説明

耐雷架空地線

【課題】既存の製造設備及び製造管理で製造でき、かつ、耐雷性に対して安定した特性を得ることのできる耐雷架空地線を提供する。
【解決手段】外層200の素線20が内層100の素線10よりも大きい外径を有することにより、優れた耐雷特性を有し、標準AC150mmと同一の外径で形成されているので、標準AC150mmに用いる圧縮クランプ、直線スリーブ、ダンパー等の付属品を使用することができる。また、既存の電線製造設備を用いた製造が可能であり、製造、布設に要するコストの増加を生じることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐雷架空地線に関し、特に、耐雷性及び電線強度に優れるとともに標準の付属品の適用が可能な耐雷架空地線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、架空送電線への落雷を防止するものとして、架空送電線の本線の上方に架空地線を設けて落雷を架空地線に誘導し、架空送電線の本線への落雷を防ぐことが行われている。架空地線では、落雷によるエネルギーによって断線することのない耐雷性および信頼性と、雷撃電流を速やかに接地部に逃がす導電性が求められる。
【0003】
このような架空地線として、鋼からなる芯材の周囲にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる被覆材を設けた素線を複数本撚り合わせて形成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
架空地線は、鉄塔間に架線される送電線の上方に設けられることから雷撃を受け易く、そのアーク熱によって溶断すると、落雷に対する送電線の保護機能が失われるばかりでなく、架空地線を構成する素線がばらけて送電線と接触し、短絡するおそれがある。これを防ぐものとして耐雷性を高めた耐雷架空地線が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0005】
特許文献2に記載された架空地線は、撚り合わされた最外層の各成形素線の周方向端面が架空地線の中心を通り、その半径方向に放射状に直線に伸びる軸線と一致しないように形成されており、周方向端面の少なくとも一部は、隣接する成形素線と相互に係合し、隣接するいずれか一方の成形素線により押さえられている。このことにより、雷撃によって断線が生じても、成形素線の撚りが戻ってばらけることが防止される。
【0006】
また特許文献3に記載された耐雷電線は、素線の芯材よりも外側の部分に厚いアルミニウム層を有するように鋼からなる心材が偏心して設けられる扇形の素線であり、落雷時に発生する熱が芯材に伝達されにくい構造としている。
【特許文献1】特開平7−57544号公報
【特許文献2】特開平7−122117号公報
【特許文献3】特開平5−62522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1から3に記載された架空地線によると、芯材の偏心構造や、互いに係合可能な成形素線形状とすることで落雷時に発生する熱が素線に及ぶことを防ぐものであるため、安定した耐雷性を得るための製造設備及び製造管理が必要となり、製造コストを増大させるという問題がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、既存の製造設備及び製造管理で製造でき、かつ、耐雷性に対して安定した特性を得ることができ、電線強度に優れるとともに標準の付属品が適用できる耐雷架空地線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するため、標準架空地線(AC)150mmと同一の外径を有し、内層を形成する複数の第1の素線と、前記第1の素線より外径が大で、前記内層の外側に外層を形成する複数の第2の素線とを撚り合わせて形成され、線膨張係数が前記標準架空地線(AC)150mmと同等又は前記標準架空地線(AC)150mmよりも小であることを特徴とする耐雷架空地線を提供する。
【0010】
上記耐雷架空地線において、第1の素線は、外径が2.53mmから2.8mmで形成され、第2の素線は、外径が3.8mmから4.2mmで形成されることが好ましい。また、第1の素線は、導電率が第2の素線と同等、又は第2の素線よりも小であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、既存の製造設備及び製造管理で製造でき、かつ、耐雷性に対して安定した特性を得ることができ、電線強度に優れるとともに標準の付属品が適用できる耐雷架空地線が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る耐雷架空地線の断面図である。
【0013】
