説明

耐震補強構造及び耐震補強方法

【課題】 耐震補強性能を向上させ、施工時の騒音や振動を抑制し、かつ良好な施工効率を得る。
【解決手段】 鉄筋コンクリートで形成された既存構造物のための耐震補強構造1であって、既存構造物の外壁に面する二本の柱11及びこれらの二本の柱11の上下に接続する二本の梁12の外面上にそれぞれ配置され、少なくとも梁12と接続される、鉄筋コンクリートで形成された第1接続部2と、第1接続部2により形成される開口部2aに沿って設けられ、第1接続部2と少なくとも一部で連結される補強部材3と、第1接続部2と補強部材3との間に配置され、第1接続部2及び補強部材3を接続する第2接続部4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震補強構造及び耐震補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート建築などの既存構造物の耐震補強構造としては、既存構造物の外壁に面する柱及び梁の外面にアンカーボルトを打設し、このアンカーボルトを介して柱及び梁に鉄骨ブレースなどの補強部材を連結する構造(以下、「在来外付工法」という)が一般的である。
【0003】
また、他の耐震補強構造として、例えば、鋼板がコンクリートに内包された枠型補強部材を、既設構造物の柱及び梁の外面にアンカーボルトにより接続して耐震補強を行う構造が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−50788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の在来外付工法では、良好な耐震補強性能を得るために、柱又は梁に直接アンカーボルトを打設し、柱又は梁に補強部材を連結する必要がある。また、アンカーボルトの数が多いほど補強部材が強固に柱又は梁に連結され、耐震補強性能が向上する。このため、アンカーボルト設置に必要なドリル孔をアンカーボルトの数に応じて柱又は梁に設ける必要があり、施工時の騒音や振動が大きいという問題があった。とりわけ、外付けの耐震補強工法においては建物内を使用しながら補強を行うことが多く、建物内部に人が滞在することも多いため、騒音・振動はより顕著な問題である。このように、耐震補強性能の向上と、騒音・振動の発生との間にトレードオフがあった。
【0006】
また、特許文献1の技術では枠状の鉄板を既存建物躯体に接合するため、アンカーボルトが増加するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、耐震補強性能を向上させ、施工時の騒音や振動を抑制し、かつ良好な施工効率を得ることができる耐震補強構造及び耐震補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る耐震補強構造は、鉄筋コンクリートで形成された既存構造物のための耐震補強構造であって、既存構造物の外壁に面する二本の柱及びこれらの二本の柱の上下に接続する二本の梁の外面上にそれぞれ配置され、少なくとも梁と接続される、鉄筋コンクリートで形成された第1接続部と、第1接続部により形成される開口に沿って設けられ、第1接続部と少なくとも一部で連結される補強部材と、第1接続部と補強部材との間に配置され、第1接続部及び補強部材を接続する第2接続部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
同様に、上記課題を解決するため、本発明に係る耐震補強方法は、鉄筋コンクリートで形成された既存構造物のための耐震補強方法であって、既存構造物の外壁に面する二本の柱及びこれらの二本の柱の上下に接続する二本の梁の外面上に、鉄筋コンクリートで形成された第1接続部を配置し、少なくとも梁と接続する第1接続ステップと、第1接続ステップにおいて配置された第1接続部により形成される開口に沿って、補強部材を第1接続部と少なくとも一部で連結する補強部材連結ステップと、第1接続部と補強部材との間に第2接続部を配置し、第2接続部により第1接続部及び補強部材を接続する第2接続ステップと、を含むことを特徴とする。
【0010】
このような耐震補強構造及び耐震補強方法によれば、第1接続部が、二本の柱及び二本の柱の上下に接続する二本の梁の外面上にそれぞれ配置され、少なくとも梁と接続される。このため、地震時に補強部材鉄骨縦枠に生じる鉛直方向の力を、柱上の縦方向の第1接続部で負担し、第1接続部を介して基礎に流すことで、柱へのアンカーボルトの設置が不要となり、地震時の補強部材の水平抵抗力のみを、既存構造物の梁との間でやり取りする接合手法とすることができる。そして、このように第1接続部に補強部材に発生する鉛直方向の荷重を受け持たせることにより、水平力を伝達するためのアンカーボルトのみの設置が可能となり、この結果、良好な耐震補強性能を得るとともに、アンカーボルト設置本数を低減することができる。
【0011】
また、第1接続部は、少なくとも梁と接続されていればよい。これにより、既存構造物との接続に用いるアンカーボルト等の部材を低減させることができ、既存構造物の柱又は梁にドリル孔をあけるなど既存構造物に対する直接的な作業が減るので、施工時の振動や騒音を低減させることができる。この結果、施工効率が向上し、良好な施工効率が得られる。
【0012】
このように、本発明に係る耐震補強構造及び耐震補強方法は、耐震補強性能を向上させ、施工時の騒音や振動を抑制し、かつ良好な施工効率を得ることができる。
【0013】
また、第2接続部は、第1接続部から延在し補強部材と連結させるためのアンカー筋と補強部材との間、及び第1接続部と補強部材との間に充填された水硬性モルタルであることが好適である。
【0014】
この構成により、水硬性モルタルを第1接続部と補強部材との間に充填するため、高強度な接続構造を得ることができる。
【0015】
また、水硬性モルタルは、セメント組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルAと、水硬性組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルBとから選ばれる少なくとも1つを含み、セメント組成物は、ポルトランドセメント、細骨材、有機系短繊維、無機系膨張材、再乳化形粉末樹脂、消泡剤、金属系膨張材、増粘剤及び流動化剤を含み、ポルトランドセメント100質量部に対し、細骨材の含有割合が120〜180質量部、有機系短繊維の含有割合が0.2〜0.8質量部、無機系膨張材の含有割合が4〜15質量部、再乳化形粉末樹脂の含有割合が4〜15質量部、消泡剤の含有割合が0.05〜1.2質量部であって、有機系短繊維は、繊維径が0.1〜0.3mm、かつ繊維長が9〜16mmであって、水硬性組成物は、ポルトランドセメントとフェロニッケルスラグを含む細骨材とを含有し、フェロニッケルスラグは、フェロニッケルスラグ100質量部に対し、粒径0.075〜2.4mmの粒子を80質量部以上含み、粒径0.075未満の粒子を10質量部未満含むことが好適である。
