説明

肘掛け装置

【課題】肘当て部材の横向き回動後の位置保持力を可及的に大きくできる肘掛けの昇降装置を提供する。
【解決手段】肘支柱における上端の回動支持体35には、肘当て基体4aの回動中心となる筒部42の下面と内周面とに摺接する受け座体36が外嵌され、肘当て基体4aには筒部42の半径よりも大きい半径位置に筒部42の回動中心と同心状の円弧部43が形成され、円弧部43の内周面にはその円周方向に適宜間隔にて複数の係合凹部39が形成されており、受け座体36には、円弧部43の内周面の一側と対峙する方向に開放部を有する第1の凹所48が設けられ、この凹所内に配置された弾性体37と円弧部43の内周面との間に係合ピン38が介挿され、係合ピン38が弾性体37により円弧部43の内周面方向に付勢され、肘当て部材を筒部42を中心にして回動させるとき、係合凹部39の一つと係合ピン38とが選択的に係合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肘当て部材を横向き(左右方向に)回動した姿勢で保持できる肘掛け装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肘当て部材を横向き回動した姿勢で保持できる肘掛け装置は、種々開発されているが、特許文献1では、肘掛け支柱に肘当て支持杆を上下動自在に嵌め込み、肘当て支持杆の上端に固定された肘当て支持板の上面に、外周面に円周方向に離間する上下方向を向く複数の停止溝を備える支持筒を立設し、この支持筒に、上部にパッド部材が止着可能な前後方向を向く肘当て基板に設けられた上下方向を向く円筒部を水平回動可能に嵌合すると共に、円筒部の外周面に連設した平面視コ字形の枠状の保持片と、前記円筒部の外周面とにより囲まれた有底の凹部内にゴムからなる弾性体を嵌合し、前記円筒部における凹部に面する部分に切欠きを形成し、この切欠き内に、外周面の一部が前記円筒部の内面に突出することにより前記停止溝に選択的に係合可能な上下方向を向く係止ピンを設け、この係止ピンの前端部外周面を弾性体の後面に当接させることにより、係止ピンを支持筒方向に付勢し、且つ円筒部の内面と前記支持筒の外周面とに、肘当て基板の左右方向の最大回動量を規制するストッパ手段を設けたことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4373184号公報(図1、図3、図6、図7参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、肘当て部材に左右方向の不用意な外力が作用しても、肘当て部材が無闇に回動しないためには、肘当て部材の回動中心線から係止ピンと停止溝との係合位置までの距離(モーメントの腕長さ)に係止ピンと停止溝との係合抵抗力を乗じた値、所謂モーメントがなるべく大きいことが必要である。
【0005】
肘当て支持板に対して肘当て基板を左右方向に水平回動させるために、特許文献1の構成では、支持板の円筒状の支持筒に対して肘当て基板における円筒部を外嵌している。しかしながら、一般的に、回動可能な肘当て基板は椅子の前後方向には長いがそれと直交する方向の巾寸法は短いから肘当て基板における円筒部の直径は前記巾寸法よりも小さく限定される。特許文献1の構成では、係止ピンとこれを停止溝方向に付勢する弾性体の収納凹部とが肘当て基板における円筒部の外周面側であって肘当て基板の長手方向側に配置されているけれども、係止ピンと停止溝との係合位置から肘当て基板の回動中心までの距離は、実質的に円筒部の内周面(支持筒の外周面)の半径に制限される。
【0006】
