説明

肝特異的核酸調節要素ならびにその方法および用途

本発明は、遺伝子の肝特異的発現を増強しうる核酸調節要素、これらの調節要素を使用する方法、およびこれらの要素の使用に関する。これらの核酸調節要素を含有する発現カセットおよびベクターも開示する。本発明は、遺伝子治療を用いる用途に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子の肝特異的発現を増強しうる核酸調節要素、これらの調節要素を使用する方法、およびこれらの要素の使用に関する。これらの核酸調節要素を含有する発現カセットおよびベクターも開示する。本発明は、遺伝子治療を用いる用途に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、代謝、止血および感染防御に関与するタンパク質の合成を含む、体内の非常に多様な必須機能を果たしている。多数の後天的、複合的および遺伝的疾患(狭義には肝疾患、および肝疾患を直接は招かないが主に体内の他の部位で発現する幾つかの遺伝性障害)が肝臓における遺伝子発現の改変に関連づけられている。幾つかの具体例には、血友病AもしくはB、家族性高コレステロール血症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症またはα−アンチトリプシン欠損症が含まれる。また、肝臓は、しばしば、病原体(例えば、肝炎ウイルス)の感染を受ける。最後に、肝臓は悪性トランスフォーメーションを受け、肝癌(肝細胞癌)を引き起こし、あるいは医薬治療および化学療法、薬物またはアルコール乱用の結果として機能低下しうる。したがって、肝臓において機能性遺伝子を発現させて必要なタンパク質を補充し、または例えばRNA干渉もしくはドミナントネガティブ抑制タンパク質により改変遺伝子産物もしくは望ましくない遺伝子産物の発現を遮断し、または変性肝臓の肝細胞機能を回復させるために遺伝子治療を用いることに、相当な且つ関心が寄せられつつある。免疫刺激性サイトカインのような適切な遺伝子での肝細胞の形質導入も、例えばウイルス性肝炎または肝腫瘍に対する免疫応答を誘導するのに有用でありうる(Barajasら,2001;Villaら,2001)。
【0003】
肝遺伝子治療における主要課題の1つは肝特異的治療遺伝子発現の達成である(Xiaら,2004;Prietoら,2003)。哺乳類肝細胞のインビボ標的化は、肝実質、肝動脈または肝門脈内にDNAまたはウイルスベクターを注入することにより行われている。アデノウイルスベクターは、全身投与された場合であっても、マウスにおいては主として肝臓を標的化するが(Woodら,1999)、肺および骨格筋にも感染しうる。さらに、アデノウイルスの肝特異性はヒトにおいては未だ実証されていない。アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)またはレンチウイルスベクターのような他のベクターも肝細胞を形質導入しうるが、この場合も、標的外遺伝子発現を招く非肝細胞の形質導入が生じうる(VandenDriesscheら,2002)。遺伝子発現を局在化するためのもう1つの方法は転写標的化によるものである。一般に、転写標的化は全てのインビボ遺伝子治療用途に非常に望ましい。なぜなら、それは非標的細胞におけるトランスジーンの発現を妨げて、生理的調節を模倣しうるからである(Tenenbaumら,2003;Schagenら,2004)。適切な肝特異的転写要素の使用は治療用遺伝子の発現を肝細胞に限定するはずである。例えば、主として肝臓において活性である幾つかのプロモーターが細胞特異的遺伝子運搬に既に使用されている(Kuriyamaら,1991;Kistnerら,1996)。しかし、機能的組織特異性は稀にしか実証されていない。さらに、遺伝子治療における肝特異的プロモーターの使用の主な欠点はその大きなサイズである。なぜなら、多数のベクターは、限られたクローニング空間を有するに過ぎず、および/または遺伝子治療法において広く使用されているサイトメガロウイルス(CMV)もしくは長末端反復(LTR)プロモーター配列のような強力(ウイルス)プロモーターと比較して低い活性を有するからである。
【0004】
臨床効果を達成するために必要なウイルスベクターの量を減少させるための方法としては、組織特異的トランスジーン発現の増強が望ましい。特異性および活性の両方を増強するために、シス作用性調節要素の使用が提示されている。典型的には、これはエンハンサー配列[すなわち、配向には無関係に、比較的長い距離にわたる(標的プロモーターから数キロベースまで離れている)場合であっても、プロモーターの活性を増強し、シスで作用する可能性を有する核酸配列]に関係している。しかし、エンハンサー機能は必ずしもそのような長い距離に限定されるわけではない。それらは、与えられたプロモーターの近くにおいても機能しうるからである。肝臓に関しては、(しばしば、ハウスキーピング肝細胞特異的細胞プロモーターに加えて)レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスベクターまたは非ウイルスベクター内にそのような器官特異的調節配列を組込むための多数のアプローチが現在までに報告されている(Ferryら,1998;Ghoshら,2000;Miaoら,2000;Follenziら,2002)。肝特異的プロモーターおよびエンハンサーを使用することによりベクター媒介遺伝子発現を肝細胞に限定する利点は、例えば、トランスジーンによりコードされるタンパク質に対する免疫応答を誘導する可能性の減少を含む(Pastoreら,1999;Brownら,2006,2007)。
【0005】
肝特異的遺伝子のための幾つかのエンハンサー配列が記載されている。WO95/011308は、トランスジーンおよびプロモーターに連結された肝細胞特異的調節領域(HCR)エンハンサーを含む遺伝子治療用ベクターを記載している。ヒトアポリポタンパク質E−肝細胞調節領域(ApoE−HCR)はアポリポタンパク質E(ApoE)遺伝子の肝特異的発現のための遺伝子座調節領域である。ApoE−HCRはApoE/Cl/Cll遺伝子座に位置し、771bpの全長を有し、肝臓における遺伝子ApoEおよびApoC−lの発現において重要である(Simonetら,1993)。WO01/098482においては、この特異的ApoEエンハンサー配列またはそのトランケート化体と肝プロモーターとの組合せが示唆されている。(非トランケート化)ApoE−HCRエンハンサーをヒトα−アンチトリプシン(AAT)プロモーターと組合せたベクター構築物は最高レベルの治療用タンパク質をインビボで産生することが可能であり(Miaoら,2000)、異種トランスジーンと共に使用された場合に持続的発現をもたらしうることが示された(Miaoら,2001)。注目すべきことに、これらの著者は、インビボ肝遺伝子発現を増強するためのシス配列の重要性を示しているだけでなく、組織培養およびインビボ研究における遺伝子発現の相関性の欠如を再び強調している。
【0006】
例えばpAAV−ApoHCR−AAT−FIXIA構築物(VandenDriesscheら,2007)において使用されたこのApoE−HCR−AAT発現カセットは、公知の最も強力な肝特異的FIX発現構築物の1つであり、重篤な血友病Bを有するヒトでの第1/2相用量増加臨床研究において成功裏に適用されている(Mannoら,2006)。このhFIX小型遺伝子の発現は、ヒトAATプロモーターに連結されたApoE−HCRから駆動される。ヒトAAT遺伝子の5’−隣接配列は、約1.2kbの全長を有する、遠位エンハンサーおよび近位配列を含む複数のシス調節要素を含有する。主として肝臓において、そしてそれよりは低い度合ではあるが、AATを発現することが知られている他の組織においても、遺伝子発現を導くことによりインビボで組織特異性を付与するためには、それで十分であることが示された(Shenら,1989)。ApoEエンハンサーと組合されたこの1.2kbの領域の347bpの断片はインビボで長期肝特異的遺伝子発現を達成しうる(Leら,1997)。興味深いことに、この短いほうのプロモーターは、より大きなAATプロモーター断片に関して報告されているものより大きな特異性で、発現を肝臓へと標的化する(Yullら,1995)。