【0016】
この構成により、上記の組成からなる無収縮モルタルを用いるため、より強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る耐震補強構造及び耐震補強方法によれば、施工時の騒音や振動を抑制することができ、良好な施工効率を得ることができ、かつ耐震補強性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る耐震補強構造の構成図である。
【図2】図1に示す耐震補強構造のII−II断面図である。
【図3】耐震補強構造の施工過程を示す図である。
【図4】耐震補強構造の施工過程を示す図である。
【図5】耐震補強構造の施工過程を示す図である。
【図6】耐震補強構造の施工過程を示す図である。
【図7】耐震補強構造の施工過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
まず、図1、2を参照して、本発明の一実施形態に係る耐震補強構造1の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る耐震補強構造1の構成図であり、図2は、図1に示す耐震補強構造1のII−II断面図である。
【0021】
耐震補強構造1は、鉄筋コンクリートで形成された既存構造物に設置されるものであり、より詳細には、既存構造物の柱11及び梁12から構成される柱梁架構(二本の柱及びそれらの柱の上下を横に接続する二本の梁を有する既設躯体)に鉄骨ブレースなどの補強部材3を取り付け、既存構造物を補強するものである。
【0022】
図1に示すように、耐震補強構造1は、既存構造物の外壁に面する柱11または梁12の外面上に配置される第1接続部2と、第1接続部2により形成される開口部2aに沿って設けられ、第1接続部2と少なくとも一部で連結される補強部材3と、第1接続部2と補強部材3との間に配置され、第1接続部2及び補強部材3を接続する第2接続部4と、を備えて構成されている。
【0023】
第1接続部2は、図2に示すように内部に鉄筋5を配した鉄筋コンクリートで形成され、図1に示すように既存構造物の外壁に面する柱11または梁12の外面の全体(または少なくとも一部)を覆うように配置される。特に本実施形態では、第1接続部2は、既存構造物の外壁に面する二本の柱11a,11bと、これら二本の柱11a,11bの上下に接続する二本の梁12a,12bの外面上にそれぞれ配置され、枠状に形成された部材を最小単位とするものである。このように形成された第1接続部2は、図2に示すようにアンカーボルト6によって梁12(12a,12b)に固定されている。なお、第1接続部2は、柱11に接して鉛直方向に延在する第1鉛直部21と、水平方向に延在して梁12に接続される第1水平部22によって枠型を形成する。
【0024】
このように配置される第1接続部2によって、図1に示すように、二本の柱11a,11b及び二本の梁12a,12bで囲まれる領域に矩形上の開口部2aが形成される。そして、図2に示すように、第1接続部2には、この開口部2aの内側方向に延在するように、アンカー筋7が開口部2aに部分的に配置されている。アンカー筋7は、補強部材3との連結に用いられる。
【0025】
アンカー筋7は、柱梁架構の内周において応力が生じると考えられる箇所を特定し、この箇所の上に位置する開口部2aの一部分に限定して配置されることが好ましい。また、アンカー筋7を配置する部分では、アンカー筋7は、開口部2aの縁方向に沿って二列平行に配置され、各列においてアンカー筋7同士が等間隔に配置されるのが好ましい。このようなアンカー筋7の配置位置、本数や径については、構造強度計算を用いて決定することができる。本実施形態では、図4〜6を参照して後述するように、梁12a上の開口部2a上辺では、ほぼ中間位置周辺にアンカー筋7が設置されており、また、柱11a,11b及び梁12bのなす開口部2aの下方2つの角の近傍にもアンカー筋7が設置されている。
【0026】
補強部材3は、既存構造物を補強して耐震性能を向上させるべく、柱梁架構に配置される部材であって、第1接続部2の開口部2aに沿って設けられる枠体3aと、この枠体3aに接続される鉄骨ブレース3bとを含んで構成される。枠体3aは、開口部2aの内側に、開口部2aとの距離が一定となるように配置される。鉄骨ブレース3bは、枠体3aの内側に斜め方向に固定され、主に水平方向の荷重を受け持ち、耐震補強性能を向上させるよう構成される。なお、補強部材3としては、K型、V型、マンサード型、その他一般的な形状の鉄骨ブレースを用いることができる。
【0027】
本実施形態では、補強部材3は、第1接続部2と少なくとも一部と連結される。より詳細には、枠体3aがH型鋼により形成され、このH型鋼のフランジ部分を、第1接続部の開口部2aの少なくとも一部に設けられているアンカー筋7と水硬性モルタルを介して接合させることで、補強部材3が第1接続部2と連結される。
【0028】
第2接続部4は、第1接続部2と補強部材3との間に配置され、第1接続部2及び補強部材3を接続する部材であって、具体的には、補強性能を高めるべく、第1接続部2と補強部材3との間、さらに、第1接続部2から延在するアンカー筋7と補強部材3との間に充填された水硬性モルタル(例えばポリマーセメントモルタル)である。なお、水硬性モルタルの詳細については後述する。
【0029】
続いて、図3〜7を参照して、本実施形態の耐震補強構造1を構築する方法(耐震補強方法)の一例について説明する。図3〜7は、それぞれ耐震補強構造1の施工過程を示す図であり、各図(a)は各過程における既存構造物及び耐震補強構造の概略を示す図であり、各図(b)は、同図(a)におけるA−A断面図である。
【0030】
まず、図3に示すように、既存構造物の柱11及び梁12の外面の仕上げ層(仕上げモルタルなど)を除去し、梁12の長手方向に二列平行に一定のピッチでドリル孔を開ける。そして、このドリル孔のそれぞれにアンカーボルト(接着系アンカー)6を挿入して固定する。なお、アンカーボルト6を打設する間隔や本数については、例えば所望の耐震強度を実現できるよう構造強度計算を用いて決定することができる。
