説明

耳標

【課題】 従来の耳標はICタグの装着機構に難点があり、また、DNA採取に関しての構成も複雑となっている。さらには耳標を装着した際の動物の耳殻の成長を考慮しておらず、耳標の装着部分が耳殻にあって深く陥没してしまい、動物に苦痛を与えてしまうこととなるという点である。
【解決手段】 一部にフランジを形成した筒状の受体と、上端縁にフランジを形成し、先端にニードル部を一体に備え、前記受体内に挿入される挿し込み体とによりなり、その受体と挿し込み体とによって動物の耳殻に固着される耳標であって、前記した受体の二次側開口内面に採血容器の止着部を形成するとともに、フランジを備えた開口側の内面に前記ニードル部の段部が係合するストッパを形成し、かつ、挿し込み体のフランジ下方にICタグの装着用止着部を形成してあることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耳標に関し、特に食肉用として飼育される豚や牛等の動物に、個体を識別するため耳殻に止着する耳標に関する。
【背景技術】
【0002】
動物用、特に食肉用家畜の個体識別の重要性は狂牛病の発生等とも関連して、食の安全性を担保するうえで要求が高まっている。従前、この耳標は識別のための数字や記号等を表示したものを耳殻に取り付ける構成とされていたが、これは容易に偽装や付け替えもできるものとなっていた。
【0003】
そこで、近時は個体情報を記録させたICチップを耳標を介して、固着することが行なわれている。この耳標は、耳殻の両側から筒状の受体とその受体に挿し込まれる挿し込み部とより構成され、ペンチ状の装着用具を用いて、前記挿し込み部によって軟骨を砕きながら強制的に装着される。この装着の際に前記ICチップを挟持させてやることとなる。
【0004】
しかしながら、従来の耳標にあってはICタグの保持機構に関し、このICタグのみを取り外すことが耳殻を損傷させることなく行なえ、交換することも可能となってしまう。また、ICタグによる個体情報に加え、より正確性を増すためのDNA情報も得るため、そのDNA採取を目的とした採血も機構的に複雑となり、作業が面倒となるうえ、その分の価格も高騰してしまう。
【特許文献1】特開2006−304768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の耳標はICタグの装着機構に難点があり、また、DNA採取に関しての構成も複雑となっている。さらには耳標を装着した際の動物の耳殻の成長を考慮しておらず、耳標の装着部分が耳殻にあって深く陥没してしまい、動物に苦痛を与えてしまうこととなるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この問題点を解決するために、本発明に係る耳標は一部にフランジを形成した筒状の受体と、上端縁にフランジを形成し、先端にニードル部を一体に備え、前記受体内に挿入される挿し込み体とによりなり、その受体と挿し込み体とによって動物の耳殻に固着される耳標であって、前記した受体の二次側開口内面に採血容器の止着部を形成するとともに、フランジを備えた開口側の内面に前記ニードル部の段部が係合するストッパを形成し、かつ、挿し込み体のフランジ下方にICタグの装着用止着部を形成してあることを特徴とし、前記した挿し込み体は動物の耳殻の成長に伴ない、受体内で摺動し、受体のフランジと挿し込み体のフランジ間の距離を拡げるものであることを特徴とし、前記した受体のフランジは筒体の外周面の略中程に位置させ、挿し込み体のフランジとの間に耳殻の成長を許容するスペース間隔を有していることを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る耳標は前記した採血容器内には細胞を含有する血を吸収するための素材が内蔵されるとともに、ヒンジを介してその採血容器の開口を閉塞する蓋体が一体的に連結されていることを特徴とし、前記したヒンジもしくは採血容器の一部には装着器具と紐状の連結材で連結するための連結部が形成されていることを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明に係る耳標は一方の開口縁にフランジを形成した筒状の受体と、上端縁にフランジを形成し、先端にニードル部を一体に備え、前記受体内に挿入される挿し込み体とよりなり、その受体と挿し込み体とによって動物の耳殻に固着される耳標であって、前記した受体の他方開口はニードル部の先端が突出することを防止するガード部で一体的にカバーされ、フランジを備えた開口側の内面に前記したニードル部の段部が係合するストッパを形成し、かつ、受体のフランジ上方にICタグの装着部を形成してあることを特徴とし、前記したガード部には血抜き用の透孔が穿設されていることを特徴とし、前記した挿し込み体には、動物の耳殻の成長に伴なって可動する調整プレートが嵌め付けられていることを特徴としている。
