説明

肝前駆細胞の増殖又は分化用細胞外マトリックス成分

肝臓の幹細胞コンパートメント又はニッチに見られる複数の細胞外マトリックス成分上で又はその中で、肝前駆細胞をインビトロで増殖させる方法を提供する。また、培養皿、バイオリアクター又はラボチップを含んで構成される前駆細胞増殖容器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2005年11月16日に出願した米国仮出願第60/736,873号の便益を主張し、そのすべての内容は、参照により本開示に含まれるものである。
【0002】
(技術分野)
本発明は、概略的には、生体外(ex vivo)での肝前駆細胞の増殖又は分化に関する。より詳細には、本発明は、インビトロ(in vitro)で肝前駆細胞(肝幹細胞を含む。)の増殖及び分化の少なくとも一方を可能にする細胞外マトリックス成分の特定及び選択に関する。
【背景技術】
【0003】
肝幹細胞及びその子孫細胞(例えば、肝芽細胞(hepatoblast)及びコミットした前駆細胞)は、強い増殖能力を有している。このため、これらの細胞集団は、人工肝臓又は細胞移植等の細胞治療を行う上での候補として望ましい。しかしながら、このように期待はされているものの、肝臓細胞治療の持つ可能性はまだ最大限実現されるに至っていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その理由の1つは、肝幹細胞及びその子孫細胞(progeny)の生体外増殖に困難性が示されていることにある。肝幹細胞及びその子孫細胞は、インビトロでの増殖には成功しているが、この培養条件では、実験室のベンチからクリニックの現場に移行する条件として最適とは言えない。例えば、幾つかの培養条件では、細胞分裂を大きく遅延させてしまうか又は細胞分化を制御不能に促進してしまい、したがって増殖効率を減少させてしまう。同様に、幾つかの培養条件では、因子(血清又はフィーダー細胞)の添加が必要であって、これによってはコンタミネーションを招く虞があり、人間の治療においてはその用途を制限することとなってしまう。
【0005】
したがって、肝幹細胞及びその子孫細胞の生体外での増殖を亢進可能な培養条件、及び、幹細胞をその適切な発生運命に系統限定可能な条件が望まれている。加えて、これまで必要であったフィーダー細胞が不必要となる培養条件が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様では、肝前駆細胞をインビトロで増殖させる方法を提供する。この方法は、(a)前記肝前駆細胞を分離すること、及び(b)前記分離肝前駆細胞を、肝臓の幹細胞コンパートメントに見られる細胞外マトリックス成分の1つ又は幾つかの組み合わせを含んで構成される層で培養すること、を含んで構成される。この細胞外マトリックス成分は、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、ラミニン、ヒアルロナン、他のグリコサミノグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、又はこれらの組み合わせ、であってもよい。幾つかの態様では、前記層は、他の細胞外マトリックス成分を含んで構成されてもよく、これは、プロテオグリカン(例えば、アグリン、パールカン、インテグリン、ニドジェン、ジストログリカン他)、又は、基底接着分子(basal adhesion molecule)(例えば、フィブロネクチン)、又は他のタンパク質(例えば、エラスチン)、及びこれらの組み合わせ、であってもよい。本発明の好ましい態様では、第1の細胞外マトリックス成分は、III型コラーゲンであり、第2の細胞外マトリックス成分は、ラミニンである。
【0007】
本発明の方法によれば、分離肝前駆細胞は、分離肝幹細胞、分離肝芽細胞、コミットした肝前駆細胞、又はこれらの組み合わせ、であってもよい。同様に、本方法は、肝前駆細胞を、フィーダー細胞の存在下で培養することを更に含んで構成されてもよい。このフィーダー細胞は、胚性、胎児性又は新生児性であってもよく、並びにマウス由来としてもよい。好ましくは、フィーダー細胞は、血管芽細胞である。また、本方法は、肝前駆細胞を無血清培地で培養することを更に含んで構成されてもよい。好ましくは、この無血清培地は、インスリン(5μg/mL)、トランスフェリン/鉄(5μg/mL)、脂質混合物(遊離脂肪酸、高密度リポタンパク質)、低カルシウム(<0.5mM)、及び銅(殆ど又は全く含まない)を含有する。肝前駆細胞は、胎児、新生児、小児又は成体の肝臓から得られる細胞としてもよい。
【0008】
ラミニンの濃度は、約0.1〜約10μg/cm、好ましくは、約0.5〜約5μg/cm、より好ましくは、約0.5μg/cm又は1μg/cm、である。III型又はIV型コラーゲンの濃度は、夫々が約0.1〜約15μg/cm、好ましくは、約0.5〜約8μg/cm、より好ましくは、約1〜約7μg/cmである。
【0009】
本発明の他の態様では、肝前駆細胞を増殖する方法を提供する。この方法は、(a)肝臓の幹細胞コンパートメントに見られる細胞外マトリックス成分を1種以上含んで構成される第1の層を備えること、(b)肝臓の幹細胞コンパートメントに見られる細胞外マトリックス成分の1種以上を含んで構成される第2の層を備えること、及び(c)分離した前記肝前駆細胞を、前記第1及び第2の層の間で培養すること、を含んで構成される。この細胞外マトリックス成分は、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、ラミニン、ヒアルロナン、プロテオグリカン(例えば、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの少なくとも一方)又はこれらの組み合わせであってもよい。幾つかの態様では、前記層は、他の細胞外マトリックス成分を含んで構成されてもよく、これは、他のプロテオグリカン(例えば、アグリン、パールカン、ニドジェン、ジストログリカン)、他の基底接着分子(例えば、フィブロネクチン)、及び他の細胞外マトリックスタンパク質(例えば、エラスチン)並びにこれらの組み合わせであってもよい。本発明の好ましい実施形態では、第1の細胞外マトリックス成分は、III型コラーゲンであり、第2の細胞外マトリックス成分は、ラミニンである。
【0010】
本発明の方法によれば、分離肝前駆細胞は、分離肝幹細胞、分離肝芽細胞、コミット肝前駆細胞、又はこれらの組み合わせ、であってもよい。同様に、肝前駆細胞を、フィーダー細胞として存在する間葉系前駆細胞の存在下で培養することを更に含んで構成されてもよい。このフィーダー細胞は、胚、胎児、新生児、小児又は成体の組織に由来する細胞としてもよく、また、任意の哺乳類種に由来する細胞としてもよい。好ましくは、フィーダー細胞は、血管芽細胞である。好ましくは、血管芽細胞は、肝臓由来の細胞である。また、好ましくは、血管芽細胞は、肝前駆細胞を得た種と同一の種に由来する細胞である。また、本方法は、肝前駆細胞を無血清培地で培養することを更に含んで構成されてもよい。肝前駆細胞は、胎児、新生児、小児又は成体の肝臓から得られてもよい。
【0011】
ラミニンの濃度は、約0.1〜約10μg/cm、好ましくは、約0.5〜約5μg/cm、より好ましくは、約0.5μg/cm又は1μg/cm、である。III型又はIV型コラーゲンの濃度は、夫々が約0.1〜約15μg/cm、好ましくは、約0.5〜約8μg/cm、より好ましくは、約1〜約7μg/cmである。
【0012】
本発明の更に他の態様では、肝前駆細胞を増殖させる容器を提供する。この増殖容器は、(a)容器(例えば、組織培養プレート、ラボチップ(lab chip)、バイオリアクター)及び(b)肝臓の幹細胞コンパートメント又ニッチに見られる細胞外マトリックス成分の少なくとも1種を含んで構成される不溶性物質を含んで構成され、前記不溶性物質は、前記容器の1面又は容器内を実質的に覆うように構成される。
【0013】
