説明

耐衝撃性樹脂組成物

【課題】メタクリル樹脂が持つ優れた透明性を損なうことなく、耐衝撃性と耐衝撃白化性に優れた樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】メタクリル樹脂(I)と、アルキルメタクリレートを含む最内層重合体(A)とアルキルアクリレートを主に含む中間層重合体(B)とアルキル(メタ)アクリレートを含む外層重合体(C)との3層を少なくとも有し、Bまで形成した重合体の平均粒子径及びA、B、Cの質量比を適切な範囲に規定した多層構造グラフト共重合体(II)とからなる樹脂組成物について(B)、(C)、(I)おのおのの溶解度パラメーター(SP値)が最適な関係となるように組み合わせて配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐衝撃性及び耐衝撃白化性に優れた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂は透明性、耐候性、成型加工性に優れており、自動車部品、照明用品、各種パネル等に広く用いられている。しかし、一般にメタクリル樹脂は耐衝撃性が十分でないため、その用途が狭められている。
【0003】
そこで、メタクリル樹脂の耐衝撃性を改良するために、特定の硬質−軟質−硬質の三層構造を基本構造とする多層構造グラフト共重合体を添加することにより、メタクリル樹脂等の硬質樹脂の耐衝撃性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では、ある程度の耐衝撃性の改良は見られるものの、満足できるものではない。
【0004】
上記のような多層構造グラフト共重合体を多量に使用すれば、より高い耐衝撃性を実現することは可能であるが、そのようなメタクリル樹脂は、耐衝撃白化性が低下する。
【0005】
また、特定の構造を有する多層構造アクリル系重合体を用いることによって、耐衝撃性を維持して、耐衝撃白化性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法では、耐衝撃白化性には改良が見られるものの、耐衝撃性についてはさらなる向上が求められている。
【0006】
上記のような多層構造アクリル系重合体を多量に使用すれば、より高い耐衝撃性及び耐衝撃白化性を実現することは可能であるが、そのようなメタクリル樹脂の硬度は低下してしまうため実用性が低い。また、多層構造グラフト共重合体を多量に添加するほど製造コストが高くなるため、多層構造グラフト共重合体の添加量が少なく、かつ耐衝撃性及び耐衝撃白化性に優れた樹脂組成物が望まれている。
【特許文献1】特公昭55−27576号公報
【特許文献2】特公平5−88903号公報
【非特許文献1】POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、メタクリル樹脂が持つ優れた透明性を損なうことなく、耐衝撃性と耐衝撃白化性に優れた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこのような現状に鑑み鋭意検討した結果、適切な組成からなる最内層重合体および中間層重合体と、適切な組成からなる外層重合体との3層を少なくとも有する多層構造グラフト共重合体とメタクリル樹脂とを、おのおのが適切な範囲の溶解度パラメーター(SP値)となるように組み合わせて配合することで上記問題が解決することを見いだし本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、メチルメタクリレートを主要構成単位とするメタクリル樹脂(I)と多層構造グラフト共重合体(II)とからなる樹脂組成物であって、
多層構造グラフト共重合体(II)が、アルキル基の炭素数が1〜4のアルキルメタクリレート40〜100質量%、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート0〜60質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%からなる単量体または単量体混合物100質量部と、多官能単量体0.1〜10質量部とからなる単量体成分を重合して得られる最内層重合体(A)と、
該最内層重合体(A)の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート70〜90質量%、芳香族ビニル化合物10〜30質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%からなる単量体混合物100質量部と、多官能単量体0.1〜5質量部とからなる単量体成分を重合して得られる中間層重合体(B)と、
該中間層重合体(B)まで形成した重合体の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキル(メタ)アクリレートを主成分とする単量体成分を重合して得られる外層重合体(C)とを有し、
前記中間層重合体(B)まで形成した重合体の質量平均粒子径が150〜500nmであり、
前記最内層重合体(A)と前記中間層重合体(B)の質量比(A)/(B)が10/90〜60/40であり、
前記最内層重合体(A)および前記中間層重合体(B)の合計を100質量部としたときの前記外層重合体(C)が30〜500質量部であり、
