説明

耐衝撃性が改良された(メタ)アクリルポリマー

【課題】耐衝撃性が改良された(メタ)アクリルポリマーの提供。
【解決手段】コア、第1シェル及び任意の第2シェルからなり、少なくとも2個の同等に反応性の二重結合を有するビニル不飽和化合物を実質的に含まない多段コア−シェル粒子であって、(i)コアが第1の(メタ)アクリルポリマーを含み、(ii)第1シェルが、0〜25重量%のスチレンモノマーおよび75〜100 重量%の(メタ)アクリルモノマーを含む低Tgポリマーであって、(メタ)アクリルモノマーが-75 〜-5℃の範囲内のTgを有するホモポリマーを形成できる低Tgポリマーを含み、第1シェルがコアと第1シェルの合計体積の65体積%を超える体積を構成し、(iii )第2シェルが存在する場合に、第2シェルは第1の(メタ)アクリルポリマーと同一又は異なる第2の(メタ)アクリルポリマーを含み、(iv)コアおよび第1シェルは共に0.5 〜1.0 重量%のグラフト架橋剤を含むコア−シェル粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性が改良された(メタ)アクリルポリマーおよびそれから形成される製品に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリルポリマー、例えばポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)は公知である。しかしながら、そのようなポリマーは往々にして比較的脆い。すなわち、そのようなポリマーは弾性がなく、かつ、不十分な耐衝撃性を有する。そのためそのようなポリマーの使用は限定されている。
【0003】
慣用的には、そのようなポリマーの耐衝撃性を改良するために、(メタ)アクリルポリマーに耐衝撃性改良ポリマー(impact modifying polymer)が配合される。これらの耐衝撃性改良ポリマーは典型的には(メタ)アクリルポリマーのTgよりも低いTgを有し、通常は0℃未満のTgを有する。
【0004】
一般的に、耐衝撃性改良ポリマーは、いわゆる多段コア−シェル粒子(multistage core-shell particle)の形態に調製され、そしてその形態で使用される。多段コア−シェル粒子は(メタ)アクリルポリマーと配合、例えば溶融ブレンドされて約40重量%のコア−シェル粒子を含有する組成物を形成する。
【0005】
得られる配合物の耐衝撃性を最大限に高めるために、最適な構成、すなわちコアおよび各シェルの最適な数および相対厚さを達成すること、またコアおよび各シェルの最適な組成を達成することに多大な精力が注ぎ込まれた。そのような構成および組成は、ますます精巧かつ複雑化してきており、そのためそのような構成および組成はコア−シェル粒子およびそれから得られる配合物の製造の困難さおよび経費が増大する原因となっている。従って、耐衝撃性が改良された(メタ)アクリルポリマーは、往々にして、それらの総経費よりも重要なそれらの優れた光学的特性を必要とする特別な用途でのみ使用される。
【0006】
ヨーロッパ特許出願公開明細書第0606636 号には、耐衝撃性改良剤の添加により提供される靱性を超える高い靱性を達成するためには、3段コア−シェルの形態にある(メタ)アクリルポリマーを特定のポリシロキサンと配合すべきことが教示されている。開示されている3段コア−シェル粒子は、1,4−ブタンジオールジメタクリレートと架橋したPMMAの内部コア、82% w/w のn−ブチルアクリレートおよび18% w/w のスチレンからなるコポリマーの第1シェル、およびPMMAの第2シェルからなる。前記内部コアは当該粒子の15% w/w を構成し、第1シェルは当該粒子の65% w/w を構成し、そして第2シェルは当該粒子の20% w/w を構成する。前記コア−シェル粒子は、40% w/w のレベルで(メタ)アクリルポリマーと配合される。前記(メタ)アクリルポリマーは、99% w/w のメチルメタクリレートおよび1% w/w のメチルアクリレートを含有するコポリマーからなる。前記配合物のn−ブチルアクリレート/スチレンコポリマー含有率は26% w/w と計算される。特定のポリシロキサンの追加使用により得た場合に2.8 kJ・m -2の最大ノッチ付き衝撃値が達成され、ノッチ付き耐衝撃性において約38%以下の改良が示された。
