説明

耐震ロック装置の取付構造

【課題】地震が発生した際、キャビネットの収納空間の上部にまで物品を収納している場合であっても、その収納物品が耐震ロック装置に衝突することがない、耐震ロック装置の取付構造を提供する。
【解決手段】ウォールキャビネット3は、天板31、左右一対の側板32、32、底板33、背板34及び天板31の前端部の下面に取り付けられた前桟木35からなる本体部3Aと、この本体部3Aの前面開口部を閉塞する開閉可能な2枚の扉3Bとから構成されており、側板32、32には、収納空間を上下に仕切る2枚の棚板36、36を着脱自在に取り付けることができるようになっている。耐震ロック装置1を構成している係合部材1Bは、従来と同様に、扉3Bにおける裏面上部に取り付けられているが、装置本体1Aは、前桟木35の下面に取り付けられており、扉3Bを閉じた状態では、前桟木35が、装置本体1Aや係合部材1Bよりも後方側に張り出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地震が発生したときに、キャビネットの扉が開くのを阻止する耐震ロック装置のキャビネットへの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の耐震ロック装置は、図6〜図8に示すように、通常、キャビネット2の本体部2Aに取り付けられる装置本体1Aと、キャビネット2の扉2Bに取り付けられる係合部材1Bとから構成されており、装置本体1Aは、本体部2Aの天板21の下面に固定されるのが一般的である。
【0003】
前記装置本体1Aは、図9(a)、(b)及び図10(a)〜(c)に示すように、ケース本体12の上端開口部が蓋13によって閉塞されるケース11と、ケース本体12の底面に形成された挿通穴12aに出没自在に挿通されるロックピン14と、このロックピン14の上端に連設されたフランジ15と、ケース11内に収容された3個の鋼球16とを備えており、3個の鋼球16は、地震に伴うキャビネット2の揺れによって、フランジ15上に転動することで、ロックピン14の上昇を規制するようになっている。
【0004】
ケース本体12には、フランジ15の周囲に3個の鋼球16をそれぞれ退避させる退避スペースが3箇所設けられており、これらの退避スペース及びフランジ15を取り囲む仕切体12bが一体成形されている。
【0005】
ケース本体12の上端開口部を閉塞する蓋13の下面には、フランジ15に対応する部分に、ケース本体12の各退避スペースに退避している鋼球16をフランジ15上に案内する、突条からなるガイド体13aが一体成形されており、このガイド体13aによって、各鋼球16のフランジ15上への進入スペースが完全に区画されている。
【0006】
フランジ15の上面は、中心から周縁に向かって下がり傾斜になっており、地震に伴うキャビネット2の揺れによってフランジ15上に移動した鋼球16は、地震の揺れがなくなると、ガイド体13aに案内されながら、自然にフランジ15の周縁側に転動し、待機スペースに退避することになる。
【0007】
前記係合部材1Bは、図8に示すように、その先端部に、ケース本体12の挿通穴12aから突出しているロックピン14に当接する当接部17が形成されており、この当接部17は、当接したロックピン14を押し上げることができるように、扉2Bの開閉方向の前後に傾斜した当接面17a、17bを有している。
【0008】
以上のように構成された耐震ロック装置1は、通常、図11(a)〜(c)に示すように、3個の鋼球16がケース本体12の各退避スペースに退避した状態となっているので、ロックピン14の上端に連設されたフランジ15の上方に障害物がなく、ロックピン14が自由に昇降することができる状態になっている。従って、扉2Bを開閉する際は、係合部材1Bの当接部17における傾斜した当接面17a、17bがロックピン14を押し上げながら通過することになるので、ロックピン14が扉2Bの開閉動作の障害になることがなく、扉2Bを自由に開閉することができる。
【0009】
一方、地震の発生に伴ってキャビネット2に揺れが発生すると、図12(a)に示すように、各退避スペースに退避している3個の鋼球16のうち、少なくとも1個の鋼球16がフランジ15上に転動し、ロックピン14の上昇を阻止するので、同図(b)に示すように、扉2Bが開こうとしても、扉2Bに取り付けられている係合部材1Bの当接部17がロックピン14に係止され、扉2Bはほとんど開くことがない。ここで、地震に伴うキャビネット2の揺れが停止すると、同図(c)に示すように、フランジ15上に位置している鋼球16が、フランジ15の傾斜した上面を周縁側に転動し、退避スペースに戻ることになるので、図11(a)〜(c)に示すように、扉2Bを自由に開閉することができる状態となる。