中間層重合体(B)、外層重合体(C)、メタクリル樹脂(I)の(共)重合体の溶解度パラメーター(SP値)をそれぞれ(X)、(Y)、(Z)とした時に、これら(X)、(Y)、(Z)が
(X)+0.2((Z)−(X))<(Y)<(Z)−0.1((Z)−(X))
の関係を満たす樹脂組成物である。このような本発明の樹脂組成物は、メタクリル樹脂が持つ優れた透明性を損なうことなく、耐衝撃性と耐衝撃白化性に優れた樹脂組成物となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタクリル樹脂が持つ優れた透明性を損なうことなく、耐衝撃性と耐衝撃白化性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0012】
尚、本発明で言う重合体の溶解度パラメーター(SP値)とは、次式:
SP=a×SP+a×SP+a×SP+…
に従い計算により求めたものであり、式中のSP、SPおよびSPは各重合体を形成させるのに用いた単量体成分に含まれる単量体を単独で重合した際に得られるそれぞれのホモポリマーのSP値を表し、「POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION」(非特許文献1)に記載されている値を引用した。また、上記式中のa、aおよびaは各重合体を形成させるのに用いた単量体成分に含まれる単量体のそれぞれの質量分率を表す。
【0013】
本発明において好ましく用いられる主な原料単量体のホモポリマーのSP値(cal/cm3)1/2としては、ポリメチルメタクリレート:9.5、ポリn−ブチルメタクリレート:8.775、ポリメチルアクリレート:10.125、ポリエチルアクリレート9.4、ポリn−ブチルアクリレート:9.075、ポリスチレン:9.1を使用した。
【0014】
また、本発明で言う重合体のTgとは、通常知られているFOXの式:
1/Tg=a/Tg+a/Tg+a/Tg+…
に従い計算により求めたものであり、式中のTg、TgおよびTgは各重合体を形成させるのに用いた単量体成分に含まれる単量体を単独で重合した際に得られるそれぞれのホモポリマーのTgを表し、「POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION」(非特許文献1)に記載されている値を引用した。また、上記FOXの式中のa、aおよびaは各重合体を形成させるのに用いた単量体成分に含まれる単量体のそれぞれの質量分率を表す。
【0015】
本発明において好ましく用いられる主な原料単量体のホモポリマーのTg(K)としては、ポリメチルメタクリレート:378、ポリn−ブチルメタクリレート:293、ポリメチルアクリレート:283、ポリエチルアクリレート:249、ポリn−ブチルアクリレート:219、ポリスチレン:373を使用した。
【0016】
本発明では、メチルメタクリレートを主要構成単位とするメタクリル樹脂と、最内層重合体、中間層重合体、外層重合体の3層を少なくとも有する多層構造グラフト共重合体とを、適切な範囲のSP値となるように組み合わせて配合することが重要である。
【0017】
適切な範囲のSP値とは、中間層重合体、外層重合体、メタクリル樹脂のSP値をそれぞれ(X)、(Y)、(Z)とすると、これらの間の関係が(X)+0.2((Z)−(X))<(Y)<(Z)−0.1((Z)−(X))であり、好ましくは、(X)+0.5((Z)−(X))<(Y)<(Z)−0.15((Z)−(X))である。中間層重合体、外層重合体、メタクリル樹脂のSP値をそれぞれ上記の範囲とすることにより透明性を損なうことなく耐衝撃性と耐衝撃白化性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0018】
本発明の樹脂組成物を構成するメタクリル樹脂は、メチルメタクリレートを主要構成単位とし、好ましくは、メチルメタクリレート70〜100質量%と、それと共重合可能なビニルまたはビニリデン系単量体0〜30質量%とからなる単量体または単量体混合物の重合体である。尚、本発明では一種類の単量体からなるものであっても以下適宜「単量体混合物」という。上記の共重合可能なビニル系単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、i−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、エチルメタクリレート、i−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
【0019】
メタクリル樹脂の重合において分子量を調整するために、連鎖移動剤を単量体混合物に添加することが好ましい。連鎖移動剤としては、特に限定されないが、t−ブチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等を挙げることができる。 これらの連鎖移動剤の使用量は、上記単量体混合物100質量部に対して0.01〜3質量部の範囲が好ましい。
【0020】
本発明の樹脂組成物を構成するメタクリル樹脂を得る方法としては、特に限定されないが、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が可能である。
