説明

耐酸性ガラス繊維の製造方法及び耐酸性ガラス繊維

【課題】製造が容易で、耐酸性に優れたガラス繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】酸と接触させて0.04〜15.00%重量を減少させたガラス繊維の表面に、酸化スズの層を形成する、耐酸性ガラス繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性ガラス繊維の製造方法及び耐酸性ガラス繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酸性雰囲気中で用いられるバグフィルターなどに、ガラス繊維製の織物が使用されている。このガラス繊維は、耐酸性を有することが求められ、例えば、その組成中のアルカリ金属酸化物の配合率を高めること、あるいはSiO分の配合率を高めることによって、耐酸性を付与することが知られている。また、ガラス繊維を酸処理し、表面近傍のSiO分を高める製造方法も知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−114934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガラス繊維の組成中のアルカリ金属酸化物の配合率を高める方法を用いる場合には、長期間酸性雰囲気中にガラス繊維が曝されると徐々にガラス繊維の強度が低下するおそれがあった。また、SiO分の配合率を高める方法を用いる場合には、ガラス繊維の製造が難しく、コストも高くなるという問題があった。一方、特許文献1に開示されたガラス繊維の表面処理で耐酸性を高める製造方法では、ガラス繊維の強度が著しく低下するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、製造が容易な、耐酸性に優れたガラス繊維の製造方法及び耐酸性に優れたガラス繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため、種々の検討を行った。その結果、酸との接触により特定の割合で重量を減少させたガラス繊維の表面に、酸化スズの層を形成することによって、耐酸性に優れたガラス繊維を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、酸と接触させて0.04〜15.00%重量を減少させたガラス繊維の表面に、酸化スズの層を形成する、耐酸性ガラス繊維の製造方法を提供する。
【0008】
酸と接触させてガラス繊維の重量を上記範囲で減少させると、ガラス繊維の組成中のアルカリ土類成分(CaO、MgO等)が溶出し、SiO成分の組成比が高くなる。このように、SiO成分の組成比が高くなったガラス繊維の表面には、酸化スズの層が密に形成されることから、耐酸性に優れたガラス繊維を製造することができる。また、ガラス繊維の重量を上記範囲で減少させるため、ガラス繊維の強度の著しい低下を防止できる。
【0009】
本発明の製造方法においては、酸化スズの層は、ガラス繊維に、スズイオンと酸化剤とを含有する溶液を接触させた後に焼成して形成させることが好ましい。スズイオンと酸化剤とを含有する溶液にガラス繊維を接触させると、ガラス繊維の表面上に水和酸化スズの薄膜を析出させることができ、当該ガラス繊維を焼成することによって、酸化スズの層をガラス繊維の表面上に形成することができる。
【0010】
また、本発明は、上記製造方法により得ることができる耐酸性ガラス繊維を提供する。上記製造方法により得られた耐酸性ガラス繊維は、その表面上に酸化スズの層が密に形成されており、優れた耐酸性を有する。また、酸との接触によるガラス繊維の重量減少が制御されることから、強度にも優れる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、製造が容易な、耐酸性に優れたガラス繊維の製造方法及び耐酸性に優れたガラス繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】酸化スズの層が形成された、実施例8のガラスクロスの表面のSEM画像である。