【0031】
次に、図4に示すように、第1接続部2を配置する柱11及び梁12の外面(増し打ち部)上に鉄筋5を配筋する。さらに、この鉄筋5に、第1接続部2を補強部材3と連結させるためのアンカー筋7を配筋する。アンカー筋7は、図4(b)に示すように、柱梁架構の内周に沿った一部分に、2列の千鳥掛けで配置される。アンカー筋7は、柱梁架構の内周において応力が生じると考えられる箇所に限定して配置されるのが好ましく、本実施形態では、図4(a)に示すように、柱梁架構のうち上方の梁12aには、柱11a,11bのほぼ中間位置周辺に設置され、また、柱11a,11bには下端周辺に設置され、下方の梁12bには、両端周辺に設置される。また、後工程で補強部材3を連結しやすくするために、二列のアンカー筋7のうち外側の列(柱11又は梁12から遠い側の列)のアンカー筋7は、柱梁架構の内周から内側方向への突出量が短くなっている。
【0032】
そして、図5に示すように、鉄筋5の周囲に型枠(図示せず)を設置してコンクリートを打設し、鉄筋コンクリートで形成される第1接続部2を柱11及び梁12の外面上に作製する(第1接続ステップ)。
【0033】
次に、図6に示すように、第1接続部2により形成される開口部2aの縁端に沿って枠体3aを配置し、さらに枠体3aの内側に鉄骨ブレース3bを斜めに取り付ける(補強部材連結ステップ)。また、枠体3aとアンカー筋7とが連結するように、開口部2aの内側への突出量の短い外側の列のアンカー筋7を、高ナット8を用いて他方の列(柱11又は梁12に近い側の列)のアンカー筋7と長さが合うように延伸させる。
【0034】
そして、図7に示すように、第1接続部2と補強部材3との間に型枠(図示せず)を設置し、枠体3aの外側端3a―1と第1接続部2による開口部2aの縁端との間の全体にわたり水硬性モルタル(例えばポリマーセメントモルタル)を充填する。さらに、第1接続部2から延在するアンカー筋7と枠体3aとの連結部分では、アンカー筋7全体を覆うように、第1接続部2による開口部2aの縁端から、枠体3aの内側端3a−2まで水硬性モルタルを充填する。このように充填された水硬性モルタルが、第2接続部4を形成する(第2接続ステップ)。
【0035】
このような耐震補強構造によれば、第1接続部2が、二本の柱11a,11b及び二本の柱11a,11bの上下に接続する二本の梁12a,12bの外面上にそれぞれ配置され、少なくとも梁12a,12bと接続される。例えば図3では、第1接続部2は梁12に対して接続され、柱11に対しては接続されないため、第1接続部2から既存建物への荷重伝達は、全て梁12を介して行われることとなる。
このため、地震時に補強部材3の鉄骨縦枠31に発生する鉛直方向の力を既存構造物の柱11上に設けられた第1鉛直部21(第1接続部2のうち柱11と重複する部分)で負担して第1接続部2を介して基礎に流すことで、柱11へのアンカーボルトの設置が不要となり、補強部材3の地震時に抵抗する水平力のみを既存構造物との間でやり取りするという接合手法が可能となる。すなわち、垂直方向の力は第1接続部の第1鉛直部21で受け持ち、水平方向の力は補強部材3で受け持つ構造とすることが可能となる。
この結果、良好な耐震補強性能を得ることができ、既存構造物の耐震補強性能を向上させることができるとともに、アンカーボルト設置本数を低減することができる。
【0036】
また、第1接続部2は、少なくとも梁12と接続されていればよい。これにより、既存構造物との接続に用いるアンカーボルト6の数を低減させることができ、既存構造物の柱11又は梁12にドリル孔をあけるなど既存構造物に対する直接的な作業が減るので、施工時の振動や騒音を低減させることができる。この結果、施工効率が向上し、良好な施工効率が得られる。
【0037】
このように、本発明に係る耐震補強構造1及び耐震補強方法は、耐震補強性能を向上させ、施工時の騒音や振動を抑制し、かつ良好な施工効率を得ることができる。
【0038】
また、第2接続部4は、第1接続部2から延在し補強部材3と連結させるためのアンカー筋7と補強部材3との間、及び第1接続部2と補強部材3との間に充填された水硬性モルタルであることが好適である。
【0039】
この構成により、水硬性モルタルを第1接続部2と補強部材3との間に充填するため、高強度な接続構造を得ることができる。
【0040】
ここで、本発明で第2接続部4として用いる水硬性モルタルについて詳細に説明する。本発明では、二種類の水硬性モルタル、すなわち、所定のセメント組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルAと、所定の水硬性組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルBとを用いることができる。また、これらの水硬性モルタルを、適宜混合して用いてもよい。以下、水硬性モルタルA及び水硬性モルタルBについて、詳しく説明する。
<水硬性モルタルA>
【0041】
水硬性モルタルAは、流動性に優れかつコンクリートとの付着強度に優れた水硬性モルタルである。以下、水硬性モルタルAについて詳しく説明する。
【0042】
本発明に用いる水硬性モルタルAは、ポルトランドセメント、細骨材、有機系短繊維、無機系膨張材、再乳化形粉末樹脂、消泡剤、金属系膨張材、増粘剤及び流動化剤を含み、ポルトランドセメント100質量部に対し、細骨材の含有割合が120〜180質量部、繊維径が0.1〜0.3mmでかつ繊維長が9〜16mmの有機系短繊維の含有割合が0.2〜0.8質量部、無機系膨張材の含有割合が4〜15質量部、再乳化形粉末樹脂の含有割合が4〜15質量部、消泡剤の含有割合が0.05〜1.2質量部であることを特徴とするセメント組成物と、水とを混練することによって得ることができる。
【0043】
また、そのセメント組成物の好ましい態様は、下記のものであり、またこれらは複数組み合わせることができる。
1)消泡剤がポリエーテル系消泡剤であること。
2)金属系膨張材の含有割合が0.0001〜0.01質量部であること。
3)セメント組成物100質量部と水8〜30質量部とを混練して得られる水硬性モルタルであること。
4)セメント組成物100質量部と水8〜30質量部とを混練して得られる水硬性モルタルが硬化して得られる硬化体であること。
【0044】
