説明

耳治療用成型物

【課題】鼓膜剥離後の再癒着予防並びに中耳粘膜再生を促進するための耳治療用成型物の提供。
【構成】鼓膜の鼓室壁への接触を防止するために鼓室に留置されるシート部分と、鼓膜内への迷入を防止するための外耳部分、並びにそれらを繋ぎ鼓膜を貫通する部分から構成される耳治療用成型物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒着性中耳炎の治療材料に関する。さらに詳しくは、癒着性中耳炎、真珠腫性中耳炎等の疾患によって起こる鼓膜と鼓室組織の癒着を手術により剥離した後に用いられる耳治療用成型物に関する。
【背景技術】
【0002】
癒着性中耳炎では鼓室に落ち込んだ鼓膜が鼓室の粘膜上皮、又は中耳骨と癒着を起こす疾患である。この癒着性中耳炎では真珠腫を伴う場合、癒着性中耳炎が真珠腫性中耳炎に進展する場合もあり、治療による完治が困難で再発する症例が多く、また重篤な結果を招く可能性があるために、耳鼻科領域では克服すべき疾患として種々の試みが為されている。
【0003】
これら疾患の原因については未だ明確になっていないが、原因の一つとして耳管機能が不十分な為、鼓室が陰圧となり鼓膜が陥没して鼓室壁と癒着を起こすと予想されている。これら疾患に滲出性中耳炎が合併し難聴が増悪したり、乳突腔粘膜の換気能が悪化したり等、合併的に多くの問題を生じる。具体的な治療としては癒着した鼓膜と内耳の剥離を行った後に、分離した鼓膜と内耳の間に膜、具体的にはシリコーン膜を挿入し繊毛上皮粘膜の再生を目指す、あるいは患者自身の耳介軟骨を採取した後に、この軟骨を所望の厚さにスライスし、それを鼓膜陥凹部分に挿入し治療することが行われている。また鼻粘膜あるいは口腔粘膜の移植を行い鼓室壁の上皮粘膜を再生することも試みられている。
シリコーン膜を用いる治療は、シリコーン膜による癒着再発防止の他に、内耳壁の繊毛上皮粘膜の再生を促進することを期待するものである。この繊毛上皮粘膜が再生する事で再癒着が予防され、治療は完了するが、このシリコーン膜による再生には1年ほどの期間を要する。しかし治療完了後にこのシリコーン膜は手術により取り除く必要がある。
治療完了後の手術によるシリコーン膜除去は患者が大きな負担を負う必要があり、また疾患の原因の一つと考えられる耳管機能についての改善は期待ができない。
【0004】
別の方法として患者自身の軟骨を採取し、その軟骨を数ミリのシート状切片とし、これを鼓膜内側面に適応し鼓膜の陥没を予防する方法が開発されており、軟骨シート状切片を作成するための器具の開発も行われている。
しかし患者からの軟骨採取は患者への負担が大きく、また軟骨薄切切片を作成するために高価な器具の購入が必要となる。
鼻、口腔からの粘膜移植も行われたが、煩雑な手順が必要となり、移植粘膜からの粘液分泌が問題となりこの治療法は普及していない。
一方、耳鼻咽喉科では鼓膜を介して鼓室腔に挿入し、鼓膜内部の浸出液を排出あるいは耳管機能不全の際、鼓室が陰圧となることを防ぐための中耳内チューブが知られている。
治療としては手術による癒着剥離後の再癒着予防、粘膜の移植、乳突腔充填、手術後の鼓室腔の換気等が行われるが、未だ確立した方法は完成していない。
【特許文献1】特開昭62-133971号公報
【特許文献2】特開平3-162852号公報
【特許文献3】特開平4-129569号公報
【特許文献4】特開平5-148号公報
【特許文献5】特開平7-204222号公報
【特許文献6】特開平7-265351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は患者に負担が少なく、具体的には再手術を必要とせず簡便に癒着した鼓膜剥離後の再癒着予防並びに中耳繊毛上皮再生を促進することを目的とした耳治療用の成型物の開発を行い、本発明を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は、鼓膜の鼓室壁への接触を防止するために鼓室に留置されるシート部分と、鼓膜内への迷入を防止するための外耳部分、並びにそれらを繋ぎ鼓膜を貫通する部分から構成される耳治療用成型物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る耳治療用成型物はきわめて簡単な構造な成型物であるが、鼓膜剥離後の癒着予防並びに再生を促進することができた。
また将来癒着性中耳炎に進行することが懸念される滲出性中耳炎、真珠腫性中耳炎における鼓膜癒着の予防が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下の本発明を詳細に説明する。
本発明の成型物は鼓膜を貫通する部分と外耳側に鼓室への迷入を防ぐための突起、鼓室側に癒着防止用のシートより構成される。
鼓膜を貫通する部分の形状に特に制限は無いが、貫通する鼓膜組織に刺激が少ない円柱が望ましく1mm以上の太さが望ましい。また円柱の場合その太さは直径が3mm以下が望ましい。
これより太い場合には鼓膜の貫通孔が大きくなり、本成型物を取り除いた後に自然にこの穿孔が塞がることが困難となる。
またこの円筒の中心部に貫通孔を設けることができる。この貫通孔は患者が耳管機能不全の場合に有効である。本貫通孔よって鼓室が陰圧になることを防ぐことができ、再度鼓膜が鼓室側に陥没することを予防できる。
【0009】
外耳側に設ける鼓室への迷入を防ぐための外耳部について、形状、大きさに特に制限は無い。例えば形状としては円形等の平面状、円錐等の立体的形状があるが、いずれにしても本成型物を装着時に外耳壁に接触しない形状 大きさであれば良い。
