説明

耐熱絶縁層付セパレータ

【課題】信頼性の高い電池を安定して製造しうるセパレータを提供する。
【解決手段】樹脂多孔質基体と、前記樹脂多孔質基体の両面に形成された、融点または熱軟化点が150℃以上である耐熱粒子を含む耐熱絶縁層とを備えた電気デバイス用の耐熱絶縁層付セパレータであって、下記数式1で表されるパラメータXが、0.15以上である、耐熱絶縁層付セパレータである。


式中、A’およびA”は前記樹脂多孔質基体の両面に形成された各耐熱絶縁層の厚み(μm)であり、この際、A’≧A”であり、Cは前記耐熱絶縁層付セパレータの総厚み(μm)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱絶縁層付セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの電気デバイスの開発が盛んに行われている。
【0003】
特に、リチウムイオン二次電池はそのエネルギー密度の高さや繰り返し充放電に対する耐久性の高さから、電動車両に好適と考えられ高容量化が更に進む傾向にあり、安全性の確保がますます重要となってきている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、一般に、正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、セパレータに電解液または電解質ゲルを保持した電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有する。
【0005】
セパレータとしては、例えば、厚みが20〜30μm程度のポリオレフィン微多孔膜が多く用いられている。しかしながら、このようなポリオレフィン微多孔膜は、電池内温度上昇による熱収縮と、これに伴う短絡が生じる可能性がある。
【0006】
そのため、セパレータの熱収縮を抑制するために、樹脂の微多孔膜の表面に、耐熱性多孔質層を積層させた耐熱絶縁層付セパレータが開発されている。例えば、特許文献1には、このようなセパレータを巻回型リチウムイオン電池に用い、電池内温度上昇による熱収縮が抑制されたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/066768号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されるようなセパレータを、平板積層型非水電解質系二次電池に適用すると、電池の製造の際にセパレータの端部にカールが発生し、カールした部分が折り込まれたまま積層されてしまうという問題が生じることがわかった。特に電気自動車に用いられるような大型の電池の場合、一部材の面積が大きいため、わずかなひずみでも操作中に不具合につながることがあり、歩留まりが大幅に低下してしまう。
【0009】
そこで本発明は、耐熱絶縁層付セパレータにおいてカールの発生を抑制し、信頼性の高い電気デバイスを安定して製造することを可能にする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた。その結果、樹脂多孔質基体の両面に耐熱絶縁層を積層した電気デバイス用の耐熱絶縁層付セパレータにおいて、それぞれの耐熱絶縁層の厚みおよび耐熱絶縁層付セパレータの総厚みを特定の関係に制御することによって、上記課題が解決されることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、樹脂多孔質基体と、前記樹脂多孔質基体の両面に形成された、融点または熱軟化点が150℃以上である耐熱粒子を含む耐熱絶縁層とを備えた電気デバイス用の耐熱絶縁層付セパレータであって、下記数式1で表されるパラメータXが、0.15以上である、耐熱絶縁層付セパレータである。
【0012】
【数1】

【0013】
式中、A’およびA”は前記樹脂多孔質基体の両面に形成された各耐熱絶縁層の厚み(μm)であり、この際、A’≧A”であり、Cは前記耐熱絶縁層付セパレータの総厚み(μm)である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐熱絶縁層付セパレータにおいて、両面の耐熱絶縁層の厚みおよび総厚みを制御することによって、両面の耐熱絶縁層の収縮応力のバランスが改善される。また、樹脂多孔質基体の内部応力と耐熱絶縁層の収縮応力とのバランスが改善される。そのため、積層時にカールが発生しにくくなり、信頼性の高い電気デバイスを安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の代表的な一実施形態である平板積層型の非双極型リチウムイオン二次電池の概要を模式的に表した断面概略図である。
【図2】本発明の一実施形態による耐熱絶縁層付セパレータの概略を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態による耐熱絶縁層付セパレータの概略を示す模式図である。
【図4】本発明の代表的な一実施形態である平板積層型の非双極型リチウムイオン二次電池の外観を模式的に表した斜視図である。
【図5】実施例におけるカール高さの測定方法を説明する模式図である。
【図6】実施例および比較例で作製したセパレータについて、パラメータXの値とカール高さとの関係を示すグラフである。
【図7】実施例および比較例で作製したセパレータについて、パラメータYの値とカール高さおよび電池のレート特性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の電気デバイス用の耐熱絶縁層付セパレータおよびこれを用いてなる電気デバイスの実施形態を説明する。但し、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