【図2】酸化スズの層が形成された、実施例8のガラスクロスの表面のSnをEDS法で分析したデジタルマッピングである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明で用いられるガラス繊維について説明する。ガラス繊維は、ガラス繊維フィラメント(ガラス繊維モノフィラメント)、ガラス繊維束、ガラス繊維ストランド、ガラス繊維ヤーン、ガラス繊維の編組物(ガラスクロス等のガラス繊維織物、ガラス繊維編物、ガラス繊維組布)、ガラス繊維巻糸体(ガラス繊維を紙又はプラスチック製の芯材の周囲に10〜200km程度巻き付けた巻糸体等)、ガラス繊維の短繊維(ガラス繊維チョップドストランド等)等いずれの形態であってもよい。
【0014】
ガラス繊維に用いられるガラスの組成は特に限定されないが、例えば、Eガラス、NEガラスなどが用いられる。
【0015】
Eガラスは、複合材料に使用される汎用ガラスであり、例えばその組成は、SiOが52〜56%、Alが12〜16%、アルカリ土類成分(CaO及びMgO)が20〜25%、ROが0〜0.8%、Bが5〜10%である。
【0016】
NEガラスは、Eガラスに比べてアルカリ土類成分(CaO及びMgO)の成分比率が低いが、Bの成分比率が高く、Eガラスと同等の特性を持ち、かつ、低誘電率及び低誘電正接に優れたガラスである。例えばその組成は、SiOが52〜56%、Alが10〜15%、CaOが0〜10%、MgOが0〜5%、ROが0〜1%、Bが15〜20%である。
【0017】
本発明の耐酸性ガラス繊維の製造方法は、酸と接触させて0.04〜15.00%重量を減少させたガラス繊維の表面に、酸化スズの層を形成する製造方法である。
【0018】
ガラス繊維を酸と接触させる方法としては、酸の溶液中にガラス繊維を浸漬させてもよく、酸溶液をガラス繊維の表面に塗布又は噴霧してもよい。その中でも、バットなどの容器内に適量入れられた酸の溶液中にガラス繊維を浸漬させると、ガラス繊維の表面全体に酸を接触させることができることから好ましい。
【0019】
ガラス繊維と酸は、1秒〜10分程度接触させることが好ましい。ガラス繊維と酸とを上記時間接触させることによって、ガラス繊維の重量を0.04〜15.00%減少させることができる。ガラス繊維と酸を接触させる時間は、より好ましくは30秒〜5分程度であり、さらに好ましくは1〜3分程度である。ガラス繊維と酸を接触させる時間が1秒未満の場合は、ガラス繊維の重量を十分に減少させにくいことから好ましくなく、10分以上の場合は、ガラス繊維の重量が15.00%よりも多く減少するおそれがあり、ガラス繊維の強度が著しく低下してしまうことから好ましくない。
【0020】
ガラス繊維と接触させる酸は、気体でも良いが、作業の安全性、取り扱いのし易さ、ガラス繊維の重量の減少を上記範囲で容易に制御できることなどから液体であることが好ましい。
【0021】
ガラス繊維と接触させる際の酸の温度は、用いる酸の融点から沸点、若しくは融点からガラス繊維と接触させている間に少なくとも全量が揮発しない程度の温度であればよい。酸が液体である限りは、好ましくは0℃〜100℃、更に好ましくは5℃〜80℃、より好ましくは20〜60℃である。ガラス繊維と接触させる際の酸の温度が0℃未満では、ガラス繊維の組成中のアルカリ土類成分(CaO、MgO等)を十分に溶出させにくくなり、100℃より高い場合には酸の取り扱いの観点からガラス繊維の重量減少を制御しにくくなりやすい。
【0022】
酸は、ガラス繊維と接触することによって、その重量を0.04〜15.00%減少させることができるものであればいずれの酸も用いることができ、例えば、蟻酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、クエン酸などのカルボン酸や、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸に代表される有機酸であっても、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、ホウ酸に代表される無機酸のいずれであっても良い。この中でも、ガラス繊維の重量の減少を上記範囲で容易に制御することができ、ガラス繊維の強度の著しい低下を防止できることから、塩酸又は酢酸が好ましい。
【0023】
酸との接触による重量の減少は、酸との接触前のガラス繊維の重量と、酸との接触後のガラス繊維の重量の差から算出することができる。また、その減少量を酸との接触前のガラス繊維の重量で除することによって、重量減少率(%)を算出することができる。
