説明

耐熱・耐食被膜形成用水性組成物、耐熱・耐食被膜

【課題】 金属素地を保護するための、優れた耐熱性と耐食性とを併せ備えた被膜を形成できる被膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】 (A)主として被膜の素地密着性に寄与する低水溶性の無機質成分、好ましくはケイ酸カリウムと、(B)主として被膜の緻密性に寄与する難水溶性の無機質成分、好ましくは微細な酸化チタンと、の組み合わせを有効成分として含有する耐熱・耐食被膜形成用水性組成物。この組成物を用いてなる耐熱・耐食被膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物、及び耐熱・耐食被膜に関する。更に詳しくは本発明は、耐熱性の無機質被膜であって、しかも素地密着性及び緻密性に優れるために耐食性も特段に高い耐熱・耐食被膜を形成するための水性組成物と、この組成物を用いて形成された耐熱・耐食被膜とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高温に晒される各種の金属製構築物、金属製設備、金属製装置類等に対して、耐熱性の塗料組成物(被膜形成用組成物)を用いてなる被膜が形成されている。このような耐熱性の被膜形成用組成物としては、無機質主体の有効成分からなるものが多かった。
【0003】
【特許文献1】特開平7−26166号公報 例えば上記の特許文献1に係る「水性耐熱塗料及び耐熱被覆層」の発明は、水ガラスに二酸化ケイ素粉末を混入して水で薄め、ケイ酸ナトリウムを7〜20重量%と、二酸化ケイ素粉末5〜30重量%とを含有する水性耐熱塗料と、この塗料を用いてなる耐熱被覆層とを開示している。
【0004】
【特許文献2】特開平11−279488号公報 又、上記の特許文献2に係る発明は、シリコーン樹脂20〜60重量%、ガラス粉末1〜25重量%、ガラス繊維0.3〜25重量%、防食顔料0.1〜10重量%、その他の顔料1〜30重量%及び溶剤20〜60重量%を含む耐熱塗料組成物を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の特許文献1に係る発明も含め、従来の無機質主体の耐熱被膜形成用組成物を用いて形成した被膜は、例えば600°Cの高温域でも耐え得るような耐熱性を確保できるとしても、金属素地に対して十分な耐食性をもたらさなかった。その事は、これらの耐熱性被膜が耐塩水噴霧試験等の耐食性試験に弱いと言う事実によっても明らかである。従って、これらの被膜形成用組成物を用いて、高温に晒されつつ水と接触する環境(又は高湿度下の環境)にある金属素地に被膜を形成した場合、耐熱性はともかく、防錆性が不十分であった。
【0006】
一方、上記特許文献2に係る発明では、素地に対する被膜の密着性を考慮し、無機質成分に加えシリコーン樹脂を含有した被膜形成用組成物を提案している。しかしながら、例えば製鉄工場に設備される各種の金属製構築物/設備/装置類等は、600°Cと言う高温に晒されつつ、水と接触し又は高湿度環境下に置かれる。無機質成分ではないシリコーン樹脂は、樹脂としては高い耐熱性を示すが、結局は有機物であり、例えば600°Cと言う高温のレベルでは、劣化ないしは分解・焼損してしまい、耐熱性は期待できない。
【0007】
そこで本発明は、600°Cと言う高温域において水と接触する環境(又は高湿度下の環境)においても、耐熱性と金属素地に対する防錆性とを十分に示す被膜を形成できる耐熱・耐食被膜形成用組成物と、この組成物を用いて形成された耐熱・耐食被膜とを提供することを、解決すべき技術的課題とする。
【0008】
〔着眼点〕
従来の無機質耐熱被膜は、金属素地に対する密着性が弱く、微細なピンホールもでき易い。これらの点が、無機質耐熱被膜の不十分な防錆性(換言すれば耐食性試験に弱い)と言う欠点の原因となっている。
【0009】
本願発明者は、上記技術的課題の解決手段を研究する過程で下記1)、2)の知見を得て、特定の無機質成分の選択のみによっても、耐熱性と防錆性に優れた被膜を構成できることを見出し、本願発明を完成するに到った。
【0010】
1)従来型の無機質耐熱被膜において汎用されているケイ酸ソーダは、水溶性が比較的高く、被膜の耐食性を確保する上で必ずしも好ましくない。ケイ酸ソーダと同等の耐熱性を持ち、かつ耐水性の無機質成分、例えばケイ酸カリウムを用いると、金属素材に対する無機質耐熱被膜の密着性を高めることができる。
【0011】