即ち、円筒部の直径(半径)が上述のように肘当て基板の巾寸法により制限されるから、上述したモーメントの腕長さを任意に大きくできない。従って、特許文献1の構成では、係止ピンと停止溝が上下方向に長いため、係止ピンと停止溝との係合抵抗力はボールによる係合に比べて比較的大きいものの、モーメントを大きくできない、ひいては肘当て部材が水平方向(左右方向)の外力にて簡単に回動してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、肘当て部材の左右回動方向の保持位置を容易に調節でき、且つ肘当て部材の位置保持力を可及的に大なることが可能となり、肘当て部材が水平方向(左右方向)の外力にて簡単に回動しないような肘掛け装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、肘当て部材の向きが肘支柱に対してほぼ水平方向に変更調節可能に装着されてなる肘掛け装置であって、前記肘当て部材は、肘当て基体とその上側を覆う肘当てパッド体とを備え、前記肘支柱における上端の支持基部には、前記肘当て基体の回動中心となる筒部の下面と内周面とに摺接する緩衝体が外嵌され、前記肘当て基体には前記筒部の半径よりも大きい半径位置に前記筒部の回動中心と同心状の円弧部が形成され、前記円弧部の内周面にはその円周方向に適宜間隔にて複数の係合凹部が形成されており、前記緩衝体または前記支持基部には、前記円弧部の内周面の一側と対峙する方向に開放部を有する凹所が設けられ、この凹所内に配置された弾性体と前記円弧部の内周面との間に係合ピンが介挿されて前記係合ピンが前記弾性体により前記円弧部の内周面方向に付勢され、前記肘当て部材を前記筒部を中心にして回動させるとき、前記係合凹部の一つと前記係合ピンとが選択的に係合するものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の肘掛け装置において、前記係合ピンは前記円弧部の半径方向に変位可能に配置されているものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の肘掛け装置において、前記筒部はその円周の一部が切欠きされた切欠き部を有し、前記円弧部は前記切欠き部に連通するように形成され、前記円弧部が前記切欠き部に連通する個所の左右両側と前記支持基部とには、肘当て基体の最大回動量を規制するストッパ手段を設けたものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の肘掛け装置において、前記肘支柱は前記肘当て部材を昇降させる昇降体を備え、前記支持基部は前記昇降体の上端に設けられているものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、肘支柱における上端の支持基部には、前記肘当て基体の回動中心となる筒部の下面と内周面とに摺接する緩衝体が外嵌され、前記肘当て基体には前記筒部の半径よりも大きい半径位置に前記筒部の回動中心と同心状の円弧部が形成され、前記円弧部の内周面にはその円周方向に適宜間隔にて複数の係合凹部が形成されており、前記緩衝体または前記支持基部には、前記円弧部の内周面の一側と対峙する方向に開放部を有する凹所が設けられ、この凹所内に配置された弾性体と前記円弧部の内周面との間に係合ピンが介挿されて前記係合ピンが前記弾性体により前記円弧部の内周面方向に付勢され、前記肘当て部材を前記筒部を中心にして左右に回動させるとき、前記係合凹部の一つと前記係合ピンとが選択的に係合するものであるから、肘当て部材の回動中心線から係止ピンと係合凹部との係合位置までの距離(モーメントの腕長さ)を大きく設定できると共に、係止ピンと係合凹部との係合抵抗力も大きくできるから、この係止位置での肘当て部材の回動モーメントを大きくして、肘当て部材の位置保持力を可及的に大きくできるという効果を奏する。換言すると、肘当て部材の前後方向(長手方向)の位置に円弧部及び係合凹部並びに係止ピンと弾性体を配置することにより、肘当て部材の巾寸法が小さくても、係止位置での肘当て部材の回動モーメントを大きくできる。従って、肘当て部材が水平方向(左右方向)の外力にて簡単に回動しないという効果を奏する。