本発明の代表的な一実施形態である電気デバイス用の耐熱絶縁層付セパレータおよびこれを用いてなる電気デバイスでは、大型の平板積層型の電気デバイスであっても各要素の積層時に不具合を生じにくく、生産性が向上しうる。そのため本実施形態の耐熱絶縁層付セパレータを用いてなる電気デバイス、特に非水電解質系二次電池は、車両の駆動電源用や補助電源用として優れている。
【0018】
すなわち、本実施形態の電気デバイスは、以下に説明する本実施形態の電気デバイス用の耐熱絶縁層付セパレータを用いてなるものであればよく、他の構成要素に関しては、特に制限されるべきものではない。本実施形態では、電気デバイスとしてリチウムイオン電池を例示して説明する。
【0019】
例えば、リチウムイオン電池の使用形態としては、リチウムイオン一次電池およびリチウムイオン二次電池のいずれに用いてもよい。好ましくは高サイクル耐久性にも優れることから、リチウムイオン二次電池として車両の駆動電源用等や携帯電話などの携帯機器向け等に利用するのが望ましい。
【0020】
上記耐熱絶縁層付セパレータは、平板積層型(扁平型)電池に適用し得るものである。平板積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
【0021】
また、リチウムイオン電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得るものである。
【0022】
リチウムイオン電池内の電解質層の種類で区別した場合には、電解質層に非水系の電解液等の溶液電解質を用いた溶液電解質型電池、電解質層に高分子ゲル電解質を用いたゲル電解質型電池などの電解質層にも適用し得る。
【0023】
したがって、以下の説明では、本実施形態のリチウムイオン電池用の耐熱絶縁層付セパレータを用いてなる非双極型(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池につき図面を用いて簡単に説明する。但し、本発明の技術的範囲がこれらに制限されるべきものではない。
【0024】
<電池の全体構造>
図1は、本発明の代表的な一実施形態である、平板積層型(扁平型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極集電体11の両面に正極活物質層13が配置された正極と、セパレータに電解液または電解質ゲルが保持された電解質層17と、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。
【0026】
これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層の正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層の負極集電体が位置するようにし、該最外層の負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0027】
正極集電体11および負極集電体12は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板25および負極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートシート29の端部に挟まれるようにしてラミネートシート29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27は、それぞれ必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0028】
上記で説明したリチウムイオン二次電池は、セパレータに特徴を有する。以下、当該セパレータを含めた電池の主要な構成部材について説明する。
【0029】
(活物質層)
活物質層13または15は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
【0030】
正極活物質層13は、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、LiMn、LiCoO、LiNiO、Li(Ni−Co−Mn)Oおよびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0031】
負極活物質層15は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、LiTi12)、金属材料、リチウム合金系負極材料などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、炭素材料またはリチウム−遷移金属複合酸化物が、負極活物質として用いられる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0032】
各活物質層に含まれるそれぞれの活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。
【0033】
好ましくは、正極活物質層13および負極活物質層15は、バインダを含む。
【0034】
活物質層に用いられるバインダとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらの好適なバインダは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり活物質層に使用が可能となる。これらのバインダは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
活物質層中に含まれるバインダ量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0036】
