説明

耐熱性発泡体

【課題】本発明は、実質的に臭気を感じさせないポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂の発泡シート及びその成型加工品を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ポリスチレン系樹脂50〜90重量部及びポリフェニレンエーテル系樹脂50〜10重量部からなる基材樹脂100重量部に対して、予めポリスチレン系樹脂及び/又はポリフェニレンエーテル系樹脂に疎水性ゼオライトを10〜40重量%練り込んだマスターペレット1〜10重量部及び揮発性発泡剤を3重量%以下含有させた耐熱性発泡体及びその成形加工品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂からなる耐熱性発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の発泡体(シート等)は、軽量で、断熱性、遮音性、衝撃吸収性に優れた材料である。鮮魚保存用ケース、食品用トレー及びカップ等の容器、断熱ボード等に広く用いられている。特に、ポリスチレン系樹脂の発泡体が汎用されている。
しかしながら、ポリスチレン系樹脂の発泡体は、耐熱性が乏しいという本質的な欠点がある。近年、即席麺や弁当等の容器は、電子レンジ等による加熱に耐えられるよう容器内部に耐熱性を持たせるため、耐熱性フィルムでラミネート処理するものが増加しつつある。しかしながら、このような処理を施すことは、必然的に、工程が増加することによるコスト高を避けられない。
【0003】
この欠点を解決するため、ポリスチレン系樹脂に耐熱性のある樹脂を混合して、得られる発泡体の改質を図ろうとする試みが種々なされてきている。ポリスチレン系樹脂と混合する樹脂との相溶性、混合樹脂の粘弾性的流動特性、樹脂膜に対する発泡剤の透過特性等を考慮して、ポリスチレン系樹脂と混合する樹脂として、ポリフェニレンエーテル系樹脂が古くから注目されてきた(特許文献1、2、3、4)。
【0004】
これらの従来技術によりポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂の発泡シートを作成し、この発泡シートを容器に成形加工してみると、このような改良技術が汎用されていない理由が明確になる。すなわち、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂から製造される発泡シート及びその成形加工品は、その製造工程及びシート・容器自体に、堪えがたい臭気が発生するのである。このことは、製造環境としても重大な問題であり、さらに、食品容器材料としては、致命的な欠陥となるものである。
【特許文献1】特開昭52−101267号公報
【特許文献2】特開昭52−101268号公報
【特許文献3】特開昭64−067324号公報
【特許文献4】特開平03−157432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、実質的に臭気を感じさせないポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂の発泡シート及びその成型加工品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂を原材料とする発泡シート及びその成型加工品に実質的に臭気を感じさせない処方について鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、ポリスチレン系樹脂の長所を維持しながら、軟化温度をポリスチレン系樹脂よりも10℃以上も向上させるとともに、実質的に臭気を感じさせない組成物を見出し、本発明を完成するに到ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は、ポリスチレン系樹脂50〜90重量部及びポリフェニレンエーテル系樹脂50〜10重量部からなる基材樹脂100重量部に対して、予めポリスチレン系樹脂及び/又はポリフェニレンエーテル系樹脂に疎水性ゼオライトを10〜40重量%練り込んだマスターペレット1〜10重量部及び揮発性発泡剤を3重量%以下含有させた耐熱性発泡体及びその成形加工品である。
疎水性ゼオライトは、構造的には、AlOとSiOの四面体が互いに酸素イオンを共有しながら連結して、骨格が無限に広がった複雑で、結晶性の無機高分子である。そしてゼオライトのシリカ/アルミナ比が高いほど疎水性が高い。Y型ゼオライトをスチーム処理によりアルミを除去して疎水性のY型ゼオライトを得ることができる。
また、本発明の耐熱性発泡体は、例えばプレス加工することにより種々の容器に成形加工することができ、臭気は実質的に生じないから、特に食品用容器向けに好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂の耐熱性発泡体及びその成型加工品は、その製造工程及び得られる成型加工品には、実質的に臭気を感じさせないとともに、その成形品は、ポリスチレン系樹脂の軟化点よりも10℃以上も高いから、特にラミネート処理を施さずに、熱湯を注いでも変形しない即席麺の容器や電子レンジで加熱しても変形しない容器として汎用できる。さらに、本発明の成型加工品は、低温における耐衝撃性にも優れており、冷凍食品分野の用途を大きく広げることができる。
