説明

耐熱鋼

【課題】長時間クリープ破断強度に優れ、耐水蒸気酸化性にも優れた高強度耐熱鋼を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.01〜0.08%未満、Si:0.30〜1.0%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Mn:0.2〜1.2%、Ni:0.3%以下、Cr:8.0〜11.0%、Mo:0.1〜1.2%、W:1.71〜2.02%、V:0.10〜0.30%、Nb:0.02〜0.12%、Co:0.01〜4.0%、N:0.01〜0.08%、B:0.001以上で0.010%未満、Cu:0.3%以下、Al:0.010%以下、(Mo%+0.5×W%)を1.0〜1.6、(C%+N%)の量を0.02〜0.15%とし、調質熱処理により得られる焼戻しマルテンサイト単相組織からなる耐熱鋼である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱鋼に係り、特に発電効率を向上させた超々臨界圧の火力プラントに好適なボイラ鋼管用の高強度鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、火力発電プラントではCO2排出量削減等、地球規模の環境問題を背景としてプラント効率の向上のために蒸気条件の高温高圧化が進められている。そして、現在得られる最高の主蒸気温度である600℃程度の蒸気温度から、さらに650℃、究極的には700℃程度の蒸気温度を達成できるプラントの開発研究が国内外で進められている。このような蒸気温度の上昇に伴い、ボイラの高温耐圧部にはクリープ破断強度の高い耐熱鋼が必要となる。そのため、ボイラの伝熱管には、耐食性とクリープ破断強度の優れたオーステナイト系の耐熱鋼が多く使われるようになってきた。
【0003】
一方、管寄せや配管のような大径で厚肉管の場合は、これらオーステナイト系耐熱鋼を用いた場合、フェライト系耐熱鋼に比べて線膨張係数が高く、熱伝達率が小さい。したがって、プラントの起動時や停止時には、これらの管寄せや配管に大きな熱応力が発生して熱疲労による損傷を受けやすいという問題がある。また材料費や加工費の上昇による経済的な問題もあった。このためクリープ破断強度が高く、耐食性も良好な新しいフェライト系耐熱鋼の開発が望まれていた。このようなフェライト系耐熱鋼の例としては、従来の9%Cr1%MoNbV鋼をベースにCrの割合を増加し、WとCo等の合金元素を添加してクリープ破断強度の改善を図った材料が提案されている(例えば特許第2528767号)。
【0004】
しかしながら、例えば650℃付近の蒸気温度となるボイラでフェライト系耐熱鋼を使用する場合、フェライト系耐熱鋼は多くのWやその他の合金元素を含有するため、長時間使用していると脆弱な金属間化合物あるいは炭化物の凝集粗大化を生じる。そのため、数万時間以上の長時間の使用でクリープ破断強度が低下することが分かってきた。特に600℃を大きく超えた、650℃付近の高温においては、数万時間前後でクリープ強度が急激に低下する、いわゆる腰折れ現象が高Cr鋼開発の大きな障壁となっている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
また、これら管寄せや配管は、ボイラ鋼管の内部流体である高温水蒸気に長期間晒される。高Crフェライト鋼が650℃付近の高温で使用される場合には水蒸気による酸化スケールの生成が顕著となるため(例えば、前記ワークショップ前刷集 p153)、スケールの成長やスケールの剥離、そしてスケールの下流への飛散も問題となる。この問題を改善するために貴金属を添加する特殊な方法(非特許文献2)も提案されているが、材料費が著しく上昇するため、実用化には至っていない。
【0006】
そして、非特許文献3によれば、9〜12%のCrを含有した高クロム鋼に、VやNb、N、Mo、W、Bなどの成分を加えてクリープ破断強度の強化を図った構成が記載されている。前記非特許文献3の高クロム鋼の中には長時間における600℃付近のクリープ破断強度が確保できているものもあるが、650℃付近のクリープ破断強度は、600℃における強度に比べてかなり低下する。