活物質層に含まれうるその他の添加剤としては、例えば、導電助剤、電解質、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。
【0037】
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0038】
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。
【0039】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0040】
正極活物質層および負極活物質層中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、非水電解質系二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。各活物質層の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、各活物質層の厚さは、2〜100μm程度である。
【0041】
(集電体)
集電体11、12は導電性材料から構成される。集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。本実施形態のリチウムイオン電池は、好ましくは大型の電池であり、用いられる集電体の大きさは、例えば長辺が100mm以上であり、好ましくは100mm×100mm以上であり、より好ましくは200mm×200mm以上である。集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。集電体の形状についても特に制限されない。図1に示す積層型電池10では、集電箔のほか、網目形状(エキスパンドグリッド等)等を用いることができる。
【0042】
集電体を構成する材料に特に制限はないが、好適には金属が採用されうる。具体的には、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅が好ましい。
【0043】
(電解質層)
電解質層17は、基材としての本実施形態のセパレータの面方向中央部に電解質が保持されてなる構成を有する。本実施形態のセパレータを用いることで、積層時の端部のカールの発生を抑制することができるため、信頼性の高い電池を安定的に製造することができる。
【0044】
[耐熱絶縁層付セパレータ(セパレータ)]
本実施形態では、セパレータとして、樹脂多孔質基体と、前記樹脂多孔質基体の両面に形成された、融点または熱軟化点が150℃以上である耐熱粒子を含む耐熱絶縁層とを備えた電気デバイス用の耐熱絶縁層付セパレータであって、下記数式1で表されるパラメータXが、0.15以上である、耐熱絶縁層付セパレータを用いることを特徴とする。
【0045】
【数2】

【0046】
式中、A’およびA”は前記樹脂多孔質基体の両面に形成された各耐熱絶縁層の厚み(μm)であり、この際、A’≧A”であり、Cは前記耐熱絶縁層付セパレータの総厚み(μm)である。
【0047】
本実施形態のセパレータによれば、端部の反り、カールの発生が抑制されうる。そのため、本実施形態のセパレータを用いると、平板積層型の電池の製造工程において、積層歩留まりが向上しうる。上記パラメータXの値が0.15を下回る場合はカールが無視できなくなり、特に大型の平板積層型電池を製造する場合、歩留まりが著しく低下する。
【0048】
上述の特許文献1に記載のセパレータは、巻回型電池に適用される場合には、セパレータにカールが生じることによる積層時の不具合は生じにくい。しかしながら、電気自動車用のリチウムイオン二次電池などの大型の平板積層型の電池に適用する場合には、一部材の面積が大きいため、僅かなひずみでも積層操作中に不具合につながる場合がある。例えば、図2(a)に示すように、大型の平板積層型の電池を作製する場合には、負極5、セパレータ1、正極4を積層ハンドを用いて順に搬送し、高速で積層するのが一般的である。しかしながら、セパレータは比較的柔らかい部材であるため、搬送時に図2(b)のようにセパレータにカールした部分があると、積層体にめくれた状態で積まれてしまう。そしてめくれた部分が踏み付けられ、カールしてめくれた部分を折り込んで積層されてしまう。このような場合、セルが短絡してしまうため、歩留まりが大幅に低下し、コストが上がってしまう。
【0049】
本実施形態の耐熱絶縁層付セパレータ1は、図3のように、樹脂多孔質基体2の両面に耐熱絶縁層3が設けられてなる構造を有する。
【0050】
セパレータのカールの原因は、樹脂多孔質基体に耐熱絶縁層を塗工し、温風乾燥などで加熱乾燥する際の熱応力の残存と考えられる。樹脂多孔質基体に含まれる樹脂は加熱時の線膨張係数が大きいため、樹脂多孔質基体は加熱乾燥すると伸ばされた状態となる。一方、耐熱絶縁層3は、融点または熱軟化点が150℃以上である耐熱粒子を用いて形成される。そのため、加熱乾燥の温度域においては線膨張係数が十分小さく、ほとんど膨張しない。そのため、塗工後の加熱乾燥が終わって室温に戻すと、樹脂多孔質層は大きく収縮するが、耐熱絶縁層はほとんど収縮しない。結果的に樹脂多孔質層と耐熱絶縁層とで収縮率の差が発生し、樹脂多孔質層は縮みたがり、耐熱絶縁層はそれに抗する結果、樹脂多孔質層を内側に巻く形態でカールが発生してしまう。
【0051】
そこで本発明者らは、樹脂多孔質層2の両面に耐熱絶縁層3を塗工し、耐熱絶縁層3の厚みA’、A”をできるだけ同一にすることで、樹脂多孔質層2の上下方向の耐熱絶縁層3の収縮応力のバランスが改善され、カールを抑制しうることを見出した。さらに、セパレータの総厚みCに対する耐熱絶縁層3の厚みA’、A”を特定の関係に制御することで、樹脂多孔質基体2の内部応力と耐熱絶縁層3の収縮応力とのバランスが改善され、カールを十分に抑制しうることを見出した。そして、上記数式1のパラメータXが0.15以上であれば、大きなカールが生じにくくなり、積層操作中にカールを折り込んで積層される問題が解決されることを見出した。