【0007】
他のキメラ肝特異的構築物、例えば、AATプロモーターおよびアルブミンもしくはB型肝炎エンハンサー(Kramerら,2003)またはアルコールデヒドロゲナーゼ6(ADH6)基底プロモーター(アポリポタンパク質Eエンハンサー要素の2つの縦列コピーに連結されているもの)を含有するものも、文献において提示されている(Gehrkeら,2003)。後者の刊行物の著者は、このエンハンサー−プロモーターの組合せの比較的小さいサイズ(1068bp)の重要性を強調している。
【0008】
トランスジーン産物の治療レベルを長期間にわたってもたらしうるためには、遺伝子導入ベクターは、好ましくは、特異的に調節された高い発現を可能にすると同時に、該トランスジーンが挿入されるのに十分なクローニング空間を保有する。すなわち、高度かつ組織特異的な発現を達成するために使用される調節要素は、好ましくは、限られた長さのものであるに過ぎない。しかし、これまでに開示されている遺伝子治療用ベクターはいずれも、全てのこれらの基準を満たしているわけではない。実際、遺伝子治療用ベクターは、所望の標的細胞、特に肝細胞における発現レベルおよび/または発現特異性の点で十分に強固ではない。プロモーター/エンハンサーのサイズの減少は、しばしば、発現レベルおよび/または発現特異性を妨げたが、より大きな配列の使用は、しばしば、ベクター機能、パッケージングおよび/またはトランスフェクション/形質導入効率の阻害により遺伝子運搬の効率を損なう。したがって、有効な遺伝子治療のための肝臓におけるトランスジーン発現の治療レベルを達成するベクターが当技術分野において必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第95/011308号
【特許文献2】国際公開第01/098482号
【発明の概要】
【0010】
遺伝子治療に使用される構築物の肝特異的発現の効率を特にインビボで増加させることが本発明の目的である。同時に、高度の構造的密集性を有する構築物を使用してこれを達成することが本発明の目的である。前記目的は、(最小プロモーターを使用した場合でさえも)組織特異性を保有する一方でプロモーター発現を増強する特異的調節要素を提供することにより達成される。特に重要なのは、これらの調節要素サイズが小さいことであり、これは、この転写制御単位を、大きなエフェクター遺伝子と組合されている場合であっても任意のタイプのウイルスまたは非ウイルスベクター内に収容することを可能にする。それらの限られた長さにもかかわらず、本発明で提供される調節要素は、遺伝子治療において使用される、より長い通常の核酸発現カセットと比較して類似したレベル、そして典型的にはより一層高いレベルまで、トランスジーンの発現を増強しうる。
【0011】
したがって、第1の態様においては、配列番号3、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはそれらの機能性断片からなる群から選ばれる配列を含む、肝特異的遺伝子発現を増強するための600ヌクレオチドまたはそれ未満の核酸調節要素を提供する。
【0012】
もう1つの特定の実施形態においては、該核酸調節要素は、配列番号3、配列番号1、配列番号2、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはそれらの機能性断片からなる群から選ばれる配列を含む。さらにもう1つの特定の実施形態においては、該核酸調節要素は、配列番号3、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはそれらの機能性断片を含む。
【0013】
もう1つの実施形態においては、配列番号3、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはそれらの機能性断片からなる群から選ばれる配列を含む調節要素にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする600ヌクレオチドまたはそれ未満の核酸調節要素を提供する。
【0014】
もう1つの実施形態においては、配列番号3、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14およびこれらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列からなる群から選ばれる配列の少なくとも2つの断片を含む600ヌクレオチドまたはそれ未満の核酸調節要素を提供する。もう1つの特定の実施形態においては、これらの断片の少なくとも2つは互いに異なる。さらにもう1つの特定の実施形態においては、全ての断片は互いに異なる。もう1つの特定の実施形態においては、少なくとも2つの断片は同一である。もう1つの特定の実施形態においては、少なくとも2つの断片の少なくとも1つは機能性断片である。もう1つの特定の実施形態においては、全ての断片は、挙げられている配列の機能性断片である。
【0015】
もう1つの態様においては、該調節要素は、遺伝子またはトランスジーンを発現させるために使用される。したがって、プロモーターに機能的に連結された、本明細書に記載されている核酸調節要素を含む核酸発現カセットを提供する。この態様のもう1つの実施形態においては、該核酸発現カセットの核酸調節要素はプロモーターおよびトランスジーンに機能的に連結されている。
【0016】
特定の実施形態においては、2以上の核酸調節要素を含有する該核酸発現カセットを提供する。この場合、これらの2以上の核酸調節要素はプロモーターに、そして場合によってはトランスジーンに機能的に連結されている。もう1つの特定の実施形態においては、それらの2以上の調節要素の少なくとも2つは同一または実質的に同一(例えば、90%または95%同一)である。さらにもう1つの特定の実施形態においては、それらの2以上の調節要素の全ては同一または実質的に同一である。もう1つの特定の実施形態においては、それらの2以上の調節要素の少なくとも2つは互いに同一でない。
【0017】
特定の実施形態においては、提供する核酸発現カセット内に含有されるプロモーターは肝特異的プロモーターである。もう1つの特定の実施形態においては、該肝特異的プロモーターはトランスチレチン(TTR)遺伝子に由来する。さらにもう1つの特定の実施形態においては、該TTRプロモーターは最小プロモーター、最も厳密には、配列番号17に記載されている最小プロモーターである。
【0018】
もう1つの特定の実施形態においては、提供する核酸発現カセット内に含有されるプロモーターは最小プロモーターである。
【0019】
該トランスジーンは、RNAまたはポリペプチド(タンパク質)のような遺伝子産物を典型的にコードする核酸発現カセット内に含有されうる。特定の実施形態においては、該トランスジーンは治療用タンパク質をコードする。もう1つの特定の実施形態においては、該治療用タンパク質は凝固因子である。さらにもう1つの特定の実施形態においては、該治療用タンパク質(または凝固因子)は因子IXである。
【0020】
本明細書に記載されている核酸発現カセット、そして調節要素でさえも、そのまま使用されうる。しかし、典型的な実施形態においては、該発現カセットは核酸ベクターの一部となる。したがって、もう1つの態様においては、本明細書に記載されている調節要素を含むベクターを提供する。特定の実施形態においては、該ベクターは、本出願に開示されている核酸発現カセットを含む。特定の実施形態においては、提供するベクターはウイルスベクター、特にレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスまたはAAVベクター、より厳密には、レンチウイルスまたはAAVベクターである。もう1つの実施形態においては、該ベクターは非ウイルスベクターである。さらにもう1つの実施形態においては、該ベクターはウイルス要素および非ウイルス要素の両方を含有する。
