説明

耐酸性カプセル

本発明は新規な耐酸性医薬用硬カプセル、それらの製造方法、及び限定されないが特にヒト又は動物への医薬品、動物用医薬品、食品及び栄養補助食品の経口投与のためのこのようなカプセルの使用に関する。本発明のカプセルは、水溶性フィルム形成ポリマー及びジェランガムを、フィルム形成ポリマー100質量部に対してジェランガムを4〜15質量部の相互質量比で含む水性組成物により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、新規な耐酸性医薬用硬カプセル、それらの製造方法、及び限定されないが特にヒト又は動物への医薬品、動物用医薬品、食品及び栄養補助食品の経口投与のためのこのようなカプセルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
医薬用硬カプセルは一般に浸漬成形方法を使用して製造される。この方法でピン型(pin molds)を水性ベースのフィルム形成組成物中に浸漬する。続いてピン上に付着した組成物をゲル化させることによりフィルムが形成される。次いでフィルムを乾燥し、ピンから剥離させて所望の長さに切断する。このようにして、充填された医薬用硬カプセルが得られるように後に物質を充填することができて入れ子式に連結され得るカプセルキャップ及び本体が得られる。この方法を開示する特許文献については、例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献2を参照することができる。
【0003】
医薬用カプセルは、ヒト及び動物への投与のための経口投薬形態として薬学分野において広く使用される。この状況において、カプセルは、患者の胃において損傷を受けないままであり、そして中に封入された内容物を放出しないように耐酸性であることがしばしば望ましい。従って耐酸性カプセルは、酸環境において不安定な物質、又はNSAIDのような重篤な胃の副作用と関連する物質の投与に有用である。
【0004】
従来、カプセルに酸抵抗性を付与することの問題は、耐酸性でないカプセルを腸溶性膜でコーティングすることにより対処されてきた。腸溶性膜は、pH依存性の水溶性を有する周知の耐酸性材料を含む。典型的には、これらの材料はカルボキシル基含有ポリマー、例えば酢酸フタル酸セルロース(CAP)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC−AS)、アクリル共重合体及びシェラックである。これらの材料は、胃条件下(従来pH1.2で模擬実験される)で水に不溶性であり、そして腸条件下(従来pH6.8で模擬実験される)で水易溶性である。
【0005】
コーティング液の欠点は、典型的には、製造コーティングプロセスの複雑さ及び費用、効率的にそれを行うために高レベルの専門知識が必要とされること、製造サイクルの最後に、すなわちカプセルが既に充填された時点でコーティングを行う必要性、そして最後に、乾燥後にカプセル表面上に毒性の溶媒残留物を残すかもしれない溶媒ベースのコーティング組成物とカプセルを接触させる必要性により代表される。
【0006】
非コーティング腸溶性医薬用硬カプセル、すなわちそのシェルが既に耐胃液性を示し、かつそれ自体はいずれのコーティング工程も必要としない硬カプセルを開発しようとする試みも知られている。現在、十分に耐酸性の硬カプセルは二重浸漬方法によって得られるのみであり、ここでは従来のピンが2回、少なくとも1回、1つ又はそれ以上の有機溶媒中に溶解された腸溶性ポリマーの溶液中に浸漬される。二重浸漬方法において使用されるポリマーは、従来のコーティングプロセスで使用されるポリマーと同じものである。
【0007】
しかし二重浸漬方法は、非常に高価な専用に開発された製造装置を必要とする。さらに、浸漬液に有機溶媒を使用することの問題は克服されておらず、いまだに環境及び健康の安全性について深刻な懸念をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US5264223
【特許文献2】US5756123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、広範な薬局方に記載される酸抵抗性基準を満たし、十分な機械的性能を有し、かつ費用効果的で環境に優しく健康に安全で単純な方法で製造することができる、耐酸性医薬用硬カプセルの必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要旨
上記及び他の目的が、(i)水性溶媒、(ii)ジェランガム及び(iii)1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーを含むことを特徴とし、該1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーに対するジェランガムの質量比が下端及び上端を含めて4/100〜15/100の間である、耐酸性医薬用硬カプセルの製造のための水性組成物により達成される。
【0011】
