説明

耐熱分解性の熱可塑性セルロースエステル組成物および繊維

【課題】溶融時の粘度低下すなわち分子量低下を抑制し、さらには成形品の着色、成形性の改善された熱可塑性セルロースエステル組成物および繊維を提供する。
【解決手段】少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とし、マグネシウムを含有する無機化合物0.01〜1.5重量%を含んでなることを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維に関する。より詳しくは、セルロースエステルを主成分とし特定無機化合物を含んでなる耐熱分解性に優れた熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれを溶融紡糸して得られる繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステルはプラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されているが、リンター、パルプ等の天然物を原料としているため、加熱時の着色、分子量低下原因となる多くの不純物を含んでいる。その着色、分子量低下原因物質を除去するためリンター、パルプの精製時、またはセルロースエステル製造時に漂白、高温加熱、中和、濾過といった各種の処理が行われる。しかし、原料の純度・品質を制御することによって着色や分子量低下を解決するのは技術的・経済的に限界がある。
【0003】
セルロースエステルの安定性を向上させる目的で、セルロースエステルに亜リン酸エステルを添加することが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、セルロースエステルと既存の可塑剤と亜リン酸エステルの組み合わせでは溶融可能な流動性を与える成形条件においては、着色防止効果が十分得られなかったり、亜リン酸エステルによる溶融粘度低下や分子量低下の問題がある。
【0004】
また、二酢酸セルロース繊維からなるシガレットフィルター素材に含有する遊離酸を繊維に含有させたアルカリ金属や多価金属の有機酸若しくは無機酸の金属塩に接触させ、加水分解反応促進効果を抑制する技術が開示されている(例えば、特許文献2、3)。これらの方法は、二酢酸セルロース繊維などの溶媒を用いた製造方法には効果はあるが、本願発明のような加熱溶融成形では着色を完全に防ぐことができない問題がある。
【0005】
他方、生分解性発泡体成形物の製造方法に関してセルロース誘導体に発泡調整剤としてタルクを添加することが知られている(例えば、特許文献4参照)。ここで用いられるタルクは発泡調整剤として多量に添加されるものであり仮にこの組成物を繊維化しようとする場合、粒径が大きかったり添加量が多いため、タルク凝集物により繊維化が困難であったり気泡が欠点となったり、また繊維そのものが白濁してしまい品位が劣る問題がある。
【特許文献1】特開平10−306175号公報(第2頁)
【特許文献2】特開昭63−105665号公報(第2頁)
【特許文献3】特開平7−213270号公報(第2頁)
【特許文献4】特開平10−95870号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は上記の問題点を克服し、バイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性セルロースエステル組成物を溶融時の粘度低下すなわち分子量低下を抑制し、さらには成形品の着色を抑制しつつ、成形性の改善された熱可塑性セルロースエステル組成物および繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した本発明の課題は、少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とし、マグネシウムを含有する無機化合物0.01〜1.5重量%を含んでなることを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物によって解決が可能である。
【0008】
ここで、セルロースエステルの例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等があげられる。また、本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物に含有されるマグネシウムを含有する無機化合物がタルク、酸化マグネシウムであることが好適に採用できる。また、繊維の強度が0.5〜2cN/dtex、伸度が2〜50%、U%が2%以下であることも好適に採用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、溶融成形後においてもポリマーの粘度低下が少なくすなわち分子量低下を起こすことがないため成形品の強度低下を抑制することが可能となる。さらには成形品の着色、工程通過性に優れるため品位良好な繊維を提供することが可能となる。得られる組成物および繊維は、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品、衣料用繊維、産業用繊維、不織布などとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明におけるセルロースエステルは、セルロースエステルのアシル基の少なくとも一部が、炭素数3以上のものであることが重要である。炭素数が2であるアセチル基のみによって置換されたセルロースアセテートでは、それ自身の熱可塑性が不十分であるため、良好な熱流動性を有するためには成形温度を上げる必要がある。これに対し、例えば炭素数3のアシル基であるプロピオニル基を有するセルロースエステルを用いた場合には、良好な熱流動性を有するために低い成型温度を採用できるという大きな利点を有している。
【0011】
本発明の少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルの具体例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレートなどのセルロース混合エステルや、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースエステルが挙げられる。
【0012】
