説明

耐熱性繊維の製造方法

【課題】ナノメートルオーダーの繊維径および高融点を有する耐熱性繊維を、その融点にまで加熱せずに比較的低温で有機溶媒を使用しないで効率よく製造することができる耐熱性繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物を水に溶解させ、得られた水溶液に電圧を印加しながら当該水溶液をノズルからコレクタに飛散させ、形成された耐熱性繊維前駆体を不活性ガス雰囲気中で焼成することを特徴とする耐熱性繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性繊維の製造方法に関する。さらに詳しくは、繊維径がナノメートルオーダーの耐熱性極細繊維を製造することができる耐熱性繊維の製造方法に関する。本発明の耐熱性繊維の製造方法によって得られた耐熱性繊維は、フィラメント、短繊維(ステープルファイバー)、ウェブ、不織布などの形態で使用することができる。前記耐熱性繊維は、例えば、航空機用材料、自動車部品用材料、原子力施設でのフイルター材料、第一壁構造材や断熱材、ロケットの断熱材、各種複合材料の耐熱性充填剤(フィラー)などの産業用材料、医療機器の断熱材などの医療補助材料などの用途に使用することが期待される。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属炭化物や金属窒化物は、金属酸化物よりも融点が非常に高いことが知られている。例えば、酸化チタンの融点が1870℃であり、アルミナの融点が2050℃であるのに対し、炭化チタンの融点は3170℃であり、窒化チタンの融点は2950℃である。したがって、金属炭化物や金属窒化物からなる繊維を溶融紡糸法によって製造することは、これらの化合物を溶融させるために高温に加熱する必要があることから、多大なエネルギーを必要とする。また、溶融紡糸法によれば、繊維径が数十マイクロメートルから数百マイクロメートル程度の繊維を製造することができるが、ナノメートルオーダーの極細繊維を製造することが困難である。
【0003】
金属酸化物の一種である二酸化チタンの極細繊維の製造方法として、チタニウムアルコキシドの有機溶媒溶液に界面活性剤を溶解させた有機溶液と水とを混合することにより、二酸化チタンのナノワイヤーを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1の請求項17参照)。しかし、この方法には、有機溶媒を必要とするため、地球環境保護の観点から好ましい方法であるとはいえない。また、この方法では、二酸化チタンなどの金属酸化物のナノワイヤーを製造することができるが、金属窒化物や金属炭化物からなるナノワイヤーを製造することができていない。
【0004】
セラミック繊維を湿式紡糸法によって製造する方法として、セルロース誘導体の有機溶媒溶液を紡糸液とし、この紡糸液を、ノズルを通してチタンアルコキシドなどの金属アルコキシドの有機溶媒溶液中に押し出すことによって紡糸し、得られた繊維状のゲル複合体を焼成することにより、セラミック繊維を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2の請求項2参照)。この方法によれば、比較的低温でセラミック繊維を製造することができるが、紡糸する際に目詰まりを防止するためにノズルの内径を最低でも100μm程度とする必要があるため、ナノメートルオーダーの繊維径を有するセラミック繊維を製造することが困難である。また、この方法には、紡糸液に有機溶媒を必要とするため、前記二酸化チタンの極細繊維の製造方法と同様に、地球環境保護の観点から好ましい方法であるとはいえない。
【0005】
したがって、近年、有機溶媒を使用せずに、高融点を有する炭化チタンや窒化チタンを加熱溶融させなくても比較的低温でこれらの化合物からなる極細の耐熱性繊維を製造することができる製造方法の開発が待ち望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−034531号公報
【特許文献2】特開平7−47267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、ナノメートルオーダーの繊維径および高融点を有する耐熱性繊維を、その融点にまで加熱せずに比較的低温で有機溶媒を使用しないで効率よく製造することができる耐熱性繊維の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1) 水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物を水に溶解させ、得られた水溶液に電圧を印加しながら当該水溶液をノズルからコレクタに飛散させ、形成された耐熱性繊維前駆体を不活性ガス雰囲気中で焼成することを特徴とする耐熱性繊維の製造方法、
(2) 水溶性高分子化合物が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ(メタ)アクリル酸およびポリ(メタ)アクリル酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種である前記(1)に記載の耐熱性繊維の製造方法、
(3) 水溶性遷移金属化合物を構成する遷移金属が、周期表のIV族またはV族に帰属する遷移金属である前記(1)または(2)に記載の耐熱性繊維の製造方法、