上記及び他の目的はまた、(I)水分、(II)ジェランガム及び(III)1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーを含み、該1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーに対するジェランガムの質量比が下端及び上端を含めて4/100〜15/100の間である耐酸性医薬用硬カプセルシェルにより達成される。
【0012】
上記及び他の目的はまた、上で定義されたシェルを含む耐酸性医薬用硬カプセルにより達成される。
【0013】
上記及び他の目的はまた、上で定義されたシェルを含む耐酸性医薬用硬カプセルにより達成され、ここで該シェルは1つ若しくはそれ以上の酸不安定性物質、並びに/又はヒト及び/若しくは動物において胃の副作用と関連する1つ若しくはそれ以上の物質で充填される。
【0014】
上記及び他の目的はまた、耐酸性医薬用硬カプセルシェルの製造のための浸漬成形方法により達成され、該方法は:
(a) 上で定義された水性組成物中にピンを浸漬する工程、
(b) 水性組成物から浸漬ピンを引き揚げる工程、
(c) シェルを得るために浸漬ピンに付着した組成物を乾燥させる工程
を含み;ここで工程(a)〜(c)は、それらが示される順序で行われる。
【0015】
上記及び他の目的はまた、耐酸性医薬用硬カプセルシェル及びカプセルの製造のための上で定義された水性組成物の使用により達成される。
【0016】
上記及び他の目的はまた、1つ若しくはそれ以上の酸不安定性物質、並びに/又はヒト及び/若しくは動物において胃の副作用と関連する1つ若しくはそれ以上の物質のヒト又は動物(an animal being)への投与のための医薬の製造のための、耐酸性医薬用硬カプセルシェルの使用により達成される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明において、別の指示がなければ、「硬カプセル」はヒト又は動物への経口投与を意図される従来の医薬用硬カプセルを意味し、上記カプセルは、2つの同軸の入れ子式に連結された部分(本体及びキャップと呼ばれる)からなる。通常は、キャップ及び本体は側壁、開口端、及び閉端を有する。これらの部分の各々の側壁の長さは、一般的にカプセル直径より大きい。カプセルのキャップ及び本体は、それらの側壁が部分的に重なって硬カプセルシェルを得るために入れ子式に一緒に連結される。「部分的に重なる」はまた、キャップ及び本体の側壁が実質的に同じ長さを有し、その結果キャップ及び本体が入れ子式に連結されるときにそのキャップの側壁がその本体の側壁全体を包み込む実施態様も包含する。従って、本発明の硬カプセルは、硬カプセルの従来の定義から構造的には逸脱しない。一般に、「カプセル」は空のカプセル及び充填されたカプセルの両方を指すが、一方で「シェル」は特に空のカプセルを指す。硬カプセルシェルが液状形態の物質で充填される場合、本発明の硬カプセルが従来の技術に従って、含有される物質の漏出を避けるために密封されるか又はバンディングされ(banded)得ることが意図される。
【0018】
本発明において、酸抵抗性はUSP−30の投薬形態の崩壊試験において開示される装置及び手順(基本的に、バスケット/ラックアセンブリにて37±2℃で人工胃液TS)を使用して試験される。別の指示がなければ、「酸抵抗性(acid resistance)」又は「耐酸性(acid resistant)」は、USP崩壊試験を受けた場合に本発明の硬カプセルシェル及びカプセルが少なくとも1時間漏出を示さないことを意味する。
【0019】
本発明のカプセルシェル及びカプセルはまた、疑似腸液中pH6.8、37±2℃でパドル装置にて十分な溶解特性を示す。本発明の例示カプセルの人工胃液及び疑似腸液中の溶解プロフィールは、実施例及び図1に開示される。日本薬局方2(JP2)において開示される溶解試験において試験した場合、本発明の硬カプセルはその中に含まれる腸抵抗性(enteric resistant)硬カプセルの定義を満たす。
【0020】
本発明において、別の指示がなければ、「水性溶媒」は好ましくは水、より好ましくは脱イオン水、より好ましくは脱イオン水からなる「水性溶媒」を意味する。従って本発明の水性組成物は、少なくともジェランガム及び1つまたはそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーを本明細書中に定義される相互の量で水性溶媒に加えることにより得られる組成物である。同じ理由から、本発明において別の指示がなければ、水分は水と交換可能に使用される。
【0021】
本発明において、別の指示がなければ、「酸不安定性物質」は、酸環境により化学的又は物理的、部分的又は全体的に分解される、いずれかの物理形態の物質又は組成物、好ましくはヒト又は動物への経口投与を意図される固形又は液状の医薬又は医薬組成物を指し、ここで酸環境は好ましくはインビトロで約1.2のpHを有する溶解媒体で模擬実験される胃環境を意味する。
【0022】
本発明において、別の指示がなければ、「ヒト及び/又は動物において胃の副作用と関連する1つ又はそれ以上の物質」は、ヒト又は動物へ経口投与されて胃において放出されると、胃逆流又は胃粘膜の生理的及び/若しくは構造的完全性の不全(例えば胃潰瘍)のような胃の副作用を伴う物質又は組成物、好ましくはヒト又は動物への経口投与を意図された医薬又は組成物を指す。
【0023】