【0021】
該肝特異的調節要素、該発現カセットおよびそれらのいずれかを含有するベクターは遺伝子治療目的に使用されうることが当業者に明らかである。したがって、遺伝子治療における、本明細書に記載されている核酸調節要素の使用が想定される。もう1つの特定の実施形態においては、遺伝子治療における、本明細書に開示されている核酸発現カセットの使用を開示する。さらにもう1つの特定の実施形態においては、本出願は、遺伝子治療のための、本明細書に記載されているベクターの使用を想定している。特定の実施形態においては、想定される遺伝子治療は肝特異的遺伝子治療である。もう1つの特定の実施形態においては、該遺伝子治療は、肝臓において生じた疾患に対する遺伝子治療である。
【0022】
本発明のもう1つの態様においては、
・本明細書に記載されている核酸調節要素がプロモーターおよびトランスジーンに機能的に連結された核酸発現カセットを肝細胞内に導入し、
・トランスジーン産物を該肝細胞内で発現させる工程を含む、肝細胞においてトランスジーン産物を発現させるための方法を提供する。
もう1つの特定の実施形態においては、該トランスジーン産物はタンパク質である。もう1つの実施形態においては、該トランスジーン産物はRNAである。もう1つの特定の実施形態においては、該方法をインビトロで行う。もう1つの特定の実施形態においては、該方法をエクスビボ(ex vivo)で行う。もう1つの特定の実施形態においては、該方法をインビボで行う。
【0023】
遺伝子治療を要する対象における遺伝子治療の方法も本発明において提供する。これらの方法は、典型的には、
・核酸発現カセット(該核酸発現カセットにおいては、本明細書に記載されている核酸調節要素が、プロモーター、および治療用タンパク質をコードするトランスジーンに機能的に連結されている)を対象の肝臓内に導入し、
・治療量の該(治療用)タンパク質を肝臓内で発現させる工程を含む。
【0024】
該核酸発現カセットそれ自体を導入する代わりに、該方法は、核酸発現カセット(該核酸発現カセットにおいては、本明細書に記載されている核酸調節要素が、プロモーター、および治療用タンパク質をコードするトランスジーンに機能的に連結されている)を含有するベクターを対象の肝臓内に導入することも可能である。一般に、それを要する対象は哺乳動物、最も厳密にはヒトであろう。典型的には、それを要する対象は、ある症状、最も厳密には、疾患に特徴的な症状を有するであろう。もう1つの特定の実施形態においては、該方法は、治療量の該治療用タンパク質を発現させることにより、症状の改善を要する対象の症状を改善する工程を更に含む。
【0025】
特定の実施形態においては、該方法は、血友病Bを有する対象の治療に使用されうる。この実施形態においては、該方法は、
・核酸発現カセット(該核酸発現カセットにおいては、本明細書に記載されている核酸調節要素が、プロモーター、および凝固因子、特に因子IXをコードするトランスジーンに機能的に連結されている)またはそのような核酸発現カセットを含むベクターを対象の肝臓内に導入し、
・治療量の該凝固因子(特に因子IX)を肝臓内で発現させるさせる工程を含む。
【0026】
これらの方法は、治療量の該凝固因子(特に因子IX)を肝臓内で発現させることにより血友病Bの症状を改善する工程を更に含みうる。
【0027】
(詳細な説明)
定義
本発明は特定の実施形態に関して及び或る図面を参照して以下に説明されるが、本発明はそれらに限定されるものではなく、特許請求のみによって限定される。特許請求の範囲におけるいずれの引用表示も本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。記載されている図面は概要図に過ぎず、限定的なものではない。図面においては、該要素の幾つかのサイズは誇張されていることがあり、例示を目的として、実物大では描かれていないことがある。「含む」なる語が本明細書および特許請求の範囲において用いられている場合、それは他の要素または工程を除外しない。単数形が用いられている場合、特に示されていない限り、これは複数形のその名詞を含む。
【0028】
さらに、本明細書および特許請求の範囲における第1、第2、第3などの語は、類似要素を区別するために用いられており、必ずしも、連続的または時間的順序を示すために用いられているわけではない。そのように用いられる用語は適切な状況下で互換可能であり、本明細書に記載されている本発明の実施形態は、本明細書に記載または例示されているもの以外の他の順序においても実施可能であると理解されるべきである。
【0029】
以下の用語または定義は専ら本発明の理解を補助するために記載されている。本明細書中に特に示されていない限り、本明細書中で用いる全ての用語は、本発明の当業者に認識されているものと同じ意義を有する。当技術分野における定義および用語に関しては、特に、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nded.,Cold Spring Harbor Press,Plainsview,New York(1989);およびAusubelら,Current Protocols in Molecular Biology(Supplement 47),John Wiley & Sons,New York(1999)が実施者に参考になる。本明細書に記載されている定義は、当業者に理解されているものより狭い範囲を有すると解釈されるべきではない。
【0030】
本明細書中で用いる「調節要素」は、遺伝子の転写、特に遺伝子の組織特異的転写を調節および/または制御しうる転写制御要素、特に非コード化シス作用性転写制御要素を意味する。調節要素は、少なくとも1つの転写因子結合部位(TFBS)、より厳密には、組織特異的転写因子に対する少なくとも1つの結合部位、最も厳密には、肝特異的転写因子に対する少なくとも1つの結合部位を含む。典型的には、本明細書中で用いる調節要素は、プロモーター駆動性遺伝子発現を、該調節要素を伴わない該プロモーター単独の遺伝子転写と比較して増加または増強する。したがって、調節要素は特にエンハンサー配列を含む。尤も、転写を増強する調節要素は典型的な遠上流エンハンサー配列に限定されるものではなく、それが調節する遺伝子から任意の距離において存在しうると理解されるべきである。実際、転写を調節する配列は、インビボでそれが調節する遺伝子の上流(例えば、プロモーター領域)または下流(例えば、3’UTR内)に位置することが可能であり、該遺伝子の至近距離または遥か遠くに位置しうることが、当技術分野において公知である。注目すべきことに、本明細書に開示されている調節要素は、典型的には、天然に存在する配列、そのような調節要素の(部分の)組合せ、または調節要素の幾つかのコピーである。すなわち、天然に存在しない配列自体も調節要素として想定される。本明細書中で用いる調節要素は、転写制御に関与する、より大きな配列の一部、例えば、プロモーター配列の一部でありうる。しかし、典型的には、調節要素のみでは、転写を開始させるのに十分ではなく、この目的にはプロモーターを要する。
【0031】
本出願において用いる「肝特異的発現」は、他の組織と比較した場合の肝臓における(RNAおよび/またはポリペプチドとしての)(トランス)遺伝子の優先的または優勢な発現を意味する。特定の実施形態においては、該(トランス)遺伝子発現の少なくとも50%が肝臓内で生じる。より厳密な実施形態においては、該(トランス)遺伝子発現の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%または100%が肝臓内で生じる。特定の実施形態においては、肝特異的発現は、他の臓器、例えば脾臓、筋肉、心臓および/または肺への、発現された遺伝子産物の漏出が存在しないことを含む。必要に応じて変更を加えて、肝細胞特異的発現にも同じことが当てはまり、それは肝特異的発現の特定の形態とみなされうる。本出願の全体において、発現に関して肝特異的と示されている場合、肝細胞特異的発現も明らかに想定される。同様に、本出願において組織特異的発現が用いられている場合、該組織を主として構成する細胞型の細胞型特異的発現も想定される。
