説明

耐震補強金具及び耐震補強金具の取付方法

【課題】天井下地の野縁と野縁受の交差部に設置し、地震に対して補強すると共に、衝撃力を吸収して耐震性能を付与することが可能である。
【解決手段】天井スラブまたは梁を含む建物の構造体から吊持された野縁7及び野縁受8を備える天井下地構造を野縁7と野縁受8の交差部で補強する耐震補強金具Aであって、
野縁受8に取り付けられる第1の金具1と、野縁7に取り付けられる第2の金具2と、により構成され、第1の金具1は、野縁受8に跨るように配置して野縁7に嵌合させ、地震による天井下地構造に生じる衝撃力に対して野縁受8の軸方向に変位可能に取り付け第2の金具2は、野縁7の野縁リップ部を挟み、かつ第1の金具1に跨るように配置して野縁7の野縁リップ部に地震による天井下地構造に生じる衝撃力に対して野縁7の軸方向に変位可能に取り付け、天井下地構造に生じる衝撃力を吸収可能に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば大空間などの既存建物の、在来工法による軽量鉄骨造の天井下地構造に耐震性能を付与することができ、また新築建物の天井下地構造の耐震補強としても適用可能な天井下地材の耐震補強金具及び耐震補強金具の取付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天井下地構造では、図15に示すように、体育館等の天井耐震補強の例として、野縁100と野縁受102の交差部で、野縁100と野縁受102に係合しているだけの固定度の低いクリップ101の弱点に着目して、クリップ自体を野縁受102に補強ビス103で直接ビス止めしたり、図16に示すように、野縁100と野縁受102の間に補強金物111をあてがい、補強金物111をビス112によって野縁100に固定し、ビス113によって野縁受102に固定し、野縁100と野縁受102の交差部を補強する方法がある。
【0003】
また、図17に示すように、野縁100と野縁受101の交差部で、耐風型天井補強用に開発された一対の耐風型補強クリップ120を用い、この一対の耐風型補強クリップ120をボルト121で固定して二重のクリップで挟持することで補強する方法もある。
【0004】
さらに、天井内に耐震用の斜めブレースを設置する装置として、例えば、図18に示すものが公開されているが、斜めブレース131の下端部は、吊りボルト132の下部、天井下地材を吊持するハンガー130の上部133に設置されていることが多い(特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−121642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、図15及び図16に示すものでは、単にプレート材で補強するだけであるため多数箇所への設置が必要となるが、地震時にどれ程の効果を発揮するかは定かではなく、しかも既存の天井改修工事では、天井面に接近した体勢でのビス止め作業が天井全面で必要となることから、そのために足場設備も広範囲に必要になるなど、仮設費や施工手間が多大となる。
【0006】
また、図17に示すものでは、特別仕様の一対の耐風型補強クリップ120を使用しているものの野縁100と野縁受101の交差部での補強は十分ではなく、特別仕様であるため従来品との混在使用が出来ず全て特別仕様としなければならないため不経済となる。図18に示すものでは、ハンガー130に集中して大きなせん断力が働き、ハンガー130が滑りあるいは変形して損傷する可能性がある。
【0007】
このような類似工法のそれぞれ、または組み合わせで耐震補強工事が計画されるが、既存天井の改修では天井の全面改修が必要となったり、在来天井下地の耐震安全性を解決するに至ってない。
【0008】
さらに、在来の天井下地材に水平地震力を抑える斜めブレースを設置する取付方法は色々と提案されているが、地震力が作用した場合に斜めブレースや吊ボルトに圧縮力が作用して座屈してしまうことや、ブレース下端(天井下地側)をハンガー直上や野縁受へ接続する取付方法では、水平分力による吊ボルトの曲げ変形やハンガーの曲がり、野縁受の倒れ変形が発生するために、ブレース設置による下地材への悪影響が天井損傷に繋がることが判ってきている。
【0009】
この発明は、かかる点に鑑みなされたもので、天井下地の野縁と野縁受の交差部に設置し、地震に対して補強すると共に、衝撃力を吸収して耐震性能を付与することが可能な耐震補強金具及び耐震補強金具の取付方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し、かつ目的を達成するために、この発明は、以下のように構成した。
【0011】
請求項1に記載の発明は、天井スラブまたは梁を含む建物の構造体から吊持された野縁及び野縁受を備える天井下地構造を前記野縁と前記野縁受の交差部で補強する耐震補強金具であって、
前記野縁受に取り付けられる第1の金具と、前記野縁に取り付けられる第2の金具と、により構成され、
第1の金具は、前記野縁受に跨るように配置して前記野縁に嵌合させ、地震による前記天井下地構造に生じる衝撃力に対して前記野縁受の軸方向に変位可能に取り付け、
前記第2の金具は、前記野縁の野縁リップ部を挟み、かつ前記第1の金具に跨るように配置して前記野縁の野縁リップ部に地震による前記天井下地構造に生じる衝撃力に対して
前記野縁の軸方向に変位可能に取り付け、
前記天井下地構造に生じる衝撃力を吸収可能に構成したことを特徴とする耐震補強金具である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記第1の金具は、前記野縁受の水平幅に嵌合するように板材の中央部を略コの字型に折曲げ、前記野縁受を挟み込んで、前記板材の下端部に形成した切欠きを前記野縁に嵌合して保持し、野縁受取付用ボルトを前記板材に螺着してボルト先端を前記野縁受に当接して締め付け、
