説明

耐熱真空断熱材

【課題】外包体の内側面を外側面の材料に比べて線膨張係数が小さい材料で構成し、壁面の外面と耐熱真空断熱材の内側面との間に開放した間隙が形成されないようにして、加熱室の断熱性を維持する。
【解決手段】高温側に配置される第1部材11を低温側に配置される第2部材12に比較して線膨張係数が小さい素材により形成し、第1部材11と第2部材12との間に芯材13を収納した後、内部を真空状態にする。第1部材11の熱変形量と第2部材12の熱変形量とに大きな差が生じないようにし、耐熱真空断熱材1が厚さ方向に変形して耐熱断熱材21から離間することによる加熱室20の断熱性の低下を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加熱装置等の高温処理装置の外面に配置される断熱材に関し、特に、断熱体を収納した耐熱材料からなる密封外包体の内部を真空状態にした耐熱真空断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
一例として、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板の製造工程には、処理物であるガラス基板を所定の温度(例えば、220℃〜230℃程度。)で加熱する熱処理が含まれる。このような熱処理には、壁面を耐熱断熱材で構成した加熱室を備え、処理物を収納した加熱室内を処理物の熱処理に適した温度に昇温する加熱装置が用いられる。
【0003】
加熱装置では、加熱室内の温度上昇に伴って耐熱断熱材の外面の温度も上昇し、加熱装置が設置されている室内の環境が悪化するだけでなく、加熱室の温度分布が不均一になるとともに熱損失が大きくなる。一方、加熱室の壁面に用いられるセラミックウールやロックウール等の一般的な耐熱断熱材は断熱性能が十分でなく、加熱室の壁面を厚くすることで外面の温度上昇を緩和しようとすると、加熱装置の大型化を招く。
【0004】
そこで、加熱室の壁面を構成する耐熱断熱材の外側に、断熱性能に優れた真空断熱材を配置した加熱装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。但し、民生用電気機器に使用される真空断熱材は、断熱材の成形体を収納した熱溶着性シートの袋状容器の内部を真空排気した後に密封したものであり、数10〜100℃程度まで昇温する熱処理用の加熱装置の外面に配置すると袋状容器が溶融して破断し、真空状態を維持できない。
【0005】
このため、特許文献1に開示された加熱装置では、内部を真空状態にした袋状容器を、金属アルミニウム層を含む熱溶着性シートであって2〜6μmの波長の赤外線の反射率が50%以上、6〜14μmの波長の赤外線の反射率が20%以下である熱溶着性シートで構成し、耐熱性及び断熱性を確保するとしている。
【特許文献1】特開2007−093157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された構成では、壁面の外側に配置される耐熱真空断熱材に熱溶着性シートの袋状容器を用いているため、壁面の外面温度が100℃を超える加熱装置には適用できない。ところで、壁面の外側にこのような真空断熱材を配置すると、壁面と袋状容器との境界面の温度が著しく上昇し、その結果容易に100℃を超えてしまうことも稀ではない。そこで、耐熱真空断熱材を金属製の外包体によって構成することが考えられる。
【0007】
ところが、金属製の外包体を、特許文献1に開示された構成と同様に、内側面と外側面とを同一の材料で形成した場合、壁面の外面に接する内側面と外部に露出した外側面との温度差により、耐熱真空断熱材が内側に向かって凸となる熱変形を生じる。このため、壁面の外面と耐熱真空断熱材の内側面との間に外部に開放した間隙が形成され、加熱室の断熱性が低下する問題がある。
【0008】
この発明の目的は、外包体の内側面を外側面の材料に比べて線膨張係数が小さい材料で構成し、内側面と外側面との熱変形量に大きな差が生じることを防ぎ、壁面の外面と耐熱真空断熱材の内側面との間に開放した間隙が形成されないようにして、加熱室の断熱性を維持することができる加熱装置用の耐熱真空断熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、第1部材及び第2部材からなる外包体と芯材とを備えている。第1部材は、薄板状材料で構成され、高温側に配置される。第2部材は、薄板状材料で構成され、低温側に配置される。第1部材は、第2部材に比較して線膨張係数の小さい材料からなる。外包体は、第1部材及び第2部材の周囲を互いに接合し、内部を真空排気された後に密封される。芯材は、外包体の内部に収納される。