【0032】
本出願において用いる「機能性断片」なる語は、肝特異的発現を調節する能力を保有する、本明細書に開示されている配列の断片を意味する。すなわち、それらは尚も組織特異性をもたらし、それらは、それらが由来する配列と同様に(しかし、おそらくは同じ度合ではないが)、(トランス)遺伝子の発現を調節しうる。断片は、それらが由来する配列からの少なくとも10個の連続的ヌクレオチドを含む。他の特定の実施形態においては、断片は、それらが由来する配列からの少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35または少なくとも40個の連続的ヌクレオチドを含む。
【0033】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ(する)」なる語およびその文法的等価体は、温度および塩濃度の一定条件下、標的核酸分子に核酸分子がハイブリダイズしうることを意味する。典型的には、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、天然二重鎖の融解温度(T)よりせいぜい25℃〜30℃(例えば、20℃、15℃、10℃または5℃)低い温度である。Tを計算するための方法は当技術分野でよく知られている。非限定的な具体例を挙げると、ストリンジェントなハイブリダイゼーションを達成するための代表的な塩および温度条件は65℃における1×SSC、0.5% SDSである。SSCなる略語は、核酸ハイブリダイゼーション溶液中で使用されるバッファーを意味する。1リットルの20×(20倍濃度)ストックSSCバッファー溶液(pH7.0)は175.3gの塩化ナトリウムおよび88.2gのクエン酸ナトリウムを含有する。ハイブリダイゼーションを達成するための典型的な時間は12時間である(全般的には、Sambrookら Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nded.,Cold Spring Harbor Press,1987;Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing,1987を参照されたい)。
【0034】
本明細書中で用いる「核酸発現カセット」なる語は、1以上の所望の細胞型、組織または器官において(トランス)遺伝子発現を導く1以上の転写制御要素(限定的なものではないが例えば、プロモーター、エンハンサーおよび/または調節要素、ポリアデニル化配列およびイントロン)を含む核酸分子を意味する。核酸発現カセットは、該核酸配列が挿入されている細胞における内因性遺伝子の発現を導くことも想定されるが、典型的には、それらはトランスジーンをも含有するであろう。
【0035】
本明細書中で用いる「機能的に連結」なる語は、種々の核酸分子要素が機能的に連結されており互いに相互作用しうるような、それぞれに対する該核酸分子要素の配置を意味する。そのような要素には、プロモーター、エンハンサーおよび/または調節要素、ポリアデニル化配列、1以上のイントロンおよび/またはエキソン、ならびに発現されるべき関心遺伝子のコード配列(すなわち、トランスジーン)が含まれうるが、これらに限定されるものではない。それらの核酸配列要素は、適切に配向している又は機能的に連結されている場合には、互いの活性をモジュレーションするように一緒に作用し、最終的には該トランスジーンの発現のレベルに影響を及ぼしうる。モジュレーションは、特定の要素の活性のレベルの増加、減少または維持を意味する。他の要素に対する各要素の位置は各要素の5’末端および3’末端として表されることが可能であり、いずれかの特定の要素の間の距離は、それらの要素間の介在ヌクレオチドまたは塩基対の数により示されうる。
【0036】
本出願において用いる「プロモーター」なる語は、それが機能的に連結されている対応核酸コード配列(例えば、トランスジーンまたは内因性遺伝子)の転写を直接的または間接的に調節する核酸配列を意味する。プロモーターは、転写を調節するよう単独で機能しうる。あるいはプロモーターは1以上の他の調節配列(例えば、エンハンサーまたはサイレンサー)と共に作用しうる。本出願の文脈においては、プロモーターは、典型的には、トランスジーンの転写を調節するよう調節要素に機能的に連結される。
【0037】
本明細書に記載されている調節要素がプロモーターおよびトランスジーンの両方に機能的に連結されている場合、該調節要素は、(1)該トランスジーンの有意な度合の肝特異的発現をインビボ(および/または肝細胞/肝細胞系でインビトロ)でもたらすことが可能であり、および/または(2)肝臓(および/またはインビトロで肝細胞/肝細胞系)における該トランスジーンの発現のレベルを増加させることが可能である。本明細書中で用いる「最小プロモーター」は、発現を尚も導きうるが(例えば組織特異的)発現の調節に寄与する配列の少なくとも一部を欠く、完全サイズのプロモーターの一部である。この定義は、遺伝子の発現を導きうるが組織特異的にその遺伝子を発現する能力を喪失している、(組織特異的)調節要素が欠失しているプロモーターと、遺伝子の(おそらくは低下した)発現を駆動しうるが組織特異的にその遺伝子を発現する能力を必ずしも喪失していない、(組織特異的)調節要素が欠失しているプロモーターとの両方を含む。最小プロモーターは当技術分野において詳細に記載されており、本明細書には最小プロモーターの非限定的な一覧が記載されている。
【0038】
本明細書中で用いる「トランスジーン」なる語は、核酸配列が挿入された細胞において発現されるべきポリペプチドまたはポリペプチドの一部をコードする特定の核酸配列を意味する。しかし、トランスジーンは、典型的には、核酸配列が挿入された細胞における特定のポリペプチドの量を減少させるために、RNAとして発現されることも可能である。これらのRNA分子には、RNA干渉により機能を果たす分子(shRNA、RNAi)、マイクロ−RNA調節(miR)、触媒性RNA、アンチセンスRNA、RNAアプタマーなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。該核酸配列をどのようにして細胞内に導入するかは本発明にとって本質的ではなく、それは、例えば、ゲノム内への又はエピソーム性プラスミドとしての組込みによるものでありうる。注目すべきことに、該トランスジーンの発現は、核酸配列が挿入された細胞の小集団に限局されうる。「トランスジーン」なる語は、(1)細胞において天然では見いだされない核酸配列(すなわち、異種核酸配列)、(2)それが導入された細胞において天然で見出される核酸配列の突然変異形態である核酸配列、(3)それが導入された細胞において天然で見出される同じ(すなわち、相同)または類似した核酸配列の追加的コピーを付加するよう働く核酸配列、あるいは(4)それが導入された細胞において発現が誘導される、天然に存在する又は相同なサイレント核酸配列を含むと意図される。「突然変異形態」は、野生型または天然に存在する配列とは異なる1以上のヌクレオチドを含有する核酸配列を意味する。すなわち、突然変異核酸配列は1以上のヌクレオチドの置換、欠失および/または挿入を含有する。いくつかの場合には、トランスジーンは、トランスジーン産物が細胞から分泌されるよう、リーダーペプチドまたはシグナル配列をコードする配列を含みうる。
【0039】