当業者であれば、本開示の基になる概念は、本発明の目的を達成するための他の構造、方法及びシステムの基礎として利用可能であることが認識可能である。したがって、本発明の精神及び範囲から逸脱しない限りにおいて、特許請求の範囲には、均等な構造をも含むものとみなされることが重要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態では、肝幹細胞及びその子孫細胞の接着、生存、及び生体外での増殖を容易にする細胞外マトリックス成分を特定している。本明細書において、用語「肝前駆細胞」は、肝幹細胞及びその子孫細胞の両方を包含するものとして広義に定義する。「子孫細胞(progeny)」には、自己複製肝幹細胞、肝芽細胞及びその多能性前駆細胞、並びに、特定の細胞型(例えば、肝実質細胞)への分化にコミットした前駆細胞の両方を含んでも良い。
【0015】
「クローン増殖」は、単一の細胞からの増殖が可能で、親細胞の表現型を保持したまま繰り返し継代培養及び増殖が可能な細胞の成長特性を意味する。「コロニー形成」は、1、2週間で限られた回数の細胞分裂を行い(代表的には5〜7回の細胞分裂)、継代培養(subculture)又は継代(passaging)を行う能力に制限を有する細胞を含む、二倍体実質細胞の有する特性を意味する。「多能性」は、2通り以上の発生運命を伴った複数の娘細胞を形成し得る細胞を示す。「単能性」又は「コミット前駆細胞(committed progenitor)」は、1通りの成体運命を伴った細胞を意味する。
【0016】
肝幹細胞(HSC)は、胎児及び新生児の肝臓のダクタルプレート(ductal plate)(リミットプレート(limiting plate)とも呼ばれる。)内に、並びに小児及び成体の肝臓のヘリング管内に、見られる多能性細胞であり、テロメラーゼの発現から自己複製(参照)の形跡を示し、移植後に成熟肝臓細胞を形成し得る(参照)。この細胞は、EpCAM+、NCAM+、ALB+、CK8/18+、CK19+、CD133/1+であり、試験した全ての造血マーカー(例えば、CD34、CD38、CD45、CD14)、間葉細胞マーカー(CD146、VEGFr、CD31)及びP450の発現又はアルファ‐フェトプロテインには陰性である。このHSCは、肝芽細胞及びコミット(単能性)胆管前駆細胞になることがわかっている。
【0017】
肝芽細胞(HB)は、胎児及び新生児の肝臓の実質組織において見られる多能性細胞で、ヘリング管の端部に繋留された単体又は小さな凝集塊の細胞として確認される。HBは、HSCから誘導される。HBには、HSCに存在する抗原と共通する抗原も多いが、重要な相違点がある。例えば、HBはNCAMではなくICAM1を発現し、また、多量のアルファ‐フェトプロテイン及びP450の胎児型を発現する。このHBは、単能性前駆細胞、コミット肝細胞及び胆管前駆細胞になる。
【0018】
コミット肝前駆細胞は、肝細胞又は胆管系統の単能性前駆細胞である。これらの抗原性特性は、HBのものと重なるが、コミット胆管前駆細胞は、AFPやALBではなくCK19を発現し、一方、コミット肝細胞前駆細胞は、CK19ではなくAFP及びALBを発現する。コミット胆管前駆細胞は、肝幹細胞から直接的に、また肝芽細胞からも、誘導される。
【0019】
間葉細胞(MC)には、様々な間葉細胞型の種々の系統段階の細胞が含まれる。これには、(以下、その成熟細胞を示す。括弧内はその前駆細胞。)間質(間葉系幹細胞)、内皮(血管芽細胞)、星細胞(星細胞前駆細胞)、及び種々の造血細胞(造血幹細胞)が含まれる。
【0020】
本明細書における肝前駆細胞に関する議論や例示は、その大部分をヒト由来細胞集団に関して示すが、本明細書による開示はヒトに限定されるものではない。実際、当業者であれば、本明細書の開示を哺乳類(例えば、マウス、ラット、イヌ等)からの肝前駆細胞の増殖に一般的に適用し得る。したがって、本発明の範囲には、任意の及び全ての哺乳類の肝前駆細胞も包含されるものである。
【0021】
また、本発明によるインビトロ増殖に適した肝前駆細胞は、特定の方法により分離同定されたものに限定されるものではない。例として、肝前駆細胞の分離及び同定方法は、例えば、米国特許第6,069,005号、米国特許出願第09/487,318号、第10/135,700号及び第10/387,547号に開示されており、そのすべての内容は、参照により本開示に含まれるものである。
【0022】
肝幹細胞及び肝芽細胞は、特徴的な抗原性特性を有しているため、上述のプロトコルで分離可能である。例えば、肝幹細胞及び肝芽細胞は、多数の抗原(例えば、サイトケラチン8、18、19、アルブミン、CD133/1、上皮細胞接着分子(EpCAM))を共通で発現し、造血マーカー(例えば、グリコホリンA、CD34、CD38、CD45、CD14)及び間葉細胞マーカー(例えば、CD146、CD31、VEGFr又はKDR)には陰性である。一方で、肝幹細胞及び肝芽細胞の区別は、サイズ(幹細胞は7〜9μm、肝芽細胞は10〜12μm)、培養時の形態学的特長(幹細胞は高密度で形態学的に均一なコロニーを形成し、肝芽細胞は透明なチャネル、仮小管、で分散した索状構造を形成する。)、特定抗原の発現パターンの差異(EpCAMの発現は、肝幹細胞ではその全体におよび、肝芽細胞では細胞表面に限定される。)、又は、特徴的な抗原性特性(N−CAMは肝幹細胞に存在する一方、アルファ‐フェトプロテイン(AFP)及びICAM1は肝芽細胞で発現する。)により可能である。胎児又は新生児の肝臓では、肝幹細胞はダクタルプレート(リミットプレートとも呼ばれる。)内に存在し、一方肝芽細胞は主要な(>80%)実質細胞集団である。小児及び成体組織では、肝幹細胞はヘリング管内に存在し、肝芽細胞はヘリング管の端部に繋留された細胞である。肝芽細胞は、正常組織内では少数の細胞で構成されるが、病変組織(例えば、肝硬変)には多数の細胞(例えば、小結節)で構成される。
【0023】
本発明の発明者は、肝臓の幹細胞ニッチ内又はその周辺に見られる細胞外マトリックス成分が、肝前駆細胞の分化を誘導することなく、該肝前駆細胞を従来技術よりも良好に増殖させ得ることを発見した。以下に詳述するように、肝臓の幹細胞ニッチ内又はその周辺に大量に見られるマトリックス成分で培養した細胞は、マトリックス成分の幾つか(例えば、ラミニン)においては凝集して細胞集塊(スフェロイド)状構造を形成し、他のマトリックス成分(例えば、III型コラーゲン)においては単層に広がる。幹細胞ニッチに見られる細胞外マトリックス成分の特定のタイプは、肝前駆細胞が自己複製モード、即ち対称細胞分裂(娘細胞が親細胞と同一又は略同一)で増殖するために必要なシグナルに共通点を有する。
【0024】
更に、肝幹細胞の成熟は、分化を少なくとも部分的に誘導する特定の組み合わせのマトリックス成分に付随して起こると考えられる。幾つかの細胞外マトリックス成分では、肝前駆細胞は、幾通りかの分化を伴う非対称細胞分裂で増殖することができる。また、完全に成熟した肝臓細胞が見られる肝臓組織の特定の領域に細胞を配置することで、その増殖停止及び完全な分化が引き起こされる。
【0025】
したがって、肝幹細胞をインビトロで未熟型に維持するためには、その肝幹細胞を、胚組織(又は幹細胞ニッチ)内に存在するマトリックス成分で培養する。同様に、成熟組織に見られる(又は豊富に含まれる)マトリックス成分でインビトロ培養するとこれに影響されて、分化が起こり得る。実際に、成熟実質細胞に伴って見られ且つ肝腺房の中心静脈近傍のディッセ腔に位置するマトリックス成分(例えば、I型コラーゲン及び特定の形態のフィブロネクチン)上に平板培養された肝前駆細胞は、緩やかに分裂し、そして肝細胞の発生運命に系統限定されて増殖が止まる。肝前駆細胞は、フィブロネクチンにおいて付着又は生存ができず、付着したものにも、急速なアポトーシス及び細胞死が起こる。しかしながら、肝前駆細胞は、付着、生存及び機能にフィブロネクチンを必要とする子孫を生じる。したがって、細胞外マトリックス成分の特定のタイプ又は化学的性質に必要な条件は、系統に依存し、即ち、細胞の特定の成熟段階と関連する。
【0026】
本発明の範囲は、マトリックス成分の何れか1つ又はそれらの組み合わせに限定されるものではない。本明細書における説明に沿って、本発明は、細胞を生体外で維持して細胞を増殖及び分化させるために利用可能な基材の作成に、幾つか又は全ての細胞外マトリックス成分とその組み合わせを用いることを開示及び教示するものである。これらの成分の多くについては後述するが、簡明のため、ラミニン、IV型コラーゲン及びIII型コラーゲンの少なくとも1つを、胚組織又は幹細胞ニッチに見られる又は豊富に含まれる細胞外マトリックス成分の種類の単なる代表として説明する。
