説明

耐熱性を有する新規ゲル素材

【課題】仙草ゲルの良好な食味を有しながら、レトルト殺菌でも溶解しない耐熱性を有する新規ゲル素材、その製造法およびこれを含有する飲食品を提供すること。
【解決手段】仙草抽出物と、麦類の粉砕物の1種または1種以上の混合物を混合し、加熱後、冷却することにより、90℃以上の加熱でも溶解しない耐熱性の新規ゲル素材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仙草ゲルの良好な食味を有しながら、レトルト殺菌でも溶解しない耐熱性を有する新規ゲル素材、その製造法およびこれを含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
仙草は中国、台湾などに自生するシソ科メソナ属の植物で、Mesona procumbens Hemsl.あるいはMesona chinensis Benthの学名がある 。中国原産の一年草で、仙人草、涼粉草、薪草などの別名がある。中国医学では仙舅草の名で呼ばれ、乾燥した地上部の葉や茎を、暑気あたり、喉の渇き、熱毒などの効用を目的として使用される。また、仙草の葉や茎を煮つめると黒い透明な抽出液が得られ、該抽出液は薬効成分、多糖類などを含有している。該抽出液にタピオカでんぷん等を加え固めたものが仙草ゼリーである。仙草ゼリーは漢方薬のような独特な香気、香味を有するので、通常、黒みつやシロップ、レモン汁などをかけたり、ココナツクリームやアイスクリーム、フルーツなどとミックスして食べるのが一般的であり、香港、中国、台湾、シンガポールなどでは暑気あたり防止効果のあるデザートとして人気が高い。缶詰品もあり、日本にも輸入され中国食材を扱う店で売られている。
【0003】
ゼリーというと狭義にはゼラチンを原料とするゲル状素材または食品を指すので、ここでは仙草ゲルと呼ぶ。仙草ゲルの特徴は、澱粉ゲルでは得られない、ゼラチンを原料とするゼリーに近い食感を有することである。研究によれば、膨潤・変形したデンプン粒の表面を薄膜が覆っていることから、澱粉と仙草多糖類の間で特殊なゲルが形成されると考えられている。なお、仙草抽出液単独では弱いゲル形成能しか有さない。
【0004】
これまで仙草ゲルについていくつかの報告がある。その一つが、仙草多糖類の性質に関する報告(非特許文献1)であり、仙草を炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液とともに2〜3時間、沸騰させて抽出、濾過、希釈した液にデンプンを添加することにより仙草ゲルが得られること、pH8〜10の場合にゲル強度が高くなること、酸性ではゲルを生成しないこと、UHT殺菌でもゲル強度に大きな変化がないこと、仙草抽出液を脱色して噴霧乾燥することにより、淡黄色の仙草ゲルのガムパウダーが得られ、食品の用途範囲が拡がることを挙げている。また、その際、使用するデンプンとして、キャッサバ、トウモロコシ、緑豆(mung bean)、えんどう豆(pea)、馬鈴薯およびこれらのワキシータイプ、さらには、これらを化学修飾した化工デンプンを挙げている。また、別の報告(非特許文献2)では、仙草の葉100gを2Lセパラブルフラスコにとり、全体が浸るまで0.12N炭酸水素ナトリウムを加え、80℃、4時間の抽出を行い、ガーゼ濾過、ろ紙ろ過後、減圧濃縮し、エタノールを70%まで添加して、生じた沈殿を遠心分離後、アセトンにより脱水乾燥することにより粗抽出物を調製し、該粗抽出物の水溶液とタピオカデンプン、または、馬鈴薯デンプンを混合溶解し、仙草ゲルを得るとともに、該ゲルを粘弾性へのデンプン量、pHの影響を調べている。また、別の報告(非特許文献3)では非特許文献2と同じ仙草ゲルの調製法について、ゲル弾性率の10〜50℃の範囲での温度依存性について調べ、30〜50℃の範囲でゲル弾性率が上昇し、50℃で最大であることを示している。また、別の提案(非特許文献4)では、非特許文献2の仙草ゲルの調製法において粗抽出物を蒸留水に溶解し、限外濾過(Q2000 076E東洋濾紙)により分画した溶液は、そうでない場合に比べて弾性率が約10倍に増加したという報告がある。しかしながら、120℃で4分以上相当の加圧加熱殺菌、いわゆる、レトルト殺菌でも溶解しない耐熱性ゲルに関する提案はなかった。
【0005】