本出願で用いる「ベクター」なる語は、別の核酸分子(挿入核酸分子)、例えばcDNA分子(これに限定されるものではない)が挿入されていることが可能である、核酸分子、通常は二本鎖DNAを意味する。ベクターは、該挿入核酸分子を適切な宿主細胞内に運搬するために使用される。ベクターは、該挿入核酸分子を転写するのを可能にする、場合によっては転写産物をポリペプチドに翻訳するのを可能にする必要な要素を含有しうる。該挿入核酸分子は宿主細胞に由来することが可能であり、あるいは異なる細胞または生物に由来することが可能である。ベクターは、宿主細胞内に入ると、宿主染色体DNAからは独立して又はそれと同時に複製されることが可能であり、該ベクターおよびその挿入核酸分子の幾つかのコピーが産生されうる。したがって、「ベクター」なる語は、標的細胞内への遺伝子導入を促進する遺伝子運搬ビヒクルとしても定義されうる。この定義は非ウイルスベクターおよびウイルスベクターの両方を含む。非ウイルスベクターはカチオン脂質、リポソーム、ナノ粒子、PEG、PEIなどを包含するが、これらに限定されるものではない。ウイルスベクターはウイルスに由来し、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、肝炎ウイルスベクターなどを包含するが、これらに限定されるものではない。必ずしもそうであるわけではないが典型的には、ウイルスベクターは複製欠損型であり、この場合、複製に必須のウイルス遺伝子が該ウイルスベクターから除去されているため、該ベクターは、与えられた細胞における複製能を喪失している。しかし、幾つかのウイルスベクターは、与えられた細胞(例えば、癌細胞)において特異的に複製するよう適合化されることが可能であり、典型的には、(癌)細胞特異的(癌)細胞溶解を誘発するために使用される。
【0040】
本発明の第1の態様においては、配列番号3、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14からなる群から選ばれる配列を含む600ヌクレオチドまたはそれ未満の、肝特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節要素を提供する。特定の実施形態においては、該核酸調節要素は、これらの配列のいずれかに対して80%の配列同一性、より厳密には85%の配列同一性、より一層厳密には90%の配列同一性、さらに厳密には95%、98%または99%の配列同一性を有する配列を含む。もう1つの特定の実施形態においては、該核酸調節要素は、これらの配列の(またはこれらの配列に対して高い比率の配列同一性を共有する配列の)機能性断片を含む。肝特異的遺伝子発現に関与する配列の特定方法は実施例の節に概説されている。
【0041】
本明細書に記載されている調節要素が、限られた長さしか有さないのに完全に機能性であることは、相当な利点である。これは、ベクターまたは核酸発現カセットにおいて、それらの負荷容量を不適切に制限することなく、該調節要素の使用を可能にする。したがって、該核酸調節要素は600ヌクレオチド長またはそれ未満、550ヌクレオチド長またはそれ未満、500ヌクレオチド長またはそれ未満、450ヌクレオチド長またはそれ未満、400ヌクレオチド長またはそれ未満、350ヌクレオチド長またはそれ未満、より厳密には300ヌクレオチド長またはそれ未満、250ヌクレオチド長またはそれ未満、200ヌクレオチド長またはそれ未満、175ヌクレオチド長またはそれ未満、より一層厳密には150ヌクレオチド長またはそれ未満、125ヌクレオチド長またはそれ未満、110ヌクレオチド長またはそれ未満、さらに厳密には100ヌクレオチド長またはそれ未満、90ヌクレオチド長またはそれ未満、80ヌクレオチド長またはそれ未満、75ヌクレオチド長またはそれ未満、70ヌクレオチド長またはそれ未満、65ヌクレオチド長またはそれ未満、60ヌクレオチド長またはそれ未満、55ヌクレオチド長またはそれ未満、50ヌクレオチド長またはそれ未満である。しかし、開示されている核酸調節要素は調節活性を(すなわち、転写の特異性および/または活性に関して)保有しており、したがってそれらは特に、20ヌクレオチド、25ヌクレオチド、30ヌクレオチド、35ヌクレオチド、40ヌクレオチド、45ヌクレオチドまたは50ヌクレオチドの最小長を有すると理解されるべきである。
【0042】
さらに、特定の実施形態においては、肝特異的遺伝子発現を増強するための600ヌクレオチドまたはそれ未満の核酸調節要素は、配列番号3、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列、またはそれらの機能性断片から実質的になる。すなわち、該調節要素は、例えば、クローニング目的に使用される配列(任意例に関しては、配列番号18〜31として記載されている配列を参照されたい)を更に含みうるが、前記配列は該調節要素の必須部分を構成する。例えば、それらは、より大きな調節領域(例えば、プロモーター)の部分を構成しない。もう1つの特定の実施形態においては、肝特異的遺伝子発現を増強するための600ヌクレオチドまたはそれ未満の核酸調節要素は、配列番号3、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列、またはそれらの機能性断片からなる。
【0043】
該核酸配列は二本鎖または一本鎖分子としてのDNAまたはRNAとして提供されうる。該配列が一本鎖核酸として提供される場合、相補鎖は、開示されている配列番号と同等であるとみなされ、同様に、本明細書に記載されている核酸構築物および方法ならびにそれらの使用において使用されると想定される。したがって、特定の実施形態においては、該核酸調節要素は、配列番号3、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはそれらの機能性断片の相補鎖を含む。もう1つの特定の実施形態においては、該調節要素は前記配列の相補鎖から実質的になる。さらにもう1つの特定の実施形態においては、該調節要素は、挙げられている配列の相補鎖からなる。
【0044】
さらに、本明細書中に挙げられている配列にハイブリダイズする、特に、本明細書に開示されている配列の相補体にハイブリダイズする配列も、核酸調節要素として使用されうると想定される。ハイブリダイズ(する)は、典型的には、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ(する)」ことを意味する。挙げられている配列にハイブリダイズする配列は、それらがハイブリダイズする配列と等しい長さである必要はない。しかし、核酸調節要素として使用されるこれらのハイブリダイズする配列は、特に、本明細書に記載されている調節要素のサイズ限界を超えないことに注目されるべきである。さらに、特定の実施形態においては、配列番号3、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列またはそれらの機能性断片にハイブリダイズする核酸のサイズは、それがハイブリダイズする配列と、長さにおいて25%以上、厳密には、長さにおいて20%以上、より厳密には、長さにおいて15%以上、最も厳密には、長さにおいて10%以上は異ならない。
【0045】
本明細書に開示されている配列の幾つかは長さにおいて非常に制限されており、また、幾つかは他のものより相当に短い。したがって、より短い配列の場合には特に、同一配列の2以上のコピーを含む調節配列、あるいは更には、挙げられている配列の2つの異なる配列を含む調節要素を製造することが可能である。幾つかの配列(または同一配列のコピー)をモジュラー的に組合せることも全ての配列に関して勿論可能であるが、本明細書において定められている調節要素のサイズを超えない、すなわち、600ヌクレオチドを超えない(あるいはより厳密には400ヌクレオチドを超えない、あるいは更に厳密には300または250ヌクレオチドを超えない)配列の組合せが特に想定される。非常に特定の実施形態においては、本明細書に開示されている核酸調節要素は、新規(人工的)調節配列を製造するために組合される挙げられている配列の少なくとも2つの機能性断片を含む。もう1つの特定の実施形態においては、これらの少なくとも2つの機能性断片は非同一断片である。もう1つの実施形態においては、それらの少なくとも2つの機能性断片の少なくとも2つは互いに同一である。もう1つの非常に特定の実施形態においては、新規(人工的)調節配列を製造するために、挙げられている配列の2つの断片(そのうちの少なくとも1つはそれ自体は機能性ではない)を組合せる。