【0021】
懸濁重合法の場合に使用される重合開始剤としては、特に限定されないが、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−2−メチルシクロヘキサン等の過酸化物系開始剤等を挙げることができる。これらの重合開始剤の使用量は、上記単量体混合物100質量部に対して0.01〜3質量部の範囲が好ましい。
【0022】
懸濁重合の際に使用される分散安定剤としては、特に限定されないが、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、澱粉末シリカ等の水難溶性無機化合物、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、セルロース誘導体等のノニオン系高分子化合物、ポリアクリル酸およびその塩、ポリメタクリル酸およびその塩、メタクリル酸エステルとメタクリル酸およびその塩との共重合体等のアニオン系高分子化合物等を挙げることができる。これらの分散安定剤の使用量は、水100質量部に対して、0.01〜5質量部の範囲が好ましい。また、必要に応じて、これらの分散安定剤と共に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マンガン等の分散安定助剤を併用することもできる。
【0023】
また、懸濁重合の重合温度としては、特に限定されないが、50〜150℃の範囲が好ましく、より好ましくは、70〜130℃の範囲である。
【0024】
また、メタクリル樹脂の重合を行う際には、離型剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を共存させることができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物を構成する多層構造グラフト共重合体は、最内層重合体(A)、中間層重合体(B)および外層重合体(C)の3層を少なくとも有する多層構造重合体からなるものであり、その多層構造重合体における各層は以下に示される組成からなる単量体成分によって構成される。
【0026】
最内層重合体(A)は、アルキル基の炭素数が1〜4のアルキルメタクリレート40〜100質量%(好ましくは40〜95質量%、より好ましくは50〜70質量%)、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート0〜60質量%(好ましくは4〜59質量%、より好ましくは29〜49質量%)、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%(好ましくは1〜10質量%)からなる単量体混合物100質量部と、多官能単量体0.1〜10質量部(好ましくは0.1〜5質量%)とからなる単量体成分を重合して得られるものである。
【0027】
単量体成分の組成を上述の各範囲内にすることにより優れた耐衝撃性及び透明性を持つ樹脂組成物が得られるようになる。特に、上記単量体混合物におけるアルキル基の炭素数が1〜4のアルキルメタクリレートの使用量が40質量%未満では、高度な透明性を持つ樹脂組成物が得られない。
【0028】
アルキル基の炭素数が1〜4のアルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、i−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。メチルメタクリレートを使用することが好ましい。
【0029】
また、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、i−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。n−ブチルアクリレートを使用することが好ましい。
【0030】
その他の共重合可能な単量体としては、上記の単量体と共重合可能であれば特に制限されないが、例えばフェニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、グリシジルメタクリレート等の他、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。スチレンを使用することが好ましい。なお、共重合可能な官能基を2以上有する単量体は以下に示す多官能単量体に分類し、その他の共重合可能な単量体には分類しないものとする。
【0031】
多官能単量体としては、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、アリルアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、マレイン酸ジアリル、ジビニルベンゼン、フタル酸ジアリル、フマル酸ジアリル、トリメリット酸トリアリル等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では1,3−ブタンジオールジメタクリレート、アリルメタクリレートを使用することが好ましい。
【0032】