(4) 水溶液に印加する電圧が、5〜30kVである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐熱性繊維の製造方法、
(5) 不活性ガスが、窒素ガスまたは希ガスである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐熱性繊維の製造方法、
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法によって得られた耐熱性繊維、ならびに
(7) 繊維径が50nm〜5μmである前記(6)に記載の耐熱性繊維
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ナノメートルオーダーの繊維径および高融点を有する耐熱性繊維を、その融点にまで加熱せずに比較的低温で有機溶媒を使用しないで効率よく製造することができるという優れた効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明における耐熱性繊維前駆体の製造方法の一実施態様を示す概略説明図である。
【図2】本発明の実施例1〜3で用いられた焼成前の耐熱性繊維前駆体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】(a)〜(c)は、それぞれ順に、本発明の実施例1〜3において、焼成温度600℃、800℃または1000℃で焼成したときの耐熱性繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例1〜9で得られた耐熱性繊維の粉末X線回折図である。
【図5】比較例1〜9で得られた耐熱性繊維の粉末X線回折図である。
【図6】本発明の実施例1で得られた焼成前の耐熱性繊維前駆体、ならびに実施例3および実施例9で得られた耐熱性繊維のX線光電子分光分析によるN−1sスペクトルを示す図である。
【図7】(a)〜(c)は、それぞれ順に、本発明の実施例10〜12において、焼成温度1100℃、1300℃または1500℃で焼成したときの耐熱性繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例10〜16で得られた耐熱性繊維の粉末X線回折図である。
【図9】比較例10〜17で得られた耐熱性繊維の粉末X線回折図である。
【図10】本発明の実施例21で得られた耐熱性繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例21で得られた耐熱性繊維の粉末X線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の耐熱性繊維の製造方法は、前記したように、水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物を水に溶解させ、得られた水溶液に電圧を印加しながら当該水溶液をノズルからコレクタに飛散させ、形成された耐熱性繊維前駆体を不活性ガス雰囲気中で焼成することを特徴とする。
【0012】
水溶性高分子化合物は、水に溶解するものであればよい。水溶性高分子化合物の例としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩などが挙げられ、これらの水溶性高分子化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ポリ(メタ)アクリル酸塩としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム塩、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム塩などのポリ(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩などが挙げられ、これらのポリ(メタ)アクリル酸塩は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書において、前記(メタ)アクリル酸は、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0013】
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、効率よく紡糸を行なう観点から、30万〜130万程度であることが好ましい。また、ポリ(メタ)アクリル酸およびポリ(メタ)アクリル酸塩の重量平均分子量は、効率よく紡糸を行なう観点から、それぞれ、25万〜100万程度であることが好ましい。
【0014】
ポリビニルアルコールの粘度法で求められる平均重合度は、効率よく紡糸を行なう観点から、好ましくは300以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは1000以上であり、繊維径が均一な繊維を製造する観点から、好ましくは3500以下、より好ましくは3000以下、さらに好ましくは2500以下である。また、ポリビニルアルコールのケン化度は、水溶性遷移金属化合物との相溶性の観点から、好ましくは80モル%以上、より好ましくは97モル%以上である。ポリビニルアルコールのケン化度の上限値は、水に対する溶解性を高める観点から、99.5モル%であることが好ましい。