【0027】
限定を意図しない例として、胚性マトリックス成分には、IV型コラーゲン(これには更にα1、α2、α3、α4、α5、α6が含まれる。)及びIII型コラーゲンを含む特定のタイプのコラーゲン、ラミニン(1、γ1、β2、α3、α5が含まれる。)、ヒアルロナン、様々な形態のコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(PG)又はそのグリコサミノグリカン鎖、並びに様々な形態のヘパラン硫酸PG又はそのグリコサミノグリカン鎖(例えば、特定のシンデカン)、が含まれる。限定を意図しない例として、成熟組織で見られるマトリックス成分には、コラーゲン(例えば、I型及びII型)の安定型、様々な形態のフィブロネクチン、ヘパラン硫酸PG(例えば、アグリン、パールカン)、ヘパリンPG、デルマタンPG(例えば、軟骨関連デルマタン硫酸PG)、並びにエラスチンが含まれる。
【0028】
本発明には、種々の細胞培地が適している。成長因子や分化因子を培地に添加するか又は培地から除去すると、細胞増殖や分化の速度に影響が及ぶ。例えば、血清を加えると肝前駆細胞の成長が緩やかになり、肝細胞の発生運命に系統限定が起こり、これと並行して間葉細胞集団(間質及び内皮)の急速な増殖が起こる。上皮成長因子を加えると、肝細胞の発生運命に系統限定が起こる。
【0029】
好ましくは、幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるマトリックス成分は、無血清培地との組み合わせで用いられる。無血清培地は、肝芽細胞用に開発されたもので、米国特許出願第09/678,953号に記載されており、その開示内容はその全体が本明細書に組み込まれるものとする。理論に縛られることを意図するものではないが、現在のところ、一般的にはフィーダー細胞から提供される生存、成長又は増殖に係るシグナルが、本発明のマトリックス成分により多数提供されると考えられる。したがって本発明は、肝前駆細胞の生存率及び増殖能力を維持するために必要であった胚性間質フィーダー細胞のかなりの部分に取って代わり得るものである。
【0030】
以下、本発明の一実施形態を、限定を意図しない例として説明する。
【実施例】
【0031】
(培地及びバッファー)
特に断りのない限り、肝臓組織の処理及び細胞培養の維持には、無血清培地を用いた。この培地は、0.1%ウシ血清アルブミン、フラクションV、ウシホロトランスフェリン(鉄飽和)10μg/mL、インスリン5μg/mL、セレン500μL、L-グルタミン酸5mL、ニコチンアミド270mg、AAS抗生物質5mL、ヒドロコルチゾン500μL、2-メルカプトエタノール1.75μL及び遊離脂肪酸混合物38μLを添加し、米国特許出願第09/678,953号に公開されているように調製した、500mLのRPMI1640を含んで構成される。この培地は、使用前に滅菌し、pHを7.4に調整して用いた。
【0032】
「細胞洗浄バッファー」は、1%ウシ血清アルブミン、セレン500μL及びAAS抗生物質5mLを添加した500mLのRPMI1640を含んで構成される。「酵素消化バッファー」は、IV型コラーゲン60mg及び37℃で溶解したDNase30mgを添加した細胞洗浄バッファー100mLを含んで構成される。
【0033】
(組織収集及び調製)
公認機関(例えば、Advanced Biosciences Resources of Alameda, CA、等)からヒト胎児肝臓組織(在胎齢16〜22週)を得た。組織は可能な限り分離後18時間以内に受け取り、複数のセクションに分けられた肝臓組織片を、また、時には殆ど無傷なままの肝臓を入手した。一般に、組織全体の体積は約4mL〜約12mLであり、大量の赤血球(RBC)を含有する。
【0034】
肝臓を機械的に分離し、その組織を酵素消化バッファーで部分的に消化して、実質細胞塊を得た。この細胞塊を、洗浄して低速で遠心分離し、浮遊している造血細胞を実質的に除去する一方で肝実質細胞を残した。その後、分離した肝臓を、3mLアリコートに分け、夫々に25mLの酵素消化バッファーを加えた。30分間32℃で中程度の撹拌の後、上澄みを除去して4℃で保存した。残りのフラグメント化しなかったペレットを、新しい酵素消化バッファーで更に30分間再消化した。組織フラグメントの酵素消化後、細胞懸濁液を250遠心力(revolutionary centrifugal force、RCF)で遠心分離し、上澄みを除去し、ペレットを等量の細胞洗浄バッファーに再懸濁した。
【0035】
(分離方法)
胎児肝臓からの肝臓細胞懸濁液は、造血細胞(特に、赤血球系細胞)で満たされている。実際に、ヒト胎児肝臓の原細胞懸濁液は、平均するとその6〜9%のみが実質細胞であり、残りは様々な非実質細胞(特に、赤血球系細胞)である。通常の赤血球系細胞除去方法、例えば、溶解バッファー(lysing buffer)を使用する方法では、肝前駆細胞に対して毒性があるので、他の方法が好ましい。例えば、赤血球系細胞は、既に公開されている方法(Lilja et al., 1997、Lilja et al., 1998)を用いて、低速遠心分離を繰り返すことによって、実質細胞から分離することができる。
【0036】
より効果的な他の方法には、補体媒介細胞毒性の使用がある。これを用いれば、候補幹細胞の損失を最小化することができる。コラゲナーゼ消化後、抗ヒト赤血球(RBC)抗体を、細胞懸濁液(1:5000希釈)で、15分間37℃でインキュベートすることもできる。抗体標識赤血球を穿刺及び溶解するために、補体(例えば、低毒性モルモット補体)を加えて(1:3000希釈)、10分間37℃でインキュベートする。細胞上澄みは、赤血球から放出されたヘモグロビンでピンク色がかる。造血細胞からの上澄みは、実質細胞を少なくとも80〜90%含む。
【0037】
そして、造血細胞を追い出して得た上澄みで、2回目の酵素消化を新しいコラゲナーゼ溶液中で30分間行って、細胞塊を最小化し、その後75μmナイロンフルイで篩にかけた。トリパンブルー排除法による概算細胞生存率は、常に95%を超えた。ろ過後、多くの肝芽細胞は、1凝集塊あたり4〜8個の細胞を含む細胞塊として可視化された。これらの技術をあわせると、赤血球を含まずに肝実質細胞を豊富に含む細胞懸濁液を作成することができる。
【0038】
更に、肝芽細胞を分離するための濃縮プロトコルには、フィコール分画法(Ficoll Fractionation)が含まれる。簡単に説明すると、細胞をフェノールレッドを含まない基本培地10mLに懸濁して、50mL遠心分離管内で、等体積のFicoll−Paque(Amersham Pharmacia社)上に重層する。続いて、細胞を1000×gで25分間遠心分離し、その後界面部分及びペレット状細胞の両方を収集する。フィコール分画法により、一般的には80%超の実質細胞(基本的には全てが肝芽細胞)によるペレットと、実質細胞、肝芽細胞及び内皮細胞を示す種々の抗原性特性を有する原細胞集団の界面部分(13〜14%)とが得られる。フィコール界面部分の細胞からは、原細胞懸濁液に比べて10倍にあたる0.1%のダクタルプレート細胞のコロニーが得られる。フィコール分画法により得られる結果物は、肝芽細胞の分離については処理毎に一致するが、幹細胞の分離においては、調製処理毎の変動がより大きくなる傾向にある。
【0039】
肝幹細胞(ダクタルプレート細胞)や他の亜集団を濃縮する又は分離する技術として、他に免疫選択がある。好ましい免疫選択プロトコルでは、細胞において強く発現する抗原(例えば、全ての肝前駆細胞に見られるEpCAM)、及び、肝前駆細胞の亜集団において発現する他の抗原(例えば、ダクタルプレート細胞のNCAM)を用いる。上述の処理として、免疫選択ではなく、多様にある他の方法を用いることもでき、血球計算器、パニング、又は免疫磁性ビーズを用いてもよい。
【0040】
磁気免疫選択(Magnetic Immunoselection)は、ヒト肝臓の細胞懸濁液から、例えばEpCAMを発現する細胞を、磁気マイクロビーズに結合したモノクローナル抗体HEA125と、Miltenyi Biotec社(Bergisch Gladbach, Germany)のautoMACSTM又はCliniMACS(登録商標)磁気カラム分離システムとを製造元が推奨するプロトコルに従って用いて分離することを含んで構成される。同様の方法を、NCAM、CD146、KDR(VEGFr)、及びCD133/1細胞の免疫選択にも用いた。