本発明の熱可塑性セルロースエステル繊維は、少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性セルロースエステル組成物よりなるが、この熱可塑性セルロースエステル組成物中のセルロースエステルの含有量は、70〜95重量%であることが好ましい。セルロースエステルの含有量を70重量%以上とすることによって、強度を受け持つセルロースエステルの比率が十分高くなり、繊維の機械的特性が向上する。熱可塑性セルロースエステル組成物中のセルロースエステルの含有量は、75重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることが最も好ましい。また、組成物の熱流動性を高めて溶融紡糸を可能にするという観点に加え、得られる繊維の柔軟性を高めるためには、熱可塑性セルロースエステル組成物中のセルロースエステルの比率は95重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、90重量%以下であり、最も好ましくは85重量%以下である。
【0013】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物は、マグネシウムを含有する無機化合物0.01〜1.5重量%とを含んでいることが重要である。マグネシウムを含有する無機化合物を含むことで溶融時の粘度低下を抑制し、さらには成形品の着色、分子量低下、成形性の改善された熱可塑性セルロースエステル組成物および繊維が得られる。マグネシウムを含有する無機化合物としてはタルク、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられるがこれに限定されない。中でもタルク、酸化マグネシウムは組成物を溶融成形する場合の着色を防止でき好ましい。熱可塑性セルロースエステル組成物中のマグネシウムを含有する無機化合物の含有量は0.01〜1.5重量%であることが好ましい。マグネシウムを含有する無機化合物の含有量を0.01重量%以上とすることによって分子量低下の抑制効果が発現する。より好ましくは0.02重量%以上であり、最も好ましくは0.03重量%以上である。また、組成物の着色、繊維化時の糸切れなどの点から1.5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、1.0重量%以下であり、最も好ましく0.5重量%以下である。
【0014】
本発明で用いられる熱可塑性セルロースエステル組成物は、可塑剤を少なくとも5〜30重量%含有することができる。5重量%以上の可塑剤を含有することで、組成物の熱流動性が良好となり、溶融紡糸時の生産性を向上することが可能となる。また、30重量%以下の可塑剤量とすることで、繊維表面への可塑剤のブリードアウトを抑制することができ、室温での膠着などのトラブルを回避することができる。熱可塑性セルロースエステル組成物の可塑剤含有量は、溶融紡糸時の生産性の観点から、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることが最も好ましい。また、ブリードアウトを抑制する観点からは、25重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることが最も好ましい。
【0015】
本発明において用いられる可塑剤は、本発明のセルロースエステルに混和するものであれば特に制限はなく用いることができる。例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなどのフタル酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、グリセリン混合エステルなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのリン酸エステル類などを挙げることができる。
【0016】
また高分子量の可塑剤として、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類などを挙げることができる。これらの高分子量可塑剤は共重合体であってもよいし、重合体の一部が修飾されているものであってもよい。
【0017】
さらには水溶性の可塑剤として、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、一般式(1)で示されるポリエーテル類などを挙げることができる。ここで水溶性とは、20〜100℃の温度の水にその10重量%以上が溶解可能であることをいう。
R1−O−{(CH2)nO}m−R2 ・・・(1)
(但し、R1とR2は、H、アルキル基およびアシル基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を表す。nは2〜5の整数、mは3〜30の整数。)。
【0018】
上記の一般式(1)で示されるポリエーテル化合物は、セルロースエステルとの相溶性が優れているため好適に採用することができる。具体的なポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体などを挙げることができる。
【0019】
本発明におけるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性セルロースエステル組成物は、必要に応じて、着色防止用の安定剤を含有することができる。着色防止剤は、ホスファイト化合物、ヒンダードフェノール化合物などを用いることができる。また、その他、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、抗菌剤、潤滑剤、艶消剤、生分解促進剤等の添加剤についても、これらを単独もしくは併用して含有することができる。可塑剤以外の添加剤の含有量については、熱可塑性セルロースエステル繊維の特性を損なわないため、組成物全体に対して0.5重量%以下であることが好ましく、0.2重量%以下であることが最も好ましい。
【0020】
本発明で用いられるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性セルロースエステル組成物は、250℃、1000sec−1における溶融粘度が50〜200Pa・secであることが好ましい。溶融紡糸の際には250℃、1000sec−1における溶融粘度が50Pa・sec以上であることで、口金背面圧が十分に得られるため、分配性が良好となり、繊度の均一性に優れた短繊維が得られるという利点を有している。一方、溶融粘度が200Pa・sec以下である場合には、紡出糸条の製糸性が良好であり、十分な配向が得られて力学特性の優れた繊維となる。繊維の優れた機械的特性の観点から、250℃、1000sec−1における溶融粘度は60〜180Pa・secであることが好ましく、80〜160Pa・secであることが最も好ましい。
【0021】