【0046】
本明細書に開示されている配列は、インビボで肝特異的遺伝子の転写を制御する、特に、以下の遺伝子を制御する調節配列である:セルピン(serpin)ペプチダーゼインヒビター、クレードAメンバー1[α−アンチトリプシン(SERPINA1;GeneID 5265)としても公知である]、アポリポタンパク質C−I(APOC1;GeneID 341)、アポリポタンパク質C−IV(APOC4;GeneID 346)、アポリポタンパク質H(APOH;GeneID 350);トランスチレチン(TTR;GeneID 7276)、アルブミン(ALB;GeneID 213)、アルドラーゼB(ALDOB;GeneID 229)、シトクロムP450、ファミリー2、サブファミリーE、ポリペプチド1(CYP2E1;GeneID 1571)、フィブリノーゲンアルファ鎖(FGA;GeneID 2243)、トランスフェリン(TF;GeneID 7018)、ハプトグロビン関連タンパク質(HPR;GeneID 3250)。特定の実施形態においては、該調節要素は、SERPINA1調節要素、すなわち、インビボでSERPINA1遺伝子の発現を制御する調節要素を含む。もう1つの特定の実施形態においては、該調節要素は、配列番号3、配列番号1、配列番号2から選ばれるSERPINA1調節配列を含む。さらにもう1つの特定の実施形態においては、該調節要素は配列番号3を含む。
【0047】
本明細書に開示されている核酸調節要素は核酸発現カセットにおいて使用されうる。したがって、本発明の1つの態様においては、本明細書に記載されている調節要素がプロモーターに機能的に連結されている核酸発現カセットを提供する。もう1つの実施形態においては、該調節要素はプロモーターおよびトランスジーンに機能的に連結されている。
【0048】
当業者に理解されているとおり、機能的に連結(されている)は、機能的活性を有することを意味し、天然の位置的連結には必ずしも関連していない。実際、核酸発現カセットにおいて使用される場合、該調節要素は、典型的には、プロモーターの直上流に位置するが(これが一般的な場合であるが、該核酸発現カセット内の位置の限定または除外として決定的に解釈されるべきではない)、これが必ずしもインビボで当てはまるわけではない。例えば、遺伝子の下流に天然で存在し、その転写に影響を及ぼす或る調節要素配列は、プロモーターの上流に位置する場合と同様に機能しうる。したがって、特定の実施形態においては、該調節配列の調節または増強効果は位置に非依存的である。さらに、該調節配列は、個々のプロモーターまたは遺伝子配列に非依存的に、発現に対するそれらの効果をもたらしうる。
【0049】
したがって、それらは、それらの天然プロモーターと共に、および別のプロモーターと共に、核酸発現カセットにおいて使用されうる。特に、該調節要素は、それ自体が肝特異的ではない(または最小プロモーターの場合、それを肝特異性にするのに寄与する要素を欠く)プロモーターからでさえも、組織特異的発現を導きうる。しかし、肝特異的プロモーターは、もちろん、肝特異性を増強するため、および/または他の組織における発現の漏出を回避するためにも使用されうる。該肝特異的プロモーターは肝細胞特異的プロモーターであることが可能であり、あるいはそうでないことも可能である。トランスジーンはそれ自身のプロモーターから転写されることが可能であるが、該プロモーターは核酸発現カセットにおけるトランスジーンのプロモーターである必要はない。特定の実施形態においては、該核酸発現カセットは遺伝子治療に使用される。この実施形態においては、該プロモーターは同種(相同)(すなわち、該核酸発現カセットでトランスフェクトされるべき動物(特に哺乳動物)と同じ種からのもの)または異種(非相同)(すなわち、該発現カセットでトランスフェクトされるべき哺乳動物の種とは異なる起源からのもの)でありうる。したがって、本明細書に記載されている調節要素と組合された場合に該プロモーターが機能的である限り、該プロモーターの起源は任意の単細胞原核生物もしくは真核生物、任意の脊椎動物もしくは無脊椎動物または任意の植物であることが可能であり、あるいは更には合成プロモーター(すなわち、非天然配列を有するもの)でありうる。特定の実施形態においては、該プロモーターは哺乳類プロモーター、特にマウスまたはヒトプロモーターである。もう1つの特定の実施形態においては、該プロモーターは哺乳類肝特異的プロモーターである。さらにもう1つの特定の実施形態においては、該プロモーターはヒト肝特異的プロモーターである。もう1つの実施形態においては、該プロモーターはウイルスプロモーターである。もう1つの実施形態においては、該ウイルスプロモーターは肝特異的ウイルスプロモーターである。該プロモーターは誘導性または構成的プロモーターでありうる。
【0050】
該核酸発現カセットの長さを最小にするために、該調節要素は最小プロモーターに連結されることが特に想定される。特定の実施形態においては、使用されるプロモーターは1000ヌクレオチド長またはそれ未満、900ヌクレオチド長またはそれ未満、800ヌクレオチド長またはそれ未満、700ヌクレオチド長またはそれ未満、600ヌクレオチド長またはそれ未満、500ヌクレオチド長またはそれ未満、400ヌクレオチドまたはそれ未満、300ヌクレオチド長またはそれ未満、あるいは250ヌクレオチド長またはそれ未満である。使用されうるプロモーターの具体例には、ApoA−Iプロモーター、ApoA−IIプロモーター、ApoA−IVプロモーター、ApoBプロモーター、ApoC−Iプロモーター、ApoC−IIプロモーター、ApoC−IIIプロモーター、ApoEプロモーター、アルブミンプロモーター、α−フェトプロテインプロモーター、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(PCK1)プロモーター、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ2(PCK2)プロモーター、トランスチレチン(TTR)プロモーター、α−アンチトリプシン(AATまたはSERPINA1)プロモーター、TK(チミジンキナーゼ)プロモーター、ヘモペキシンプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ6プロモーター、コレステロール7アルファ−ヒドロキシラーゼプロモーター、因子IXプロモーター、α−ミクログロブリンプロモーター、SV40プロモーター、CMVプロモーター、ラウス肉腫ウイルスLTRプロモーターおよびHBVプロモーターが含まれるが、これらに限定されるものではない。これらのプロモーターはいずれも、最小プロモーターとして使用されることが可能であり、これらは当技術分野において十分に記載されている(例えば、Gehrkeら,2003;Vandendriesscheら,2007;WO01/098482を参照されたい)。特に想定される最小プロモーターはTTR最小プロモーターであり、より厳密には、配列番号17に定められているものである。時には、最小プロモーターは基礎またはコアプロモーターと称される。これらは、どの配列が該プロモーターにおいて欠けているかに関して若干異なりうるが、それらの調節配列(の部分)を欠く全てのそのようなプロモーターが最小プロモーターの定義の範囲内で想定される。
【0051】