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、前記係合ピンは前記円弧部の半径方向に変位可能に配置されているものであるから、ユーザーが肘当て部材の向きを左右に変更すべく、横向きの外力を与えると、係合ピンが係合凹部から外れることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、筒部はその円周の一部が切欠きされた切欠き部を有し、前記円弧部は前記切欠き部に連通するように形成され、前記円弧部が前記切欠き部に連通する個所の左右両側と前記支持基部とには、肘当て基体の最大回動量を規制するストッパ手段を設けたものであるので、比較的大きいストッパ面積にすることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、肘当て部材が昇降可能であると共に、左右の向きも変更可能であるから、ユーザーの使い勝手が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】肘掛け装置の側面図である。
【図2】肘掛け装置の正面図である。
【図3】肘当て部材の上部部材を除いた肘掛け装置の平面図である。
【図4】肘掛け装置の部品分解図である。
【図5】図2のV−V線矢視断面図である。
【図6】図5のVI−VI線矢視断面図である。
【図7】ストッパアームと昇降体と操作部材の分解斜視図である。
【図8】肘当て部材の水平向き変更状態を示す平面図である。
【図9】肘当て部材の水平向き変更調節手段の構成部品分解図である。
【図10】(A)は肘当て部材の水平向き変更調節手段の構成部品組図、(B)は同じく要部平面図である。
【図11】肘当て基材の斜視図である。
【図12】(A)は吊支体の斜視図、(B)は同じく平面図である。に装着されたストッパアームと操作部材の斜視図である。
【図13】(A)は吊支体の前方からの斜視図、(B)は水平向き変更調節手段の構成部品が吊支体の上部に装着された状態の前方からの斜視図である。
【図14】操作部材の内面から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[昇降体の昇降装置の構成]
次に、図面を参照しながら本発明の肘掛け装置の構成について説明する。図1〜図4に示すように、肘掛け装置1は椅子の座体や座受け体(不図示)の左右両側に基端部が取付けられる肘支柱2とこの肘支柱2に対して上下動自在に装着される昇降体3とを備えている。昇降体3の上端部には、後述するように、肘当て部材4が横方向(昇降体3の昇降方向と交叉(直交)する方向)に回動して向きを調節保持可能とするように取付けられている。なお、肘当て部材4は肘当て基体4aとその上面を覆うように嵌合している肘当てパッド体4bとからなる。以下、左右とは椅子の座体に座る人から見て左右方向を言い、前後(前後方向)とは前記左右方向に対し直交する方向を言い、前(前方向)とは座体に座る人の前側を言う。
【0018】
肘支柱2の基端部2aが横方向に延びる。基端部2aから上方に略直線的に延びる支柱部2bは、ほぼ円筒状の昇降体3が上下動自在に装着される円筒状に形成されている。
【0019】
支柱部2bの内径には、上下に貫通する嵌合孔5が形成されており、この嵌合孔5にスペーサ部材6が挿入固定され、そのスペーサ部材6の内径部に昇降体3が上下動自在に挿入される。実施例では、スペーサ部材6は嵌合孔5の中心軸線に沿って2分割された一対の半円筒状の半割体6a、6aからなり、両半割体6a、6aを同一形状にすることにより、スペーサ部材6用の金型を1種類のみとしてコストダウンを図ると共に、椅子の左右両側に配置する肘掛け装置に対して組み付け作業の単純化及びスペーサ部材6の誤った取付が発生しないようにしている。
【0020】
図4、図6に示すように、半割体6aの上端部には支柱部2bの上端から下方に落ちないようにする半円環状の鍔部7が形成されている。双方の鍔部7の半割端面の一方に突起8aを、半割端面の他方に係合凹所8bをそれぞれ形成する(図6では、一方の半割体6aについてのみ示されている)ことにより、一対の半割体6a、6aを合わせると、一方の半割体6aにおける突起8aと他方の半割体6aにおける係合凹所8bとが嵌合して位置ずれしない構造になっている。