本発明で用いられるセルロースエステル、マグネシウムを含有する無機化合物、可塑剤、あるいは各種添加剤との混合に際しては、エクストルーダー、ニーダー、ロールミルおよびバンバリーミキサー等の通常使用されている公知の混合機を特に制限無く用いることができる。
【0022】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維は、少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性セルロースエステル組成物を、溶融紡糸することにより得ることができる。具体的には、少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性セルロースエステル組成物を、公知の溶融紡糸機を用いて加熱溶融した後、口金から紡出し、紡出糸を回転ローラーによって引き取ることができる。この際、紡糸温度は180℃〜280℃の範囲が好ましく、より好ましくは230℃〜270℃の範囲であり、最も好ましくは240〜260℃である。紡糸温度を180℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸における曳糸性が向上する。また、紡糸温度を280℃以下にすることにより、組成物の熱劣化が抑制され、繊維の着色が少なくなる。
【0023】
本発明の熱可塑性セルロースアエステル組成物からなる繊維の強度は、0.5〜2cN/dtexであることが好ましい。強度を0.5cN/dtex以上とすることで、製織や製編時など高次加工工程の通過性が良好であり、また最終製品の強力も不足することがないので好ましい。また、2cN/dtex以下では伸度が低下せず、毛羽立ちを抑えられ糸切れが少ないため好ましい。良好な強度特性の観点から、強度は0.7cN/dtex以上であることが好ましく、1.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。
【0024】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維の伸度は、2〜50%である。伸度が2%以上であることによって、製織や製編時などの高次加工工程における糸切れが少なくなるため好ましい。50%以下であることによって、低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどにより最終製品の染色欠点を生じることがないため好ましい。伸度は5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが最も好ましい。また、45%以下であることがより好ましく、40%以下であることが最も好ましい。
【0025】
また、本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維のU%は、2%以下であることが好ましい。U%が2%以下である場合には、繊度の均一性に優れた繊維が得られる。良好なU%としては1.5%以下が好ましく、最も好ましくは1%以下である。
【0026】
また、本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維の摩擦係数は、実施例に記載した方法にに従って測定した値として1.3以下であることが好ましい。摩擦係数が1.3以下である場合には、紡糸時や製織や製編時など高次加工工程において工程通過性に優れ、糸切れが多発することがない。良好な摩擦係数としては1.0以下が好ましく、最も好ましくは0.9以下である。
【0027】
繊維断面形状に関しては特に制限がなく、真円状の円形断面であっても良いし、また、多葉形、扁平形、楕円形、W字形、S字形、X字形、H字形、C字形、田字形、井桁形および中空などの異形断面糸でも良い。異形断面とすることによって光沢付与、吸水性付与などを図ることが出来る。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、溶融粘度、溶融粘度保持率、引張強度、引張伸度、摩擦係数、繊維色調、編み立て性については、下記の方法で測定、評価を行った。
【0029】
(1)溶融粘度
キャピラリーレオメーター(東洋精機(株)製キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度250℃にて、剪断速度1000sec−1における粘度を求め、溶融粘度とした。
【0030】
(2)溶融粘度保持率
キャピラリーレオメーター(東洋精機(株)製キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度250℃にて、得られたポリマーをバレル内に5分または30分貯留し、剪断速度1000sec−1における粘度を求め下記式により溶融粘度保持率を求めた。保持率90%以上を○、80〜89%を△、79%以下を×とした。その際、○および△を合格とした。 {1−(5分貯留時の粘度−30分貯留時の粘度)/5分貯留時の粘度}×100
(3)引張強度および引張伸度
オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20mm、引張速度20mm/minの条件で引張試験を行って、試料が切断した時の応力を繊維の引張強度(cN/dtex)とし、試料が切断した時の伸度を繊維の引張伸度(%)とした。
【0031】
(4)摩擦係数
走行速度2.5m/min、初期張力(T1)10gで鏡面クロムの円柱(40mmφ)状の摩擦抵抗体に接触角90℃で試料を走行させた時の走行張力(T2)を測定し、摩擦係数を下記式より算出した。
【0032】
摩擦係数=(T2−T1)/(T1+T2)
(5)繊維色調
得られた繊維をプレートに巻き、スガ試験器株式会社製SMカラーコンピューターでL、a、b値を測定し、黄色みを表すb値を色調として用いた。なお、プレートに巻いた繊維量は例えば繊度110dtexでは繊維180mを横幅6cmのプレートに縦幅4cmに巻き、プレート上の糸の厚みが平均して約2mmになるようにしたものを用いて測定を行った。また、カラーコンピューターの光の入射角は45度を用いた。
【0033】
(6)編み立て性
得られた繊維を用いて27ゲージの丸編みを作成し、編み立て性を評価した。問題なく丸編みができるものを○、丸編みができないものを×とした。なお、○は好ましく、×は問題がある。
【0034】
(合成例1)
セルロース(日本製紙ケミカル(株)製溶解パルプ)1.0kgに、酢酸5.0kgとプロピオン酸1.0kgを加え、50℃で30分間攪拌した。混合物を20℃まで冷却した後、無水酢酸0.7kg、無水プロピオン酸4.3kgおよび硫酸を0.10kg加えてエステル化反応を行った。120分間攪拌を行った後、酢酸3.3kgと水1.7kgの混合溶液を60分間かけて添加し、反応を停止させた。続いて40℃で12時間攪拌を継続し、加水分解処理を行った。
