説明

耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性に優れたクロメートフリー表面処理金属材

【課題】従来のクロメートフリー技術では達成困難であった耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足するクロムフリー表面処理を施した金属材を提供する。
【解決手段】金属材表面に、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる有機ケイ素化合物(W)と、チタン弗化水素酸またはジルコニウム弗化水素酸から選ばれる少なくとも1種のフルオロ化合物(X)と、りん酸(Y)と、バナジウム化合物(Z)からなる水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより、各成分を含有する複合皮膜を形成しているクロメートフリー表面処理金属材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性に優れたクロメートフリー表面処理を施した金属材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に金属材料表面への密着性に優れ、金属材料表面に耐食性や耐指紋性などを付与する技術として、金属材料表面に、クロム酸、重クロム酸又はそれらの塩を主成分として含有する処理液によりクロメート処理を施す方法、リン酸塩処理を施す方法、シランカップリング剤単体による処理を施す方法、有機樹脂皮膜処理を施す方法、などが知られており、実用に供されている。
【0003】
主として無機成分を用いる技術としては、特許文献1に、バナジウム化合物と、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン及びセリウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物とを含有する金属表面処理剤が挙げられている。
【0004】
一方、主としてシランカップリング剤を使用する技術としては、特許文献2に、一時的な防食効果を得るため、低濃度の有機官能シランおよび架橋剤を含有する水溶液による金属板の処理が教示されている。架橋剤が有機官能シランを架橋することによって、緻密なシロキサン・フィルムを形成する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、特定の樹脂化合物(A)と、第1〜3アミノ基及び第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂(B)と、特定の反応性官能基を有する1種以上のシランカップリング剤(C)と、特定の酸化合物(E)とを含有し、且つカチオン性ウレタン樹脂(B)及びシランカップリング剤(C)の含有量が所定の範囲内である表面処理剤を用いて、耐食性に優れ、さらに耐指紋性、耐黒変性および塗装密着性に優れたノンクロム系表面処理鋼板及びその製造方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの技術は耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性および加工時の耐黒カス性の全てを満足するものではなく、実用化に至って依然として問題を抱えている。
【0007】
このようにいずれの方法でもクロメート皮膜の代替として使用できるような表面処理剤を得られていないのが現状であり、これらを総合的に満足できる表面処理剤および処理方法の開発が強く要求されているのである。
【0008】
【特許文献1】特開2002−30460号公報
【特許文献2】米国特許第5,292,549号明細書
【特許文献3】特開2003−105562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術の有する前記課題を解決して、耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足するクロメートフリー表面処理を施した金属材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはこれらの問題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた結果、金属材表面に、特定のシランカップリング剤2種類を特定の固形分質量比で配合して得られる、分子内に特定の官能基を2個以上と、特定の親水性官能基を1個以上含有する有機ケイ素化合物(W)と、フルオロ化合物(X)と、りん酸(Y)と、バナジウム化合物(Z)からなる水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成することで、耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足するクロメートフリー表面処理金属材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、金属材表面に、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる、分子内に式−SiR123(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)を1個以上含有し、平均の分子量が1000〜10000である有機ケイ素化合物(W)と、チタン弗化水素酸またはジルコニウム弗化水素酸から選ばれる少なくとも1種のフルオロ化合物(X)と、りん酸(Y)と、バナジウム化合物(Z)からなる水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成し、且つ、その複合皮膜の各成分において、有機ケイ素化合物(W)とフルオロ化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02〜0.07であり、有機ケイ素化合物(W)とりん酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03〜0.12であり、有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.05〜0.17であり、且つ、フルオロ化合物(X)とバナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(X)〕が1.3〜6.0であることを特徴とする表面処理金属材に関する。
【0012】
上記水系金属表面処理剤は、さらに成分(C)として、皮膜中に硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物を、前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕が0.01〜0.1の割合で含有することが好ましい。
【0013】
上記表面処理金属材は、金属材の表面に、上記水系金属表面処理剤を塗布し、50℃より高く250℃未満の到達温度で乾燥を行い、乾燥後の皮膜重量が0.05〜2.0g/m2であることが好ましい。
【0014】
上記金属材は亜鉛系めっき鋼板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表面処理金属材は、耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において適用可能な金属材としては特に限定されるものではなく、例えば、鉄、鉄基合金、アルミニウム、アルミニウム基合金、銅、銅基合金等を挙げられ、任意に金属材上にめっきしためっき金属材を使用することもできる。中でも本発明の適応において最も好適なものは亜鉛系めっき鋼板である。亜鉛系めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板、亜鉛−鉄めっき鋼板、亜鉛−クロムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−チタンめっき鋼板、亜鉛−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−マンガンめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコンめっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板、さらにはこれらのめっき層に少量の異種金属元素又は不純物としてコバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等を含有したもの、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたものが含まれる。更には以上のめっきと他の種類のめっき、例えば鉄めっき、鉄−りんめっき、ニッケルめっき、コバルトめっき等と組み合わせた複層めっきも適用可能である。めっき方法は特に限定されるものではなく、公知の電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等のいずれの方法でもよい。
