説明

耐HAZ軟化性の優れた高強度電縫鋼管の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は高強度の電縫鋼管の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車管等の構造部材及び駆動伝達部材として使用される機械構造用鋼管では燃費向上のために軽量化を検討しており、その方策の一つとして高強度化することが行われている。高強度電縫鋼管の製造方法は従来2タイプがあり、一つは特開昭52−114519号公報等に記載されているような方法で、鋼板自体を高張力化し、その後電縫造管することにより製造する方法であり、もう一つは電縫造管後、調質、即ち焼き入れまたは焼き入れ焼き戻しをすることにより製造する方法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来の技術に記載の方法には上記のように2タイプがある。図3は一般的な電縫鋼管の製造工程である。一般には成形・溶接・定型したままか、その後熱処理をする。この熱処理の目的は電縫溶接部の均質化或は延性の確保のためである。しかし、本工程で高強度鋼管を製造しようとすれば、鋼板自体を高強度化し、その後電縫造管することにより製造することになり、鋼板自体が高強度であるため電縫造管時のロール成形が困難であり、そのため電縫溶接時の形状が不良となり、電縫溶接不良となる。二つ目の電縫造管後、調質、即ち焼き入れまたは焼き入れ焼き戻しをすることにより製造する方法では、調質コストが非常に高く、やむを得ない場合を除いては一般的ではない。
【0004】又、両方法の共通の問題として、管の継手溶接時或は付属品溶接時の熱影響部(HAZ)の軟化がある。本発明はこのような高強度電縫鋼管の製造方法での問題点を解決することを目的にするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨とするところは下記のとおりである。
(1) 成分組成が重量でC:0.10〜0.65%、Si:0.05〜0.60%、Mn:0.25〜2.0%、Ti:0.020〜0.150%、Mo:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.1%、V:0.01〜0.1%を含み、残部Fe及び不可避的元素よりなる電縫鋼管の製造方法において、管用鋼材の熱間板厚圧延時に400〜600℃又は700〜750℃にて巻取り、造管後600〜700℃で熱処理をすることを特徴とする耐HAZ軟化性の優れた高強度電縫鋼管の製造方法。
【0006】(2) 成分組成が重量でC:0.10〜0.65%、Si:0.05〜0.60%、Mn:0.25〜2.0%、Ti:0.020〜0.150%、Mo:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.1%、V:0.01〜0.1%を含み、残部Fe及び不可避的元素よりなる電縫鋼管の製造方法において、管用鋼材の熱間板厚圧延時に400〜600℃又は700〜750℃にて巻取り、次いで冷間板厚圧延または造管オンライン冷間板厚圧延を施し、造管後600〜700℃で熱処理をすることを特徴とする耐HAZ軟化性の優れた高強度電縫鋼管の製造方法。
【0007】以下に本発明を詳細に説明する。図1に請求項1の製造工程を示す。従来の工程では前述したように高強度鋼管を製造しようとすれば、鋼板自体を高強度化し、その後電縫造管する方法を採るが、このような方法では鋼板自体が高強度であるため電縫造管時のロール成形が困難であり、そのため電縫溶接時の形状が不良となり、電縫溶接不良となる。
【0008】これに対して、本発明では鋼板自体は成形可能な柔らかい材質とし、造管後の熱処理温度を制御することにより、高強度鋼管を製造しようとするものである。そこでまず本発明に使用する鋼板の成分について説明する。Cは少なければ延性が良好であり、加工性に優れているが、所要の強度を得られないことから下限を0.10%とした。又、0.65%を超えると造管時の成形性等の冷間加工性及び靱性が低下する傾向にあり、又、電縫鋼管の造管溶接時に熱影響部が硬化し、加工性が低下することから、上限を0.65%とした。
【0009】Siはキルド鋼の場合、0.05%未満におさえることは製鋼技術上難しく、他方、0.60%を超えると延靱性に悪影響を及ぼすと共にスケール生成による表面性状の悪化の点から、0.60%を上限とした。Mnについては、強度面から0.25%未満では強度不足となり、2.0%を超えると造管時の成形加工等の加工時に延靱性の不足から亀裂が発生することがあることから、下限を0.25%、上限を2.0%とした。
【0010】Tiは高強度化のための重要な元素であるが、0.020%未満では強度不足となり、0.150%を超えて添加しても効果の向上のないことから、下限を0.020%、上限を0.150%とした。Moは管同士の継ぎ手溶接時の軟化を防ぐための重要な元素であるが、0.01%未満では耐軟化性に効果がなく、0.5%を超えて添加する必要もないことから、下限を0.01%、上限を0.5%とした。
【0011】Nbも溶接時の軟化を防ぐための重要な元素であるが、0.01%未満では耐軟化性に効果がなく、0.1%を超えて添加する必要もないことから、下限を0.01%、上限を0.1%とした。Vも溶接時の軟化を防ぐための重要な元素であるが、0.01%未満では耐軟化性に効果がなく、0.1%を超えて添加する必要もないことから、下限を0.01%、上限を0.1%とした。
【0012】次に上記成分の鋼を熱間板厚圧延時に400〜600℃又は700〜750℃にて巻取る。これはTiの析出効果を防いでなるべく柔らかい材質にするためであり、400℃未満ではTiの析出効果は少ないものの、却って冷却速度が速くなるので強度が上昇し、靱性も低下する。600超〜700℃未満はTiの析出効果が最も存在するところである。750℃超は製造上不可能である。よって、上記成分の鋼を熱間板厚圧延時に400〜600℃又は700〜750℃にて巻取ることによって、Tiの析出効果の少ない、比較的柔らかい材質となる。
【0013】この後、造管するが比較的柔らかい材質のため、従来問題であった成形・溶接上の問題は全くなく、高品質の電縫鋼管を造管することができる。次に造管後の熱処理であるが、ここでTiの析出効果を出させる。すなわち、600〜700℃で熱処理を行う。600℃未満ではTiが過時効し、700℃超ではTiが十分析出せず、いずれも効果が得られない。
【0014】以上請求項1について説明したが、請求項2記載の方法でもよい。図2に請求項2記載の工程を示す。請求項1記載の工程における熱間板厚圧延後に、冷間板厚圧延ないしは造管オンライン冷間板厚圧延を付加している。このように熱間板厚圧延後に冷間板厚圧延ないしは造管オンライン冷間板厚圧延を付加することにより、加工硬化し、更に高強度な鋼管を製造することができる。
【0015】
【実施例】表1〜表4に、従来法、比較法及び本発明法(請求項1および2による方法)により、サイズ φ101.6 × t4.4の高強度電縫鋼管を製造した例を示す。
【0016】
【表1】