【0010】
この構成では、高温側に配置される第1部材の線膨張係数が低温側に配置される第2部材の線膨張係数よりも小さいため、高温側と低温側との温度差によって生じる第1部材の熱変形量と第2部材の熱変形量との差は、第1部材と第2部材とが同じ材質からなる場合に比べて小さい。高温側と低温側との温度差に応じて第1部材及び第2部材の材質を適宜選択することで、温度上昇後における第1部材と第2部材との長さが略等しくなり、外包体が厚さ方向に変形することがない。
【0011】
上記の構成において、第1部材及び第2部材を薄板状金属材料で構成してもよい。この場合には、第1部材及び第2部材の周囲を溶接して外包体を形成してもよい。これらによって、100℃程度の温度で外包体が溶融することがなく、高い耐熱性を得ることができる。例えば、第1部材を線膨張係数が11×10-6/℃の金属材料で構成し、第2部材を線膨張係数が17×10-6/℃の金属材料で構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、高温側の内側面が低温側の外側面よりも大きく伸びることがなく、高温側に向かって凸となる熱変形を生じることを防止でき、断熱性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、この発明の実施形態に係る耐熱真空断熱材を適用した加熱装置の断面図である。加熱装置10は、一例として、複数枚のガラス基板等の板状の処理物を例えば220℃〜230℃程度の処理温度に一定時間維持する熱処理を行う。このため、加熱装置10は、耐熱断熱材21〜24及び耐熱真空断熱材1〜4を備えている。
【0014】
耐熱断熱材21〜24は、加熱室20を包囲する壁面を構成している。加熱室20には、複数枚の処理物が収納される。加熱室20は、図示しないヒータにより、処理温度を維持するように加熱される。耐熱断熱材21〜24は、例えば、グラスウール、ロックウール又はセラミックウール等の耐熱性に優れた断熱材である。耐熱断熱材21〜24は、内面が220℃〜230℃の加熱室20に露出しているが、その断熱効果により外面の温度は50℃前後となる。
【0015】
耐熱真空断熱材1〜4は、同様の構成であるため、以下に耐熱真空断熱材1について説明する。耐熱真空断熱材1は、第1部材11、第2部材12及び芯材13からなる。
【0016】
第1部材11及び第2部材12は、それぞれ金属製の矩形薄板材(例えば、板厚0.1mm以下。)の4辺を例えば溶接等によって接合したものであり、中空体としてのこの発明の外包体を構成している。耐熱真空断熱材1は、第1部材11と第2部材12との間の空間を真空状態とし、この空間に芯材13を収納している。
【0017】
一例として、第1部材11は線膨張係数が11×10-6/℃であるSUS430を素材としており、第2部材12は線膨張係数が17×10-6/℃であるSUS304を素材としている。
【0018】
芯材13は、グラスウール、ロックウール若しくはセラミックウール等の耐熱性に優れた断熱材、発泡体等の多孔質体、又は微粉末で構成されており、第1部材11と第2部材12との間の空間の体積を確保している。
【0019】
耐熱真空断熱材1は、第1部材11の外面を耐熱断熱材21の外側面に接触させ、第2部材12の外面を外部に露出して配置されている。したがって、第1部材11が高温側に配置され、第2部材12が低温側に配置されている。
【0020】
第1部材11の温度は、耐熱断熱材21との接触によって容易に100℃を超える温度に上昇する。第1部材11の熱は、互いに当接した周囲の端面を介して第2部材12に伝導する。しかし、第1部材11と第2部材12とが接触していない外包体の中空部分は、真空状態であり、且つ芯材13が収納されているため、第1部材11の熱は対流や輻射によっては第2部材12に伝播しない。したがって、第2部材12の温度は、加熱装置10が設置されている室内の温度よりも高いが第1部材11の温度に比較して十分に低く、第1部材11の温度との間に大きな差が生じる。
【0021】
第1部材11及び第2部材12は、寸法及び温度上昇に比例した熱変形量で伸びるが、第1部材11は第2部材12に比較して線膨張係数が小さい素材で構成されており、両者に大きな温度差が生じても、熱変形量には大きな差を生じない。このため、熱処理中に耐熱真空断熱材1が厚さ方向に変形することがなく、第1部材11の内側面が耐熱断熱材21の外側面から離間することによる加熱室20の断熱性の低下を生じることがない。
