説明

肝機能を評価するためのバイオマーカー

個体における肝機能を評価する方法であって、個体におけるメチルアルギニン(例えば、ADMAおよび/またはSDMAなど)のレベル、および虚血修飾アルブミン(IMA):アルブミン比(IMAR)を測定することにより、該個体における肝機能を評価することを含む、上記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝機能を評価する方法、具体的には、肝疾患の臨床的予後を予測する方法に関する。本発明はまた、このような方法に用いるためのキット、ならびにこの方法を用いて有害な予後のリスクがあると識別された個体の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
NIHからの統計は、米国において劇症肝不全の患者が毎年3,000人以上存在することを示している。このデータから推定して、西側諸国および開発途上国におけるウイルス性およびアルコール性肝疾患の影響の増加を組み込めば、症例数は全世界で毎年数百万人を超えることになる。
【0003】
アルコール性障害、ウイルス性肝炎、および近年確認された非アルコール性脂肪肝疾患に続発する末期の肝疾患の発生率が世界的に増加し、しかも、肝移植ドナープールの顕著な増加を欠いているために、肝機能が急速に悪化して、支持療法や介入療法を必要とする個体を識別する必要性が明らかに増加してきている。
【発明の概要】
【0004】
本発明者らは、非代償性アルコール性肝硬変患者を検査し、血漿中の2種のメチルアルギニン、すなわち、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)と、その立体異性体である対称性ジメチルアルギニン(SDMA)の血漿レベルがアルコール性肝炎患者および非生存患者において顕著に高いことを確認した。
【0005】
血漿ADMAとSDMAとを合わせた合計はジメチルアルギニンスコア(DAS)と呼ばれ、これもまた、他の公知の生物学的スコアリングシステム、またはいずれかのジメチルアルギニン単独より、アルコール性肝硬変患者において優れた臨床的予後の予測因子であった。
【0006】
従って、高レベルのメチルアルギニンは、アルコール性肝炎患者の有害な予後の重要な生物学的マーカーであり、このような患者は、臓器不全および敗血症の発生率も高い。これらのマーカーは、肝疾患を有する患者、肝移植を受けた患者、ならびに多臓器不全および敗血症を有する患者における進行および予後についての信頼性の高い予測因子として用いることができる。
【0007】
本発明者らは、さらに、アルコール性肝疾患の患者のうち、死亡患者が、顕著に増加した虚血修飾アルブミン(IMA):アルブミン比(または「IMAR」)を有することを確認した。
【0008】
メチルアルギニンレベル、DASおよびIMARが疾患の進行および予後のマーカーであると考えられるにもかかわらず、本発明者らは、組合せバイオマーカーとしてメチルアルギニン測定値をIMARと組み合わせると、予後不良の予測実用性が向上すること、従って、このような組合せにより、死亡リスクを評価する上での予測実用性が提供されることを見出した。具体的には、本発明者らは、組合せバイオマーカーとしてDASをIMARと組み合わせることにより(「DASIMAR」)、死亡リスクを評価するための優れた予測実用性が提供されることを見出した。
【0009】
従って、本発明により個体における肝機能を評価する方法が提供され、この方法は、個体における1種以上のメチルアルギニンのレベル、および虚血修飾アルブミン(IMA):アルブミン比(IMAR)を測定することを含んでいる。
【0010】
本発明はまた、以下:
−個体における肝疾患の予後を予測する方法に用いるのに適した試験キットであって、個体における1種以上のメチルアルギニンのレベル、および/または虚血修飾アルブミン(IMA):アルブミン比(IMAR)を測定する手段を含む上記キット;
−個体における肝疾患の治療方法で用いるための薬剤の製造における物質の使用であって、その際、上記個体は、本発明の方法に従って死亡リスクが増加した者であると識別されている、上記使用;
−個体における肝疾患の治療方法であって、
(i)本発明の方法を用いて、個体が増加した死亡リスクを有するか否かを決定するステップと、
(ii)(i)で死亡リスクを有する者として識別された個体に、肝疾患の治療に有用な物質を治療上有効量で投与するステップ
とを含む上記方法;ならびに、
−治療によるヒトまたは動物身体の治療方法において同時に、個別にまたは逐次使用するための組合せ製品として以下を含む製品:
(i)個体における1種以上のメチルアルギニンのレベル、および虚血修飾アルブミン(IMA):アルブミン比(IMAR)を測定する手段と、
(ii) 肝疾患の治療に有用な物質
を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は患者および健康なボランティアにおけるADMAレベルを示す。(a)肝硬変かつアルコール性肝炎がさらに加わった患者(AH+C+)は、肝硬変のみの患者(AH-C+)と比較して、有意に高いADMAレベルを有する(P<0.001)。全ての肝硬変患者が、健常ボランティアより有意に高いADMAレベルを有した(P<0.001)。(b)非代償性肝硬変を有する入院生存患者(n=39)は、死亡した患者(n=13)より有意に低いADMAレベルを有した;P<0.001。(c)患者の細分析によって、AH+C+生存患者(n=15)の方がAH-C+生存患者(n=24)よりADMAレベルが高いことが明らかにされた;P<0.01。ADMAレベルは、死亡したAH+C+患者(n=12)の方がAH+C+生存患者より高かった(P<0.05)。
【図2】図2は患者および健康なボランティアにおけるSDMAレベルを示す。(a)AH+C+患者は、AH-C+患者と比較して、有意に高いSDMAレベルを有する(P<0.001)。AH-C+患者と健康なボランティアではSDMAレベルに差はなかった。(b)非代償性肝硬変を有する入院生存患者(n=39)は、死亡した患者(n=13)より有意に低いSDMAレベルを有した;P<0.001。(c)患者の細分析によって、死亡したAH+C+患者(n=12)の方がAH+C+生存患者よりSDMAレベルが高いことが明らかにされた;P<0.01。また、AH+C+生存患者(n=15)は、AH-C+(非炎症性肝硬変)生存患者(n=24)と比較して、高いSDMA値を有していた;P<0.01。
【図3】図3はSDMAと比較したADMAを示す。AH+C+患者におけるADMA対SDMAのプロットは、受診者動作特性曲線から得られたSDMAのカットオフ値0.9μmol/Lで、カットオフ値0.65μmol/Lを用いたADMAにより予測される多数の死亡が明らかにされない(斜線部分で示す)ことを示しており、これは予後を決定する上でのADMA+SDMA(DAS)の合計スコアの潜在的利益を示唆するものである。
【図4】図4は生存患者および非生存患者における入院過程中のジメチルアルギニンスコア(DAS)の変化(%)を示す。この図は、DAS[ADMA+SDMA]値に純減少が認められた18人の生存患者(6人のAH+C+患者を含む)の値と比較した、非生存AH+C+患者(n=12)におけるDASの増加(%)を示す(P<0.01)。
【図5】図5は入院時のジメチルアルギニンスコア(DAS)のカプラン−マイヤー生存曲線を示す。この図は、入院時のDAS値<1.23または>1.23(P<0.0005)に基づき、被験アルコール性肝硬変患者全員における入院中の死亡率を比較したカプラン−マイヤー生存分析を示している。DASスコアが高いほど、入院中の死亡リスクが有意に増加する。
【図6】図6はアルコール性肝炎(AH+C+)患者における予後スコア−判別関数(DF)、Child-Pughスコア、末期肝疾患のモデル(MELD)、およびジメチルアルギニンスコア(DAS)について計算した受診者動作特性曲線を示す。DF、Child-Pugh、MELDおよびDASについてのROC曲線を、曲線下面積(AUROC)の記載と共に示す。これらの図から、AH+C+患者のサブグループでは、DAS値は、DASカットオフ1.52を用いれば、死亡について最も信頼性の高い予測因子(AUROC=0.84)(感度73%および特異度83%である)を提供することが明らかである。
【図7】図7はDDAH IIおよびPRMT-1タンパク質発現を示す。被験AH+C+およびAH-C+患者におけるジメチルアルギニン−ジメチルアミノヒドロラーゼ-II(DDAH-II)およびタンパク質−アルギニン−メチルトランスフェラーゼ−1(PRMT-1)発現についての代表的なウエスタンブロットを、ゲルローディングについての対照に対応するα-チューブリンタンパク質ブロットと一緒に示す。評価した患者の生検材料全てのウエスタンブロットでのDDAH IIおよびPRMT-1密度の定量化は、AH+C+およびAH-C+患者について、α-チューブリン発現について補正した縦棒として表す。AH+C+患者は、有意に低いDDAH II発現(P<0.01)と、有意に高いPRMT-1(P<0.01)発現を有する。
【図8】図8は、死亡した非代償性アルコール性肝硬変患者が生存患者と比較して有意に増加したIMA/アルブミン比を有し、これが疾患重症度の悪化とこれらの患者における高い炎症指数を反映している可能性があることを示している。この点については下図で例証され、この図から、アルコール性肝炎(AH)のさらなる炎症成分を含む患者は、安定な肝硬変より高いDASおよびIMARを有すること、AHの生存者が、これら疾患の進行によって死亡した患者より低いDASIMARスコアを有することがわかる。
【図9】図9はIMARおよびDASIMARそれぞれについての生存受診者動作特性曲線を示す。予測実用性はIMAR単独よりDASIMARの方が高いことがわかるが、本発明者らは、これが2つの予測スコア、すなわちDASとIMARとを合計することによる病態への相乗的かつ相加的寄与(肝不全および多臓器不全の進展に伴う、肝機能不全の進行性重症度、並びに炎症および血行力学的変化を反映している)に関連していることを示唆する。
【図10】図10はDASIMARスコア(すなわち、ADMA、SDMA、およびIMAR)の全3成分の数学的表示を示し、これは、どの易罹患患者が生存する可能性があるかを識別するためにDASスコアとIMARスコアとを組み合わせるについての正当性をはっきりと証明している。この図では、中が灰色の丸(IMAR軸のより高い値に認められる)が死亡するアルコール性患者を示す数学的平面を表しており、これは生存患者および肝硬変のみの患者とははっきりと区別できる。
