説明

耐腐食方法

【課題】含水酢酸および臭素が存在する溶液中で鉄を主成分とする汎用ステンレスの耐腐食性を上げることができる腐食抑制方法を提供する。
【解決手段】水を0〜20wt%、臭素イオンを500〜10000ppm、それぞれ含む酢酸溶液に2価のマンガンイオン500〜15000ppmを共存させることを特徴とする汎用ステンレスの耐腐食方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水酢酸および臭素イオンが存在する溶液中での汎用ステンレスの耐腐食性をあげるための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
汎用ステンレスは、その優れた耐食性、加工の容易さ、他の耐食材料と比べ比較的安価であることから、様々な環境で耐食材料として使用される。特に化学工業においては、耐腐食材料として広く使用されている。しかしながら、テレフタル酸やイソフタル酸等のジカルボン酸を製造するために広く行われている臭素イオンを触媒とした含水酢酸を使用したプロセスにおいては、腐食が激しく進行するため、常温で使用する部位以外はチタン等の高級材質を使用する必要があった。特に、触媒として使用される、コバルト、マンガンの存在が腐食を促進させることが知られており、よりいっそう高温での使用が困難であった。
しかしながら、経済性、加工性、汎用性の観点から、このような環境においても汎用ステンレスが使用できることが要望されている。
なお、炭素鋼などの一般的な材料は、常温においてさえ全く使用できない。
【0003】
オーステナイト系ステンレスの耐食性をあげるためにいくつかの提案がなされている。たとえば、特許文献1では、耐食性が劣る高マンガン鋼にクロムを添加することで耐食性を改善させることが示されている。しかしながら、高マンガン鋼は加工硬化性が著しく大きい特性をもつため、他のステンレス鋼と比較して複雑な構造に加工することが難しく、化学工業における反応器等の構造物に使用するには問題がある。特許文献2では、ニッケル・クロム・モリブデン系オーステナイト合金の耐食性をあげるための組成を示しているが、鉄のほとんど入らないニッケル中心のオーステナイト合金は非常に高価であるとともに固いため加工性に大きな問題がある。
【0004】
特許文献3、特許文献4、特許文献5および他多くの公報に、ジカルボン酸の製造方法が記載されている。触媒としてコバルト、マンガンおよび臭素を使用し、溶媒としては含水酢酸を使用している。特に水分濃度が20wt%以下の含水酢酸を使用することが示されている。本方法は、非常に一般的に行われているが、触媒及び溶媒を含む流体が通液する部位の材質は、常温以外では、チタン又は高ニッケル・クロム・モリブデン系オーステナイト合金が使用されていることが多い。このような高級材質を使用する装置が必要であるため、装置製造コストが他のプロセスと比較して非常に高いことが問題になる。できるだけ、安価な汎用ステンレスの使用が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−2740号公報
【特許文献2】特開平5−271832号公報
【特許文献3】特開平6−321854号公報
【特許文献4】国際公開2008/075572号
【特許文献5】特許第3390169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、含水酢酸および臭素が存在する溶液中で、鉄を主成分とする汎用ステンレスの耐腐食性をあげることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特殊な材質を使用することなく、従来の条件下で耐食性を改良すべく、鋭意研究した結果、水濃度が20wt%以下の含水酢酸および臭素イオンを含む溶液中に、2価のマンガンイオンを500〜15000ppm共存させることにより、汎用ステンレスの耐腐食性を著しく向上させることを見いだし、本発明に達した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)水を0〜20wt%、臭素イオンを500〜10000ppm、それぞれ含む酢酸溶液が接触する汎用ステンレス部材の腐食を抑制するために、酢酸溶液に2価のマンガンイオン500〜15000ppmを共存させることを特徴とする汎用ステンレスの耐腐食方法、
(2)汎用ステンレスが、SUS316またはSUS316Lである(1)に記載の方法、
(3)酢酸溶液が汎用ステンレスと接触する温度が50〜130℃である(1)に記載の方法、
(4)酢酸溶液にジカルボン酸が共存する(1)に記載の方法、
(5)ジカルボン酸が、テレフタル酸、イソフタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸である(4)に記載の方法、
からなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明を採用することにより、臭素イオンを含む含水酢酸中の汎用ステンレスの耐腐食性が向上し、これまで使用できなかった環境で使用することが可能になる。特に化学工業におけるジカルボン酸を製造する酸化プロセスにおいて、大幅な建設費の削減が期待できるため、本発明の意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1はアノード分極曲線での耐食性の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、含水酢酸および臭素が存在する溶液中で汎用ステンレスの耐腐食性をあげるための方法に関するものである。以下にさらに詳細に本発明を説明する。
【0012】
本発明で耐食性をあげることができる鉄を主成分とする汎用ステンレスとしては、SUS304、SUS316、SUS316LまたはSUS317等があげられる。また、これらを2相、3相にしたステンレス鋼にも用いられる。これらの汎用ステンレスは、錆を防ぐための
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や塗装をしなくても済み、屋外や湿気のある場所、化学薬品を扱う機械器具、化学工業製造設備等で用いられる。また、構造物や
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の外面、部品に用いられる 。化学工業製造設備としては、例えば、反応器、攪拌機、熱交換器、配管、遠心分離器、濃縮器、ベッセル、キャタコンハウジング、バルブ、継ぎ手等々に様々な用途で使用されている。汎用ステンレスは他の耐食材と比較して加工性が良好なため様々な形態で、多様な用途に使用することが可能である。また耐食材料としては、最も使用量も多く、価格も比較的安いため、他の耐食材料と比べて入手しやすい点も特筆される。
【0013】
本発明で使用される汎用ステンレスは、特にSUS316及びSUS316Lであることが好ましい。他の汎用ステンレスの場合、防食効果はあるが、元々の腐食速度が大きすぎるため実用に使用するためには不十分になる。本発明は、チタンや高ニッケル・クロム・モリブデン系オーステナイト合金等の高級材質の防食性をよりあげるためにも用いられるが、もともとの防食性が高いため顕著な効果が発現しにくく、コストを考えると非効率である。
【0014】
一方、触媒としてコバルト、マンガンおよび臭素を使用し、溶媒としては含水酢酸を使用する、ジカルボン酸を製造するプロセスは、化学工業において非常に一般的な製造技術である。本プロセスで製造される代表的な製品であるテレフタル酸は、ボトルや繊維として最も多く使用されているポリマーの一つである、ポリエチレンテレフタレート(PET)の原料として大量に製造されている。そのほとんどが、触媒としてコバルト、マンガンおよび臭素を使用し、溶媒としては含水酢酸を使用する上述のプロセスが採用されている。
【0015】
本発明で、含水酢酸中の臭素イオン濃度は、500〜10000ppm、好ましくは1000〜10000ppm、更に好ましくは2000〜8000ppmの高濃度領域でより顕著に発明の効果が発揮される。このような高濃度の臭素イオンを含む含水酢酸下において汎用ステンレスが使用できることは驚くべきことである。一方で、臭素イオンの無い場合は差が顕著に表れない。臭素イオンの供給源としては臭化水素酸、臭化ナトリウム等々任意の臭化物が用いられる。段落0014で示したプロセスの酸化反応液中に含まれる臭素イオンには、臭化酢酸等々の有機臭化物が分解して発生する臭素イオンも使用可能である。臭化マンガン、臭化コバルト、臭化鉄等の金属塩でもかまわない。臭素イオン濃度が10000ppm超の高すぎる場合では腐食抑制効果は少なくなる。
【0016】
本発明に用いられる含水酢酸中の水濃度は非常に重要であり、20wt%以下であることが必要である。より好ましくは10wt%以下、更に好ましくは5wt%以下である。20wt%超に水濃度を上げると、従来知られていたマンガンイオンの腐食促進効果の影響で、マンガンイオンを添加した方が、腐食速度が大きくなる。段落0014に示されたプロセスで、含水酢酸中の水濃度が20wt%以下の領域で、反応が最も進行する。この水濃度領域で、汎用ステンレスの腐食性を抑制できることは工業的に非常に価値がある。
【0017】
マンガン源としては有機酸塩、ハロゲン化物または炭酸塩などの金属化合物が例示され、特に酢酸塩が好ましい。マンガンイオンの価数としては2価であることが好ましい。含水酢酸中のマンガンイオン濃度は、500〜15000ppm、好ましくは1000〜15000ppm、更に好ましくは2000〜10000ppmである。マンガンイオン濃度が低すぎると耐食効果が少なく、高すぎるとマンガン塩として析出して局部腐食を発生させる。このような効果は、コバルトイオンにおいても発現するが、コバルトはマンガンと比較して著しく高価であるため、マンガンイオンの使用がより好ましい。