前記第2の金具は、前記第1の金具に跨るように形成した略コの字型であり、両側部に折曲げリブを有する止め板材と、前記第1の金具に跨るように形成した略コの字型であり、端部がレ型に折曲げられた取付板材と、それらを貫通する複数の野縁リップ部取付ボルトと、を有し、
前記止め板材と前記取付板材とを、前記野縁の片側の野縁リップ部を挟み、かつ前記第1の金具の前記板材に跨るように配置し、
前記板材を跨ぐ両側において、前記野縁の片側の野縁リップ部に前記取付板材のレ型端部を引っ掛け、前記止め板材と前記取付板材とを前記複数の野縁リップ部取付ボルトにより締め付けることを特徴とする請求項1に記載の耐震補強金具である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記第1の金具は、前記板材の下端部には野縁幅の切欠きが、野縁底部まで嵌合するように形成され、
前記切欠きを、前記野縁に嵌合して保持することを特徴とする請求項2に記載の耐震補強金具である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記第1の金具は、前記板材の上部中央部を切り起こして一体で立ち上げた立ち起し部を有し、
前記立ち起し部により前記第2の金具と固定したことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の耐震補強金具である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記取付板材に雌ねじを形成し、座金を介して前記野縁リップ部取付ボルトにより前記取付板材に螺着することを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の耐震補強金具である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記第1の金具または前記第2の金具の少なくとも一方に、少なくとも上端片側に側部を切り落とした切り欠き部が形成されていることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載の耐震補強金具である。
【0017】
請求項7に記載の発明は、前記第1の金具または前記第2の金具の少なくとも一方に、斜めブレースを2方向V型の少なくとも片側に取り付けるためのブレース取付用ボルト孔が開口されていることを特徴とする請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載の耐震補強金具である。
【0018】
請求項8に記載の発明は、天井スラブまたは梁を含む建物の構造体から吊持された野縁及び野縁受を備える天井下地構造を前記野縁と前記野縁受の交差部で補強する耐震補強金具の取付方法であって、
第1の金具を前記野縁受に跨るように配置して前記野縁に嵌合させ、地震による前記天井下地構造に生じる衝撃力に対して前記野縁受の軸方向に変位可能に取り付け、
前記第2の金具を、前記野縁の野縁リップ部を挟み、かつ前記第1の金具の前記板材に跨るように配置して前記野縁の野縁リップ部に地震による前記天井下地構造に生じる衝撃力に対して前記野縁の軸方向に変位可能に取り付け、
前記天井下地構造に生じる衝撃力を吸収可能にしたことを特徴とする耐震補強金具の取付方法である。
【0019】
請求項9に記載の発明は、前記第1の金具の板材を前記野縁受に跨るように配置し、前記板材の下部の切り込みを前記野縁に嵌合させ、野縁受取付用ボルトを前記板材に螺着してボルト先端を前記野縁受に当接して締め付け、
前記第2の金具の前記止め板材と前記取付板材とを、前記野縁の片側の野縁リップ部を挟み、かつ前記第1の金具の前記板材に跨るように配置し、
前記板材を跨ぐ両側において、前記野縁の片側の野縁リップ部に前記取付板材のレ型
端部を引っ掛け、
前記止め板材と前記取付板材とを前記複数の野縁リップ部取付ボルトにより締め付けることを特徴とする請求項8に記載の耐震補強金具の取付方法である。
【0020】
請求項10に記載の発明は、前記第1の金具または前記第2の金具の少なくとも一方に、斜めブレースを2方向V型の少なくとも片側に取り付けることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の耐震補強金具の取付方法である。
【発明の効果】
【0021】
前記構成により、この発明は、以下のような効果を有する。
【0022】
請求項1に記載の発明では、第2の金具と野縁で、第1の金具と野縁受とを閉じた輪として囲い込んで野縁と野縁受の交差部を強固に取付けることができ、また、少ない構成部材で、天井下地の野縁と野縁受の交差部に簡単かつ確実に設置することができる。しかも、第1の金具は、地震による天井下地構造に生じる衝撃力に対して野縁受の軸方向に変位可能であり、第2の金具は、地震による天井下地構造に生じる衝撃力に対して野縁の軸方向に変位可能であり、地震によって天井下地構造に生じる衝撃力に対して天井下地構造が変位して衝撃力を吸収することができ、天井下地構造の耐震性能を向上させることができる。
【0023】
請求項2に記載の発明では、野縁と野縁受の交差部で、野縁受に取り付けられる第1の金具と、野縁に取り付けられる第2の金具により構成され、第1の金具の板材を略コの字型に折曲げて野縁受を囲い込み野縁に野縁受を野縁受の軸方向に固定し、第2の金具により野縁受と第1の金具とを抱きかかえるように略コの字型に挟み込み、野縁受を跨いだ両側において野縁の片側の野縁リップ部を取付けることで、第2の金具と野縁で、第1の金具と野縁受とを閉じた輪として囲い込んで野縁と野縁受の交差部を強固に取付けることができる。また、少ない構成部材で、天井下地の野縁と野縁受の交差部に簡単かつ確実に設置し、しかも地震によって天井下地構造に生じる衝撃力に対して天井下地構造が変位して衝撃力を吸収することができ、天井下地構造の耐震性能を向上させることができる。
【0024】