【0007】
英国特許出願公開明細書第2039496 号は、4段コア−シェル粒子の調製および使用に関する。典型的には、内部コアおよび第2シェルは、80% w/w のブチルアクリレート、18% w/w のスチレンおよび2% w/w のアリルメタクリレートグラフト架橋剤を含有するブチルアクリレート/スチレンコポリマーである。典型的には、第1シェルは94.6% w/w のメチルメタクリレート、5% w/w のエチルアクリレートおよび0.4% w/wのアリルメタクリレートを含有するメチルメタクリレート/エチルアクリレートコポリマーである。第3シェルは、95% w/w のメチルメタクリレートおよび5% w/w のエチルアクリレートを含有するメチルメタクリレート/エチルアクリレートコポリマーである。第1および第3シェルは合わせて粒子の25% w/wを構成する。比較例で3段コア−シェル粒子の調製法が示されている。3段コア−シェル粒子において、ブチルアクリレート/スチレンコポリマーコアは削除されており、そのため当該粒子はメチルメタクリレート/エチルアクリレートコアを有し、当該粒子のメチルメタクリレート/エチルアクリレート含有率は25〜35% w/w である。当該粒子が50% のレベルで95% w/w のメチルメタクリレートおよび5% w/w のエチルアクリレートからなる(メタ)アクリルポリマーと配合し、それにより当該配合物中のブチルアクリレート/スチレンコポリマー含有率が37.5% w/w (4段コア−シェル粒子を使用)および27.5% w/w (3段コア−シェル粒子を使用)とした場合に、衝撃靱性(impact toughness)が26%増加した4段コア−シェル粒子が得られることが示された。
【0008】
米国特許第5286801 号明細書には、99%のメチルメタクリレートおよび1%のメチルアクリレートを含有するコポリマーからなる(メタ)アクリルポリマーの衝撃強さが、コア、第2シェルおよび第4シェルが95.4〜95.8% w/w メチルメタクリレート、3.9 〜4.6% w/wのエチルアクリレートおよび0〜0.3% w/wのアリルメタクリレートを含有するメチルメタクリレート/エチルアクリレートコポリマーから形成され、そして第1および第3シェルが80.4% w/w のブチルアクリレート、17.6% w/w のスチレンおよび2% w/w のアリルメタクリレートを含有するn−ブチルアクリレート/スチレンコポリマーである5段コア−シェル粒子の使用により改良されることが教示されている。前記メチルメタクリレート/エチルアクリレートコポリマーは粒子全体の34.5% w/w を構成する。比較例は、コアおよび第2シェルが、95.9〜96% w/w のメチルメタクリレート、4% w/w のエチルアクリレートおよび0〜0.1% w/wのアリルメタクリレートを含有するメチルメタクリレート/エチルアクリレートコポリマーから形成され、そして第1シェルが80.4% w/w のブチルアクリレート、17.6% w/w のスチレンおよび2% w/w のアリルメタクリレートを含有するn−ブチルアクリレート/スチレンコポリマーである3段コア−シェル粒子に関する。メチルメタクリレート/エチルアクリレートコポリマーは、粒子全体の35.5%を構成する。39%のレベルで(メタ)アクリルポリマーと配合し、25.5% w/w (5段コア−シェル粒子を使用)および25.2% w/w (3段粒子を使用)のn−ブチルアクリレート/スチレン含有率とした場合に、最も優れた5段コア−シェル粒子は、比較用の3段コア粒子により達成されるものよりも19%高い81kJ・m -2のノッチなしシャルピー衝撃強さを示した。
【0009】
1994年4月にケンブリッジで開催されたChurchill Conference on Deformation, Yield and Fracture of Polymers の議事録の中で、A. C. Archer等は、種々の2〜4段コア−シェル粒子の各段の大きさおよび容量と共に段数が(メタ)アクリルポリマーの衝撃強さに及ぼした影響を分析し、92% mol/mol のメチルメタクリレートおよび8% mol/mol のブチルアクリレートを含有するコポリマーにより類型化した。総合的な結論は、n−ブチルアクリレート/スチレンコポリマーの体積分率が0.1 〜0.2 の範囲内に達するまで増加するに伴って当該配合物の耐衝撃性が急速に増加するということである。しかしながら、前記体積分率が0.2 を超えるまで増加すると耐衝撃性が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