【図11】図11はガラクトサミン(Sigma、Poole UK)(1g/kg)の腹腔内注射(IP)で処置し(n=22)、24時間後に、そのサブグループにおいてIP投与によりリポ多糖(LPS−Klebsiella pneumonia、n=11)(1mg/kg)を追加チャレンジしたラットに対して実施した試験から得られたIMAR、DASおよびDASIMARのROC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書全体を通して、用語「含む」、または「含まれる」もしくは「含んでいる」などのその変形は、記載される要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を包含することを意味するが、他の任意の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を排除することを意味するわけではないことを理解されたい。
【0013】
本明細書における任意の従来の技術の参照は、その従来の技術がオーストラリアまたはその他いずれかの地域で一般的知識の一部を成すことを承認またはいずれかの形態で示唆するものではなく、また、そのように解釈すべきではない。
【0014】
現在用いられている肝不全についての予後スコアは特異度を欠いているが、これは一部には観察者が違うことを前提とする臨床的変数の使用に関連している。これらのスコアはまた、ビリルビンおよびプロトロンビン時間のような生物学的パラメーターを組み込んでおり、そのためのアッセイは実験室間で変化する一方、クレアチニンのような他の生物学的パラメーターは、進行性肝障害の患者における栄養状態および胆汁うっ滞に影響される。
【0015】
従って、患者および実験室の状態に応じた変動を前提とする臨床および生物学的変数から独立して存続する、進行性肝機能不全の特異的かつ高感度マーカーを見出す必要がある。このマーカーはさらに、炎症および臓器機能不全に特に注目しながら、病態の進展を反映するべきである。
【0016】
本発明は、2種類のマーカー、すなわち、メチルアルギニンと虚血修飾アルブミン(IMA)の組合せに基づく。
【0017】
血漿中には2種のメチル化アルギニン、すなわち、非対称性ジメチルアルギニン[ADMA]と、その立体異性体である対称性ジメチルアルギニン[SDMA]がある。本発明によるメチルアルギニンの測定は、これらジメチルアルギニンの一方または両方など、1種以上のメチルアルギニンの測定を含むことができる。例えば、一実施形態では、本発明によるメチルアルギニンの測定は、ADMAおよびSDMAの合計の測定であってもよく、これにより、合計ジメチルアルギニンスコア(DAS)が得られる。
【0018】
本発明者らは、最近の試験的研究において証明されたように、早期(28日)致死性肝不全についての信頼性の高い予測実用性で病態の進展をも反映させながら、合計ジメチルアルギニンスコア(DASスコア)を用いた正常な翻訳後タンパク質修飾の産物であるジメチルアルギニンの測定により、現在用いられている生物学的スコアリングシステムの短所を克服することができることを確認した。
【0019】
DASスコアは、ADMAおよびSDMAの測定値の合計から計算する。本発明者らの研究は、これら2つの変数が両方の炎症状態を反映し、臓器不全の早期進展を識別することを示唆している(図1)。さらに、死亡患者は、生存患者と比較してDASの有意な増加(%)を有しており、生存患者では相対的減少がみられる(図4)。
【0020】
本発明者らは、これらの測定値の使用が、急性肝不全(肝移植による変化を含む)を有する患者、ならびにACLFを有する患者における予後についての信頼性の高い予測因子として働くことを立証した。この試験またはスコアの適用は、現在利用可能な予後スコア(DF、MELD、Child-Pugh)と比較して、肝臓支援システムによる早期介入の根拠がある進行性肝不全の患者を確定する上で役立つと考えられる。(図6:ROC曲線参照)。
【0021】
その使用は、(i)移植用の臓器の使用を階層化するために、または正常位肝移植後の臓器機能を判定するために、移植を待つ患者の集団まで、(ii)多臓器不全患者および肝機能不全を有する敗血症患者まで拡大してもよく、その場合、合計DAS値を評価する方法などの、本明細書に記載の方法を用いて予後不良を予測することできる。
【0022】
メチルアルギニンまたはDASスコアシステムの潜在的利点は、それが、栄養摂取(クレアチニンが依存するような)にも、また、現在のスコアリングシステムに適用されるプロトロンビン時間測定の使用に際して発生するような大陸間でのアッセイの変動にも依存しない、偏在性メチルアルギニンの極めて正確な測定を含むことである。DAS測定はまた、臨床的変数にも依存せず、その数学的算出は、コンピューターの使用を必要とすることなくベッドサイドで取得することができる。現在有効な測定システムは、高性能液体クロマトグラフィーおよび/または質量分析を用いて、立体異性体間の再現的かつ高い信頼性での分離を達成することを含む。しかし、メチルアルギニン測定またはDASスコアは、任意の好適な方法を用いて測定することができ、例えば、ベッドサイドで実施できるアッセイの形態で、臨床設定内で測定を単純化するELISAを用いて測定することができる。
【0023】
肝疾患患者において変動するアルブミンレベルが一部は栄養により、そして大部分は残存の肝合成機能により決定されると仮定し、本発明者らは、アルブミン−コバルト結合アッセイの適用を改変して、血清中のIMA:天然アルブミン比(血清IMA:アルブミン比、または「IMAR」)を考慮した。アルコール性肝疾患を有する52人の一連の非代償性患者におけるデータは、死亡患者は有意に高いIMA:アルブミン比を有する(P<0.01)ことを示している。さらに、メチルアルギニンまたはDAS値を用いた場合と同様に、IMARが炎症状態を反映し、その結果、疾患の根本的な病態進展を反映する可能性があることを示唆している(図8参照)。受診者動作特性曲線を用いて死亡率を予測したところ、曲線下面積がコーホート集団については0.73(±0.06)であることがわかり、これはIMARがこれらの患者における死亡率の有用な予測検定でありうることを示唆している。
【0024】
しかし本発明者らは、組合せバイオマーカーとして、メチルアルギニン測定(DASなど)をIMARと組み合わせることにより、予後不良の予測実用性が向上することを見出した。DASスコアをIMARと組み合わせると、95%信頼区間0.81〜0.99でAUROC 0.91(±0.04)を、そして感度74%および特異度92%をもたらす。これにより、増悪する臓器不全および炎症、肝不全の病態生理の要素(これらは、アルブミン透析、および炎症を抑える治療などの特異的介入の標的となりうる)をも反映しながら、死亡リスクを評価するのに優れた予測実用性が提供される。このように介入に対する応答をモニターするためにDASIMARのような本発明の方法を潜在的に使用できる。
【0025】
従って、メチルアルギニン(DASなど)およびIMARは、疾患進行のマーカーであると考えられ、これらを組み合わせて用いることができる。本発明は、このように、進行性肝不全の尤度および多臓器不全の発生を評価する方法に関する。
【0026】
肝機能の評価は、非常に多様な状況で有用であると考えられる。例えば、この方法により、肝機能不全を有する患者を非肝機能不全患者から識別することができる。従って、本発明の方法を用いて肝疾患の進行をモニターすることができ、特に、有害な予後を被る可能性がある患者を識別することができる。すなわち、本発明の方法を用いて、肝疾患の予後を予測することができる。
【0027】
また、本発明の方法は、特に、肝移植後の肝機能の評価、肝移植後の移植片における再灌流傷害時の肝機能の評価、または多臓器不全および敗血症を発症する患者における肝機能の評価のために用いることもできる。
【0028】
肝不全は肝疾患の末期である。肝不全は、発症の速さによりいくつかの種類に分けられる。急性肝不全は急速に発症するが、慢性肝不全は発生するのに数ヶ月〜数年かかると考えられる。定義によれば、肝不全は、肝臓が非常に不健全でかつ機能状態も極めて不良であり、脳症が明らかであるときに起こる。どんな進行性肝疾患も肝不全となる可能性があり、そのような例として、アセトアミノフェン中毒、肝硬変、ウイルス性肝炎、および肝臓の転移性癌などが挙げられる。黄疸、腹水、肝性口臭、および凝固不全などの他の肝疾患の徴候は、肝臓がその正常な生理学的役割を果たすのに問題を抱えていることを示しているが、精神状態の変化が現れるまで肝不全とは呼ばれない。
【0029】
肝疾患を有する患者の予後は、この病状には多くの原因があるために、推定するのが難しい。しかし、本発明によれば、特に、急性肝不全患者、ならびにACLF患者において、肝疾患の臨床的予後を予測することが可能である。また、臓器不全の早期進展を識別することもできると考えられる。さらに、早期介入が正当化される進行性肝不全患者を識別することもできる。また、本発明の方法を用いて、肝移植片に起こる変化を識別することも可能である。
【0030】
従って、本発明の方法は、肝臓が非代償性であるかまたは肝性脳症の特徴を示す個体に対して実施することができる。個体の肝臓は、代償期にあるものでもよい。個体は慢性肝疾患を有する者でもよい。個体は、例えば、アルコール性肝炎を併発した、または併発していない肝硬変を有する者でもよい。個体は、急性肝不全を有する者でもよい。個体は、肝性脳症を有する者でもよい。
【0031】
急性および慢性肝疾患の両者の発症が、生体異物に起因するものであってもよい。例えば、そのような個体は、肝損傷を引き起こす化学薬品、薬物または他の何らかの物質に暴露された者でもよい。個体は、肝損傷を引き起こす、処方箋不要の、処方された、または「気晴らしのための」薬物に対する反応を有する者でもよい。個体は、Rezulin(商標)(トログリタゾン;Parke-Davis)、Serzone(商標)(ネファゾドン;Bristol-Myers Squibb)、または肝損傷を引き起こすと考えられる他の薬物を摂取していた者であってもよい。個体は、特定の薬物を過剰量摂取したか、または肝損傷を引き起こしうる薬物の推奨用量を超過した者であってもよい。例えば、個体は、過剰量のパラセタモールを摂取した者でもよい。個体は、例えば、その職場などで肝損傷を引き起こしうる化学薬品に暴露された者でもよい。例えば、個体は、工業または農業に関連する化学薬品に暴露された者であってもよい。個体は、肝損傷を引き起こしうる化合物を含む植物を消費した者でもよく、特にこれは個体が草食動物のような動物の場合でありうる。例えば、個体は、サワギクのようなピロリジジンアルカロイドを含む植物を消費した者でもよい。個体は、肝損傷を引き起こすと考えられる環境毒素に暴露された者であってもよい。
【0032】