【0052】
上記数式1で表されるパラメータXは、樹脂多孔質基体の両面に形成された耐熱絶縁層の乾燥による収縮応力の差が顕在化するかどうかの指標であり、Xの値が小さいほど、耐熱絶縁層の収縮応力の差が顕在化することを意味する。樹脂多孔質基体の内部応力に対して、両面の耐熱絶縁層の収縮応力の差の影響が大きい場合、カールが生じやすい。例えば、セパレータの総厚みCに比して耐熱絶縁層の厚みA’、A”が小さいほどパラメータXの値は小さくなる。また、両面の耐熱絶縁層の目付けの差が大きいなどの理由で、両面の耐熱絶縁層の厚みの差が大きい場合、Xの値は小さくなる。本実施形態によるセパレータにおいては、上記パラメータXの値は、0.15以上であり、好ましくは0.20以上である。Xの値が0.15を下回る場合、カールの影響が無視できなくなり、大型の平板積層型電池の製造において歩留まりが著しく低下する。
【0053】
本実施形態のセパレータにおいて、好ましくは、下記数式2で表されるパラメータYが、0.3〜0.7の範囲である。
【0054】
【数3】

【0055】
式中、Xは上記で定義される通りであり、Dは耐熱絶縁層の空隙率(%)である。
【0056】
上述したように、本実施形態のセパレータにおいては、上記数式1で表されるパラメータXの値が大きいほど、端部のカールが生じにくい。しかしながら、耐熱絶縁層の厚み(A’、A”)を厚くすると、Xの値は大きくなるが、イオン透過性が低下し、レート特性が低下してしまう。本発明者らは、カールの発生を抑制しつつ、高いレート特性を保つための条件を検討した結果、耐熱絶縁層の厚みに加えて、耐熱絶縁層の空隙率(数式2におけるD)がレートを支配している因子の一つであることを見出した。カールの発生を抑制しつつ、高いレート特性を得るためには、2層の耐熱絶縁層が樹脂多孔質基体の両面から適切な押さえ力で両面均等に押さえていることが重要である。押さえ力が弱すぎたり偏りがある場合はカールが生じやすく、押さえ力が強すぎる場合は、イオン透過性が低下し、電池のレート特性が低下しうる。
【0057】
上記数式2で表されるパラメータYは、2層の耐熱絶縁層が樹脂多孔質基体の両面からどのくらい強く、均等に抑えているかの指標である。例えば、両面の耐熱絶縁層の目付けの差が大きすぎるなどの理由で樹脂多孔質基体の両面で押さえ力に偏りがある場合は、Yの値は小さくなる。また、耐熱絶縁層が薄い、または空隙率が大きいために耐熱絶縁層の押さえ力が弱い場合にもYの値は小さくなる。さらにセパレータの総厚みCが大きいほど、Yの値は小さくなる。一方、耐熱絶縁層が厚い、または空隙率が大きいために耐熱絶縁層の押さえ力が強い場合は、Yの値は大きくなる。本実施形態のセパレータにおいては、上記パラメータYの値は、好ましくは0.3〜0.7であり、より好ましくは0.35〜0.65である。Yの値が0.3以上であれば、カールが発生しにくい。Yの値が0.7以下であれば、高いレート特性が得られうる。
【0058】
なお、上記数式1、2において、耐熱絶縁層の厚みA’、A”およびセパレータの総厚みCとしては、マイクロゲージを用いて測定された値を用いる。また、耐熱絶縁層の空隙率D(%)は、耐熱絶縁層を構成する各成分iについて、単位面積あたりの成分iの質量Wi(g/cm)、成分iの密度di(g/cm)、耐熱絶縁層の厚みt(cm)を用いて、下記数式3から求めることができる。なお、両面の耐熱絶縁層の空隙率が相違する場合には、これらの平均値を空隙率D(%)の値とする。
【0059】
【数4】

【0060】
以下、本実施形態のセパレータについてさらに詳細に説明する。
【0061】
[樹脂多孔質基体]
樹脂多孔質基体としては、例えば、上記電解液を吸収保持する有機樹脂を含む多孔性シート、織布または不織布を挙げることができる。好ましくは、前記多孔性シートは微多孔質のポリマーで構成される微多孔質膜である。このようなポリマーとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;PP/PE/PPの3層構造をした積層体、ポリイミド、アラミドなどが挙げられる。特に、ポリオレフィン系微多孔質膜は、有機溶媒に対して化学的に安定であるという性質があり、電解液との反応性を低く抑えることができることから好ましい。
【0062】
前記多孔性シートの厚みとしては、用途により異なることから一義的に規定することはできない。しかし、車両のモータ駆動用二次電池の用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが望ましい。前記多孔性シートの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、十nm程度の孔径である)、その空隙率は20〜80%であることが望ましい。
【0063】
織布または不織布としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものが用いられうる。織布または不織布のかさ密度は、含浸させた電解液により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。織布または不織布の空隙率は50〜90%であることが好ましい。さらに、織布または不織布の厚さは、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは5〜100μmである。厚さが5μm以上であれば電解質の保持性が良好であり、100μm以下であれば抵抗が過度に増大しにくい。
【0064】
樹脂多孔質基体の調製方法は特に制限されないが、ポリオレフィン系微多孔質膜の場合、例えば、ポリオレフィンをパラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリンなどの溶剤に溶解させた後、シート状に押し出し、溶剤を除き、一軸延伸または二軸延伸を行う方法によって調製されうる。