この耐雷架空地線1は、鋼からなる芯材11、芯材11の外周を被覆して設けられるアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム被覆部12を有する素線10と、鋼からなる芯材21、芯材21の外周を被覆して設けられるアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム被覆部22を有し、素線10よりも外径の大きい素線20とを有し、7本の素線10からなる内層100と、内層100の外側に9本の素線20からなる外層200とが撚り合わされた構成を有する。
【0014】
素線10は、芯材11の外層に連続押し出しによって形成されたアルミニウム被覆部12を有する。なお、素線20についても素線10と同様に形成される。
【0015】
素線10は、外径2.66mm、導電率40%で形成されており、素線20は、外径4.0mm、導電率40%で形成されている。素線20の溶融エネルギーは563.4J/cmである。この耐雷架空地線1は、素線10よりも素線20の外径が大きい構成としているが、耐雷架空地線1の外径は標準電線であるAC150mmと同一の16mmとなるように構成されている。
【0016】
図2は、耐雷架空地線における素線の溶融エネルギーと最大耐電荷量(素線が溶断しない最大電荷量)の関係を示す図である。本実施の形態の耐雷架空地線1の外層の素線20の溶融エネルギーは563.4J/cmであるので、夏季雷の耐電荷重の目標値である200C(素線の溶融エネルギー:約380J/cm)、冬季雷の耐電荷重の目標値である300C(素線の溶融エネルギー:約550J/cm)を上回る優れた耐雷性能を有している。なお、素線の溶融エネルギーは、数1に示す式により求められる。
【数1】

【0017】
[第1の実施の形態の効果]
上記した実施の形態によると、外層200の素線20が内層100の素線10よりも大きい外径を有することにより、雷撃を受けても溶断又は断線することなく優れた耐雷特性を有し、標準AC150mmと同一の外径で形成されているので、標準AC150mmに用いる圧縮クランプ、直線スリーブ、ダンパー等の付属品を使用することができる。また、既存の電線製造設備を用いた製造が可能であり、製造、布設に要するコストの増加を生じることがない。
【0018】
また、本実施の形態の耐雷架空地線1は、外径が同一の標準AC150mmの重量718.8kg/kmに対して716.3kg/kmと軽量であり、鉄塔等の設備の補強や改修も不要である。
【0019】
なお、本発明者らは、外層200の素線20について、4.0mm付近の外径について鋭意検討を行った結果、40ACを用いる場合で外径3.8mmから4.2mmの範囲で耐雷特性が改善されることを確認した。素線20を外径3.8mmで形成したときの溶融エネルギーは509J/cmであり、素線20を外径4.2mmで形成したときの溶融エネルギーは620.5J/cmで、夏季雷及び冬季雷の最大耐電荷量に対して十分な耐雷性を発揮する。
【実施例1】
【0020】
次に、本発明の実施例について説明する。以下の実施例において、図1で説明した耐雷架空地線1の内層100を構成する素線10を外径2.66mmとし、導電率の異なるものとして、内層20ACタイプ(実施例1)、内層23ACタイプ(実施例2)、内層27ACタイプ(実施例3)、内層30ACタイプ(実施例4)を作製した。
【0021】
また、耐雷架空地線1の外層200を構成する素線20を外径4.2mm、40ACタイプとし、内層100を構成する素線10を外径2.53mm、20ACタイプとしたもの(実施例5)、外層200を構成する素線20を外径3.8mm、40ACタイプとし、内層100を構成する素線10を外径2.80mm、23ACタイプとしたもの(実施例6)を作製した。
【0022】
更に、外層200を構成する素線20を外径4.0mm、40ACタイプとし、内層100を構成する素線10を外径2.66mm、40ACタイプとしたものを実施例7として、図1に示す耐雷架空地線1を示すとともに、内層及び外層の素線が共に外径3.2mmで19本の40ACからなる標準AC150mmを従来例として作製した。表1に各実施例及び従来例について示す。なお、各タイプの数値は導電率を示している。
【0023】
【表1】

【0024】
図3は、耐雷架空地線の弛度及び張力について示し、(a)は弛度特性を示す図、(b)は張力特性を示す図である。なお、弛度及び張力については20℃の温度条件下での特性について示している。
【0025】
図3(a)及び(b)に示されるように、従来例の標準AC150mmと図1に示す実施例7の耐雷架空地線(40AC)1は、弛度及び張力ともに同等の特性を有する。そのため、架空地線の張り替えに際しても既存の布設工法での施工が可能で、標準の付属品の使用も可能である。
【0026】
図4は、耐雷架空地線に対するアーク試験時の電荷量とより線破断荷重について示し、(a)は実施例1、4、及び7の耐雷架空地線について示す図、(b)は標準AC150mmについて示す図である。なお、電荷量については基準張力を30.4kNとしたときの安全率2.5(=76kN)を確保できる値を示している。