薬物に関連する肝毒性は、急性肝疾患(急性肝不全)を有する全症例の50%超を占める。アセトアミノフェン(パラセタモールおよびN-アセチル-p-アミノフェノールとしても知られる)中毒は、米国および英国における急性肝不全の最も一般的な原因である。治療用量またはやや過剰用量のアセトアミノフェンを服用する長期の中程度から大量のアルコール飲用者には、重度の肝障害、また恐らくは急性肝不全のリスクがある。アルコールの飲用によって、アセトアミノフェンの毒性効果が増強される。また、薬物特異体質中毒も急性肝不全に寄与する。薬物特異体質中毒は、個体が薬理学的に異常な様式で薬物に応答する超過敏性応答であると考えられる。この異常な応答が急性肝不全を引き起こす可能性がある。
【0033】
急性肝不全または慢性肝疾患は、病原性生物の感染に起因するものであってもよい。例えば、肝疾患は、ウイルス感染によるものでもよい。具体的には、個体は、肝炎を引き起こすウイルスに感染していた、または感染した者でもよい。個体は、慢性ウイルス性肝炎を有する者でもよい。ウイルスは、例えば、B型、C型、またはD型肝炎ウイルスでありうる。場合によっては、特に、個体がウイルス性肝炎を有する場合、個体はHIV-IまたはIIにも感染している可能性がある。個体はAIDSを有する者でもよい。個体は、肝疾患を引き起こす他の生物、特に、その生活環の特定の段階の間に肝臓に存在する生物に感染していた、または感染している者でもよい。例えば、個体は、肝吸虫を保有していた、または保有している者でもよい。
【0034】
個体は、慢性肝疾患を引き起こす、またはそのリスクを増加する遺伝病を有する者であってもよい。例えば、個体は、肝臓ヘモクロマトーシス、ウィルソン病またはα-1抗トリプシン欠乏症の1種以上を有する者でもよい。個体は、肝線維症の尤度を増加する、肝臓におけるある種の構造的または機能的異常を引き起こす遺伝障害を有する者でもよい。個体は、肝臓を損傷させ、従って、肝線維症に寄与しうる自己免疫障害を発症するような遺伝的素因を有する者でもよい。
【0035】
慢性肝疾患はアルコール誘導性のものでもよい。治療しようとする男性または女性は、アルコール中毒である、またはアルコール中毒であった者でもよい。男性または女性は、毎週平均50単位以上のアルコール、毎週60単位以上のアルコール、毎週75単位以上のアルコール、さらには毎週100単位以上のアルコールを消費している、または消費していた者でもよい。男性または女性は、毎週平均100単位以下のアルコール、毎週150単位以下のアルコール、さらには毎週200単位以下のアルコールを消費している、または消費していた者でもよい。アルコールの1単位の測定値は国によって違ってくる。英国の標準によれば、1単位は8グラムのエタノールに相当する。
【0036】
男性または女性は、このようなレベルのアルコールを5年以上、10年以上、15年以上、または20年以上にわたり消費していた者でもよい。個体は、このようなレベルのアルコールを10年以下、20年以下、30年以下、さらには40年以下にわたり消費していた者でもよい。アルコール誘導型肝硬変の場合には、個体は、例えば、25歳以上、35歳以上、45歳以上、さらには60歳超でもよい。
【0037】
個体は、男性または女性のいずれでもよい。女性は、男性よりアルコールの悪影響を受けやすいと考えられる。女性は、男性より短い期間で、しかも、より少ない量のアルコールからアルコール性慢性肝疾患を発症する可能性がある。女性におけるアルコール性肝損傷に対する増加した感受性を説明する単一の要因はないようであるが、アルコールの代謝へのホルモンの影響が重要な役割を果たしていると考えられる。
【0038】
したがって、個体はアルコール性肝炎に罹患している者でもよい。アルコール性肝炎は、疾患の唯一の徴候が臨床試験の異常である軽度の肝炎から、黄疸(ビリルビン滞留によって起こる皮膚の黄染)、肝性脳症、腹水、食道静脈瘤の出血、異常な血液凝固および昏睡などの合併症を伴う重篤な肝機能不全まで広範囲に及ぶ。
【0039】
本発明において、個体は、肝損傷を起こすことが知られている多くの他の病状、例えば、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性慢性活動性肝炎、および/または住血吸虫症(寄生虫感染)の1種以上を有する者であってもよい。個体は、胆管遮断を有する、または有した者でもよい。場合によっては、肝疾患の根本原因が不明のこともある。例えば、個体は、特発性肝硬変を有すると診断された者でもよい。従って、個体は、本明細書に記載した病状のいずれかを有する疑いのある者でもよい。
【0040】
急性肝不全および肝性脳症のような肝疾患を診断する方法は、当業者、特に、当分野における臨床医および獣医には周知である。好ましくは個体は、例えば、医療または獣医療専門家により、肝疾患および肝性脳症を有すると診断された者である。個体は、肝疾患に関連する1種以上の症状、例えば、黄疸、腹水、皮膚の変化、体液滞留、爪の変化、痣のでき易さ、鼻血、食道静脈瘤のうち1つ以上を呈示する者でもよく、また、男性個体は胸部の腫張を有する者でもよい。個体は、疲はい、疲労、食欲喪失、吐気、衰弱および/または体重減少を呈示する者でもよい。個体はまた、肝性脳症に関連する1種以上の症状、例えば、錯乱、見当識障害、痴呆、昏迷、昏睡、脳浮腫、多臓器不全(呼吸不全、心臓血管不全、または腎不全)、筋硬直/硬縮、発作、または言語障害のうち1つ以上など、を呈示する者でもよい。治療しようとする個体は、肝疾患を治療するための他の薬物を服用している者でも、服用していない者でもよい。治療しようとする個体は、肝性脳症を発症するリスクがある者でもよい。
【0041】
超音波のような技術を含む身体検査により肝疾患が確認されていても確認されてもよい。線維症、壊死細胞、細胞の変性および/または炎症、ならびに、肝疾患に特徴的な他の特徴を確立するために、肝生検材料が採取されていてもよい。個体において肝機能が損傷されているか否かを判定するために個体の肝機能が評価されていてもよい。肝疾患の性質および根本原因を特性決定してもよい。肝疾患の原因物質に対するあらゆる暴露歴を決定してもよい。
【0042】
治療しようとする個体は、肝性脳症エピソードのリスクがある者、例えば、肝移植片の待機患者、手術患者および/または門脈圧亢進症患者でもよい。肝性脳症エピソードのリスクがある者とは、肝性脳症エピソードを被ったことがないかまたは長期間(約12週間以上)にわたり肝性脳症エピソードを被ったことはないが、肝性脳症エピソードのリスクを生み出す障害または病状を有する者である。肝性脳症エピソードとは、肝疾患または肝機能不全を有する患者において脳機能不全が存在することを特徴とする臨床症状である。肝性脳症における精神障害は広範囲であり、主な影響が生活の質の低下である最も軽度のものから、昏睡、そして最終的には死に到る明らかなものまでに及ぶ。
【0043】
本発明の方法は、例えば、(i)肝移植後(本発明者らは、急性肝不全患者が移植を受けた後、ADMAの累進的減少と、低いDASスコアに反映されるさらに穏やかなSDMAの減少とが存在することを示している);(ii)肝移植後の移植片における再灌流傷害;(iii)多臓器不全(肝機能不全が主な推進因子であると考えられる)を発症するITU中の重症患者、の関連で肝機能不全のモニタリングに(すなわち肝機能試験として)適用することができるため、本発明の方法は、肝機能不全を早期に識別し、その進行を追跡することができる、すなわち、別の臓器不全(例えば、1、2もしくは3種の臓器)となるおよび死亡する可能性がある患者を予測することができる。従って、本発明の方法を実施する個体は、肝移植患者、例えば、肝移植後の移植片において、再灌流傷害を被った個体、または多臓器不全を発症するリスクがある、または多臓器不全を発症した患者でありうる。
【0044】
本発明では、個体におけるメチルアルギニンのレベルおよびIMARを測定する。
【0045】
典型的には、本方法は、個体からのサンプルに対しin vitroで実施する。サンプルは、一般に、メチルアルギニン、IMAおよびアルブミンを含むことがわかっている組織から得たものである。サンプルは、典型的には、個体の体液を含み、従って、例えば、血清でよい。これに代わり、または加えて、サンプルは、尿、脳脊髄液、または肝組織を含んでもよい。このようなサンプルは、任意の適切な手法で取得することができる。血清および肝組織を取得する方法は、当業者には周知である。
【0046】
個体におけるメチルアルギニン、特にADMAおよびSDMAのレベルは、慣用の様式のいずれかで測定することができる。このような方法は、当業者には周知である。例えば、サンプル中のメチルアルギニンのレベルは、フラグメンテーション特異的安定同位体希釈エレクトロスプレータンデム質量分析法を用いて、またはイオン交換抽出とその後の蛍光検出を用いたHPLCにより、測定することができる。別の検出方法として、キャピラリー電気泳動などが挙げられる。
【0047】
また、IMARも、当業者には公知の慣用の方法のいずれかを用いて測定することができる。例えば、血清アルブミンの測定のためにAbott Aeroset Bromocresol Purple(BCP)試験を用いてもよい。次に、既知量のCo(II)を血清検体に添加し、ジチオトレイトールを用いた比色分析アッセイにより非結合Co(II)を測定することによって、IMAの濃度を測定することができる。
【0048】
メチルアルギニンの個々の、または組み合わせた(例えば、ADMA+SDMA=DASスコア)レベルと、IMARとを用いて、個体における肝疾患の臨床的予後を予測することができる。
【0049】
好ましくは、メチルアルギニン(ADMAおよびSDMAなど)のレベル、およびIMARを測定するのに用いる方法は、比較的高速かつ安価に実施が可能なものである。用いる方法は、臨床設定内での測定を単純化するようにベッドサイドで実施が可能なものでもよい。例えば、ELISAのようなアッセイキットを用いて、メチルアルギニンのレベルを測定し、またはIMARを決定することができる。
【0050】
DASスコアは、血漿中の2種のメチル化アルギニン(非対称性ジメチルアルギニン[ADMA]と、その立体異性体である対称性ジメチルアルギニン[SDMA])の測定値の合計から算出する。これら2つの変数はいずれも炎症状態を反映し、器官不全の早期進展を識別する。死亡する患者は、生存患者と比較してDASの有意な増加(%)を有するが、生存患者では相対的減少がみられる。
【0051】
従って、本発明の方法では、肝疾患に罹患していない患者または肝疾患の生存患者におけるDASスコア(またはその成分の一方もしくは他方から得られたスコア)と比較して、上昇したこれに相当するスコアは、臓器不全、またはさらに重篤な場合には有害な予後、すなわち死亡、への進行についての信頼性の高い予測因子である。