本明細書に開示されている調節配列は該核酸発現カセットにおいて使用されうる。特定の実施形態においては、ただ1つの調節要素が該発現カセット内に含まれる。もう1つの特定の実施形態においては、2以上の調節要素が該核酸発現カセット内に含まれる。すなわち、それらは、それらの調節(および/または増強)効果を増強するためにモジュラー的に組合される。もう1つの特定の実施形態においては、同一調節要素の2以上のコピーが該核酸発現カセットにおいて使用される。例えば、調節要素の2、3、4、5、6、7、8、9、10コピーが縦列反復として提供されうる。さらにもう1つの特定の実施形態においては、該核酸発現カセットに含まれる2以上の調節要素は少なくとも2つの異なる調節要素を含む。両方の実施形態は互いに排他的ではなく、本明細書に記載されている核酸発現カセットにおいて両方の同一または非同一調節要素を互いに組合せることが可能である。調節要素の組合せは該核酸発現カセットにおける1つの調節要素として機能するため、この実施形態は1つの調節要素における配列の組合せと概ね同等である。しかし、それらの配列のそれぞれは調節要素自体として機能するため、それらを調節配列の組合せと称するのが、および2以上の調節配列を含有する核酸発現カセットと称するのが好ましい。理論上は、(クローニングの実施可能性以外の点では)該発現カセット内に含まれうる調節要素の数に上限は存在しないが、1つの実施形態においては、該核酸発現カセット内の全調節要素の長さは1000ヌクレオチドを超えないことが特に想定される。他の特定の実施形態においては、該調節要素の全長は900ヌクレオチド、800ヌクレオチド、750ヌクレオチド、700ヌクレオチド、600ヌクレオチド、550ヌクレオチド、500ヌクレオチド、450ヌクレオチド、400ヌクレオチド、350ヌクレオチド、300ヌクレオチド、250ヌクレオチド、200ヌクレオチド、175ヌクレオチド、150ヌクレオチド、125ヌクレオチド、110ヌクレオチド、100ヌクレオチド、90ヌクレオチド、80ヌクレオチド、75ヌクレオチド、70ヌクレオチド、65ヌクレオチド、60ヌクレオチド、55ヌクレオチドまたは50ヌクレオチドを超えない。しかし、該調節要素に関して定められる最小長は、核酸発現カセットにおいて使用される調節要素またはその組合せにも適用される。
【0052】
該核酸発現カセットの負荷はプロモーターおよび調節要素の両方に影響されるため、特定の実施形態においては、該核酸発現カセットにおけるプロモーターおよび調節要素の全長は1000ヌクレオチド長またはそれ未満、900ヌクレオチド長またはそれ未満、800ヌクレオチド長またはそれ未満、750ヌクレオチド長またはそれ未満、700ヌクレオチド長またはそれ未満、600ヌクレオチド長またはそれ未満、550ヌクレオチド長またはそれ未満、500ヌクレオチド長またはそれ未満、450ヌクレオチド長またはそれ未満、400ヌクレオチドまたはそれ未満、350ヌクレオチド長またはそれ未満、300ヌクレオチド長またはそれ未満、あるいは更には250ヌクレオチド長またはそれ未満であると想定される。
【0053】
非常に特定の実施形態においては、該核酸調節要素は該核酸発現カセットにおける唯一の調節(および/または増強)要素であり、例えば、該プロモーター内にはそれ以外に存在する調節要素は存在せず、あるいは該構築物内には追加的なエンハンサーは存在しない。もう1つの特定の実施形態においては、配列番号3、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列、またはそれらの機能性断片は、該調節要素または該核酸発現カセットのいずれかにおいて存在する唯一の調節(および/または増強)配列である。すなわち、該調節要素は他の調節または増強配列を含有しない。
【0054】
既に示されているとおり、該調節配列は、個々のプロモーターまたは(トランス)遺伝子配列に非依存的に、発現に対するそれらの効果をもたらしうる。したがって、機能的に連結されたプロモーターおよび調節要素が成功裏に該配列を転写する限り、(トランス)遺伝子の性質は本発明において重要ではない。特定の実施形態においては、該核酸発現カセットは遺伝子治療において使用され、該トランスジーンは主として肝臓において発現されるであろう。幾つかの場合には、該遺伝子産物は合成後に血流中にも分泌されうる。したがって、血流中に循環されるべき核酸(例えば、RNA)および/またはポリペプチドをコードする任意のトランスジーンが本出願の範囲内に含まれる。
【0055】
典型的には、該トランスジーンは、免疫応答、造血、炎症、細胞成長および増殖、細胞系譜分化ならびに/またはストレス応答に関与するポリペプチドをコードする核酸分子であろう。
【0056】
該トランスジーンは、該プロモーター(および/または、該核酸発現カセットが遺伝子治療に使用される場合には、それが導入される動物、特に哺乳動物)と同種または異種でありうる。また、該トランスジーンは完全長cDNAもしくはゲノムDNA配列またはそれらの任意の断片、サブユニットもしくは突然変異体(少なくとも何らかの生物活性を有するもの)でありうる。特に、該トランスジーンは、小型遺伝子(minigene)、すなわち、そのイントロン配列の一部分、大部分または全部を欠く遺伝子配列でありうる。したがって、該トランスジーンは、場合によっては、イントロン配列を含有しうる。場合によっては、該トランスジーンは、ハイブリッド核酸配列、すなわち、同種および/または異種cDNAおよび/またはゲノムDNA断片から構築された核酸配列でありうる。該トランスジーンはまた、場合によっては、1以上の天然に存在するcDNAおよび/またはゲノム配列の突然変異体でありうる。
【0057】
該トランスジーンは、当技術分野でよく知られた1以上の方法を用いて、適切な量で単離され、入手されうる。これらの方法およびトランスジーンの単離に有用な他の方法は、例えば、Sambrookら(前掲)、ならびにBergerおよびKimmel(Methods in Enzymology:Guide to Molecular Cloning Techniques,vol.152,Academic Press,Inc.,San Diego,CA(1987)に記載されている。
【0058】
トランスジーン突然変異配列の使用も本出願において想定される。突然変異トランスジーンは、野生型配列と比較して1以上のヌクレオチド置換、欠失および/または挿入を含有するトランスジーンである。該ヌクレオチド置換、欠失および/または挿入は、アミノ酸/核酸配列において野生型アミノ酸/核酸配列とは異なる遺伝子産物(すなわち、タンパク質またはRNA)を与えうる。そのような突然変異体の製造は当技術分野でよく知られている。
【0059】
特定の実施形態においては、該トランスジーンによりコードされる産物はタンパク質である。もう1つの特定の実施形態においては、該産物は治療用タンパク質である。
【0060】
本出願において想定されるトランスジーン(および治療用タンパク質)の非網羅的かつ非限定的な一覧には以下のものが含まれる:因子VIII,因子IX、因子VII、因子X、フォン・ヴィルブランド因子、エリスロポエチン(EPO)、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン5(IL−5)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン7(IL−7)、インターロイキン8(IL−8)、インターロイキン9(IL−9)、インターロイキン10(IL−10)、インターロイキン11(IL−11)、インターロイキン12(IL−12)、ケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド5(CXCL5)、顆粒球−コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、幹細胞因子(SCF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、単球誘引物質タンパク質1(MCP−1)、腫瘍壊死因子(TNF)、アファミン(AFM)、α1−アンチトリプシン、α−ガラクトシダーゼA、α−L−イズロニダーゼ、ATP7b、オルニチントランスカルバモイラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、リポタンパク質リパーゼ、アポリポタンパク質、低密度リポタンパク質受容体(LDL−R)、アルブミン、グルコース−6−ホスファターゼ、抗体をコードするトランスジーン、ナノボディ(nanobody)、抗ウイルスドミナントネガティブタンパク質、およびそれらの断片、サブユニットまたは突然変異体。