また、仙草に関する特許出願は、皮膚老化防止剤、シクロオキシゲナーゼ活性阻害剤、天然抗酸化剤および活性酸素消去剤など(特許文献1〜3)があるが、仙草ゲルに関する提案、ましてや、レトルト殺菌でも溶解しない耐熱性ゲルに関する提案はなかった。
【0006】
そこで、仙草ゲルが有する良好な食味を有しながら、従来の伝統的な食べ方以外の飲食の可能性を拡げる目的で、仙草ゲルの性質改良、特にレトルト殺菌でも溶解しない耐熱性ゲル、および、その製造法の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−179581号公報
【特許文献2】特開2007−326830号公報
【特許文献3】特開平8−3551号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Characteristics and Applications of Hsian−tsao(Mesona procumbens Hemsl.)Polysaccharides:Foods & Food Ingredients J. of Japan,No.181,p76〜81(1999)
【非特許文献2】仙草水抽出物を加えたデンプン糊のゲル化現象:日本食品科学工学会誌、Vol.47、No.7、509〜515(2000)
【非特許文献3】仙草水抽出物とデンプンとのゲルの弾性率の温度依存性:日本食品科学工学会誌、Vol.48、No.3、176〜181(2001)
【非特許文献4】仙草ゲル物性評価:日本食品科学工学会誌、Vol.54、No.5、205〜208(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、仙草ゲルの良好な食味を有しながら、レトルト殺菌でも溶解しない耐熱性を有する新規ゲル素材、その製造法およびこれを含有する飲食品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、当初、非特許文献1〜4を参考に、仙草抽出液とタピオカデンプンをはじめ種々のデンプンの組み合わせとその比率、pH、陽イオンの影響などを種々検討した。ところが、仙草をアルカリ抽出して得られる仙草抽出物とデンプンを混合し、加熱して仙草ゲルを調製したところ、原因はわからないが、ゲルが生成しなかったり、生成しても市販の仙草ゼリーと呼ばれる仙草ゲルに比べ、著しくゲル強度が低いものしか得られなかった。
【0011】
そこで、デンプンの代わりに、組成も性質も異なり、これまで使用されたことのない原料である、小麦粉、大麦粉、エン麦粉およびライ麦粉を使用してゲルを調製したところ、仙草ゲルの良好な風味を残しながらも、仙草ゲルとは全く異なる硬さ、テクスチャーを有する全く新しいゲル素材が得られるとともに、仙草ゲルの調製と異なり、調製は容易かつ安定していることが判明した。さらに、該ゲル素材は、ゲル化後は90℃以上の加熱を行ってもゲルが溶解することはなく、さらには、120℃で4分以上相当の加圧加熱殺菌、いわゆる、レトルト殺菌でも溶解せず安定であるという、ゼラチンや他の増粘剤を用いた従来のゲルには見られない、非常に優れた特性を持つことを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
かくして、本発明は、仙草抽出物と、麦類の粉砕物を混合し、加熱後、冷却して得られる新規ゲル素材を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、麦類の粉砕物が小麦粉、大麦粉、エン麦粉およびライ麦粉から選ばれる1種または2種以上の混合物である前記の新規ゲル素材を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、得られる新規ゲル素材が90℃以上の加熱でも溶解しない前記の新規ゲル素材を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、前記の新規ゲル素材を含有する飲食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、これまで、黒みつやシロップ、レモン汁などをかけたり、ココナツクリームやアイスクリーム、フルーツなどとミックスして食べるしか用途がなかった仙草ゲルに対して、全く異なる硬さとテクスチャーを有し、さらに、121℃、10分でも溶解しない、従来のゼラチンゲル、澱粉ゲルにはない高い耐熱性を有する新規ゲル素材を提供することができる。該ゲル素材は、通常の食品に添加して噛み応えのあるゼリー様のゲル素材として使用することのほか、いわゆるレトルト殺菌が必要な飲料、食品に使用した場合でも、その高い耐熱性により加熱殺菌前に添加したゲル素材の形態が加熱殺菌後も保持されるため、飲食品の商品価値、嗜好性を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0018】