驚くべきことに、3段コア−シェル粒子を製造することができ、この3段コア−シェル粒子を比較的脆い(メタ)アクリルポリマーに配合した場合に、この3段コア−シェル粒子は同等の配合物中に従来の多段コア−シェル粒子を用いた場合にこれまで達成されたものよりも著しく高い耐衝撃性を当該配合物に付与することができることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、第1の態様において、本発明は、コア、第1シェルおよび任意の第2シェルからなり、少なくとも2個の同等に反応性の二重結合を有するビニル不飽和化合物を実質的に含まない多段コア−シェル粒子であって、
(i)コアが第1の(メタ)アクリルポリマーを含み、
(ii)第1シェルが、0〜25重量%のスチレンモノマーおよび75〜100 重量%の(メタ)アクリルモノマーを含む低Tgポリマーであって、前記(メタ)アクリルモノマーが-75 〜-5℃の範囲内のガラス転移温度(Tg)を有するホモポリマーを形成することができる低Tgポリマーを含み、第1シェルがコアと当該第1シェルの合計体積の65体積%を超える体積を構成し、
(iii )第2シェルが存在する場合に、第2シェルは前記第1の(メタ)アクリルポリマーと同一のものであっても異なるものであってもよい第2の(メタ)アクリルポリマーを含み、
(iv)コアおよび第1シェルは共に0.5 〜1.0 重量%のグラフト架橋剤を含む、多段コア−シェル粒子に関する。
【0012】
第2の態様において、本発明は、第3の(メタ)アクリルポリマーのマトリックスを含む組成物であって、前記第3の(メタ)アクリルポリマーのマトリックスが、コア、第1シェルおよび任意の第2シェルからなる複数の多段コア−シェル粒子であって、少なくとも2個の同等に反応性の二重結合を有するビニル不飽和化合物を実質的に含まない複数の多段コア−シェル粒子から得ることができるコア−シェル粒子の残分を含有し、
(i)コアが第1の(メタ)アクリルポリマーを含み、
(ii)第1シェルが、0〜25重量%のスチレンモノマーおよび75〜100 重量%の(メタ)アクリルモノマーを含む低Tgポリマーであって、前記(メタ)アクリルモノマーが-75 〜-5℃の範囲内のガラス転移温度(Tg)を有するホモポリマーを形成することができる低Tgポリマーを含み、第1シェルがコアと当該第1シェルの合計体積の65体積%を超える体積を構成し、
(iii )第2シェルが存在する場合に、第2シェルは前記第1の(メタ)アクリルポリマーと同一のものであっても異なるものであってもよい第2の(メタ)アクリルポリマーを含み、
(iv)コアおよび第1シェルは共に0.5 〜1.0 重量%のグラフト架橋剤を含み、前記残分がコアおよび第1シェルからなる2段コア−シェル粒子の形態に実質的にある組成物に関する。
【0013】
第3の態様において、本発明は、第3の(メタ)アクリルポリマーを十分な量の耐衝撃性改良剤と溶融ブレンドし、体積分率が少なくとも0.225 である低Tgポリマーを含む耐衝撃性が改良された配合物を形成させ、その後に前記耐衝撃性が改良された配合物を成形して少なくとも50kJ・m -2のISO 179-1982(E) に従うノッチなしシャルピー衝撃強さを有する成形品を形成させることを含む改良された耐衝撃性を有する成形品を形成する方法であって、前記耐衝撃性改良剤がコア、第1シェルおよび任意の第2シェルからなる複数の多段コア−シェル粒子であって、少なくとも2個の同等に反応性の二重結合を有するビニル不飽和化合物を実質的に含まない多段コア−シェル粒子から実質的になり、
(i)コアが第1の(メタ)アクリルポリマーを含み、
(ii)第1シェルが、0〜25重量%のスチレンモノマーおよび75〜100 重量%の(メタ)アクリルモノマーを含む低Tgポリマーであって、(メタ)アクリルモノマーが-75 〜-5℃の範囲内のガラス転移温度(Tg)を有するホモポリマーを形成することができる低Tgポリマーを含み、第1シェルがコアと当該第1シェルの合計体積の65体積%を超える体積を構成し、