【0065】
[耐熱絶縁層(耐熱絶縁多孔層)]
本実施形態では、耐熱絶縁層を構成する耐熱粒子の材質としては、融点または熱軟化点が150℃以上、好ましくは240℃以上である、耐熱性の高いものを用いる。このような耐熱性の高い材質を用いることで、電池内部温度が200℃前後に達してもセパレータの収縮を有効に防止することができる。その結果、電池の電極間ショートの誘発を防ぐことができるため、温度上昇による性能低下が起こりにくい電池が得られうる。
【0066】
また、前記耐熱粒子は、電気絶縁性を有し、電解液や耐熱絶縁層の製造の際に用いる溶媒に対して安定であり、さらに電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定なものであることが好ましい。前記耐熱粒子は、有機粒子であっても無機粒子であってもよいが、安定性の観点から無機粒子であることが好ましい。また、前記耐熱粒子は、分散性の観点から微粒子であることが好ましく、二次粒子径が例えば100nm〜4μm、好ましくは300nm〜3μm、さらに好ましくは500nm〜3μmの微粒子が用いられうる。前記耐熱粒子の形状も特に制限されず、球状に近い形状であってもよく、板状、棒状、針状の形態であってもよい。
【0067】
融点または熱軟化点が150℃以上の無機粒子(無機粉末)としては、特に制限されないが、例えば、酸化鉄(FeO)、SiO、Al、アルミノシリケート(アルミノケイ酸塩)、TiO、BaTiO、ZrOなどの無機酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの無機窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶;モンモリロナイトなどの粘土;などの粒子が挙げられる。前記無機酸化物は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物などであってもよい。また、前記無機粒子は、金属;SnO2、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの導電性酸化物;カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質材料;などで例示される導電性材料の表面を、電気絶縁性を有する材料、例えば、上記の無機酸化物などで被覆することにより電気絶縁性を持たせた粒子であってもよい。中でも、無機酸化物の粒子は水分散スラリーとして容易に樹脂多孔質基体上に塗工することができるため、簡便な方法でセパレータを作製することができ、好適である。無機酸化物の中でも、Al23、SiO2およびアルミノシリケート(アルミノケイ酸塩)が特に好ましい。
【0068】
融点または熱軟化点が150℃以上である有機粒子(有機粉末)としては、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子粒子や、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子粒子などの有機樹脂の粒子が例示できる。また、これらの有機粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、上記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(上記の耐熱性高分子微粒子の場合)であってもよい。中でも、工業的生産性、電気化学的安定性から、有機粒子として架橋ポリメタクリル酸メチル、ポリアラミドの粒子を用いることが望ましい。このような有機樹脂の粒子を用いることで、樹脂を主体とするセパレータを作製できるため、全体として軽量な電池が得られうる。
【0069】
なお、上述のような耐熱粒子は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
上記耐熱粒子を用いて構成される耐熱絶縁層の厚みとしては、電池の種類や用途などに応じて適宜決定されるものであり、特に制限されるべきものではなく、例えば、樹脂多孔質基体の両面に形成される耐熱絶縁層の厚みの合計が5〜200μm程度である。また、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、樹脂多孔質基体の両面に形成される耐熱絶縁層の厚みの合計が、例えば5〜200μm、好ましくは5〜20μm、より好ましくは6〜10μmである。耐熱絶縁層の厚みが、かかる範囲にあることで、厚さ方向の機械的強度を高めつつ、高出力性を確保できる。
【0071】
また、樹脂多孔質基体の両面に形成される耐熱絶縁層の厚みの比A’/A”は、数式1を満たすように設定されればよいが、好ましくは1.2以下であり、より好ましくは1.1以下である。
【0072】
上記耐熱粒子を用いて構成される耐熱絶縁層の空隙率は、特に制限されるものではないが、イオン伝導性の観点から、好ましくは40%以上であり、より好ましくは50%以上である。また、空隙率が40%以上であれば、電解液、電解質ゲルの保持性が高められ、高出力の電池が得られうる。また、前記耐熱絶縁層の空隙率は、好ましくは70%以下であり、より好ましくは60%以下である。前記耐熱絶縁層の空隙率が70%以下であれば、十分な機械的強度が得られ、異物による短絡を防止する効果が高い。
【0073】
[製造方法]
本実施形態のセパレータの製造方法は特に制限されないが、例えば、樹脂多孔質基体の両面に、融点または熱軟化点が150℃以上である耐熱粒子を含有する、スラリー状の耐熱絶縁層形成用組成物を塗布した後、乾燥する方法が用いられうる。
【0074】