【0041】
(アッセイ)
行った全てのアッセイにおいて、6穴ペトリ皿を用い、1穴あたり0.8×10個の実質細胞を播種した。初期播種後の最初の10時間は、培地に10%ウシ胎仔血清を添加した。平板培養初期に血清を添加すると、組織消化に用いた酵素の不活性化を容易にし、初期の接着を助けると考えられる。その後は、無血清培地のみを用いた。培地は、原則的には24時間間隔で、場合によっては3日間隔で、交換した。特に断りのない限り、実験値は栄養培地体積及び細胞数でノーマライズした。
【0042】
(尿素)
尿素とジアセチルモノキシムの直接相互作用を基にしたアッセイを行って、収集した培地試料の尿素濃度を測定した。標準物質及び試薬は診断キットとしてSigma社から購入した。このキットは、96穴マイクロプレートで使用するために改良した。この改良のために、濃度を希釈した標準物質を最初に調製した。段階希釈を用いて、標準物質濃度を減少させ、0〜30.76mg/dLの濃度範囲の標準物質を得た。その後、血液尿素窒素(bun)酸試薬及びbun呈色試薬を1.3対1.0の割合で混合して、「混合試薬」を作成した。
【0043】
アッセイプロトコルでは、適当な試料(例えば、ブランク、標準物質又はサンプル)9mLをマイクロプレートの各穴に添加し、その後混合試薬100mLを加えた。そして、添加後のマイクロプレートを50℃で約25分間、又は、濃度標準物質において明瞭な標準色変化が見られるまで、加熱した。続いて、マイクロプレートの底を3分間氷冷した。冷却直後に、535nmでの光学濃度分散を、サイトフルオルマルチウェルリーダーを用いて測定した。
【0044】
(アンモニア、NH
NHとブロモフェノールブルー(アンモニア指示薬)との反応による比色分析を、ビトロスDT60IIケミストリーシステム(Ortho-Clinical Diagnostics社, Rochester NY)を用いて行った。その自動プロセスでは、試料は10μL、インキュベート時間は5分、チャンバーは37℃環境とし、605nm吸光度測定キューブが必要とされる。化学分析器へ導入後、スライドは光学濃度分散でラベルされ、キャリブレーション済みの標準物質に対してプロットされた。
【0045】
(グルコース)
ビトロスDT60IIケミストリーシステムは、二重反応シークエンスを用いる。最初に、試料グルコースの酸化をグルコースオキシダーゼで触媒してHを生成する。この反応に続いて、ペルオキシダーゼで触媒して酸化カップリングを行う。これは、色素前駆体の存在下で行い、染色の程度を反射光で測定する。これらアッセイではそれぞれ、適当な試料(例えば、ブランク、標準物質又はサンプル)10μLを各化学スライドに添加する。化学分析器へ導入後、スライドは光学濃度分散でラベルされて、キャリブレーション済みの標準物質に対してプロットされた。
【0046】
(免疫染色)
細胞の免疫染色は、アセトン及びメタノールの50/50混合物を用いて2分間固定し、1xPBSで洗浄し、10%ヤギ血清で45分間ブロックした後に行った。これに、蛍光プローブと接合したヒト1次抗体を加え、1〜8時間室温に置いた。非接合1次抗体を使用した場合は、細胞は蛍光プローブに接合した2次抗体で染色した。
【0047】
(増殖)
肝前駆細胞の増殖は、4x、10x及び20xの倍率の位相差顕微鏡を用いて、コロニーの成長によるサイズ変化を画像化し、巨視的に評価した。低倍率対物レンズは、コロニー全体の観察に用いた。コロニーの画像化を繰り返し、顕微鏡写真を統計比較分析用のMetaMorph Image Softwareでキャリブレーションした既知の寸法でノーマライズして、成長曲線を得た。
【0048】
(組織培養マトリックスの作成)
コントロール試験では、ヒト胎児肝臓細胞を組織培養プラスチック(TCP)上に直接播種した(図1(i))。フィブロネクチンプレートを、3種の異なる濃度(0.5、1.0、又は2g/cm)で作成し、pH7.5に調節した。I型コラーゲンプレートを、1〜1.5mg/mLの濃度で作成した。このプレート作成のために、10xDMEM及び0.1MNaOHを所定の割合で添加して、高密度Vitrogen100(Cohesion Technologies社, Palo Alto, CA)を、液体I型コラーゲンに変更した。より詳細に説明すると、一実施形態を示す図1(ii)に示すように、0.1MNaOH0.25mL、10xDMEM又はPBS0.25mL、1.5mg/mLのVitrogen100を組み合わせ、4℃で穏やかに混合して、均一溶液を作成する。このプロセスでは、新しく生成するI型コラーゲン懸濁液に気泡が生じないようにすることが望ましい。これは、空隙がコラーゲンを不安定化する可能性があるためである。
【0049】
I型コラーゲン懸濁液を、平板(FP)及び「サンドイッチ」の両配置において、それぞれ図1(iii)及び(iv)に示すように、ペトリウェル表面をプレコートするために用いた。FPは、6穴プレートの各ウェルにI型コラーゲン懸濁液0.4mLを加えて作成した。I型コラーゲン懸濁液を、37℃、5%COの条件下で1時間置いてゲル化させた。ゲル化完了により、プレート又はウェルに肝先駆細胞を入れる準備が整った。
【0050】
サンドイッチプレートは、FPと同様の方法で作成してもよい。しかしここでは、細胞を「サンドイッチ」するために、コラーゲン懸濁液の第2層を、細胞を接着させたFP上に注いだ。FPと同様に、サンドイッチプレートを、37℃、5%COで1時間の条件でインキュベーターでゲル化させ、新しいコラーゲン上層を固めた。ゲル化後、無血清培地0.5mLを栄養分を補うために添加した。
【0051】
ラミニンコートプレートを、2種の異なる濃度(0.52と1.0μg/cm)で作成し、pH7.5に調節した。ディッシュ上のコラーゲンコーティングを5種の異なるタンパク質濃度(2.1、4.2、6.3、8.3又は10.4μg/cm)の1つを用いて作成した。コーティング後、37℃、5%COで10時間の条件でマトリックスを付着させた。コーティングプロセスを図2に示した。ここでは、ランダムなマトリックス分子を、ディッシュ内の酢酸バッファー内に不均一に分布させた。マトリックス分子は約10時間以内に安定化して、ウェル表面に単一の均一な層として付着した。続いてこのプレートを、2時間UV滅菌し、1xPBSで洗浄して酸性のpHを中性にした。III型コラーゲンプレートをpH3の酢酸を用いて同様に作成し、IV型コラーゲンプレートを0.5M酢酸を用いて同様に作成した。
【0052】
III型コラーゲン及びラミニンの組み合わせによるプレートを、TCP表面上に、夫々の濃度が6.25μg/cm及び0.52μg/cmとなるように一緒にプレート化した。IV型コラーゲン及びラミニンは、TCP表面上に、夫々の濃度が4.2μg/cm及び1.0μg/cmとなるように一緒にプレート化した。
【0053】
(肝臓の幹細胞コンパートメント中のマトリックス成分の特定)
幹細胞コンパートメント中のマトリックス成分は、胎児肝臓セクションについては免疫組織化学によってインビボで特定し、胚性間葉フィーダー細胞により生成されるマトリックス成分についてはアッセイを行ってインビトロで特定した。この実験では細胞の例として、肝幹細胞の天然間葉系パートナーである血管芽細胞、及びネズミ胚性間質フィーダー(例えば、STO細胞)を用いた。表1に示すように、本実験では、フィーダー細胞(例えば、血管芽細胞及びSTOフィーダー)がラミニン、III型コラーゲン及びIV型コラーゲン、ヒアルロナン並びにヘパラン硫酸プロテオグリカンを生成することが確認された。尚、肝幹細胞は、特定されたヒアルロナン(図3)及びコラーゲンの両方に対してレセプターを有している。
【0054】
【表1】

【0055】
より詳細な比較検査の結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2における試験では、ヒト肝幹細胞の反応を、細胞接着、細胞生存、培養時の幾何学的構造、特徴的なコロニー構造、分裂速度、免疫組織化学的反応、並びにグルコース及び尿素の生成機能を含めて示した。細胞接着に関しては、ヒト肝幹細胞は、ラミニン又はIII型若しくはIV型コラーゲン又は成体基材I型コラーゲン上で培養されると、細胞‐マトリックス間相互作用を形成した。弱い接着が観察された基材は、フィブロネクチンのみであった。更に、フィブロネクチンを除く全てのマトリックス基材において、10日を越える細胞の生存が確認された。フィブロネクチンでは、接着した僅かな細胞においてアポトーシスが急激に促進された。成熟実質細胞では、接着、生存及び機能発現にフィブロネクチンが必要とされるので、この結果は注目に値するものである。
