説明

耐震補強構造

【課題】大きな開口を確保することができる耐震補強性能に優れた耐震補強構造を提供する。
【解決手段】既存建物の柱梁架構面内に耐震補強要素を付加した耐震補強構造10であって、耐震補強要素は、梁4の下側に沿って左右方向に延在する梁補強部材12bと、梁補強部材12bの中央下方に開口を形成するように、梁補強部材12bに対して梁4の中央から左右に偏心した位置に接続するとともに、柱2、梁4と接続した耐震補強部材14、12aとからなり、梁4の中央の曲げ降伏後に、梁4に作用するせん断力の一部を、梁補強部材12bで負担するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の柱梁架構面内に鉄骨ブレースを設けて耐震補強する耐震補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既存建物の柱梁架構に対する有効な耐震補強構造として、柱梁架構面内に鉄骨ブレースを設けた構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。図6は、従来の鉄骨ブレースを用いた耐震補強構造を例示した図である。図6(a)に示すように、柱2と梁4からなる柱梁架構内にK字状にブレース6を設けたK形ブレース構造の場合には、構面内に開口8を設けにくいという短所がある。一方、図6(b)に示すように、いわゆるマンサード形ブレース構造の場合には、K形ブレース構造よりも大きな開口面積を確保できる反面、ブレースの配置角度が力学的に不利なものとなり、耐震補強性能に劣るという短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−158528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、既存建物の柱梁架構の耐震補強構造において、大きな開口を確保することができる耐震補強性能に優れた技術の開発が求められていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、大きな開口を確保することができる耐震補強性能に優れた耐震補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る耐震補強構造は、既存建物の柱梁架構面内に耐震補強要素を付加した耐震補強構造であって、前記耐震補強要素は、前記梁の下側に沿って左右方向に延在する梁補強部材と、前記梁補強部材の中央下方に開口を形成するように、前記梁補強部材に対して前記梁中央から左右に偏心した位置に接続するとともに、前記柱梁と接続した耐震補強部材とからなり、前記梁中央の曲げ降伏後に、前記梁に作用するせん断力の一部を、前記梁補強部材で負担するようにしたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2に係る耐震補強構造は、上述した請求項1において、前記耐震補強部材を、K字形状のブレースで構成したことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3に係る耐震補強構造は、上述した請求項1において、前記耐震補強部材を、X字形状のブレースで構成したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項4に係る耐震補強構造は、上述した請求項1において、前記耐震補強部材を、鋼板で構成したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項5に係る耐震補強構造は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記耐震補強部材を、前記ブレースが対角線上に配置される四角枠部材からなる枠組フレームで構成したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項6に係る耐震補強構造は、上述した請求項1〜5のいずれか一つにおいて、前記梁補強部材と前記梁下側との間に隙間を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項7に係る耐震補強構造は、上述した請求項1〜6のいずれか一つにおいて、前記梁中央にせん断補強部材を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、既存建物の柱梁架構面内に耐震補強要素を付加した耐震補強構造であって、前記耐震補強要素は、前記梁の下側に沿って左右方向に延在する梁補強部材と、前記梁補強部材の中央下方に開口を形成するように、前記梁補強部材に対して前記梁中央から左右に偏心した位置に接続するとともに、前記柱梁と接続した耐震補強部材とからなり、前記梁中央の曲げ降伏後に、前記梁に作用するせん断力の一部を、前記梁補強部材で負担するようにしたので、従来のK形ブレース構造等に比較して柱梁架構面内に大きな開口を確保することができる。また、梁補強部材の寸法等の調整により既存梁に作用するせん断力を制御可能であることから、既存梁の脆性破壊を回避することができ、耐震補強性能に優れた構造を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係る耐震補強構造の実施例を示す図である。