【0015】
ポリエチレングリコールのエチレンオキサイド基の数平均分子量は、効率よく紡糸を行なう観点から、10万〜100万程度であることが好ましい。
【0016】
水溶性高分子化合物のなかでは、耐熱性繊維を効率よく製造する観点から、ポリビニルアルコールおよびポリエチレングリコールが好ましく、ポリビニルアルコールがより好ましい。
【0017】
本発明においては、水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物を水に溶解させることによって得られた水溶液が用いられている点に、1つの大きな特徴がある。
【0018】
本発明の耐熱性繊維の製造方法は、水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物の溶媒として水が用いられており、有機溶媒を必要としないことから、環境に対する負荷が小さいので環境保護の面で優れており、さらに使用した有機溶媒を回収するという煩雑な操作を必要としないという利点を有する。
【0019】
なお、本発明の目的が阻害されない範囲内であれば、必要により、例えば、メタノール、エタノールなどの環境に対する負荷が小さい水溶性有機溶媒が前記水に用いられていてもよい。
【0020】
水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物を水に溶解させた水溶液における水溶性高分子化合物の濃度は、水の蒸発量を低減し、耐熱性繊維を効率よく製造する観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、水溶液の粘度を低下させ、ノズルから前記水溶液をコレクタに容易に飛散させる観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0021】
水溶性遷移金属化合物を構成する遷移金属は、耐熱性に優れた耐熱性繊維を効率よく製造する観点から、周期表のIV族またはV族に帰属する遷移金属であることが好ましい。周期表のIV族に帰属する遷移金属としては、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどが挙げられる。また、周期表のV族に帰属する遷移金属としては、例えば、バナジウム,ニオブ,タンタルなどが挙げられる。水溶性遷移金属化合物を構成する遷移金属のなかでは、入手が容易であり、耐熱性に優れた耐熱性繊維を製造する観点から、チタンおよびジルコニウムが好ましい。
【0022】
水溶性遷移金属化合物としては、例えば、遷移金属塩、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属錯体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0023】
遷移金属塩としては、有機酸遷移金属塩および無機酸遷移金属塩が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、高純度の金属炭化物または窒化物を形成する観点から、有機酸遷移金属塩が好ましい。有機酸としては、例えば、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2−エチルへキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、トール酸、オレイン酸、カプリン酸、ナフテン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの有機酸のなかでは、水溶性を有するが、加水分解しがたい遷移金属塩を形成する観点から乳酸が好ましい。
【0024】
遷移金属ハロゲン化物としては、例えば、遷移金属フッ化物、遷移金属塩化物、遷移金属臭化物、遷移金属ヨウ化物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。遷移金属ハロゲン化物の代表例としては、フッ化チタン酸塩、フッ化ジルコニウム酸塩、フッ化タンタル酸塩、フッ化ニオブ酸塩、塩化チタン酸塩、塩化ジルコニウム酸塩、塩化タンタル酸塩、塩化ニオブ酸塩、臭化チタン酸塩、臭化ジルコニウム酸塩、臭化タンタル酸塩、臭化ニオブ酸塩、ヨウ化チタン酸塩、ヨウ化ジルコニウム酸塩、ヨウ化タンタル酸塩、ヨウ化ニオブ酸塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの遷移金属ハロゲン化物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
遷移金属錯体としては、例えば、乳酸チタン、乳酸ジルコニウム、乳酸タンタル、乳酸ニオブなどの有機酸遷移金属錯体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの遷移金属錯体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
好適な水溶性遷移金属化合物としては、水溶性に優れ、耐熱性に優れた耐熱性繊維を容易に製造する観点から、有機酸遷移金属錯体および遷移金属ハロゲン化物が好ましく、有機酸遷移金属錯体がより好ましく、乳酸チタン、乳酸ジルコニウム、乳酸タンタル、乳酸ニオブなどの乳酸遷移金属錯体がさらに好ましい。
