説明

耕耘爪および耕耘爪に着脱される刃部

【課題】 耕耘爪の交換に伴う使用者の負担を軽減でき、素材の選択の範囲を拡げることができる耕耘爪と、この耕耘爪に着脱される刃部とを提供する。
【解決手段】 基端部110に耕耘機等の回転軸に着脱自在に固定される取付部120を有し、前記基端部110から先端部130に向かって所定形状に延びるほぼ板状の本体部140と、該本体部140の先端側から基端側に向かって設けられた耕耘のための刃部150とからなり、該刃部150がボルト160とナット162によって、本体部140に着脱自在に取り付けられる。刃部150が摩耗したら、刃部150のみを交換することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耕耘機やトラクター(ここでは「耕耘機等」という)に使用される耕耘爪に関する。
【背景技術】
【0002】
耕耘機等は、サイドドライブやセンタードライブなどの駆動方式で回転する回転軸を有し、この回転軸の長手方向に適当な間隔で複数の固定座を形成し、各固定座に耕耘爪の基端部に形成された取付部をボルト等で固定している。これらの耕耘爪は、ほぼ板状で、取付部のある基端部から先端部までが、設計された所定の立体的な曲線形状をしており、回転軸を中心として放射方向に延び、回転軸の回転に伴い、土を掘り起こしたり、ワラや堆肥をすき込んだりする。
【0003】
このような耕耘爪は、先端部から基端部側の途中までの部分に、土を掘り起こすためのすくい面(以下「刃部」という)を有するが、耕耘爪の使用に伴い、この刃部が摩耗していく。そして、摩耗がある程度まで達すると、土を耕す能率が低下するので、新しい耕耘爪と交換することになる。交換周期が短いと、使用者の負担が大きくなるので、耕耘爪の刃部の摩耗を少なくして、耕耘爪の寿命を延ばすことが要請されていた。
【0004】
このような要請に対し、耕耘爪の摩耗の激しい部分である刃部に硬質合金をコーティングしたものが提案されている(非特許文献1)。
【0005】
図3は、刃部に硬質合金をコーティングした従来の耕耘爪の図で、(a)は耕耘爪の斜視図、(b)は(a)のA−A線断面図である。耕耘爪10は全体がほぼ板状で、基端部11に取付部12としてのボルト孔があり、基端部11から先端部13の間が、立体的に湾曲した本体部14である。そして、すくい面である刃部15が、本体部14の先端部13から基端部11に向かう途中まで形成されている。取付部12の孔と、図示しない耕耘機等の回転軸の固定座に穿設された孔とを重ね、ボルトを挿通してナットで締め付けることで回転軸に固定される。
【0006】
図3(b)に示すように、刃部15は、板状をした本体部14の一方の面に、硬質金属層16をコーティングによって形成したものである。
【0007】
このように、刃部15に硬質合金をコーティングすることで、耕耘爪10の寿命をそれまでのものの寿命の2倍に延ばすことができるようになった。しかし、摩耗速度はコーティングしないものに比べて遅いものの、摩耗はするので、結局は刃部15の局部摩耗に律束されて最終的には耕耘爪10全体を廃棄し、新しい耕耘爪に交換する必要がある。
【0008】
一方、上記の耕耘爪の製造工程は、素材から塑性加工により耕耘爪10における本体部14の形状を形成し、これに熱処理を加えで完成していた従来の耕耘爪に、さらに硬質合金をコーティングする工程が付加するので、製造工程が複雑になり、生産性も低くなって、製造コストが上昇することになる。
【0009】
また、別の方法として、耕耘爪10の幅を広くした耕耘爪が提案されている。これは、図3(a)に示すWの寸法を大きくするものである。耕耘爪10の幅を広くするので、刃部15が摩耗するのに時間が掛かることになり、破棄するまでの寿命は延びる。しかし、摩耗により徐々に耕耘爪10の幅が狭くなって、強度や剛性が低下していき、やがて所望の強度や剛性が保てなくなるので、その時点で、耕耘爪を交換しなければならない。また、耕耘爪10の幅を拡げると、耕耘爪の重量が増加し、エンジン等の駆動源への負荷が増加し、燃費が悪化して、ランニングコストが上昇するという問題も起こる。
【0010】
また、従来の耕耘爪は、基端部から先端部までの全体が1つの素材から形成され、熱間加工による塑性加工、熱処理工程を経て完成するもので、総じて生産性が低く、製造コストもかなり高いものである。
【0011】
さらに、硬質合金をコーティングするものも、刃部の幅を広くするものも、材料と熱処理によって製品の靱性や硬度などの特性がほぼ決められてしまうため、選択の範囲が狭く、飛躍的な向上は難しく、概ね従来品の延長上の特性に限られてしまっていた。