【0007】
また、本発明者らは先に650℃付近のクリープ破断強度が高いフェライト系耐熱鋼の開発を行い特許出願を行った(特開2005−23378号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2528767号公報
【特許文献2】特開2005−23378号公報
【非特許文献1】R.Viswanathan et al. "Materials for Ultrasupercritical Coal-fired Power Boilers"(p146〜p157); R.Blum et al. "Materials Development in Thermie Project for 700℃ USC Plant" (p158〜p176) 第8回超鉄鋼ワークショップ委員会 独立行政法人 物質・材料研究機構 超鉄鋼研究センター 2004年7月22日
【非特許文献2】春山他 「9Crフェライト鋼の水蒸気酸化挙動に及ぼすPb添加量の影響」 材料とプロセス 日本鉄鋼協会 2003年3月 第16巻 第3号 p.648
【非特許文献3】Gabrel J et al. "Status of development of the VM12 steel for tubular application in advanced power plants" Proceedings of the 8th Liege Conference Part II, Materials for Advanced Power Engineering 2006, Forschungszentrum Julich GmbH, September 2006, p1068〜1075
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らが先に発明した特許文献2記載のフェライト系耐熱鋼は650℃付近のクリープ破断強度が高いが、長時間にわたる強度が不足し、また耐水蒸気酸化性(管内の水蒸気で酸化する性質が改善される)にも改善の余地があった。このように従来提案された合金では650℃付近で使用する材料の特性としてはまだ不十分である。さらに650℃付近のクリープ破断強度が高く、しかも長時間にわたって強度が安定し、同時に耐水蒸気酸化性に優れた耐熱鋼が必要とされている。
【0010】
本発明の課題は、従来の材料に比べてさらに650℃付近で使用される場合の長時間クリープ破断強度に優れ、かつ水蒸気酸化性にも優れた耐熱鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記本発明の課題は、以下の解決手段により達成される。
請求項1記載の発明は、質量%で、炭素(C):0.01〜0.08%未満、ケイ素(Si):0.30〜1.0%、リン(P):0.020%以下、硫黄(S):0.010%以下、マンガン(Mn):0.2〜1.2%、ニッケル(Ni):0.3%以下、クロム(Cr):8.0〜11.0%、モリブデン(Mo):0.1〜1.2%、タングステン(W):1.71〜2.02%、バナジウム(V):0.10〜0.30%、ニオブ(Nb):0.02〜0.12%、コバルト(Co):0.01〜4.0%、窒素(N):0.01〜0.08%、ホウ素(B):0.001以上で0.010%未満、銅(Cu):0.3%以下、アルミニウム(Al):0.010%以下、さらに(Mo%+0.5×W%)の量を1.0〜1.6に制限し、さらに(C%+N%)の量を0.02〜0.15%に制限した成分で、調質熱処理により得られる焼戻しマルテンサイト単相組織からなることを特徴とする耐熱鋼である。
【0012】