(iii )第2シェルが存在する場合に、第2シェルは前記第1の(メタ)アクリルポリマーと同一のものであっても異なるものであってもよい第2の(メタ)アクリルポリマーを含み、
(iv)コアおよび第1シェルは共に0.5 〜1.0 重量%のグラフト架橋剤を含む方法を提供する。
【0014】
第4の態様において、本発明は、コア、第1シェルおよび任意の第2シェルからなる複数の多段コア−シェル粒子から得ることができるコア−シェル粒子の残分を含有する組成物から形成される成形品であって、前記組成物が実質的にポリシロキサンを含まず、第3の(メタ)アクリルポリマーのマトリックスを含み、前記多段コア−シェル粒子が少なくとも2個の同等に反応性の二重結合を有するビニル不飽和化合物を実質的に含まず、
(i)コアが第1の(メタ)アクリルポリマーを含み、
(ii)第1シェルが、0〜25重量%のスチレンモノマーおよび75〜100 重量%の(メタ)アクリルモノマーを含む低Tgポリマーであって、前記(メタ)アクリルモノマーが-75 〜-5℃の範囲内のガラス転移温度(Tg)を有するホモポリマーを形成することができるポリマーを含み、第1シェルがコアと当該第1シェルの合計体積の65体積%を超える体積を構成し、
(iii )第2シェルが存在する場合に、第2シェルは前記第1の(メタ)アクリルポリマーと同一のものであっても異なるものであってもよい第2の(メタ)アクリルポリマーを含み、
(iv)コアおよび第1シェルは共に0.5 〜1.0 重量%のグラフト架橋剤を含み、前記残分がコアおよび第1シェルからなる2段コア−シェル粒子の形態に実質的にあり、かつ、当該成形品が少なくとも50kJ・m -2のISO 179-1982(E) に従うノッチなしシャルピー衝撃強さを有するのに十分な量で前記残分が存在する成形品を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前記多段コア−シェル粒子は好ましくは外観が球形であり、かつ、任意の第2シェルが存在する場合に任意の第2シェルを含むその全径は250 〜320nm の範囲内、特に270 〜300nm の範囲内にある。概して、本発明の第4の態様に係る成形品の優れた光学的特性は、全径が240 〜260nm の範囲内にある場合、特に約250nm である場合に得られる。
【0016】
前記多段コア−シェル粒子のコアは好ましくは120 〜170nm の範囲内、特に120 〜130nm の範囲内にある直径を有する。
好ましくは、第1シェルはコアを包み、かつ、50〜80nmの範囲内、特に50〜60nmの範囲内、例えば55nmの比較的均一な厚さを有する。
【0017】
多段コア−シェルのコアの直径と第1シェルの厚さの組み合わせは、コアおよび第1シェルの体積の合計体積の65体積%を超える体積を第1シェルが構成するように選ばれる。好ましくは、第1シェルは、コアおよび第1シェルの体積の合計体積の少なくとも75体積%、特に好ましくは少なくとも80体積%、さらに好ましくは80〜90体積%、例えば約85体積%を構成する。
【0018】
任意の第2シェルは好ましくは第1シェルを包み、当該多段コア−シェル粒子が大量に存在する場合に多段コア−シェル粒子の取扱適性を改良する役割を果たす。特に第2シェルが存在する場合に、第2シェルは当該粒子の流動性を改良するように作用する。
【0019】
前記第1の(メタ)アクリルポリマーは好ましくは少なくとも20℃のガラス転移温度を有する比較的硬い(メタ)アクリルポリマーである。従って、好ましいポリマーには、C1-4 アルキルメタクリレート、すなわち、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート;グリシジルメタクリレート;イソボルニルメタクリレート;シクロヘキシルメタクリレートから選ばれるモノマーのホモポリマー、前記モノマーの少なくとも1種を含有するコポリマーであって、少なくとも1種のC1-4 アルキルアクリレートから選ばれる他のモノマーを小さな割合で含有するコポリマーが含まれる。特に好ましい第1の(メタ)アクリルポリマーは80〜99重量%のメチルメタクリレート繰返し単位および1〜20重量%の少なくとも1種のC1-4 アルキルアクリレート、特にエチルおよび/またはブチルアクリレート繰返し単位を含有するコポリマーである。特に好ましい第1の(メタ)アクリルポリマーは約6重量%のブチルアクリレートを含み、これによって非常に高いノッチ付き衝撃強さを有する成形品が得られる。