【0017】
本発明のクロメートフリー表面処理金属材の水系金属表面処理剤の必須成分である有機ケイ素化合物(W)は、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られるものである。シランカップリング剤(A)とシランカップリング剤(B)の配合比率としては、固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7である必要があり、0.7〜1.7が好ましく、0.9〜1.1であることが最も好ましい。固形分質量比〔(A)/(B)〕が0.5未満であると、耐指紋性および浴安定性、耐黒カス性が著しく低下するため好ましくない。逆に1.7を超えると、耐水性が著しく低下するため好ましくない。
【0018】
また、本発明中における前記分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)としては、特に限定するものではないが、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどを例示することができ、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを例示することができる。
【0019】
また、本発明の有機ケイ素化合物(W)の製造方法は、特に限定するものではないが、pH4に調整した水に、前記シランカップリング剤(A)と、前記シランカップリング剤(B)を順次添加し、所定時間攪拌する方法が挙げられる。
【0020】
本発明の必須成分である有機ケイ素化合物(W)における官能基(a)の数は2個以上であることが必要である。官能基(a)の数が1個である場合には、金属材料表面に対する密着力および造膜性が低下するため、耐黒カス性が低下する。官能基(a)のR1、R2及びR3の定義におけるアルコキシ基の炭素数は特に制限されないが1から6であるのが好ましく、1から4であるのがより好ましく、1又は2であるのがもっとも好ましい。官能基(b)の存在割合としては、1分子内一個以上であればよい。有機ケイ素化合物(W)の平均の分子量は1000〜10000であることが必要であり、1300〜6000であることが好ましい。ここでいう分子量は、特に限定するものではないが、TOF−MS法による直接測定およびクロマトグラフィー法による換算測定のいずれかを用いて良い。平均の分子量が1000未満であると、形成された皮膜の耐水性が著しく低くなる。一方、平均の分子量が10000より大きいと、前記有機ケイ素化合物を安定に溶解または分散させることが困難になる。
【0021】
また、本発明の必須成分であるフルオロ化合物(X)の配合量に関しては、前記有機ケイ素化合物(W)とフルオロ化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02〜0.07である必要があり、0.03〜0.06が好ましく、0.04〜0.05であることが最も好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とフルオロ化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02未満であると、添加効果が発現しないため好ましくない。逆に0.07より大きいと導電性が低下するため好ましくない。
【0022】
また、本発明の必須成分であるりん酸(Y)の配合量に関しては、前記有機ケイ素化合物(W)とりん酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03〜0.12である必要があり、0.05〜0.12であることが好ましく、0.09〜0.1であることが最も好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とりん酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03未満であると添加効果が発現しないため好ましくない。逆に0.12を超えると、皮膜の水溶化が著しくなるため好ましくない。
【0023】
また、本発明の必須成分であるバナジウム化合物(Z)の配合量に関しては、前記有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.05〜0.17である必要があり、0.07〜0.15であることが好ましく、0.09〜0.14であることがさらに好ましく、0.11〜0.13であることが最も好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.05未満であると添加効果が発現しないため好ましくない。逆に0.17を超えると、安定性が極めて低下するため好ましくない。
【0024】
また、本発明中におけるバナジウム化合物(Z)としては、特に限定するものではないが、五酸化バナジウムV25、メタバナジン酸HVO3、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウムVOCl3、三酸化バナジウムV23、二酸化バナジウムVO2、オキシ硫酸バナジウムVOSO4、バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH2)CH2COCH3))2、バナジウムアセチルアセトネートV(OC(=CH2)CH2COCH3))3、三塩化バナジウムVCl3、リンバナドモリブデン酸などを例示することができる。また、5価のバナジウム化合物を水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1〜3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物により、4価〜2価に還元したものも使用可能である。
【0025】
また、本発明の必須成分であるフルオロ化合物(X)とバナジウム化合物(Z)の配合量に関しては、前記フルオロ化合物(X)とバナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(X)〕が1.3〜6.0である必要があり、1.3〜3.5であることが好ましく、2.5〜3.3であることがさらに好ましく、2.8〜3.0であることが最も好ましい。前記フルオロ化合物(X)とバナジウム化合物(Z)固形分質量比〔(Z)/(X)〕が1.3未満であるとバナジウム化合物(Z)の添加効果が発現しないため好ましくない。逆に6.0を超えると、浴安定性、耐黒カス性が低下するため好ましくない。
【0026】
本発明の添加成分であるコバルト化合物(C)は、硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物である必要がある。また、その配合比率は、前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕が0.01〜0.1である必要があり、0.02〜0.07であることが好ましく、0.03〜0.05であることが最も好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕が0.01未満であると、コバルト化合物(C)の添加効果が発現しないため好ましくない。逆に0.1より大きいと耐食性が低下するため好ましくない。
【0027】