中間層重合体(B)は、最内層重合体(A)の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート70〜90質量%(好ましくは75〜85質量%)、芳香族ビニル化合物10〜30質量%(好ましくは15〜25質量%)、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%(好ましくは0〜10質量%)からなる単量体混合物100質量部と、多官能単量体0.1〜5質量部未満(好ましくは0.5〜3.0質量部、より好ましくは0.8〜2.0質量部)とからなる単量体成分を重合して得られるゴム質重合体である。中間層重合体(B)のTgは0℃以下であることが好ましく、−10℃以下であることがより好ましい。
【0033】
単量体成分の組成及びそれらを重合して得られる中間層重合体(B)のTgを上述の各範囲内にすることにより優れた耐衝撃性を持つ樹脂組成物が得られるようになる。特に、上記単量体混合物におけるアルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレートの使用量が70質量%未満では、高度な耐衝撃性を持つ樹脂組成物が得られない。90質量%を超えると高度な透明性を持つ樹脂組成物が得られない。
【0034】
アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレートとしては、上述した多層構造グラフト共重合体の最内層重合体(A)に用いうる単量体の例としてあげたものと同様のものが使用できる。n−ブチルアクリレートを使用することが好ましい。
【0035】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。スチレンを使用することが好ましい。
【0036】
その他の共重合可能な単量体としては、フェニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。尚、共重合可能な官能基を2以上有する単量体は以下に示す多官能単量体に分類し、その他の共重合可能な単量体には分類しないものとする。
【0037】
多官能単量体としては、上述した多層構造グラフト共重合体の最内層重合体(A)に用いうる単量体の例としてあげたものと同様のものが使用できる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。アリルメタクリレートを使用することが好ましい。
【0038】
外層重合体(C)は、上述した中間層重合体(B)まで形成した重合体の存在下、より正確に表現すれば最内層重合体(A)および中間層重合体(B)を含んでなる重合体の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキル(メタ)アクリレートを主成分とする単量体成分を重合して得られる。ここで前記「主成分とする」とは重合体(C)中に50質量%以上含有することを意味する。この単量体成分を重合した時の重合体(C)のTgは20〜80℃であることが好ましく、より好ましくは35〜65℃である。Tgをこの範囲とすることで、より高度な耐衝撃性を持つ樹脂組成物が得られる。Tgを20℃以上とすることで、多層構造グラフト共重合体を粉体として回収した時に生じるブロッキングが抑えられ、取り扱い性が向上する。またTgを80℃以下とすることで耐衝撃性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0039】
アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、i−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレートとしては、上述した最内層重合体(A)に用いうるアルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレートの例としてあげたものと同様のものが使用できる。
【0041】
また、その他の共重合可能な単量体としては、上述した最内層重合体(A)に用いうるその他の共重合可能な単量体の例としてあげたものと同様のものが使用できる。
【0042】
これらの単量体成分の重合、特に外層重合体(C)を得るための単量体成分の重合では、マトリックス樹脂(メタクリル樹脂)への分散性、流動性、耐衝撃性を良好にするためにアルキルメルカプタン等の連鎖移動剤を用いることが好ましい。アルキルメルカプタンとしては、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等が挙げられ、用いる単量体成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜2質量部用いる。
【0043】
多層構造グラフト共重合体の中間層重合体(B)まで形成した重合体の質量平均粒子径は150〜500nmであり、好ましくは220〜300nmである。中間層重合体(B)まで形成した重合体の質量平均粒子径が150nm未満の場合には樹脂組成物の耐衝撃性を十分なものにするのが困難となり、500nmを超える場合には樹脂組成物の透明性が低下しやすい。
【0044】
最内層重合体(A)と中間層重合体(B)の質量比(A)/(B)は10/90〜60/40であり、好ましくは20/80〜40/60である。最内層重合体(A)と中間層重合体(B)との合計質量に対し最内層重合体(A)の質量が10質量%未満では樹脂組成物の耐衝撃白化性を十分なものにするのが困難となり、60質量%を超える場合には樹脂組成物の耐衝撃性を十分なものにするのが困難となる。