【0021】
図4及び図6に示すように、各半割体6aの外周面下部には、支柱部2bの内径(嵌合孔5)の下端に設けられた段付き部9に弾性的に係合する弾性係合爪10が複数設けられている。さらに、各半割体6aにはその長手方向(上下方向)に沿って係合凹部11が適宜の所定間隔にて形成されている。実施例では、各係合凹部11は各半割体6aの半円筒の壁板を貫通している。また、各半割体6aの半円筒の壁板にはその内径側に弾性突出舌12を半割体6aの上下方向に複数個所設けることで、スペーサ部材6の内径部に嵌まって上下動するときの昇降体3のガタつきを防止している。
【0022】
なお、昇降体3の円筒部の外周一側面に、図7に示すように、縦長ガイド溝34aを円筒部の上半部にのみ設ける。他方、この縦長ガイド溝34aと対応する半割体6aの内面上端には縦長ガイド溝34aに嵌まるストッパ突起34bを形成する(図4参照)。これにより、昇降体3の上昇上限位置で、縦長ガイド溝34aがストッパ突起34bに衝突して、それ以上の昇降体3の上昇、ひいては支柱部2bから昇降体3が抜け出すのを阻止することができる。装着順序としては、この昇降体3にスペーサ部材6を外嵌した後にこれらを一体的に支柱部2bの嵌合孔5の上端から挿入する。
【0023】
昇降体3の内径部に配置されるストッパアーム13は、本体13aが上下長手の棒状体であって、その上端部に被支持部14が形成され、ストッパアーム13の下部に係合爪部15が形成されている。係合爪部15がスペーサ部材6における昇降体3の昇降方向に沿って適宜間隔にて形成されている複数の係合凹部11のうち一つに選択的に係合する。係合爪部15と係合凹部11とが請求項に記載の係合部に相当する。ストッパアーム13の本体13aの上下中途部には回動中心となる膨出部16が形成されている。
【0024】
肘当て部材4より下方の昇降体3には、上記被支持部14を昇降体3の昇降方向と交叉する横方向にのみスライド可能に吊支するための吊支部18が設けられた吊支体17が固定されている(図4〜図7、図12、図13参照)。また、昇降体3には、膨出部16を中心にしてストッパアーム13を回動するための回動支持部20が形成されている。さらに、吊支体17に隣接してストッパアーム13の被支持部14を操作するための操作部材21が設けられている。
【0025】
以下に、各部材の詳細な構造について説明する。実施例では、膨出部16は円盤の一部をなすようにストッパアーム13の本体13aと一体的に形成されている。被支持部14及び係合爪部15も同様にストッパアーム13の本体13aと一体的に形成されている。さらに、ストッパアーム13の上下中途部には、係合爪部15の突出する側と反対の側面に、下向きに延びる付勢手段としての棒状のバネ体19が本体と13a一体的に形成されている。吊支体17における吊支部18は、実施例では前後方向に貫通し、且つ被支持部14のスライド方向と交叉する左右両側に凹んだ凹溝22を有しており、吊支部18は吊支体17の下端側に開放され、実質的に断面T型の溝である。図7は被支持部14が吊支部18に嵌まった状態を示すが、取付け順序を示すものではない。
【0026】
被支持部14は吊支部18に対するスライド方向と交叉する左右両側に横向きに突出した突条23が一体的に形成されたものであり、突条23が凹溝22に嵌まった状態でスライド可能である。図示実施例では、ストッパアーム13を回動するための回動支持部20は、膨出部16の外周面のうち吊支部18に近い側の円弧部のみを摺動自在に支持するように形成されている(図5参照)。従って、 ストッパアーム13をその上端の被支持部14を上にして昇降体3の嵌合孔5の下端方向から挿入すると、膨出部16の外周面上半部が回動支持部20に当接してそれ以上上方に行けない。この状態ではストッパアーム13におけるバネ体19は昇降体3の内径部を弾性的押圧し、係合爪部15の先端部は昇降体3の所定位置に穿設された貫通孔24から外に突出し、上述のごとく、スペーサ部材6における任意の1つの係合凹部11に係合爪部15の先端部が係合可能となる。