【0052】
上昇したDASスコア(またはその成分の一方もしくは他方から得られたスコア)は、このように、急性肝不全(肝移植に伴う変化を含む)を有する患者、ならびに、ACLFを有する患者における予後についての信頼性の高い予測因子として働く。
【0053】
この上昇したスコア(非肝疾患個体または肝疾患の生存患者と比較して)を適用すれば、肝臓支援システムによる早期介入に正当な理由がある進行性肝不全を有する患者を確定するのに役立つと考えられる。また、このような上昇したスコアを用いて、肝移植片を受けようとする候補の集団から個体を選択することも可能である。
【0054】
死亡するアルコール性肝疾患患者は、生存患者と比較して、有意に増加したIMA:アルブミン比を有する。さらに、DAS値を用いた場合と同様に、IMARは炎症状態を反映し、従って、疾患の根本的な病態進展を反映するようである。従って、IMARは、肝疾患の進行、特にこれら患者における死亡率の有用な予測試験でありうる。
【0055】
組合せバイオマーカーとして、ジメチルアルギニンスコア(DAS)をIMARと組み合わせることにより、95%信頼区間0.81〜0.99でAUROC 0.91(±0.04)、感度74%および特異度92%のように、予後不良の予測実用性が向上する。これにより、死亡リスクを評価すると共に、アルブミン透析や炎症を抑制する治療などの特異的介入の標的となりうる、肝不全の病態生理の要素である臓器不全および炎症の悪化を反映する、優れた予測実用性が提供される。
【0056】
従って、本発明の方法では、肝疾患に罹患してない個体または肝疾患の生存患者である個体におけるメチルアルギニンのレベルと比較して上昇したメチルアルギニンのレベルは、個体における肝疾患の進行、肝機能障害、死亡リスクの増加を示している。
【0057】
肝疾患に罹患してない個体または肝疾患の生存患者である個体におけるADMAおよびSDMAの合計レベルと比較して増加したADMAおよびSDMAの合計レベルは、個体における肝疾患の進行、肝機能障害、死亡リスクの増加を示している。
【0058】
肝疾患に罹患してない個体または肝疾患の生存患者である個体におけるIMARと比較したIMARの増加も、個体における肝疾患の進行、肝機能障害、死亡リスクの増加を示している。
【0059】
前述した方法において、肝疾患に罹患してない個体または肝疾患の生存患者である個体と比較した、メチルアルギニンのレベルの増加(例えば、ADMAとSDMAの合計レベルの増加)、およびIMARの増加は、個体における肝疾患の進行、肝機能障害、死亡リスクの増加を示している。
【0060】
理想的には、DASスコア(もしくはその成分スコア)またはDASIMARスコアは、死亡率のような特定の予後を予測するものでなければならない。すなわち、理想的には、当業者は、このようなスコアに基づき、臨床的予後、例えば、生存または死亡を判定することができるのが望ましい。
【0061】
受診者動作特性(ROC)曲線により、これを達成することができる場合がある。このような曲線は、様々な異なるカットポイントについて、DASまたはDASIMARのような臨床試験の感度と特異度との関係を探査し、これによって最適カットポイントの決定を可能にする。すなわち、それを超えると肝疾患の有害な予後を示し、それに満たなければ生存を示すようなカットポイントを選択することが望ましい。
【0062】
臨床試験の性能について一般に用いられる基準は、感度と特異度である。感度は、疾患が実際に存在するときに、その疾患(または本発明の場合には、予後)が診断される確率であり、特異度は、疾患が確かに存在しないときに、疾患が存在しないものとして識別される確率である。理想的には、感度および特異度の両者は1であるべきである。しかし、感度および特異度のいずれか一方を増加しようとしてカットポイントを変更すると、通常、他方の減少が起こる。
【0063】
ROC曲線は、最適カットポイントを確立するためのグラフによる技術である。ROC曲線を構築するためには、各々考えられるカットポイント値について感度および特異度を計算する必要がある。ROCグラフを作成するために、X軸は、1から特異度を引いたものとし、Y軸は感度とする。下方左隅から上方右隅まで対角線を引く。このグラフは、判別力のない試験の特性を反映する。グラフが上方左隅に近づくほど、症例と非症例とをよりよく判別する。試験の優良性の指数は、曲線下面積であり、この値が1に近づくほど、試験の判別能力はより優れたものとなる。
【0064】
従って、ROC曲線を用いて、DASスコア(もしくはその成分スコア)またはDASIMARスコアについてのカットポイントを確立することができる。カットポイントを超えるスコアは、死亡などの有害予後を示すのに対し、カットポイントより下回るスコアは、生存などの非有害予後を示すことができる。
【0065】
カットポイントは、試験の条件に応じて、例えば、偽陽性を排除することがより重要であるか否か、またはすべての真陽性を識別することがより重要であるか否かに応じて選択することができる。肝不全が認められる致死患者を識別する試験の場合には、そのような患者を全て識別するのが重要であるが、その場合、カットポイントは多数の偽陽性も十分に識別すると考えられる。
【0066】
本発明の方法では、カットポイントは、肝疾患の特定の予後(例えば、生存など)を示すか、または肝疾患の進行、例えば、急性肝疾患の発症を示すことができる。
【0067】
適切なカットポイントは、当業者であれば同定することができる。例えば、DASカットポイント1.52は、アルコール性肝炎を伴うアルコール性肝硬変に罹患した患者における生存を評価する場合に、有用な予測因子であることが示されている。
【0068】
本発明の方法は、肝疾患および肝性脳症の重症度、およびさらに被験者の予後を評価するのに用いられる1種以上の追加のスコアリングシステムと組み合わせて実施してもよい。例えば、約2、3、4種以上〜約5、6、7、8種以上のスコアリングシステムを本発明のものと組み合わせてもよい。このような追加のスコアリングシステムとして、Child-Pugh、West Haven Criteria、Glasgow Coma Scaleまたは改変Child-Pughスコアリングシステムなどが挙げられる。これに代わり、または加えて、DF、SOFA、MELDもしくはAPACHE IIのようなスコアリングシステムを用いてもよい。血清ビリルビンレベル、血清アルブミンレベルなどのパラメーター、および腹水または脳障害の存在などの徴候にポイントが付与される。治療しようとする被験者をChild-PughクラスA、BまたはCに分類することができる。一般に、治療しようとする被験者は、Child-PughクラスCに分類される。
【0069】
本発明はまた、個体における肝疾患の予後を予測するのに適した試験キットであって、個体における1種以上のメチルアルギニンのレベルおよびIMARを測定する手段を含む、上記試験キットを提供する。
【0070】
本発明の試験キットはさらに、肝疾患の治療に有用な物質を含んでいてもよい。
【0071】
本発明の試験キットは、随意に、適切なバッファー、酵素、例えば、Taqポリメラーゼのような熱安定性ポリメラーゼおよび/または対照ポリヌクレオチドを含んでいてもよい。本発明のキットはまた、個体における肝疾患の予後を予測する方法に用いるための適切なパッケージングおよび使用説明書を含んでいてもよい。
【0072】
本発明により、死亡リスクが増加した個体の識別が可能になる。また、これにより、判定しようとする介入の効果について肝疾患の進行をモニターすることもできる。すなわち、個体における肝疾患の治療の効力をモニターすることができる。従って、本方法は、肝疾患の治療過程の効果を評価するために、同じ個体および治療について何度も実施することが可能である。
【0073】
次に、死亡リスクが増加していると識別された個体を適宜治療することができる。
【0074】
本発明は、従って、肝疾患の治療方法であって、前記方法を用いて個体が増加した死亡リスクを有するか否かを決定するステップと、次に、肝疾患の治療に有用な物質を治療上有効量で上記個体に投与するステップとを含む、上記方法を提供する。
【0075】
本発明はまた、個体における肝疾患の治療方法に用いるためのまたは該方法で使用する薬剤の製造に用いるための、肝疾患の治療に有用な物質の使用であって、その際、該個体は前記方法を用いて死亡リスクが増加している者として識別されている、前記使用を提供する。
【0076】
従って、肝疾患の治療に用いられる物質の投与により、死亡リスクが増加している者として識別された個体の病状を改善することができる。治療上有効量の肝疾患の治療に用いられる物質を、本発明の方法により識別された個体に投与することができる。
【0077】
個体について死亡リスクが増加していると識別されているときであっても、完全な肝不全への進行は逆転できないかもしれない。この場合には、肝機能の衰退を遅らせるステップを採用することができる。患者の食事を制限することもある。タンパク質の消費は、一般に、最適レベルに維持される。もしこのレベルが高すぎると、脳機能不全を引き起こす恐れがあり、低すぎると体重の減少を招きうる。アルコールは完全に断ち、ナトリウム消費を控えめにして、腹水、すなわち、腹部における体液の蓄積を防止することができる。肝透析が適している場合もある。肝移植は肝不全の最終的な治療であるが、すべての患者にとっての選択肢ではなく、肝臓の供給は限られている。従って、本発明の方法を用いて、肝移植片の受容者候補を階層化する、すなわち、死亡リスクの最も高い者を識別することができる。ラクトースのような薬剤を投与することにより、肝不全の症状を軽減することもできる。
【0078】
肝疾患の治療に用いられる物質は様々な剤形で投与することができる。従って、例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ、水性または油性懸濁液、分散性粉末または顆粒として経口投与することができる。疾患を治療するのに用いられる物質はまた、皮下、静脈内、筋内、胸骨内、経皮、または注入技術のいずれかにより非経口投与してもよい。また、上記物質を座薬の形態で投与してもよい。医師は、特定の患者各々に必要な投与経路を決定することができる。
【0079】
肝疾患の治療に用いられる物質の製剤化は、具体的な物質の性質、医薬または獣医用途のいずれを目的とするかなどの要因に左右される。肝疾患を治療するのに用いようとする物質は、同時、個別または逐次使用のために製剤化することができる。
【0080】