炭素(C)は、高Crフェライト系耐熱鋼の強化に寄与する炭化物(M23C6、M6C、M7C3等)を形成するのに重要な元素である。従来の実用鋼では、炭素は0.1〜0.12%程度必要とされてきたが、0.08%を超えると炭化物の凝集・粗大化を促進してクリープ破断強度を低下させるため、本発明では0.08%以下として、長時間クリープ強度を安定させる。Cの含有量は低いほどクリープ破断強度はよくなるが、0.01%未満では靭性が悪くなるため、実用鋼として0.01〜0.08%とする。Cの含有量の細かな制御は製鋼上高度な技術を要するが、特にCの含有量を従来の鋼の0.1%前後から0.08%以下に減少すれば、Ac1点(変態点)を大幅に高め、長時間クリープ破断強度をより高めることができる。
【0013】
ケイ素(Si)は、脱酸剤として鋼を製造する際に必要な元素であった。しかし、近年は真空脱酸処理が可能となり、真空脱酸処理により低Si鋼が得られるようになって、高Cr系耐熱鋼にも利用されるようになってきた。Siは耐酸化性を向上させる元素で、600℃級のボイラ材として必要な耐水蒸気酸化性を確保するためには最低0.30%は必要である。なお、650℃級のボイラ用材料として十分な耐水蒸気酸化性を確保するためには、一般的にスケール厚さが200μm以下であることが望ましい。
【0014】
一方、Siを1.0%を超えて多量に添加すると、タングステン(W)のラーベス相等の生成が促進され、また粒界の偏析等によって延性を低下させる。したがって、クリープ強度を重視する場合はSiの含有量が低く抑えられる傾向があり、650℃付近で鋼を使う場合の障害となっていた。
【0015】
しかし本発明では、後述するアルミニウム(Al)のM23C6炭化物の凝集粗大化の低減効果によりSiの含有量を高めても高いクリープ強度が得られることが見出された。したがって、650℃級のボイラ用材料として十分な耐水蒸気酸化性を確保するため、Si含有量は0.30〜1.0%とする。また、鋼の延性をより重視する場合は、Siの含有量が高いと延性が低下することから、Siの含有量を0.30〜0.8%とすればよい(図1)。
【0016】
マンガン(Mn)は、脱酸剤として0.2%以上必要であり、同時にオーステナイト生成元素としてδフェライトの生成を抑制する有益な元素である。しかし、1.2%を超えて添加するとAc1変態点が低下し、クリープ強度が低下する。従ってMn含有量は0.2〜1.2%に限定する。
【0017】
リン(P)及び硫黄(S)は、低融点元素であるため、含有量が多いとクリープ破断強度に悪影響を及ぼすので、その含有量は低いほどよい。しかし、PとSを完全に除くことは難しく、その含有量を極端に低くすると材料価格の上昇を招くため極端に低い組成にする必要はなく、Pは0.020%以下、Sは0.010%以下に制限すれば良い。
【0018】
クロム(Cr)は、鋼の耐酸化性、耐水蒸気酸化性を与える重要な元素であるが、その含有量が11%を超えると、δフェライトを形成して靭性が低下し、またM23C6型炭化物等の析出と析出による成長粗大化も顕著になって長時間クリープ強度を低下させる。したがって、含有量は11%以下にする必要がある。また本発明ではSiを多く添加して耐水蒸気酸化性を向上させているが、Crが8%未満ではその効果が十分でないため、8〜11%とする。
【0019】
モリブデン(Mo)は、炭化物の微細析出によりクリープ破断強度を高める有効な元素である。したがって、モリブデンの含有量は炭化物の析出による強化のためには少なくとも0.1%以上必要であるが、1.2%を超えて添加し、さらにWを0.1%以上含有するとδフェライトが生成し、またMoを含むM23C6型炭化物の凝集粗大化が生じてクリープ強度の低下につながる。したがって、Moの含有量は0.1〜1.2%とする。
【0020】
タングステン(W)は、炭化物の析出強化と母地への固溶強化作用により本鋼のクリープ破断強度を高めるために最も重要な元素である。従来は3%前後の添加で効果があって、4%以上添加するとWを含むM23C6型炭化物やラーベス相(Fe2W)が凝集粗大化してクリープ破断強度を低下させると言われていた。しかし、3%程度の添加でも長時間クリープ破断強度を低下させることが分かったため、含有量を低めに抑え、且つ650℃2万時間で100N/mm以上のクリープ破断強度が得られる2.5%以下とする(図2)。また、含有量が1.0%未満では図2に示すデータから推測すると、クリープ破断強度の向上が図れないため、表1に示す実施例に開示された本発明鋼A〜Fの通り1.71〜2.02%とする。また、WはMoと複合してクリープ強度に影響するので、W単独の含有率を規定するとともに、(Mo%+0.5×W%)の値をクリープ破断強度の向上に有効な1.0〜1.6%とする。