【0027】
水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物を水に溶解させた水溶液における水溶性遷移金属化合物の濃度は、耐熱性繊維を効率よく製造する観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、ノズルから前記水溶液をコレクタに容易に飛散させる観点から、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下である。
【0028】
次に、水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物を水に溶解させることによって得られた水溶液に電圧を印加しながら当該水溶液をノズルからコレクタに飛散させることにより、耐熱性繊維前駆体を形成させる。以下に、この耐熱性繊維前駆体の製造方法を図1に基づいて説明する。
【0029】
図1は、本発明における耐熱性繊維前駆体の製造方法の一実施態様を示す概略説明図である。図1において、水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物の水溶液を吐出させるためのノズル1を備えた溶液供給装置2内に前記水溶液を充填する。
【0030】
溶液供給装置2に装着されたノズル1の前方には、当該ノズル1から吐出した水溶液3が飛散し、この飛散した水溶液3を捕集するためのコレクタ4が配設されている。図1に示される態様においては、水溶液に電圧を印加するために、溶液供給装置2に装着されたノズル1が配線6を介して電圧を印加するための電圧供給装置5と接続されている。また、ノズル1とコレクタ4との間に電圧を印加するために、コレクタ4は、配線7を介して電圧供給装置5と接続されている。
【0031】
ノズル1およびコレクタ4は、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、それらの合金などの金属やカーボンなどの導電性材料で構成されている。
【0032】
溶液供給装置2に装着されたノズル1の内径は、目的とする耐熱性繊維の繊維径によって異なるので一概には決定することができないため、当該耐熱性繊維の繊維径に応じて適宜決定することが好ましい。その一例として、例えば、繊維径が100nmである耐熱性繊維を製造する場合には、ノズル1の内径は、0.2〜1.0mm程度とすればよい。
【0033】
溶液供給装置2に装着されたノズル1とコレクタ4との間に印加される電圧は、前記水溶液を十分に帯電させる観点から、好ましくは5kV以上、より好ましくは10kV以上であり、エネルギー効率を高める観点から、好ましくは30kV以下、より好ましくは25kV以下である。なお、印加される電圧は、その雰囲気の湿度などにより、飛散している水溶液からの溶媒として使用されている水の蒸発の程度が異なるため、その湿度に応じて適宜調整することが好ましい。
【0034】
溶液供給装置2に装着されたノズル1から前記水溶液を吐出させるとき、電圧が印加される。そのとき、前記水溶液に静電引力が付与されるので、コレクタ4に向かって前記水溶液が飛散し、コレクタ4で捕集される。その際、前記水溶液は、電圧の印加によって加熱されるので、溶媒として使用されている水が蒸発するとともに、静電引力により、ノズル1から吐出した水溶液3が延伸されるので、耐熱性繊維前駆体が形成される。ノズル1から吐出した水溶液3の延伸倍率は、印加される電圧、ノズル1の先端とコレクタ4との間の距離(以下、コレクタ間距離という)Lなどを調整することにより、容易に調節することができる。
【0035】
ノズル1から吐出した水溶液3の延伸倍率は、目的とする耐熱性繊維の繊維径に応じて適宜決定することが好ましい。このようにして水溶液に電圧を印加しながら当該水溶液をノズル1からコレクタ4に飛散させた場合、当該水溶液3を100〜1000倍程度に延伸させることができるので、例えば、繊維径が10nm〜1μmである耐熱性繊維前駆体を形成させることができる。
【0036】
なお、コレクタ間距離Lは、ノズル1の先端とコレクタ4との間で放電が生じないようにする観点から、好ましくは1cm以上、より好ましくは2cm以上、さらに好ましくは3cm以上であり、前記水溶液に静電引力を効率よく付与する観点から、好ましくは25cm以下、より好ましくは20cm以下である。また、ノズル1から前記水溶液を吐出させる際の水溶液の量は、ノズル1の内径などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、0.3〜5mL/h程度である。
【0037】
ノズル1から前記水溶液を吐出させるときの雰囲気は、生産効率を高める観点から大気であることが好ましいが、例えば、二酸化炭素、窒素ガスなどのガスであってもよい。また、ノズル1から前記水溶液を吐出させるときの雰囲気の気温および湿度は、特に限定されないが、通常、生産効率を高める観点から、雰囲気の温度は室温であることが好ましい。また、雰囲気の湿度は、ノズル1から吐出させた水溶液から効率よく水分を蒸発させる観点から低いことが好ましいが、水溶液の飛沫化を防止する観点からあまり低くなりすぎないことが好ましい。したがって、雰囲気の湿度は、これらの観点から、通常、雰囲気の温度にもよるが、相対湿度30〜60%の範囲内で適宜設定することが好ましい。
