説明

耐震天井構造

【課題】ドームの耐震天井構造を提供する。
【解決手段】三角メッシュ構造2をプリテンションの状態にする構造で、張力部材3のみで、凸の曲率を持つケーブルトラス構造を確立し、柔軟な面材9の使用とあいまって、軽量であり、落下の危険のある剛体を使わない耐震天井構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドームの耐震天井構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドームや運動競技場等大規模集客施設において、大面積天井を代表とする非構造材落下事故が報告されている。これらの被害は、地震時のみならず、非地震時にも発生している。そのため、落下防止のために、天井直下にケーブルネットを張るなどの対策が提案されている。しかしながら、このような対策は、元来の美観を損なうこともあり、積極的な対応とは言えない。
【0003】
より本質的な対策は、天井そのものをケーブルネット構造とし、グラスファイバーの生地をテフロン加工した膜で天井面を張るというものが提案されている。この種の天井は、通常の石膏ボードの天井にたいして、金属の格子を含めても数分の一と軽くなり、天井を支える構造物への負担は減り、万が一落ちたとしても軽量である分、人的被害は少なくなる。
【0004】
これらの、ケーブルネットを用いた提案は、明確に正しい方向を打ち出した対策として評価されるが、より積極的な天井構造のデザインの可能性はあるであろうし、今後求められるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ドームの耐震天井構造を提供することにある。本明細書でドームとは、高さと広さのある大スパン構造一般を言う。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、請求項1に示されるように、ドームに付設される天井構造において、ドーム構造と、ガウスの曲率正の曲面を近似する三角メッシュ構造と、各種ケーブル、各種ケーブル長さ調節機構、各種ジョイント、及び各種膜材を主な構成部材とする構造において、該メッシュ構造の三角形線分をケーブル、三角形頂点をジョイントとし、該メッシュ構造の各三角形頂点及び外周縁を、ドーム構造の支持点と相互にタイケーブル等で結合して一体の構造とし、三角形線分ケーブルの長さ、タイケーブルの長さ、該ドーム支持点との距離の設計・調節によって、該メッシュ構造のすべてのケーブルをプリテンションの状態にすることにより、該メッシュ構造をケーブルトラス構造とし、該ケーブルトラス構造のメッシュに膜材を張ることを特徴とする耐震天井構造により前記課題を解決するものである。
【0007】
また、本発明は請求項2に示されるように、ドームに付設される天井構造において、ドーム上部構造と、下方向から見て凹な曲面を近似する三角メッシュ構造と、各種ケーブル、各種ケーブル長さ調節機構、各種ジョイント、及び各種膜材を主な構成部材とする構造において、該メッシュ構造の三角形線分をケーブル、三角形頂点をジョイントとし、該メッシュ構造の三角形頂点と、対峙するドーム上部構造の支持点を相互にタイケーブル等で結合し、該メッシュ構造の外周縁をドーム上部構造周縁の支持点に結合して一体の構造とし、三角形線分ケーブルの長さ、タイケーブルの長さ、該ドーム支持点との距離の設計・調節によって、該メッシュ構造のすべてのケーブルをプリテンションの状態にすることにより、該メッシュ構造を、ケーブルトラス構造とし、該ケーブルトラス構造のメッシュに膜材を張ることを特徴とする耐震天井構造により前記課題を解決するものである。
【0008】
また、本発明は請求項3に示されるように、ドームに付設される天井構造において、ドーム上部構造と、下方向から見て凹な曲面を近似する三角メッシュ構造(下層メッシュ構造)と、該メッシュ構造の上に対峙する上方向から見て凹な曲面を近似する三角メッシュ構造(上層メッシュ構造)と、各種ケーブル、各種ケーブル長さ調節機構、各種ジョイント、及び各種膜材を主な構成部材とする構造において、該上層下層のメッシュ構造の三角形線分をケーブル、三角形頂点をジョイントとし、該上層下層メッシュ構造の対峙する頂点相互をタイケーブルで結合し、該上層下層のメッシュ構造の外周縁をドーム上部構造周縁の支持点に結合して一体の構造とし、三角形線分ケーブルの長さ、タイケーブルの長さ、該ドーム支持点との距離の設計・調節によって、該メッシュ構造のすべてのケーブルをプリテンションの状態にして、該メッシュ構造をケーブルトラス構造とし、該ケーブルトラス構造のメッシュに膜材を張ることを特徴とする耐震天井構造により前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果は、要約すると以下の八項目に分類される。
【0010】
本発明の第一の効果は、剛体部材を用いずに主として張力部材を用いる点では、前記のケーブルネット構造と同じであるが、ケーブルトラス構造と称する、トラス構造に匹敵する安定な構造を提供することにある。