2)無機質耐熱被膜に、高耐熱性・高耐水性の微細な無機質成分、例えば酸化チタンの微細な粉末を含有させると、被膜の緻密性が著しく向上し、微細なピンホールの発生を有効に防止することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、有効成分としてケイ酸カリウムと微細な酸化チタンとを含有する、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物である。
【0013】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係るケイ酸カリウムが、二酸化ケイ素分と酸化カリウム分とのモル比( SiO/KO の重量比×1.568 )が2.0〜3.8の範囲内であるケイ酸カリウムの1種以上である、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物である。
【0014】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第2発明に係るケイ酸カリウムにおける二酸化ケイ素分と酸化カリウム分とのモル比が2.7〜3.7の範囲内である、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物である。
【0015】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第1発明〜第3発明のいずれかに係る微細な酸化チタンが、平均粒子径が0.3μm以下のルチル型酸化チタンの1種以上である、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物である。
【0016】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第1発明〜第4発明のいずれかに係るケイ酸カリウム100重量部に対して、前記酸化チタン30〜60重量部、水10〜80重量部を含有する、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物である。
【0017】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、前記第1発明〜第5発明のいずれかに係る耐熱・耐食被膜形成用水性組成物が、更に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、カオリン、マイカ、タルク、ゼオライト、セリサイト、クレー及びジルコニアからなる無機系充填剤群から選ばれる1種以上を含有する、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物である。
【0018】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、前記第1発明〜第6発明のいずれかに係る耐熱・耐食被膜形成用水性組成物が、更に、レベリング剤、分散剤及びカップリング剤から選ばれる1種以上を含有する、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物である。
【0019】
(第8発明の構成)
上記課題を解決するための本願第8発明の構成は、前記第1発明〜第7発明のいずれかに係る耐熱・耐食被膜形成用水性組成物が、更に、着色用の顔料を含有する、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物である。
【0020】
(第9発明の構成)
上記課題を解決するための本願第9発明の構成は、第1発明〜第8発明のいずれかに係る耐熱・耐食被膜形成用水性組成物を用いて形成された、耐熱・耐食被膜である。
【発明の効果】
【0021】
(第1発明の効果)
第1発明の耐熱・耐食被膜形成用水性組成物においては、有効成分としてケイ酸カリウムと微細な酸化チタンとを含有する。
【0022】
ケイ酸カリウムは、従来型の無機質耐熱被膜において汎用されているケイ酸ソーダと同等の耐熱性を持ち、反面、ケイ酸ソーダに比較して耐水性(低水溶性)であると言う特徴を備えている。そのため、主としてケイ酸カリウムによって、被膜の素地密着性が確保される。
【0023】
一方、酸化チタンは高耐熱性でかつ高耐水性(難水溶性)であって、その微細な粉末は被膜の緻密性を著しく向上させ、被膜における微細なピンホールの発生を有効に防止する。そのため、主として微細な酸化チタンによって被膜の緻密性が確保される。