一局面において本発明は、(i)水性溶媒、(ii)ジェランガム、及び(iii)1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーを含み、該1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーに対するジェランガムの質量比が下端及び上端を含めて4/100〜15/100の間である、耐酸性医薬用硬カプセルの製造のための水性組成物に関する。
【0024】
好ましい実施態様において、本発明の水性組成物は、(i)水性溶媒、(ii)ジェランガム、及び(iii)1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーからなり、ここで該1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーに対するジェランガムの質量比は、下端及び上端を含めて4/100〜15/100の間である。
【0025】
本発明の水性組成物に含まれる1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマー(成分(iii))は、好ましくは最終カプセルシェルの質量での主成分に相当する。医薬用硬カプセルの浸漬成形製造方法における水溶性ポリマーの使用は既に公知であり、そして多くの刊行物及び特許において広く開示されている。現在使用される水溶性フィルム形成ポリマーは全て市販されている。
【0026】
一実施態様において、1つそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーは、セルロース誘導体、好ましくはHPMC;ゼラチン、プルラン、PVA及びデンプン誘導体、好ましくはヒドロキシプロピルデンプンからなる群より選択される。好ましい実施態様において、フィルム形成ポリマーは、弾性モジュール(elastic module)及び脆性の点で最適な機械的性能を有するフィルムを形成するので、HPMC;ゼラチン、プルラン、PVA及びヒドロキシプロピルデンプンからなる群より選択される。特に好ましい実施態様において、フィルム形成ポリマーはHPMC及び/又はゼラチンを含む。なおより好ましい実施態様において、フィルム形成ポリマーはHPMCからなる。なおより好ましい実施態様において、フィルム形成ポリマーはゼラチンからなる。HPMCの適切な種類は当該分野で周知であり、そして例はHPMC 2910型(USP30−NF25において定義される)である。HPMCの他のそれほど好ましくはない種類はHPMC2208及びHPMC2906(USP30−NF25において定義される)である。
【0027】
ジェランガムは発酵により産生されるエキソ多糖類である。本発明において、ジェランガムは1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマー約100質量部あたり、下端及び上端を含めて、約4〜15質量部、好ましくは約4.5〜8質量部、より好ましくは約4.5〜6質量部の比率で使用される。本発明の異なる実施態様では、ジェランガムは1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマー約100質量部あたり、約5又は5.5質量部の比率で使用される。実験上の証拠により、より少ない量のジェランガムを使用する場合、最終的な硬カプセルはpH1.2での崩壊試験で十分な酸抵抗性を有しておらず、一方で従来の非熱ゲル化浸漬成形技術に典型的な(従来の方法については、例えば上で報告した特許文献を参照のこと)作業条件(例えばT及び固形物含有量)でのより多いジェラン含有量は、水性組成物の過剰な粘性及び過剰なゲル化能を生じ、その結果求められる高い速度及び品質でカプセルを製造することが不可能になると考えられる。ジェラン対ポリマー比の好ましい値は、本発明により達成される技術効果と処理可能性の面とを最適に合わせたものであると考えられる。
【0028】
そのゲル化特性に起因して、ジェランガムは、ゼラチンとは異なり、それ自体では十分なゲル化特性を示さない水溶性フィルム形成ポリマー(例えばHMPC又は化工デンプン)が使用される場合に、即時放出硬カプセルの製造において従来使用される凝結系(setting systems)の典型的な成分である。しかし、従来技術において、ジェランガムは水溶性フィルム形成ポリマーの質量に対して典型的には非常に少ない量(質量)で使用される。例えば、典型的に使用されるジェランガムの量は、水溶性フィルム形成ポリマー約100質量部あたり1質量部より少なく、本発明において使用される量より大幅に少ない量である。
【0029】
さらに、しばしばジェランガムはいわゆるゲル化補助剤(典型的にはNa+、K+又はCa2+の塩)と組み合わせて使用される。少量のジェランガムの使用及びゲル化補助剤とのその組み合わせは、主要なフィルム形成ポリマーを浸漬ピン上でゲル化させて適切な硬カプセルシェルを得るという要求に完全に応えると教示されている。
【0030】
今や出願人は、上で示したとおりの水溶性フィルム形成ポリマーに対するジェランガムの比率内で操作することにより、適切な硬カプセルを得ることができ、そしてまた酸抵抗性をこのようなカプセルに付与することができるということを見出した。
【0031】