【0010】
【特許文献1】特許第3048357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述したようなキャビネット2に物品を収納する場合、収納空間の有効利用を図るために、図7に示すように、耐震ロック装置1の後方側において、収納空間の上部にまで物品Mを収納することが多く、こういった収納状態で地震が発生すると、その揺れによって、同図に二点鎖線で示すように、収納物品Mが動いて耐震ロック装置1の装置本体1Aや係合部材1Bに衝突する場合がある。
【0012】
そして、こうして収納物品Mが耐震ロック装置1の装置本体1Aや係合部材1Bに衝突すると、装置本体1Aや係合部材1Bが変形、破損したり、これらの取付位置がずれたりする場合があり、そのような場合は、耐震ロック装置1による扉2Bのロック機能が正常に作動しなかったり、地震が収まっても、扉2Bのロック状態を解除することができなくなったりするおそれがある。
【0013】
そこで、この発明の課題は、地震が発生した際、キャビネットの収納空間の上部にまで物品Mを収納している場合であっても、その収納物品が耐震ロック装置に衝突することがない、耐震ロック装置の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、請求項1にかかる発明は、キャビネットの本体部に取り付けられる装置本体と、前記キャビネットの扉に取り付けられる、前記装置本体が係止可能な係合部材とを備え、地震が発生すると、前記装置本体により前記係合部材が係止されるようになっている耐震ロック装置の取付構造であって、前記装置本体は、前記キャビネットの収納空間内に露出した状態で設置されている取付部材の下面に取り付けられており、前記扉を閉じた状態で、前記装置本体及び前記係合部材が前記取付部材の後方側に張り出さないようになっていることを特徴とする耐震ロック装置の取付構造を提供するものである。
【0015】
また、請求項2にかかる発明は、請求項1にかかる発明の耐震ロック装置の取付構造において、前記装置本体及び前記係合部材が前記取付部材の横方向外側に張り出さないようにしたものである。
【0016】
また、請求項3にかかる発明は、請求項1または2にかかる発明の耐震ロック装置の取付構造において、前記取付部材として、前記キャビネットの幅方向に延びる桟木を使用したものである。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、請求項1にかかる発明の耐震ロック装置の取付構造では、前記扉を閉じた状態で、装置本体及び係合部材が取付部材の後方側に張り出さないようになっているので、キャビネットの収納空間の上部にまで物品を収納している場合に、地震の揺れに伴って、その収納物品が前後方向に動いても、収納物品が耐震ロック装置に衝突することがなく、耐震ロック装置の装置本体や係合部材が変形、破損したり、これらの取付位置がずれたりすることがない。
【0018】
特に、請求項2にかかる発明の耐震ロック装置の取付構造では、装置本体及び係合部材が取付部材の横方向外側に張り出さないようになっているので、キャビネットの収納空間の上部にまで物品を収納している場合に、地震の揺れに伴って、その収納物品が横方向に動いても、収納物品が耐震ロック装置に衝突することがなく、耐震ロック装置の装置本体や係合部材が変形、破損したり、これらの取付位置がずれたりすることがない。
【0019】
また、請求項3にかかる発明の耐震ロック装置の取付構造では、取付部材として、キャビネットの幅方向に延びる桟木を使用しているので、耐震ロック装置を取り付けるためだけに別途取付部材を設ける必要がなく、部品点数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。図1及び図2は、耐震ロック装置を取り付けたウォールキャビネット3を示している。なお、このウォールキャビネット3では、背景技術の欄で説明したものと同一の耐震ロック装置1を使用しているので、耐震ロック装置については同一符号を付してその説明を省略する。
【0021】
このウォールキャビネット3は、同図に示すように、天板31、左右一対の側板32、32、底板33、背板34及び天板31の前端部の下面に取り付けられた前桟木35からなる本体部3Aと、この本体部3Aの前面開口部を閉塞する開閉可能な2枚の扉3Bとから構成されており、側板32、32には、収納空間を上下に仕切る2枚の棚板36、36を着脱自在に取り付けることができるようになっている。なお、前桟木35は、天板31の撓み防止や本体部3Aの強度維持及び補強のために設けられており、その後端面及び下面がウォールキャビネット3の収納空間内に露出した状態となっている。