【0021】
コバルト(Co)は、オーステナイト生成元素であり、Ac1変態点をあまり低下させずにδフェライトの生成を防止するため、重要な元素である。δフェライト量は、添加する他の合金元素量によって変動するが、コバルト(Co)は、少なくとも0.01%、多くても4.0%添加すれば十分にδフェライトの生成を防止することができる。
【0022】
バナジウム(V)は、Vの炭化物を生成して比較的少量で有効にクリープ破断強度を高める元素であり、Vの炭化物の生成には少なくとも0.10%の添加が必要である。しかし、含有量が0.30%を超えると生成したVの炭化物が凝集粗大化して逆にクリープ破断強度を低下させるため、0.10〜0.30%とする。
【0023】
ニオブ(Nb)は、安定な炭窒化物であるNb(C、N)(ニオブの炭窒化物)を形成して少量でもクリープ破断強度を高めることができるが、含有量が0.12%を超えると短時間の強度は向上するが長時間強度はよくない。また、0.02%未満では析出するNb(C、N)が不足して十分に強化されないため、0.02〜0.12%とする。
【0024】
窒素(N)は、Vの窒化物形成による析出強化及び自身の固溶強化によってクリープ破断強度を高める。但し0.08%を超える窒素は窒化物を多く形成し過ぎて凝集粗大化が起こり、クリープ破断強度が低下するため、0.08% 以下とする。また窒素の含有量が0.01%未満ではクリープ破断強度を高める効果が十分に得られないため、0.01〜0.08%とする。Nによるクリープ破断強度はC量と密接な相互関係があり、(C%+N%)を0.02〜0.15%に制限した場合に最も高いクリープ破断強度が得られる。
【0025】
ニッケル(Ni)は、靭性の向上とδフェライトの生成を抑える有力な元素であり、従来のボイラ用鋼では0.5%程度の範囲で特に制限されることなく添加されていた。しかし、ニッケルの添加が、Ac1変態点を著しく低下させて長時間クリープ強度に悪影響を及ぼすことが分かったため、クリープ破断強度の観点からは0.1%以下に極力低減することが好ましい。しかし、そのためには製鋼の際に屑鉄、炉壁、取鍋等からニッケルが混入する量をできるだけ少なくする必要があり、製鋼技術上の制限が大きくなるので、実用鋼として0.3%を上限とする。なお、Niは含有されなくてもよい。
【0026】
アルミニウム(Al)は、従来、脱酸剤及び結晶粒微細化剤として添加されている。しかし、0.010%以上の過剰なAlはクリープ強度の向上に有効な窒素をAl窒化物として捕らえたり、またM23C6型炭化物の表面に濃化してCrの拡散を促進し、M23C6型炭化物の凝集粗大化を早める。また、本発明者らはAlの含有率が一定値を超えると微量でも650℃付近の数万時間の長時間クリープ強度を大きく低下させることを発見した。従来の実用鋼ではAlを0.03%程度まで添加して靭性の向上を図っているが、本発明の耐熱鋼はAl量を0.01%以下に抑えることにより、650℃の長時間クリープ強度を著しく高めている。
【0027】
Alの含有率をこのように極低レベルに抑えることは、従来は非常に困難であった。しかし、近年は真空炭素脱酸法で極低レベルのAl鋼を製造することが可能になった。本発明の鋼はSi量を増加させたことも特徴の一つであり、Alの脱酸作用が失われても、Siによる脱酸作用が利用できるので、鋼中の酸素量を低くすることができる。なお、Alは含有されなくてもよい。
【0028】
Al量とNi量を種々変化させた材料における650℃でのクリープ破断強度縦軸に、横軸にAl量を表した結果を図3に示す。650℃10万時間のクリープ破断強度として100N/mm前後を得るためには、2万時間で100N/mmを超える強度が必要である。そのためには例えばNi量が約0.3%の場合、Al量を0.005%程度以下に抑えればよい。Ni量が0.1%以下であれば、Al量の許容範囲を広げることができる。
【0029】