【0038】
以上のようにして、水溶液に電圧を印加しながら当該水溶液をノズル1からコレクタ4に向けて飛散させることにより、耐熱性繊維前駆体(図示せず)が形成される。形成された耐熱性繊維前駆体は、通常、繊維の集合体(例えば、不織布状など)として回収することができるが、形成された耐熱性繊維前駆体をコレクタ4の種類を変更して集積させた場合には、クモの巣状のウェブ、マットや綿状の繊維の集合体を形成することもできる。形成されたウェブやマットは、例えば、スパンボンド不織布に成形して使用することができる。なお、得られた耐熱性繊維前駆体の含水量を調整するために、必要により、当該耐熱性繊維前駆体を乾燥させてもよい。
【0039】
次に、前記のようにして得られた耐熱性繊維前駆体は、そのままのフィラメントの状態で、あるいは必要により、切断することによって短繊維に加工したり、集積することによってウェブやマットに加工したりした後、不活性ガス雰囲気中で焼成することにより、耐熱性繊維を製造することができる。
【0040】
耐熱性繊維前駆体を焼成する際には、例えば、電気炉などの焼成装置を用いることができるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0041】
耐熱性繊維前駆体を焼成する際の雰囲気は、製造時における人体に対する安全性の観点から、不活性ガスであることが好ましいが、必要により、例えば、アンモニアガスなどであってもよい。アンモニアガスは、耐熱性繊維前駆体を窒化させる際に好適に使用することができる。前記不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスをはじめ、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの希ガスなどが挙げられる。
【0042】
不活性ガスとして窒素ガスを用いた場合には、水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物を含有する耐熱性繊維前駆体を焼成したとき、その窒素ガスに基づく窒素原子が耐熱性繊維前駆体に取り込まれ、遷移金属の窒化物が生成する。この遷移金属の窒化物は、一般に高融点を有することから、耐熱性に優れた耐熱性繊維が得られる。例えば、不活性ガスとして窒素ガスを用い、水溶性遷移金属化合物としてチタン化合物が用いられた耐熱性繊維前駆体を焼成した場合には、窒化チタンを含有する耐熱性繊維を形成させることができる。
【0043】
また、不活性ガスとして希ガスを用いた場合には、水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物を含有する耐熱性繊維前駆体を焼成したとき、酸素が存在しない状態で水溶性高分子化合物の炭化が進行することから、遷移金属の炭化物が生成する。この遷移金属の炭化物は、一般に高融点を有することから、耐熱性に優れた耐熱性繊維が得られる。例えば、不活性ガスとして希ガスを用い、水溶性遷移金属化合物としてチタン化合物が用いられた耐熱性繊維前駆体を焼成した場合には、炭化チタンを含有する耐熱性繊維を形成させることができる。
【0044】
耐熱性繊維前駆体を焼成するときの焼成温度(最高加熱温度)は、水溶性遷移金属化合物の種類や不活性ガスの種類などによって異なるので一概には決定することができない。例えば、水溶性遷移金属化合物がチタン化合物であり、不活性ガスが窒素ガスである場合、耐熱性に優れた窒化チタンを効率よく生成させる観点から、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1100℃以上、さらに好ましくは1200℃以上であり、エネルギー効率の観点から、好ましくは1800℃以下、より好ましくは1700℃以下である。また、例えば、水溶性遷移金属化合物がジルコニウム化合物であり、不活性ガスが窒素ガスである場合、耐熱性に優れた窒化ジルコニウムを効率よく生成させる観点から、好ましくは1300℃以上、より好ましくは1400℃以上であり、エネルギー効率の観点から、好ましくは1800℃以下、より好ましくは1700℃以下である。
【0045】
耐熱性繊維前駆体を焼成するときの昇温速度は、特に限定されないが、通常、5〜20℃/min程度であればよい。また、焼成時間は、焼成温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、3〜8時間程度である。
【0046】
耐熱性繊維前駆体を焼成する際には、耐熱性繊維前駆体の焼成時に当該耐熱性繊維前駆体から生じるガスなどを焼成雰囲気から排除することが耐熱性繊維を効率よく製造する観点から好ましい。したがって、耐熱性繊維前駆体の焼成雰囲気に連続的にまたは間欠的に不活性ガスを導入しながら、耐熱性繊維前駆体の焼成を行なうことが好ましい。耐熱性繊維前駆体の焼成後は、室温まで放冷することにより、耐熱性繊維を得ることができる。以上のようにして耐熱性繊維を製造することができる。
【0047】