【図2】図2は、本発明に係る耐震補強構造の他の実施例を示す図である。
【図3】図3は、曲げモーメントの一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明に係る耐震補強構造の他の実施例を示す図である。
【図5】図5は、本発明に係る耐震補強構造の他の実施例を示す図である。
【図6】図6は、従来の鉄骨ブレースによる耐震補強構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る耐震補強構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
図1に示すように、本発明に係る耐震補強構造10は、鉄筋コンクリート(RC)造の既存建物の柱2と梁4からなる柱梁架構面内に、耐震補強要素を付加した耐震補強構造である。この耐震補強要素は、RC梁4の下側に沿って左右方向に延在する鉄骨からなる梁補強部材12bと、耐震補強部材としての鉄骨ブレース14を有する枠組フレーム12とからなる。
【0017】
梁補強部材12bの左右端には、枠組フレーム12の四角枠部材12aの上隅部が接続してあり、梁補強部材12bの中央下方に開口を形成する。四角枠部材12aは、鉄骨からなる部材であり、左右の柱2および上下の梁4と接続している。
【0018】
鉄骨ブレース14は、各四角枠部材12aの対角線上に配置され、下方にいくに従いブレース間の左右間隔が広くなる略K字形状の態様に配置されている。このように、鉄骨ブレース14の上端は、梁補強部材12bに対してRC梁4中央から左右に偏心した位置にある。このため、本発明の耐震補強構造10は、いわば偏心K形ブレース構造の形態をなしている。
【0019】
枠組フレーム12および梁補強部材12bは、一般的な耐震補強構造と同様に、柱梁架構にアンカー打ち等で固定され、境界面にはグラウト16が充填される。なお、アンカー打ちを伴わない接着剤を用いた構造を採用しても構わない。
【0020】
鉄骨ブレース14の上端間の梁補強部材12bとRC梁4下側との間には小さな隙間18が設けてあり、RC梁4と梁補強部材12bはこの区間で縁切り処理がなされている。なお、一般にRC梁4の剛性は梁補強部材12bの剛性よりも大きいため、RC梁4と梁補強部材12bとを一体化すると、ここに作用する力の大部分はRC梁4が負担することになる。そこで、上述したようにRC梁4と梁補強部材12bとを隙間18で力学的に切り離し、梁補強部材12bを有効に作用させる。
【0021】
上記の構成において、RC梁4中央が曲げ降伏して曲げヒンジが形成されるとRC梁4中央の剛性低下が生じるので、相対的に剛性が優位となった梁補強部材12bでRC梁4が負担できないせん断力を負担させる。ここで、RC梁4が曲げヒンジとなる以前にせん断降伏する場合等には、図2に示すように、RC梁4中央に鋼板や炭素繊維等のせん断補強部材20を設けて対応してもよい。
【0022】
なお、一般に、RC梁4は中央部の主筋量を端部の主筋量の60%程度に落として設計施工される。したがって、RC梁4中央の曲げ降伏後のせん断力は、原設計のせん断力を大幅に上回ることはないと考えられる。
【0023】
このように、本発明の耐震補強構造10は、ブレース14の上端がRC梁4中央から左右に偏心して配置される偏心K形ブレース構造の形態をなすので、従来のK形ブレース構造等に比較して柱梁架構面内に大きな開口を確保することができる。
【0024】
また、本発明の耐震補強構造10は、梁中央部でRC梁4と梁補強部材12bを分離することにより、RC梁4中央のブレース14上端間に曲げ降伏による曲げヒンジを形成させてRC梁4の剛性の低下を起こさせ、RC梁4中央の下側の梁補強部材12bでRC梁4が負担できないせん断力を分担させる。この場合、RC梁4に作用するせん断力は、図2に示すように、梁補強部材12bの長手寸法L等を調整することにより制御可能であることから、これを適宜調整することによりRC梁4の脆性破壊を回避することができる。このため、本発明の耐震補強構造10は、耐震補強性能に優れている。
【0025】
なお、柱2の内面から梁補強部材12bの端面までの寸法Lは、D+40d程度に設定することが好ましい。ここに、DはRC梁4の梁成、dはRC梁4の主筋径である。また、梁補強部材12bの長手寸法Lと柱間のスパンLの比L/Lは、1/3程度とすることが好ましく、例えば、スパンLが6mである場合には、Lを2m程度に設定することができる。
【0026】
次に、本発明の耐震補強構造10における応力負担について、図3の曲げモーメント図を用いて説明する。