【0024】
以上の点から、第1発明の耐熱・耐食被膜形成用水性組成物を用いると、従来の無機質耐熱被膜におけるような金属素地に対する密着性の不足と微細なピンホールの発生とが有効に防止される。その結果、第1発明の耐熱・耐食被膜形成用水性組成物を用いて形成した被膜は、耐塩水噴霧試験等の耐食性試験に強く、金属素地に対して十分な防錆性を示すことができる。同時に、有効成分たるケイ酸カリウム及び酸化チタンがいずれも耐熱性の無機質成分であるため、高度の耐熱性を示すことはもち論である。
【0025】
又、水性組成物であるため、無機質成分のなじみの良さ、油性組成物に見られるような引火性や悪臭がないこと、スプレー塗布可能な濃度調整が容易であること、被膜の膜厚調整が容易であること、等の利点がある。
【0026】
(第2発明の効果)
ケイ酸カリウムにおける二酸化ケイ素分と酸化カリウム分とのモル比( SiO/KO の重量比×1.568 )は必ずしも限定されないが、そのモル比が2.0〜3.8の範囲内であるケイ酸カリウムの1種以上を用いることが、特に好ましい。
【0027】
上記のモル比が2.0未満であると、相対的に、ガラス膜形成が難しいと言う不満点がある。一方、上記のモル比が3.8を超えると、相対的に、耐水性が弱くなると言う不満点がある。
【0028】
(第3発明の効果)
ケイ酸カリウムにおける二酸化ケイ素分と酸化カリウム分との上記のモル比が2.7〜3.7の範囲内である場合、耐熱・耐食被膜の密着性に対する寄与が特に大きい。
【0029】
(第4発明の効果)
微細な酸化チタンとしては、平均粒子径が0.3μm以下の、ルチル型の酸化チタンの1種以上が特に好ましい。酸化チタンの平均粒子径は細かければ細かいほど好ましいが、平均粒子径が0.3μm以下であれば、被膜の緻密性を十分に確保することができる。酸化チタンの平均粒子径0.3μmを超えると、相対的に、被膜の緻密性を十分に確保し難いと言う不満点がある。アナタース型の酸化チタンも使用できるが、ルチル型の酸化チタンと比較すると、相対的に、光分解能が発生すると言う不満点がある。
【0030】
(第5発明の効果)
耐熱・耐食被膜形成用水性組成物の有効成分であるケイ酸カリウムと微細な酸化チタンとは、その相対的な含有量及び媒体である水に対する含有量が一定の範囲内にあることが好ましい。即ち、第5発明のようにケイ酸カリウム100重量部に対して、酸化チタン30〜60重量部、水10〜80重量部を含有することが好ましい。
【0031】
ケイ酸カリウム又は酸化チタンの含有量が上記の範囲を逸脱して余りに過少であると(換言すれば、水の割合が上記の範囲を逸脱して余りに過大であると)、有効成分の不足から、均一な被膜を形成し難く、かつ、それらの成分を含有することによる所期の効果を確保し難い。又、ケイ酸カリウムの含有量が上記の範囲を逸脱して余りに過大であると成膜後の膜の保持性が悪くなると言う難点があり、酸化チタンの含有量が上記の範囲を逸脱して余りに過大であると均一なガラス被膜の形成が阻害され易いと言う難点がある。
【0032】
又、水の割合が余りに過少である場合には、組成物が高粘度もしくは難流動性となって、例えばスプレー塗布等による被膜形成素地への適用が不便になり易いと言う難点がある。
【0033】
(第6発明の効果)
耐熱・耐食被膜形成用水性組成物は、媒体である水、ケイ酸カリウム及び微細な酸化チタンの他に、発明の効果を阻害しない限りにおいて、更に必要又は有益な任意の成分を任意の含有量において含むことができる。その例示として、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、カオリン、マイカ、タルク、ゼオライト、セリサイト、クレー及びジルコニアからなる無機系充填剤群から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0034】
(第7発明の効果)
耐熱・耐食被膜形成用水性組成物は、更に、レベリング剤、分散剤及びカップリング剤から選ばれる1種以上を含有することができる。これらの成分は、例えば市販品から任意に選択することができる。
【0035】
(第8発明の効果)
耐熱・耐食被膜形成用水性組成物は、更に着色用の顔料を含有することにより、着色塗料としても利用することができる。
【0036】
(第9発明の効果)