本発明の耐熱性繊維の製造方法によれば、耐熱性繊維の融点のような高温にまで加熱をしなくても、比較的低温で有機溶媒を使用しないでナノメートルオーダーの繊維径および高融点を有する耐熱性繊維を効率よく製造することができる。得られた耐熱性繊維は、例えば、フィラメント、短繊維(ステープルファイバー)、ウェブ、不織布などの形態で使用することができる。前記耐熱性繊維は、例えば、航空機用材料、自動車部品用材料、原子力施設でのフイルター材料、第一壁構造材や断熱材、ロケットの断熱材、各種複合材料の耐熱性充填剤(フィラー)などの産業用材料、医療機器の断熱材などの医療補助材料などの用途に使用することが期待されるものである。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
実施例1〜3
ポリビニルアルコール(平均重合度:1500、ケン化度:99%)の10重量%水溶液を調製した。得られたポリビニルアルコール水溶液10gと乳化チタンの2−プロパノール水溶液〔松本製薬工業(株)製、品番:TC−310、乳化チタンの含有量:35〜45重量%、2−プロパノールの含有量:40〜50重量%、水の含有量:10〜20重量%〕5gとを混合することにより、ポリビニルアルコールと乳化チタンとの水溶液を得た。
【0050】
得られた水溶液2mLを、先端にノズルが取り付けられた樹脂製のシリンジ内に入れ、前記ノズルとコレクタとを電圧供給装置を介して電気的に接続し、当該ノズルに15kVの電圧を印加しながら押出速度0.8mL/hにて混合溶液を平滑な銅板からなるコレクタに向けて押出すことにより、耐熱性繊維前駆体を形成させた。そのとき、ノズルとコレクタとの距離(コレクタ間距離)を10cmに調整した。この耐熱性繊維前駆体の繊維径を測定したところ、その繊維径は約319nmであった。この耐熱性繊維前駆体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。
【0051】
次に、得られた耐熱性繊維前駆体を電気炉内に入れ、電気炉内に窒素ガスを流入させながら昇温速度10℃/minにて、焼成温度を600℃(実施例1)、800℃(実施例2)または1000℃(実施例3)に調整して5時間焼成した後、放冷し、室温まで冷却することにより、耐熱性繊維を得た。得られた耐熱性繊維の繊維径を測定したところ、その繊維径は約346nmであった。600℃、800℃および1000℃の各焼成温度で焼成することによって得られた耐熱性繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を、それぞれ順に図3の(a)〜(c)に示す。
【0052】
図2および図3に示された結果から、焼成前の耐熱性繊維前駆体の繊維径と焼成することによって得られた耐熱性繊維の繊維径とには大差がないことが確認された。
【0053】
実施例4〜9
実施例1において、焼成温度を600℃から500℃(実施例4)、700℃(実施例5)、900℃(実施例6)、1100℃(実施例7)、1200℃(実施例8)または1280℃(実施例9)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして耐熱性繊維を製造した。
【0054】
次に、実施例1〜9で得られた耐熱性繊維の粉末X線回折を調べた。なお、粉末X線回折は、粉末X線回折測定装置〔(株)島津製作所製、商品名:粉末X線回折測定装置XD−6100)を用いて測定し、その測定条件は、電圧:40kV、電流:20mA、走査モード:Continuous、走査範囲:10〜80°、走査速度:2.0°/min、雰囲気:大気とした。その粉末X線回折図を図4に示す。
【0055】
比較例1〜9
実施例1において、窒素ガスの代わりに空気を用い、焼成温度を500℃(比較例1)、600℃(比較例2)、700℃(比較例3)、800℃(比較例4)、900℃(比較例5)、1000℃(比較例6)、1100℃(比較例7)、1200℃(比較例8)または1280℃(比較例9)としたこと以外は、実施例1と同様にして耐熱性繊維を製造した。得られた耐熱性繊維の粉末X線回折を実施例1と同様にして調べた。その粉末X線回折図を図5に示す。
【0056】
図5に示された結果から、大気中で耐熱性繊維前駆体を焼成した場合には(各比較例)、500〜800℃の焼成温度範囲でアナターゼ型酸化チタンが生成し、800℃以上の焼成温度でルチル型酸化チタンが生成することがわかる。これに対し、図4に示された結果から、窒素ガス雰囲気中で耐熱性繊維前駆体を焼成した場合には(各実施例)、500〜1100℃の焼成温度範囲でアナターゼ型酸化チタンがごく僅か生成しているが、1100℃以上の焼成温度では、窒化チタンが生成していることがわかる。
【0057】
したがって、各実施例で得られた耐熱性繊維は、酸化チタンまたは窒化チタンが生成しているので、ある程度耐熱性に優れているが、さらに焼成温度が1000℃以上である実施例7〜9で得られた耐熱性繊維は、高融点(融点:2950℃)を有する窒化チタンで構成されているので、より一層耐熱性に優れていることがわかる。
【0058】
次に、実施例1で調製した焼成前の耐熱性繊維前駆体、実施例3で得られた耐熱性繊維(焼成温度:1000℃)および実施例9で得られた耐熱性繊維(焼成温度:1280℃)のX線光電子分光分析(XPS)を行なった。その際、X線光電子分光分析装置〔日本電子(株)製、品番:XPS−9010〕を用い、X線:Mg−Kα線、電圧:10kV、電流:2.5mAの条件でX線光電子分光分析を行なった。X線光電子分光分析(XPS)によるN−1sスペクトルを図6に示す。
【0059】
