は、耐熱セラミックシートがより高い引裂強度や耐折強度を必要とする場合に、必要に応じて適当量を配合することができるが、耐熱セラミックシートの全体に均一分散状態に介在させ、引裂強度や耐折強度を高める役割を十分に発揮させるためには、2質量%以上の配合量とすることが好ましい。しかし、前記ガラス長繊維の配合量が10質量%を超えると、相対的に、前記セラミック繊維、前記ガラス短繊維、前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子の配合量が少なくなるとともに、抄紙スラリー中での前記ガラス長繊維の均一分散が得られにくくなるため、不適である。
【0031】
前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子の配合量は、耐熱セラミックシートの全体に均一分散状態に介在させ、良好なバインダー効果を発揮させるため、3質量%以上の配合量とすることが必要であるが、20質量%を超えると、抄紙スラリー中でミクロに分散した多量の薄片状無機粒子により抄造時の水抜け性(濾水性)が低下し、生産性が低下するため不適である。尚、前記耐熱セラミックシートがより高い柔軟性、クッション性を必要とする場合は、前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子の配合量は15質量%以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0032】
次に、本発明の実施例について比較例とともに詳細に説明する。
(実施例1)
自己造膜性を有する薄片状無機粒子としてマイカを固形分として5質量%(コープケミカル社製合成マイカ:ソマシフ MEB−3)となるようにミキサに添加して水と共に混合・分散させた後、セラミック繊維として融点1600℃、平均繊維径4μmのシリカ−アルミナ繊維85質量%と、ガラス短繊維として軟化点600℃、平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維10質量%(日本板硝子社製CMLF208)を添加し、混合・分散させた。次に高分子凝集剤を適量添加して、手抄き用角型シートマシンにて湿式抄造してシート化し、180℃で乾燥して、耐熱セラミックシートを得た。得られた耐熱セラミックシートの微細構造を観察したところ、前記セラミック繊維等の繊維材料が前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子によって結着されていた。
【0033】
(実施例2)
自己造膜性を有する薄片状無機粒子としてベントナイトを固形分として10質量%(ホージュン社製精製ベントナイト:ベンゲルHV)となるようにミキサに添加して水と共に混合・分散させた後、セラミック繊維として融点1600℃、平均繊維径4μmのシリカ−アルミナ繊維75質量%と、ガラス短繊維として軟化点600℃、平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維15質量%(日本板硝子社製CMLF208)を添加し、混合・分散させた。次に高分子凝集剤を適量添加して、手抄き用角型シートマシンにて湿式抄造してシート化し、180℃で乾燥して、耐熱セラミックシートを得た。得られた耐熱セラミックシートの微細構造を観察したところ、前記セラミック繊維等の繊維材料が前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子によって結着されていた。
【0034】
(実施例3)
自己造膜性を有する薄片状無機粒子としてスメクタイトを固形分として15質量%(コープケミカル社製合成スメクタイト:ルーセンタイトSWN)となるようにミキサに添加して水と共に混合・分散させた後、セラミック繊維として融点1600℃で、平均繊維径4μmのシリカ−アルミナ繊維60質量%と、ガラス短繊維として軟化点840℃、平均繊維径0.7μmのEガラス短繊維20質量%(ジョーンズ・マンビル社製106E)と、ガラス長繊維として軟化点840℃、繊維径7μm、繊維長6mmのEガラスチョップド繊維5質量%(ユニチカファイバー社製ガラスチョップドストランド)を添加し、混合・分散させた。次に高分子凝集剤を適量添加して、手抄き用角型シートマシンにて湿式抄造してシート化し、180℃で乾燥して、耐熱セラミックシートを得た。得られた耐熱セラミックシートの微細構造を観察したところ、前記セラミック繊維等の繊維材料が前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子によって結着されていた。
【0035】
(実施例4)