また、場合により、本発明に係る成形加工品にラミネート処理することも本発明の範囲内の事項である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の耐熱性発泡体(シート等)は、ポリスチレン系樹脂50〜90重量部及びポリフェニレンエーテル系樹脂50〜10重量部からなる基材樹脂100重量部に対して、予めポリスチレン系樹脂及び/又はポリフェニレンエーテル系樹脂に疎水性ゼオライトを10〜40重量%練り込んだマスターペレット1〜10重量部及び揮発性発泡剤を3重量%以下含有させた耐熱性発泡体である。
【0010】
本発明に使用されるポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン、スチレンとα−メチルスチレンとの共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・アクリロニトリル共重合体などが挙げられる。
【0011】
本発明に使用されるポリフェニレンエーテル系樹脂は、次の一般式で表される。
【0012】
【化1】

【0013】
ここでR及びRは、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、nは重合度を表す正の整数である。
例示すれば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジクロルフェニレン−1,4−エーテル)等である。重合度nは、通常10〜5000の範囲内にある。
【0014】
本発明においては、基材樹脂として、ポリスチレン系樹脂50〜90重量部及びポリフェニレンエーテル系樹脂50〜10重量部が用いられる。
通常、ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度は、102℃であるが、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂の配合比率を変えることにより、ビカット軟化温度を110〜125℃の範囲に変更することができる。
【0015】
本発明において、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂からなる基材樹脂に対して、予めポリスチレン系樹脂及び/又はポリフェニレンエーテル系樹脂に疎水性ゼオライトを10〜40重量%練り込んだマスターペレット1〜10重量部並びに揮発性発泡剤を3重量%以下含有させる。
本発明において、予めポリスチレン系樹脂及び/又はポリフェニレンエーテル系樹脂に疎水性ゼオライトを10〜40重量%練り込んだマスターペレットを用いることは必須である。ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂からなる基材樹脂に直接疎水性ゼオライトを添加しても、本発明の効果を得ることはできない。
【0016】
ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂からなる基材樹脂並びに疎水性ゼオライトを含むマスターペレットに揮発性発泡剤を混合して所望の発泡倍率の耐熱性発泡体は、次のようにして製造される。
発泡剤としては炭素数3〜5の飽和脂肪族炭化水素、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、イソブタン、ネオペンタン等を使用する。好ましくは、プロパン、ブタンが使用される。基材樹脂100重量部に対して、1〜5重量部、好ましくは1〜3重量部である。
【0017】
ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂からなる基材樹脂並びに疎水性ゼオライトを含むマスターペレットに発泡剤を加えて、発泡を抑えながら十分に混練し、サーキュラ金型から円筒状に押し出して、発泡させて円筒状発泡体を得、ついで、この円筒状発泡体を切断し、展開してその後発泡体中に発泡剤が1〜3重量%含有されている状態でさらに発泡体を常温で熟成する。
基材樹脂及びマスターペレットに発泡剤を混合するには、押出機中で基材樹脂及びマスターペレットを加熱下に十分混練した後、これに発泡剤を圧入する。
発泡剤を圧入混合した直後に発泡剤が含まれている基材樹脂及びマスターペレットをサーキュラ金型から円筒状に押し出して、発泡させて円筒状発泡体を得る。ついで、この円筒状発泡体を切断して、2枚のシートに展開する。巻き取られたシートは、発泡体中に発泡剤が1〜3重量%含有されている状態でさらに常温で熟成する。
発泡倍率は、目的に応じて、発泡剤の使用量や温度・圧力条件をコントロールして2〜15倍とすることができる。
これらのどの工程においても臭気は実質的に抑制された。
【実施例】
【0018】