【0018】
本発明により、臭素イオンを含む含水酢酸中で、高温でも汎用ステンレスを使用することが可能になる。特に50℃〜130℃、更に好ましくは60℃〜120℃の範囲で腐食性を抑制する効果が顕著になる。これ以上温度が高くなるとマンガンイオンを添加したことによる防食効果が薄れ、温度が低い場合は、添加しない場合との差が小さくなる。
【0019】
本発明が使用される環境としては、空気下、酸素下、不活性ガス下、窒素下またはこれらを含む混合ガス下、特に好ましくは酸素を含む混合ガス下があげられる。液中のような実質的に気相部がない状態でもかまわない。水素下のような還元状態では、酸化被膜がなくなる等の問題があり好ましくはない。圧力は任意に選ぶことができる。
【0020】
本発明においては、含水酢酸中にポリカルボン酸が溶解した状態、又は一部析出した状態のポリカルボン酸が存在してもかまわない。ポリカルボン酸としては、特にジカルボン酸、例えばテレフタル酸、イソフタル酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸等々があげられる。これらのポリカルボン酸の反応液を段落0014〜0017に記載の組成にすることにより、このプロセス中で従来高級材質が必要であった部位、例えば段落0018に示した高温で使用する箇所において、汎用ステンレスが使用することができるようになるため、製造装置全体の建設費を著しく下げることが可能になり、また手に入りにくい高級材質を汎用ステンレスに置き換えることにより、部品等の購入が容易になるため購入のリスクが低減される。その他、防食性を向上させる必要がある場合に広く応用することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されない。尚、実施例、比較例における各種測定は以下の方法によった。
【0022】
<参考例1〜4、実施例1〜3、比較例1〜3>
本検討は、日本冶金工業株式会社により製造され検査証明をうけた、JIS規格のSUS316L製のテストピースを使用した。サイズが、3cm(L)×2cm(W)×2mm(t)のテストピースを、以下の表に示す水、臭素イオン(Br)、マンガンイオン(Mn2+)濃度の酢酸溶液に、100℃、常圧、窒素下において、14日間浸漬させた。臭素イオンは、臭化水素酸47%水溶液(和光純薬製工業株式会社 試薬特級)、マンガンイオンは酢酸マンガン(II)(4水塩)(和光純薬工業株式会社製 試薬特級)、酢酸は氷酢酸(和光純薬工業株式会社製 試薬特級)を使用して調整した。浸食速度は次の式で算出した。結果を表1に示した。

浸食速度(mm/year)
= 重量減量(g)/密度(g/mm)/表面積(mm)×365/14

参考例1〜4の水濃度が高い含水酢酸中での結果を比較すると、マンガンを添加した方が浸食速度は大きくなっている。一方、実施例1〜3と比較例1〜3の水濃度が20wt%以下の含水酢酸では、逆にマンガンを添加した方が浸食速度は小さくなる。特に実施例3と比較例3を比較すればわかるように、水濃度が低いほどマンガンが共存することによる防食効果が顕著になることがわかる。
【0023】
【表1】

【0024】
<実施例4>
実施例3と同じ条件で温度を50℃、浸漬時間を2ヶ月にした以外は同様の操作を行った。結果を表2示す。
【0025】
<比較例4>
実施例4と同様の条件でマンガンイオンを入れることなしに同様の操作を行った。結果を表2示す。実施例4との比較から温度が変わってもマンガンイオンの効果があることがわかる。
【0026】
【表2】

【0027】
<実施例5>
JIS規格JISG0579 “ステンレス鋼のアノード分極曲線測定方法”に従い、以下の方法でアノード分極曲線を測定した。
<アノード分極曲線測定方法>
SUS316Lの試験材から、陽分極測定に適した大きさに切り出し、1cm角の金属ブロック(ナット)と半田付けした後、ベークライト樹脂(リファインテック株式会社 黒色ベークライト粉末)を使用して成形機(リファインテック株式会社 ラピッドプレス型)で被覆サンプルを作成した。サンプルは、成形後側面からドリルで開口し、リード線を半田付けして測定用電極を作成した。サンプルの表面は、#1000のサンドペーパーで研磨し、測定前に電極の測定面積を測定した。
30℃の恒温槽で保温した酢酸(和光純薬工業株式会社製 試薬特級)、蒸留水、臭化水素酸(和光純薬工業株式会社製 試薬特級)水溶液中で、飽和カロメル電極(北斗電工株式会社HX−R型)に対し、−0.7Vで10分間カソード処理した後、10分間回路を開放した。その後−0.5Vから0.5Vまで、20mV/分の速度で分極し、アノード分極測定(北斗電工株式会社HZ−5000システム使用)を行った。