【非特許文献1】ホームページ http://www.kobashikogyo. com/product/crow/z/index.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、耕耘爪の交換に伴う使用者の負担を軽減でき、素材の選択の範囲を拡げることができ、しかも生産コストが低い耕耘爪と、この耕耘爪に用いられる刃部とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために本発明の耕耘爪は、基端部に耕耘機等の回転軸に着脱自在に固定される取付部を有し、前記基端部から先端部に向かって所定形状に延びるほぼ板状の本体部と、該本体部の先端側から基端側に向かって設けられた耕耘のための刃部とからなり、該刃部が前記本体部に着脱自在に取り付けられたことを特徴としている。
【0014】
前記本体部に係止部を形成し、該係止部と係合する被係止部を前記刃部に形成した構成としたり、前記本体部は靱性に優れた素材からなり、前記刃部は強度、耐摩耗性および靱性に優れた素材からなる構成としたり、前記本体部は、非調質材鋼板をプレス加工して形成され、前記刃部は熱処理された硬質金属からなる構成としたりすることができる。
【0015】
上記目的を達成する本発明の耕耘爪に着脱される刃部は、上記いずれかの耕耘爪に取りつけられる刃部であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の耕耘爪は、本体部と刃部とに分け、刃部を本体部に着脱自在な構成としたので、刃部が摩耗した場合は、刃部のみを新品と交換すればよく、安価に交換できる。また、本体部と刃部とを別々の素材から形成するため、本体部に適した素材と、刃部に適した素材を別々に選択できるので、素材の選択の範囲を拡げることができる。また、本体部は靱性があればよいので、熱処理をする必要が殆どなく、プレス加工で製造すれば、生産性を上げて、製造工程を簡略にできるので、製造コストを低下することができる。という優れた効果を奏する。
【0017】
本体部に係止部を形成し、該係止部と係合する被係止部を前記刃部に形成することで、本体部と刃部の位置決めを正確に行うことができる。また、取り付けた刃部のずれを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明の耕耘爪の斜視図である。これらの図に示すように、本発明の耕耘爪100は、基端部110に取付部120としてのボルト孔があり、基端部110から先端部130の間が、立体的に湾曲した本体部140である。そして、すくい面には、本体部140と別に作られた刃部150が本体部140に複数のボルト160によって締付固定されている。刃部150は、本体部140の先端部130から基端部110に向かう途中まで形成されている。なお、刃部150の表面に記載された多数の線は、立体的に湾曲した刃部150の形状を示すための線である。
【0020】
図2は、図1に示す本発明の耕耘爪100の分解斜視図である。本体部140は、全体がほぼ板状で、設計された立体的な形状に基づいた湾曲形状である。また、本体部140は、耕耘爪としての靱性があればよく、硬度と耐摩耗性は殆ど問題とならない。そこで、靱性に優れた素材、たとえば、一般構造用鋼の引張強度400〜500MPa級に相当する非調質材を使用することができる。非調質鋼材は安価である。ただし、非調質鋼材に限定されるものではなく、バネ鋼など所定の靱性を備えているものであれば、他の素材を使用できる。
【0021】
また、従来の耕耘爪は、熱間鍛造と熱処理により製造されてきた。熱間鍛造は、生産性が低く、コストも高いものとなっている。これに対し、本発明の耕耘爪100では、本体部140は、硬度や耐摩耗性を問題としないので熱処理をしなくてもよく、非調質鋼材の板材をプレス加工によって高速で製造することができる。したがって、従来の製造方法に比べて大幅にコストを低減することができる。
【0022】
刃部150には、強度、耐摩耗性および靱性が必要とされる。このような目的に合ったものとして、最も一般的には、バネ鋼が適している。その他、用途に応じて合金鋼材、工具鋼材、ステンレス鋼材などを使用してもよい。これらを熱間鍛造などにより成形し、熱処理をして所望の特性を得ることになる。なお、特別な用途によっては、非鉄合金鋼材や、非金属材料などを組み合わせたり、硬質金属をコーティングして用いることができる。
【0023】
本発明の耕耘爪は、本体部140と刃部150とを別々に構成したので、耕耘爪100全体よりも安価な刃部150を交換することができ、爪の交換を安価に行うことができる。本体部と刃部との素材の組合せを変えることによって、最適な経済性を追求することもでき、最適な長寿命化を追求することもできる。あるいは、その他の使用者が求める多様な特性に合わせた耕耘爪を的確に供給することが可能になる。