【0035】
その後、ドープに大過剰の水を添加して、セルロースアセテートプロピオネートを析出させた。析出した粉体は濾過した後、水洗、濾過を繰り返し、さらに0.02%の希硫酸中で50℃、1時間の処理を行い、水洗、濾過を行った。
【0036】
得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル置換度は0.2、プロピオニル置換度は2.4であった。
【0037】
(合成例2)
セルロース(日本製紙ケミカル(株)製溶解パルプ)1.0kgに、酢酸4.0kgとプロピオン酸2.0kgを加え、50℃で30分混合した。混合物を20℃まで冷却した後、無水酢酸2.0kg、無水プロピオン酸3.0kg、および硫酸を0.10kg加えてエステル化反応を行った。120分間攪拌を行った後、酢酸3.3kgと水1.7kgの混合溶液を60分間かけて添加し、反応を停止させた。続いて40℃で12時間攪拌を継続し、加水分解処理を行った。
【0038】
その後、ドープに大過剰の水を添加して、セルロースアセテートプロピオネートを析出させた。析出した粉体は濾過した後、水洗、濾過を繰り返し、さらに0.02%の希硫酸中で50℃、1時間の処理を行い、水洗、濾過を行った。
【0039】
得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基置換度は1.9、プロピオニル基置換度は0.7であった。
【0040】
実施例1〜8
合成例1により得られたセルロースアセテートプロピオネート90重量%と、可塑剤のポリエチレングリコール(三洋化成(株)製、PEG600)9重量%とタルク(日本タルク(株)製SG2000)1重量%を、30mmφニーダーを用いて混合し、熱可塑性組成物のペレットを得た。得られたペレットの250℃、1000sec−1における溶融融粘度は、83.4Pa・secであった。このペレットの溶融粘度保持率は92%と良好であった。
【0041】
続いてペレットを真空乾燥した後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、紡糸温度260℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。
【0042】
紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、油剤を付与して集束し、1200m/minで回転するゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取った。
【0043】
得られた繊維は、強度が1.4cN/dtex、伸度が24%、摩擦係数0.8であり、機械的特性、走行性に優れていた。また、繊維色調(b値)は3.8、U%は1.0%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。
【0044】
得られた繊維を用いて丸編みを作成し、編み立て性を評価したところ、問題なく編み物が得られた。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例2〜8
表1に示したポリマー(セルロースアセテートブチレートはイーストマンケミカル社製CAB−381−20を用いた)、可塑剤、マグネシウム化合物を用いたい以外は実施例1と同様にして熱可塑性セルロース繊維を得た。
【0047】
これら得られた繊維の評価結果を表1に示す。いずれの場合においても溶融粘度保持率、着色性、摩擦特性に優れていた。
【0048】
比較例1
セルロースジアセテート(ダイセル社製、アセチル置換度2.5)65重量%と、可塑剤としてポリエチレングリコール(分子量600)35重量%を用いた以外は、実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度及び溶融粘度保持率を測定した。溶融粘度は192.1Pa・secと高く、溶融粘度保持率も60%と低かった。得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸を試みたところ、溶融粘度が高すぎて流動性が悪く、紡出糸の細化が起こらず、安定して引き取ることができなかった。本組成物は繊維の色調、編み特性が非常に悪いものであった。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
比較例2、3
マグネシウム化合物を添加せず、酸化チタンを添加すること以外は、実施例1と同様にしてペレット、繊維を得た。マグネシウム化合物を用いない場合、溶融粘度保持率が悪化し色調、編み特性が不良になる。またマグネシウム化合物以外の物を用いた場合、編み特性は満足できるものの、溶融粘度保持率、色調が悪化した。
【0051】
比較例4
セルロースエステル、可塑剤の添加量を変更した以外は実施例1と同様の方法でペレット、繊維を得た。添加量が本願発明の範囲外の場合、溶融粘度が著しく低下するばかりか溶融粘度保持率、強度、U%も悪化し、編み立て性が不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とし、マグネシウムを含有する無機化合物0.01〜1.5重量%を含んでなることを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物。
【請求項2】
セルロースエステルが、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートから選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
【請求項3】
マグネシウムを含有する無機化合物がタルク、酸化マグネシウムのいずれか1種からなることを特徴とする請求項1〜2いずれか1項に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
【請求項4】
タルク、酸化マグネシウムの平均粒子径が0.1〜5μmであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる、強度が0.5〜2cN/dtex、伸度が2〜50%、U%が2%以下であることを特徴とする熱可塑性セルロースエステル繊維。

【公開番号】特開2006−152098(P2006−152098A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343544(P2004−343544)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】