耐熱絶縁層形成用組成物は、耐熱粒子を溶媒に分散させたものであり、必要に応じてさらに有機バインダなどを含んでもよい。耐熱絶縁層の形状安定性を高めるための有機バインダとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。有機バインダを含む場合、前記有機バインダの使用量は、前記耐熱粒子と前記有機バインダとの合計質量に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。溶媒としては耐熱粒子を均一に分散できるものであれば特に制限されないが、例えば、水、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフランなどのフラン類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトンなどのケトン類、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチルなどが挙げられる。これらの溶媒に、界面張力を制御する目的で、エチレングリコール、プロピレングリコール、モノメチルアセテートなどを適宜添加してもよい。特に前記耐熱粒子として無機酸化物粒子を用いる場合には溶媒として水を用いて水分散スラリーを作製することで、簡便に耐熱絶縁層を作製することができる。また、耐熱絶縁層形成用組成物は、固形分濃度30〜60質量%に調製することが好ましい。
【0075】
前記樹脂多孔質基体に耐熱絶縁層形成用組成物を塗布する際の目付けは特に制限されないが、好ましくは5〜20g/mであり、より好ましくは9〜13g/mである。上記範囲であれば、適当な空隙率および厚みを有する耐熱絶縁層が得られうる。塗工方法も特に制限はなく、例えば、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。
【0076】
塗布した後の耐熱絶縁層形成用組成物を乾燥させる方法も特に制限されないが、例えば、温風乾燥などの方法が用いられうる。乾燥温度は、例えば、30〜80℃であり、乾燥時間は、例えば、2秒〜50時間である。
【0077】
このようにして得られたセパレータの総厚みとしては、特に制限されないが、通常5〜30μm程度であれば使用可能である。コンパクトな電池を得るためには、電解質層としての機能が確保できる範囲で極力薄くすることが好ましく、薄膜化して電池出力の向上に寄与するためには、セパレータの総厚みは、好ましくは20〜30μmであり、より好ましくは20〜25μmである。
【0078】
電解質層としては、本実施形態のセパレータを用いて形成されているものであれば、特に制限されるものではなく、その使用目的に応じて、イオン伝導性に優れる電解液含有セパレータを電解質層として用いることができるほか、高分子ゲル電解質等をセパレータに含浸、塗布、スプレーなどして形成した電解質層も好適に利用することができる。
【0079】
(a)電解液含有セパレータ
本実施形態のセパレータに染み込ませることのできる電解液としては、電解質として、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBOB、LiCFSOおよびLi(CFSOの少なくとも1種類を用い、溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランおよびγ−ブチルラクトンよりなるエーテル類から少なくとも1種類を用い、前記電解質を前記溶媒に溶解させることにより、電解質の濃度が0.5〜2Mに調整されているものであるが、本発明はこれらに何ら制限されるべきものではない。
【0080】
上記セパレータとしては、既に説明した本実施形態のセパレータを用いるものであるため、ここでの説明は省略する。
【0081】
上記セパレータに含浸などにより保持させる電解液量は、セパレータの保液能力範囲まで含浸、塗布などさせればよいが、当該保液能力範囲を超えて含浸させてもよい。これは、例えば、双極型電池の場合、電解質シール部に樹脂を注入して電解質層からの電解液の染み出しを防止できるため、該電解質層のセパレータに保液できる範囲であれば含浸可能である。同様に、非双極型電池の場合、電池要素を電池外装材に封入して電池外装材内部からの電解液の染み出しを防止できるため、該電池外装材内部に保液できる範囲であれば含浸可能である。該電解液は、真空注液法などにより注液した後、完全にシールすることができるなど、従来公知の方法でセパレータに電解液を含浸させることができる。
【0082】
(b)ゲル電解質層
本発明のゲル電解質層では、本実施形態のセパレータにゲル電解質を含浸、塗布などにより保持させてなるものである。
【0083】
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、上記の液体電解質(電解液)が注入されてなる構成を有する。マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0084】
ゲル電解質中の上記液体電解質(電解液)の割合としては、特に制限されるべきものではないが、イオン伝導度などの観点から、数質量%〜98質量%程度とするのが望ましい。本実施形態では、電解液の割合が70質量%以上の、電解液が多いゲル電解質について、特に効果がある。
【0085】
ゲル電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0086】
電解質層の厚さは、特に限定するものではないが、基本的には本実施形態のセパレータの厚さと略同等かあるいは若干厚い程度であり、通常5〜30μm程度であれば使用可能である。
【0087】
尚、本発明では、上記電解質層の電解液中には、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば、従来公知の各種添加剤を含有していてもよい。