第1発明〜第18発明のいずれかに係る耐熱・耐食被膜形成用水性組成物を用いて被膜を構成すると、上記第1発明〜第8発明のいずれかの効果を伴う耐熱・耐食被膜となる。この耐熱・耐食被膜は、600°Cと言う高温域において水と接触する環境(又は高湿度下の環境)にある金属素地、例えば製鉄工場に設備される各種の金属製の構築物/設備/装置類等に対して成膜された場合にも優れた耐熱性能と耐食性能を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、第1発明〜第9発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。以下において「本発明」と言うときは、本願の各発明を全体として指している。
【0038】
〔耐熱・耐食被膜形成用水性組成物〕
本発明に係る耐熱・耐食被膜形成用水性組成物は、(A)主として被膜の素地密着性に寄与する耐熱性・耐水性の無機質成分と、(B)主として被膜の緻密性に寄与する高耐熱性・高耐水性の微細な無機質成分とを有効成分として含有する点に特徴がある。
【0039】
耐熱・耐食被膜形成用水性組成物における(A)成分、(B)成分及び水の量比については、(A)成分100重量部に対して、(B)成分1〜100重量部、水1〜1000重量部であることが好ましく、とりわけ、(A)成分100重量部に対して、(B)成分30〜60重量部、水10〜80重量部であることが好ましい。
【0040】
(A)成分、(B)成分の種類については限定されないが、(A)成分としてはケイ酸カリウムを、(B)成分としては微細な酸化チタンを、それぞれ好ましく例示できる。そして、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物におけるケイ酸カリウム、微細な酸化チタン及び水の量比についても、ケイ酸カリウム100重量部に対して、酸化チタン1〜100重量部、水1〜1000重量部を含有することが好ましく、とりわけ、ケイ酸カリウム100重量部に対して、酸化チタン30〜60重量部、水10〜80重量部を含有することが好ましい。
【0041】
〔(A)成分〕
(A)成分として代表的に例示されるケイ酸カリウムについては、その二酸化ケイ素分と酸化カリウム分とのモル比を「 SiO/KO の重量比×1.568 」と規定したとき、好ましくは、このモル比が2.0〜3.8の範囲内、特に好ましくは、このモル比が2.7〜3.7の範囲内であるケイ酸カリウムの1種類を単独で用い、又は、そのようなケイ酸カリウムの2種類以上を組合わせて用いることができる。
【0042】
〔(B)成分〕
(B)成分として代表的に例示される微細な酸化チタンについては、平均粒子径が小さいものほど好ましく、特に0.3μm以下のものが好ましい。又、ルチル型の酸化チタンが好ましい。これらの好ましい範疇に属する酸化チタンの1種類を単独で用い、又は、そのような酸化チタンの2種類以上を組合わせて用いることができる。
【0043】
〔その他の成分〕
本発明に係る耐熱・耐食被膜形成用水性組成物は、媒体である水、及び上記の(A)成分、(B)成分の他に、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、この種の被膜形成用組成物に含有されることがある各種の成分を任意に含有することができる。
【0044】
そのような成分として、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、カオリン、マイカ、タルク、ゼオライト、セリサイト、クレー及びジルコニアからなる無機系充填剤群から選ばれる1種以上を例示することができる。
【0045】
更に、レベリング剤、分散剤及びカップリング剤から選ばれる1種以上を含有することもできる。分散剤の種類は限定されないが、高分子分散剤等を例示することができる。カップリング剤の種類も限定されないが、シランカップリング剤等を例示することができる。
【0046】
更に、本発明に係る耐熱・耐食被膜形成用水性組成物は着色用の顔料を含有することもできる。顔料の種類は限定されないが、耐熱性を考慮すれば焼成顔料が好ましい。焼成顔料としては、例えばFeO(黒色)、FeTiO(褐色)、CoAl(紺色)等を挙げることができる。他種の顔料、例えばリン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム等の防食顔料や、マイカ、鱗片状酸化鉄等の鱗片状顔料や、カオリン、沈降性硫酸バリウム及び炭酸カルシウム等の体質顔料も使用することができる。
【0047】