請求項3に記載の発明では、第1の金具は、板材の下端部には野縁幅の切欠きを、野縁の底部まで嵌合して確実に野縁全体を保持することで、野縁が野縁受と直交方向に横すべり移動することを阻止することができる。
【0025】
請求項4に記載の発明では、第1の金具は、板材の立ち起し部により第2の金具と固定したことで、第1の金具と第2の金具とを一体にすることで施工性が向上する。
【0026】
請求項5に記載の発明では、固定板材に雌ねじを形成し、座金を介して野縁リップ部取付ボルトにより固定板材に螺着して締め付け固定することで、野縁リップ部固定ボルトの友回りを防止でき、野縁リップ部取付ボルトによる締付力が向上する。
【0027】
請求項6に記載の発明では、第1の金具または第2の金具の少なくとも一方に、少なくとも上端片側に側部を切り落とした切り欠き部が形成されていることで、第1の金具または第2の金具の軽量化が可能で、材料の削減にもなる。
【0028】
請求項7に記載の発明では、第1の金具または第2の金具の少なくとも一方に、斜めブレースを2方向V型の少なくとも片側に取り付けるためのブレース取付用ボルト孔が開口されていることで、より効果的にブレースを機能させることで地震力を確実に野縁と天井面材に伝達し、耐震性能を付与することが可能である。
【0029】
請求項8に記載の発明では、第2の金具と野縁で、第1の金具と野縁受とを閉じた輪として囲い込んで野縁と野縁受の交差部を強固に取付けることができ、また、少ない構成部材で、天井下地の野縁と野縁受の交差部に簡単かつ確実に設置することができる。しかも、
第1の金具は、地震による天井下地構造に生じる衝撃力に対して野縁受の軸方向に変位可能であり、第2の金具は、地震による天井下地構造に生じる衝撃力に対して野縁の軸方向に変位可能であり、地震によって天井下地構造に生じる衝撃力に対して天井下地構造が変位して衝撃力を吸収することができ、天井下地構造の耐震性能を向上させることができる。
【0030】
請求項9に記載の発明では、第1の金具の板材を略コの字型に折曲げて野縁受を囲い込み野縁に野縁受を野縁受の軸方向に取付け、第2の金具により野縁受と第1の金具とを抱きかかえるように略コの字型に挟み込み、野縁受を跨いだ両側において野縁の片側の野縁リップ部を締め付けることで、第2の金具と野縁で、第1の金具と野縁受とを閉じた輪として囲い込んで野縁と野縁受の交差部を強固に取付けることができる。また、少ない構成部材で、天井下地の野縁と野縁受の交差部に簡単かつ確実に設置し、しかも地震によって天井下地構造に生じる衝撃力に対して天井下地構造が変位して衝撃力を吸収することができ、天井下地構造の耐震性能を向上させることができる。
【0031】
請求項10に記載の発明では、第1の金具または第2の金具の少なくとも一方に、斜めブレースを2方向V型の少なくとも片側に取り付けることで、より効果的にブレースを機能させることで地震力を確実に野縁と天井面材に伝達し、耐震性能を付与することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、この発明の耐震補強金具及び耐震補強金具の取付方法の実施の形態について説明する。この発明の実施の形態は、発明の最も好ましい形態を示すものであり、この発明はこれに限定されない。
【0033】
(耐震補強金具の構成)
この実施の形態の耐震補強金具の構成を、図1乃至図9に基づいて説明する。図1は在来工法による軽量鉄骨造の天井下地構造の概略を説明するための斜視図、図2は耐震補強金具の取付状態を示す斜視図、図3は第1の金具の斜視図、図4は第2の金具の斜視図、図5乃至図9は耐震補強金具の取付状態を示し、図5は平面図、図6は図5をイ方向から見た図、図7は図5をロ方向から見た図、図8は図5をハ方向から見た図、図9は図5をニ方向から見た図である。
【0034】
この実施の形態の在来工法による軽量鉄骨造の天井下地構造は、図1に示すように、この建物の構造体20には、天井50に大型の野縁6を平行に所定幅で複数個配置し、この平行に配置した複数個の野縁6の間にはそれぞれ複数個の小型の野縁7を配置している。この大型の野縁6と小型の野縁7は、同じ高さで、かつ同じ長さになっている。大型の野縁6と小型の野縁7に対して直交する方向に複数個の野縁受8が配置されている。この大型の野縁6と野縁受8とは、クリップ10で固定され、小型の野縁7と野縁受8とは、クリップ11で固定されている。
【0035】
野縁受8には、ハンガー12が所定間隔で固定され、このハンガー12に吊ボルト5の下部を連結し、吊ボルト5の上部は天井スラブまたは梁を含む建物の構造体20に連結する。この建物の構造体20としては、例えば鉄骨造の構造体である。吊ボルト5により吊持された天井下地構造では、野縁6,7と野縁受8は、既存のものが用いられ、鋼材やアルミ合金材などを採用することができるが、それらに限ることなく、在来工法による軽量鉄骨造の天井下地構造に用いられるものであれば、どのような材質からなるものでもよい。
【0036】
野縁7と野縁受8の交差部には、耐震補強金具Aが固定され、耐震補強金具Aは第1の金具1と第2の金具2により構成され、この第1の金具1と第2の金具2は、例えば鋼板などで成形された板材などからなる。第1の金具1には、一対の斜めブレース30の下部が接続され、一対の斜めブレース30の上部は、斜め補強取付金物31に接続されている。第2の金具2には、一対の斜めブレース40の下部が接続され、一対の斜めブレース40の上部は、斜め補強取付金物41に接続されている。一対の斜め補強取付金物31は、中央に配置された野縁受8の両側に設けられた吊ボルト5に固定され、一方、一対の斜め補強取付金物41は、両側に配置された野縁受8に設けられた吊ボルト5に固定されている。
【0037】
この実施の形態の耐震補強金具Aは、野縁7と野縁受8の交差部に簡単かつ確実に設置することができ、野縁7と野縁受の交差部を強固に固定するとともに、地震力を、簡便かつ確実に野縁7と天井面材に伝達し、耐震性能を付与することが可能である。さらに、所定の斜めブレース30,40を設けることで、より効果的にブレースを機能させることで地震力を確実に野縁7と天井面材に伝達し、耐震性能を付与することが可能である。