本発明の鋼では、クリープ強度の安定化のために特に有害な元素であるAlとNiを低減したことを特徴としており、両者の低減が不可欠である。図3と同じ試験結果を横軸のAl量をAl量+(0.1×Ni量)にして書き換えたものを図4に示す。これらの試験結果から、確実に100N/mmを超えるクリープ破断強度が得られるAl量とNi量の範囲として、(Al%+0.1×Ni%)を0.02%以下に制限する。
【0030】
銅(Cu)は、不純物として鋼に混入すると、Coと同様にδフェライトの生成を抑制する作用を有する。しかし、Cuの混入は600℃以上で長時間クリープ破断強度を低下させることがあるので、0.3%以下に制限する。なお、Cuは含有されなくてもよい。
【0031】
ホウ素(B)は、粒界強化元素(結晶粒界を強化する元素)であり、微量でも著しくクリープ破断強度を高める。またM23C6型炭化物中に固溶し、M23C6型炭化物の凝集粗大化を抑制する作用によりクリープ破断強度を高める作用があるので、少なくとも0.001%添加する。しかし、Bを0.010%以上添加すると鋼の溶接性が著しく悪化するため、Bの添加量は0.010%未満とする。
【0032】
本発明の耐熱鋼の主要化学成分範囲は上記の通りであるが、不純物として次の元素をそれぞれに量%で記した含有割合未満の量で含むこともある。
【0033】
Ta<0.2%、Ti<0.1%、Zr<0.2%、La<0.1%、
Ce<0.1%、Pd<0.2%、Re<0.5%、Hf<0.3%
これらの元素にも強度向上の効果があり、その作用は以下の通りである。
【0034】
Ta:TaCを形成し、基地を強化する。
Ti:TiCを形成し、基地を強化する。
Zr:ZrCを形成し、基地を強化する。
La、Ce:鋼中の酸素の割合を低下させてクリープ破断強度を高める。
Pd:クリープ破断強度、耐酸化性(耐水蒸気酸化性)を向上させる。
Re:基地を強化する。
Hf:HfCを形成し、基地を強化する。
【0035】
本発明の耐熱鋼は溶解、鍛造後に1,050〜1,100℃の温度での焼きならし及び750〜800℃での焼戻しを行い、焼戻しマルテンサイト組織として使用する。靱性の確保の観点からは、焼戻しマルテンサイト組織の単相とすることが望ましい。しかし、高温用ボイラ部材として用いる際に、ある程度の靱性の低下が許容される場合は、CrやSi等のフェライト形成元素を上記制限範囲内で多めに設定してδフェライトを析出させてもよい。また、靱性とクリープ破断強度の点からもδフェライトは体積率が35%を超えると強度と靱性が低下することが知られているため、30%以下に抑えるように限定する。
【0036】
本発明の鋼は、従来の高Cr耐熱鋼の思想に対して、Cを半分程度に低減し、AlとNiを極力低く抑え、Siを増加させたことが特徴である。そして、これらの複合作用によって、初めてクリープ強度の安定性を向上させ、同時に耐酸化性(耐水蒸気酸化性)を改善させることにより、650℃まで使用可能な高Crフェライト系耐熱鋼を達成できる。鋼の使用目的に応じて種々の製造方法を採ることが可能であり、鋼管のみならず鋼板としても使用できる。
【0037】
また、本発明による耐熱鋼は従来の耐熱鋼に比べて著しくクリープ破断強度が向上し、かつ長時間の使用においても安定した強度と延性を有する。したがって、超々臨界圧ボイラの高温耐圧部に適用すれば蒸気温度を650℃前後に高めることが可能となって火力発電プラントのプラント効率を向上できる。また水蒸気酸化スケールの成長や剥離、そして飛散による機器の損傷を軽減できる。このため、プラントの耐久性も向上し、火力発電プラントにおける石炭等の燃料消費量低減及びCO2排出量削減に顕著な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に関わる9CrWCo系鋼でSi量を変化させた場合の水蒸気による酸化試験結果を示した図である。
【図2】本発明に関わる9CrWCo系鋼でW量を変化させた場合のクリープ破断試験結果を示した図である。
【図3】本発明に関わる9CrWCo系鋼でAlとNi量を変化させた場合の横軸をAl量としてクリープ破断試験結果を示した図である。