本発明の方法において使用しうる仙草は、シソ科メソナ属の植物である、Mesona procumbens Hemsl.、Mesona chinensis Benthおよびそれらの亜種であればよい。使用する部位は葉、茎、根など全草であり、生あるいは乾燥したものを使用できるが、一般的には抽出が容易な乾燥仙草を用いることが多い。
【0019】
仙草から仙草抽出液を得る方法は、生または乾燥仙草1質量部に対して、例えば、2〜8%炭酸水素ナトリウム溶液または炭酸ナトリウム溶液などのアルカリ溶液3〜20質量部添加し、60〜90℃、2〜5時間程度の抽出を行う。単に水抽出あるいは酸性溶液で抽出して得られる仙草抽出液も使用することができるが、アルカリ溶液で抽出する方が、有効成分の抽出効率が高く、得られる仙草ゲルの強度も高い。抽出液は晒し布、サラン、ガーゼなどで濾過した後に、セルロース系または珪藻土などの濾過助剤を用いた濾過を行い、仙草抽出液を得る。必要ならば、遠心分離、限外濾過などの方法により、さらに微細な不溶成分を除去することにより、麦類粉砕物と仙草ゲルで生成する仙草ゲルの粘弾性が高くなる。あるいは、上記の仙草抽出物または該抽出物を遠心分離、限外濾過などの方法で処理した抽出液を濃縮し、該濃縮液に対して30〜90重量%程度のアルコール濃度となるようにエチルアルコールを添加して沈殿させ、沈殿物を分離除去して得られる仙草水溶液を用いることもできる。また、市販の仙草パウダーをアルカリ水溶液に溶解したものを用いても良い。
【0020】
また、仙草抽出液を常法にしたがって脱色することにより、無色〜淡黄色の仙草ゲルを調整することもできる。例えば、仙草抽出液に活性炭を添加して濾過することにより、脱色を行なう方法、多孔性吸着樹脂のカラムに仙草抽出液を通過させて脱色する方法などを挙げることができる。また、仙草抽出液の脱臭は、通常の方法を用いて行うことが出来る。例えば、水蒸気蒸留、多孔性合成樹脂あるいは活性炭などによる吸着を採用することができる。また、仙草抽出液をそのまま、ゲル素材の製造に用いることもあるが、保存のためには仙抽出液をそのままあるいは賦形剤等を添加して、噴霧乾燥などにより粉末とすることもできる。さらに、仙草由来の独特な香気、香味を残すか、除去するかは目的とする商品設計により、仙草由来の独特な香気、香味を生かす場合には除去は行なわない。
【0021】
次に仙草抽出液と混合・溶解し、ゲル素材を得るための麦類の粉砕物としては、小麦、大麦、エン麦、ライ麦などのイネ科植物およびこれらの原種から選ばれる1種以上の粉砕物を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。一般には、市販の小麦粉、大麦粉、エン麦粉、ライ麦粉を使用すればよい。その粉砕の程度、すなわち粒度は市販であれば10〜150μm程度のものが入手可能であり、粒度は細かいほどゲル素材の調製には好ましい。
【0022】
仙草抽出液と麦類の粉砕物の混合割合は固形分換算(麦類/仙草の質量%)で0.1〜4.0の範囲、好ましくは、0.2〜2.0の範囲、更に好ましくは、0.5〜1.0の範囲を挙げることができる。
【0023】
仙草抽出液および麦類の粉砕物からゲル素材を得る方法は、例えば、仙草抽出液に小麦粉を加え、70〜95℃、5〜30分程度の加熱を行なった後、30℃以下に冷却、約1晩冷蔵することにより行なう。
【0024】