【0038】
斜めブレース30,40は、耐震補強金具Aと隣接する四方で四箇所の吊ボルト5の吊元基端の斜め補強取付金物31,41間に斜めに設置し、ブレース材自体は耐震上要求される水平抵抗の分担力が作用した時に座屈しない断面性能を有する既存の型鋼を用いる。吊ボルト5の吊元基端部には、斜め補強取付金物31,41として既往のブレース取付金具を使用し、ブレース材をビス止めしてもよい。
【0039】
次に、耐震補強金具Aの詳細構成について、図2乃至図9に基づいて詳細に説明する。耐震補強金具Aは、野縁7及び野縁受8を備える天井下地構造を補強するものであり、この実施の形態では野縁7と野縁受8の交差部に取り付けられているが、野縁6と野縁受8の交差部に取り付けても良い。耐震補強金具Aは、第1の金具1と第2の金具2により構成され、第1の金具1は、主に野縁受8に取り付けられ、第2の金具2は主に野縁7に取り付けられる。野縁7は、断面がコ字状であり、基部7aの両側を屈曲し、この両側の屈曲部7b1,7b2から基部7aに対して略直角方向に延び、その両端を内側に屈曲して開口7c側に一対の野縁リップ部7d1,7d2が形成されている。野縁受8は、断面がコ字状であり、基部8aの両側を屈曲し、この両側の屈曲部8b1,8b2から基部8aに対して略直角方向に延び、開口8c側に一対のフランジ部8d1,8d2が形成されている。野縁7は、その基部7aを下方にして天井側にし、一対の野縁リップ部7d1,7b2を上側にして配置され、この野縁7の一対の野縁リップ部7d1,7b2に、野縁受8は、そのフランジ部8d2を重ねて配置されている。
【0040】
第1の金具1は、例えば鋼板などからなる板材の両側部に同じ側から切り込み1g11,1g21を入れて中央部を、設置された野縁受8の水平幅に嵌合するように略コの字型に折曲げ、折り曲部1b,1cを有している。ここで、略コの字型とは、角をほぼ直角に折り曲げるコの字型、角を緩く折り曲げるU字型なども含む。この折り曲部1cの一端には、ナット1dがねじ孔1kの位置に対応させ、このナット1dに野縁受取付用ボルト1eが螺着して取付られている。第1の金具1は、野縁受8を挟み込んで野縁受取付用ボルト1eをナット1dを介してねじ孔1kに螺着し、これによりその先端部1e1が野縁受8の基部8aを押圧して締め付けられる。折り曲部1cに、ねじ孔1kを形成し、ナット1dを介して野縁受取付用ボルト1eを螺着し、野縁受8の基部8aに取付けることで、第1の金具1を野縁受8に確実に取り付けることができ、かつねじ孔1kとナット1dの締め付けによって施工した野縁受取付用ボルト1eの緩み止めを行うことができる。
【0041】
第1の金具1の板材の下端部には、野縁幅の切欠き1fがあり、この野縁幅の切欠き1fは、その両側部1f1,1f2が野縁底部まで嵌合するように形成され、切欠き1fを野縁7の一対の野縁リップ部7d1,7b2から野縁7の底部まで嵌合して確実に野縁全体を保持し、略コの字型に折り曲げられた第1の金具1の板材により野縁受8を挟持するとともに、野縁7を野縁受8に野縁受8の軸方向に滑って横移動しないようにする。板材の上部中央部には、一部を残した打ち抜き1kによって切り起こし、一体で立ち上げた立ち起し部1mが形成され、立ち起し部1mにはビス貫通孔1nが形成されている。ビス1pをビス貫通孔1nに貫通し、第2の金具2にねじ込んで固定することで、立ち起し部1mにより第2の金具2と固定することができるようになっており、第1の金具1と第2の金具2とを一体にすることで施工性が向上する。また、立ち起し部1mは、ビスを用いないで、第2の金具2の止め板材2aと固定板材2dの間に挟みこみなどで固定してもよい。
【0042】
板材の上部の対向する2箇所1g1,1g2には、ブレース取付用ボルト孔1h1,1h2が開口され、ブレース取付用ボルト孔1h1,1h2に、それぞれ斜めブレース30の下部をあてがいボルト1i1,1i2を貫通させてナット1j1,1j2によって締め付け固定される。板材の上部の対向する2箇所1g1,1g2には、側部を切り落とした切り欠き部1g31,1g41が形成されており、この切り欠き部1g31,1g41によって第1の金具1の軽量化が可能で、材料の削減にもなり、さらにブレース取付の取付方向の自由度が拡大する。切り欠き部1g31,1g41は、曲面状になっているが、直線状などでもよく、切り落としの形状は特に限定されない。
【0043】
図の例では、板材の上部の対向する2箇所1g1,1g2は、切り込み1g11によって1箇所1g1が折り曲部1b側に位置し野縁受8の基部8a側において立ち上がるように形成され、他の1箇所1g2が切り込み1g21によって折り曲部1c側に位置し野縁受8のフランジ部8d1の先端側において立ち上がるように形成され、野縁受8のフランジ部8d1の幅分の軸をずらして設けられている。また、板材の上部の対向する2箇所1g1,1g2は、1箇所1g1が折り曲部1b側またはフランジ部8d1の先端側に位置し野縁受8の基部8a側またはフランジ部8d側において立ち上がるように形成し、他の1箇所1g2も同様に折り曲部1b側またはフランジ部8d1の先端側に位置し野縁受8の基部8a側またはフランジ部8d側において立ち上がるように形成し、野縁受8のフランジ部8dの幅分の軸をずらさないようにしても良い。この板材の上部の対向する2箇所1g1,1g2の配置位置は、一対の斜めブレース30の取付位置などによって、野縁受8のフランジ部8dの幅分の軸をずらすか、ずらさないようにするかを選択することができる。
【0044】
第2の金具2は、第1の金具1に跨るように形成した略コの字型であり、両側部に折曲げリブ2a5,2a6を有する止め板材2aと、第1の金具1に跨るように形成した略コの字型であり、端部2d1,2d2がレ型に折曲げられた取付板材2dと、1組の座金2h,2iと、それらを貫通する1組の野縁リップ部取付ボルト2f,2gと、を有する。止め板材2aと取付板材2dとは略同じ形状に形成され、略コの字型とは、角をほぼ直角に切り欠いて第1の金具1に跨るように形成したコの字型、角を緩く切り欠いて第1の金具1に跨るように形成したU字型なども含み、止め板材2aの切り欠部2a7より、取付板材2dの切り欠部2d7が大きく形成されている。