肝疾患の治療に用いられる物質は、本発明において一般に、投与のために製薬的に許容される担体または希釈剤と一緒に製剤化される。製薬担体または希釈剤は、例えば、等張液でありうる。例えば、固体の経口剤形は、活性化合物と一緒に、希釈剤、例えば、ラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、トウモロコシデンプンまたはジャガイモデンプン;潤滑剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウム、および/またはポリエチレングリコール;結合剤、例えば、デンプン、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはポリビニルピロリドン;崩壊剤、例えば、デンプン、アルギン酸、アルギナートまたはデンプングリコール酸ナトリウム;起泡化混合物(effervescing mixtures);染料;甘味剤;湿潤剤、例えば、レシチン、ポリソルベート、ラウリルスルフェート;ならびに、一般に、医薬製剤に用いられる無毒かつ薬理学的に不活性の物質を含んでいてもよい。このような医薬製剤は、公知の様式、例えば、混合、顆粒化、錠剤化、糖コーティング、またはフィルムコーティング処理により製造することができる。
【0081】
経口投与用の分散液は、シロップ剤、乳剤または懸濁剤であることができる。シロップ剤は担体として、例えば、サッカロース、またはグリセリンおよび/またはマンニトールおよび/またはソルビトールと一緒にサッカロースを含有してもよい。
【0082】
懸濁剤および乳剤は、担体として、例えば、天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、またはポリビニルアルコールを含有してもよい。筋内注射用の懸濁剤または溶剤は、活性化合物と一緒に、製薬的に許容される担体、例えば、滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチル、グリコール、例えば、プロピレングリコールを含んでもよく、所望の場合には、好適な量の塩酸リドカインを含有してもよい。
【0083】
静脈内投与または注入用の溶剤は、担体として、例えば、滅菌水を含んでもよく、または好ましくは、これらは滅菌の等張生理食塩水の形態であることが好ましい。
【0084】
治療上有効量の肝疾患の治療に用いる物質は、本発明の方法を用いて肝疾患を有する者として識別された患者に投与することができる。肝疾患の治療に用いる物質の用量は、各種パラメーターに従って、特に用いる物質;治療しようとする患者の年齢、体重および状態;投与経路;および要求されるレジメンに応じて決定することができる。
【0085】
ここでも、医師は、特定の任意の患者のために必要な投与経路および用量を決定することができる。典型的な1日用量は、特異的な阻害剤の活性、治療しようとする個体の年齢、体重および状態、変性の種類および重症度、ならびに投与の頻度および経路に応じて、体重1kg当たり約0.1〜50 mgである。好ましくは、1日用量のレベルは5mg〜2gである。
【0086】
個体における肝疾患の治療方法で使用するための薬剤の製造には、適当な物質を用いることができ、その際、上記個体は、前述した本発明の方法に従って、肝疾患に罹患している者として識別されている。
【0087】
従って、個体における肝疾患の治療方法は、(i)前述した本発明の方法を用いて、上記個体が死亡リスクを有するか否かを決定するステップと;(ii)(i)において死亡リスクを有する者として識別された個体に、治療に有効な量の上記物質を投与するステップとを含んでいる。
【0088】
療法によるヒトまたは動物身体の治療方法で同時に、個別にまたは逐次使用するための組合せ製品として、個体における肝疾患の予後を予測する手段と、肝臓の治療に用いることができる物質とを含む製品。従って、このような製品は、診断手段と治療手段の両方を含みうる。
【0089】
本明細書に記載する全ての刊行物および特許出願は、この発明が関わる分野の当業者の水準を示している。
【0090】
全ての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願の各々が具体的かつ個別に参照により組み込まれているのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0091】
上記発明は理解のために説明および例によりいくらか詳細に記載されているが、当業者には、添付の請求の範囲内で特定の変更および修飾を実施できるとことは明らかであろう。
【0092】
以下の実施例により本発明を説明する。
【実施例1】
【0093】
ジメチルアルギニンレベルの増加は、重度のアルコール性肝炎における有害な臨床的予後に関連する
方法
試験設計:1989年の世界医師会ヘルシンキ宣言(Declaration of Helsinki of the World Medical Association)に従い、すべての患者またはその親族が書面でのインフォームドコンセントまたはアセントをそれぞれ提出し、この試験は現地倫理委員会により承認された。肝硬変の臨床的証拠および放射線学的証拠によるアルコール性肝疾患の急性代償不全(腹水の増加、足の浮腫または進行性黄疸)の証拠を有し、かつ、アルコール依存症(入院時までに、アルコール消費が男性で>80gアルコール/日、女性では>60g/日)の現病歴を有する患者を含めた。18歳未満または75歳を超える者で、以下:肝疾患のさらなる、または別の病因;重度の心臓機能不全または腎不全(クレアチニン>150μmol/L);肝臓/肝臓以外の悪性腫瘍;肝性脳症≧グレード2(インフォームドコンセントを除く)、の証拠を有した場合、ならびに、広範なスペクトルの抗生物質療法から72時間後の感染を示す微生物学的証拠(尿、血液、喀痰および腹水の培養物)があった場合、これらの患者は除外した。
【0094】
腹水および/または凝血異常を有する患者における肝機能不全の重症度を評価するために実施した経内頚静脈的肝生検(入院から1〜3日以内)の時点で患者を試験した。次に行なった組織学的検査の際に、肝硬変にアルコール性肝炎を併発している(AH+C+)患者を分類した。AH+C+を確定するのに用いた組織学的基準には、以下:肝細胞気球状変性;マロリー小体;好中球浸潤およびアポトーシス好酸性小体の存在が含まれた18。患者全員が、72 gのタンパク質/日を含む栄養2000kCal/日と、最初の非経口ビタミンB補充(2日にわたり静脈内Pabrinexを1日当たり3回)後に1日当たり1錠のマルチビタミンカプセルと200 mgのチアミンからなる栄養補充を含む支持療法を受けた。敗血症(培養後の抗菌物質);肝腎症候群(60gの塩除去アルブミン[20g/100 ml]と一緒にテルリプレシン0.5〜2mgを静脈内に1日当たり6回まで);臓器不全(指示通りに、血液濾過および/または換気を含む十分な集中治療サポート)を含む合併症の発症に対し、現地のプロトコールで推進される治療を開始した。英国では急性アルコール性肝炎に対するコルチコステロイドおよび抗TNF抗体治療の使用に関して論争中であることから、試験中、いずれの患者もこれらの治療は受けなかった。
【0095】
測定:一晩の断食に続き、1時間仰臥休息した後、血液動態試験を実施した。この処置のために、Midazolam(平均用量4 mg;Phoenix Pharma Ltd.、Gloucester、UK)を用いて患者を鎮静させ、その間、心拍数および非侵襲的手段による動脈圧のモニタリングを行なった。以下の基準:温度>38℃;心拍数>90拍/分;頻呼吸>20呼吸/分;白血球数>12x109/Lもしくは<4x109/Lまたは10%超の未熟な好中球の存在、を用いて、各患者の全身性炎症反応症候群(SIRS)スコア19を確立した。
【0096】
肝静脈圧勾配(HVPG):5Fr Berenstein閉塞バルーンカテーテル(Boston Scientific、Cork、Ireland)を蛍光透視スクリーニング(Thoshiba Spot Film Device Model: SA-900U;Tochigi-ken, Japan)下で右側内頚静脈経路から右側肝静脈に導入した。閉塞肝静脈圧および開放肝静脈圧測定を3回繰り返し、これをHewlett Packardモニター(Model 86S、HP、USA)の圧力変換セット(Medex Medical、Rossendale、Lancashire、UK)を介して記録した。閉塞肝静脈圧と開放肝静脈圧との差として、HVPGを計算した。
【0097】
サンプル採取およびアッセイ:予め冷却しておいたヘパリン化/EDTAコーティングチューブ(Becton Dickerson、Drogheda、Ireland)中に動脈および静脈から血液を採取した。全患者において、慣用の血液学、肝生化学およびC-反応性タンパク質を測定した。胆汁うっ滞状態におけるJaffeアッセイの精度には問題がある20ことから、質量分析法により血漿クレアチニンをアッセイした。別の血漿サンプルを遠心分離により分離し、その後のサイトカイン、ケモカインおよびADMAの分析のために−80℃で血漿を保存した。取得した肝組織は、ホルマリン固定するか、または液体窒素中で瞬間冷凍した後、その後の組織ADMA濃度の評価、ならびにPRMT 1およびDDAH IIのタンパク質推定のために−80℃で保存した。アルコール過剰摂取歴および過去に既知病歴のない12人の健康なボランティア(うち8人は男性)の「対照」群から採取した血液サンプルを用いて、ADMAおよびSDMAの「正常な」範囲を評価した。
【0098】
サイトカイン/ケモカイン:以前記載されている21ように、標準的な市販のアッセイキット(BioSource、Nivelles、Belgium)を用いて、TNFα、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、ならびに可溶性TNF受容体IおよびII(TNF-RI、TNF-RII)を測定した。検出の下限は5 pg/mlと推定され、アッセイ内変動係数は4.5〜5.5%であった。
【0099】
ADMA:フラグメンテーション特異的安定同位体希釈エレクトロスプレータンデム質量分析法を用いて、血漿ADMAを測定した。2H6-ADMAを含むアセトニトリルでサンプル(50μl)からタンパク質を除去し、Teicoplaninガードカラム10 mm x 2.1 mm ID(Chirobiotic T、ASTEC Ltd、Congleton、UK)でクロマトグラフィー分析し(アセトニトリル:水が1:1で、0.025%ギ酸を含む)、陽イオン多重反応モニタリングモードでSCIEX API4000(Applied Biosystems、Warrington、UK)を用いて分析した。取得時間は2.5分、注入の間隔は<3分であった。アッセイ内でのADMAの不正確性は、濃度0.37μmol/lで2.1%であった。アッセイ間のADMAの不正確性は、濃度0.39、1.15、および3.96μmol/lで、それぞれ7.4%、5.8%、および5.1%であった。