【0011】
本発明の第二の効果は、ドーム固有の形状によく適応することである。ドームの形状は、一般的には、円蓋、丸天井と呼ばれるように、お椀を臥せた形状が多い。幾何学の定義によると、この種の曲面はガウスの曲率が正、あるいは単に正の曲面と言う。一方張力構造で多用されるケーブルネットで形成される曲面は、やせ馬の背の形状であり、幾何学の定義によると、ガウスの曲率は負、あるいは単に負の曲面と言う。従って、背景技術の項で述べたように、ケーブルネットで、天井を構成することは、正の曲面にたいして、負の曲面をあてがうことになり、その適応性に本質的な疑問がある。 本発明によるケーブルトラス構造は、本質的に正の曲面である。したがって、正の曲面が多いドーム構造そのものを、反力を提供する部材としてとりこみやすい特徴がある。
【0012】
本発明の第三の効果は、ジョイント金具等を除いて主構造は剛体部材を用いないので、地震時に落下する質量の大きい固形物がない。
【0013】
本発明の第四の効果は、張力構造の特性として、弾性に富み質量が少ないことから、振動荷重も低く、耐震性に優れている。
【0014】
本発明の第五の効果は、形状が多面体面であり、かつその面の形状は自由であるから、巨視的にも部分的にも多様な設計が可能である。
【0015】
本発明の第六の効果は、一層、二層の天井構造により、設計の選択肢がある。なお、二層の天井構造により、断熱層を形成することができる。
【0016】
本発明の第七の効果は、ケーブルの長さの調整機能により、望ましい形状と、張力を調整できる。
【0017】
本発明の第八の効果は、既存の本体ドームの形状に適応して、その投影平面形状を設定し、また支点を選択できるので、既存の建物にたいして大規模の改修なく付け替え可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例1として、図1(a)、(b)に正面図、平面図を示す。1は、ドーム構造である。2は三角メッシュ構造で、3はそのケーブル、4はその頂点機構である。5はメッシュ構造とドーム構造を結ぶタイケーブル、6はドーム側の支点機構である。7は、サポートケーブル、8はドーム構造上の支点機構である。9は膜面である。参考のため、10に平衡する力の方向を矢印で示す。
【0019】
この主としてケーブルよりなる構造により、きちんとした形態を保つ原理は次のようなものである。まず、すべてのケーブル長を目標とする数値に近い値とする。この状態で例えばタイケーブルがすべて張力にある状態にする。あるいは、その長さをターンバックル(図には記載していない)などにより縮める。すると、三角メッシュ構造は、凸の方向に引っ張られて膨らむ。このことは、丁度風船内部に圧力を加えた状態になる。そして、風船の膜が四方に引っ張られるように、三角メッシュのケーブルはすべて引っ張られる状態になる。このとき、三角メッシュのケーブルは、直線になり、文字通り三角形となる。それぞれのケーブルの長さが決められていれば、歪のレベルの長さを無視すれば、メッシュ構造はあらかじめ設定された形状の、安定した形状を保つことになる。これは、別の見地からすると、プリテンションを与えたケーブル構造によって、全体としてトラスによるドームが形成されたことになる。その故に、この構造はケーブルトラス構造と呼ぶことができよう。なお、このことが可能となるのは、与えるべき形状が、風船のように、正の曲率をもつ場合である。
【0020】
以上により、トラス構造のように、本来重量の大きいかつ硬い材料によってつくられるドームが、軽量で柔らかいケーブルで構成される。 しかもその形状は、三角形を面とする多面体形状である。 またその三角形の形状・配列にはかなりの自由度がある。また、ジョイントも、トラスのそれのように複雑でなく、かつ軽量の利点がある。
【0021】
また、このようなケーブルトラス構造が成立するためには、当然その張力を受け止める剛な構造体が主要な要素であって、望ましい位置に存在することが必須である。本発明の天井構造の場合は、近接し囲むような構造体が存在する場合が多いので、容易に適用できる。
【0022】
張力の調整あるいはケーブルの長さ調整は、この張力トラスの最も重要な作業である。この調整を実現する機構は、いわゆるターンバックルに相当するものである。それ独立で用いることも、またジョイント自体に組み込むことも可能である。一般に、コンピューターの支援のもとに、可及的少ない数の機構で、望ましい張力を求める作業となる。この体制は、経年変化についても適用できるものであり、常にベストの状態を保つことに役立つ。
【0023】
外形について、例示した天井構造は、外形が六角形で円形断面のドームへの適用例である。勿論、それが正の曲面であり、かつ十分なおおきさの曲率が確保されるかぎり、本発明は多様な外形に対応できる。例えば、長四角のドーム形状にたいしては、楕円形を利用するか、複数の円形を組み合わせるかで、対応できる。また細部の三角の形状あるいはその配列のしかたも、望ましいデザインに適応して、対応できる。