【0027】
図3に示すように、本発明の耐震補強構造10に生じる曲げモーメントMは、柱梁架構が負担する力QFと鉄骨ブレース14が負担する力QBにより生じる曲げモーメントMQFとMQBを足し合わせたものである。
【0028】
ここで、曲げモーメントの勾配がせん断力を示すため、足し合わせた場合に勾配がきつくなる部分がせん断力が増加する部分である。梁中央部でせん断力が大きくなることが判る。RC梁4の曲げ降伏後には曲げモーメントMの一部は梁補強部材12b(図3中、鉄骨と表記)により負担され、この結果、曲げ降伏後のRC梁4は曲げモーメントMを負担することになる。
【0029】
上記の実施の形態においては、耐震補強部材をK字形状の鉄骨ブレース14で構成する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、図4に示すように、耐震補強部材をX字形状の鉄骨ブレース22で構成してもよいし、図5に示すように、耐震補強部材を開口のない鋼板24で構成してもよく、いずれにしても本発明と同一の作用効果を奏することができる。
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、既存建物の柱梁架構面内に耐震補強要素を付加した耐震補強構造であって、前記耐震補強要素は、前記梁の下側に沿って左右方向に延在する梁補強部材と、前記梁補強部材の中央下方に開口を形成するように、前記梁補強部材に対して前記梁中央から左右に偏心した位置に接続するとともに、前記柱梁と接続した耐震補強部材とからなり、前記梁中央の曲げ降伏後に、前記梁に作用するせん断力の一部を、前記梁補強部材で負担するようにしたので、従来のK形ブレース構造等に比較して柱梁架構面内に大きな開口を確保することができる。また、梁補強部材の寸法等の調整により既存梁に作用するせん断力を制御可能であることから、既存梁の脆性破壊を回避することができ、耐震補強性能に優れた構造を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明に係る耐震補強構造は、既存建物の柱梁架構面内に鉄骨ブレースを設けて耐震補強する耐震補強構造に有用であり、特に、柱梁架構面内に大きな開口を確保したい場合に適している。
【符号の説明】
【0032】
2 柱
4 梁
6 鉄骨ブレース
10 耐震補強構造
12 枠組フレーム(耐震補強部材)
12a 四角枠部材
12b 梁補強部材
14 鉄骨ブレース(耐震補強部材)
16 グラウト
18 隙間
20 せん断補強部材
22 X字形状の鉄骨ブレース(耐震補強部材)
24 鋼板(耐震補強部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の柱梁架構面内に耐震補強要素を付加した耐震補強構造であって、
前記耐震補強要素は、前記梁の下側に沿って左右方向に延在する梁補強部材と、前記梁補強部材の中央下方に開口を形成するように、前記梁補強部材に対して前記梁中央から左右に偏心した位置に接続するとともに、前記柱梁と接続した耐震補強部材とからなり、
前記梁中央の曲げ降伏後に、前記梁に作用するせん断力の一部を、前記梁補強部材で負担するようにしたことを特徴とする耐震補強構造。
【請求項2】
前記耐震補強部材を、K字形状のブレースで構成したことを特徴とする請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
前記耐震補強部材を、X字形状のブレースで構成したことを特徴とする請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項4】
前記耐震補強部材を、鋼板で構成したことを特徴とする請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項5】
前記耐震補強部材を、前記ブレースが対角線上に配置される四角枠部材からなる枠組フレームで構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の耐震補強構造。
【請求項6】
前記梁補強部材と前記梁下側との間に隙間を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の耐震補強構造。
【請求項7】
前記梁中央にせん断補強部材を設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の耐震補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−31615(P2012−31615A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171160(P2010−171160)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】