【0100】
EDTA(1mM);スクロース(250mM);バリン(60mM);プロテアーゼインヒビターカクテル(1ml/組織20gで、4-(2-アミノエチル)ベンゼンスルフォニルフルオライド(AEBSF)、ペプスタチンA、E-64、ベスタチン、ロイペプチン、およびアプロチニンを含む;Sigma-Aldrich Co、UK);およびPMSF(3.4mg/ml)を含む氷冷HEPESバッファー(20mM、pH 7.4)中の瞬間冷凍肝組織から組織ホモジネートを調製した。これを遠心分離(1,000g、10分、4℃)し、上清を保持し、Biurret法22を用いてタンパク質含量を測定した。これら調製物からの上清を抽出し、10μlの各ホモジネートサンプルを用いる以外は上に概説した方法を用いて、ADMAについてアッセイした。組織ADMA濃度は、タンパク質1ミリグラム当たりのマイクロモルとして表した。
【0101】
DDAHおよびPRMTウエスタンブロット分析:最後の8人の患者(4人はAH+C+であることが判明し、また4人はアルコール性肝硬変のみを有した)からの生検標本をDDAHおよびPRMTの定量化のために評価した。ホモジナイズした凍結肝組織を100μLの溶解バッファー(0.1%SDS、0.5%デオキシコール酸ナトリウムおよび1% Nonidetを含むPBS、pH6.6)に再懸濁させた。タンパク質濃度の決定後、SDSポリアクリルアミドゲル(12%)により30μgのタンパク質を分離し、ニトロセルロース膜に転写し、これを0.1%Tweenを含むPBS中の5%脱脂粉乳で1時間ブロッキングした。一次抗体(アミノ酸241〜255(ヒトDDAH IIに固有の配列)に対して作製した抗マウスモノクローナルDDAH II抗体;または抗ウサギポリクローナルPRMT-1抗体[Abcam plc、UK]、1:1,000)と共にサンプルを4℃で一晩インキュベートした後、洗浄し、希釈度1:3,000で抗マウスまたは抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート型二次抗体(それぞれDDAH IIおよびPRMT-1)と共にさらにインキュベートした。増強した化学発光基質プラス(ECL plus、Amarsham、UK)を用いて、膜を現像した。Genespnap/Geneツール(Syngene、SLS、UK)を用いて、ブロットのイメージングおよび定量化を行なった。次いで、55℃で膜をはがし、α−チューブリンマウス抗ヒトモノクローナル一次抗体(Sigma-Aldrich、UK)を用い、次に抗マウス二次抗体により再プローブした後、前記と同様に現像し、PRMTおよびDDAHの発現をこれをα−チューブリン含量について補正することにより定量した。
【0102】
統計分析:データは、中央値[範囲]または平均±平均の標準誤差(SEM)として示す。市販のパッケージ(Graph Pad Prism、バージョン4.0;Graph Pad Software, Inc., SanDiego, CA, USA)を使用し、対応のない両側t検定を用いて、等分散の正規分布データの平均間の差を規定した。正規分布していないデータの統計的評価のために、Mann-Whitney検定(Graph Pad Prism)を用いた。P<0.05であれば、それらの結果を有意とみなした。複数群同士の比較は、多重比較のためのBonferroni補正を用いた分散分析(ANOVA)により実施した。変数同士の相関の計算は、回帰分析ソフトウェア;Excel 2003(Microsoft Corporation、WA)を用いて実施した。
【0103】
結果
患者:15ヶ月の期間にわたり評価した総数64人の患者から、52人の患者を試験に含めたが、該グループの平均Pughスコア23は10±0.3であり、これはこのコーホートにおける非代償性肝硬変を反映している。この上昇した重症度指数は、高いMELDスコア24、ならびに、グループ全体で19±1 mmHgという上昇した平均肝静脈圧勾配(HVPG)によって補足されたが、これは進行した門脈圧亢進症を反映している。12人の患者を除外したが、うち7人はウイルス性肝炎を併発し、3人は重度の腎機能不全を有し、1人は肝硬変の組織学的証拠がなく、1人は重篤な敗血症を有していた。次に、上に定義した標準的な組織学的基準18を用いて、患者の特性表(表1)に記載するように、試験に含めた52人の患者を、肝硬変およびアルコール性肝炎としての炎症を有する者[AH+C+](n=27)と、アルコール性肝硬変のみを有する者[AH-C+](n=25)に分けた。AH+C+生検における壊死炎症の重症度の等級付けは、非アルコール性脂肪性肝炎について示唆されるもの25と類似のスコアリングシステムを適用して実施し、参加患者はすべて、中〜重度の等級であったが、これは2人の独立した組織病理学者により同意されたものである。
【0104】
組織学的基準に加えて、すべてのAH+C+患者は急性の重度AHを有したが、これは平均Maddrey判別関数(DF)スコア46±626により証明され、表1にまとめたように、AH-C+患者と比較して有意に上昇した血漿ビリルビンレベルおよびプロトロンビン時間に反映されている。血清アミノトランスフェラーゼは、グループ間で統計的に差はなかった(P=0.46)。平均血清クレアチニンレベルは、両グループについて標準実験室参照範囲内にあったものの、平均クレアチニン値は、AH-C+と比較してAH+C+患者の方が高かった(P=0.01)。27人のAH+C+患者のうち20人が中〜重度の腹水を有したのに対し、AH-C+患者は、25人のうち10人であった;P=0.008。12人のAH+C+患者が2等級の肝性脳症を有したのに対し、AH-C+患者は、25人のうち4人であった;P=0.02。
【0105】
炎症マーカー:AH+C+患者は、より高い血漿CRP(P<0.001)、上昇した白血球数(P<0.001)、ならびに、全身性炎症反応症候群(SIRS)スコア(P<0.001)により証明されるように、AH-C+患者と比較して、有意に上昇した炎症指数を有していた。AH+C+患者における進行中の炎症のさらなる証拠は、AH-C+患者と比較したAH+C+患者における有意に高い血漿TNFα(P<0.01)、TNF-R1(P<0.01)およびTNF-R2(P<0.001)レベル、ならびに、上昇したIL-6(P<0.01)レベルから明らかになった。
【0106】
HVPG:AH+C+患者は、AH-C+患者と比較して、有意に高い平均HVPGを有した(22±1.9対15.5±1.6 mmHg、P<0.01)が、これはより進行した門脈圧亢進症状を反映している。
【0107】
患者の予後:52人の被験患者のうち、13人の入院患者が死亡したが、12人はAH+C+患者であり、1人は肝硬変のみを有する患者であった。死亡したAH+C+患者のうち、8人は腎不全を発症し、そのうち4人はさらに敗血症を併発し、多臓器不全を発症した。2人の患者は制御不能な胃腸出血で死亡し、他の2人の患者は、凝血異常および多臓器不全を発症すると共に、グラム陰性菌による突発性細菌性腹膜炎から回復することができなかった(表2)。生存し、28日以内に退院することができた15人のAH+C+患者のうち、6人は入院中に感染の証拠を示し、1人の腎不全患者は支持療法に応答し、2人は制御された静脈瘤出血のエピソードを有した。死亡したAH+C+患者は、生存AH+C+患者と比較して、判別関数(P=0.3)、Pughスコア(P=0.2)またはMELD(P=0.6)スコアに有意な差はなかった。
【0108】
肝硬変のみ(AH-C+)の群では、支持療法にもかかわらず、入院患者の1人が腎不全のため死亡した。退院することができた残りの24人のAH-C+患者のうち、5人は入院中に記録された感染のエピソードを有し、1人に制御された静脈瘤出血があった。AH-C+患者は、AH+C+生存患者(n=15)より有意に低いPughスコア(P<0.001)およびMELDスコア(P<0.001)を有した。
【0109】
ADMA:平均血漿ADMAレベルは、52人の患者の方が、12人の健康な対照[年齢:38(31〜55);男性9人]より高かった:0.59±0.03対0.37±0.01μmol/L;P<0.001。さらに、図1aに示すように、AH+C+患者は、AH-C+患者群と比較して有意に高いADMA値を有した:0.69±0.04対0.49±0.02μmol/L;P<0.001。また、肝組織ADMAレベルも、AH+C+患者の方がAH-C+患者よりかなり高く(97±23対27±13μmol/mgタンパク質、P<0.05)、これは門脈圧と相関することが示された(R=0.61、P<0.05)。血漿ADMAレベルは、入院中に死亡した患者(n=13)が、生存患者(n=39)と比較して有意に高かった(0.77±0.08対0.53±0.02μmol/L;P<0.001)(図1b)。さらなる細分析により、退院したAH+C+患者と非炎症AH-C+患者の間で有意に高いADMAレベルが明らかになった(0.62±0.04対0.49±0.02μmol/L;P<0.01)。さらに、ADMAのレベルは、死亡したAH+C+患者の方がAH+C+生存患者より高かった(P<0.05)(図1c)。
【0110】
SDMA:52人の患者の平均血漿SDMAレベルは、対照より高いものの、統計的に有意に高いわけではなかった:0.77±0.08対0.46±0.01μmol/L、P<0.08。しかし、SDMAのレベルは、AH+C+患者の方がAH-C+患者より有意に高かった(1.03±0.1対0.48±0.03μmol/L;P<0.001)。AH-C+患者におけるSDMAレベルは健康なボランティアに類似していた(P=0.67)[図2a]。SDMAのレベルは、入院中死亡した患者の方が全生存患者と比較して有意に高かった(1.6±0.35対0.6±0.05μmol/L;P<0.001)[図2b]。AH+C+患者のさらなる細分析により、死亡した患者の方が生存患者と比較して有意に高いSDMAを有することが立証され、その平均SDMAは0.8±0.01μmol/Lであった(P<0.05)[図2c]。しかし、AH+C+生存患者と非炎症AH-C+生存患者の間にもSDMAの有意差が認められ、その平均SDMAは0.48±0.03であった;P<0.01。
【0111】