〔耐熱・耐食被膜の形成〕
上記した耐熱・耐食被膜形成用水性組成物のいずれかを用いて、任意の被膜形成用素地上に、本発明に係る耐熱・耐食被膜を形成することができる。
【0048】
被膜形成用素地の種類は限定されないが、発明の効果が十分に発揮される金属素地が好ましく、とりわけ、高温に晒されつつ水と接触し又は高湿度環境下に置かれる金属素地、例えば、製鉄工場に設備される各種の金属製構築物や、金属製設備類や、金属製装置類等のように、水と接触し、又は高湿度環境下に置かれて600°Cの高温に晒される金属素地を、好ましく例示することができる。
【0049】
耐熱・耐食被膜の形成方法、即ち、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物を金属素地等の各種素地に成膜させる方法は限定されないが、好ましくはスプレー塗布することができる。この場合には、無機質成分全体の100重量部に対して、水を10〜30重量部程度の割合とすることが好適である。耐熱・耐食被膜の膜厚も限定されないが、例えば5〜20μm程度をすることが好適である。
【0050】
スプレー塗布の後に速やかな成膜を望む場合には、成膜後の加熱を行うことができる。例えば、500°Cで3分間程度の加温により成膜する。
【0051】
その他の各種の被膜形成方法、例えば刷毛塗り、耐熱・耐食被膜形成用水性組成物に対する素地のディッピング等も採用可能であることは、もち論である。
【0052】
形成された耐熱・耐食被膜は、主として被膜の素地密着性に寄与する耐熱性・耐水性の無機質成分である(A)成分によって優れた耐熱性と素地に対する密着性を付与されると共に、主として被膜の緻密性に寄与する高耐熱性・高耐水性の微細な無機質成分である(B)成分によって優れた耐熱性と被膜の緻密性を付与される。その結果、高耐熱性であって、600°Cの高温域でも素地に対して良好に密着し、かつ微細なピンホールのない、素地の防錆性にも優れた無機質被膜が形成される。この良好な防錆性は、耐塩水噴霧試験等の耐食性試験に強いと言う事実によっても明らかである。
【実施例】
【0053】
〔実施例A:耐熱・耐食被膜形成用水性組成物の調製〕
この実施例Aに係る各実施例及び各比較例において、ケイ酸カリウムとしては、2Kケイ酸カリウム〔日本化学工業(株)の商品名:二酸化ケイ素分と酸化カリウム分とのモル比が3.4〜3.7の範囲内〕を用いた。酸化チタンとしては、 TITANIX JR-800 〔テイカ(株)の商品名:ルチル型の酸化チタン、平均粒子径0.27μm〕を用いた。分散剤としては、市販の高分子分散剤を用いた。カップリング剤としては、市販のシランカップリング剤を用いた。
【0054】
実施例1においては、ケイ酸カリウム100重量部、酸化チタン50重量部、分散剤4重量部及びカップリング剤1重量部に対して水を15重量部加え、分散機〔特殊機化工業(株)製の商品名ホモディスパー〕で30分間攪拌・混合し、更に水を30重量部加えてスプレー塗装に適した濃度に調整した。
【0055】
実施例2においては、ケイ酸カリウム100重量部、酸化チタン30重量部、マイカ20重量部、分散剤4重量部及びカップリング剤1重量部に対して水を15重量部加え、同上の分散機で30分間攪拌・混合し、更に水を30重量部加えてスプレー塗装に適した濃度に調整した。
【0056】
実施例3においては、ケイ酸カリウム100重量部、酸化チタン30重量部、マイカ10重量部、タルク10重量部、分散剤4重量部及びカップリング剤1重量部に対して水を15重量部加え、同上の分散機で30分間攪拌・混合し、更に水を30重量部加えてスプレー塗装に適した濃度に調整した。
【0057】
比較例4においては、ケイ酸カリウム100重量部、マイカ50重量部、分散剤4重量部及びカップリング剤1重量部に対して水を15重量部加え、同上の分散機で30分間攪拌・混合し、更に水を30重量部加えてスプレー塗装に適した濃度に調整した。
【0058】
比較例5においては、マイカ100重量部、酸化チタン50重量部、分散剤4重量部及びカップリング剤1重量部に対して水を15重量部加え、同上の分散機で30分間攪拌・混合し、更に水を30重量部加えてスプレー塗装に適した濃度に調整した。
【0059】
比較例6においては、ケイ酸ソーダ(水ガラス)100重量部、酸化チタン50重量部、分散剤4重量部及びカップリング剤1重量部に対して水を15重量部加え、分散機〔特殊機化工業(株)製の商品名ホモディスパー〕で30分間攪拌・混合し、更に水を30重量部加えてスプレー塗装に適した濃度に調整した