【0045】
多層構造グラフト共重合体の中間層重合体(B)まで形成した重合体を100質量部としたときの外層重合体(C)は30〜500質量部であり、好ましくは50〜100質量部であり、より好ましくは60〜80質量部である。30質量部未満又は500質量部を超える場合には樹脂組成物の耐衝撃性を十分なものにするのが困難となる。
【0046】
尚、多層構造グラフト共重合体の各層の重合体の質量は、各層を構成する単量体成分の質量の総和として算出する。
【0047】
本発明における多層構造グラフト共重合体は、最内層重合体(A)と中間層重合体(B)と外層重合体(C)からなる3層の構造に限定されるものではなくそれ以外に、最内層重合体(A)と中間層重合体(B)との間に他の層を有する構造であってもよい。
【0048】
本発明では、上記単量体成分を乳化重合することにより、それぞれ多層構造グラフト共重合体のラテックスを得、そこから多層構造グラフト共重合体を回収することができる。乳化重合は公知の方法にしたがって行えばよい。
【0049】
乳化重合に用いる乳化剤は、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれの乳化剤も使用できるが、特にアニオン系の乳化剤が好ましい。アニオン系の乳化剤としてはオレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0050】
乳化剤の量は、使用する乳化剤、単量体成分の種類や配合比、重合条件によって適宜決めればよいが、通常、単量体成分100質量部に対して0.1質量部以上、特に0.5質量部以上であることが好ましい。また、重合体への残存量を抑えるため、単量体成分100質量部に対して10質量部以下、特に5質量部以下であることが好ましい。
【0051】
多層構造グラフト共重合体の各層を形成するための重合反応に用いる重合開始剤は特に限定されないが、例えば、ラジカル重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸化合物;過塩素酸化合物;過ホウ酸化合物;過酸化物と還元性スルホキシ化合物との組み合わせからなるレドックス系開始剤などが挙げられる。これらのラジカル重合開始剤の添加量は、用いるラジカル重合開始剤や単量体成分の種類や配合比によって異なるが、通常、単量体成分100質量部に対して0.01〜10質量部程度である。
【0052】
多層構造グラフト共重合体の製造において、単量体成分及び重合開始剤等は、一括添加法、分割添加法、連続添加法、モノマー添加法、エマルション添加法等各種の方法で添加することができる。反応を円滑に進めるために反応系を窒素置換する、残存単量体を除去するために反応終了後に必要に応じて選択した触媒を添加するなどの方法をとってもよい。また、各層を形成する重合を行う際には、pH調整剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を共存させることができる。
【0053】
このようにして得られる多層構造グラフト共重合体のラテックス中の固形分の量は、重合体の生産性を高くするために、10質量%以上、特に30質量%以上であることが好ましい。また、ラテックス中の固形分の量は、ラテックスの安定性を損なわないために、60質量%以下、特に50質量%以下であることが好ましい。
【0054】
上記のラテックスから多層構造グラフト共重合体を回収する方法としては、酸凝固法、塩凝固法、凍結凝固法、噴霧乾燥法等の各種の方法を用いることができる。塩凝固法で用いる回収剤としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、酢酸カルシウムなどの無機塩が挙げられるが、回収される多層構造グラフト共重合体を添加した樹脂組成物を成形して得られる成形物の着色を抑えるためには酢酸カルシウムが特に好ましい。これらは通常水溶液として使用される。回収剤水溶液の濃度は0.1〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。濃度が低すぎると安定して多層構造グラフト共重合体を回収できない場合があり、濃度が高すぎると回収した多層構造グラフト共重合体に多量の回収剤が残存して、着色が大きくなるなどの成形物の性能を低下させることがあり望ましくない。多層構造グラフト共重合体のラテックスを回収剤と接触させるときに、粒子径の小さい硬質重合体のラテックスを共存させると回収した該多層構造グラフト共重合体がブロッキングしにくくなり、取り扱い性が良くなる。ラテックスを回収剤水溶液に接触させるときの温度は30℃〜100℃が好ましい。析出した多層構造グラフト共重合体は各種の方法で洗浄、脱水、乾燥される。乾燥した多層構造グラフト共重合体に、シリカゲル微粒子などの滑剤を添加すると、該多層構造グラフト共重合体がブロッキングしにくくなり、取り扱い性が良くなる。
【0055】