【0024】
酸と接触させることによる、ガラス繊維の重量減少率は0.04〜15.00%である。ガラス繊維の重量の減少割合(重量減少率)は、上述のとおり酸の種類や濃度、酸との接触時間や温度などによって調整できるが、ガラス繊維の組成によっても相違する。例えば、NEガラスを用いたガラス繊維の酸との接触による重量減少率は、好ましくは3.00〜15.00%である。また、Eガラスを用いたガラス繊維の酸との接触による重量減少率は、好ましくは0.04〜3.00%であり、より好ましくは0.04〜0.80%である。
【0025】
本発明の耐酸性ガラス繊維の製造方法においては、酸と接触後のガラス繊維の表面に、酸化スズの層を形成する。
【0026】
酸と接触させることにより重量を上記範囲で減少させたガラス繊維は、CaOやMgOなどのアルカリ土類成分が溶出し、SiO成分の組成比が高くなる。このようにシリカリッチとなったガラス繊維は、スズイオンがシリカと接触する機会が増えることにより、その表面上に酸化スズの層を密に形成することが容易となる。
【0027】
酸化スズ(SnO)の層は、ガラス繊維に、スズイオン(Sn2+)と酸化剤とを含有する溶液を接触させた後に焼成して形成させることが好ましい。
【0028】
具体的には、スズイオン(Sn2+)を含む水溶液中にガラス繊維を浸漬させ、酸化剤を用いてSn2+を酸化させることにより、ガラス繊維の表面に水和酸化スズ(SnO・nHO)(nは平均1〜3の数)の薄膜を析出させることができる。
【0029】
スズイオン(Sn2+)を含む水溶液は、水に溶解性、好ましくは易溶性のスズ塩(例えばSnCl、SnSO、Sn(CHCOO)、SnFなど)を水に溶解することによって、Sn2+の水溶液を調整することができる。
【0030】
酸化剤としては、例えば、KNO、NaNO、LiNO、Ca(NO、Ma(NO、Ba(NO、Sr(NOなどの水中で硝酸イオンに解離する化合物を用いることができる。スズイオン(Sn2+)を含む水溶液に上記酸化剤を用いることによって、水溶液中のSn2+を水に難溶性のSn4+に酸化させることができ、生成したSn4+は水和酸化スズ(IV)(SnO・nHO)の薄膜として、ガラス繊維の表面に析出する。
【0031】
スズイオン(Sn2+)を含む水溶液の温度は、50℃超70℃未満であることが好ましく、55〜65℃であることがより好ましい。水溶液の温度が50℃以下又は70℃以上となると、SnO・nHOの薄膜が析出しない場合や、ガラス繊維の表面との密着性の乏しいSnO・nHOの薄膜が析出する場合があることから好ましくない。
【0032】
上記SnO・nHOに係る反応は、下記式(1)及び式(2)のとおりと推測される。
Sn2++NO+2H→Sn4++NO+HO・・・(1)
Sn4++(n+2)HO→SnO・nHO+4H・・・(2)
【0033】
上記式(1)及び式(2)の反応は、緩やかなほど、ガラス繊維の表面に水和酸化スズ(SnO・nHO)の薄膜が付着しやすい。一方、反応が急激に起こると、容器底部へ沈澱する割合が多くなってしまう。従って、溶液中のSn2+濃度は、緩やかに反応が進むように、好ましくは0.005〜5.0mol/Lであり、より好ましくは0.01〜2.0mol/Lである。
【0034】
また、スズイオン(Sn2+)を含む水溶液中のNO濃度は、好ましくは0.05〜2mol/Lであり、より好ましくは0.05〜0.5mol/Lである。NO濃度が0.05mol/L未満又は2mol/Lより高いと、水溶液中のSn2+をSn4+に酸化させにくくなることから好ましくない。
【0035】
スズイオン(Sn2+)を含む水溶液へのガラス繊維の浸漬時間は、好ましくは0.5〜100時間であり、より好ましくは1〜50時間である。ガラス繊維の浸漬時間が、0.5時間未満であると、ガラス繊維の表面に水和酸化スズの薄膜を付着させにくいことから好ましくなく、100時間より長くガラス繊維を浸漬させてもガラス繊維の表面に付着される水和酸化スズの薄膜量は変わらなくなる。
【0036】
また、スズイオン(Sn2+)を含む水溶液のpHは好ましくは1.0〜4.0であり、より好ましくは2.0〜3.0である。pHが1.0未満又は4.0より大きいと、上記式(1)及び式(2)の反応が起こりにくくなることから好ましくない。
【0037】