上記の方法で得られるゲル素材はきわめて高い耐熱性を有する。ゲル化後は90℃以上の加熱に対してもゲルが溶解せず、これは食品として飲食に供されるゲルとしては最も高い耐熱性を有するといえる。食品衛生法では、缶、びん、レトルトパウチ、プラスチック容器などに密封して、120℃で4分以上相当の加圧加熱殺菌した食品を「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」、いわゆるレトルト食品に分類にしている。調理済み食品としての利便性もあるが、一般に最も高い耐熱性菌であるとされるボツリヌス菌を死滅させることができる殺菌条件である。したがって、食品の加熱殺菌としてはもっとも高い耐熱性が要求される。本発明の仙草ゲルは120℃で4分以上相当の加圧加熱殺菌に対してもゲルが溶解せず安定であるという優れた特徴を有する。
【0025】
すなわち、本発明のゲル素材の持つ高い耐熱性により、通常の食品の殺菌条件では溶解することはなく、元の形状を保つことは極めて有用な性質であり、これを利用した種々の商品設計が可能となる。とりわけ、他のゲル素材と併用する場合には、殺菌した本発明のゲル素材を併用するゲル素材のゲル化前に添加すればよく、併用するゲル素材のゲル化温度と添加するゲル素材のゲル化温度を気にすることなく、使用することができる点は優れた長所といえる。
【0026】
本発明のゲル素材のゲルの硬さの指標としては破断強度を測定し、その値を硬さの指標として用いることができる。本発明では、クリープメータRE2−33005S(株式会社山電製)を用いた。同装置はプランジャーと呼ばれる部品を有し、その先端部分で食品試料を一定速度で押し潰し、その荷重と荷重に対する歪率を測定する圧縮破断試験を行う装置であるが、同様の測定ができるならばどんな装置でも良い。破断強度は、ゲルが壊れる(破断)時の荷重であり、一般的に硬さの一つの指標とされる。本発明のゲル素材の破断強度(以下、ゲル強度とも呼ぶ)は目的とする商品設計によるが、おおよそは80gf〜400gf程度、特に100gf〜300gfの範囲内の破断強度を有するものはのど越し感が良好である
本発明の仙草ゲル含有組成物は、それ自身単独で飲食物とすることもできるが、これらを各種の飲食品、例えば、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、果実飲料、果汁入り飲料、炭酸飲料、スポーツドリンク、乳飲料などの各種飲料;ヨーグルト、アイスクリーム、プディング、ゼリー、ケーキ、チョコレート、キャンディー、スープ、ドレッシング、健康食品などの各種食品に添加することにより、噛み応えのあるゼリー様のゲル素材として使用することができる。
【0027】
レトルト殺菌が必要な飲料に、従来、ゼラチンなどのゲルを添加する場合には、加熱殺菌により溶融し、固まる性質のため、飲用時に良く振って飲食を行なう必要があった。したがって、壊れた流動性のあるゲルを飲み食感を味わう場合には良いが、元々あった形態を飲用時に楽しむことはできず、また、振って壊れない程度の硬さとした場合には飲料缶の底に付着したままとなり、ゲルの食感を楽しむこともできないという欠点があった。これに対して、本発明のゲル素材は加熱殺菌の前後でその形態の変化はなく、所望の硬度、大きさ、形態を採用することが可能なため、商品設計の多様性が格段に向上する。
【0028】
飲料以外の食品に使用する場合でも、所望の硬度、大きさ、形態を採用することができる点は本発明のゲル素材の特徴であるが、特に、ゲル基材中にさらにゲル素材を添加使用する場合には、これまでゲル基材とゲル素材の溶解、殺菌温度と固化温度を考慮し、個別に複雑な殺菌を行い、添加する必要があったのに対して、本発明のゲル素材はゲル基材の溶解、殺菌、固化のどの段階でも添加することができるので食品製造が極めて容易となり、商品開発の可能性も格段にアップする。また、その際、ゲル素材を、例えば、星型、動物型、文字型など形態を代え、あるいは、その色彩を食品基剤とは異なる1種以上の色で着色すれば、子供や女性への訴求効果はさらに大きくなり、有用である。
【0029】
ゲル素材を単独で飲食物とする場合を別として、飲食物への配合量は、特に限定はなく、目的とする飲食物によって異なるが、例えば、飲食物の全体重量に対して0.5〜90質量%の範囲、好ましくは5〜20質量%の範囲を例示することができる。
【0030】