【0020】
第2および第3の(メタ)アクリルポリマーは第1の(メタ)アクリルポリマーについての前記好ましいポリマーおよびコポリマーから好ましくは選ばれる。さらに好ましいものは、前記第1および第2の(メタ)アクリルポリマーに対して選ばれるべき好ましいポリマーおよびコポリマーである。特に好ましいものは、前記第1および第2の(メタ)アクリルポリマーに対して好ましいポリマーおよびコポリマーと同一である。
【0021】
-75 〜-5℃の範囲内のガラス転移温度を有するホモポリマーを形成することができる(メタ)アクリルモノマーは、少なくとも1種のC3-8 アルキルアクリレートおよび/または少なくとも1種のC7-14アルキルメタクリレートから適切に選ばれる。好ましくは(メタ)アクリルモノマーは、-65 〜-10 ℃の範囲内、特に-65 〜-15℃の範囲内のガラス転移温度を有するホモポリマーを形成することができるものである。従って、好ましい(メタ)アクリルモノマーには、ブチルアクリレートおよびドデシルメタクリレートが含まれる。
【0022】
スチレンモノマーが存在する場合に、スチレンモノマーは、主として、コア−シェル粒子の屈折率を第3の(メタ)アクリルポリマーの屈折率と一致させることに役立つ。そのような屈折率を一致させることが厳密でない場合に、スチレンポリマーの個々の種類および量は相当に変わり得る。しかしながら、スチレンモノマーが存在する場合に、スチレンモノマーは第1シェル中のポリマーの14〜26重量%、特に16〜24重量%を好ましくは構成する。
【0023】
屈折率を一致させることが厳密でない場合に、比較的低温、例えば-20 ℃での成形品の物理的性能(ノッチ付きおよびノッチなしシャルピーにより測定した場合)を改良するために比較的低レベルのスチレンモノマー、例えば14% w/w 未満、好ましくは5〜10% w/wのスチレンモノマーを使用することができるが、慣用的な高温試験温度、すなわち23℃での物理的性能は若干損なわれる。
【0024】
適切には、スチレンモノマーは、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ブチルスチレン、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルから選ばれる。好ましくはスチレンモノマーはスチレンである。
【0025】
前記グラフト架橋剤は、アリルおよびアクリル酸またはメタクリル酸のメタリルエステルから選ばれてよい。好ましくは前記グラフト架橋剤はアリルメタクリレートである。前記グラフト架橋剤は、コアおよび第1シェル中に同一の百分率で存在してよい。好ましくは、コアは0.2 〜0.6 重量%のグラフト架橋剤を含み、第1シェルは0.8 〜1.2 重量%のグラフト架橋剤を含む。第2シェルが存在する場合に、第2シェルが任意の追加のグラフト架橋剤を含まないことがさらに好ましい。
【0026】
少なくとも2個の同等に反応性の二重結合を有するビニル不飽和化合物のような他の種類の架橋剤は本発明におけるグラフト架橋剤に相当すると一般的に見なされるが、そのような架橋剤は使用されない。よって、本発明の多段コア−シェル粒子は実質的にそのような架橋剤を含まない。
【0027】
本発明の多段コア−シェル粒子を、上記の通り定義したような第3の(メタ)アクリルポリマーを含有する組成物に形成することができる。典型的には、そのような組成物は、コア−シェル粒子を第3の(メタ)アクリルポリマーと溶融ブレンドすることにより形成される。衝撃靱性の著しい増加を達成するために、当該組成物中の低Tgポリマーの体積分率は少なくとも0.225 、好ましくは少なくとも0.25、特に0.275 〜0.35の間である。衝撃靱性の著しい増加を達成することができるにもかかわらず、本発明の多段コア−シェル粒子のさらなる利点は、少量のコア−シェル粒子を使用して従来のレベルの衝撃強さを達成できる点である。
【0028】