スズイオン(Sn2+)を含む水溶液へのガラス繊維の浸漬は、蒸発による液面の低下が著しくならない程度に大気に開放した状態で行うのが望ましい。
【0038】
得られるSnO・nHOの薄膜の厚みは、製膜温度、製膜時間、Sn2+濃度、NO濃度などに依存するが、10〜300nm程度である。
【0039】
また酸化剤としては、上述のNOイオンの他に、酸素ガス、過酸化水素(H)、塩素酸イオン(ClO)、過塩素酸イオン(ClO)、臭素酸イオン(BrO)、過臭素酸イオン(BrO)、ペルオキソ二硫酸イオン(S2−)などを用いることもできる。
【0040】
表面に水和酸化スズの薄膜を付着させたガラス繊維を乾燥させ、焼成することにより、ガラス繊維の表面に酸化スズの層を形成させた、耐酸性ガラス繊維を得ることができる。焼成温度は、好ましくは350〜500℃であり、より好ましくは400〜450℃である。また、焼成時間は好ましくは30分〜5時間であり、より好ましくは1〜2時間である。
【0041】
焼成後のガラス繊維の表面上に形成される酸化スズの層の厚みは、焼成温度や焼成時間に影響を受けるが、10〜300nm程度である。
【0042】
本発明に係る耐酸性ガラス繊維の製造方法は、(1)溶融ガラスを延伸して得られた複数のガラス繊維フィラメントに集束剤を塗布する塗布工程、(2)塗布工程で得られた複数のガラス繊維フィラメントを集束してガラス繊維束を得る集束工程、(3)ガラス繊維束を巻き取って巻糸体を得る巻取り工程を備えることが好ましい。巻取り工程において、ガラス繊維束の加撚を行っても行わなくてもよく、一旦、第1の巻糸体に巻き取って、第2の巻糸体に巻き返してもよい。また、巻き取る前又は後で集束剤の乾燥を行ってもよい。
【0043】
巻取り工程後は、ガラス繊維束を巻糸体から解舒して、所定の長さに切断し(切断工程)、チョップドストランドとすることもでき、解舒されたガラス繊維束を編組して(編組工程)、編組物とすることもできる。編組物としては、ガラス繊維束をエアージェット織機等により製織して得られるガラスクロスが挙げられる。なお、ガラス繊維に付着した付着物を加熱除去する脱油工程を実施してもよく、この脱油工程は、例えば巻取り工程の後、編組工程の後に行うことができる。
【0044】
本発明の耐酸性ガラス繊維の製造方法におけるガラス繊維と酸との接触は、ガラス繊維フィラメントの形成後であれば、上記いずれの工程時においても又はいずれの工程間においても、実施することができる。
【0045】
以上のように、本発明により、製造が容易な、耐酸性に優れたガラス繊維の製造方法及び耐酸性に優れたガラス繊維を提供することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
ガラス繊維として、Eガラス(クロスタイプ7628、日東紡績株式会社製)のガラスクロスを用いた。
【0048】
[ガラスクロスと酸との接触]
まず、蓋付の容器(バット)を用意し、20℃で1mol/L塩酸水溶液100ml注いだ。次に、ガラスクロスを折り曲げないようにして、バット内の塩酸水溶液中に浸漬させた。1秒間浸漬させた後、ガラスクロスを塩酸水溶液から取り出し、ガラスクロスに付着した塩酸水溶液をガラス棒で落とした。
【0049】
塩酸に浸漬させたガラスクロスを洗浄するために、バットに水を張り、塩酸が十分に落ちるようにガラスクロスの両面をバット内の水中で揺すりながら洗浄した。洗浄後、さらにガラスクロスに付着した水をガラス棒で落とした。
【0050】
ガラスクロスの塩酸への浸漬後の重量を電子天秤で測定し、浸漬前の重量との差から減少した重量を計算し、重量減少率を算出した。実施例1のガラスクロスの重量減少率は0.05%であった。
【0051】
(実施例2〜16)
実施例2〜16においては、酸の種類や温度、接触時間を表1に示す条件とし、その他は実施例1と同様にして、ガラスクロスを酸と接触させた。実施例2〜16における酸と接触後の重量減少率を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
集束剤を焼いて飛ばしたガラス繊維であって、脱油後の織物であるガラスクロスを用い、20℃の1mol/L酢酸水溶液に1秒間浸漬させた。その後、ガラスクロスを酢酸水溶液中から取り出し、ガラスクロスに付着した酢酸水溶液を洗浄した。
【0053】
(比較例2)
ガラスクロスを酸と接触させなかった。
【0054】