本発明のゲル素材には、必要に応じて、コーヒー、茶抽出物(緑茶、紅茶、ウーロン茶など)などの天然抽出物、香料、色素、酸化防止剤、ビタミン、その他の添加物などを含有させることができる。また、種々の調味料、例えば、天然系調味料、旨み調味料などを含有させることもできる。特に、コーヒー、茶抽出物(緑茶、紅茶、ウーロン茶など)、または、これらを含有する香料をゲル素材と共に、少量使用することにより、仙草由来の独特な香気、香味を打ち消すことができる。これらの添加量を多くした場合には、相性も良く、好ましいコーヒー、茶類の香気、香味を付与することができるので好適である。
【0031】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、これらに限定されるわけではない。
【実施例】
【0032】
[実施例1]仙草抽出液の調製
20L容ステンレス製ベッセルに乾燥仙草1kgおよび5%炭酸水素ナトリウム10kgを添加し、90〜95℃、3時間の加熱撹拌抽出を行う。抽出後、晒し布を用いて濾過を行い、抽出液5800gを得た。該抽出液をさらにセルロース繊維濾過助剤ダイヤフロック((株)東京今野商店)および濾紙No.26(東洋濾紙(株))を用い、濾過を行い、抽出液5460g(発明品1、pH6.5、Bx.3.0)を得た。
【0033】
[実施例2]小麦粉を使用したゲルの調製
実施例1で得られた発明品1の500gに小麦粉(昭和産業株式会社製)5gを添加、混合し、88〜92℃、15分間の加熱攪拌、溶解を行なった後、水冷により30℃まで冷却した。得られた液を5℃、一晩静置し、仙草ゲル501gを得た。凝固した仙草ゲルをダイサーにより一片が15mmにカットし、ゲル重量の1/2量のシロップ(15%上白糖水溶液)とともに缶詰に充填し、真空巻き締め、殺菌、冷却を行い仙草ゲル缶詰を製造した。(発明品2、ゲル強度119gf)。
【0034】
[実施例3]大麦粉を使用したゲルの調製
実施例2の小麦粉5gに代えて大麦粉(阿部精麦株式会社製)5gを使用する以外は、実施例2の方法により、仙草ゲル499gを得た。凝固した仙草ゲルをダイサーにより一片が15mmにカットし、ゲル重量の1/2量のシロップ(15%上白糖水溶液)とともに缶詰に充填し、真空巻き締め、殺菌、冷却を行い仙草ゲル缶詰を製造した(発明品3、ゲル強度186gf)。
【0035】
[実施例4]エン麦粉を使用したゲルの調製
実施例2の小麦粉5gに代えてエン麦粉(Arrowhead Mills社製)5gを使用する以外は、実施例2の方法により、仙草ゲル502gを得た。凝固した仙草ゲルをダイサーにより一片が15mmにカットし、ゲル重量の1/2量のシロップ(15%上白糖水溶液)とともに缶詰に充填し、真空巻き締め、殺菌、冷却を行い仙草ゲル缶詰を製造した(発明品4、ゲル強度248gf)。
【0036】
[実施例5]ライ麦粉を使用したゲルの調製
実施例2の小麦粉5gに代えてライ麦粉(Arrowhead Mills社製)5gを使用する以外は、実施例2の方法により、仙草ゲル502gを得た。凝固した仙草ゲルをダイサーにより一片が15mmにカットし、ゲル重量の1/2量のシロップ(15%上白糖水溶液)とともに缶詰に充填し、真空巻き締め、殺菌、冷却を行い仙草ゲル缶詰を製造した(発明品5、ゲル強度177gf)。
【0037】
[比較例1]タピオカデンプンを使用したゲルの調製)
実施例2の小麦粉5gに代えてタピオカデンプン(松谷化学株式会社製)5gを使用する以外は、実施例2の方法により、仙草ゲル501gを得た。凝固した仙草ゲルをダイサーにより一片が15mmにカットし、ゲル重量の1/2量のシロップ(15%上白糖水溶液)とともに缶詰に充填し、真空巻き締め、殺菌、冷却を行い仙草ゲル缶詰を製造した(比較品1、ゲル強度37gf)。
【0038】
[実施例6]コーヒー風味仙草プレザーブの調製
実施例2〜5および比較例1で得られた発明品2〜5および比較品1の仙草ゼリー缶詰のゼリー600g、水264g、上白糖100g、コーヒーエキス(Bx.60°、長谷川香料社製)30g、クエン酸2g、コーヒーフレーバー(長谷川香料社製)3g、増粘多糖類1gを混合し、95℃、10分間加熱後、蓋付きガラス瓶にホットパックし、封印後、冷却した(発明品6〜9、比較品2)。
【0039】
[実施例7]コーヒー飲料への添加試験
市販の2リットルペットボトル入りコーヒー飲料および発明品6〜9および比較品2のコーヒー風味仙草プレザーブを用意し、185gスチール缶にプレザーブ10gを入れ、コーヒー飲料を缶口の到達するまで充填し、90℃まで加熱した後、巻き締めを行ない、121℃、10分のレトルト殺菌を行なった。殺菌後、20以下まで冷却を行い、15℃で1晩冷蔵した(発明品10〜13、比較品3)。