【0027】
昇降体3の上端部には、少なくとも吊支体17を前方から横向き(昇降体3の昇降方向と直交する方向)に挿入し得る装着孔26が形成されている(図7参照)。なお、実施例では、吊支体17の上部に後述する回動支持体35を装着した状態で装着孔26に挿入可能である。この場合、後述するように、操作部材21のカバー部27の内面から突出している一対の摺接片29の先端の傾斜爪29aが回動支持体35におけるストッパ部32より奥側に忍ばせた状態で回動支持体35と吊支体17とを一体的に装着孔26に挿入する。従って、装着孔26内に被支持部14が臨んだ状態で回動支持体35と共に吊支体17を挿入すると、吊支部18の後端側から被支持部14が嵌まり込み、ストッパアーム13は落下不能に吊支される(図7参照)。従って、装着孔26内に被支持部14が臨んだ状態で回動保持手段30と共に吊支体17を挿入すると、吊支部18の後端側から被支持部14が嵌まり込み、ストッパアーム13は落下不能に吊支される(図4、図5及び図6参照)。
【0028】
ストッパアーム13の被支持部14を操作するための操作部材21は、図1、図5に示すように、昇降体3の上端部であって、装着孔26を前方から塞ぐような円弧状のカバー部27を有し、カバー部27の内面には被支持部14を前方向から押圧するための押圧部28が後向き突出している。また、押圧部28の左右両側には、吊支体17の左右両側面に形成されている前後方向への案内溝31に摺接する一対の弾性体からなる摺接片29が後向き延びる。両摺接片29の先端には、操作部材21を前方に抜け止めするための傾斜爪29aが設けられ、バネ体19の付勢力にてストッパアーム13の被支持部14を介して操作部材21が前方に移動するとき、案内溝31の後端のストッパ部32に傾斜爪29aが当接してそれ以上前方に抜けない構造である。
【0029】
なお、吊支体17の前面から上方に延びて操作部材21のカバー部27の内面と略同じ曲面を有する内カバー部33により回動支持体35の前面や係止ピン38、弾性体37の前側を覆うから、操作部材21のカバー部27の内面と内カバー部33との間に隙間があっても吊支体17の前面しか見えず、回動保持手段30の内部構造を視認することがなくなるため、外観上の美観が優れることになる。
【0030】
[昇降体の昇降操作方法]
上記の構成により、操作部材21のカバー部27を押すと、押圧部28が吊支体17の吊支部18内で被支持部14を後向きに押す。ストッパアーム13はそのバネ体19の付勢力に抗して膨出部16を中心にして回動する。従って、 被支持部14は吊支部18内で後向きにスライドし、ストッパアーム13の下端の係合爪部15は肘支柱2の内径部に固定されているスペーサ部材6の係合凹部11から抜け出し、係合解除され、昇降体3が昇降可能となる。カバー部27を押した状態で、ユーザーが肘当て部材4を持って昇降体3を適宜高さだけ上下させて後、カバー部27から手を離すと、バネ体19の付勢力により係合爪部15が昇降体3の内径側から貫通孔24を介して突出し、係合爪部15はスペーサ部材6の係合凹部11に係合して昇降体3の高さ位置を保持することができる。
【0031】
なお、操作部材21が昇降体3の左右外側に配置されているときは、椅子の左右内側に向けてカバー部27を押すことにより、ストッパアーム13の係合爪部15がスペーサ部材6の係合凹部11から抜け出すように構成すれば良く、吊支体17の吊支部18やストッパアーム13、スペーサ6の向きを変更すれば良い。
【0032】
[肘当て部材の左右方向の回動変更及びその位置保持の構成]