生存の予測因子:ADMAおよびSDMAのベースライン測定値(第0日〜第3日)を、この時点で算出したMELD、Pughスコアおよび判別関数と共に用いて、受診者動作特性曲線(ROC)の曲線下面積(AUC)の使用により、入院患者の生存を判定する上でのこれらの基準の予測実用性を比較した。全患者に関するこれらの各予測基準についてのAUC、およびAH+C+患者に関する個別の分析を表3に記載する。さらに、図3に示すように、AH+C+患者においてADMAをSDMAと比較したとき、SDMAのROCから得られたそのカットオフ値(<0.9)は、ADMAカットオフ<0.65を用いて予測される全死亡を包含していなかった。このため、本発明者らは、ADMAとSDMAの合計から算出した合計ジメチルアルギニンスコア(DAS)[DAS=ADMA+SDMA]を用いて、生存を判定する上での個体のジメチルアルギニンレベルの予測実用性を改善しようと試みた。算出したDASは、AH+C+患者の方がAH-C+患者より有意に高かった(1.9±0.2対0.96±0.04;P<0.001)。さらに、DAS値は非生存AH+C+患者の方が生存患者より有意に高かった(2.5±0.38対1.4±0.16;P<0.01)。実際、DAS値は、全患者の予後判定の高い感度を維持しながら、特異度を改善しており、予後を判定する上でPughスコア、DFまたはMELDと少なくとも同じくらい優れているようであった(表3)。死亡した12人のAH+C+患者において入院中に採取した血液からの反復ジメチルアルギニン測定値を、反復血液サンプルが入手可能だった18人の生存者(6人はAH-C+)と比較することにより、生存患者と比較して、死亡した患者のDASにおける有意な増加(%)が明らかになった(P<0.01)(図4)。被験患者全員についてのカプラン−マイヤープロットを図5に示すが、この図は、DAS値が>1.23の患者における入院中生存の有意な減少を示すものである(ログランクはP<0.001)。さらに、DASカットオフ1.52は、図6に示すように、AH+C+患者における生存を評価する場合、他の全てのスコアリングシステムより有用な予測因子であるようだった。
【0112】
DDAH IIおよびPRMT-1発現:肝DDAH II発現(α-チューブリン発現について補正された)は、これが測定された4人のAH+C+患者の方が、AH-C+患者より有意に低かった(P<0.01)。対照的に、PRMT-1の発現は、図7に示すように、AH+C+患者の肝臓において有意に増加した(P<0.01)。1人のAH-C+患者から抽出したホモジネートが、適切なゲルローディングを達成するには限られていたため、7人の患者のPRMT-1データを示す。
【0113】
考察
本試験の結果から、炎症の併発が組織学的に証明されたアルコール性肝硬変(AH+C+)を有し、かつ炎症性サイトカインおよびSIRS成分が上昇した患者は、肝硬変のみを有する患者(AH-C+)と比較して、高い肝静脈圧勾配を有することが示される。本発明者らは、非代償性肝硬変における増加した遊離循環ADMAについての以前の観測27を、AH-C+患者と比較して炎症性AH+C+患者では血漿および肝組織ADMAが増加するという新しい追加の知見に拡大し、ADMA増加と門脈圧上昇との関連を立証する。さらに、本発明者らの結果により、非代償性肝硬変の生存患者ではADMAおよびSDMAレベルが有意に低く、SDMAもまた炎症性AH+C+患者のサブグループにおける生存者と非生存者とを区別し、これらの患者において死亡は主に腎不全と関連していることが立証される。アルコール性肝炎における早期予後(入院患者の死亡率)、または介入の必要性を判定するのに用いられる既存の有効なスコアリングシステム(Child-Pugh、DFおよびMELD)を今回の患者コーホートに適用したところ、その予測実用性は限定的であった。ADMA、SDMAの循環レベル、またはこれらジメチルアルギニン(DAS)の合計は、死亡リスクのある患者を予測した。本発明者らの結果は、AH+C+患者がAH-C+患者と比較して有意に上昇したTNFα、TNF-RIおよびRIIの血漿レベルを有するという以前の報告21を証明している。TNFαによりモジュレートされる炎症は、アルコールに誘導される肝障害において重要であると考えられ28,29、アルコール性障害の動物モデルでのその阻害は、肝炎症を有意に軽減する30。さらに、最近の動物モデルデータは、門脈圧の上昇を招く、肝硬変での増加した肝臓内抵抗に別の炎症が重要であることを示唆している29。従って、門脈圧亢進症動物およびヒトにおける門脈圧は、サリドマイド31,32、およびTNFαモノクローナル抗体29を用いた治療などの、炎症のモジュレーターに対する介入により低減することができる。本発明者らが最近、アルコール性肝炎を併発した肝硬変患者を抗TNFαモノクローナル抗体で治療して、その門脈圧の顕著な低下を観察したことにより、炎症と、血管内緊張をモジュレートする因子との関係の仮説が支持されると考えられる33
【0114】
肝硬変における増加した肝臓内抵抗には、肝臓eNOS活性の減少に続発する局所NO利用度の低下が寄与しているという一般的な見解が文献5,6にみられる。ADMAは、タンパク質分解中に生産されるeNOSの競合的な内因性インヒビターであり11、肝臓はADMA代謝の重要な部位であることが示唆されている13。ADMAの上昇は、様々な病状における内皮機能不全に関連することが明らかにされており34-36、また、慢性活性肝炎患者におけるADMAの尿排泄増加が記載されている37。最近、ADMAは健康な対照と比較して末期肝硬変において上昇し27、また正常位肝移植前の肝不全患者でも上昇するが、移植後にそのレベルは有意に低下することがわかった15。これらの研究は、肝疾患および門脈圧亢進症が進行するにつれ、ADMAが上昇すること、および肝移植後に急速な低下が起こることを暗示し、これは、肝移植後に記録された炎症指数の低下に関連するADMA代謝異常の修正を示唆している38。本試験において、本発明者らは、AH-C+患者と比較して、肝炎症を併発したAH+C+患者における有意に増加したADMAの血漿および肝組織レベルを立証する。炎症の影響は、アルコール性肝硬変のみの場合に予測されるもの14を上回るようである。このデータは、肝炎症モジュレーターの増加後に、肝臓のADMA代謝または/および生成に変化が生じるという仮説を支持するものである。
【0115】
ADMAホメオスタシスは、酵素DDAHによるその代謝により維持され、この酵素は肝臓および腎臓に特に豊富である12,39。DDAH活性は、TNFαのような炎症刺激により低減することがわかっている17。したがって、AH+C+患者に見られるようにTNFαのレベルが著しく増加すれば、代謝障害によるより高い肝ADMAレベルを予測することができ、これは次に、局所肝NOS活性が低減しうる。この主張は、本試験で、AH+C+患者(HVPGが有意に増加している)において肝DDAH IIタンパク質発現(肝臓に存在するDDAHの最も豊富なサブタイプ)の低減に伴う肝組織ADMA増加が観察されたことにより部分的に支持される。
【0116】
あるいは、本発明者らがAH+C+患者においてADMA増加を観察したことは、ADMA生産の増加によるものと説明することもできる。ADMAは、タンパク質内のアルギニンの側鎖窒素をメチル化する酵素のファミリー40であるPRMTの作用により産生される。数種のPRMTが記載されており、I型はNG-モノメチル-L-アルギニン(L-NMMA)およびADMAの産生に関与し、II型はL-NMMAおよび対称性ジメチルアルギニン(SDMA)の産生に関与している。タンパク質分解(肝硬変および炎症のような超代謝状態において増加する41)時には、顕著な量のADMAが産生される42。従って、ADMAおよびSDMA産生の速度は、PRMTの存在および活性、ならびにタンパク質分解の速度によって変動すると考えられる。これと一致して、本発明者らは、AH-C+患者と比較して、炎症の増加がみられるAH+C+患者においてPRMT-1の発現の増加を観察した。この観察は、上方調節されたADMA放出は、PRMT発現の増加に関連するという、酸化LDL-コレステロールに暴露したヒト内皮細胞に関する研究からのデータ43によってさらに支持される。
【0117】
本発明者らの試験は、生存を決定する上でのジメチルアルギニンの役割に注目することに力を注ぐわけでも、それを目指しているわけでもないが、本試験から明らかになった最も重要な知見の1つは、以前の一連の刊行物44,45と一致して、アルコール性肝硬変患者の群全体における入院中の死亡率(25%)、特に、AH+C+患者(死亡率44%)における入院中の死亡率と、上昇したADMAおよびSDMAレベルとの関連であった。アルコール性肝炎の予後を予測する既存のスコアリングシステムは、生化学(ビリルビン、プロトロンビン時間およびクレアチニン)および臨床的変数(腹水および脳症の程度)を中心とするものであり、特に、この病状と関連する顕著な血液動態学的変化または炎症性状態の有意な変化26,46,47は考慮していない。
【0118】
本試験において、本発明者らは、測定可能な生物学的マーカー(最小のアッセイ間変動性を含む)として、ジメチルアルギニンレベルの潜在的な使用を確認し、これは、現在用いられている予後スコアより優れた感度(73%)と特異度(83%)で、早期に入院患者の死亡率を予測することができる。本発明者らのデータはまた、予後不良の患者におけるジメチルアルギニンレベルのさらなる一時的な増加を示唆しているが、反復測定値の判別値に関する確かな結論は、被験患者の数が少ないことにより制限される。ADMAレベルは、腎循環血管床内などで血管機能不全が起こったAHにおける炎症状態を部分的に反映している可能性がある48。ADMAの増加は、有効な腎血漿流量の減少および腎血管抵抗の増加に関連しており49、これらがSDMAの滞留増加を招くことになる。実際、SDMAは、腎不全のない肝硬変患者と比較して、肝腎症候群患者で上昇することが最近明らかにされた50。このように、合計ジメチルアルギニン(DAS)スコアは、炎症と初期腎機能障害(本試験のAH+C+患者コーホートにおける死亡の主因)の両方を考慮しており、本発明者らの試験で確認したこのスコアのより優れた予測実用性を説明することができる。
【0119】
結論として、本発明者らは、AH+C+患者がより顕著なHVPGの上昇を示し、これが血漿および肝組織ADMAの増加と関連することを観察した。AH+C+患者におけるADMAの増加は、分解の減少(肝DDAHの減少)および/または生産の増加(PRMT発現および/またはタンパク質分解の増加)によるものと考えられる。ジメチルアルギニンレベルの上昇は、アルコール性肝炎における有害な予後の重要な生物学的マーカーとなりうるが、ADMAが原因として関与しているか否かを決定するためには、適切なモデルを用いたさらなる研究が必要である。
【実施例2】
【0120】
アルコール性肝疾患で死亡する患者は、有意に増加したIMA:アルブミン比を有する
方法