【0022】
耐震ロック装置1を構成している係合部材1Bは、従来と同様に、扉3Bにおける裏面上部に取り付けられているが、装置本体1Aは、従来のように、天板31の下面に取り付けられるのではなく、図1(a)、(b)及び図2に示すように、前桟木35の下面に取り付けられており、扉3Bを閉じた状態において、装置本体1Aを取り付けている前桟木35は、装置本体1Aや係合部材1Bよりも後方側に張り出している。
【0023】
以上のように、このウォールキャビネット3では、扉3Bを閉じた状態において、耐震ロック装置1の装置本体1Aを取り付けている前桟木35が装置本体1Aや係合部材1Bよりも後方側に張り出しているので、上段の棚板36に載せている収納物品Mが収納空間の上部にまで至る高さを有している場合に、地震の揺れに伴って、その収納物品Mが前後方向に動いても、収納物品Mが耐震ロック装置1に衝突することがない。従って、耐震ロック装置1の装置本体1Aや係合部材1Bが変形、破損したり、これらの取付位置がずれたりすることがなく、耐震ロック装置1が正常に作動することになる。
【0024】
図3及び図4は、耐震ロック装置を取り付けたベースキャビネット4を示している。なお、このベースキャビネット4についても、背景技術の欄で説明したものと同一の耐震ロック装置1を使用しているので、耐震ロック装置については同一符号を付してその説明を省略する。
【0025】
このベースキャビネット4は、同図に示すように、上面開口部及び前面開口部を有する本体部4Aと、この本体部4Aの前面開口部を開閉する2枚の扉4B、4B及び前面開口部の上部領域に差し込まれる引き出し4Cとから構成されており、本体部4Aの上面開口部にはカウンター(図示せず)が固定設置されるようになっている。
【0026】
本体部4Aは、左右一対の側板41、41と、側板41、41を背面側で連結する背板42と、側板41、41の上部を前面側で連結する前桟木43と、扉4B及び引き出し4Cの前板が当接する戸当り桟44と、蹴込板45と、蹴込板45の上端部に設置された底板46とを備えており、側板41、41には、収納空間を上下に仕切る2枚の棚板47、47を着脱自在に取り付けることができるようになっている。なお、戸当り桟44は、その後端面及び下面がベースキャビネット4の収納空間内に露出した状態となっている。
【0027】
耐震ロック装置1を構成している係合部材1Bは、図4に示すように、扉4Bにおける裏面に取り付けられていると共に、装置本体1Aは、図3及び図4に示すように、戸当り桟44の下面に取り付けられており、扉4Bを閉じた状態において、装置本体1Aを取り付けている戸当り桟44は、装置本体1Aや係合部材1Bよりも後方側に張り出している。
【0028】
以上のように、このベースキャビネット4も、上述したウォールキャビネット3と同様に、扉4Bを閉じた状態において、耐震ロック装置1の装置本体1Aを取り付けている戸当り桟44が装置本体1Aや係合部材1Bよりも後方側に張り出しているので、図4に示すように、上段の棚板47に載せている収納物品Mが収納空間の上部にまで至る高さを有している場合に、地震の揺れに伴って、その収納物品Mが前後方向に動いても、収納物品Mが耐震ロック装置1に衝突することがない。従って、耐震ロック装置1の装置本体1Aや係合部材1Bが変形、破損したり、これらの取付位置がずれたりすることがなく、耐震ロック装置1が正常に作動することになる。
【0029】
なお、上述した各実施形態では、扉3B、4Bを閉じた状態で、耐震ロック装置1の装置本体1Aを取り付けている前桟木35や戸当り桟44が装置本体1Aや係合部材1Bよりも後方側に張り出しているが、これに限定されるものではなく、扉3B、4Bを閉じた状態で、装置本体1A及び係合部材1Bが前桟木35や戸当り桟44の後方側に張り出さないようになっていればよい。
【0030】
また、上述したウォールキャビネット3では、天板31に取り付けた前桟木35の下面に耐震ロック装置1の装置本体1Aを取り付けているが、これに限定されるものではなく、図5(a)、(b)に示すように、前桟木35に代えて、両側端面、後端面及び下面が本体部3Aの収納空間内に露出するように、ある程度の幅、奥行き及び厚みを有する取付部材37を天板31に取り付け、この取付部材37の下面に耐震ロック装置1の装置本体1Aを取り付けるようにしてもよい。ただし、この場合も、装置本体1Aや係合部材(図示せず)が取付部材37の後方側に張り出さないようにしておかなければならないことは言うまでもなく、さらに、装置本体1Aや係合部材(図示せず)が取付部材37の横方向外側に張り出さないようにしておくことが望ましい。装置本体1Aや係合部材(図示せず)が取付部材37の横方向外側に張り出さないようにしておくと、地震の揺れに伴って、収納物品Mが横方向に動いても、収納物品Mが耐震ロック装置に衝突することがないからである。