【0024】
図2に示すように、本体部140の刃部150が取り付けられる位置には、段状で凹型の係止部170が形成されている。一方の刃部150にも、この係止部170と重なり合う段状で凸型をした被係止部152が形成されている。本体部140の係止部170には、ボルト160が挿通される孔171があり、刃部150にも孔151が穿設されている。係止部170と被係止部152とは本体部140と刃部150との位置決めをするためのもので、本体部140の係止部170に刃部150の被係止部152を重ねると、刃部150は本体部140の所定の位置に正確にはまり込む。そして両者が所定の位置にあると、孔171と孔151とが重なるので、ここにボルト160を挿通し、ナット162を螺合して締付固定する。
【0025】
このように本体部140の係止部170と、刃部150の被係止部152を重ねることで、刃部150を本体部140の所定の位置に正確に位置決めできるとともに、ボルト160とナット162で締付固定した後、刃部150がずれることを防止することができる。
【0026】
なお、係止部170と被係止部152は、実施例では段状の凹凸として形成したが、位置決めができるものであれば、どのような形状でもよい。
【0027】
以上で耕耘爪100が完成し、この耕耘爪100を従来の場合と同様に、耕耘機等の回転軸に取りつけて使用することになる。本体部140は、刃部150の数倍の寿命があるので、使用により刃部150が摩耗し、刃部の摩耗が限界に達したとき、本体部140は引き続いて使用可能である。そこで、ボルト160とナット162の螺合を緩めて刃部150を取外し、新品の刃部150を取りつけることで、耕耘爪全体を交換したのと同じ効果を得ることになる。
【0028】
実際に現在市販されている従来品と本発明品とでコストを比較した。
まず生産コストについては、従来品は全体について同じ材料であり、かつ全体について加熱鍛造および熱処理(焼き入れ焼戻し)といった複雑な熱処理および加工を行うため、生産コストが高くなるのに対し、本発明品は刃部のみに高い材料を使用して複雑な熱処理を行えばよいため、生産コストが低く、従来品よりも10%程度生産コストを削減することができた。
【0029】
また、消費者からみたコストについては、本発明品では刃部のみに高い材料を使えばよいので初期購入コストを10%以上低減することができ、また、刃部に寿命が来ても刃部のみを交換可能であるため、ランニングコストは従来品よりも40%以上低減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の耕耘爪の斜視図である。
【図2】本発明の耕耘爪の分解斜視図である。
【図3】従来の耕耘爪の図で、(a)は耕耘爪の斜視図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0031】
100 耕耘爪
110 基端部
120 取付部
130 先端部
140 本体部
150 刃部
152 被係止部
170 係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端部に耕耘機等の回転軸に着脱自在に固定される取付部を有し、前記基端部から先端部に向かって所定形状に延びるほぼ板状の本体部と、該本体部の先端側から基端側に向かって設けられた耕耘のための刃部とからなり、該刃部が前記本体部に着脱自在に取り付けられたことを特徴とする耕耘爪。
【請求項2】
前記本体部に係止部を形成し、該係止部と係合する被係止部を前記刃部に形成したことを特徴とする請求項1に記載の耕耘爪。
【請求項3】
前記本体部は靱性に優れた素材からなり、前記刃部は強度、耐摩耗性および靱性に優れた素材からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耕耘爪。
【請求項4】
前記本体部は、非調質材鋼板をプレス加工して形成され、前記刃部は熱処理された硬質金属からなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の耕耘爪。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の耕耘爪に着脱される刃部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−181437(P2007−181437A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2666(P2006−2666)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(506010231)株式会社小野製作所 (3)
【Fターム(参考)】