図6に示されるように、結合エネルギーが395〜397eVの範囲内では、耐熱性繊維前駆体を焼成する前では耐熱性繊維前駆体に窒素原子が含まれていることを示すピークが存在していないのに対し(図6の焼成前)、耐熱性繊維前駆体を1000℃または1280℃で焼成した場合には(図6の1000℃ in N2および1280℃ in N2)、耐熱性繊維前駆体に窒素原子が導入されていることを示すピークが存在していることがわかる。
【0060】
したがって、前記粉末X線回折の結果および前記X線光電子分光分析の結果から、これらの実施例では、耐熱性繊維前駆体の焼成操作が採られているので、高融点を有する窒化チタンからなる耐熱性繊維が得られることがわかる。
【0061】
以上のことから、水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物を含有する耐熱性繊維前駆体を焼成した場合には、窒素原子が導入され、高融点を有する窒化チタン(融点:2950℃)が生成するので、耐熱性繊維が得られることがわかる。
【0062】
実施例10〜12
ポリビニルアルコール(平均重合度:1500、ケン化度:99%)の10重量%水溶液を調製した。得られたポリビニルアルコール水溶液と塩化ジルコニウム水溶液〔マツモトファインケミカル(株)製、商品名:オルガチックスZB−126〕とを、ポリビニルアルコール/塩化ジルコニウム(質量比)が60/40となるように混合することにより、ポリビニルアルコールと塩化ジルコニウムとの水溶液を得た。
【0063】
得られた水溶液2mLを、先端にノズルが取り付けられた樹脂製のシリンジ内に入れ、前記ノズルとコレクタとを電圧供給装置を介して電気的に接続し、当該ノズルに15kVの電圧を印加しながら押出速度0.8mL/hにて混合溶液を平滑な銅板からなるコレクタに向けて押出すことにより、耐熱性繊維前駆体を形成させた。そのとき、ノズルとコレクタとの距離(コレクタ間距離)を10cmに調整した。得られた耐熱性繊維前駆体の繊維径を測定したところ、その繊維径は約322nmであった。
【0064】
次に、得られた耐熱性繊維前駆体を電気炉内に入れ、電気炉内に窒素ガスを流入させながら昇温速度10℃/minにて、焼成温度を1100℃(実施例10)、1300℃(実施例11)または1500℃(実施例12)に調整して5時間焼成した後、放冷し、室温まで冷却することにより、耐熱性繊維を得た。得られた耐熱性繊維の繊維径を測定したところ、その繊維径は約321nmであった。焼成温度1100℃、1300℃または1500℃で焼成することによって得られた耐熱性繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真をそれぞれ順に図7の(a)〜(c)に示す。
【0065】
図7に示された結果から、耐熱性繊維前駆体を焼成温度1100℃、1300℃または1500℃で焼成しても、耐熱性繊維の外観には大差がないことが確認された。
【0066】
実施例13〜16
実施例10において、焼成温度を1100℃から800℃(実施例13)、1000℃(実施例14)、1200℃(実施例15)または1400℃(実施例16)に変更したこと以外は、実施例10と同様にして耐熱性繊維を製造した。
【0067】
実施例10〜16で得られた耐熱性繊維の粉末X線回折を調べた。なお、粉末X線回折は、粉末X線回折測定装置〔(株)島津製作所製、商品名:粉末X線回折測定装置XD−6100)を用いて測定し、その測定条件は、電圧:40kV、電流:20mA、走査モード:Continuous、走査範囲:5〜80℃、走査速度:2.0°/min、雰囲気:大気とした。その測定結果を図8に示す。
【0068】
比較例10〜17
実施例10において、窒素ガスの代わりに空気を用い、焼成温度を400℃(比較例10)、500℃(比較例11)、600℃(比較例12)、700℃(比較例13)、800℃(比較例14)、900℃(比較例15)、1000℃(比較例16)または1100℃(比較例17)としたこと以外は、実施例10と同様にして耐熱性繊維を製造した。得られた耐熱性繊維の粉末X線回折を実施例10と同様にして調べた。その結果を図9に示す。
【0069】
図9に示された結果から、大気中で耐熱性繊維前駆体を焼成した場合には(各比較例)、400〜600℃の焼成温度範囲で単斜晶系の酸化ジルコニウムが生成し、700℃以上の焼成温度で正方晶系の酸化ジルコニウムが生成することがわかる。これに対し、図8に示された結果から、窒素ガス雰囲気中で耐熱性繊維前駆体を焼成した場合には(各実施例)、800℃では単斜晶系の酸化ジルコニウムが生成し、1000℃では正方晶系の酸化ジルコニウムが生成するが、1300〜1500℃の焼成温度範囲では窒化ジルコニウムが生成していることがわかる。
【0070】
したがって、各実施例で得られた耐熱性繊維は、1200℃以下の焼成温度では酸化ジルコニウムが生成するが、1300℃以上の焼成温度では高融点(融点:2980℃)を有する窒化ジルコニウムが合成されているので、耐熱性に優れていることがわかる。
【0071】
実施例17
ポリエチレングリコール(数平均分子量:50万)の10重量%水溶液を調製した。得られたポリエチレングリコール水溶液と乳化チタンの2−プロパノール水溶液〔松本製薬工業(株)製、品番:TC−310、乳化チタンの含有量:35〜45重量%、2−プロパノールの含有量:40〜50重量%、水の含有量:10〜20重量%〕とを、ポリエチレングリコール/乳化チタン(質量比)が1/2となるように混合することにより、ポリエチレングリコールと乳化チタンとの水溶液を得た。