IMA:アルブミン比の評価方法:血清アルブミンの測定のためにAbbott Aeroset Bromocresol Purple(BCP)試験を用いる(Dulyら;J Clin Pathol 2003)。虚血修飾血清アルブミンの濃度は、血清検体に既知量のCo(II)を添加し、ジチオトレイトール(DTT)を用いた比色アッセイで非結合Co(II)を測定することにより測定することができる(Bhagavan, NV;Clin Chem 2003およびBar-Or D;Eur J Biochem 2001)。このように、アルブミン結合コバルトの量と色形成の強度との間に反比例の関係が存在する。以下に簡単に説明する。すべての反応は、室温にて、1.5 mlのエッペンドルフチューブ中で実施する。200μLの患者血清を50μLの1g/L塩化コバルト溶液に添加した後、激しく混合してから、10分インキュベートする。次に、DTT(50μLの1.5g/L溶液)を添加し、混合する。2分のインキュベーション後、1.0 mLの9.0 g/L NaCl溶液を添加する。アッセイ混合物の吸光度をHewlett Packard 8452ADiode Array Spectrophotometerにより470 nmで読み出す。DTTを排除する以外は同様に対照サンプルを調製する。尚、塩化コバルトおよびDTTを含むすべての化学薬品はSigma-Aldrichから購入したものである。
【0121】
結果
新規バイオマーカー「DASIMAR」の開発:肝臓病患者におけるアルブミンの変動レベルが、一部が栄養により、そして大部分が残存の肝臓合成機能により決定されると仮定して、本発明者らは、アルブミン−コバルト結合アッセイの適用を改変して、血清中の天然アルブミンに対するIMAの比(血清IMA:アルブミン比、または「IMAR」)を考慮した。アルコール性肝疾患を有する52人の一連の非代償性患者に関するデータは、死亡する患者が、有意に増加したIMA:アルブミン比(P<0.01)を有することを示している。さらに、DAS値と同様に、IMARが、炎症状態、および従って、疾患の根本的な病態進展を反映する可能性があるという示唆が存在する。死亡率を予測するために受診者動作特性曲線を用いると、曲線下面積は、被験コーホートでは0.73(±0.06)であることがわかり、これは、IMARがこれら患者の死亡率の有用な予測試験でありうることを示している。
【0122】
考察
DASおよびIMARのいずれも疾患の進行および予後についてのマーカーを示すにもかかわらず、本発明者らは、組合せバイオマーカーとして、ジメチルアルギニンスコア(DAS、実施例1を参照)をIMARと組み合わせることにより、予後不良の予測実用性を改善した(95%信頼区間0.81〜0.99でAUROCが0.91(±0.04)、感度74%および特異度92%)。これにより、死亡リスクを評価するのに優れた予測実用性が提供され(図9および10)、これは同時に、アルブミン透析、および炎症を抑える治療などの特異的介入の標的となりうる肝不全の病態生理学の要素である、増悪する臓器不全および炎症を反映している。従って、DASIMARを用いて、介入に対する応答をモニターすることも可能である。
【実施例3】
【0123】
げっ歯類肝不全モデルにおける生存を予測するためのIMAR、DASおよびDASIMAR
肝障害を引き起こすことが知られている物質であるガラクトサミン(Sigma、Poole、UK)による腹腔内注射(IP)(1g/kg;n=22)によりラットを処置し、その24時間後に、サブグループをリポ多糖(LPS:Klebsiella pneumonia、n=11)でさらにチャレンジ(1 mg/kgでIP投与)して、別の感染/炎症を刺激した。次に、死亡の直前に血液サンプルを採取した。
【0124】
ガラクトサミンのみを受けたラット、または同等用量のLPSを受けた模擬(sham)動物と比較して、24時間でチャレンジを受けた動物はすべて、6時間までに死亡した。
【0125】
前記実施例に記載したものと同じ方法を用いて、ADMA、SDMA、およびIMARの測定値を取得した。ヒト患者から得られたデータと同様に、DASIMARは、DASまたはIMAR単独よりはるかに優れた死亡予測因子(AUROC:0.96)であることが認められた(図11を参照)。実際に、このモデルでは、DASIMARは、予後を予測する上で高い感度(96%)および特異度(91%)を有しており、これは、肝疾患の様々なモデルにおいて、および虚血に関して、DASおよびIMAR成分の組合せ効果を際立たせ、このスコアの実用性を強調している。
【0126】

【表1】

【表2】

【表3】

【0127】
参考文献







【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における肝機能を評価する方法であって、個体における1種以上のメチルアルギニンのレベル、および虚血修飾アルブミン(IMA):アルブミンの比(IMAR)を測定することにより、該個体における肝機能を評価することを含む、上記方法。
【請求項2】
前記方法が、個体における肝疾患の進行をモニターする、個体における肝疾患の予後を予測する、肝移植後の肝機能を評価する、肝移植後の移植片における再灌流傷害時の肝機能を評価する、または多臓器不全および/もしくは敗血症を発症する患者における肝機能を評価することを目的とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メチルアルギニンは、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)および/または対称性ジメチルアルギニン(SDMA)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ADMAとSDMAの合計レベルを測定する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記個体が肝不全に罹患している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記個体が、慢性肝不全、acute-on-chronic型肝不全または急性肝不全に罹患している、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記個体が、アルコール性肝疾患に罹患している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記個体が、肝硬変、または肝硬変および/またはアルコール性肝炎に罹患している、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
肝疾患に罹患していない個体または肝疾患の生存患者である個体のメチルアルギニンレベルと比較して高いレベルのメチルアルギニンが、個体における死亡リスクの増加を示す、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
肝疾患に罹患していない個体または肝疾患の生存患者である個体のADMAとSDMAの合計レベルと比較したADMAとSDMAの合計レベルの増加が、個体における死亡リスクの増加を示す、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
肝疾患に罹患していない個体または肝疾患の生存患者である個体のIMARと比較したIMARの増加が、個体における死亡リスクの増加を示す、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
肝疾患に罹患していない個体または肝疾患の生存患者である個体と比較したADMAとSDMAの合計レベルの増加およびIMARの増加が、個体における死亡リスクの増加を示す、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
1種以上の別の肝疾患の予後スコアを測定する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記1種以上の別の肝疾患の予後スコアが、Child-Pughスコアリングシステム、West Haven Criteria、Glasgow Coma Scale、改変Child-Pughスコアリングシステム、SOFA、MELDまたはAPACHE IIの1つ以上である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、個体由来のサンプルに対して実施される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記サンプルが血漿サンプルまたは肝組織サンプルである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
個体における肝機能を評価する方法で用いるのに適した試験キットであって、個体における1種以上のメチルアルギニンのレベル、および虚血修飾アルブミン(IMA):アルブミンの比(IMAR)を測定する手段を含む、上記試験キット。
【請求項18】
個体における肝疾患の治療方法で用いるための薬剤の製造における物質の使用であって、該個体が、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法に従い、死亡リスクが増加した者であると識別されている、上記使用。
【請求項19】
個体における肝疾患の治療方法であって、
(i)請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法を用いて、個体が増加した死亡リスクを有するか否かを決定するステップと、
(ii)(i)で死亡リスクを有する者としてされた個体に、肝疾患の治療に有用な物質を治療上有効量で投与するステップ
とを含む、上記方法。
【請求項20】
(i)個体における1種以上のメチルアルギニンのレベル、および虚血修飾アルブミン(IMA):アルブミンの比(IMAR)を測定する手段と、
(ii)肝疾患の治療に有用な物質とを、
治療によるヒトまたは動物身体の治療方法に同時に、個別にまたは逐次使用するための組合せ製品として含む、製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−502979(P2010−502979A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527200(P2009−527200)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003362
【国際公開番号】WO2008/029145
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(505367464)ユーシーエル ビジネス ピーエルシー (20)
【Fターム(参考)】