別の顕著な利点は、それ自体は悪いゲル化特性を有するHPMCのようなフィルム形成ポリマーを用いて作業した場合でさえ、いわゆるゲル化補助剤の添加をもはや必要としないということである。換言すると、ジェランガムが上で示した質量比で使用される場合、硬カプセルの製造に適した組成物を、ゲル化補助剤(例えばカチオン)を水性組成物に加えることなくHPMC又はヒドロキシプロピルデンプンの水性組成物から得ることができる。ゲル化補助剤を含めないことが任意であることは、最終的な硬カプセルシェル中に充填される薬物の安定性及び硬カプセルの溶解プロフィールに対して有利な影響を有する。本発明の水性組成物が追加のゲル化補助剤を含有しないという事実は、好ましくはそれがゲル化補助剤、例えばカチオンをジェランガム中に天然に存在する同じ補助剤の量より多い量で含有しないということを意味する。別の実施態様において、本発明の水性組成物が追加のゲル化補助剤を含有しないという事実は、好ましくはそれがゲル化補助剤、例えばカチオンをジェランガム中に天然に存在する同じ補助剤の量より多くない量で含有するということを意味する。このような天然の量は、購入したジェランガムバッチに対する通常の実験室での試験により容易に確立することができ、又はそれはジェランガム供給業者により直接提供され得る。
【0032】
本発明の硬カプセルは、USP−30人工胃液中pH1.2にて少なくとも1時間漏出せず、耐酸性性能を裏付ける。
【0033】
典型的には、本発明の水性組成物中の成分(ii)及び(iii)を合わせた量(すなわち、1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーと一緒になったジェラン)は、水性組成物の総質量に対して約10質量%と40質量%との間、より好ましくは約15質量%と25質量%との間である。フィルム形成ポリマーの適切な濃度を使用される特定のポリマー及び膜の所望の機械的特性に適合させることは、硬カプセル製造分野の当業者の能力の十分に範囲内である。
【0034】
場合により、本発明の水性組成物は少なくとも1つの不活性で非毒性の医薬品グレード又は食品グレードの色素、例えば二酸化チタン、酸化鉄、及び他の着色剤を含有し得る。一般的に、0.001〜5.0質量%の色素が水性組成物中に含まれ得る。質量は水性組成物中の固形物の総質量に対して表される。
【0035】
場合により、本発明の水性組成物は、適切な可塑剤、例えばグリセリン又はプロピレングリコールを含有し得る。過剰な柔軟性を避けるために、可塑剤含有量は水性組成物中の固形物の総質量に対して0質量%と20質量%との間、より好ましくは0質量%と10質量%との間、なおより好ましくは0質量%と5質量%との間のように低くあるべきである。
【0036】
場合により、本発明の水性組成物は、硬カプセルの製造において典型的に使用されるさらなる成分、例えば界面活性剤及び矯味矯臭剤を、当業者に公知でありかつ硬カプセルに関する刊行物及び特許において入手可能な量で含有し得る。
【0037】
別の局面において、本発明は、上で定義された水性組成物を使用することにより得られる耐酸性硬カプセルシェルに関する。特定の実施態様において、本シェルは(I)水分、(II)ジェランガム、及び(III)1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーを含み、ここで該1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーに対するジェランガムの質量比は下端及び上端を含めて4/100〜15/100の間である。
【0038】
好ましい実施態様において、耐酸性硬カプセルシェルは(I)水分、(II)ジェランガム及び(III)1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーからなり、ここで該1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーに対するジェランガムの質量比は、下端及び上端を含めて4/100〜15/100の間である。
【0039】
適用可能でありかつ技術的に不適合でなければいつでも、本発明の水性組成物に関連して開示される全ての特徴及び好ましい実施態様は、本発明の耐酸性硬カプセルシェル及びシェルを含めて本発明のいずれか他の局面とも関連して開示される。
【0040】
本発明のカプセルシェルの水分含有量は、使用される1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマー及びシェルが製造後に貯蔵される環境の相対湿度に主に依存する。典型的には、水分含有量はシェルの総質量に対して約2%と16%との間である。例として、硬カプセルの貯蔵に従来採用される条件下で、本発明の硬カプセルシェルは、使用される唯一のフィルム形成ポリマーがHPMCである場合にはシェルの質量に対して約2〜8質量%、好ましくは約2〜6質量%、好ましくは約3〜6質量%の間の水分を含有し、そして使用される唯一のフィルム形成ポリマーがゼラチンである場合にはシェルの質量に対して10〜16%の水分を含有する。
【0041】
別の局面において、本発明は上で定義されるシェルを含む耐酸性硬カプセルに関する。
【0042】