<アノード分極曲線での耐食性の比較方法>
アノード分極曲線に示される電流密度は、その測定点での、金属の溶出量をそのまま表している。そのため、電流密度が倍になれば、腐食量も倍になると考えることが出来る。
縦軸は、電位(飽和カロメル電極:SCE基準電位となる)、横軸は、浸漬時に発生した電流密度の絶対値を示す。
全体の電流密度の大小や、以下に示した指標などをポイントとして、アノード分極曲線から耐食性の相対評価を行った。不動態化電流密度は、耐食皮膜を形成する金属に対して、自然電位より更にアノード側(高電位側)に分極を進めた場合に、電流(密度)がピークを示す点を言う。電極の表面に、不動態皮膜が生じるために発生する電流のピークの値である。この値が小さいほど耐食性が良好とされている。明確なピークがない場合、高電位側で電流密度が小さいほど耐食性が良好と考えられる。
<測定結果>
酢酸に臭素イオン濃度が2000ppmになるように臭化水素酸水溶液を添加した。この溶液に酢酸マンガン(II)(4水塩)(和光純薬工業株式会社製 試薬特級)をマンガンイオン濃度が、500ppmになるように調整した。さらに蒸留水を使用して水分含量が5wt%になるように調整した。上述の方法でSUS316Lのアノード分極曲線を測定した。結果を図1に示す。
【0028】
<実施例6>
Mnイオン濃度が1000ppmになるように調整する以外は、実施例5と同様にしてアノード分極曲線を測定した。結果を図1に示す。
【0029】
<実施例7>
Mnイオン濃度が2000ppmになるように調整する以外は、実施例5と同様にしてアノード分極曲線を測定した。結果を図1に示す。
【0030】
<比較例5>
Mnイオンを添加しない以外は、実施例5と同様にして測定を行った。結果を図1に示す。
比較例5の結果と比べ、実施例5〜7に示されるようにマンガンイオン濃度が上がるにつれてアノード側の電流密度が小さくなることがわかる。この結果は、SUS316Lの耐食性が、マンガンイオン濃度が上がるにしたがって向上していることを示している。
【0031】
<実施例8>
氷酢酸1800部に、酢酸コバルト(II)(四水塩) (和光純薬工業株式会社製 試薬特級)4部 、酢酸マンガン(II)(四水塩)30部、臭化水素(47%水溶液)16部を混合し溶解させ、触媒液を調製した。撹拌機、環流冷却器および原料送液ポンプを備えたチタン製酸化反応器に前記の触媒液740部を仕込んだ。残りの触媒液は2,6−ジメチルナフタレン(和光純薬製)180部と混合し原料供給槽に仕込み、加熱して2,6−ジメチルナフタレンを溶解させ、原料液を調製した。窒素で反応系内の圧力を 1.8MPaG に調整し、撹拌しながら温度 210℃に加熱した。温度、圧力が安定した後、原料液および圧縮空気を反応器に供給し酸化反応を開始した。反応器オフガス中の酸素濃度が 0.5容量%になるように供給空気流量を調節しながら、原料液を 2時間かけて連続的に供給した。原料液の供給終了後、空気の供給を9分間継続した。反応終了後、40℃まで冷却して反応生成物を取り出し、遠心分離器で濾過し、結晶と母液を分離した。得られた母液の水、マンガンイオンおよび臭素イオンの濃度は、それぞれ水10wt%、マンガンイオン2600ppmおよび臭素イオン2100ppmであった。この母液を得る操作を繰り返し行い、それぞれ得た母液を濃縮後に混合し、サンプル酢酸溶液1を得た。サンプル酢酸溶液1の水、マンガンおよび臭素イオンの濃度は、それぞれは、水6wt%、マンガンイオン9600ppm、臭素イオン7200ppmであった。
このサンプル酢酸溶液1を120℃で屈曲部がある肉厚1mm、外径6mmのSUS316の配管に100g/h.の速度で連続的に通液させた。3ヶ月使用したがSUS316の配管に穴は発生しなかった。
【0032】
<実施例9>
実施例8と同様に、ただし、実施例8より各母液の濃縮を多く行い、サンプル酢酸溶液2を得た。サンプル酢酸溶液2の水、マンガンおよび臭素イオンの濃度は、水4wt%、マンガン14600ppmおよび臭素イオン9700ppmであった。これを120℃で屈曲部がある肉厚1mm、外径6mmのSUS316の配管に100g/h.の速度で連続的に通液させた。3ヶ月使用したが、SUS316の配管に穴は発生しなかった。
【0033】
<実施例10>