【0088】
(集電板およびリード)
電池外部に電流を取り出す目的で、集電板を用いてもよい。集電板は集電体やリードに電気的に接続され、電池外装材であるラミネートシートの外部に取り出される。
【0089】
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが好ましい。なお、正極集電板と負極集電板とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。
【0090】
正極端子リードおよび負極端子リードに関しても、必要に応じて使用する。正極端子リードおよび負極端子リードの材料は、公知のリチウムイオン二次電池で用いられる端子リードを用いることができる。なお、電池外装材29から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0091】
(電池外装材)
電池外装材29としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。
【0092】
なお、上記のリチウムイオン二次電池は、従来公知の製造方法により製造することがで
きる。
【0093】
<リチウムイオン二次電池の外観構成>
図4は、平板積層型リチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
【0094】
図4に示すように、平板積層型リチウムイオン二次電池10は、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極集電板25、負極集電板27が引き出されている。発電要素21は、リチウムイオン二次電池10の電池外装材29によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、正極集電板25および負極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。発電要素21は、図1に示す正極(正極活物質層)13、電解質層17および負極(負極活物質層)15で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
【0095】
また、図4に示す集電板25、27の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極集電板25と負極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極集電板25と負極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出すようにしてもよいなど、図4に示すものに制限されるものではない。
【0096】
なお、上記実施形態では、電気デバイスとしてリチウムイオン二次電池を例示したが、これに制限されるわけではなく、他のタイプの二次電池、さらには、一次電池にも適用できる。また、電池だけではなく、キャパシタにも適用できる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例のみに限定されることはない。
【0098】
<実施例1>
樹脂多孔質基体であるポリエチレン(PE)微多孔膜(膜厚18.9μm、空隙率42%)の両面に耐熱絶縁層用組成物であるアルミノシリケート微粒子(平均二次粒子径1μm、融点>1000℃)の水分散体(固形分濃度40質量%)をブレードコータにより塗布した。その後、温風乾燥して、耐熱絶縁層を形成し、耐熱絶縁層付セパレータを作製した。この耐熱絶縁層付セパレータは、幅200mmで、ロール状に形成した。
【0099】
耐熱絶縁層は、片面厚みが2.8μm以上になるように塗工したが、厚い側が3.1μm、薄い側が2.5μmで仕上がった。得られた耐熱絶縁層付セパレータは、総厚みが24.5μmであり、耐熱絶縁層の空隙率が47%であった。
【0100】
<実施例2〜12、比較例1〜4>
実施例1と同様の手法で、下記表1に示す樹脂多孔質基体、耐熱絶縁層を有するセパレータを作製した。
【0101】
実施例2、3、6、11、比較例2では、樹脂多孔質基体として、ポリプロピレン(PP)微多孔膜(空隙率55%)を用いた。
【0102】
実施例4、5、7、9、10、比較例3では、樹脂多孔質基体として、ポリエチレン(PE)微多孔膜(空隙率52%)を用いた。
【0103】
実施例8では、樹脂多孔質基体としてポリエチレンテレフタレート(PET)製の不織布(膜厚11.1μm、空隙率48%)を用いた。
【0104】
比較例1、4、5では、樹脂多孔質基体として、ポリエチレン(PE)微多孔膜(空隙率42%)を用いた。
【0105】
実施例2〜7、比較例2、3では、耐熱粒子として、実施例1のアルミノシリケートに代えて高純度アルミナ粒子(平均二次粒子径1.5μm、融点>1000℃)を用いた。
【0106】
実施例8では、実施例1のアルミノシリケート水分散体に代えてコロイダルシリカ粒子(平均二次粒子径0.4μm、融点>1000℃)のメチルエチルケトン分散体(固形分濃度30質量%)を用いた。
【0107】
実施例9では、実施例1のアルミノシリケート水分散体に代えて、架橋ポリアクリル酸メチル粒子(平均二次粒子径1μm、熱軟化点約160℃)を用いた。
【0108】
実施例12では、耐熱絶縁層用組成物として、芳香族ポリアミド(アラミド)樹脂のNMP分散体を用い、多孔質層とするためにエチレングリコールを添加した。
【0109】
<比較例5>
耐熱絶縁層を樹脂多孔質基体の片面に塗布したことを除いては実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0110】
得られた耐熱絶縁層付きセパレータの耐熱絶縁層の厚みA’、A”(μm)、総厚みC(μm)、耐熱絶縁層の空隙率D(%)を表1にまとめた。
【0111】