本発明に用いるセメント組成物は、特定の繊維長と繊維径を有する有機系短繊維を用い、再乳化形粉末樹脂と消泡剤とを組み合わせて用い、さらに無機系膨張材と金属系膨張材とを配合することにより、収縮低減材を用いることなく、流動性に優れた水硬性モルタル及びコンクリート補修部分との付着強度が高く、圧縮強度特性に優れ、さらに寸法安定性に優れた水硬性モルタル硬化体を得ることができる。
【0045】
本発明に用いるセメント組成物は、ポルトランドセメント100質量部に対し、細骨材を好ましくは120〜180質量部、さらに好ましくは125〜175質量部、より好ましくは130〜170質量部、特に好ましくは135〜165質量部を含むものである。 本発明に用いるセメント組成物には、ポルトランドセメントとして、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、等を用いることができる。特に、建設工期の短縮のために短期間に良好な強度発現を必要とする場合には、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントを用いるのが好ましい。
【0046】
また、そのセメント組成物に用いる細骨材は、珪砂、川砂、海砂、山砂、陸砂などの砂類が使用できる。細骨材の粒度は、3.5mm以下のものを用いることが好ましく、細骨材100質量部に対し、粒径0.15〜2mmの細骨材が好ましくは70質量部以上であり、さらに好ましくは80質量部であり、特に好ましくは90質量部以上含むものを用いることが好ましい。また、細骨材としては、粒度分布の異なる細骨材を2種以上混ぜ合わせて用いることができ、5号珪砂、6号珪砂及び7号珪砂など、5号珪砂と5号珪砂より粒度の小さな珪砂などの骨材との混合物などを好ましく用いることができる。
【0047】
本発明に用いるセメント組成物では、セメント組成物に水を加えて得られる水硬性モルタルが、流し込み施工及び/又は注入施工に適した流動性を有するように、繊維径と繊維長が特定の範囲の有機系短繊維を使用して適正量を添加する。また、有機系短繊維は、水硬性モルタル硬化体の靭性を向上させる効果も併せ持つ。
【0048】
有機系短繊維の好ましい例は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維、ポリスチレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ビニロン繊維等のポリビニルアルコール繊維が用いることができ、特にポリビニルアルコール繊維が好適に用いられる。
【0049】
有機系短繊維の繊維径は、水硬性モルタルの粘性を適正な範囲に保つため、0.1mm〜0.3mmが好ましく、さらに0.13mm〜0.27mmが好ましく、特に0.15mm〜0.25mmが好ましい。有機系短繊維の繊維長は、水硬性モルタル中に良好に分散させることができ、安定した流動性が得られ、また、水硬性モルタル硬化体の靭性の向上効果を得るために、9mm〜16mmが好ましく、さらに9.5mm〜15mmが好ましく、特に10mm〜14mmが好ましい。有機系短繊維の繊維長が9mm未満では、フロー値の低下が顕著となり、さらに曲げ強度の低下も大きくなる。繊維長が15mmを超えると、水硬性モルタルの粘性が大きくなり、Jロート流下時間が増加するだけでなく、硬化体の長さ変化が大きくなることから好ましくない。
【0050】
有機系短繊維の添加量は、良好な施工性が得られる粘性を持った水硬性モルタルが得られ、良好な靭性を有する水硬性モルタル硬化体を得るために、ポルトランドセメント100質量部に対して好ましくは0.2〜0.8質量部、さらに好ましくは0.3〜0.75質量部、特に好ましくは0.4〜0.7質量部を添加する。
【0051】
特に、有機系短繊維の添加量が、0.8質量部を超えると水硬性モルタル硬化体の長さ変化が顕著になり、硬化体の曲げ強度の低下やコンクリートと付着強度が低下するため好ましくない。
【0052】
このセメント組成物に用いる膨張材は、セメント組成物の硬化過程に起こる体積変化を補償するものであり、特に金属系膨張材と石灰系膨張材とを併用して用いることで、コンクリート補修部分と水硬性モルタル硬化体の密着性が向上して、高い付着強度が得られる。膨張材としては、アルミニウム粉、鉄粉等の金属系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系、石灰系などの無機系膨張材などを使用することが好ましい。
【0053】
金属系膨張材としては、比重が小さく反応性が高いことから、アルミニウム粉の使用が特に好ましい。アルミニウム粉は、JIS・K−5906「塗装用アルミニウム粉」の第2種に準ずるものが好適に使用できる。金属系膨張材の添加量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.01質量部、さらに好ましくは0.0003〜0.005質量部、より好ましくは0.0005〜0.004質量部、特に0.001〜0.003質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0054】
無機系膨張材は、カルシウムサルフォアルミネート系としてはアウイン、石灰系としては生石灰、生石灰−石膏系、石灰−エトリンガイト系、仮焼ドロマイト等が好適に用いられ、これらから選ばれた少なくとも1種を使用できる。特に、石灰−エトリンガイト系の膨張材を用いた場合、水硬性モルタル硬化体の寸法変化が際立って小さく、コンクリートとの付着強度においても特に優れた特性を示すことから特に好ましい。無機系膨張材の添加量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは4〜15質量部、さらに好ましくは4.5〜13質量部、より好ましくは5.5〜12質量部、特に6〜10質量部を用いることが好ましい。無機系膨張材の添加量が、4質量部未満の場合、コンクリートとの付着強度が充分に得られないばかりでなく、硬化体の長さ変化率が大きくなるため好ましくない。また、16質量部以上では、硬化体の膨張が著しくなり好ましくない。 このセメント組成物では、再乳化形粉末樹脂と消泡剤とを併せて用いることにより、高い圧縮強度の水硬性モルタル硬化体が得られるとともに、その硬化体と柱梁架構との間、及び、その硬化体と補強部材3との間で高い付着強度が得られる。
【0055】