【図4】図3と同じ試験結果を横軸のAl量を(Al+0.1×Ni)量にして書き換えた図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の実施例を以下に実例を用いて説明する。
表1に示す化学組成を有する本実施例の耐熱鋼と比較鋼を真空誘導溶解炉において溶製し、各々50kgのインゴットに鋳造した。比較鋼Aは公称9Cr1MoNbV鋼、比較鋼B及びCは公称9Cr0.5Mo1.8WNbV鋼で、いずれもボイラ用鋼として実用化されている。熱間鋳造によって厚さ20mmの鋼板とした後、1,050℃×60分の焼きならし及び780℃×60分の焼戻しを施し、クリープ破断試験を実施した。また、鋼鈑から小型の板状試験片を加工し、650℃において水蒸気による酸化試験を実施した。
【0040】
【表1】

【0041】
本実施例の鋼及び比較鋼のクリープ破断試験の結果を各温度毎に応力−破断時間線図としてプロットし、長時間側へ外挿して推定した600及び650℃における10万時間クリープ破断強度を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
本発明の鋼A及びBは、650℃×10万時間のクリープ破断強度が、従来のボイラ用耐熱鋼として長年使用されてきた比較鋼Aに対して約2倍、さらに高強度の比較鋼B及びCに対して約1.5倍であり、画期的な強度を有する。また、本実施例の鋼及び比較鋼の水蒸気による酸化試験結果を表3に示すが、比較鋼に対して水蒸気による酸化スケールの成長が抑制されており、650℃の蒸気温度でも十分に使用できると考えられる。
【0044】
【表3】

【0045】
なお、本発明では焼きならし温度を1,050℃として実験を行ったが、焼ならし温度を上げることによって、更に高いクリープ破断強度を得られる。しかし同時に靭性が低下するので、焼きならし温度は1,100℃までの温度範囲が好ましい。
【0046】
本発明における耐熱鋼は、特に蒸気温度が650℃前後の超々臨界圧ボイラの過熱器の管寄せや主蒸気管の材料に好適である。また、厚肉で大径の管材のみならず小径の伝熱管材として用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の耐熱鋼は、特に蒸気温度が650℃前後の超々臨界圧ボイラの過熱器の管寄せや主蒸気管の材料及び厚肉で大径の管材のみならず小径の伝熱管材として産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、炭素(C):0.01〜0.08%未満、ケイ素(Si):0.30〜1.0%、リン(P):0.020%以下、硫黄(S):0.010%以下、マンガン(Mn):0.2〜1.2%、ニッケル(Ni):0.3%以下、クロム(Cr):8.0〜11.0%、モリブデン(Mo):0.1〜1.2%、タングステン(W):1.71〜2.02%、バナジウム(V):0.10〜0.30%、ニオブ(Nb):0.02〜0.12%、コバルト(Co):0.01〜4.0%、窒素(N):0.01〜0.08%、ホウ素(B):0.001以上で0.010%未満、銅(Cu):0.3%以下、アルミニウム(Al):0.010%以下、さらに(Mo%+0.5×W%)の量を1.0〜1.6に制限し、さらに(C%+N%)の量を0.02〜0.15%に制限した成分で、調質熱処理により得られる焼戻しマルテンサイト単相組織からなることを特徴とする耐熱鋼。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−64199(P2013−64199A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−255868(P2012−255868)
【出願日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【分割の表示】特願2007−557837(P2007−557837)の分割
【原出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【出願人】(594066442)