【0009】
そして、本発明に係る耳標は前記したニードル部は三角錐状に形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る耳標は上記のように構成されている。そのために、ICタグが安定されて保持され、偽装行為から安全に担保することができる。また、DNA採取のための血液の採取に関しても簡易で確実性のあるものとなっている。
【0011】
また、動物の耳殻が成長して肉厚となってきても、その成長分に対応した調整が自動的になされるものとなり、動物に過度の負担や苦痛を強いることもなくなる。加えて、ガード部を備えた場合、ニードル部の先端突出が防護されて、動物及び作業者がそのニードル部によって受傷してしまう事故が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図面として示し、実施例で説明したように構成したことで実現した。
【実施例1】
【0013】
次に、本発明の第一の実施例を図1乃至図6を参照して説明する。図1は本発明の第一実施例に係る耳標を示す装着前の縦断面図、図2は同じく装着時を示す縦断面図、図3は同じく採血容器を取り外した状態の縦断面図、図4は同じく耳殻が成長した状態を示す縦断面図、図5は同じく採血後の採血容器を示す縦断面図、図6は同じく平面図である。
【0014】
これらの図にあって1は受体を示している。この受体1はプラスチック製の円筒状をしており、一次側の開口縁にフランジ2が一体に形成されており、この一次側の開口の内壁面には後述する挿し込み体のニードル部の段部が係合されて抜け止めされるリング状のストッパ3が一体的に形成されている。このストッパ3はその上面がニードル部の挿入をガイドするため擂鉢状のテーパが形成されたものとなっている。
【0015】
この受体1の二次側開口部の内壁面には後述する採血容器の止着部4が形成されている。この止着部4はリング溝となっており、その最先端部分には採血容器を係合する間欠したリング状とし、断面半円状の係止部5、5が形成されている。
【0016】
また、図中7は前記した受体1に挿し込まれる挿し込み体を示しており、この挿し込み体7もプラスチックによって成形されている。この挿し込み体7は中空とした円棒状をしており、基端周縁にはフランジ8が一体に形成されている。
【0017】
このフランジ8の下面には括れさせたICチップの取り付け部9が形成されており、その取り付け部9にICチップ10が嵌着固定されている。このICチップ10は装着される動物の個体情報が記録されたものとなっている。
【0018】
この挿し込み体7の先端にはニードル部11が一体に形成されている。このニードル部11は三角錐状のものとされており、この三角錐状の形状が種々実験の結果、最も挿し込み力に優れ貫通される耳殻等に対しての損傷も少なくて済むものであることが判明した。また、このニードル部11の基端には段部12が形成され、この段部12が前記したストッパ3と係合して抜け止めが図られることとなる。
【0019】
さらに、図中13は採血容器を示しており、この採血容器13はプラスチックで成形され、上面を開口したものとなっており、下端縁にはフランジ14が一体に形成されている。このフランジ14の一部には採血容器13を受体1から取り外す際の操作舌片14aが形成されている。また、採血容器13の外周面には前記した係止部5、5‥と係合して位置決めされる係合部15が一体に形成されている。
【0020】
また、採血容器13内には挿し込み体7のニードル部11が耳殻Eを貫通して受体1に挿し込まれる際の出血を吸収する吸血材16、例えば綿、不織布、スポンジ等のポーラス体が収納されているもので、この採血によってより正確な個体情報としてDNA情報を確保することができる。
【0021】
そして、採血容器13のフランジ14の一部にはヒンジ17を介して蓋体18が一体に連結されている。この蓋体18は採血容器15の外側から被冠する構造となっており、その内面に前記した係合部15と係合して閉塞状態を保持する係合部19が形成されている。この蓋体18の一部には開閉を操作する操作舌片18aが一体に形成されている。加えて、前記ヒンジ17には紐状の連結材が取り付けられ、この連結材をペンチ状等の装着器具に連結して、採血容器13の取り外し後の紛失を防止することができる。尚、この採血容器13の取り外しはワンタッチでニードル部11の先端によって装着時に押し外すことができる。さらに、前記した連結材には個体の識別番号を記したタグ(ラベル)を取り付け、ICチップ10と関連させて、個体識別を容易とし、トレーサリビティも確保することができる。
【0022】