【0058】
続いて、培養時の幾何学的構造を観察した。ラミニン及びフィブロネクチンは、三次元スフェロイド状の集塊を誘導したのに対し、他の基材は細胞の単層を誘導した。更に、ラミニン、III型コラーゲン及びIV型コラーゲン上に平板培養した細胞では、クローン増殖が観察された。一方、I型コラーゲンでは、コロニーの形成が観察され、フィブロネクチンでは、成長は見られなかった。更に、III型コラーゲンでは、分裂速度は約24時間未満に誘導され、一方I型コラーゲンに播種された細胞では、分裂速度は低下しその後増殖が停止して、生存可能で機能性を有した状態に維持された。
【0059】
また、アルブミン(ALB)、サイトケラチン19(CK19)、α‐フェトプロテイン(AFP)、E‐カドヘリン(E−CAD)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、神経細胞接着分子(NCAM)並びにサイトケラチン8及び18(CK8及び18)についての免疫組織化学反応も比較した。最も多い陽性反応は、NCAM+、EpCAM(++)、ALB(+)並びにCK8及びCK18(+)で示されるものである。興味深いことに、CK19は、ラミニン、III型コラーゲン、IV型コラーゲンで培養された幹細胞では強く発現されたのに対し、I型コラーゲン及びフィブロネクチンで平板培養された細胞では陰性であった。この結果からは、初期の両能性活性が、成熟組織に豊富に存在するマトリックス成分によって系統限定されることが示唆される。更に、I型コラーゲン上の細胞の高AFP及びALB活性は、実質細胞にコミット肝細胞前駆細胞への系統限定が起こっていることを示しており、この結果は、グルコース及び尿素生成の発現を強く示すデータにより支持実証されている。
【0060】
ここで、TCP表面に直接平板培養された肝前駆細胞に戻る。ヒト肝芽細胞及び肝幹細胞とその関連間葉細胞パートナーの形態学的特徴について、31日間の経時観察を行った。0日目に、肝臓細胞をTCP表面に均一に分布させた。図4Aにおいて20x顕微鏡写真に示すように、初期肝芽細胞(h)集団は、3〜8個の肝芽細胞のスフェロイド状集塊として形成され(ダブルトラック矢印、下向き)、また、単体の細胞(シングルトラック矢印、上向き)も観察された。同図において、平均直径約10μm〜約12μmの細胞を肝芽細胞と同定し、直径が約10μm未満の小さな細胞を間葉細胞、残留RBC又は肝幹細胞とみなした。この細胞培養では、表面に多数の不均一なスフェロイド集塊の付着を伴っており、コンフルエント(集密)ではなかった。
【0061】
培養5日目までに、残留RBCはTCP表面から剥離し死滅した。残りの細胞集団は、大部分は肝芽細胞及び種々の間葉細胞(mcs)であり、図4Bに示すように、夫々形態学的に安定した。肝芽細胞集団が扁平化し、分散し、また、細胞同士が接触し始めたことから示されるように、この安定化により肝芽細胞(h)培養の集密性が促進された。更に、肝芽細胞は、膜の鮮明な輪郭及び滑らかな細胞質特徴による良好な細胞識別性を保持した。加えて、肝芽細胞及び間葉細胞の細胞型間の共培養による相互作用は、その離散した僅かな境界部分に限定されていた。
【0062】
15日目(図4C)までに、肝芽細胞は、老化した細胞の特徴と一致する「粒状」膜及び細胞質特徴を有した。加えて、肝芽細胞及び間葉細胞間の比は等しくなり、非実質細胞が肝芽細胞を排除することで、表面積を占めていることを示唆している。この結果は、よく知られた「線維芽細胞の過成長(overgrowth)」現象に類似しており、これは、培地に血清が無添加であっても起こる。これらの変化から、TCP培養条件は間葉細胞の増殖を促進するが、肝芽細胞の増殖及び生存には好ましくないことが示された。実際に、図4Dにおいて20x顕微鏡写真に示すように、31日目には、肝芽細胞は死滅するか、又は、培養表面を圧倒的に占める間葉細胞の足場に再編成された。
【0063】
次に、ヒト肝前駆細胞について、TCPのみと、I型コラーゲンゲルを用いたFP又はサンドイッチ配置とで培養された場合を比較する。図5に、培養10日目を示す。図5Aに示す培養時のコントロールである「TCP上の細胞」では、肝芽細胞(h)が、粒状の細胞質特徴と不明瞭な細胞境界を有することが示された。加えて、間葉細胞(mcs)は、大部分は内皮及びストーマであり、この間葉細胞により肝芽細胞のコロニーが囲まれた。プラスチック上の肝芽細胞(h)の外見は、同じ培養時間におけるI型コラーゲン上(FP)に播種されたものと著しく異なった(図5B)。肝芽細胞は、明確な細胞境界と平滑な細胞質、即ち、安定な肝芽細胞の特徴を示した。加えて、間葉細胞では、増殖に制限が見られたが細胞境界の顕著な特徴は保持された。
【0064】
図4Cに示したサンドイッチ配置を用いた肝芽細胞培養では、細胞間接触の確立、明確な細胞境界、並びに、アルブミン(赤)及びCK19(緑)の発現による免疫染色から明らかであるような肝細胞及び胆管機能の二重発現、が示された。この結果は、この前駆細胞集団における両能性の安定化を示している。
【0065】
尿素は、成熟した肝臓の細胞により特異的に生成される。したがって、その発現が、組織特異的な遺伝子発現及び顕著な程度の分化を示すことになる。したがって、未熟肝細胞の分化の程度をインビトロマトリックスタンパク質の関数として調べるために、培養後数時間の培地中の尿素の濃度を測定した。
【0066】
図6は、胚及び胎児の肝臓組織の主要な細胞外マトリックスで培養した肝芽細胞を示す。これらインビボマトリックスの部分的な一覧には、III型コラーゲン(黒四角形)、IV型コラーゲン(黒丸)、ラミニン(白丸)、IV型コラーゲン‐ラミニン混合物(白逆三角形)が含まれ、これらをTCPコントロール(黒逆三角形)と比較分析した。尿素分析用に、肝芽細胞を1〜5日目までモニタし、ノーマライズした尿素の結果を縦軸に示した。
【0067】
全体的には、TCP上のコントロール細胞(黒逆三角形)は、試験を通して活性が低く、最大及び最小尿素値は、夫々5.5×10−6及び1.5×10−6mg/dLであった。より詳細には、肝芽細胞を播種した1日目には、「IV型コラーゲン」又は「IV型コラーゲン及びラミニン混合物」においてすぐに相違が見られ、尿素レベルは9.5×10−6mg/dLであった。分析した他の培養では、尿素レベルは5.3×10−6mg/dL付近を示し、即ち高活性及び着性肝芽細胞間の偏差は56%であった。1日目と2日目との結果では、尿素曲線に僅かな減少が見られた「IV型コラーゲン及びラミニン」播種肝芽細胞を除いて、殆ど変化は見られなかった。しかしながら、3日目までに、IV型コラーゲン(黒丸)培養では、1.2×10−5mg/dLに達する最も良好な尿素機能活性を示し、その一方で他の培養では33%低い尿素レベルを発現した。5日目までに、全ての尿素濃度は、共に最低尿素発現レベルである2×10−6mg/dLに収束した。尿素発現はアンモニア因子を必要とするので、この結果は、培養培地でアンモニアが枯渇したことを示唆している。
【0068】
尿素の生成を、「細胞1個あたり」の尿素濃度で表した(図6B)。プロットは、24時間毎の尿素濃度を表し、次のようにラベルをした。即ち、黒丸データは、TCP上の肝芽細胞(コントロール)、白丸データは、I型コラーゲンに播種培養した肝芽細胞(平板、FP)、及び灰色三角形データは、I型コラーゲン層間で培養した肝芽細胞(サンドイッチ配置)を示す。このようにして、経時評価を、培養3〜6日目について分析した。
【0069】
各培養系において示されるように、尿素濃度レベルは3日目に高く、実験を通して連続的に減少した。また、コントロールでは、実験全体を通じて尿素レベルが低くなった。FP及びサンドイッチ配置で培養した肝芽細胞は、3日目及び4日目にそれぞれ8.0×10−5及び5.0×10−6mg/dLと、同等の活性を示した。これは、培養プラスチック上に培養したコントロールと比較して、活性がおよそ80%向上したことを示す。同様に、平板培養系では、5日目及び6日目において肝芽細胞がより高い活性を示すことが分かった。肝芽細胞FP活性は、サンドイッチ配置によるよりもおよそ8%良好な活性を示し、TCP分析培養よりもおよそ115%良好な活性を示した。