【0027】
電荷量については、図4(a)に示すように、実施例1で505C、実施例4で428C、実施例7で301Cを示している。一方、図4(b)に示す従来例の標準AC150mmは195Cであることから、実施例1、4、及び7の耐雷架空地線では夏季雷、冬季雷の落雷に対しても素線断線を生じにくい構造が得られていることがわかる。
【0028】
また、耐熱試験として、各実施例及び従来例の耐雷架空地線について、電線長を約3mとし、13.5%UTS(ultimate tensile strength)でEDS(Every Day Stress)の条件で定張力装置に架線した。そして瞬時許容電流400℃まで電線温度を上昇させた後、通電を停止して室温まで冷却して熱履歴を確認した。
【0029】
耐熱試験後、内層40ACタイプ、内層30ACタイプとも、耐雷架空地線の外観に笑い等の異常は確認されなかった。実施例7の内層40ACタイプは外層の素線40ACと同一の線種であり、線膨張係数も15.5×10−6/℃で同一であること、また、内層30ACタイプの線膨張係数も15.0×10−6/℃で40ACとほぼ同等の値であることから、熱応力による影響は小さいものと考えられる。
【0030】
また、振動疲労試験として、各実施例及び従来例の耐雷架空地線について、EDSの厳しい側の条件である20%UTSで架線して振動疲労試験を行った。振動疲労試験は電線表面にひずみゲージを貼り付け、発生ひずみ量を±100μst(100×10−6)に設定し、加振周波数20Hzで10回加振することにより行った。振動疲労試験後、各実施例の耐雷架空地線では、素線のアルミニウム被覆部に割れ等の異常は認められず、健全な状態であることを確認した。
【0031】
また、金車通過試験として、内層40ACタイプ、内層30ACタイプの耐雷架空地線について実規模延線を想定した金車通過試験(金車径φ300mm、水平角30°、抱角60°、往復20回)を実施した。金車試験時に、各実施例の耐雷架空地線とも各部で笑いは発生しなかった。また、金車通過時のピッチ、電線外径を測定した結果、20回通過後も電線外径、ピッチに変化は認められなかった。試験後、耐雷架空地線を解体してニッキング率を調査した結果、最大ニッキング率は規格値の10%以下であり、実用上問題ないことを確認した。
【0032】
また、付属品試験として、標準AC150mm用の標準品である圧縮クランプ、直線スリーブを使用して各実施例の耐雷架空地線について線状掌握力試験を実施した。その結果、内層40ACタイプ、内層30ACタイプの耐雷架空地線で規格値である95%UTS以上の値を示し、標準付属品の適用が可能であることを確認した。上記試験などの結果から、本実施例の耐雷架空地線は優れた電線強度を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る耐雷架空地線の断面図である。
【図2】図2は、耐雷架空地線における素線の溶融エネルギーと最大耐電荷量(素線が溶断しない最大電荷量)の関係を示す図である。
【図3】図3は、耐雷架空地線の弛度及び張力について示し、(a)は弛度特性を示す図、(b)は張力特性を示す図である。
【図4】図4は、耐雷架空地線に対するアーク試験時の電荷量とより線破断荷重について示し、(a)は実施例1、4、及び7の耐雷架空地線について示す図、(b)は標準AC150mmについて示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1…耐雷架空地線、10、20…素線、11、21…芯材、12、22…アルミニウム被覆材、100…内層、200…外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準架空地線(AC)150mmと同一の外径を有し、内層を形成する複数の第1の素線と、前記第1の素線より外径が大で、前記内層の外側に外層を形成する複数の第2の素線とを撚り合わせて形成され、線膨張係数が前記標準架空地線(AC)150mmと同等又は前記標準架空地線(AC)150mmよりも小であることを特徴とする耐雷架空地線。
【請求項2】
前記第1の素線は、外径が2.53mmから2.8mmで形成され、
前記第2の素線は、外径が3.8mmから4.2mmで形成されることを特徴とする請求項1に記載の耐雷架空地線。
【請求項3】
前記第1の素線は、導電率が前記第2の素線と同等又は前記第2の素線よりも小であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐雷架空地線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−15946(P2010−15946A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177300(P2008−177300)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【Fターム(参考)】