【0022】
これに対して、図2に示す比較例の加熱装置100のように、第1部材111及び第2部材112が同一素材の耐熱真空断熱材110では、高温側の第1部材111の膨張量が低温側の第2部材112の膨張量よりも大きくなり、高温側に向かって凸となる熱変形を生じる。この熱変形によって耐熱真空断熱材110は、内側面の周縁部が耐熱断熱材21〜24の外側面から離間し、耐熱断熱材21〜24の外側面との間に外部に開放した間隙が形成され、加熱室20の断熱性が低下する。
【0023】
本願発明の実施形態の加熱装置10では、耐熱真空断熱材1の変形による加熱室20の断熱製の低下を生じないため、加熱装置10の熱効率が低下することがない。また、加熱装置10の設置場所の温度上昇による作業環境の悪化を抑えることができる。
【0024】
図3(A)〜(D)は、この発明の実施形態に係る耐熱真空断熱材の製造工程の一例を示す図である。耐熱真空断熱材1の製造時には、まず、図3(A)に示すように、金属薄板である第1部材11及び第2部材12を同一形状の矩形に裁断後に重ね合わせ、3辺30A〜30Cの周縁部を溶接等によって接合して袋体30を形成する。
【0025】
次いで、図3(B)に示すように、袋体30の接合されていない辺30Dを開口させて、袋体30の内部に芯材13を挿入する。
【0026】
この後、図3(C)に示すように内部に芯材13を収納した袋体30を図示しない真空槽に収納して真空排気した後、図3(D)に示すように開放されている辺30Dを溶接等によって封止することにより、耐熱真空断熱材1が完成する。
【0027】
なお、加熱装置10において、耐熱真空断熱材2〜4は、それぞれ第1部材の外面を耐熱断熱材22〜24のそれぞれの外側面に接触させて配置されている。但し、耐熱真空断熱材1〜4の全てが必須ではなく、加熱装置10の設置状態等に応じて耐熱真空断熱材1〜4のうちの少なくとも1つが配置されていればよい。
【0028】
また、第1部材11及び第2部材12の素材は、熱処理時における両者の上昇温度に応じて、熱変形量に大きな差を生じることのないように適宜選択することができ、耐熱性が満足されることを条件に非金属素材を用いることもでき、薄板状材料は平板に限るものでもない。
【0029】
さらに、第1部材11と第2部材12との接合方法は、溶接に限るものではなく、内部の気密性が維持されることを条件に、接着等の他の接合方法を用いることもできる。
【0030】
加えて、加熱装置10の使用温度によっては、耐熱断熱材21を使用せず、耐熱真空断熱材1のみを断熱手段とすることできる。
【0031】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施形態に係る耐熱真空断熱材を適用した加熱装置の断面図である。
【図2】比較例の耐熱真空断熱材を適用した加熱装置の断面図である。
【図3】(A)〜(C)は、この発明の実施形態に係る耐熱真空断熱材の製造工程の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 耐熱真空断熱材
10 加熱装置
11 第1部材
12 第2部材
13 芯材
20 加熱室
21 耐熱断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温側に配置される薄板状材料の第1部材と、低温側に配置される薄板状材料の第2部材と、からなり、前記第1部材及び前記第2部材の周囲を互いに接合し、内部を真空排気された後に密封される外包体と、
前記外包体の内部に収納される芯材と、を備え、
前記第1部材は、前記第2部材に比較して線膨張係数の小さい材料からなる耐熱真空断熱材。
【請求項2】
前記第1部材及び前記第2部材は、薄板状金属材料からなる請求項1に記載の耐熱真空断熱材。
【請求項3】
前記外包体は、前記第1部材及び前記第2部材の周囲を溶接してなる請求項2に記載の耐熱真空断熱材。
【請求項4】
前記芯材は、耐熱断熱材料からなる請求項1乃至3の何れかに記載の耐熱真空断熱材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−127683(P2009−127683A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301350(P2007−301350)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】