氷酢酸900部に、酢酸コバルト(II)(四水塩)2部 、酢酸マンガン(II)(四水塩)3部、臭化水素(47%水溶液)3部を混合し溶解させ、触媒液を調製した。撹拌機、環流冷却器および原料送液ポンプを備えたチタン製酸化反応器に前記の触媒液300部を仕込んだ。残りの触媒液はパラキシレン(和光純薬製)180部と混合し原料供給槽に仕込み原料液を調製した。窒素で反応系内の圧力を 1.4MPaGに調整し、撹拌しながら温度 190℃に加熱した。温度、圧力が安定した後、原料液および圧縮空気を反応器に供給し酸化反応を開始した。反応器オフガス中の酸素濃度が 4容量%になるように供給空気流量を調節しながら、原料液を 1時間かけて連続的に供給した。原料液の供給終了後、空気の供給を 3分間継続した。反応終了後、40℃まで冷却して反応生成物を取り出し、遠心分離器で濾過し、結晶と母液を分離した。得られた母液の水、マンガンイオンおよび臭素イオンの濃度は、それぞれ水14wt%、マンガンイオン700ppmおよび臭素イオン900ppmであった。この母液を得る操作を繰り返し行い、それぞれ得た母液を濃縮後に混合し、サンプル酢酸溶液3を得た。サンプル酢酸溶液3の水、マンガンおよび臭素イオンの濃度は、それぞれは、水7wt%、マンガンイオン7000ppm、臭素イオン7600ppmであった。
得られたサンプル酢酸溶液3を120℃で実施例12と同じ屈曲部がある肉厚1mm、外径6mmのSUS316の配管に100g/h.の速度で連続的に通液させた。3ヶ月使用したがSUS316の配管に穴は発生しなかった。
【0034】
<比較例6>
氷酢酸1800部に、酢酸コバルト(II)(四水塩)8部 、酢酸マンガン(II)(四水塩)3部、臭化水素(47%水溶液)16部を混合し溶解させ、触媒液を調製した。撹拌機、環流冷却器および原料送液ポンプを備えたチタン製酸化反応器に前記の触媒液740部を仕込んだ。残りの触媒液は2,6−ジメチルナフタレン180部と混合し原料供給槽に仕込み、加熱して2,6−ジメチルナフタレンを溶解させ、原料液を調製した。窒素で反応系内の圧力を1.8MPaG に調整し、撹拌しながら温度210℃に加熱した。温度、圧力が安定した後、原料液および圧縮空気を反応器に供給し酸化反応を開始した。反応器オフガス中の酸素濃度が 3容量%になるように供給空気流量を調節しながら、原料液を2時間かけて連続的に供給した。原料液の供給終了後、空気の供給を 6分間継続した。反応終了後、40℃まで冷却して反応生成物を取り出し、遠心分離器で濾過し、結晶と母液を分離した。得られた母液の水、マンガンイオンおよび臭素イオンの濃度は、それぞれ水12wt%、マンガンイオン110ppmおよび臭素イオン1800ppmであった。この母液を得る操作を繰り返し行い、それぞれ得た母液を濃縮後に混合し、サンプル酢酸溶液4を得た。サンプル酢酸溶液4の水、マンガンおよび臭素イオンの濃度は、それぞれは、水7wt%、マンガンイオン430ppm、臭素イオン6700ppmであった。
得られたサンプル酢酸溶液4を120℃で屈曲部がある肉厚1mm、外径6mmのSUS316の配管に100g/h.の速度で連続的に通液させた。3週間の使用後、屈曲部が腐食して穴が空いた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明を採用することにより、臭素イオンを含む含水酢酸中の汎用ステンレスの耐腐食性が向上し、これまで使用できなかった環境で使用することが可能になる。特に化学工業におけるジカルボン酸を製造する酸化プロセスにおいて、大幅な建設費の削減が期待できるため、本発明の意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を0〜20wt%、臭素イオンを500〜10000ppm、それぞれ含む酢酸溶液が接触する汎用ステンレス部材の腐食を抑制するために、酢酸溶液に2価のマンガンイオン500〜15000ppmを共存させることを特徴とする汎用ステンレスの耐腐食方法。
【請求項2】
汎用ステンレスが、SUS316またはSUS316Lである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酢酸溶液が汎用ステンレスと接触する温度が50〜130℃である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酢酸溶液にジカルボン酸が共存する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ジカルボン酸が、テレフタル酸、イソフタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸である請求項4に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−202203(P2011−202203A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68276(P2010−68276)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】