【0072】
得られた水溶液2mLを、先端にノズルが取り付けられた樹脂製のシリンジ内に入れ、前記ノズルとコレクタとを電圧供給装置を介して電気的に接続し、当該ノズルに10kVの電圧を印加しながら押出速度0.4mL/hにて混合溶液を平滑な銅板からなるコレクタに向けて押出すことにより、耐熱性繊維前駆体を形成させた。そのとき、ノズルとコレクタとの距離(コレクタ間距離)を15cmに調整した。
【0073】
次に、得られた耐熱性繊維前駆体を電気炉内に入れ、電気炉内に窒素ガスを流入させながら昇温速度10℃/minにて、焼成温度を1200℃に調整して5時間焼成した後、放冷し、室温まで冷却することにより、耐熱性繊維を得た。得られた耐熱性繊維の繊維径を測定したところ、その繊維径は約441nmであった。
【0074】
得られた耐熱性繊維の粉末X線回折を実施例1と同様にして調べたところ、得られた耐熱性繊維には、高融点を有する窒化チタンが生成していることが確認された。
【0075】
実施例18
実施例10において、電気炉内に流入させる不活性ガスとして、窒素ガスの代わりにアルゴンガスを用い、焼成温度を1200℃に変更したこと以外は、実施例10と同様にして耐熱性繊維を得た。得られた耐熱性繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図10に示す。得られた耐熱性繊維の繊維径を測定したところ、その繊維径は約229nmであった。
【0076】
得られた耐熱性繊維の粉末X線回折を実施例10と同様にして調べた。その結果を図11に示す。図11に示されるように、得られた耐熱性繊維は、高融点を有する炭化ジルコニウムで構成されていることが確認された。
【0077】
実施例19
実施例1において、電気炉内に流入させる不活性ガスとして、窒素ガスの代わりにアルゴンガスを用い、焼成温度を1200℃としたこと以外は、実施例1と同様にして耐熱性繊維を製造した。得られた耐熱性繊維の粉末X線回折を実施例1と同様にして調べたところ、炭化チタンに基づくピークが観察されたことから、アルゴンガス雰囲気中で耐熱性繊維前駆体を焼成した場合には、炭化チタンが生成していることが確認された。
【0078】
以上の結果から、本発明によれば、従来のような有機溶媒を使用しなくても、水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物からなる耐熱性繊維前駆体を容易に製造することができ、さらに不活性ガス雰囲気中で耐熱性繊維前駆体を焼成することにより、その耐熱性繊維前駆体の形状を維持しながら、耐熱性繊維を製造することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の耐熱性繊維の製造方法によって得られた耐熱性繊維は、例えば、航空機用材料、自動車部品用材料、原子力施設でのフイルター材料、第一壁構造材や断熱材、ロケットの断熱材、各種複合材料の耐熱性充填剤などの産業用材料、医療機器の断熱材などの医療補助材料などの用途に使用することが期待される。
【符号の説明】
【0080】
1 ノズル
2 溶液供給装置
3 水溶液
4 コレクタ
5 電圧供給装置
6 配線
7 配線
L コレクタ間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子化合物および水溶性遷移金属化合物を水に溶解させ、得られた水溶液に電圧を印加しながら当該水溶液をノズルからコレクタに飛散させ、形成された耐熱性繊維前駆体を不活性ガス雰囲気中で焼成することを特徴とする耐熱性繊維の製造方法。
【請求項2】
水溶性高分子化合物が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ(メタ)アクリル酸およびポリ(メタ)アクリル酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の耐熱性繊維の製造方法。
【請求項3】
水溶性遷移金属化合物を構成する遷移金属が、周期表のIV族またはV族に帰属する遷移金属である請求項1または2に記載の耐熱性繊維の製造方法。
【請求項4】
水溶液に印加する電圧が、5〜30kVである請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱性繊維の製造方法。
【請求項5】
不活性ガスが、窒素ガスまたは希ガスである請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱性繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって得られた耐熱性繊維。
【請求項7】
繊維径が50nm〜5μmである請求項6に記載の耐熱性繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−202331(P2011−202331A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73560(P2010−73560)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】