【0070】
種々のマトリックスに播種した細胞の機能活性を、更に2つのアッセイを用いて比較した。図7は、日最高尿素活性を示した3日目(図6)における、グルコース及びアンモニア生成をそれぞれ示す。図7Aにおけるグルコース比較では、各バーを、TCP培養コントロールレベルは黒(1.5×10−3mg/dL)、I型コラーゲンFP培養レベルは白(1.63×10−3mg/dL)、サンドイッチI型コラーゲン培養レベルは灰色(2.6×10−3mg/dL)で示した。サンドイッチとTCP又はFP培養との比較では、サンドイッチ培養が他の細胞培養系の反応よりもおよそ64%高いグルコースレベルを示した。
【0071】
図7Bは、アンモニア蓄積について、TCP培養では4.5×10−3mmol/L、FP系では2.8×10−3mmol/L、サンドイッチコラーゲン系では、2.6×10−3mmol/Lの濃度程度を示している。FP及びサンドイッチ培養は、低アンモニアレベルを示し、コントロールは、およそ60%大きな程度のアンモニアレベルを示した。
【0072】
図8に示すように、肝芽細胞は、その基材の化学的性質により表される形態学的な変化を示した。図8のA1、B1、C1は、低倍率画像で、10日培養後の表面全体の特徴を示す。図8のA2、B2、C2は、高倍率画像で、上記培養の詳細な形態学的特徴を示す。図8A1では、肝臓細胞の播種前に、ペトリ皿の表面を6.25mg/cmIII型コラーゲンでプレコートした。10日目に、相互に接続した大量の組織及び凝集してゲル化した基材が確立された。加えて、この培養は、発達して間もないランダムに分布した無細胞の及び環状の細区画を示した。より詳細に画像分析するために、図8A2の顕微鏡写真として、図8A1の部分拡大図を示す。このように促進されることで、密接にグループ化されたパターンのヒト肝芽細胞ネットワークが示された。
【0073】
この細胞‐環境間作用と比較するために、図8B1及びB2に示すように、肝芽細胞ストックを0.52mg/cmのラミニンコートペトリ皿表面で培養した。図8B1では、セグメント化された大量の「白斑」が播種表面全体に分散した。これらのグループは、図8B2において、細長スフェロイド‐表面間の接触を有する密接にコンパクトなスフェロイド集塊として確認された。スフェロイドが成長して、培地の力がシフトして巨大なスフェロイドを傾かせると、表面接着結合の多くは壊れ、細胞は培地から洗い出される。しかしながら、スフェロイドをI型コラーゲン及びIII型コラーゲン基材上に移植して、細胞接着を、それに引き続いて分散を、再び誘導させることができる。
【0074】
細胞‐マトリックス間作用に関する3つ目の比較では、同一の胎児肝臓細胞を、III型コラーゲン及びラミニン(濃度は夫々6.25及び0.52mg/cm)によるプレコートペトリ皿表面で培養した。図8C1において示されるように、培養作用全体からは相互に接続した大量の組織が白い背景によって示された。組織及びマトリックス成分を含まない不均一無細胞領域も示された。同様に、図8C2は、活性で安定な肝芽細胞及び非実質細胞の共培養を示している。細胞の大多数は、「丸石」培養配列の肝芽細胞であった。加えて、境界相互作用の幾つかでは、実質細胞及び非実質細胞パートナーが観察された。
【0075】
胚組織中に豊富に見られるマトリックス基材(例えば、ラミニン並びにIII型及びIV型コラーゲン)の使用は、肝芽細胞の特異的な形態学的及び機能的変化を誘導し、肝幹細胞(HSC)、肝芽細胞の前駆細胞を選択した。図9は、TCP、ラミニン、III型コラーゲン及びIV型コラーゲン表面に播種し、3〜10日培養した胎児肝臓細胞の形態を示している。3日目の10x画像を、TCP3、ラミニン3、III型コラーゲン3及びIV型コラーゲン3とし、10日目の4x画像を、TCP10、ラミニン10、III型コラーゲン10及びIV型コラーゲン10とする。
【0076】
3日目:コントロールであるTCP3コロニーは、多数の肝芽細胞(h)と少数の非実質細胞(np)とを示した。これに対して、ラミニンでの培養3日目では、大部分が肝芽細胞で構成され、細胞接着し細胞伸展を亢進させた細胞は殆ど見られなかった。一方、III型コラーゲン上の細胞からは、肝幹細胞が選択された。肝幹細胞のコロニーは、複数の細胞が密集し、形態学的に均一で倍加時間が1.2日のものとして認められた。細胞は、HSC特異抗原を特徴的に発現した(例えば、EpCAM+、NCAM+、アルブミン+、AFP−、CK19+、CK8+及び18+)。更に、HSCコロニー細胞は、細胞質の大部分を占める核と共に、7〜9mmの範囲の特徴的な直径を有した。このコロニー細胞は、およそ3日目で形成され、周囲は肝芽細胞に囲まれたままであった。更に、IV型コラーゲンに播種した肝臓細胞は、発達初期の小さな2つのHSCコロニーを伴って、培養表面全体に多数の肝芽細胞を示した。
【0077】
10日目:10日目の結果を示す顕微鏡写真は、幾つかのHSCコロニーの全体を画像化できるように倍率を4xとして撮影した。TCP10コントロール培養では、小HSCコロニーが発達し、多数の肝芽細胞に囲まれたままであった。この小コロニーは、外側が厚い明確な稜線と凸型の中央部とを有していた。ラミニン10培養では、肝芽細胞は、固く結合し合った小集塊に凝集し、スフェロイド状の3次元構造と小直径コロニー内には厚い複数の組織層とを形成した。III型コラーゲン10培養では、外見的には他の細胞種の存在を排除しているように見える密集した細胞間相互作用として維持される大量の「扁平及び分散」したHSCコロニーが含まれた。この顕微鏡写真には、HSC増殖コロニー間に肝芽細胞が殆ど存在していないことが示されている。最後に、IV型コラーゲン10培養では、肝芽細胞及び新規に現れたHSCコロニーの両方が含まれ、特徴的なコロニー境界と隆起した境界部分の稜線とを有した。
【0078】
図10に、HSCコロニーについてより詳細に行った研究を示す。これらの図では、接着基材は、4.15μg/cmでコートしたIV型コラーゲンであり、肝幹細胞コロニーは12日目に撮像した。図に示されるように、このコロニーの周辺又はその他顕微鏡写真内のどこにおいても、他の細胞表現型は殆ど見られなかった。したがって、この環境は、特定の細胞種を選択し得ると考えることができる。図10Aに示す10x顕微鏡写真に先立って、HSCコロニーを4日目〜11日目について視覚的にモニタした。この間、固く密集したHSCは、細胞10個未満の小集塊として組織され、図10Aに丸で囲った領域に示されるように、増殖して細胞を数百〜数千個含む大コロニーになった。
【0079】
しかし、12日目において、及び8時間周期で、HSCコロニー端部で分化細胞の2つの特徴的な「出現」又は成長が起こり、肝芽細胞の代表的な抗原性及び形態学的特性を有する細胞になった。この成長は、大きな直径と特徴的なチャネル(毛細胆管)を有し緩く集められた分化細胞として識別可能である。図10Bには、細胞成長の中心に焦点を置いた20x顕微鏡写真を示す。同図において、肝前駆細胞の成長では、15〜21nmの直径、核に対する細胞質の比率の増加、単一の核、並びに明確な細胞境界及び細胞外マトリックス分離で維持された細胞間接触を有した。また、HSCコロニーから出現する分化細胞の形態学的トラッキングでは、増殖の最初の8時間で、1200個の新規細胞が示された。
【0080】
門脈周囲帯及び肝臓の幹細胞ニッチにおけるマトリックス成分は、成熟実質細胞と関連して見つかるものとは異なり、ヒト肝幹細胞又は前駆細胞の精製亜集団とは異なる生物学的反応を誘導する。これらの相違点により、細胞の反応及び活性動的発現の変更に係る多様なシグナルが提供され得ると考えられる。細胞外マトリックス成分の種類毎にインビボ及びインビトロで誘導する細胞活性がどのように異なるのかを測定することで、病変組織の交換又は再増殖用のHSC集団を増殖及び分化するための微小環境をインビトロで再現することができる。
【0081】
以上のように、移植細胞により臓器全体をまとめて交換する必要がなくなる。更に、インビトロ装置、例えばバイオリアクターにおいて、適切な細胞外マトリックス及び可溶性シグナル伝達環境に包まれた肝前駆細胞を播種して、装置の各小コンパートメントに多様な組織構造を配置するようにしてもよい。このように、バイオ人工装置を、薬理学研究及びワクチン開発に、また、臓器不全と臓器移植との橋渡しとして利用することができる。実際、これらの研究により得られた結果から、上述の細胞の利用が、細胞治療及びバイオリアクター装置を用いた治療の選択肢を現時点で狭めている細胞調達の限界を改善する道となり得ることが示唆される。