このセメント組成物に用いる再乳化形粉末樹脂は、屋外利用における耐久性上好ましいものとして、ポリアクリル酸エステル樹脂系、スチレンブタジエン合成ゴム系、又は酢酸ビニルベオバアクリル共重合系のものが使用することができ、これらを予めセメント等と混合しておくことで、施工現場で水を加えるだけでポリマーディスバージョンを用いた場合より、より分散性を高く、硬化後のコンクリートとの付着強度の高い硬化体が得られる。
【0056】
再乳化形粉末樹脂は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは4〜15質量部、さらに好ましくは4.5〜13.5質量部、より好ましくは5〜12質量部、特に6〜10質量部の範囲で用いることが好ましい。再乳化形粉末樹脂の割合が、上記範囲より大きい場合、水を加えて得られる水硬性モルタルの粘度が高くなり施工性が低下するとともに、硬化体の圧縮強度の低下が顕著になるとめ好ましくなく、また、上記範囲より小さい場合には、柱梁架構、及び、補強部材3との付着強度が充分に得られず、硬化体の長さ変化も大きくなり好ましくない。
【0057】
このセメント組成物に用いる消泡剤は、硬化後の水硬性モルタル硬化体の組織を緻密化して、コンクリート補修部分との付着強度を向上させるとともに、水硬性モルタル硬化体の外側表面の状態を密実にして、炭酸化などに対する耐候性を向上させる効果がある。
【0058】
消泡剤には、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質、石油精製由来の鉱物油系又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができる。特にポリエーテル系の消泡剤を好適に用いることができる。
【0059】
消泡剤の添加量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.05〜1.2質量部、さらに好ましくは0.1〜1.0質量部、より好ましくは0.15〜0.9質量部、特に0.2〜0.8質量部含むことが好ましい。消泡剤が上記範囲に満たない場合、コンクリートとの付着強度が低く、さらに硬化体の収縮が大きくなるため好ましくない。また、上記範囲を超えて消泡剤を添加した場合、硬化体の長さ変化が増加するため好ましくない。
【0060】
再乳化形粉末樹脂と消泡剤とをそれぞれ上記範囲で添加すると、水硬性モルタル硬化体と柱梁架構、及び、水硬性モルタル硬化体と補強部材3との付着強度の向上効果がさらに大きくなり、また高い圧縮強度の硬化体が得られることから好ましい。
【0061】
このセメント組成物に用いる増粘剤は、水硬性モルタルの粘性と流動性を調整し、材料分離を抑制しつつ適正な施工性を確保するために添加することが好ましい。増粘剤には、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などを用いることができ、特にメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系などを用いることが好ましい。増粘剤の添加量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、より好ましくは0.005〜1質量部、特に0.0075〜0.5質量部の範囲が好ましい。増粘剤の添加量が上記範囲を超えると、流動性の低下を招く恐れがある。
【0062】
このセメント組成物に用いる流動化剤は、材料分離を抑制しつつ適度な流動性を確保し、硬化体の強度を高め、且つ、乾燥収縮を低減させるために、減水効果を合わせ持つ流動化剤を添加することが好ましい。流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系、ポリカルボン酸系、ポリカルボン酸ポリエーテル系等、市販のものが、その種類を問わず使用できる。流動化剤は、ポルトランドセメント100質量部に対し、0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜4質量部、特に好ましくは0.05〜3質量部の範囲で使用する。
【0063】
本発明に用いるセメント組成物は、水の添加量を調整することにより、水硬性モルタルの流動性、可使時間、材料分離抵抗性などの性状を調整することができる。水の添加量は、本発明の流動特性及び強度特性を損なわない範囲で添加でき、セメント組成物100質量部に対し、好ましくは8〜30質量部、さらに好ましくは10〜25質量部、より好ましくは12〜22質量部、特に好ましくは14〜20質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0064】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して
1)Jロート流下値が、充填性を損なわないために、好ましくは20秒以下、さらに好ましくは18秒以下、より好ましくは16秒以下、特に好ましくは15秒以下であり、
また、Jロート流下値の下限は、材料分離抵抗性を損なわないために、好ましくは5秒以上、さらに好ましくは7秒以上、特に好ましくは8秒以上であり、
2)モルタルフロー値が、より確実な充填性のために好ましくは280mm以上、さらに好ましくは300mm以上のポリマーセメントモルタルを得ることができる。
【0065】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して気中養生により得られた水硬性モルタル硬化体の圧縮強度が、材齢28日で好ましくは44N/mm以上、さらに好ましくは46N/mm以上、より好ましくは48N/mm以上、特に好ましくは50N/mm以上の硬化物を得ることができる。
【0066】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して気中養生により得られた水硬性モルタル硬化体の曲げ強度が、材齢28日で好ましくは9N/mm以上、さらに好ましくは9.5N/mm以上、より好ましくは10N/mm以上、特に好ましくは10.5N/mm以上の硬化物を得ることができる。
【0067】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して水中養生により得られた水硬性モルタル硬化体の圧縮強度が、材齢28日で好ましくは40N/mm以上、さらに好ましくは45N/mm以上、より好ましくは48N/mm以上、特に好ましくは50N/mm以上の硬化物を得ることができる。