この第一実施例にあって、耳殻Eに装着した初期状態で、ニードル部11の段部12とストッパ3との間にはスペースSが生じる構成となるが、このスペースSは図4で示すように耳殻Eが成長して肉厚となった際のアジャスト機能を発揮し、挿し込み体7自体を耳殻Eの成長力でスライドさせ、成長後の耳殻Eの肉厚に順応させることができるものとしている。
【実施例2】
【0023】
次に、本発明の第二の実施例を図7乃至図12を参照して説明する。尚、実施例1と共通する部分については同一符号を付して詳細な説明は省略する。図7は第二実施例の装着前の縦断面図、図8は同じく装着後を示す縦断面図、図9は同じく採血容器を取り外した状態を示す縦断面図、図10は同じく耳殻の成長後の状態を示す縦断面図、図11は同じく採血容器を示す縦断面図、図12は採血容器を示し、Aは底面図、Bは断面図である。
【0024】
これらの図7乃至図12にあって、図中1aは受体を示し、この受体1aはプラスチック製の円筒体となっているが、第一実施例に比して全長は約3分の2程の短いものとされている。この受体1aにおけるフランジ2aは、受体1aの外周にあってその全長の略中程に位置されたものとされ、採血容器13aの係合部5の位置も、採血容器13aの止着部4の奥方に形成されたものとなっている。
【0025】
また、この受体1aに対して挿し込み体7も相応して短く構成されている。即ち、挿し込み体7を、耳殻Eを貫通させて受体1aに挿し込んだ状態で、ニードル部11の段部12とストッパ3との間にはスライドするスペースはないものとなるが、耳殻Eの成長に対応するアジャストは受体1aのフランジ2aとICチップ10との間に装着時に生じるスペースSで行なうこととなる。
【0026】
さらに、採血容器13aの係合部15は受体1aの係止部5の位置と対応して、外周面の開口寄りに形成されており、採血容器13aの底面外形を下向きの山形としてある。そして、蓋体18における係合部19aは間欠的なものとして複数を形成した構成となっている。そして、ヒンジ7の略中央には紐状の連結材を取り付ける取り付け部としての透孔17aが形成され、連結材によって、採血容器13aが受体1aから外された時に、装着器具に残るものとしている。
【0027】
この第二の実施例にあっては、耳殻Eへの装着後に、その耳殻Eが成長すると、その成長した肉厚は前記したようにフランジ2aとICタグ10との間に構成されたスペースSによって吸収することとなり、耳殻Eの成長後は図10として示す形態となる。
【実施例3】
【0028】
次に、本発明の第三の実施例を図13を参照して説明する。この第三の実施例にあって第一実施例、第二実施例と共通する部分は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。図12は本発明の第三実施例を示し、装着状態を示す縦断面図である。
【0029】
この図13にあって21は受体を示し、この受体21もプラスチックで成形された円筒状となっているが、この受体21は二次側開口に円錐状としたガード部22が一体的に形成され、挿し込み体7のニードル部11の突出を防止し、作業者がそのニードル部11によって怪我を負ってしまうことを防護している。
【0030】
この受体21は第二実施例と同様に短いサイズとされているが、一次側開口縁に一体形成されたフランジ21aの周縁上部には一部を切り欠いた立壁23が一体形成され、この立壁23に囲まれた位置にICチップ10がセットされるものとされている。
【0031】
また、この第三実施例における挿し込み体7はサイズ的には長いものとなっており、耳殻Eの成長に伴ない、挿し込み体7に沿ってスライド移動する調整円板24が嵌め付けられている。この調整円板24の中心部分には挿し込み体7が挿通される透孔24aが形成され、この透孔24aには先端を挿し込み体7の外周面と当接しスライドを可能とするピン体24b、24b‥が放射状に複数本設けられている。
【0032】
この第三実施例の場合、耳殻Eは受体21の立壁23の頂縁と調整円板24に位置されることとなり、耳殻Eの成長に伴ない、調整円板24がフランジ8方向へ移動してその肉厚分を吸収調整していくこととなる。この調整円板24がないと、この第三実施例における耳標自体が立壁23の頂縁と挿し込み体7のフランジ8との間の範囲で動いてしまうこととなり、このガタ付きを防止することとなる。
【0033】
また、前記したカード部22には挿し込み体7、強いてはニードル部11が耳殻Eを貫通することによって生じる出血を外部に抜くための血抜き孔が複数構成されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本願に係る耳標の実施例は上記のように構成されている。この耳標は食肉用として飼育される家畜、特に豚や牛に対し使用されることを想定しているが、その他の哺乳類にあっても医学的、動物学的な研究における使用も広く考慮できることになる。また、取り付け部としての透孔17aに代えて、採血容器の各フランジに透孔を設けたり、そのフランジや容器自体に連結材の取り付け用としての突起やくびれ等を形成することも自在に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第一実施例に係る耳標を示す装着前の縦断面図である。