自己造膜性を有する薄片状無機粒子として鱗片状シリカを固形分として3質量%(AGCエスアイテック社製合成シリカ:サンラブリーLFS HN−050)となるようにミキサに添加して水と共に混合・分散させた後、セラミック繊維として融点1600℃、平均繊維径4μmのシリカ−アルミナ繊維85質量%と、ガラス短繊維として軟化点600℃、平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維2質量%(日本板硝子社製CMLF208)と、ガラス長繊維として軟化点840℃、繊維径7μm、繊維長6mmのEガラスチョップド繊維10質量%(ユニチカファイバー社製ガラスチョップドストランド)を添加し、混合・分散させた。次に高分子凝集剤を適量添加して、手抄き用角型シートマシンにて湿式抄造してシート化し、180℃で乾燥して、耐熱セラミックシートを得た。得られた耐熱セラミックシートの微細構造を観察したところ、前記セラミック繊維等の繊維材料が前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子によって結着されていた。
【0036】
(実施例5)
自己造膜性を有する薄片状無機粒子として鱗片状シリカを固形分として5質量%(AGCエスアイテック社製合成シリカ:サンラブリーLFS HN−050)となるようにミキサに添加して水と共に混合・分散させた後、セラミック繊維として融点1600℃、平均繊維径4μmのシリカ−アルミナ繊維88質量%と、ガラス短繊維として軟化点600℃、平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維5質量%(日本板硝子社製CMLF208)と、ガラス長繊維として軟化点840℃、繊維径7μm、繊維長6mmのEガラスチョップド繊維2質量%(ユニチカファイバー社製ガラスチョップドストランド)を添加し、混合・分散させた。次に高分子凝集剤を適量添加して、手抄き用角型シートマシンにて湿式抄造してシート化し、180℃で乾燥して、耐熱セラミックシートを得た。得られた耐熱セラミックシートの微細構造を観察したところ、前記セラミック繊維等の繊維材料が前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子によって結着されていた。
【0037】
(実施例6)
自己造膜性を有する薄片状無機粒子として鱗片状シリカを固形分として20質量%(AGCエスアイテック社製合成シリカ:サンラブリーLFS HN−050)となるようにミキサに添加して水と共に混合・分散させた後、セラミック繊維として融点2000℃、平均繊維径4μmのアルミナ繊維60質量%と、ガラス短繊維として軟化点840℃、平均繊維径0.7μmのEガラス短繊維10質量%(ジョーンズ・マンビル社製106E)と、ガラス長繊維として軟化点840℃、繊維径7μm、繊維長6mmのEガラスチョップド繊維10質量%(ユニチカファイバー社製ガラスチョップドストランド)を添加し、混合・分散させた。次に高分子凝集剤を適量添加して、手抄き用角型シートマシンにて湿式抄造してシート化し、180℃で乾燥して、耐熱セラミックシートを得た。得られた耐熱セラミックシートの微細構造を観察したところ、前記セラミック繊維等の繊維材料が前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子によって結着されていた。
【0038】
(比較例1)
セラミック繊維として融点1600℃、平均繊維径4μmのシリカ−アルミナ繊維90質量%と、ガラス短繊維として軟化点600℃、平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維10質量%(日本板硝子社製CMLF208)と、これら無機材料の合計量100質量%に対し、有機バインダーとしてアクリル樹脂エマルジョン5外質量%をミキサに添加して水と共に混合・分散させ、手抄き用角型シートマシンにて湿式抄造してシート化し、180℃で乾燥して、耐熱セラミックシートを得た。
【0039】
(比較例2)
自己造膜性を有する薄片状無機粒子としてマイカを固形分として5質量%(コープケミカル社製合成マイカ:ソマシフMEB−3)となるようにミキサに添加して水と共に混合・分散させた後、セラミック繊維として融点1600℃、平均繊維径4μmのシリカ−アルミナ繊維95質量%を添加し、混合・分散させた。次に高分子凝集剤を適量添加して、手抄き用角型シートマシンにて湿式抄造してシート化し、180℃で乾燥して、耐熱セラミックシートを得た。
【0040】
(比較例3)
自己造膜性を有する薄片状無機粒子として鱗片状シリカを固形分として20質量%(AGCエスアイテック社製合成シリカ:サンラブリーLFS HN−050)となるようにミキサに添加して水と共に混合・分散させた後、セラミック繊維として融点1600℃、平均繊維径4μmのシリカ−アルミナ繊維70質量%と、ガラス長繊維として軟化点840℃、繊維径7μm、繊維長6mmのEガラスチョップド繊維10質量%(ユニチカファイバー社製ガラスチョップドストランド)を添加し、混合・分散させた。次に高分子凝集剤を適量添加して、手抄き用角型シートマシンにて湿式抄造してシート化し、180℃で乾燥して、耐熱セラミックシートを得た。
【0041】
次に、上記にて得られた実施例1〜6、比較例1〜3の各耐熱セラミックシートについて、厚さ、坪量、密度、空隙率、灼熱減量、常温引張強度、加熱後引張強度、加熱後の煙・臭いの発生状況をそれぞれ、以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
〈厚さ〉