【0024】
天井を張る素材は、主として膜材であろう。場合によっては、軽量のボードも可能である。勿論張力トラス内部には、これらの部材の荷重にたいして、充分な余裕をもって、常に張力を保つ必要がある。
【実施例2】
【0025】
第二実施例は、二つのメッシュ構造を対峙する方式であるが、その利点は、タイケーブルのジョイントが、相互に接近していて、メッシュ面とほぼ垂直の方向に荷重をかけられることである。これによって、比較的小さい力で、メッシュ面のケーブルに均一に張力を発生させる。また、総合した張力は、ドーム機構にとって、比較的受けやすい位置にあることも重要なことである。また、二つのメッシュ構造で、天井面として使うのは一方でよく、他方は力学的に必要なものになる。従って、後者はこれに同等の機能をもつ構造であればよいのである。勿論双方に面を張れば、間に空気層を形成するから、その様な使い方もある。
【0026】
本発明は、基本的原理を提供するもので、例示のものに留まらず、これを基本として、誰でも多様な天井構造を設計・製作することが可能である。なお本明細書では、天井面材、長さ調節機構(ターンバックル等)、頂点機構、その他汎用的な部品については、特に明示していない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ケーブルトラス構造による耐震天井構造(a)正面図(b)平面図
【図2】二層式ケーブルトラス構造による耐震天井構造(正面図)
【符号の説明】
【0028】
1 ドーム構造
2 三角メッシュ構造
3 三角形メッシュケーブル
4 三角形メッシュの頂点機構
5 タイケーブル
6 タイケーブルのドーム側支点機構
7 サポートケーブル
8 ドーム構造上の支点機構
9 膜面
10 平衡する力の方向(参考)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドームに付設される天井構造において、ドーム構造と、ガウスの曲率正の曲面を近似する三角メッシュ構造と、各種ケーブル、各種ケーブル長さ調節機構、各種ジョイント、及び各種膜材を主な構成部材とする構造において、該メッシュ構造の三角形線分をケーブル、三角形頂点をジョイントとし、該メッシュ構造の各三角形頂点及び外周縁を、ドーム構造の支持点と相互にタイケーブル等で結合して一体の構造とし、三角形線分ケーブルの長さ、タイケーブルの長さ、該ドーム支持点との距離の設計・調節によって、該メッシュ構造のすべてのケーブルをプリテンションの状態にすることにより、該メッシュ構造をケーブルトラス構造とし、該ケーブルトラス構造のメッシュに膜面を張ることを特徴とする耐震天井構造。
【請求項2】
ドームに付設される天井構造において、ドーム上部構造と、下方向から見て凹な曲面を近似する三角メッシュ構造と、各種ケーブル、各種ケーブル長さ調節機構、各種ジョイント、及び各種膜材を主な構成部材とする構造において、該メッシュ構造の三角形線分をケーブル、三角形頂点をジョイントとし、該メッシュ構造の三角形頂点と、対峙するドーム上部構造の支持点を相互にタイケーブル等で結合し、該メッシュ構造の外周縁をドーム上部構造周縁の支持点に結合して一体の構造とし、三角形線分ケーブルの長さ、タイケーブルの長さ、該ドーム支持点との距離の設計・調節によって、該メッシュ構造のすべてのケーブルをプリテンションの状態にすることにより、該メッシュ構造を、ケーブルトラス構造とし、該ケーブルトラス構造のメッシュに膜面を張ることを特徴とする耐震天井構造。
【請求項3】
ドームに付設される天井構造において、ドーム上部構造と、下方向から見て凹な曲面を近似する三角メッシュ構造(下層メッシュ構造)と、該メッシュ構造の上に対峙する上方向から見て凹な曲面を近似する三角メッシュ構造(上層メッシュ構造)と、各種ケーブル、各種ケーブル長さ調節機構、各種ジョイント、及び各種膜材を主な構成部材とする構造において、該上層下層のメッシュ構造の三角形線分をケーブル、三角形頂点をジョイントとし、該上層下層メッシュ構造の対峙する頂点相互をタイケーブルで結合し、該上層下層のメッシュ構造の外周縁をドーム上部構造周縁の支持点に結合して一体の構造とし、三角形線分ケーブルの長さ、タイケーブルの長さ、該ドーム支持点との距離の設計・調節によって、該メッシュ構造のすべてのケーブルをプリテンションの状態にして、該メッシュ構造をケーブルトラス構造とし、該ケーブルトラス構造のメッシュに膜面を張ることを特徴とする耐震天井構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−251409(P2012−251409A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137805(P2011−137805)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591048139)
【出願人】(304020074)