肘当て部材4は、肘当て基体4aとその上側に対して着脱可能に覆う肘当てパッド体4bとを備える。前後方向に長い肘当て部材4の横方向(椅子の左右方向)への向きを回動させて後にその状態を保持するための回動保持手段30は、吊支体17の上に固定する回動支持体35(請求項にいう支持基部に相当)と、その上面側に配置されて肘当て基体4aを抵抗少なく回動支持するための受け座体36(請求項にいう緩衝体に相当)と、回動支持体35の上部の凹所(一例として後述する第2の凹所56)に嵌まるゴムなどの弾性体37と、肘当て基体4aの回動中心となる円筒状の筒部42と、肘当て基体4aに形成されて筒部42の半径よりも大きい半径位置であって筒部42の回動中心と同心状の円弧部43と、この円弧部43に設けられた複数の係合凹部39の一つに選択的に係合する係止ピン38とを有する。
【0033】
実施例では、図11に示すように筒部42の円周の一部に切欠き部44を有し、この切欠き部44を介して筒部42が円弧部43に連通している。円弧部43の内周面にはその円周方向に適宜間隔で設けられた複数の係合凹部39が上下方向に延びる溝状に形成されている。実施例では3つの係合凹部39が設けられ、左右中央位置の係合凹部39に係止ピン38が係合するとき、肘当て部材4の長手方向が椅子の前後方向と平行な向きで姿勢保持される。左右中央位置の係合凹部39に隣接する係合凹部39に係止ピン38が係合するときは、肘当て部材4の向きがほぼ30度程度水平回動した姿勢に保持される。筒部42と円弧部43とが別個独立して設けられている場合には、ボス部46とブロック47とが離間していれば良い。
【0034】
肘当て基体4aの最大回動量を規制するストッパ手段の一実施例として、肘当て基体4aにおける円弧部43が切欠き部44に連通する個所の左右両側の規制面60(図11参照)と、後述する回動支持体35における左右一対の規制部49(図9参照)とが設けられている。即ち、肘当て基体4aを水平回動したとき、相対向する規制部49と規制面60とが当接する個所で、それ以上の肘当て基体4aの回動は規制されるものである(図8の二点鎖線参照)。
【0035】
回動支持体35及び吊支体17は亜鉛合金などの金属材料からなるダイカスト製品であり、受け座体36はポリアセタールなどの摩擦係数の小さい合成樹脂製成形品である。図9に示すように、回動支持体35は座部45とその上面にボス部46とボス部46に連設されたブロック47とを備えている。ブロック47には前方向と上方向とに開放された有底の第1の凹所48が形成され、ブロック47の左右両外側面が規制部49となる。座部45のうち第1の凹所48の下端側の四角状の突起部45aが前向きに突出形成されている。図12(A)、図12(B)に示す吊支体17の座面17aに回動支持体35の座部45が載置され、座面17aに続く嵌合部50に突起部45aが嵌まる。また、座面17aのほぼ中央部から上向きに突出する位置決め突起51が上記ボス部46に穿設された雌ねじ孔52の下端に嵌合する。そして、昇降体3の上端のフランジ部3aにおける左右一対の挿通取付け孔61(図7参照)の上端からのネジ63により、フランジ部3aの下面に対して回動支持体35は固定されるので、上記両者の嵌合で、回動支持体35に対して吊支体17が移動不能に装着される。
【0036】
緩衝体としての受け座体36は昇降体3の上端のフランジ部3aに載置される平らな円環状のフランジ部53と、このフランジ部53の中央部から上向きに突出して上記ボス部46に外嵌する一部切欠き円筒状の軸受部54と、第1の凹所48内に嵌まる受け体55とを有する(図9参照)。上記のようにフランジ部3aの下面側に固定された回動支持体35に対して受け座体36は上方から外嵌させる。従って、受け座体36のフランジ部53はフランジ部3aの上面に載ることになる。なお、図10(A)ではフランジ部3aを図示省略している。受け座体36に肘当て基体4aを載せると、筒部42が軸受部54に外嵌して摺接すると共に、肘当て基体4aの筒部42の下面がフランジ部53に摺接することになる。フランジ部53上面と筒部42の下面との摺接抵抗を少なくするため、フランジ部53上面には複数本の環状の突条リブが設けられている。