本発明の表面処理金属材は、前記水系金属表面処理剤を塗布し、50℃より高く250℃未満の到達温度で乾燥を行い、乾燥後の皮膜重量が0.05〜2.0g/m2であることが好ましい。乾燥温度については、到達温度で50℃より高く250℃未満であることが好ましく、70℃〜150℃であることが更に好ましく、100℃〜140℃であることが最も好ましい。到達温度が50℃以下であると、該水系金属表面処理剤の溶媒が完全に揮発しないため好ましくない。逆に250℃以上となると、該水系金属表面処理剤にて形成された皮膜の有機鎖の一部が分解するため好ましくない。皮膜重量に関しては、0.05〜2.0g/m2であることが好ましく、0.2〜1.0g/m2であることが更に好ましく、0.3〜0.6g/m2であることが最も好ましい。皮膜重量が0.05g/m2未満であると、該金属材の表面を被覆できないため耐食性が著しく低下するため好ましくない。逆に2.0g/m2より大きいと、加工時の耐黒カス性が低下するため好ましくない。
【0028】
本発明に用いる水系金属表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、塗工性を向上させるためのレベリング剤や水溶性溶剤、金属安定化剤、エッチング抑制剤およびpH調整剤などを使用することが可能である。レベリング剤としては、ノニオンまたはカチオンの界面活性剤として、ポリエチレンオキサイドもしくはポリプロピレンオキサイド付加物やアセチレングリコール化合物などが挙げられ、水溶性溶剤としてはエタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールおよびプロピレングリコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのセロソルブ類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトン類が挙げられる。金属安定化剤としては、EDTA、DTPAなどのキレート化合物が挙げられ、エッチング抑制剤としては、エチレンジアミン、トリエチレンペンタミン、グアニジンおよびピリミジンなどのアミン化合物類が挙げられる。特に一分子内に2個以上のアミノ基を有するものが金属安定化剤としても効果があり、より好ましい。pH調整剤としては、酢酸および乳酸などの有機酸類、フッ酸などの無機酸類、アンモニウム塩やアミン類などが挙げられる。
【0029】
本発明の表面処理金属材は、耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足する。この理由は以下のように推測されるが、本発明はかかる推測に縛られるものではない。本発明に用いる水系金属表面処理剤を用いて形成される皮膜は主に有機ケイ素化合物によるものである。まず、耐食性は、前記有機ケイ素化合物の1部が乾燥などにより濃縮されたときに前記有機ケイ素化合物が互いに反応して連続皮膜を成膜すること、前記有機ケイ素化合物の1部が加水分解して生成した−Si−OH基が金属表面とSi−O−M結合(M:被塗物表面の金属元素)を形成することにより、著しいバリアー効果を発揮することによると推定される。また、緻密な皮膜形成が可能なため皮膜の薄膜化が可能となり、導電性も良好になる。
【0030】
一方、本発明の水系金属表面処理剤を用いた皮膜はケイ素を基盤として形成され、その構造については、ケイ素−有機鎖の配列が規則的であり、また有機鎖が比較的短いことから、皮膜中の極めて微小な区域に、規則的かつ緻密にケイ素含有部と有機物部、すなわち無機物と有機物が配列しており、そのため、無機系皮膜が通常有する耐熱性、導電性および加工性時の耐黒カス性、有機系皮膜が通常有する耐指紋性や塗装性などを併せ持つ新規な皮膜の形成が可能になると推定される。なお、皮膜中のケイ素含有部においては、ケイ素の約80%がシロキサン結合を形成していることが分析で確認されている。
【0031】
このようなベース皮膜に、耐食性付与の目的から、エッチング反応により生じる被処理金属表面極近傍におけるpH上昇によって緻密な皮膜を形成するフルオロ化合物、溶出性インヒビターとしてのりん酸、酸化還元反応によって耐食性を付与するバナジウム化合物を添加することで、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性に加え優れた耐食性を発現するものと推定される。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。試験板の調製、実施例および比較例、および金属材料用表面処理剤の塗布の方法について下記に説明する。
【0033】
試験板の調製
(1)試験素材
下記に示した市販の素材を用いた。
・電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚=0.8mm、目付量=20/20(g/m2
・溶融亜鉛めっき鋼板(GI):板厚=0.8mm、目付量=90/90(g/m2
・電気亜鉛−12%ニッケルめっき(ZL):板厚=0.8mm、目付量=20/20(g/m2
・溶融亜鉛−11%アルミニウム−3%マグネシウム−0.2%シリコンめっき(SD):板厚=0.8mm、目付量=60/60(g/m2
(2)脱脂処理
素材を、シリケート系アルカリ脱脂剤のファインクリーナー4336(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を用いて、濃度20g/L、温度60℃の条件で2分間スプレー処理し、純水で30秒間水洗したのちに乾燥したものを試験板とした。
【0034】
実施例および比較例に使用したシランカップリング剤を表1に、バナジウム化合物を表2に示し、配合例、皮膜量および乾燥温度を表3〜5に示す。
【0035】
〔評価試験〕
1.SST平面部試験
JIS Z 2371による塩水噴霧試験(SST)を120時間行い、白錆発生状況を観察した。
<評価基準>
◎=錆発生が全面積の3%未満
○=錆発生が全面積の3%以上10%未満
△=錆発生が全面積の10%以上30%未満
×=錆発生が全面積の30%以上
【0036】
2.SST加工部試験
エリクセン試験(7mm押し出し)を行った後、JIS Z 2371による塩水噴霧試験を72時間行い、白錆発生状況を観察した。
<評価基準>
◎=錆発生が全面積の10%未満
○=錆発生が全面積の10%以上20%未満
△=錆発生が全面積の20%以上30%未満
×=錆発生が全面積の30%以上
【0037】
3.耐熱性試験
オーブンにて200℃で2時間加熱後、平面部耐食性JIS Z 2371による塩水噴霧試験を48時間行い、白錆発生状況を観察した。
<評価基準>
◎=錆発生が全面積の3%未満
○=錆発生が全面積の3%以上10%未満
△=錆発生が全面積の10%以上30%未満
×=錆発生が全面積の30%以上
【0038】
4.耐指絞性試験
色差計にて、ワセリン塗布前後のL値増減(△L)を測定した。
<評価基準>
◎=△Lが0.5未満
○=△Lが0.5以上1.0未満
△=△Lが1.0以上2.0未満
×=△Lが2.0以上
【0039】
5.導電性試験
層間抵抗測定機により、層間抵抗を測定した。
<評価基準>
◎=層間抵抗が1.0Ω未満
○=層間抵抗が1.0Ω以上2.0Ω未満
△=層間抵抗が2.0Ω以上3.0Ω未満
×=層間抵抗が3.0Ω未満
【0040】
6.塗装性試験
メラミンアルキッド系塗料を焼付け乾燥後の膜厚が25μmとなるようにバーコートで塗布し、120℃で20分焼付けた後、1mm碁盤目にカットし、密着性の評価を残個数割合(残個数/カット数:100個)にて行った。
<評価基準>
◎=100%
○=95%以上
△=90%以上95%未満
×=90%未満
【0041】
7.黒カス性試験
高速深絞り試験にて、絞り比2.0で加工した場合の黒カス発生度合いを、試験前後のL値増減にて評価した。
◎=△Lが0.5未満
○=△Lが0.5以上1.0未満
△=△Lが1.0以上2.0未満
×=△Lが2.0以上
【0042】
試験結果を表6〜17に示す。実施例1〜68は、クロメートと同等の耐食性を示し、良好な耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足することがわかる。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
【表7】