【図2】装着時を示す縦断面図である。
【図3】採血容器を取り外した状態の縦断面図である。
【図4】耳殻が成長した状態を示す縦断面図である。
【図5】採血後の採血容器を示す縦断面図である。
【図6】平面図である。
【図7】第二実施例の装着前の縦断面図である。
【図8】装着後を示す縦断面図である。
【図9】採血容器を取り外した状態を示す縦断面図である。
【図10】耳殻の成長後の状態を示す縦断面図である。
【図11】採血容器を示す縦断面図である。
【図12】採血容器を示し、Aは底面図、Bは断面図である。
【図13】本発明の第三実施例を示し、装着状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 受体
2 フランジ
3 ストッパ
4 止着部
5 係止部
7 挿し込み体
8 フランジ
9 取り付け部
10 ICチップ
11 ニードル部
12 段部
13 採血容器
13a 採血容器
14 フランジ
14a 操作舌片
15 係合部
16 吸血材
17 ヒンジ
17a 透孔
18 蓋体
18a 操作舌片
19 係合部
19a 係合部
21 受体
22 ガード部
23 立壁
24 調整円板
24a 透孔
24b ピン体
E 耳殻
S スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部にフランジを形成した筒状の受体と、上端縁にフランジを形成し、先端にニードル部を一体に備え、前記受体内に挿入される挿し込み体とによりなり、その受体と挿し込み体とによって動物の耳殻に固着される耳標であって、前記した受体の二次側開口内面に採血容器の止着部を形成するとともに、フランジを備えた開口側の内面に前記ニードル部の段部が係合するストッパを形成し、かつ、挿し込み体のフランジ下方にICタグの装着用止着部を形成してあることを特徴とする耳標。
【請求項2】
前記した挿し込み体は動物の耳殻の成長に伴ない、受体内で摺動し、受体のフランジと挿し込み体のフランジ間の距離を拡げるものであることを特徴とする請求項1に記載の耳標。
【請求項3】
前記した受体のフランジは筒体の外周面の略中程に位置させ、挿し込み体のフランジとの間に耳殻の成長を許容するスペース間隔を有していることを特徴とする請求項1に記載の耳標。
【請求項4】
前記した採血容器内には細胞を含有する血を吸収するための素材が内蔵されるとともに、ヒンジを介してその採血容器の開口を閉塞する蓋体が一体的に連結されていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3に記載の耳標。
【請求項5】
前記したヒンジもしくは採血容器の一部には装着器具と紐状の連結材で連結するための連結部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の耳標。
【請求項6】
一方の開口縁にフランジを形成した筒状の受体と、上端縁にフランジを形成し、先端にニードル部を一体に備え、前記受体内に挿入される挿し込み体とよりなり、その受体と挿し込み体とによって動物の耳殻に固着される耳標であって、前記した受体の他方開口はニードル部の先端が突出することを防止するガード部で一体的にカバーされ、フランジを備えた開口側の内面に前記したニードル部の段部が係合するストッパを形成し、かつ、受体のフランジ上方にICタグの装着部を形成してあることを特徴とする耳標。
【請求項7】
前記したガード部には血抜き用の透孔が穿設されていることを特徴とする請求項6に記載の耳標。
【請求項8】
前記した挿し込み体には、動物の耳殻の成長に伴なって可動する調整プレートが嵌め付けられていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の耳標。
【請求項9】
前記したニードル部は三角錐状に形成されていることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7または請求項8に記載の耳標。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−119333(P2010−119333A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295467(P2008−295467)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000134464)株式会社トスカ (23)
【出願人】(503314912)株式会社ダーウィン (5)