【0037】
受け体55には円柱状の第2の凹所56が形成されている。第2の凹所56はその前側面の一部に開放溝57が形成されている(図9参照)。第2の凹所56に円柱状の弾性体37を挿入すれば、弾性体37の円周面の一部が開放溝57の巾内に露出する。開放溝57の巾は係止ピン38の直径に等しく設定されている。開放溝57の下方のフランジ部53には貫通孔58が設けられ、その下方で四角状の突起部45aに有底の支持孔59が穿たれている。開放溝57に配置された上下に延びる係止ピン38はフランジ部53の貫通孔58を介して支持孔59に嵌まる。このとき、係止ピン38の円周のうち背面が弾性体37の円周面の一部と当接した状態で、係止ピン38の円周のうち前面が開放溝57よりも外方向に突出している(図10(A)、図10(B)参照)。支持孔59の直径を係止ピン38の直径よりも若干大きく設定しておくことにより、係止ピン38が開放溝57を挟んで弾性体37の円周面側及びその反対側にのみ振れ動き可能に構成されている。この場合、係止ピン38は支持孔59の個所(係止ピン38の下端)を支点として振れ動きするのである。
【0038】
[本実施例の装着方法]
昇降体3の嵌合孔5の下端からストッパアーム13を挿入し、ストッパアーム13の被支持部14が装着孔26の位置にきたところで、吊支体17の上に回動支持体35を嵌め合わせた状態で装着孔26の前方から差し込む。回動支持体35は昇降体3の上端のフランジ部3aの下面側に位置する。次いで、フランジ部3aにおける左右一対の挿通取付け孔61(図7参照)の上端からネジ63(図4、図6参照)の軸を挿入し、ネジ63を回動支持体35における座部45に設けられた雌ねじ部に螺着すると、昇降体3の上端のフランジ部3aに対して回動支持体35は固定されたことになる。次いで、フランジ部53の上面及び回動支持体35に受け座体36を組み込み、受け座体36の第1の凹所48に弾性体37を嵌め込む。なお、受け座体36の円環状のフランジ部53にはネジ63の頭を逃げるように一対の挿通孔62(図9、図10(B)参照)が設けられている。さらに、肘当て基体4aの筒部42を軸受部54の外周に外嵌する。そのとき、円弧部43の個所に回動支持体35のブロック47や弾性体37を対峙させる。第2の凹所56の開放溝57が左右中央の係合凹部39と対峙した状態で、この係合凹部39と開放溝57と隙間に係止ピン38を上から差し込む。この状態では、係止ピン38が弾性体37により円弧部43の半径外方向(円弧部43の内周面方向)に付勢されることになる。次いで、ワッシャ40を肘当て基体4aの筒部42上に被せ、ボルト41をボス部46における雌ねじ孔52に螺着することで、肘当て基体4aは昇降体3に対して上下方向へ抜け不能、且つ肘当て基体4aの回動中心(ボルト41の軸線に相当)回りに左右横方向に回動可能に装着される(図3、図6参照)。また、ワッシャ40の半径を、係止ピン38の配置位置から肘当て基体4aの回動中心までの距離より若干大きくすることで、係止ピン38の上方への抜けも防止できる(図3参照)。この後は肘当て基体4aの上にパッド部材4bを被せて係止する。
【0039】
上記の構成により、肘当て部材4を横方向に回動するとき、弾性体37により円弧部43の半径外方向に付勢される係止ピン38が係合凹部39の一つに選択的に嵌まることにより、肘当て部材4の長手方向の向きを変更した状態で保持できるのである。そして、肘当て基体4aを水平回動したとき、相対向する規制部49と規制面60とが当接する個所で、それ以上の肘当て基体4aの回動は規制される。規制部49が金属製であるから、肘当て部材4に大きな横向きの外力が作用しても、規制部49を破損させるおそれが無くなる。
【0040】