上記の各実施例、比較例に係る被膜形成用水性組成物の濃度調整後の組成を、下記の表1に示す。
【0060】
【表1】

〔実施例B:評価用試料の作製〕
供試材としてφ45×150×1.5mmの鋼管材片(STKM材)を採用し、この供試材に対して、上記の各実施例、比較例に係る被膜形成用水性組成物をそれぞれスプレー塗布した。このスプレー塗布は、スプレー圧3Kgで、1流体アトマイザーにて、パイプ状供試材の内面に厚さ15μmの塗布膜を形成する設定で行った。
【0061】
〔実施例C:試料の評価試験〕
上記の実施例Bによって塗布膜を形成した各実施例、比較例に係る評価用試料を、それぞれ600°Cに保った電気炉に5分間入れた後に電気炉より取り出し、その冷却後に、軸方向沿いに半割りにして塗装面を剥き出しにした。そして、それぞれの半割りにした試料の切断エッジ部分を防錆塗料でシールした後、次の塩水噴霧試験に供した。
【0062】
塩水噴霧試験は、スガ試験機(株)製の塩水噴霧試験機(形式 ISO型)を用いて行った。試験条件は、温度35±1°C、塩水濃度5±1%、塩水噴霧量1.0〜2.0mL/hr./80cmであった。
【0063】
評価項目としては、第1に塗布膜の防錆性を評価した。即ち、塩水噴霧試験の開始からそれそれ6時間、12時間、24時間、36時間及び48時間経過時点での、試料における塗膜面部分でのサビの発生の有無をチェックした。評価結果は、表2における各実施例、比較例についての「塩水噴霧試験」の欄に、最初にサビの発生を認めたチェック時点を記載することによって表記した。その欄に、例えば「24Hr」と表記した場合、「塩水噴霧試験の開始から24時間経過時点でのチェックでサビの発生を認めた」ことを意味する。従って、時間数が大きい程、塗膜の防錆性が高いことになる。
【0064】
第2の評価項目は、碁盤目テープ法による塗膜の密着性評価である。即ち、上記の48時間の塩水噴霧試験を経過させた各実施例、比較例に係る評価用試料について、塩水を良くぬぐい取った後、カッターガイドで塗膜に切れ目を付け、これらの切れ目によって縦横1mm幅のマス目を100個形成した。そして、これらのマス目全体を覆うようにセロハンテープを密着させた後、このセロハンテープを剥がして、その際に塗膜が剥がれなかったマス目の数を数えた。評価結果は、表2における各実施例、比較例についての「碁盤目テープ法」の欄に、数字で表記した。この数字は、上記の塗膜が剥がれなかったマス目の数について、ヒト桁の位を切り捨てたものである。その欄に例えば「50」と表記した場合、「上記の塗膜が剥がれなかったマス目の数が、50〜59の範囲内であった」ことを意味する。従って、数字が大きい程、塗膜の密着性が高いことになる。
【0065】
表2における「総合評価」の欄は、塗膜の防錆性と密着性とを併せ評価したものであり、「塩水噴霧試験」の欄が「36Hr」以上で「碁盤目テープ法」の欄が「10」であるものを、「◎」と評価し、「塩水噴霧試験」の欄が「24Hr」で「碁盤目テープ法」の欄が「10」であるものを、「○」と評価した。一方、「塩水噴霧試験」の欄が「24Hr」未満であると言う低評価条件と、「碁盤目テープ法」の欄が「10」未満であると言う低評価条件との、いずれか一方に該当するものを「△」と評価し、双方に該当するものを「×」と評価した。
【0066】
【表2】

〔試料の評価結果〕
表2に示す評価結果より、以下の点が認められる。まず、被膜形成用組成物がケイ酸カリウムを含有するか否かに関して、各実施例及び比較例4と、比較例5との対比から、ケイ酸カリウムの含有による塗膜密着性の改善が明瞭である。更に、実施例1と比較例6との対比から、塗膜の密着性(ひいては塗膜の防錆性)に関して、従来型の無機質耐熱被膜において汎用されているケイ酸ソーダに対する、ケイ酸カリウムの優位性が明瞭である。
【0067】
次に、被膜形成用組成物が酸化チタンを含有するか否かに関して、酸化チタンを含有しない比較例4は、塗膜の密着性が優れるにも関わらず、塩水噴霧試験の結果が悪く、金属素地に対する防錆性が悪い。このことは、酸化チタンの含有が塗膜の微細なピンホールの発生防止に有効であることを示唆している。一方で、酸化チタンを含有するがケイ酸カリウムを含有しない比較例5は、塗膜の密着性が悪く、かつ塩水噴霧試験の結果(金属素地に対する防錆性)も悪い。これらの比較例を実施例1〜3の評価結果と対比すると、比較例4においては塗膜の微細なピンホールの発生のために防錆性が悪く、比較例5においては塗膜の密着性が悪いために防錆性が悪い、と考えられる。