【0082】
本発明は、その具体的な実施形態と関連させて記載したが、これを更に変更可能であることは理解され得るものであり、また、この出願は、本発明の如何なる変形、使用又は改変をも含むことを意図していると理解されるものである。一般的に、本発明の原理は、本発明の属する技術分野において知られる又は慣行されるような本開示からの逸脱、及びこれまでに開示され又は特許請求の範囲において示される本質的特徴に適用し得る逸脱をも包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】培養設計系及びコラーゲンマトリックス基材の概略図である。i.)組織培養プラスチック(TCP)表面に肝芽細胞を播種し、栄養培地を補助添加したコントロール培養を示す。ii.)コラーゲンマトリックス基材の確立に用いた各要素の割合の1つを示す。iii.)肝芽細胞を播種したコラーゲンの平板配置を示す。iv.)コラーゲン及び肝芽細胞の「サンドイッチ」配置を示す。
【図2】TCP表面上のマトリックス単層に適用する技術の概略図である。v.)表面をプレコートするための初期工程を示す。ここでは、マトリックス分子が一定期間表面上に不均一に分散する。vi.)滅菌プロセスを示す。vii.)コラーゲンゲル又は原線維の確立操作において酸性になったpHを、1×PBSで3回洗浄して中性にすることを示す。viii.)マトリックスに肝臓細胞を単層として播種し、栄養培地を補助添加した最終生成物を示す。
【図3】STO5培養に見られるマトリックス成分の免疫組織化学結果を顕微鏡写真により示す図である。
【図4】培養0、5、15及び31日目の肝臓細胞の特徴を経時的に示す20x顕微鏡写真である。Aは、0日目における、大細胞塊の肝芽細胞とその内で分散した複数の単一細胞とを示し、Bは、5日目における、コンフルエントな肝芽細胞とそれに付随した間葉細胞とを示し、Cは、15日目における、肝芽細胞及び間葉細胞が同量である状態を示し、Dは、31日目における、間葉細胞が豊富な状態を示す。
【図5】コントロールTCP、平板、サンドイッチの各設計系で培養したヒト胎児肝臓細胞の培養10日目の10x顕微鏡写真を示す図である。A)コントロール培養の反応、即ち、間葉(np)細胞に囲まれた肝芽細胞(h)を示す。B)平板培養の反応、即ち、少数の間葉細胞を伴う肝芽細胞(h)コロニーを示す。C)サンドイッチ培養の反応、即ち、アルブミン(赤)及びCK19(緑)に免疫染色した肝芽細胞(h)コロニーを示す。
【図6】種々のマトリックスにおける細胞成長による尿素生成を示す図である。A)III型コラーゲン(黒四角形)、IV型コラーゲン(黒丸)、ラミニン(白丸)、及びIV型コラーゲン‐ラミニン混合物(白逆三角形)で培養した肝芽細胞において見られる尿素機能を分析し、プラスチックコントロール(黒逆三角形)と比較して示す。B)TCP(黒丸)、平板I型コラーゲン(白丸)及びサンドイッチI型コラーゲン(白逆三角形)で培養した肝芽細胞の尿素機能を示す。
【図7】種々のマトリックスで成長した細胞によるグルコース及びアンモニア生成を示す図である。A)コントロールTCP(黒)、平板(白)、サンドイッチ(灰)の各設計系で培養した肝芽細胞のグルコース肝臓機能を示す。B)コントロールTCP(黒)、平板(白)、サンドイッチ(灰)の各設計系で培養した肝芽細胞のアンモニア肝臓レベルを示す。
【図8】幹細胞ニッチのマトリックス成分において成長する肝臓前駆細胞のインビトロ成長における特徴を示す図である。ここでは、A1)III型コラーゲン、B1)ラミニン及びC1)III型コラーゲン及びラミニン混合物に播種した肝芽細胞のペトリ皿表面全体について、10日間培養画像を示す。比較として、倍率を10xとして上記培地の細胞レベルの反応を観察した(A2、B2、C2)。
【図9】ヒト胎児肝臓細胞を胚性マトリックス基材(III型コラーゲン及びIV型コラーゲン)に播種した後の肝幹細胞コロニーの成長を示す図である。培養3日目の肝芽細胞(h)は、全てのマトリックス基材において、はっきりと確認できる。非実質細胞(np)も、全ての条件下ではっきり確認でき、顕微鏡写真にラベルをした。肝幹細胞は、最初は培養3日目のIII型コラーゲンに見られ、培養10日目では、TCP、III型コラーゲン及びIV型コラーゲンに認められた。
【図10】本発明により選択された肝幹細胞を示す図である。肝芽細胞になる特徴的な細胞種の出現を伴う長期培養の分化ダイナミックスは、12日目にHSCコロニーの端部に現れる。丸で示した領域は、A)3〜11日目に展開したHSCコロニー及びB)8時間周期の出現を示す。
【図11】肝臓細胞ストックをHSC細胞ストックに精製するプロセスを概略的に示す図である。
【図12】継代プロトコルを概略的に示す図である。Aに示すように、最初にHSCをコントロールTCP皿に播種する。次に、Bに示すように、HSCを6穴培養コンテナ内に維持した0.4μm多孔性インサートに継代する。Cは、未処理インサートの平面図である。DはIII型コラーゲンプレコートインサートの平面図である。Eは、インサート表面に継代した細胞の最終生成物を示す。
【図13】A1)TCPに播種した、肝芽細胞に囲まれ凝集したHSC、A2)A1のHSC集塊の拡大図、B1)TCPに播種した、フィコール分画法による精製後のHSC集塊、B2)B1のHSC集塊の拡大図、を夫々示す図である。顕微鏡写真の下の説明表は、免疫蛍光反応を示す。ここでは、高活性(++)、活性(+)、可変(+/−)及び陰性(−)である。
【図14】EpCAM、CK19及びNCAMの免疫蛍光標識を示す図である。EpCAMは、(A1、位相差)及び(A2、蛍光)で高陽性を示している。CK19は、(B1及びC1、位相差)及び(B2、HSC蛍光陰性、及びC2、蛍光陽性)において可変性を示している。NCAMもまた、(D1及びE1、位相差)及び(D2、HSC蛍光陽性/陰性、及びE2、蛍光陽性)において可変性を示している。
【図15】TCP及びBoTr(Bornstein and Traub)I型コラーゲン画分基材(シグマIII型コラーゲン)への播種により形成されたHSCコロニーの数を夫々比較して示す図である。加えて、他の成体マトリックス(I型コラーゲン)及び胎児マトリックス(BDIII型及びIV型コラーゲン)におけるコロニー形成の詳細を示す。
【図16】TCP及びBoTrI型コラーゲン画分基材(シグマIII型コラーゲン)に播種したHSCコロニー増殖の反応を示す図である。図中、矢印は7日目に新たに見られるようになったコロニーを示す。18日目は、4x顕微鏡写真において、BoTr表面に大コロニー集塊を示す。30日目は、播種した両表面において、集塊の解散が見られる。20x詳細顕微鏡写真は、プラスチック、BoTr及び胎児III型及びIV型コラーゲンマトリックスについて示す。
【図17】TCP(黒)又はBoTrI型コラーゲン画分基材(シグマIII型コラーゲン)(灰)に播種したHSCの全集塊による増殖パターンを示す図である。グラフをノーマライズするために、波模様による大きな円形パターンは、総播種表面積(35mmDディッシュ)を示す。BoTrに播種したHSCは、コントロールよりも早く増殖し(5日目)、より大きな被覆面積を達成し(20日目)、表面からの消散がより緩やか(30日目)である。詳細図は、BDからのIII型及びIV型コラーゲン並びにVitrogenからのI型コラーゲンによる異なるマトリックス基材に播種したときのコロニー成長を比較する。
【図18】5〜30日目についてノーマライズした細胞数を示す図であり、対数増殖期の成長(5〜10日目)、飽和密度動態(10〜20日目)、及びコンフルエント後(20〜30日目)における変化を示している。HSC‐BoTr播種培養は、培養期間を通じて、より良好な増殖数を示している。
【図19】細胞増殖の「倍加」又は「漸減」状態について、対数増殖期の成長(5〜10日目)、飽和密度動態(10〜20日目)、及びコンフルエント後(20〜30日目)における変化を示す図である。