【0068】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して水中養生により得られた水硬性モルタル硬化体の曲げ強度が、材齢28日で好ましくは7.5N/mm以上、さらに好ましくは7.7N/mm以上、より好ましくは7.9N/mm以上、特に好ましくは8N/mm以上の硬化物を得ることができる。
【0069】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して湿空養生により得られた水硬性モルタル硬化体のモルタル板との付着強度においては、材齢28日で好ましくは1.8N/mm以上、さらに好ましくは2.0N/mm以上、より好ましくは2.2N/mm以上、特に好ましくは2.5N/mm以上の硬化物を得ることができる。
【0070】
本発明に用いるセメント組成物は、水と混練して得られる水硬性モルタル硬化体の長さ変化率が、材齢28日で好ましくは−0.15〜0%であり、さらに好ましくは−0.12〜0%、より好ましくは−0.1〜0%、特に好ましくは−0.06〜0%の範囲にある硬化体を得ることができる。
【0071】
本発明に用いるセメント組成物は、流動性に優れ、柱梁架構、及び、補強部材3との付着強度が高く、圧縮強度発現に優れた水硬性モルタル硬化体を得ることができる。
<水硬性モルタルB>
【0072】
本発明に用いる水硬性モルタルBは、流動性および強度特性に優れた水硬性モルタル(グラウト材)である。水硬性モルタルBは、所定の水硬性組成物と、水とを混練することによって得ることができる。以下、水硬性モルタルBについて詳しく説明する。
【0073】
水硬性モルタルBに用いる水硬性組成物は、粗骨材は含まず、水硬性成分、フェロニッケルスラグ及び消泡剤を用いて、良好な流動特性、高い圧縮強度及び、高弾性特性が得られる水硬性組成物である。
【0074】
すなわち、本発明に用いる水硬性モルタルBは、セメントとフェロニッケルスラグを含む細骨材とを含有する水硬性組成物であって、フェロニッケルスラグは、フェロニッケルスラグ100質量部に対し、粒径0.075〜2.4mmの粒子を80質量部以上含み、粒径0.075未満の粒子を10質量部未満含むことを特徴とする水硬性組成物と、水とを混練することによって得ることができる。
【0075】
また、この水硬性組成物の好ましい態様は、下記のものであり、またこれらは複数組み合わせることができる。
1)水硬性組成物は、さらに消泡剤を含むこと。
2)細骨材は、細骨材100質量部に対し、フェロニッケルスラグを70質量%以上含むこと。
3)フェロニッケルスラグは、フェロニッケルスラグ100質量部に対し、粒径0.15〜1.2mmの粒子を80質量部以上含み、粒径0.15未満の粒子を10質量部未満含むこと。
4)水硬性組成物と水とを混練して硬化させて得られる水硬性モルタルの硬化体の材齢28日の静弾性係数が、42.0kN/mm以上であること。
5)水硬性組成物は、さらに膨張材、流動化剤及び増粘剤から選ばれた少なくとも1種以上の成分を含むこと。
【0076】
本発明に用いる水硬性組成物は、水硬性成分と特定の粒度構成を有するフェロニッケルスラグとを含むことにより、モルタル流動性に優れ、高強度・高弾性で、無収縮の硬化体を得ることができ、土木建築分野の各種注入工法で優れた特性を発揮する水硬性モルタル(グラウト材)として用いることができる。さらに、本発明に用いる水硬性組成物は、消泡剤を配合することにより、緻密なモルタル硬化体組織を形成して高強度で高弾性な硬化体を得ることができる。
【0077】
本発明に用いる水硬性組成物の水硬性成分としては特に限定されるものではなく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメント、アルミナセメントなどを用いることができる。特に、建設工期の短縮のために短期間に良好な強度発現を必要とする場合には、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントを用いるのが好ましい。
【0078】
本発明に用いる水硬性組成物は、水硬性成分100質量部に対し、細骨材を好ましくは30〜300質量部、さらに好ましくは50〜250質量部、より好ましくは80〜200質量部、特に好ましくは110〜180質量部を配合する。
【0079】
その水硬性組成物に含まれる細骨材は、フェロニッケルスラグを含むものであり、細骨材100質量部中にフェロニッケルスラグが占める割合は、好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは73質量部以上、より好ましくは76質量部以上、特に好ましくは80質量部以上である。細骨材中にフェロニッケルスラグが占める割合が上記範囲にある場合、優れた圧縮強度と高い弾性率を有する水硬性組成物の硬化体が安定して得られる。
【0080】
その水硬性組成物に含まれるフェロニッケルスラグは、シリカ(SiO)とマグネシア(MgO)を主体とするエンステタイトを主たる鉱物組成とするものであり、フェロニッケルを製造する製造工程で発生するスラグを、徐冷、風砕、水砕法などによって加工して細骨材としたものである。フェロニッケルスラグとしては、例えば、山川産業社製などの商品名:NEサンドなどを用いることができる。
【0081】
その水硬性組成物に含まれるフェロニッケルスラグの粒径は、最大粒径が3mm以下のものを使用することができ、フェロニッケルスラグ100質量部に対し、
好ましくは粒径0.075〜2.4mmの粒子を80質量部以上含むとともに、粒径0.075未満の粒子を10質量部未満含むもの、
さらに好ましくは粒径0.15〜2.4mmの粒子を80質量部以上含むとともに、粒径0.15mm未満の粒子を10質量部未満含むもの、
より好ましくは粒径0.15〜1.2mmの粒子を80質量部以上含むとともに、粒径0.15mm未満の粒子を10質量部未満含むもの、
特に好ましくは粒径0.3〜1.2mmの粒子を80質量部以上含むとともに、粒径0.3mm未満の粒子を10質量部未満含むものを好適に使用できる。
フェロニッケルスラグは、その粒径が2.4mmを超えるものを20質量部を超えて含む場合、充填性が低下することがあるので好ましくなく、粒径が0.075mm未満のものを20質量部を超えて含む場合、良好な流動性を確保するのに必要な水量が増加して、その結果目標とする硬化体強度が得られなくなることがあるため好ましくない。
【0082】
その水硬性組成物に使用する細骨材には、フェロニッケルスラグのほかに、粒度が3mm以下の細砂を用いることができる。
【0083】