以下に本発明の構成を実施例により具体的に説明する。
実施例1〜3
ポリスチレン(日本ポリスチレン(株)製、商品名「G120K」)50重量部、助剤としてスチレン−ブタジエンブロック共重合体(商品名「デンカクリアレン730L」)30重量部、疎水性ゼオライト(ユニオン昭和(株)製商品名「アブセンツ」)20重量部を押出機で溶融混練してペレット(以下「マスターペレット」という。)を得た。
ポリスチレン(日本ポリスチレン製、商品名「G797N」、MFR 1.5g/10分)、ポリフェニレンエーテル(日本GEプラスチック(株)製、商品名「ノリルPKN4752」、MFR 14g/10分、300℃)(以下「ノリル」という。)及び前記のマスターペレットを表1に記載した配合比率で混合ミキサーにて混練し、押出機に供給した。
押出機は、シリンダー温度190〜270℃、樹脂温度240〜245℃、圧力140〜200kg/cmに調整した。
発泡剤として、イソブタン55〜100重量%及びノルマルブタン0〜45重量%からなる炭化水素を使用した。発泡倍率が10±1となるように炭化水素の使用量をコントロールした。
押出機の発泡剤圧入部は出口付近とし、出口付近には高混練可能なスクリューを備えた単軸押出機を使用した。
【0019】
押出機内で混練された溶融樹脂は、連結管を介して、2段目の押出機に供給した。シリンダー温度は、115〜165℃、樹脂温度155〜165℃、圧力160〜170kg/cmに調整した。樹脂組成物を発泡に適した樹脂温度まで冷却した後、この樹脂組成物を、2段押出機の先端(出口側)に装着されたダイの口金(リップ幅40〜50mm)から、220〜250kg/時間の速度で押出し、発泡させた。ダイ圧力は200〜210kg/cmとした。リップ径は190mm、ドラム径は668mmである。これにより、1050mm幅の発泡シートの2本取りが得られた。シートの厚みは、2.00mm、坪量180〜250gとした。延伸倍率は2±0.2とした。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例1〜3においては、作業環境においても、また得られた発泡シートにも臭気は実質的に解消された。
なお、参考例でしめした耐熱PS(ポリスチレン)は、硬く割れやすいため、高耐衝撃性ポリスチレン等の添加が必要となるため、耐熱温度が低下してしまう。ポリプロピレン発泡シートも汎用されているが、耐熱温度は110℃をクリアできるもののいわゆる腰がないため、内容物の荷重により変形してしまう。
マスターペレットを使用せずに単に、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルを混練、発泡した場合には、臭気が強く、作業環境が著しく悪くなるので、作業を中止した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
ポリスチレン系樹脂にポリフェニレンエーテル系樹脂を加えて得られる発泡シート及びその成形加工品は、耐熱性が向上し、広い用途に使用できる可能性があるにもかかわらず、発泡シートを製造する工程及び成形加工する工程並びに得られた成形加工品は、ポリスチレン系樹脂若しくはポリフェニレンエーテル系樹脂又はこの両者に原因があると思われる臭気を伴う。これは、特に食品向け容器としては、致命的である。
本発明によれば、これらの臭気の発生を抑制できるので、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂を基材樹脂とする発泡シート及びその成形加工品の用途は、飛躍的に増大することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂50〜90重量部及びポリフェニレンエーテル系樹脂50〜10重量部からなる基材樹脂100重量部に対して、予めポリスチレン系樹脂及び/又はポリフェニレンエーテル系樹脂に疎水性ゼオライトを10〜40重量%練り込んだマスターペレット1〜10重量部及び揮発性発泡剤を3重量%以下含有させた耐熱性発泡体。
【請求項2】
請求項1記載の耐熱性発泡体から成形加工して得られる成形加工品。
【請求項3】
成形加工品が容器である請求項4記載の成形加工品。
【請求項4】
ポリスチレン系樹脂及び/又はポリフェニレンエーテル系樹脂に疎水性ゼオライトを10〜40重量%練り込んだことを特徴とするポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂が基材樹脂である耐熱性発泡体用マスターペレット。

【公開番号】特開2008−94919(P2008−94919A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276658(P2006−276658)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(505300151)共栄産業株式会社 (1)
【出願人】(502289547)共栄樹脂株式会社 (1)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】