<カール高さ>
各実施例および比較例で作製したセパレータのカール高さを以下の手順で測定した。ロール巻き出し先端から図5に示すようにセパレータを略正方形となるように切り出し、除電ブラシにて2度なでて静電気を除去した。その後、図5のA〜Hの8箇所の60秒後の計測水平面の浮き上がりを測定し、その最大値をカール高さ(mm)とした。丸く巻きこんだ場合には、巻いた部分をほどいて上方に伸ばし、その高さを測定値とした。
【0112】
<電池評価>
正極集電体としてアルミニウム箔を、負極集電体として銅箔をそれぞれ準備した。正極活物質としてコバルトニッケルマンガン酸リチウム(LiNi0.33Co0.33Mn0.33)を用いて正極活物質スラリーを調製した。一方、負極活物質として人造黒鉛を用いて負極活物質スラリーを調製した。正極活物質スラリー、および負極活物質スラリーを、それぞれ正極集電体であるアルミ箔、および負極集電体である銅箔に塗工し、乾燥させた後ロールプレスして正極および負極を作製した。上記で作製した正極、負極の間に各実施例、比較例で作製したセパレータを挟み、非水電解液としてエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0ml/Lとなるように溶解させて調製したものを注入し、ラミネート封止して評価用電池を作製した。
【0113】
電池作製後、初回充放電を行い、電池容量を測定した。初回放電容量は20mAhであった。本電池において、4.0mAでの放電容量と、50mAでの放電容量とを測定し、その比(50mAでの放電容量/4.0mAでの放電容量)をレート特性(レート比)(%)とした。
【0114】
結果を表1に示す。また、パラメータXとカール高さとの関係を図6に、パラメータYとカール高さおよびレート特性との関係を図7に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
実施例1〜12で作製したセパレータは、パラメータXが0.15以上の値であった。いずれもカール高さが5mm以下であり、平板連続積層機で積層した場合も問題はなく、連続して良品を得られた。ここで、平板連続積層機での積層は、熱刃での切断、多孔吸着パットでの搬送、および4点クランプでの積層を含む工程(3秒程度)を数十回繰り返して、端部が折り込まれることなく積層されることを確認した。
【0117】
比較例1〜4のセパレータでは、平板連続積層機において、電極上へのセパレータ搬送中にセパレータがしばしばめくれ、積層体にした際にセパレータが踏みつけられた状態で積層されてしまい、使用不可能になってしまった。特に、片面塗工した比較例5においては、カットした時点で直ちにカールし、搬送自体が不可能であった。
【0118】
レート特性に関しては、実施例1〜9で作製したセパレータでは、パラメータYが0.3〜0.7であり、85%を上回る十分な出力が得られた。一方、パラメータYの値が0.7を超える実施例10〜12では、レート特性が85%を下回り、製品としての性能がやや不十分であった。
【0119】
以上の結果から、セパレータの総厚みに対する耐熱絶縁層の厚みを調節し、両面の耐熱絶縁層の厚みのバランスをとることで、カールの発生が抑制できることがわかった。
【0120】
さらに上記の条件に加えて、耐熱絶縁層の厚みや空隙率を調整することで、同時に出力特性の高い電池が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0121】
1 耐熱絶縁層付セパレータ(セパレータ)、
2 樹脂多孔質基体、
3 耐熱絶縁層、
4 正極、
5 負極、
10 リチウムイオン二次電池(積層型電池)、
11 正極集電体、
12 負極集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 正極集電板、
27 負極集電板、
29 電池外装材(ラミネートフィルム)、
A’、A” 耐熱絶縁層の厚み、
C 耐熱絶縁層付セパレータの総厚み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂多孔質基体と、前記樹脂多孔質基体の両面に形成された、融点または熱軟化点が150℃以上である耐熱粒子を含む耐熱絶縁層とを備えた電気デバイス用の耐熱絶縁層付セパレータであって、下記数式1で表されるパラメータXが、0.15以上である、耐熱絶縁層付セパレータ:
【数1】

式中、A’およびA”は前記樹脂多孔質基体の両面に形成された各耐熱絶縁層の厚み(μm)であり、この際、A’≧A”であり、Cは前記耐熱絶縁層付セパレータの総厚み(μm)である。
【請求項2】
下記数式2で表されるパラメータYが0.3〜0.7の範囲である、請求項1に記載の耐熱絶縁層付セパレータ:
【数2】

式中、Xは上記で定義される通りであり、Dは耐熱絶縁層の空隙率(%)である。
【請求項3】
前記パラメータXが、0.20以上である、請求項1または2に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項4】
前記耐熱粒子が、無機酸化物の粒子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項5】
前記耐熱粒子が、有機樹脂の粒子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐熱絶縁層付セパレータを含む、電気デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−8481(P2013−8481A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138983(P2011−138983)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】