本発明の樹脂組成物は、上述した、メタクリル樹脂と多層構造グラフト共重合体とを所定の配合比でブレンドすることにより得られる。メタクリル樹脂と多層構造グラフト共重合体との混合割合は用途により異なるが、メタクリル樹脂と多層構造グラフト共重合体との質量比が90/10〜10/90であることが好ましい。メタクリル樹脂と多層構造グラフト共重合体との合計質量に対し該多層構造グラフト共重合体の質量を10質量%以上とすることで、耐衝撃性をより十分なものにすることが可能となり、90質量%以下とすることで、射出成形等の成形が容易な流動性を確保でき、かつ、成形品の外観(透明性など)がより優れたものとなる。より好ましくは、メタクリル樹脂と多層構造グラフト共重合体との質量比が80/20〜40/60である。
【0056】
本発明の樹脂組成物には、上述した、メタクリル樹脂、多層構造グラフト共重合体以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、顔料、染料等を含んでいても良い。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を、ヘイズ%以外の「%」は「質量%」をそれぞれ表す。多層構造グラフト共重合体、および樹脂組成物の諸特性は、次の方法に従って実施した。
【0058】
[質量平均粒子径]
多層構造グラフト共重合体における中間層重合体(B)まで形成した重合体の質量平均粒子径は、Matec Applied Sciences社製CHDF2000型(商品名)粒度分布測定装置を用いて、カラム温度35℃、キャリア液流速1.4ml/minで測定した。
【0059】
[樹脂組成物の評価]
得られた樹脂組成物を下記の条件で射出成形した後、諸特性を測定した。
【0060】
装置:日精樹脂工業(株)製PS−60E型(商品名)射出成型機
シリンダー温度:260℃
試験片サイズ:127mm×12.7mm×6.35mm厚
(アイゾット衝撃強度測定用)
100mm×50mm×2mm厚
(ヘイズ測定用)
[アイゾット衝撃強度の測定]
ASTM−D−256に準拠して測定した。
【0061】
[ヘイズの測定](透明性と耐衝撃白化性の評価)
デュポン式衝撃試験機(東洋精機製作所製、商品名:H−100)を用いて、撃芯受台径:16.2mm、撃芯突端径:12.7mm、錘:1kg、落下高さ:50cmの条件で試験片に衝撃を与え、衝撃試験前と衝撃試験の後に24時間経過した時のヘイズを測定した。ヘイズはASTM−D1003に準拠して測定した。
【0062】
<実施例1>
[アニオン系高分子化合物水溶液(1)の製造]
撹拌機を備えた重合装置に、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム58部、メタクリル酸カリウム水溶液(メタクリル酸カリウム分30%)31部、メチルメタクリレート11部からなる単量体混合物と、脱イオン水900部を加えて撹拌溶解させた。その後、窒素雰囲気下で混合物を撹拌しながら60℃まで昇温し、6時間撹拌しつつ60℃で保持させてアニオン系高分子化合物水溶液を得た。この際、温度が50℃に到達した後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1部を添加し、更に別に計量したメチルメタクリレート11部を75分間かけて、上記の反応系に連続的に滴下し、アニオン系高分子化合物水溶液(1)を得た。
【0063】
[メタクリル樹脂(1)の製造]
撹拌機を備えた容量20リットルの容器に、メチルメタクリレート94部、メチルアクリレート6部からなる単量体混合物に、重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.1部、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.22部、離型剤としてリケマールS−100A(商品名、理研ビタミン(株)製)0.2部を投入し撹拌混合した。また、別の撹拌機を備えた容量20リットルの容器に、脱イオン水150部、分散安定剤として上記アニオン系高分子化合物水溶液(1)0.3部、分散安定助剤として硫酸ナトリウム0.35部を投入し撹拌混合した。
【0064】
撹拌機を備えた容量40リットルの重合用容器に、上記混合物をそれぞれ投入し、窒素置換後、80℃に昇温した。重合発熱ピーク終了後、115℃で20分間保持した後、30℃に冷却し重合を完結した。その後、洗浄脱水処理、乾燥してビーズ状のメタクリル樹脂(1)を得た。得られたメタクリル樹脂(1)のSP値は、9.54であった。
【0065】
[多層構造グラフト共重合体(1)の製造]
撹拌機、還流冷却器、窒素吹き込み口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、以下の成分1を入れた。
【0066】
(成分1)
脱イオン水 200部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.4部
(以下、SFSと略す)
硫酸第1鉄 0.4×10−4
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 1.2×10−4
次に、系を混合撹拌下、窒素置換しながら80℃に昇温し、下記の組成の混合物(a−1)のうちの4部((a−1)の約20質量%)を投入し、80℃に保ったまま15分保持した。次に(a−1)の残りを50分かけて投入し、80℃に保ったまま1時間保持して、最内層重合体の重合を完結させた。得られたラテックス(A−1)の重合率(未反応の単量体をガスクロマトグラフィーで測定、以下同様)は99%以上であった。
【0067】