【0017】
【表2】


【0018】
【表3】


【0019】
【表4】


【0020】
【発明の効果】従来の工程で高強度鋼管を製造しようとすれば、鋼板自体を高強度化し、その後電縫造管することにより製造することになり、鋼板自体が高強度であるため電縫造管時のロール成形が困難であり、そのため電縫溶接時の形状が不良となり、電縫溶接不良となっていたが、本発明の方法を適用することで、成形・溶接上の問題なしに、かつ経済的にHAZ高強度電縫鋼管を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1の製造工程を示す図である。
【図2】請求項2の製造工程を示す図である。
【図3】従来の製造工程を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 成分組成が重量でC:0.10〜0.65%、Si:0.05〜0.60%、Mn:0.25〜2.0%、Ti:0.020〜0.150%、Mo:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.1%、V:0.01〜0.1%を含み、残部Fe及び不可避的元素よりなる電縫鋼管の製造方法において、管用鋼材の熱間板厚圧延時に400〜600℃又は700〜750℃にて巻取り、造管後600〜700℃で熱処理をすることを特徴とする耐HAZ軟化性の優れた高強度電縫鋼管の製造方法。
【請求項2】 成分組成が重量でC:0.10〜0.65%、Si:0.05〜0.60%、Mn:0.25〜2.0%、Ti:0.020〜0.150%、Mo:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.1%、V:0.01〜0.1%を含み、残部Fe及び不可避的元素よりなる電縫鋼管の製造方法において、管用鋼材の熱間板厚圧延時に400〜600℃又は700〜750℃にて巻取り、次いで冷間板厚圧延または造管オンライン冷間板厚圧延を施し、造管後600〜700℃で熱処理をすることを特徴とする耐HAZ軟化性の優れた高強度電縫鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】第2540088号
【登録日】平成8年(1996)7月8日
【発行日】平成8年(1996)10月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−77998
【出願日】平成3年(1991)4月10日
【公開番号】特開平4−311526
【公開日】平成4年(1992)11月4日
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【参考文献】
【文献】特開平4−311525(JP,A)