細砂としては、特に限定されるものではなく、珪砂や石灰石砂等の砕石や砕砂を製造する過程で発生する微細粒の珪砂、石灰石砕砂を使用できる。
【0084】
細砂の粒径は、前記のフェロニッケルスラグの好ましい粒径と同様に、細砂100質量部に対し、
好ましくは粒径0.075〜2.4mmの粒子を80質量部以上含むとともに、粒径0.075未満の粒子を10質量部未満含むもの、
さらに好ましくは粒径0.15〜2.4mmの粒子を80質量部以上含むとともに、粒径0.15mm未満の粒子を10質量部未満含むもの、
より好ましくは粒径0.15〜1.2mmの粒子を80質量部以上含むとともに、粒径0.15mm未満の粒子を10質量部未満含むもの、
特に好ましくは粒径0.3〜1.2mmの粒子を80質量部以上含むとともに、粒径0.3mm未満の粒子を10質量部未満含むもの
を使用することができる。
【0085】
本発明に用いる水硬性組成物は、組織が緻密で優れた強度を有する硬化体を得るために、消泡剤を添加することが好ましい。消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質、石油精製由来の鉱物油系又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができる。特にポリエーテル系の消泡剤を好適に用いることができる。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で一種又は二種以上を添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.005〜2質量部、さらに好ましくは0.01〜1.5質量部、より好ましくは0.025〜1質量部、特に0.05〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤を上記範囲で添加すると、消泡効果が良好で、さらに水硬性モルタルの硬化体組織の緻密化による硬化体強度の向上効果が著しいため好ましい。
【0086】
本発明に用いる水硬性組成物は、細骨材のほかに、本発明の特性を損なわない範囲で必要に応じて、膨張材、石膏、流動化剤、増粘剤、凝結速度調整剤などの成分を少なくとも1種以上配合することができる。
【0087】
本発明に用いる水硬性組成物に含まれる膨張材は、水硬性モルタルの硬化過程に起こる体積変化を補償し、柱梁架構、及び、補強部材3との密着性向上に有効である。膨張材としては、アルミニウム粉、鉄粉等の金属系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系、石灰系などの無機系膨張材などの使用が好ましく、特に金属系膨張材と石灰系膨張材を併用して用いることが好ましい。
【0088】
金属系膨張材としては、比重が小さく反応性が高いことから、アルミニウム粉の使用が特に好ましい。アルミニウム粉は、JIS・K−5906「塗装用アルミニウム粉」の第2種に準ずるものが好適に使用できる。金属系膨張材の添加量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.01質量部、さらに好ましくは0.0002〜0.007質量部、より好ましくは0.0003〜0.006質量部、特に0.0005〜0.005質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0089】
無機系膨張材は、カルシウムサルフォアルミネート系としては、アウイン、石灰系としては生石灰、生石灰−石膏系、仮焼ドロマイト等が挙げられ、これらから選ばれた少なくとも1種を使用できる。特に石灰系としては、生石灰、生石灰−石膏系が好ましい。無機系膨張材の添加量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは1〜40質量部、さらに好ましくは1.5〜30質量部、より好ましくは2〜25質量部、特に3〜20質量部を用いることが好ましい。
【0090】
本発明に用いる水硬性組成物は必要に応じて石膏を配合することができる。石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の石膏がその種類を問わず、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0091】
本発明に用いる水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ適度な流動性を確保し、硬化体の強度を高め、且つ、乾燥収縮を低減させるために、減水効果を合わせ持つ流動化剤を添加することが好ましい。流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系、ポリカルボン酸系、ポリカルボン酸ポリエーテル系等、市販のものがその種類を問わず使用できる。流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で一種又は二種以上を適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは0.001〜5質量部、さらに好ましくは0.005〜4質量部、より好ましくは0.01〜3.5質量部、特に好ましくは0.1〜3質量部の範囲で使用する。
【0092】
増粘剤は、水硬性モルタルの流動性を調整し、材料分離を抑制するために添加する。増粘剤には、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などを用いることができ、特にセルロース系などを用いることが好ましい。増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で一種又は二種以上を添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.002〜1.5質量部、より好ましくは0.0025〜1質量部、特に0.005〜0.5質量部の範囲が好ましい。
【0093】
本発明に用いる水硬性組成物に、特に好適な成分構成は、ポルトランドセメント、フェロニッケルスラグを含む細骨材、消泡剤、流動化剤、増粘剤、無機系膨張材及び金属系膨張材を含むものである。
【0094】
ポルトランドセメント、フェロニッケルスラグを含む細骨材、消泡剤、流動化剤、増粘剤、無機系膨張材及び金属系膨張材などを混合装置で混合し、水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0095】