実施例2〜16並びに比較例1及び2のガラスクロスにおける、酸と接触後の重量減少率を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、60℃の塩酸水溶液に10分間浸漬させた実施例8のガラスクロスは、重量減少率が2.68%と最も大きく、20℃の塩酸水溶液に1秒間浸漬させた実施例1のガラスクロスが、0.05%と最も小さくなった。また、酢酸に比べ塩酸の方が、接触時間が長いほどガラス繊維の重量減少率が大きくなる傾向を示した。
【0057】
[酸化スズの層の形成]
次に、酸化スズの層を形成するためのコーティング溶液を準備した。まず、500mlのイオン交換水にKNO(酸化剤)8.92g(0.18M)を混ぜ、さらに水和酸化スズ(SnCl・2HO)を11.25g(0.1M)混ぜて調整した。
【0058】
この水溶液を、ホットスターラー(AS ONE社製)を用いて80℃で3時間加熱し、吸引ろ過することによって、Snコーティング溶液を得た。
【0059】
このSnコーティング溶液(60℃、0.1M)を蓋付バットに入れ、上述の実施例1〜16及び比較例1〜2で得られたガラスクロスを折り曲がらないようにSnコーティング溶液中に一つずつ静置させ、90分間浸漬させた。その後、ガラスクロスをSnコーティング溶液中から取り出し、酸との接触段階と同様に、余分なコーティング溶液を十分にガラスクロスから落とし、洗浄した。このガラスクロスを折り曲げないようにして、加熱用装置内に設置し、400℃で90分間焼成した。
【0060】
上述のようにSnコーティングしたガラスクロスのうち、実施例8についてSEM写真(5000倍)を図1、エネルギー分散法(EDS)によるSnのデジタルマッピングを図2に示す。
【0061】
図1に示すように、ガラスクロスの表面上にSnが非常に薄く被膜され、図2に示すように、Snが分布していることが確認された。
【0062】
[耐酸試験]
耐酸試験は、Snコーティングした実施例1〜16及び比較例1〜2のガラスクロスを、60℃の1mol/L塩酸水溶液に5時間浸漬させることにより行った。実施例1〜16及び比較例1〜2のガラスクロスの耐酸試験後の重量減少率を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示すように、酸との接触時間が長いガラスクロスほど、耐酸試験による重量減少率が小さくなる傾向を示した。特に、60℃の塩酸水溶液に10分間浸漬させた、酸との接触後の重量減少率が最も大きかった実施例8のガラスクロスは、耐酸試験後の重量減少率が1.03%と最も小さくなった。また、酸との接触後の重量減少率が0.05%と最も小さかった実施例1のガラスクロスが、耐酸試験後の重量減少率が14.42%と実施例中において最も大きくなった。一方、比較例1のガラスクロスは、31.20%と耐酸試験後の重量減少率が最も大きくなった。さらに、耐酸試験後の重量減少率は、酢酸と比べ塩酸の方が低くなる傾向を示した。
【0065】
実施例1〜16及び比較例1〜2のガラスクロスにおける、酸と接触後の重量減少率と、耐酸試験後の重量減少率との合計を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3に示すとおり、酸との接触時間が長いガラスクロスほど、重量減少率の合計は小さくなる傾向を示した。実施例1〜16のガラスクロスは、重量減少率の合計が3.26〜14.47%と、比較例1のガラスクロスの31.28%、酸と接触させなかった比較例2のガラスクロスの17.02%と比べ、良好な値を示した。この中でも特に、20℃又は60℃の塩酸水溶液に10分間浸漬させた実施例4及び実施例8のガラスクロスは、重量減少率の合計が3%台と小さく、耐酸性が高いガラス繊維が得られたことを示した。また、塩酸又は酢酸との接触時間が長いガラスクロスほど、重量減少率の合計は小さくなる傾向を示した。また、塩酸の方が酢酸よりも、酸と接触後の重量減少率と耐酸試験後の重量減少率の合計がより低くなる傾向を示した。
【0068】
上記表1〜3の結果より、実施例1〜16のガラス繊維は、比較例1、2のガラス繊維よりも耐酸性が向上していることがわかった。
【0069】
(実施例17、18及び比較例3〜5)