【0045】
止め板材2aは、両側部の折曲げリブ2a5,2a6によって曲げ強度が向上している。この止め板材2aは、切り欠部2a7によって板材上部に対向する2箇所2a1,2a2を有し、この2箇所2a1,2a2にはブレース取付用ボルト孔2a3,2a4が開口され、またブレース取付用ボルト孔2a3,2a4より下方位置にボルト貫通孔2a8,2a9が開口され、切り欠部2a7の上部中央位置にはビス孔2a10が開口されている。止め板材2aには、両上側部を切り落とした切り欠き部2a10,2a11が形成されており、この切り欠き部2a10,2a11によって止め板材2aの軽量化が可能で、材料の削減にもなる。切り欠き部2a10,2a11は、曲面状になっているが、直線状などでもよく、切り落としの形状は特に限定されない。
【0046】
取付板材2dは、切り欠部2d7によって板材上部に対向する2箇所2d1,2d2を有し、またブレース取付用ボルト孔2d3,2d4が開口され、ブレース取付用ボルト孔2d3,2d4より下方位置に雌ねじ孔2d8,2d9が開口されている。取付板材2dのレ型端部には、下側の一部を残して打ち抜き、レ型に折曲げられた引っ掛け部2d10、2d11が形成されている。取付板材2dには、両上側部を切り落とした切り欠き部2d12,2d13が形成されており、この切り欠き部2d12,2d13によって取付板材2dの軽量化が可能で、材料の削減にもなり、さらにブレース取付の取付方向の自由度が拡大する。切り欠き部2d12,2d13は、曲面状になっているが、直線状などでもよく、切り落としの形状は特に限定されない。
【0047】
1組の座金2h,2iは、取付板材2dの2箇所2d1,2d2と略同じ幅の四角形状に形成され、2箇所2d1,2d2との接触面積を大きくし、1組の野縁リップ部固定ボルト2f,2gによる締付力を大きくしている。この1組の座金2h,2iは、円形状でもよい。また、取付板材2dに雌ねじ孔2d8,2d9を形成することで、雌ねじ孔2d8,2d9に座金2h,2iを通した野縁リップ部取付ボルト2f,2gを螺着し、ナット2r,2sにより締付することで、作業時の友回りがなく、作業性を向上させることができる。また、雌ねじ孔2d8,2d9と、座金2h,2iとによって1組の野縁リップ部取付ボルト2f,2gによる締付力を大きくすることができる。
【0048】
第2の金具2は、止め板材2aを切り欠部2a7によって第1の金具1の板材の中央部に跨るように配置し、2ヶ所の下端部を野縁7の片側のリップ部7d1の外側に当てがい、同様に取付板材2dを切り欠部2d7によって第1の金具1の板材の中央部に跨るように配置し、2ヶ所の下端部を、下方の片側の野縁リップ部7d1の内側に配置し、取付板材2dのレ型端部を引っ掛けて挟み込んで配置する。取付板材2dの板材の中央部を跨ぐ両側に1組の座金2h,2iを当てがい、1組の野縁リップ部取付ボルト2f,2gを雌ねじ孔2d8,2d9に螺着し、止め板材2aの雌ねじ孔2d8,2d9から突出する1組の野縁リップ部取付ボルト2f,2gにナット2r,2sを螺着して締め付ける。

斜めブレース40の下部は、止め板材2aの上部と、取付板材2dの上部との間に、それぞれ斜めブレース40の下部の取付部をブレース取付用ボルト孔2a3,2a4と、ブレース取付用ボルト孔2d3,2d4に当てがい、これらにボルト2k1,2k2を貫通させてナット2m1,2m2によって締め付け固定される。
【0049】
この実施の形態の耐震補強金具Aは、野縁7と野縁受8の交差部で、主に野縁受8に取り付けられる第1の金具1と、主に野縁7に取り付けられる第2の金具2により構成され、少ない構成部材でより効果的に斜めブレース30,40を機能させることで地震力を確実に野縁7と天井面材に伝達し、耐震性能を付与することが可能である。
【0050】
この耐震補強金具Aの取付方法は、野縁7と野縁受8の交差部において、第1の金具1の板材の中央部を野縁受8に跨るように乗せ、板材の下部の切り込み1fを野縁7の一対の野縁リップ部7d1,7b2に嵌合させ、野縁受固定用ボルト1eを締め付け、野縁受8に固定する。野縁受固定用ボルト1eの位置は、野縁受8の基部8aを締め付ける位置とすることが強度的に有利である。
【0051】
次に、第2の金具2の止め板材2aを野縁受8と直交する方向に野縁受8に取り付けられた第1の金具1の板材を跨ぐように配置し、同様に取付板材2dを野縁受8と直交する方向に野縁受8に取り付けられた第1の金具1の板材を跨ぐように配置し、第1の金具1の板材を跨ぐ両側において野縁7の片側の野縁リップ部7d1に取付板材2dのレ型端部を引っ掛ける。そして、止め板材2aと取付板材2dを、1組の野縁リップ部取付ボルト2f,2gにナット2r,2sを螺着して締め付け、野縁7の片側の野縁リップ部7d1と取付板材2dのレ型端部を2箇所離れて締めてつぶすことで取り付ける。
【0052】
第1の金具1と第2の金具2は、野縁7及び野縁受8に固定後に第1の金具1の中央部と第2の金具2の中央部とをビス1pによって固定して一体化している。また、予め第1の金具1と第2の金具2は、ビス1pによって一体化し、野縁7及び野縁受8に固定してもよい。このように、第1の金具1と第2の金具2は、野縁7及び野縁受8に固定後に固定して一体化し、または予め第1の金具1と第2の金具2を一体化することで、第1の金具1と第2の金具2の連結補強効果が向上する。
【0053】