通常、組成物の形成中に、特に組成物の押出しまたは成形中に、最初に存在する任意の第2シェルは多段コア−シェル粒子から剥がれる。従って、第2シェルが最初に存在しても存在しなくても組成物中の多段コア−シェル粒子の残分は、もともとのコアおよび第1シェルからなる実質的に2段コア−シェル粒子の形態にある。低Tgポリマーがコアおよび第3の(メタ)アクリルポリマーの双方に対して対照をなす帯として見えるように、これらの残分は適切なステインを組成物の試料に適用することにより同定され得る。そのため、低Tgポリマーの体積分率は、既知のサンプリングした領域内にある変色したポリマーの帯の平均厚さおよびそのような帯の数から決定される。
【0029】
次いで、当該組成物を成形品を形成するために使用してよい。成形品は、少なくとも50kJ・m -2、例えば少なくとも60kJ・m -2、より典型的には70kJ・m -2を超える、例えば80kJ・m -2を超えるISO179-1982(E) に従うノッチなしシャルピー衝撃強さを有し、80または90〜120 kJ・m -2の範囲内の前記ノッチなしシャルピー衝撃強さを有するものが最も有用である。さらに、そのような成形品は、少なくとも3 kJ・m -2、例えば少なくとも5kJ・m -2のISO 180Aに従うノッチ付きアイゾット強さも示すことができる。
【0030】
さらに、本発明の多段粒子のコアを構成し、約4〜8% w/w 、特に約4〜6% w/w 、例えば約6% w/w のブチルアクリレートを含む第1の(メタ)アクリルポリマーが使用される場合には、少なくとも7kJ・m -2、例えば少なくとも8kJ・m -2、より典型的には8〜10kJ・m -2のISO 180Aに従うノッチ付きアイゾット強さを有する成形品を製造することができる。また、そのような組成物は、4重量%未満のブチルアクリレートを含有する組成物に対する2J未満から少なくとも3J、特に4〜8% w/w のブチルアクリレートを含有する組成物に対する少なくとも3.5 JのISO 6603/2に従う計測器による落重衝撃(Instrument falling Weight Impact)において著しい改良を示す。成形品の特性における前記改良は、予期せずして、そのような物理的特性における改良を成形品に与える多段粒子のコアが多段粒子のコア部分として通常は見えないという点である。
【0031】
従来の組成物を使用する場合のように、酸化防止剤および熱安定剤のような添加剤を当該組成物に添加してよい。しかしながら、実質的に改良された衝撃強さを達成するために、他の耐衝撃性改良剤、特に従来技術のポリシロキサンは必要ではない。
【0032】
以下の実施例により本発明を更に説明する。
【実施例】
【0033】
以下の一般プロトコールを使用するエマルジョン重合により多段コア−シェル粒子を製造した。
【0034】
種(seed)
5リットルフラスコに脱イオン水(1900cm3 )を加えた。メチルメタクリレートモノマー、ブチルアクリレートモノマー、アリルメタクリレートモノマーおよびCytec Ltd から入手可能なAerosol-OT 75 %を含む播種剤(seed agent)を計量してガラス瓶に入れ、次いでフラスコに加えた。フラスコを窒素で徐々にパージし、80℃の一定温度に達するまで加熱した。次いで過硫酸カリウム開始剤を加えた。
【0035】
30分後、播種段階が完了し、その後の粒径分析のために約0.5cm3の試料をピペットで採取して4cm3 の脱イオン水中に入れた。
【0036】
フィード1
播種工程中に、上記したのと同じ割合で追加量の反応物を計量して第2のガラス瓶に入れ、フィード1とした。
【0037】
播種工程後、さらにある量の過硫酸カリウム開始剤をフラスコに加え、その後にフィード1に加えた。フラスコを80℃に保ち続けた。
【0038】
15分後、重合が完了し、コア−シェル粒子のコアが形成された。
【0039】
フィード2
フィード1工程中に、第1シェルを形成させるのに必要な反応物(ブチルアクリレートモノマー、スチレンモノマー、アリルメタクリレートモノマーおよびAerosol-OT 75 )を予め計量して第3のガラス瓶に入れ、フィード2とした。
【0040】
次いで、予め形成されたコアを含むフラスコに追加量の過硫酸カリウム開始剤を加え、その後にフィード2に加えた。上記のように、80℃の温度で重合を実施すると、60分後に重合は完了し、コア−シェル粒子の第1シェルが形成された。