【0050】
【表8】

【0051】
【表9】

【0052】
【表10】

【0053】
【表11】

【0054】
【表12】

【0055】
【表13】

【0056】
【表14】

【0057】
【表15】

【0058】
【表16】

【0059】
【表17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)金属材表面に、
(2)分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる、分子内に式−SiR123(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)を1個以上含有し、平均の分子量が1000〜10000である有機ケイ素化合物(W)と、
(3)チタン弗化水素酸またはジルコニウム弗化水素酸から選ばれる少なくとも1種のフルオロ化合物(X)と、
(4)りん酸(Y)と、
(5)バナジウム化合物(Z)
からなる水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成し、且つ、その複合皮膜の各成分において、
(6)有機ケイ素化合物(W)とフルオロ化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02〜0.07であり、
(7)有機ケイ素化合物(W)とりん酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03〜0.12であり
(8)有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.05〜0.17であり、且つ、
(9)フルオロ化合物(X)とバナジウム化合物(Z)の固形分質量比〔(Z)/(X)〕が1.3〜6.0
であることを特徴とする表面処理金属材。
【請求項2】
さらに成分(C)として、皮膜中に硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物を、前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕が0.01〜0.1の割合で含有する請求項1記載の表面処理金属材。
【請求項3】
金属材の表面に、請求項1又は2記載の水系金属表面処理剤を塗布し、50℃より高く250℃未満の到達温度で乾燥を行い、乾燥後の皮膜重量が0.05〜2.0g/m2であることを特徴とする表面処理金属材。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の金属材が亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とする表面処理金属材。

【公開番号】特開2007−51365(P2007−51365A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185753(P2006−185753)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】