さらに、肘当て基体4aに形成されて筒部42の半径よりも大きい半径位置であって筒部42の回動中心と同心状の円弧部43と、この円弧部43の円周方向に適宜間隔で設けられた上下に長い係合凹部39の一つに上下に長い係止ピン38が選択的に係合することで、肘当て部材4の回動中心線から係止ピン38と係合凹部39との係合位置までの距離(モーメントの腕長さ)を大きく設定できると共に、係止ピン38と係合凹部39との係合抵抗力も大きくできるから、この係止位置での肘当て部材4の回動モーメントを大きくして、肘当て部材4の位置保持力を可及的に大きくできるという効果を奏する。換言すると、肘当て部材4の前後方向(長手方向)の位置に円弧部43及び係合凹部39並びに係止ピン38と弾性体37を配置することにより、肘当て部材4の巾寸法が小さくても、係止位置での肘当て部材4の回動モーメントを大きくできるという顕著な効果を奏する。
【0041】
なお、上記実施例の受け座体36における受け体55を省略し、ブロック47に形成する第1の凹所48を弾性体37がきっちりと嵌まる形状にしても良い。また、本発明における弾性体37の断面形状は、円形の他、楕円、矩形状、多角形のいずれでも良い。そして、本発明の昇降体3の昇降調節手段は上記に説明した構成以外のものを採用することも可能である。また、本発明の回動保持手段30は昇降体3を有していない肘支柱2にも適用できる。その場合、肘支柱2の上端部に前記実施例の回動支持体35を固定しても良いし、回動支持体35に相当する支持基部を肘支柱2の上端部に一体的に形成しても良い。
【符号の説明】
【0042】
1肘掛け装置
2肘支柱
3昇降体
4肘当て部材
4a肘当て基体
5嵌合孔
6スペーサ部材
11係合凹部
13ストッパアーム
17吊支体
30回動保持手段
35回動基部としての回動支持体
36緩衝体としての受け座体
37弾性体
38係止ピン
39係合凹部
42筒部
43円弧部
48第1の凹所
49規制部
56第2の凹所
60規制面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肘当て部材の向きが肘支柱に対してほぼ水平方向に変更調節可能に装着されてなる肘掛け装置であって、
前記肘当て部材は、肘当て基体とその上側を覆う肘当てパッド体とを備え、
前記肘支柱における上端の支持基部には、前記肘当て基体の回動中心となる筒部の下面と内周面とに摺接する緩衝体が外嵌され、
前記肘当て基体には前記筒部の半径よりも大きい半径位置に前記筒部の回動中心と同心状の円弧部が形成され、
前記円弧部の内周面にはその円周方向に適宜間隔にて複数の係合凹部が形成されており、前記緩衝体または前記支持基部には、前記円弧部の内周面の一側と対峙する方向に開放部を有する凹所が設けられ、この凹所内に配置された弾性体と前記円弧部の内周面との間に係合ピンが介挿されて前記係合ピンが前記弾性体により前記円弧部の内周面方向に付勢され、
前記肘当て部材を前記筒部を中心にして回動させるとき、前記係合凹部の一つと前記係合ピンとが選択的に係合する、肘掛け装置。
【請求項2】
前記係合ピンは前記円弧部の半径方向に変位可能に配置されている、請求項1に記載の肘掛け装置。
【請求項3】
前記筒部はその円周の一部が切欠きされた切欠き部を有し、前記円弧部は前記切欠き部に連通するように形成され、
前記円弧部が前記切欠き部に連通する個所の左右両側と前記支持基部とには、肘当て基体の最大回動量を規制するストッパ手段を設けた、請求項1または2に記載の肘掛け装置。
【請求項4】
前記肘支柱は前記肘当て部材を昇降させる昇降体を備え、前記支持基部は前記昇降体の上端に設けられている、請求項1乃至3のいずれかに記載の肘掛け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−106631(P2013−106631A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251479(P2011−251479)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)