(混合物(a−1))
メチルメタクリレート 11.2部
スチレン 0.8部
n−ブチルアクリレート 8.0部
1,3−ブタンジオールジメタクリレート 0.6部
アリルメタクリレート 0.08部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.04部
乳化剤A 0.72部
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩:フォスファノールRS−610NA、商品名、東邦化学(株)製)
引き続き、SFS0.27部を脱イオン水5.0部に溶解したものを、上記ラテックス(A−1)に加えて、15分間保持した後、下記の組成の混合物(b−1)を4時間かけて滴下し、2時間保持して中間層重合体の重合を完結させた。得られたラテックス(B−1)の重合率は99%以上で、中間層重合体まで形成した重合体の質量平均粒子径は250nmであった。また、中間層重合体のSP値は9.08であった。
【0068】
(混合物(b−1))
スチレン 14.0部
n−ブチルアクリレート 66.0部
1,3−ブタンジオールジメタクリレート 0.2部
アリルメタクリレート 1.4部
クメンハイドロパーオキサイド 0.23部
乳化剤A 2.4部
引き続き、SFS0.23部を脱イオン水5.0部に溶解したものを、上記ラテックス(B−1)に加えて、15分間保持した後、下記の組成の混合物(c−1)を2時間20分かけて滴下し、1時間保持して外層重合体の重合を完結させた。得られた最終ラテックス(C−1)の重合率は99%以上であった。外層重合体のSP値、及びTgを表1に示した。
【0069】
(混合物(c−1))
メチルメタクリレート 56.0部
n−ブチルメタクリレート 14.0部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.12部
n−オクチルメルカプタン 0.14部
続いて、ステンレス製の容器に回収剤水溶液として1.2%酢酸カルシウム水溶液300部を仕込み、混合撹拌下60℃に昇温して前記ラテックス(C−1)300部を10分間にわたって連続的に添加した。その後90℃に昇温して5分間保持した。室温まで冷却し、脱イオン水で洗浄しながら遠心脱水(1300G、3分間)でろ別して湿潤状の樹脂を得、75℃で48時間乾燥させて白色粉体状の多層構造グラフト共重合体(1)を得た。
【表1】

【0070】
[樹脂組成物の調製及び評価]
次にメタクリル樹脂(1)60部、および、多層構造グラフト共重合体(1)40部の混合物をスクリュー径30mmφの2軸押出機((株)池貝製PCM−30型(商品名)、L/D=25)を使用し、シリンダー温度230℃〜260℃、ダイ温度260℃で溶融混練して、[メタクリル樹脂(1)]/[多層構造グラフト共重合体(1)]=60/40(質量比)の樹脂組成物のペレット(中間層重合体まで形成した重合体(内層重合体と中間層重合体の合計)の含有量23.5%)を作製した。続いて、このペレットを用いて成型体を作製し、アイゾット衝撃強度、ヘイズを評価した。その結果を表1に示した。
【0071】
<実施例2〜9、比較例1〜3>
[多層構造グラフト共重合体(2)〜(12)の製造]
混合物(c−1)の組成を表1〜3のように変更した以外は、実施例1に示した多層構造グラフト共重合体(1)を製造する方法と同様にして、多層構造グラフト共重合体(2)〜(12)を得た。また、中間層重合体まで形成した重合体の質量平均粒子径、外層重合体のSP値、及びTgを表1〜3に示した。
【0072】
[樹脂組成物の調製及び評価]
次に、実施例1と同様にして、[メタクリル樹脂(1)]/[多層構造グラフト共重合体(2)〜(12)]=60/40(質量比)となる樹脂組成物のペレットを作製し、続いて成型体をそれぞれ作製して、アイゾット衝撃強度、ヘイズを評価した。その結果を表1〜3に示した。
【0073】
<実施例10〜12、比較例4>
[樹脂組成物の調製及び評価]
実施例1と同様にして、表2、3に示す比率で、メタクリル樹脂(1)と多層構造グラフト共重合体(7)〜(9)および(12)をブレンドして、中間層重合体まで形成した重合体(内層重合体と中間層重合体の合計)の含有量が23.5質量%の樹脂組成物のペレットをそれぞれ作製し、続いて成型体をそれぞれ作製して、アイゾット衝撃強度、ヘイズを評価した。その結果を表2、3に示した。
【表2】

【表3】

【0074】
<実施例13,14、比較例5,6>
[多層構造グラフト共重合体(13)〜(16)の製造]
混合物(a−1)および混合物(b−1)それぞれの組成比は変えずに、その使用比を変えることで、最内層重合体(A)と中間層重合体(B)の質量比を表4のように変更した以外は、実施例4に示した多層構造グラフト共重合体(4)を製造する方法と同様にして、多層構造グラフト共重合体(13)〜(16)を得た。中間層重合体まで形成した重合体の質量平均粒子径、外層重合体のSP値、及びTgを表4に示した。
【表4】

【0075】
[樹脂組成物の調製及び評価]
次に、実施例1と同様にして、[メタクリル樹脂(1)]/[多層構造グラフト共重合体(13)〜(16)]=60/40(質量比)となる樹脂組成物のペレットを作製し、続いて成型体をそれぞれ作製して、アイゾット衝撃強度、ヘイズを評価した。その結果を表4に示した。
【0076】