このように、この耐震補強金具Aでは、まず第1の金具1の板材の中央部を、設置された野縁受8を略コの字型に折曲げて保持し、略コの字型に折り曲げられた第1の金具1の板材により野縁受8を挟持するとともに、野縁7を野縁受8に野縁受8の軸方向に滑って横移動しないようにする。第2の金具2の止め板材2aと、取付板材2dとにより野縁受8と第1の金具1の板材とを抱きかかえるように略コの字型に挟み込み、野縁受8を跨いだ両側において止め板材2aと取付板材2dとで挟み込んで1組の野縁リップ部取付ボルト2f,2gにナット2r,2sを螺着して締め付け、野縁7の片側の野縁リップ部7d1と取付板材2dのレ型端部を2箇所離れて締めつぶすことで取り付ける。これにより、第2の金具2と野縁7で、第1の金具1と野縁受8とを閉じた輪として強固に囲い込んで取付けることができる。
【0054】
また、両側から略コの字型の止め板材2aと、取付板材2dとで、野縁7の片側の野縁リップ部7d1を挟み込んで、1組の野縁リップ部取付ボルト2f,2gにナット2r,2sを螺着して締め付け、野縁7の片側の野縁リップ部7d1と取付板材2dのレ型端部を2箇所離れて締めつぶすことで、止め板材2aと取付板材2dの摩擦力と野縁リップ部7d1を締めつぶす機械的な拘束力を発揮し、斜めブレース30、40から生じるせん断力を地震時に確実に受け止めることができる。また、野縁受8の方向のせん断力は、第1の金具1の板材の切欠き1fを野縁7の一対の野縁リップ部7d1,7b2に嵌合して保持し、さらに野縁受8を挟み込んで野縁受取付用ボルト1eの先端部1e1が野縁受8の基部8aを押圧して締め付けることで、野縁7に確実に伝達される。
【0055】
また、第1の金具1には、斜めブレース30を2方向V型に取り付け、第2の金具2には、斜めブレース40を2方向V型に取り付けているが、第1の金具1または第2の金具2の少なくとも一方に、ブレースを2方向V型に取り付けることができる。また、第1の金具1または第2の金具2の少なくとも一方に、斜めブレースを2方向V型の少なくとも片側に取り付けることができ、より効果的にブレースを機能させることで地震力を確実に野縁と天井面材に伝達し、耐震性能を付与することが可能である。
【0056】
また、耐震補強金具Aは、野縁7と野縁受8の交差部で、野縁受8に取り付けられる第1の金具1と、野縁7に取り付けられる第2の金具2により構成され、少ない構成部材で、天井下地の野縁7と野縁受8の交差部に簡単かつ確実に設置することができ、野縁7と野縁受の交差部を強固に取り付けるとともに、地震力を、簡便かつ確実に野縁7と天井面材に伝達し、耐震性能を付与することが可能である。さらに、所定の斜めブレース30,40を設けることで、より効果的にブレースを機能させることで地震力を確実に野縁7と天井面材に伝達し、耐震性能を付与することが可能である。
【0057】
このように、耐震補強金具Aは、斜めブレース30,40に生じる水平地震力に抵抗する力を直接野縁7または、野縁7にビス固定された天井面材(ボード等)に伝達することが必要となるが、第1の金具1と、第2の金具2とからなる少ない構成部材で斜めブレース30,40に生じる地震力を、既存天井を存置したまま、簡便かつ確実に野縁と天井面材(ボード等)に伝達し、耐震補強を実現することができる。
【0058】
また、野縁方向の荷重に対しては、斜めブレース40を取付ける第2の金具2の止め板材2aを野縁7そのものに沿わせて設置し、そのせん断力は野縁7の片側の野縁リップ部7d1に取付板材2dのレ型端部を引っ掛けて重なるようにし、両側からコの字型の止め板材2aと取付板材2dで挟み込んで1組の野縁リップ部取付ボルト2f,2gにナット2r,2sを螺着して締め付け、野縁7の野縁リップ部7d1と取付板材2dのレ型端部を2箇所離れて締めつぶすことで確実に取付けることで得られる材間摩擦力と、締め付け力による野縁7の野縁リップ部7d1のリップ形状を局部的に変形させることによって得られる機械的な拘束力と、野縁7の野縁リップ部7d1のリップ形状の一部に止め板材2aと一体となったレ型端部を有する取付板材2dを止め板材2aの両側に挟み込んで得られる金具全体の回転変形を拘束する効果を発揮させることで確保し、野縁7自体にビス孔等の欠損を与えないで実現させることができる。
【0059】
野縁受8方向の荷重に対しては、野縁受8を第1の金具1の板材により挟み込んで野縁受固定用ボルト1eの先端部1e1が野縁受8の基部8aを押圧して締め付けることで、部材間の摩擦力と回転拘束を得て、合せて第1の金具1を、野縁受8に跨るように乗せ、下部の切欠き1fを野縁7の一対の野縁リップ部7d1,7b2に嵌合させて直交する野縁7を嵌め込むことで拘束力を発揮することができる。
【0060】
この実施の形態では、斜めブレース30,40は、その上端を隣接する吊ボルト5の上部スラブ端基部に既応の一対の斜め補強取付金物31,41を利用して取付け、新たなアンカーは必要としない。V型1対を基本組み合わせで平面XY両軸方向にそれぞれもしくは、組み合わせて設置して吊ボルト5に圧縮力を与えることなく水平力を負担することができる。この斜めブレース30,40は、軸圧縮力により座屈を生じない断面性能を有する既製の形鋼を使用することができる。
【0061】
また、斜めブレース30,40は用いないで、野縁6と野縁受8の交差部に耐震補強金具Aを備え、耐震補強金具Aを備えることで天井スラブまたは梁を含む建物の構造体50から吊ボルトにより吊持された野縁6及び野縁受8を備える天井下地構造を補強することもできる。また、耐震補強金具Aは、野縁6と野縁受8の交差部で取り付けるようにしているが、野縁7と野縁受8の交差部で取り付けるようにしてもよい。
【0062】