実施例17、18においては、NEガラスを用いたガラスクロスを使用し、60℃の1mol/L塩酸水溶液のみを用い、塩酸への浸漬時間を1秒〜120分(7200秒)とした以外は、実施例1と同様にして、酸と接触させた。また、比較例3は塩酸への浸漬時間を1秒、比較例4は塩酸への浸漬時間を120分(7200秒)とした以外は、実施例17と同様にして、酸と接触させた。比較例5は酸と接触させなかった。
【0070】
実施例17、18と比較例3、4における、酸との接触時間、酸と接触前のガラスクロスの重量と、酸と接触後のガラスクロスの重量、重量減少量、及び、重量減少率を表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
表4に示すとおり、酸との接触時間が120分(7200秒)と最も長い比較例4が、酸と接触後の重量減少率が29.86%と大きくなった。一方、酸との接触時間が1秒、60秒と短かった実施例17及び比較例3は、酸と接触後の重量減少率が0.05%、0.03%とわずかであった。
【0073】
酸と接触後の実施例17、18及び比較例3、4のガラスクロスと、酸と接触させなかった比較例5のガラスクロスについて、実施例1と同様にして、その表面上に酸化スズの層を形成させた。
【0074】
酸化スズの層を形成させた実施例17、18及び比較例3〜5のガラスクロスについて、60℃の1mol/L塩酸水溶液に5時間浸漬させることにより耐酸試験を行った。実施例17、18及び比較例3〜5の酸との接触時間、耐酸試験前のガラスクロスの重量と、耐酸試験後のガラスクロスの重量、重量減少量、及び、重量減少率を表5に示す。
【0075】
【表5】

【0076】
表5に示すとおり、酸との接触時間が120分(7200秒)と最も長い比較例4は、耐酸試験後の重量減少率が3.39%と最も小さくなった。一方、酸との接触時間が1秒と短かった比較例3は、耐酸試験後の重量減少率が31.00%と大きくなった。また、NEガラスを用いたガラスクロスにおいても、Eガラスと同様に、酸との接触時間(浸漬時間)が長いほど、耐酸試験後の重量減少率は小さくなる傾向を示した。
【0077】
実施例17、18及び比較例3〜5のガラスクロスについて、酸と接触後の重量減少率と耐酸試験後の重量減少率の合計を表6に示す。
【0078】
【表6】

【0079】
表6に示すとおり、酸と接触させない比較例5の34.73%と比べて、実施例17、18及び比較例3、4のガラスクロスは、重量減少率の合計が19.20〜33.26%と小さくなった。特に、酸との接触時間が30分(1800秒)のガラスクロスである実施例18は、重量減少率の合計が19.20%と最も小さくなった。しかし、酸との接触時間が1秒と短く、酸と接触後の重量減少率が0.03%と小さかった比較例3は、重量減少率の合計が31.03%であり、酸と接触させない比較例5とほとんど変わらない値であった。また、酸との接触時間が120分(7200秒)と長く、酸と接触後の重量減少率が29.86%と大きかった比較例4は、重量減少率の合計が33.26%であり、酸と接触させない比較例5とほとんど変わらない値であった。以上より、NEガラスを用いたガラスクロスにおいては、酸との接触時間が短すぎても、また長すぎても、重量減少率の合計は大きくなる傾向を示し、実施例18のように酸との接触時間が30分(1800秒)程度の場合が、重量減少率の合計が小さくなる傾向を示した。
【0080】
上記表4〜6の結果より、実施例17〜18のガラス繊維は、比較例3〜5のガラス繊維よりも耐酸性が向上していることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸と接触させて0.04〜15.00%重量を減少させたガラス繊維の表面に、酸化スズの層を形成する、耐酸性ガラス繊維の製造方法。
【請求項2】
前記酸化スズの層は、前記ガラス繊維に、スズイオンと酸化剤とを含有する溶液を接触させた後に焼成して形成させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により得ることができる、耐酸性ガラス繊維。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−46361(P2012−46361A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187388(P2010−187388)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】