<実施例15〜17、比較例7>
混合物(a−1)における乳化剤Aの配合量を表5のように変更した以外は、実施例4に示した多層構造グラフト共重合体(4)を製造する方法と同様にして、多層構造グラフト共重合体(17)〜(20)を得た。中間層重合体まで形成した重合体の質量平均粒子径、外層重合体のSP値、及びTgを表5に示した。
【表5】

【0077】
[樹脂組成物の調製及び評価]
次に、実施例1と同様にして、[メタクリル樹脂(1)]/[多層構造グラフト共重合体(17)〜(20)]=60/40(質量比)となる樹脂組成物のペレットをそれぞれ作製し、続いて成型体をそれぞれ作製して、アイゾット衝撃強度、ヘイズを評価した。その結果を表5に示した。
【0078】
<実施例18〜20、比較例8,9>
[多層構造グラフト共重合体(21)〜(25)の製造]
混合物(b−1)におけるアリルメタクリレートの配合量を表6のように変更した以外は、実施例4に示した多層構造グラフト共重合体(4)を製造する方法と同様にして、多層構造グラフト共重合体(21)〜(25)を得た。中間層重合体まで形成した重合体の質量平均粒子径、外層重合体のSP値、及びTgを表6に示した。
【表6】

【0079】
[樹脂組成物の調製及び評価]
次に、実施例1と同様にして、[メタクリル樹脂(1)]/[多層構造グラフト共重合体(21)〜(25)]=60/40(質量比)となる樹脂組成物のペレットをそれぞれ作製し、続いて成型体をそれぞれ作製して、アイゾット衝撃強度、ヘイズを評価した。その結果を表6に示した。
【0080】
以上のように、本発明の樹脂組成物は透明性が高く、耐衝撃性、耐衝撃白化性に優れていた。
【0081】
尚、表1〜6の中の略号は以下の通りである。
【0082】
MMA :メチルメタクリレート
nBMA:n−ブチルメタクリレート
MA :メチルアクリレート
EA :エチルアクリレート
nBA :n−ブチルアクリレート
St :スチレン
tBH :t−ブチルハイドロパーオキサイド
OcSH:n−オクチルメルカプタン
SP−I:(X)+0.2((Z)−(X))
SP−II:(Z)−0.1((Z)−(X))
SP−III:(X)+0.5((Z)−(X))
SP−IV:(Z)−0.15((Z)−(X))
ここで(X):中間層重合体のSP値=9.08、(Z):メタクリル樹脂のSP値=9.54
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の樹脂組成物は、耐衝撃性、透明性、耐候性、成型加工性に優れており、自動車部品、照明用品、各種パネル等に広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルメタクリレートを主要構成単位とするメタクリル樹脂(I)と多層構造グラフト共重合体(II)とからなる樹脂組成物であって、
多層構造グラフト共重合体(II)が、アルキル基の炭素数が1〜4のアルキルメタクリレート40〜100質量%、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート0〜60質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%からなる単量体または単量体混合物100質量部と、多官能単量体0.1〜10質量部とからなる単量体成分を重合して得られる最内層重合体(A)と、
該最内層重合体(A)の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート70〜90質量%、芳香族ビニル化合物10〜30質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%からなる単量体混合物100質量部と、多官能単量体0.1〜5質量部とからなる単量体成分を重合して得られる中間層重合体(B)と、
該中間層重合体(B)まで形成した重合体の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキル(メタ)アクリレートを主成分とする単量体成分を重合して得られる外層重合体(C)とを有し、
前記中間層重合体(B)まで形成した重合体の質量平均粒子径が150〜500nmであり、
前記最内層重合体(A)と前記中間層重合体(B)の質量比(A)/(B)が10/90〜60/40であり、
前記最内層重合体(A)および前記中間層重合体(B)の合計を100質量部としたときの前記外層重合体(C)が30〜500質量部であり、
中間層重合体(B)、外層重合体(C)、メタクリル樹脂(I)の(共)重合体の溶解度パラメーター(SP値)をそれぞれ(X)、(Y)、(Z)とした時に、これら(X)、(Y)、(Z)が
(X)+0.2((Z)−(X))<(Y)<(Z)−0.1((Z)−(X))
の関係を満たす樹脂組成物。
【請求項2】
前記外層重合体(C)のTgが20〜80℃である請求項1に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−160990(P2006−160990A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358152(P2004−358152)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】