【0041】
フィード3
フィード2工程の後、第2シェルを形成させるのに必要な反応物(メチルメタクリレートモノマーおよびブチルアクリレートモノマー)を予め計量して第4のガラス瓶に入れ、フィード3とした。
【0042】
次いで、最終量の過硫酸カリウム開始剤をフラスコに加え、その後にフィード3に加えた。再び80℃で重合を実施すると重合は15分後に完了し、それによって、ポリマーラテックスの形態にある所望のコア−シェル粒子が製造された。
【0043】
凝 固
コア−シェル粒子を取り扱いやすくするために、前記ポリマーラテックスに対して凝固工程を実施した。
【0044】
10リットルフラスコに6リットルの脱イオン水を入れ、これに100 gの硫酸マグネシウム六水和物を加えた。次いで、内容物を75℃の温度に加熱した。高剪断下で攪拌しながら、80℃の温度のポリマーラテックスをフラスコに入れた。ラテックスの添加後、内容物を95℃の温度に加熱し、凝固過程が完了するようにその温度に15分間保った。
【0045】
凝固後、例えば一晩を要してポリマーを室温に放冷した。次いで、冷却したポリマーを、遠心分離に続いて4リットルの脱イオン水を用いて洗浄することにより乾燥/洗浄した。乾燥/洗浄工程を2回繰り返した。最後の遠心分離の後、ポリマーを80℃の温度で24時間を要してオーブン乾燥させた。
【0046】
成 形
次いで、乾燥させた凝固したポリマーを適切な量の97% w/w のメチルメタクリレートおよび3% w/w のエチルアクリレートを含有するコポリマーである射出成形グレードの(メタ)アクリルポリマーと配合した。
【0047】
次いで得られた配合物を「Clextral」2軸スクリュー押出機によりひも状に押し出した。射出成形に適するチップが製造されるように前記押出機と連動するカッターを使用した。
【0048】
「Demag 」トグル−ロック機(toggle-lock machine )を使用してチップを寸法120mm ×10mm×4mmのHDT 棒および直径4.5 インチ(11.43cm )×厚さ3mmのディスクの形態の試験片に射出成形した。
【0049】
試 験
70mmのスパンが提供され、かつ、4mmの端部が4Jヘッドからの衝撃を受ける打撃面であるような向きになるように「Zwick 」5102装置によりノッチなしシャルピー衝撃性能を決定することにHDT 棒を使用した。
【0050】
3m・s-1の速度で落下する12.7mmのダーツを使用する計測器による落重衝撃試験に前記ディスクを使用した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
上記した手順と同様な手順で、コアおよび第2シェル中のブチルアクリレートの割合を変えてさらに多段粒子を製造した。多段粒子は直径約126nm のコア、厚さ約55nmの第1シェルおよび厚さ約7nmの第2シェルを有していた。従って、第1シェルはコアおよび第1シェルの体積の約85体積%を構成していた。次いで、多段粒子を40重量%で上記のように配合し、得られた配合物を使用して試験用の成形試験片を作製した。結果は以下の通りであった:
【0055】
【表4】

【0056】
上記の手順と同様な手順で、以下の組成および寸法を有する多段粒子を製造した。
【0057】
【表5】

【0058】
上記の通りに40重量%でこれらを配合し、試験用の試験片を作製した。試験結果を以下に示し、多段粒子(本発明の範囲に含まれる)を使用して得られた結果と比較した。ここで第1シェル中のスチレンの量を18%に増加し、それに応じてブチルアクリレートの量を削減した。
【0059】
【表6】

【0060】
第1シェル中のスチレンの量を削減することによって、成形品の低温特性が改良されることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア、第1シェルおよび任意の第2シェルからなり、少なくとも2個の同等に反応性の二重結合を有するビニル不飽和化合物を実質的に含まない多段コア−シェル粒子であって、
(i)コアが第1の(メタ)アクリルポリマーを含み、
(ii)第1シェルが、0〜25重量%のスチレンモノマーおよび75〜100 重量%の(メタ)アクリルモノマーを含む低Tgポリマーであって、前記(メタ)アクリルモノマーが-75 〜-5℃の範囲内のガラス転移温度(Tg)を有するホモポリマーを形成することができる低Tgポリマーを含み、第1シェルがコアと当該第1シェルの合計体積の65体積%を超える体積を構成し、