【0068】
なお、実施例1〜3の相互の対比において、酸化チタンを50重量部含有する実施例1に比較して、酸化チタンを30重量部含有すると共にマイカを20重量部含有する実施例2の方が、塩水噴霧試験の結果が良好で、酸化チタンを30重量部含有すると共にマイカを10重量部、タルクを10重量部含有する実施例3は、塩水噴霧試験の結果が更に良好である。
【0069】
この点に関しては、評価の終了後に各実施例に係る試料の塗膜厚を再検査したところ、前記の実施例Bにおいて、アトマイザーによって一律に15μmと言う塗膜厚の設定を行ったにも関わらず、実際の塗膜厚が、実施例2では18μm、実施例3では20μmと、設定の塗膜厚よりも厚くなっていた。本願発明者は、上記した実施例1と、実施例2、3との塩水噴霧試験の結果の差異は、この塗膜厚の差異に起因すると考えている。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により、金属素地上に好ましく形成される被膜であって、専ら無機質の有効成分からなるために高い耐熱性を備えると共に、従来の無機質耐熱被膜には見られない緻密性と素地に対する密着性とを示し、従って防錆性にも優れた耐熱・耐食被膜形成用組成物と、これを用いた耐熱・耐食被膜とが提供される。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてケイ酸カリウムと微細な酸化チタンとを含有することを特徴とする耐熱・耐食被膜形成用水性組成物。
【請求項2】
前記ケイ酸カリウムが、二酸化ケイ素分と酸化カリウム分とのモル比( SiO/KO の重量比×1.568 )が2.0〜3.8の範囲内であるケイ酸カリウムの1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱・耐食被膜形成用水性組成物。
【請求項3】
前記ケイ酸カリウムにおける二酸化ケイ素分と酸化カリウム分とのモル比が2.7〜3.7の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の耐熱・耐食被膜形成用水性組成物。
【請求項4】
前記微細な酸化チタンが、平均粒子径が0.3μm以下のルチル型酸化チタンの1種以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の耐熱・耐食被膜形成用水性組成物。
【請求項5】
前記ケイ酸カリウム100重量部に対して、前記酸化チタン30〜60重量部、水10〜80重量部を含有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の耐熱・耐食被膜形成用水性組成物。
【請求項6】
前記耐熱・耐食被膜形成用水性組成物が、更に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、カオリン、マイカ、タルク、ゼオライト、セリサイト、クレー及びジルコニアからなる無機系充填剤群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の耐熱・耐食被膜形成用水性組成物。
【請求項7】
前記耐熱・耐食被膜形成用水性組成物が、更に、レベリング剤、分散剤及びカップリング剤から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の耐熱・耐食被膜形成用水性組成物。
【請求項8】
前記耐熱・耐食被膜形成用水性組成物が、更に、着色用の顔料を含有することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の耐熱・耐食被膜形成用水性組成物。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載の耐熱・耐食被膜形成用水性組成物を用いて形成されたことを特徴とする耐熱・耐食被膜。



【公開番号】特開2007−16112(P2007−16112A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198241(P2005−198241)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(591019782)スギムラ化学工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】