本発明のカプセルは、本発明のシェルを、封入しようとする1つ又はそれ以上の物質で充填することにより得ることができる。一旦充填されれば、カプセルは例えば接合を恒久的にするために硬カプセルの分野で使用される適切なバンディング(banding)液を使用することにより不正開封防止加工され得る。
【0043】
好ましい実施態様において、上で定義される本発明の硬カプセルシェルは、1つ若しくはそれ以上の酸不安定性物質、並びに/又はヒト及び/若しくは動物において胃の副作用と関連する1つ若しくはそれ以上の物質で充填される。
【0044】
別の局面において、本発明は耐酸性医薬用硬カプセルシェルの製造のための浸漬成形方法に関し、該方法は:
a) 上で定義される水性組成物中にピンを浸漬する工程、
b) 水性組成物から浸漬ピンを引き揚げる工程、及び
c) シェルを得るために浸漬ピンに付着した組成物を乾燥させる工程
を含み;
ここで工程(a)〜(c)はそれが示される順序で行われる。
【0045】
乾燥工程(c)の後、得られたシェルはピンから剥離されて所望の長さに切断され得る。このようにしてカプセルシェルのグループ(parties)(本体及びキャップ)が得られ、続いてこれは最終の空のカプセルを形成するように入れ子式に連結され得る。液状物質で充填する場合、及び所望の場合、一旦充填されればカプセルはバンディング又は密封技術のような当該分野で公知の適切な技術により不正開封防止加工され得る。
【実施例】
【0046】
実施例1〜5
以下の表1は、実施例1〜5において使用される水性組成物の定量的組成を報告する。
医薬用硬カプセルシェルは、以下に開示される(そして全ての実施例について同一の)浸漬成形製造方法にしたがって各組成物から得られた。
【0047】
【表1】

【0048】
浸漬成形製造方法
容量7.5リットルの反応器において脱イオン水を75℃まで加熱した。粉末形態のジェランガム及びHPMC(2910型、20℃にて2%水溶液で6cPの粘度グレード)を一緒に混合した。次いでこの粉末ブレンドを75℃にて水中に撹拌下で分散させた。ジェランガムが完全に溶解するまで撹拌を続けた。非常に穏やかな撹拌下で溶液を脱泡した後、溶液を60℃で平衡化させた。
【0049】
得られた溶液を従来の硬ゼラチンカプセル製造装置の試験機(pilot machine)の浸漬皿に移した。浸漬液を60℃に維持しながら、従来の硬ゼラチンカプセルと同じ寸法仕様を有するサイズ0の自然な透明の硬カプセルシェルを浸漬成形により製造した。
【0050】
得られたカプセルシェルを最初にラクトース及びインジゴチン(FD&C青色2号)(混合物の総質量に対して0.1質量%)の混合物で充填し、次いでシェラックのアルコール中溶液を用いてバンディングした。このバンディングはpH1.2での崩壊試験の間カプセルの本体とキャップの分離を避けるために役立った。
【0051】
充填され、そしてバンディングされたカプセルをUSP−30崩壊試験に従ってUSP−30人工胃液(pH1.2、酵素を含まない)中で酸抵抗性の評価のために試験した。表2(以下)に報告される結果は、本発明の硬カプセルの酸性条件に対する抵抗性を明確に支持している。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例6
工業規模の容器で脱イオン水480リットル中で75℃にてジェランガム5kg及びHPMC 100kg(ジェランガム/HPMC=5/100)から開始したこと以外は実施例1〜5について上で開示された方法にしたがって水性組成物を得た。
【0054】
ジェランガムの完全な溶解、脱泡及び平衡化の後、水性組成物を従来の硬ゼラチンカプセル製造ラインの浸漬皿に工業規模で移した。溶液の温度を60℃に維持しながら、400000のサイズ0の硬カプセルを浸漬成形方法により製造した。作業条件を、従来の硬ゼラチンカプセルと同じ寸法仕様で硬カプセルが得られるように調整した。
【0055】
得られたカプセルを工業規模の充填装置GKFで試験し、これにより従来の硬ゼラチンカプセルと同様の良好な充填性能が確認された。
【0056】
カプセルをアセトアミノフェン(APAP)で充填し、次いで実施例1〜5に記載されるようにバンディングした。
【0057】
実施例1〜5に開示されるpH1.2での崩壊試験により、人工胃液中で1時間後に目視できる漏出はないということが明らかになった。崩壊媒体中に溶解したAPAPを1時間後に添加することにより、APAPが7.9%しか溶解していないことが明らかになった(おそらくシェルを通るAPAPの少ない拡散のため)。これらの結果から、酸媒体中のカプセルの良好な構造抵抗性が確認された。
【0058】
溶解試験
実施例6と同じ硬カプセルをパドル(paddle)装置に置き、そして日本薬局方2(JP2)に記載される投薬形態についての溶解試験に従って試験した。カプセルはJP2に開示される人工胃液(pH1.2)及び腸液(pH6.8)を順に使用することにより50rpmで溶解を受けた。溶解試験の結果を図1に報告する。これらの結果は、本発明の硬カプセルの溶解プロフィールがJP2にしたがって腸溶性硬カプセルの定義を満たすということを示す。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例6と同じ硬カプセルを用いて日本薬局方に記載されている溶解試験に従って試験した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐酸性医薬用硬カプセルの製造のための水性組成物であって、該水性組成物は(i)水性溶媒、(ii)ジェランガム及び(iii)1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーを含み、ここで該1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーに対するジェランガムの質量比は、下端及び上端を含めて4/100〜15/100の間である、水性組成物。