この耐震補強金具Aの第1の金具1は、野縁受8に跨るように配置して野縁7に嵌合させ、第2の金具2は、野縁8の野縁リップ部を挟み、かつ第1の金具1に跨るように配置して野縁8の野縁リップ部に地震による天井下地構造に生じる衝撃力に対して野縁7の軸方向に変位可能に取り付け、天井下地構造に生じる衝撃力を吸収可能に構成している。このように耐震補強金具Aは、第2の金具2と野縁7で、第1の金具1と野縁受8とを閉じた輪として囲い込んで野縁7と野縁受8の交差部を強固に取付けることができ、しかも、第1の金具1は、野縁受8に跨るように配置して野縁7に嵌合させ、第2の金具2は、野縁8の野縁リップ部を挟み、これによって地震による天井下地構造に生じる衝撃力に対して、第1の金具1は野縁受8の軸方向に変位し、第2の金具2は、野縁7の軸方向に変位し、図10に示すように、衝撃力(エネルギー)を吸収することができ、天井下地構造の耐震性能を向上させることができる。すなわち、図10(a)は第2の金具2を野縁8の野縁リップ部にビスで固定した場合の衝撃力(エネルギー)を吸収し、図10(b)は第2の金具2を野縁8の野縁リップ部に挟み固定した場合の衝撃力(エネルギー)を吸収したが、図10(b)の場合は、第2の金具2と野縁8の野縁リップ部とがスベリ変位することで、図10(a)の場合と比較して大きな衝撃力(エネルギー)を吸収することができる。
【0063】
この耐震補強金具Aの天井下地構造に生じる衝撃力(エネルギー)の吸収を、図11および図12の実施例の実験例と、図13及び図14の比較例の実験例と比較して説明する。図11および図12の実施例の実験例は、図1乃至図9に示す耐震補強金具Aを用いた天井を模擬した試験体にエルセントロ3D地震波300%を入力し、天井の慣性力と変位との関係を測定した結果を示し、図13及び図14の比較例の実験例は、従来の耐震補強金具を用いた天井を模擬した試験体にエルセントロ3D地震波300%を入力し、天井の慣性力と変位との関係を測定した結果を示す。エルセントロ地震波は、1940年、米国カリフォルニア州で発生したマグニチュード7.1の大規模な地震の時にエルセントロの観測所で記録された観測波のことであり、3Dとは三次元を意味し、平面状の南北方向、東西方向の2方向、高さ方向の振動を行っていることを意味し、300%とは観測波の加速度(エネルギー)の3倍を意味している。図11乃至図14において、X方向は、野縁の軸方向を示し、Y方向は、野縁受の軸方向を示す。
【0064】
天井を模擬した試験体の天井構造は、天井面は、下地板に貼り紙や塗装等の細工をして仕上がっており、下地板は、石膏やセメントやロックウール(非結晶ガラス質繊維)でできた板で、実験では一番重い石膏ボードを使用した。下地板の取付は、建物を支える骨組み(躯体)へ、薄型軽量の直線鋼製材(野縁や野縁受)と吊り材を使用して行った。
【0065】
この下地板の取付順序は、
第1に、まず、石膏ボードに野縁といわれる直線鋼製材をビスで止め、
第2に、その野縁を野縁受で直角方向にクリップ止めし、
第3に、その野縁受は、ハンガーにより吊り材に取付けられ、
第4に、吊り材の上部は躯体に緊結されている。
【0066】
なお、施工するときは順序が逆である。
この天井を模擬した試験体の天井構造に、実施例の耐震補強金具を取り付け、天井面のゆれを防止するため斜材を設けた。
【0067】
従来の耐震補強金具は、第1の部品を野縁に対して、両側から挟み込んで取り付け、 これに斜材を付けることにより野縁方向の地震のゆれに直接対抗させた。次に、第1の部品に直交させた第2の部品で、野縁受を包むように配し、天井ボードにビスで直接取付けられている野縁に対して跨ぐように嵌合させて取り付けた。この第2の部品に、斜材を付けることにより野縁受け方向の地震のゆれに直接対抗させた。
【0068】
図11および図12の実施例の実験例と、図13及び図14の比較例の実験例とにおいて、波形の傾きが剛性を表しており、実施例の実験例は、比較例の実験例に対して剛性すなわち傾きが10倍〜20倍と大幅に改善した。また、実施例の実験例は、天井面に生じた最大耐力も、2000Nから4000N,6000Nへ、最大では8000Nと、比較例の実験例に対して3倍以上性能が向上した。この実施例の実験例では、第2の金具2と野縁7で、第1の金具1と野縁受8とを閉じた輪として囲い込んで野縁7と野縁受8の交差部を強固に取り付け、しかも、第1の金具1は、野縁受8に跨るように配置して野縁7に嵌合させ、第2の金具2は、野縁8の野縁リップ部を挟み、図10で説明したように、滑りX方向及びY方向に変位することで、大きな衝撃力(エネルギー)を吸収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
この発明は、例えば大空間などの既存建物の、在来工法による軽量鉄骨造の天井下地構造に耐震性能を付与することができ、また新築建物の天井下地構造の耐震補強としても適用可能な天井下地材の耐震補強金具及びその取付方法に適用でき、天井下地の野縁と野縁受の交差部に設置し、地震に対して補強すると共に、衝撃力を吸収して耐震性能を付与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】在来工法による軽量鉄骨造の天井下地構造の概略を説明するための斜視図で ある。
【図2】耐震補強金具の取付状態を示す斜視図である。
【図3】第1の金具の斜視図である。
【図4】第2の金具の斜視図である。
【図5】耐震補強金具の取付状態を示す平面図である。
【図6】図5をイ方向から見た図である。
【図7】図5をロ方向から見た図である。
【図8】図5をハ方向から見た図である。
【図9】図5をニ方向から見た図である。
【図10】第2の金具を野縁の野縁リップ部にビスで固定した場合と、挟み固定した場合の衝撃力(エネルギー)吸収を説明する図である。
【図11】実施例の実験例の天井中心のX方向変位と、X方向慣性力との関係を示す図である。
【図12】実施例の実験例の天井中心のY方向変位と、Y方向慣性力との関係を示す図である。
【図13】比較例の実験例の天井中心のX方向変位と、X方向慣性力との関係を示す図である。
【図14】比較例の実験例の天井中心のY方向変位と、Y方向慣性力との関係を示す図である。
【図15】従来の天井耐震補強の例を示す図である。
【図16】従来の天井耐震補強の例を示す図である。
【図17】従来の天井耐震補強の例を示す図である。
【図18】従来の天井耐震補強の例を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
A 補強金具
1 第1の金具