また本外耳部に本成型物の向きが分かる様、印をする事も可能である。
本成型物を用いた治療が完了した際、本外耳部は成型物を取り除く時にピンセット等により把持されるが、把持し取り除くことができる強度を持つことが必要となる。
鼓室側のシートについては、装着時にシートが適応される部位にあわせてトリミングされる。よってこのシートは円形でその直径は3mm以上有れば良く、望ましくは10mm以下が良い。鼓室側のシートは小さすぎる場合には、癒着防止の効果を得ることがでず、大きすぎる場合には無駄となってしまう。
【0010】
シートの厚さについては、その材料の柔軟さにより一概に規定することができないが、柔軟さ無いあるいは厚い場合には治療完了後に鼓膜を通して取り除くことが困難となる。一方柔軟さが無いあるいは薄い場合には鼓室で動く可能性が出るために、十分な治療効果を得ることが困難となる。望ましい一例としては硬度40のシリコーンであれば、厚さが0.1〜0.4mmが望ましい。
このシートについては、通常鼓膜貫通部分に対して垂直に設置されるが、必要に応じて垂直以外の角度で設置することも可能である。
【0011】
本成型物の原料としては軟質であって、生体組織との癒着を起こさない材料が望ましく、具体的にはシリコーン、塩化ビニル、ポリウレタン等のエラストマーを挙げることが出来るが、特にシリコーンが望ましい。
またこれら材料を組み合わせることも可能である。
色については特に制限はなく、装着が確認しやすいあるいは目立たない等により決められる。
【0012】
本成型物は手術により鼓膜を貫通し装着されるが、装着に際しては鼓室側の平面のトリミングが行われる。トリミングを行った後に鼓膜の鼓室側より本成型物を鼓膜に通し、又は外耳側から鼓膜に通し、トリミングした平面が適応部位に合う向きにして装着は終了する。治療が完了した時点で本成型物は除去される。
本発明の耳治療用成型品は型により作製される。即ち、本発明の耳治療用成型品の形状をした型を準備し、そこにシリコーン樹脂、例えばKE1300T(信越化学工業株式会社製)を充填、硬化させることによって容易に成形することができる。
【実施例】
【0013】
次に実施例として本発明にかかる耳治療用成型物を図をもって更に具体的に説明する。
図1は本発明にかかる耳治療用成型物の斜視図であり、図2には本成型物が鼓膜を貫通して装着された断面図を示す。
図1に示すように、本発明にかかる耳治療用成型物は一端に鼓室部シート4を、他端に外耳部に留置する部分1を有し、その間を貫通部3で繋げている。貫通部3には貫通孔1が備えられており、鼓室部シート4は装着時に患部にあわせトリミングされる。
使用に際しては、本発明の耳治療用成型品9を外耳6より挿入し、もしくは鼓室7より挿入し、鼓室に留置されるシート部分4は鼓膜8を通し、外耳部6は鼓膜の外耳部側に、鼓室部シート4は鼓室側に留置される。
しかして、このように耳治療用成型物が留置されており、成型物には貫通孔があるので、鼓室が陰圧となることはなく、従って鼓膜が陥没して鼓室壁に癒着することを防止しすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
以上述べた耳治療用成型物を鼓室に留置することによって鼓室に落ち込んだ鼓膜と鼓室の上皮粘膜との癒着防止することができ、耳鼻科領域で問題となっている真珠腫を含む癒着性中耳炎による癒着剥離手術後の再癒着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】耳治療用成型物の斜視図
【図2】本発明の耳治療用成型物を装着した断面図
【符号の説明】
【0016】
1 貫通孔 2 外耳部留置部分 3 貫通部
4 鼓室部の留置シート 5 耳 6 外耳
7 鼓室 8 鼓膜 9 耳治療用成型物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼓膜の中耳壁への接触を防止するために中耳に留置されるシート部分と、鼓室への迷入を防止するための外耳部分、並びにそれらを繋ぎ鼓膜を貫通する部分から構成される耳治療用成型物。
【請求項2】
鼓室に留置されるシート部分が脱落を防止するための外耳部分よりも大きな面積を有することを特徴とする請求項1項記載の耳治療用成型物。
【請求項3】
貫通部分が直径1mm以上の円筒形であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耳治療用成型物。
【請求項4】
鼓室に留置されるシート部分が直径10mm以下の円形であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の耳治療用成型物。
【請求項5】
貫通部分の中心部に貫通孔を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の耳治療用成型物。
【請求項6】
シリコーンを材料としたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の耳治療用成型物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−161545(P2008−161545A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356080(P2006−356080)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【出願人】(591071104)株式会社高研 (38)