【0040】
官能評価および状態観察
1晩冷蔵した発明品10〜13および比較品3を開缶し、中身をガラス容器に取り出したゲル入りコーヒー飲料を10名の良く訓練された専門家により官能評価、状態観察ゲル強度の測定を行った。また、その際、市販のゼリー入りコーヒー飲料(参考品1、ゼラチンゼリー、缶入り)も比較として評価した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1において、評点1は、ゼリーの食感、のどごしなどの官能評価の評点を10名の専門家が最高評価を10として採点した結果である。また、評点2は元の形状の保持状態を10名の専門家が最高評価を10として採点した結果である。また、評点1および評点2の合計が評点合計である。
【0043】
発明品10〜13は、評点1が7〜10、評点2は全て10であり、評点合計は17〜20と高かった。すなわち、121℃、10分のレトルト殺菌を行ない、冷却、15℃で1晩冷蔵した発明品10〜13は全て、元の形状であるダイス形を良く保っており、ゲル強度121〜240gfと硬いゲルを維持していた。また、その食感はプリプリ〜つるつるとした食感であり、のどごし良好との評価であった。とりわけ、エン麦粉を使用した発明品10は、評点1、評点2ともに10であり、食感、形状共に非常に良好であり、レトルト殺菌を行ってもゲルが溶解することがなく、噛み応えがあり、のどごし感が良好であるといった食感、形状が良好な新しいゲル素材として最も期待されるものである。
【0044】
一方、タピオカデンプンを使用した比較品3は非常に柔らかく、もろいため、形状が崩れてダイス形が保持できなかった。したがって、食感、のどごしが悪く、ゲル素材としては劣ることが確認された。さらに、参考品1は実際に市販されているゼリー入りコーヒー飲料(ゼラチンゼリー、缶入り)であるが、飲食時に良く振って、底部に固化したゼラチンゲルを破壊することにより、コーヒー缶中のコーヒー飲料と流動性のあるゼラチンゲルの食感を楽しむタイプの飲食品であって、噛み応えがあり、のどごし感が良好であるといった食感、形状が良好な新しいゲル素材入りとは全く異なるものであった。
【0045】
[実施例8]脱色仙草抽出液の調製
実施例1で得られた発明品1の黒褐色の仙草抽出液1000gを市販合成多孔性吸着剤SP207(三菱化学社製)200mlを充填したカラムに通液し(SV=5)、極めて薄い茶色の脱色仙草抽出液1010g(発明品14)を得た。
【0046】
[実施例9]着色ゲルの調製
実施例8で得られた発明品14の500gにエン麦粉(Arrowhead Mills社製)5gを添加後、紫サツマイモ色素(長谷川香料社製)1gを添加、混合し、88〜92℃、15分間の加熱攪拌、溶解を行なった後、水冷により30℃まで冷却した。得られた液を5℃、一晩静置し、赤紫色に着色したゲル501gを得た。凝固した仙草ゲルをダイサーにより一片が15mmにカットし、ゲル重量の1/2量のシロップ(15%上白糖水溶液)とともに缶詰に充填し、真空巻き締め、殺菌、冷却を行い着色仙草ゲル缶詰を製造した(発明品15、ゲル強度240gf)。
【0047】
[実施例10]着色ゲル入りブルーベリー飲料の調製
実施例9で得られた発明品15の着色仙草ゲル缶詰を開缶し、シロップ部分を除いて得られる着色仙草ゲル10gを185gスチール缶に入れ、Bx.10°まで希釈したブルーベリー濃縮果汁(Bx.65°、Ybbstaler社製)溶液を缶口の到達するまで充填し、90℃まで加熱した後、巻き締めを行ない、98℃、10分の加熱殺菌を行なった。殺菌後、20以下まで冷却を行い、15℃で1晩冷蔵し、着色ゲル入りブルーベリー飲料を調製した(発明品16)。
【0048】
官能評価および外観観察
発明品16の官能評価および外観観察の結果を表2に示した。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例10で得られた発明品16の着色ゲル入りブルーベリー飲料をガラス製グラスに取り出して外観観察を行ったところ、ゼリーの崩れが全く見られず、形状が極めて良く保持されていた。また、ブルーベリー果汁中に赤紫色に着色した透明なゲルの入ったブルーベリー飲料は商品としての訴求力があり、印象が強くなった。また、10名のパネラー全員が噛み答えがあり、のどごしはつるつるして良好な食感であり、飲食後に満足感が得られたという評価を与え、従来のゲル入り飲料とは全く異なる商品として好ましいと判定した。