本発明に用いる水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、スラリー組成物(水硬性モルタル)を製造することができ、そのスラリー組成物(水硬性モルタル)を硬化させて水硬性組成物の硬化体を得ることができる。
【0096】
本発明に用いる水硬性組成物は、水の添加量を調整することにより、水硬性モルタルの流動性、可使時間、材料分離などの性状を調整することができる。
【0097】
本発明に用いる水硬性組成物は、水と混練して
1)水硬性組成物と水とが、均一に混ざり合った状態になるまでの所要時間を液状化時間とし、液状化時間が、好ましくは60秒以下、さらに好ましくは50秒以下、より好ましくは40秒以下、特に好ましくは35秒以下で均一に混ざり合った混練物を得ることができ、
2)モルタルフロー値が、好ましくは200mm以上、さらに好ましくは235mm以上の水硬性モルタルを得ることができ、
得られたモルタルを硬化させることにより、
3)圧縮強度(材齢28日)が、好ましくは110N/mm以上、さらに好ましくは120N/mm以上及び、
4)静弾性係数(材齢28日)が、好ましくは42.0kN/mm以上、さらに好ましくは43.0kN/mm以上の硬化体を得ることができる。
【0098】
水の添加量は、本発明の流動特性及び強度特性を損なわない範囲で添加でき、水硬性組成物100質量部に対し、好ましくは6〜36質量部、さらに好ましくは6.5〜33質量部、より好ましくは7〜30質量部、特に好ましくは7.5〜27質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0099】
本発明に用いる水硬性組成物は、流動性に優れた水硬性モルタル、及び、高強度・高弾性で無収縮のモルタル硬化体を得ることができ、土木建築分野で水硬性モルタルとして広く利用され、特に柱梁架構と補強部材3との空隙部に充填する水硬性モルタルとして好適に使用できる。
【0100】
以上、本発明に係る耐震補強構造1及び耐震補強方法について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、上述の「地震時に補強部材鉄骨縦枠に生じる鉛直方向の力を既存構造物の柱上の第1接続部で負担し基礎に流すことで、柱へのアンカーボルトの設置が不要となり、地震時の補強部材の水平抵抗力のみを補強部材と既存構造物の梁との間でやり取りする接合手法とすることができる。」という効果を奏するための特に好適な例として、第1接続部2を柱11に固定せず梁12のみに固定する構成について説明したが、第1接続部2は、アンカーボルト6を柱11にも打設し、柱11及び梁12の両方に固定されてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1…耐震補強構造、2…第1接続部、2a…開口部、3…補強部材、4…第2接続部、7…アンカー筋、11(11a,11b)…柱、12 (12a,12b)…梁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリートで形成された既存構造物のための耐震補強構造であって、
前記既存構造物の外壁に面する二本の柱及び該二本の柱の上下に接続する二本の梁の外面上にそれぞれ配置され、少なくとも前記梁と接続される、鉄筋コンクリートで形成された第1接続部と、
前記第1接続部により形成される開口に沿って設けられ、前記第1接続部と少なくとも一部で連結される補強部材と、
前記第1接続部と前記補強部材との間に配置され、前記第1接続部及び前記補強部材を接続する第2接続部と、
を備えることを特徴とする耐震補強構造。
【請求項2】
前記第2接続部は、前記第1接続部から延在し前記補強部材と連結させるためのアンカー筋と前記補強部材との間及び前記第1接続部と前記補強部材との間に充填された水硬性モルタルであることを特徴とする、請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
前記水硬性モルタルは、
セメント組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルAと、
水硬性組成物及び水を混練して得られる水硬性モルタルBと
から選ばれる少なくとも1つを含み、
前記セメント組成物は、
ポルトランドセメント、細骨材、有機系短繊維、無機系膨張材、再乳化形粉末樹脂、消泡剤、金属系膨張材、増粘剤及び流動化剤を含み、
前記ポルトランドセメント100質量部に対し、
前記細骨材の含有割合が120〜180質量部、
前記有機系短繊維の含有割合が0.2〜0.8質量部、
前記無機系膨張材の含有割合が4〜15質量部、
前記再乳化形粉末樹脂の含有割合が4〜15質量部、
前記消泡剤の含有割合が0.05〜1.2質量部
であって、
前記有機系短繊維は、繊維径が0.1〜0.3mm、かつ繊維長が9〜16mmであって、
前記水硬性組成物は、
前記ポルトランドセメントとフェロニッケルスラグを含む細骨材とを含有し、
前記フェロニッケルスラグは、該フェロニッケルスラグ100質量部に対し、粒径0.075〜2.4mmの粒子を80質量部以上含み、粒径0.075未満の粒子を10質量部未満含むことを特徴とする、請求項2に記載の耐震補強構造。
【請求項4】
鉄筋コンクリートで形成された既存構造物のための耐震補強方法であって、
前記既存構造物の外壁に面する二本の柱及び該二本の柱の上下に接続する二本の梁の外面上に、鉄筋コンクリートで形成された第1接続部を配置し、少なくとも前記梁と接続する第1接続ステップと、
前記第1接続ステップにおいて配置された前記第1接続部により形成される開口に沿って、補強部材を前記第1接続部と少なくとも一部で連結する補強部材連結ステップと、
前記第1接続部と前記補強部材との間に第2接続部を配置し、前記第2接続部により前記第1接続部及び前記補強部材を接続する第2接続ステップと、
を含むことを特徴とする耐震補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−214261(P2011−214261A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81616(P2010−81616)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(508042593)山陽建設サービス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】