【図20】表面4種へのHSCの継代を示す図である。17個のコロニーを始めに継代した。継代後14日のHSCコロニー特性を比較して示す。BoTrI型コラーゲン画分基材(シグマIII型コラーゲン、6μg/cm)に継代したHSCが、最も効果的な環境にあることを示している。
【図21】肝芽細胞(5〜11日目)、HSC及び肝芽細胞(9〜17日目)並びにHSCのみ(12〜30日目)を比較して、ノーマライズしたアルブミン機能を示す図である。
【図22】TCP(黒)及びBoTrI型コラーゲン画分基材(シグマIII型コラーゲン)(薄灰)で培養した肝幹細胞のテロメラーゼ活性レベルを、「ベースライン比較」用HeLa細胞(濃灰)と共に、培養10日目及び20日目について示す図である。A)は、試料の活性をタンパク質レベルでノーマライズして示し、B)は、試料の活性を細胞数でノーマライズして示す。顕微鏡写真は、位相差、ネガティブコントロール、及びテロメラーゼ発現について、同一のヒトHSCを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝前駆細胞をインビトロで増殖させる方法であって、
(a)前記肝前駆細胞を分離すること、及び
(b)前記分離肝前駆細胞を、肝臓の幹細胞コンパートメントに見られる細胞外マトリックス成分の1種以上で培養すること
を含んで構成される方法。
【請求項2】
前記肝臓の前記幹細胞コンパートメントに見られる前記細胞外マトリックス成分は、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、ラミニン、ヒアルロナン又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記肝臓の前記幹細胞コンパートメントに見られる前記細胞外マトリックス成分は、III型コラーゲン、IV型コラーゲン又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記肝前駆細胞は、更に、III型コラーゲン、基底接着分子、プロテオグリカン(PG)、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン、エラスチン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される細胞外マトリックス成分で培養される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記基底接着分子は、フィブロネクチンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記PGは、ヘパラン硫酸PG、コンドロイチン硫酸PG又はこれらの組み合わせである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記グリコサミノグリカンは、ヘパラン硫酸塩、ヘパリン塩、コンドロイチン硫酸塩、デルマタン硫酸塩、ヒアルロナン又はこれらの組み合わせである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞外マトリックス成分は、III型コラーゲン及びラミニンである、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記分離肝前駆細胞は、分離肝幹細胞、分離肝芽細胞、コミット肝前駆細胞又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記分離肝前駆細胞は、分離肝幹細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記肝前駆細胞は、更に、フィーダー細胞の存在下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記フィーダー細胞は、胚性又は胎児性である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記フィーダー細胞は、血管芽細胞又は肝星前駆細胞である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記フィーダー細胞は、任意の哺乳類の組織に由来する細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記フィーダー細胞は、前記肝前駆細胞を得た種と同一の種に由来する細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記フィーダー細胞は、マウスの細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記フィーダー細胞は、STOフィーダー細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
更に、無血清培地で培養することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記肝前駆細胞は、成体肝臓から得た細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記成体肝臓は、ヒト成体肝臓である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ラミニンの濃度は、約0.1〜約10μg/cmである、請求項2に記載の方法。
【請求項22】
前記ラミニンの濃度は、約0.5〜約5μg/cmである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ラミニンの濃度は、約0.5μg/cmである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ラミニンの濃度は、約1μg/cmである、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記III型コラーゲン又は前記IV型コラーゲンの濃度は、夫々が約0.1〜約15μg/cmである、請求項2に記載の方法。
【請求項26】
前記III型コラーゲン又は前記IV型コラーゲンの濃度は、夫々が約0.5〜約8μg/cmである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記III型コラーゲン又は前記IV型コラーゲンの濃度は、夫々が約1〜約7μg/cmである、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
肝前駆細胞を増殖させる方法であって、
(a)肝臓の幹細胞コンパートメントに見られる第1の細胞外マトリックス成分を含んで構成される第1の層を備えること、
(b)肝臓の幹細胞コンパートメントに見られる第2の細胞外マトリックス成分を含んで構成される第2の層を備えること、及び
(c)分離した前記肝前駆細胞を、前記第1及び前記第2の層の間で培養すること
を含んで構成される方法。
【請求項29】
(a)容器及び
(b)肝臓の幹細胞コンパートメントに見られる細胞外マトリックス成分の少なくとも1種を含んで構成される不溶性物質
を含んで構成され、
前記不溶性物質で、前記容器の少なくとも1面が実質的に覆われる
肝前駆細胞の培養容器。
【請求項30】
前記容器は、組織培養プレート、バイオリアクター、ラボセル(lab cell)又はラボチップ(lab chip)である、請求項29に記載の培養容器。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図22】
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【公表番号】特表2009−515558(P2009−515558A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541461(P2008−541461)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/060904
【国際公開番号】WO2007/059501
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(500459410)ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル (16)
【Fターム(参考)】