【0051】
[実施例11]星型、月型、円形ゲルの調製
実施例8で得られた発明品14の500gにエン麦粉(Arrowhead Mills社製)5gを添加後、紫サツマイモ色素(長谷川香料社製)1gを添加、混合し、88〜92℃、15分間の加熱攪拌、溶解を行なった後、15 mmの深さのバットに移し、5℃、一晩静置し、仙草ゲルシート501gを得た。凝固した仙草ゲルシートを星型、月型、円形の抜き型を使用し、型抜きを行い、星型、月型、円形のゲル(長さ約15mm)を作成した。この型抜きゲルをゲル重量の1/2量のシロップ(15%上白糖水溶液)とともに缶詰に充填し、真空巻き締め、殺菌、冷却を行い着色仙草ゲル缶詰を製造した(発明品17、ゲル強度231gf)。
【0052】
[実施例12]星型、月型、円形ゲル入りプレザーブの調製
実施例11で得られた発明品17の着色仙草ゲル缶詰600g、水285g、上白糖100g、ブルーベリー果汁(Bx.65°、Ybbstaler社製)10g、クエン酸2g、ブルーベリーフレーバー(長谷川香料社製)2g、増粘多糖類としてグアガム1gを混合し、95℃、10分間加熱後、蓋付きガラス瓶にホットパックし、封印後、冷却し、星型、月型、円形ゲル入りプレザーブを調製した(発明品18)。
【0053】
[実施例13]星型、月型、円形ゲル入りヨーグルトの調製
実施例12で得られた発明品18の星型、月型、円形ゲル入りプレザーブ15gを市販のプレーンヨーグルト185gと混合し、星型、月型、円形ゲル入りヨーグルトを調製した(発明品19)。
【0054】
官能評価および外観観察
発明品18および発明品19の官能評価および外観観察の結果を表3に示した。
【0055】
【表3】

【0056】
実施例12で得られた発明品18の星型、月型、円形ゲル入りプレザーブを、冷却後、ガラス瓶から取り出し、星型、月型、円形ゲルの形状、食感を確認した。形状に全く変化はなく、食感も噛み応えがあり、のどごしはつるつるして良好で飲食後の満足感があるプレザーブであり、星型、月型、円形ゲルは噛んだときの単調さがなく、新感覚の食感であると判定された。また、ブルーベリー果汁を含むプレザーブ中に赤紫色の透明ゲルが入ることにより、高級感が出て、印象が強くなった。
【0057】
また、発明品18の星型、月型、円形ゲル入りプレザーブを添加した実施例13の星型、月型、円形ゲル入りヨーグルト(発明品19)は、星型、月型、円形ゲルの形状は極めて良好に保持されており、ゲル周辺に色にじみがほとんど見られなかった。発明品19のプレザーブ中のゲルと比較しても形状、食感に変化は見られず、10名のパネラー全員が食感も噛み応えがあり、のどごしはつるつるして良好であり、従来にはないタイプのゲル素材として好ましいと判定した。また、プレーンヨーグルト中に赤紫色の透明なゲルが入ることにより濃厚感、リッチ感、清涼感、高級感が出て、印象が強くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仙草抽出物と、麦類の粉砕物を混合し、加熱後、冷却して得られることを特徴とする新規ゲル素材。
【請求項2】
麦類の粉砕物が小麦粉、大麦粉、エン麦粉およびライ麦粉から選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の新規ゲル素材。
【請求項3】
得られる新規ゲル素材が90℃以上の加熱でも溶解しないことを特徴とする請求項1または2に記載の新規ゲル素材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の新規ゲル素材を含有することを特徴とする飲食品。

【公開番号】特開2012−5362(P2012−5362A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141586(P2010−141586)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】