【0031】
また、耐震ロック装置1の装置本体1Aを取り付ける前桟木35、戸当り桟44及び取付部材37の材質は、特に限定されるものではなく、パーティクルボード、中質繊維板、合板等の木質材、金属、樹脂等によって形成することが可能である。ただし、収納物品が衝突する可能性があるので、衝撃を吸収することができる素材を使用しておくことが望ましい。
【0032】
また、前桟木35、戸当り桟44及び取付部材37は、収納スペース等を考慮して適宜設定すればよいが、収納物品Mの耐震ロック装置への衝突を防止するという観点からは、少なくとも、10mm以上の厚みを確保することが望ましい。
【0033】
また、本発明は、上述したような耐震ロック装置1に限定されるものではなく、キャビネットの本体部に取り付けられる装置本体と、キャビネットの扉に取り付けられる、装置本体が係止可能な係合部材とを備えている、種々の耐震ロック装置に対して本発明を適用することができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】(a)はこの発明にかかる耐震ロック装置の取付構造を採用しているウォールキャビネットの一実施形態を示す平面図、(b)は同上のウォールキャビネットを示す正面図である。
【図2】図1(b)のX−X線に沿った断面図である。
【図3】この発明にかかる耐震ロック装置の取付構造を採用しているベースキャビネットの一実施形態を示す正面図である。
【図4】図3のY−Y線に沿った断面図である。
【図5】(a)は同上のウォールキャビネットの変形例を示す平面図、(b)は同上のウォールキャビネットを示す正面図である。
【図6】(a)は従来の耐震ロック装置の取付構造を採用しているウォールキャビネットを示す平面図、(b)は同上のウォールキャビネットを示す正面図である。
【図7】同上のウォールキャビネットを示す縦断面図である。
【図8】同上の耐震ロック装置の取付状態を示す側面図である。
【図9】(a)は同上の耐震ロック装置における装置本体を示す底面図、(b)は同上の装置本体を示す正面図である。
【図10】a)は同上の装置本体におけるケースの蓋を取り外した状態を示す平面図、(b)は同上の装置本体を示す断面図、(c)は同上の蓋の下面を示す平面図である。
【図11】(a)〜(c)は同上の耐震ロック装置の通常時の動作を示す動作説明図である。
【図12】(a)〜(c)は同上の耐震ロック装置の地震発生時の動作を示す動作説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 耐震ロック装置
1A 装置本体
1B 係合部材
3 ウォールキャビネット
3A 本体部
3B 扉
4 ベースキャビネット
4A 本体部
4B 扉
4C 引き出し
31 天板
32 側板
33 底板
34 背板
35 前桟木
36 棚板
37 取付部材
41 側板
42 背板
43 前桟木
44 戸当り桟
45 蹴込板
46 底板
47 棚板
M 収納物品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビネットの本体部に取り付けられる装置本体と、前記キャビネットの扉に取り付けられる、前記装置本体が係止可能な係合部材とを備え、地震が発生すると、前記装置本体により前記係合部材が係止されるようになっている耐震ロック装置の取付構造であって、
前記装置本体は、前記キャビネットの収納空間内に露出した状態で設置されている取付部材の下面に取り付けられており、
前記扉を閉じた状態で、前記装置本体及び前記係合部材が前記取付部材の後方側に張り出さないようになっていることを特徴とする耐震ロック装置の取付構造。
【請求項2】
前記装置本体及び前記係合部材が前記取付部材の横方向外側に張り出さないようになっている請求項1に記載の耐震ロック装置の取付構造。
【請求項3】
前記取付部材として、前記キャビネットの幅方向に延びる桟木を使用した請求項1または2に記載の耐震ロック装置の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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