1b,1c 折り曲部
1d ナット
1e 野縁受固定用ボルト
1f 切欠き
2 第2の金具
2a 止め板材
2d 固定板材
2f,2g 野縁リップ部固定ボルト
5 吊ボルト
6,7 野縁
7a 基部 7b1,7b2 屈曲部
7c 開口
7d1,7b2 野縁リップ部
8a 基部
8b1,8b2 屈曲部
8c 開口
8d1,8d2 フランジ部
20 構造体
30 斜めブレース
31 斜め補強取付金物
40 斜めブレース
41 斜め補強取付金物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井スラブまたは梁を含む建物の構造体から吊持された野縁及び野縁受を備える天井下地構造を前記野縁と前記野縁受の交差部で補強する耐震補強金具であって、
前記野縁受に取り付けられる第1の金具と、前記野縁に取り付けられる第2の金具と、により構成され、
第1の金具は、前記野縁受に跨るように配置して前記野縁に嵌合させ、地震による前記天井下地構造に生じる衝撃力に対して前記野縁受の軸方向に変位可能に取り付け、
前記第2の金具は、前記野縁の野縁リップ部を挟み、かつ前記第1の金具に跨るように配置して前記野縁の野縁リップ部に地震による前記天井下地構造に生じる衝撃力に対して
前記野縁の軸方向に変位可能に取り付け、
前記天井下地構造に生じる衝撃力を吸収可能に構成したことを特徴とする耐震補強金具。
【請求項2】
前記第1の金具は、前記野縁受の水平幅に嵌合するように板材の中央部を略コの字型に折曲げ、前記野縁受を挟み込んで、前記板材の下端部に形成した切欠きを前記野縁に嵌合して保持し、野縁受固定用ボルトを前記板材に螺着してボルト先端を前記野縁受に当接して締め付け、
前記第2の金具は、前記第1の金具に跨るように形成した略コの字型であり、両側部に折曲げリブを有する止め板材と、前記第1の金具に跨るように形成した略コの字型であり、端部がレ型に折曲げられた取付板材と、それらを貫通する複数の野縁リップ部取付ボルトと、を有し、
前記止め板材と前記取付板材とを、前記野縁の片側の野縁リップ部を挟み、かつ前記第1の金具の前記板材に跨るように配置し、
前記板材を跨ぐ両側において、前記野縁の片側の野縁リップ部に前記取付板材のレ型端部を引っ掛け、前記止め板材と前記取付板材とを前記複数の野縁リップ部取付ボルトにより締め付けることを特徴とする請求項1に記載の耐震補強金具。
【請求項3】
前記第1の金具は、前記板材の下端部には野縁幅の切欠きが、野縁底部まで嵌合するように形成され、
前記切欠きを、前記野縁に嵌合して保持することを特徴とする請求項2に記載の耐震補強金具。
【請求項4】
前記第1の金具は、前記板材の上部中央部を切り起こして一体で立ち上げた立ち起し部を有し、
前記立ち起し部により前記第2の金具と固定したことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の耐震補強金具。
【請求項5】
前記取付板材に雌ねじを形成し、座金を介して前記野縁リップ部取付ボルトにより前記取付板材に螺着することを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の耐震補強金具。
【請求項6】
前記第1の金具または前記第2の金具の少なくとも一方に、少なくとも上端片側に側部を切り落とした切り欠き部が形成されていることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載の耐震補強金具。
【請求項7】
前記第1の金具または前記第2の金具の少なくとも一方に、斜めブレースを2方向V型
の少なくとも片側に取り付けるためのブレース取付用ボルト孔が開口されていることを特徴とする請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載の耐震補強金具。
【請求項8】
天井スラブまたは梁を含む建物の構造体から吊持された野縁及び野縁受を備える天井下地構造を前記野縁と前記野縁受の交差部で補強する耐震補強金具の取付方法であって、
第1の金具を前記野縁受に跨るように配置して前記野縁に嵌合させ、地震による前記天井下地構造に生じる衝撃力に対して前記野縁受の軸方向に変位可能に取り付け、
前記第2の金具を、前記野縁の野縁リップ部を挟み、かつ前記第1の金具に跨るように配置して前記野縁の野縁リップ部に地震による前記天井下地構造に生じる衝撃力に対して
前記野縁の軸方向に変位可能に取り付け、
前記天井下地構造に生じる衝撃力を吸収可能にしたことを特徴とする耐震補強金具の取付方法。
【請求項9】
前記第1の金具の板材を前記野縁受に跨るように配置し、前記板材の下部の切り込みを
前記野縁に嵌合させ、野縁受取付用ボルトを前記板材に螺着してボルト先端を前記野縁受に当接して締め付け、
前記第2の金具の前記止め板材と前記取付板材とを、前記野縁の片側の野縁リップ部を挟み、かつ前記第1の金具の前記板材に跨るように配置し、
前記板材を跨ぐ両側において、前記野縁の片側の野縁リップ部に前記取付板材のレ型
端部を引っ掛け、
前記止め板材と前記取付板材とを前記複数の野縁リップ部取付ボルトにより締め付けることを特徴とする請求項8に記載の耐震補強金具の取付方法。
【請求項10】
前記第1の金具または前記第2の金具の少なくとも一方に、斜めブレースを2方向V型の少なくとも片側に取り付けることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の耐震補強金具の取付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−243228(P2009−243228A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93524(P2008−93524)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【出願人】(502306903)八潮建材工業株式会社 (18)