(iii )第2シェルが存在する場合に、第2シェルは前記第1の(メタ)アクリルポリマーと同一のものであっても異なるものであってもよい第2の(メタ)アクリルポリマーを含み、
(iv)コアおよび第1シェルは共に0.5 〜1.0 重量%のグラフト架橋剤を含む、コア−シェル粒子。
【請求項2】
第1の(メタ)アクリルポリマーが、80〜99重量%のメチルメタクリレート繰返し単位および1〜20重量%の少なくとも1種のC1-4 アルキルアクリレート繰返し単位を含有するコポリマーである請求項1に記載の多段コア−シェル粒子。
【請求項3】
第1の(メタ)アクリルポリマーが約6重量%のブチルアクリレート繰返し単位を含む請求項1または2に記載の多段コア−シェル粒子。
【請求項4】
-75 〜-5℃の範囲内のガラス転移温度を有するホモポリマーを形成することができる(メタ)アクリルモノマーが、少なくとも1種のC3-8 アルキルアクリレートおよび/または少なくとも1種のC7-14アルキルメタクリレートから選ばれる請求項1〜3のいずれか1項に記載の多段コア−シェル粒子。
【請求項5】
(メタ)アクリルモノマーがブチルアクリレートおよびドデシルメタクリレートのうちの少なくとも1種である請求項4記載の多段コア−シェル粒子。
【請求項6】
スチレンモノマーが存在し、かつ、スチレンモノマーが第1シェル中のポリマーの14〜26重量%を構成する請求項1〜5のいずれか1項に記載の多段コア−シェル粒子。
【請求項7】
コアが0.2 〜0.6 重量%のグラフト架橋剤を含み、第1シェルが0.8 〜1.2 重量%のグラフト架橋剤を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の多段コア−シェル粒子。
【請求項8】
第3の(メタ)アクリルポリマーのマトリックスを含む組成物であって、前記第3の(メタ)アクリルポリマーのマトリックスが、請求項1〜7のいずれか1項に定義される通りの複数の多段コア−シェル粒子から得ることができるコア−シェル粒子の残分を含み、前記残分がコアおよび第1シェルからなる2段コア−シェル粒子の形態に実質的にある組成物。
【請求項9】
第3の(メタ)アクリルポリマーを十分な量の耐衝撃性改良剤と溶融ブレンドし、体積分率が少なくとも0.225 である低Tgポリマーを含む耐衝撃性が改良された配合物を形成させ、その後に前記耐衝撃性が改良された配合物を成形して少なくとも50kJ・m -2のISO 179-1982(E) に従うノッチなしシャルピー衝撃強さを有する成形品を形成させることを含む改良された耐衝撃性を有する成形品を形成する方法であって、前記耐衝撃性改良剤が請求項1〜7のいずれか1項に定義される通りの複数の多段コア−シェル粒子から本質的になる方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に定義される通りの複数の多段コア−シェル粒子から得ることができるコア−シェル粒子の残分を含む組成物から形成される成形品であって、前記組成物が実質的にポリシロキサンを含まず、第3の(メタ)アクリルポリマーのマトリックスを含み、前記残分がコアおよび第1シェルからなる2段コア−シェル粒子の形態に実質的にあり、かつ、当該成形品が少なくとも50kJ・m -2のISO 179-1982(E) に従うノッチなしシャルピー衝撃強さおよび少なくとも3kJ・m -2のISO 180Aに従うノッチ付きアイゾット強さを有するのに十分な量で前記残分が存在する成形品。

【公開番号】特開2009−270115(P2009−270115A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−165726(P2009−165726)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【分割の表示】特願2007−200754(P2007−200754)の分割
【原出願日】平成8年5月23日(1996.5.23)
【出願人】(507224691)ルーサイト インターナショナル ユーケー リミティド (2)
【Fターム(参考)】