【請求項2】
(i)水性溶媒、(ii)ジェランガム及び(iii)1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーからなり、ここで該1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーに対するジェランガムの質量比は、下端及び上端を含めて4/100〜15/100の間である、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーが、セルロース誘導体、ゼラチン、プルラン、PVA及びデンプン誘導体、好ましくはヒドロキシプロピルデンプン並びにそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項4】
1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーがHPMC、ゼラチン及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項3に記載の水性組成物。
【請求項5】
1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーがHPMCからなる群より選択される、請求項4に記載の水性組成物。
【請求項6】
ジェランガムが、1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマー100質量部あたり下端及び上端を含めて4.5〜8質量部の比率で使用される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項7】
ジェランガムが、1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマー約100質量部あたり4.5〜6質量部の比率で使用される、請求項6に記載の水性組成物。
【請求項8】
水性組成物中のジェランガムと1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーとを合わせた量が、水性組成物の総質量に対して15質量%と40質量%との間である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項9】
(I)水分、(II)ジェランガム及び(III)1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーを含む耐酸性医薬用硬カプセルシェルであって、ここで該1つ又はそれ以上の水溶性フィルム形成ポリマーに対するジェランガムの質量比が、下端及び上端を含めて4/100〜15/100の間である、耐酸性医薬用硬カプセルシェル。
【請求項10】
請求項9において定義されるシェルを含む、耐酸性医薬用硬カプセル。
【請求項11】
前記カプセルがUSP−30人工胃液中pH1.2で少なくとも1時間漏出しない、請求項10に記載の硬カプセル。
【請求項12】
シェルが、1つ若しくはそれ以上の酸不安定性物質、並びに/又はヒト及び/若しくは動物において胃の副作用と関連する1つ若しくはそれ以上の物質で充填される、請求項10又は11に記載の硬カプセル。
【請求項13】
請求項9において定義される耐酸性医薬用硬カプセルシェルの製造のための浸漬成形方法であって:
a) 請求項1〜8のいずれか1項に記載される水性組成物中にピンを浸漬する工程、
b) 水性組成物から浸漬ピンを引き揚げる工程、
c) シェルを得るために浸漬ピンに付着した組成物を乾燥させる工程、
を含み、ここで工程(a)〜(c)は、それらが示される順番で行われる、上記方法。
【請求項14】
耐酸性医薬用硬カプセルシェル及びカプセルの製造のための、請求項1〜8のいずれか1項に記載の水性組成物の使用。
【請求項15】
カプセルシェル及びカプセルが、1つ若しくはそれ以上の酸不安定性物質、並びに/又はヒト及び/若しくは動物において胃の副作用と関連する1つ若しくはそれ以上の物質で充填される、請求項14に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−505928(P2013−505928A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530383(P2012−530383)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054131
【国際公開番号】WO2011/036601
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(512054458)キャプシュゲル・ベルジウム・エヌ・ヴィ (4)
【Fターム(参考)】