ダイヤルシックネスゲージを用いて、加重19.6kPaにて測定した。
〈坪量〉
0.1m2の質量を測定し、これを10倍して坪量とした。
〈密度〉
坪量(g/m2)÷厚さ(mm)÷1000の計算値。
〈空隙率〉
シートの見掛け密度と構成材料の固形分の真密度から、次式により算出した。
空隙率(%)=100−(耐熱セラミックシートの見掛け密度/材料固形分の真密度)
〈灼熱減量〉
自己造膜性を有する薄片状無機粒子を含むシートは水分を多く吸着し易いので、事前に105℃で30分間加熱して吸着水を除去し、デシケータ内で冷却した後の質量(W0)を測定し、次に600℃にて1時間加熱し、デシケータ内で冷却した後の質量(W1)を測定し、次式により算出した。
灼熱減量(%)=(W0−W1)/W0×100
〈常温引張強度〉
等速度引張試験機により常温での引張強度を測定した。測定条件は、引張速度25mm/分、チャック間距離100mmとして行った。
〈加熱後引張強度〉
400℃、1000℃の所定温度にて1時間加熱後、常温にて等速度引張試験機により引張強度を測定し、それぞれ400℃加熱後、1000℃加熱後の引張強度とした。引張強度の測定条件は、引張速度25mm/分、チャック間距離100mmとして行った。
〈400℃加熱試験(加熱後の煙・臭いの発生状況)〉
予め400℃に昇温しておいた電気炉内に、100mm角の試験片を入れて扉を閉じ、3分後に扉を開けて、目視にて煙の発生状況、嗅覚にて異臭の発生状況をそれぞれ確認した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果から、以下のことが分かった。
(1)本発明の実施例1〜6の耐熱セラミックシートは、有機バインダーを使用することなく、少量でも効率的に高いバインダー効果を与えることのできる自己造膜性を有する薄片状無機粒子を適当量配合したことにより、実質的に無機材料のみの構成であるにも拘わらず、10N/25mm幅以上の高い常温引張強度を得るとともに、400℃加熱後、1000℃加熱後の引張強度でも強度低下がなく(むしろ、無機材料の焼結によりやや向上している)、常温〜1000℃の温度領域において高い引張強度を維持した。
(2)本発明の実施例1〜6の耐熱セラミックシートは、有機バインダーを使用していないため、400℃加熱試験では、煙の発生はなく、臭いが僅かに発生した(実施例4、5は臭いの発生もなし)。臭いが僅かに発生した原因としては、自己造膜性を有する薄片状無機粒子の吸着作用によって抄紙時にシート内に極少量取り込まれた高分子凝集剤の一部が残存していたためと考えられる。
(3)これに対し、比較例1の耐熱セラミックシートでは、有機バインダーを使用しており、常温引張強度は高いものの、400℃加熱後、1000℃加熱後の引張強度は約4N/25mm幅にまで大きく低下しており、耐熱セラミックシートの使用・取扱いに支障を来すと考えられる。また、400℃加熱試験では、強い異臭を伴った煙が多量に発生する状況であった。また、比較例2、3の耐熱セラミックシートでは、自己造膜性を有する薄片状無機粒子を適当量配合したにも拘わらず、常温から引張強度が低かった。これについて、比較例2、3の耐熱セラミックシートの微細構造を観察すると、自己造膜性を有する薄片状無機粒子の付着が、実施例1〜6の耐熱セラミックシートに比べて極端に少ない状況であった。つまり、比較例2、3の耐熱セラミックシートでは、実施例1〜6の耐熱セラミックシートと同様に、自己造膜性を有する薄片状無機粒子を適当量配合したにも拘わらず、平均繊維径1μm未満のガラス短繊維を配合しなかったため、自己造膜性を有する薄片状無機粒子の抄造歩留まりが低下し、耐熱セラミックシート中への自己造膜性を有する薄片状無機粒子の付着率が大幅に低下したためと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が1000℃以上のセラミック繊維60〜95質量%と、軟化点が600℃以上で平均繊維径1μm未満のガラス短繊維2〜20質量%と、軟化点が600℃以上で平均繊維径3〜20μmのガラス長繊維0〜10質量%と、自己造膜性を有する薄片状無機粒子3〜20質量%とを少なくとも含む材料から湿式抄紙して得られ、前記繊維材料が前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子によって結着され、実質的に無機材料のみで構成される密度0.30g/cm3未満のシートであることを特徴とする耐熱セラミックシート。
【請求項2】
前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子が、ベントナイト、スメクタイト、マイカ、シリカから選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1記載の耐熱セラミックシート。

【公開番号】特開2010−106381(P2010−106381A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277838(P2008−277838)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】