【0061】
非常に特定の実施形態においては、該核酸発現カセットはトランスジーンを含有しないが、該プロモーターに機能的に連結された調節要素を使用して内因性遺伝子(したがって、これは増強および/または組織特異的発現の点でトランスジーンと等価である)の発現を駆動させる。該核酸発現カセットは細胞のゲノム内に組込まれるか、またはエピソーム状態で維持されうる。
【0062】
他の配列(例えば、イントロンおよび/またはポリアデニル化配列)も、典型的にはトランスジーン産物の発現を更に増強または安定化させるために、該核酸発現カセット内に組込まれうる。本明細書に記載されている発現カセットにおいては任意のイントロンが使用されうる。「イントロン」なる語は、核スプライシング装置により認識されスプライシングされるのに十分な程度に大きな、イントロン全体の任意の部分を含む。典型的には、該発現カセットの構築および操作を促進する該発現カセットのサイズを可能な限り小さく維持するためには、短い機能性イントロン配列が好ましい。幾つかの実施形態においては、該イントロンは、該発現カセット内のコード配列によりコードされるタンパク質をコードする遺伝子から得られる。該イントロンは該コード配列の5’側、該コード配列の3’側、または該コード配列内に位置しうる。該コード配列の5’側に該イントロンが位置する利点は、ポリアデニル化シグナルの機能を該イントロンが妨げる可能性を最小にすることである。
【0063】
ポリA尾部の合成を導く任意のポリアデニル化シグナルが、本明細書に記載されている発現カセットにおいて有用であり、それらの具体例は当業者によく知られている(例えば、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル)。
【0064】
本出願に記載されている発現カセットは、例えば、通常は肝臓において発現され利用されるタンパク質を発現させるために、または肝臓において発現され次いで他の身体部分への輸送のために血流へと輸出されるタンパク質(例えば、因子IXタンパク質)を発現させるために使用されうる。したがって、幾つかの特定の実施形態においては、本発明の発現カセットは、疾患の症状を改善する治療量のポリペプチド(または他の遺伝子産物、例えばRNA)を発現させるために使用されうる。原理的には、内因性遺伝子の発現を増強することも可能であるが、典型的には、該遺伝子産物は該発現カセット内のコード配列(すなわち、トランスジーン)によりコードされる。本明細書中で用いる「治療量」は、疾患を症状を改善する量である。そのような量は、典型的には、該遺伝子産物および疾患の重症度に左右されるが、おそらくは通常の実験により、当業者により決定されうる。実施例の節には、治療量の因子IXの発現がどのようにして達成されるかが記載されている。
【0065】
特定の実施形態においては、本出願に記載されている発現カセットは、長期にわたり、コード配列によりコードされる遺伝子産物の治療量の発現を導く。実際、治療レベルが達成される限り、新たな治療は必要でない。典型的には、治療的発現は少なくとも20日間、少なくとも50日間、少なくとも100日間、少なくとも200日間、そして幾つかの場合には、300日間またはそれ以上持続すると想定される。該コード配列によりコードされる遺伝子産物(例えば、ポリペプチド)の発現は、例えば該遺伝子産物の治療的発現が達成されたかどうかを評価するために、当技術分野において認識されているいずれかの手段、例えば、抗体に基づくアッセイ、例えばウエスタンブロットまたはELISAアッセイにより測定されうる。該遺伝子産物の発現は、該遺伝子産物の酵素活性または生物活性を検出するバイオアッセイにおいても測定されうる。
【0066】
もう1つの態様においては、本出願は、本明細書に記載されている調節要素を含むベクターを提供する。もう1つの特定の実施形態においては、該ベクターは、本明細書に記載されている発現カセットを含有する。該ベクターはエピソーム性ベクター(すなわち、宿主細胞のゲノム内に組込まれないベクター)であることが可能であり、あるいは宿主細胞ゲノム内に組込まれるベクターであることが可能である。エピソーム性ベクターの具体例には、(染色体外)プラスミド、および該発現カセットのみから構成され細菌配列を欠くいわゆるミニサークルが含まれ、宿主細胞ゲノム内に組込まれるベクターの具体例には、ウイルスベクターが含まれる。
【0067】
代表的なプラスミドベクターには、pUCベクター、ブルースクリプト(bluescript)ベクター(pBS)およびpBR322、または細菌配列を欠くそれらの誘導体(ミニサークル)が含まれる。該プラスミドベクターの幾つかは、トランスフェクトされた細胞におけるエピソーム性プラスミドの持続性を増強する要素を組込むために適合化されうる。そのような配列は、転写単位に連結されたスカフォールド/マトリックス結合領域モジュールに対応するS/MARが含まれる(Jenkeら,2004;Manziniら,2006)。
【0068】
代表的なウイルスベクターには、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルスおよびレンチウイルスに由来するベクターが含まれる。あるいは、ウイルス成分および非ウイルス成分を組合せるために、遺伝子運搬系が使用されうる(例えば、ナノ粒子またはウイロソーム)(Yamadaら,2003)。
【0069】
レトロウイルスおよびレンチウイルスは、感染後に自分自身の遺伝子を宿主細胞染色体内に挿入する能力を有するRNAウイルスである。ウイルスタンパク質をコードする遺伝子を欠くが、細胞に感染し標的細胞の染色体内に自分自身の遺伝子を挿入する能力を保有するレトロウイルスおよびレンチウイルスベクターが開発されている(Miller,1990;Naldiniら,1996)。レンチウイルスと古典的なモロニー−マウス白血病ウイルス(MLV)に基づくレトロウイルスベクターとの相違は、レンチウイルスベクターは分裂細胞および非分裂細胞の両方に形質導入しうるが、MLVに基づくレトロウイルスベクターは分裂細胞にしか形質導入できないことである。
【0070】
アデノウイルスベクターは、生きた対象に直接投与されるように設計される。レトロウイルスベクターとは異なり、アデノウイルスベクターゲノムのほとんどは宿主細胞の染色体内に組込まれない。実際、アデノウイルスベクターを使用して細胞内に導入された遺伝子は、長期にわたって存続する染色体外要素(エピソーム)として核内に維持される。アデノウイルスベクターは、気道上皮細胞、内皮細胞、肝細胞および種々の腫瘍を含む多種多様な組織における分裂細胞および非分裂細胞に形質導入する(Trapnell,1993)。
【0071】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒトおよび幾つかの他の霊長類種に感染する小さなssDNAウイルスであり、疾患を引き起こすことは知られておらず、結果的に非常に軽度な免疫応答を引き起こす。AAVは分裂細胞および非分裂細胞の両方に感染することが可能であり、そのゲノムを宿主細胞のゲノム内に組み込みうる。AAVベクターのクローニング容量は比較的限られたものではあるが、これらの特徴は、AAVを、遺伝子治療用のウイルスベクターを作製するための非常に魅力的な候補にする。
【0072】
もう1つのウイルスベクターは、大きな二本鎖DNAウイルスである単純ヘルペスウイルスに由来する。もう1つのdsDNAであるワクシニアウイルスの組換え形態は大きなインサートを収容することが可能であり、相同組換えにより作製される。
【0073】
特定の実施形態においては、該ベクターはウイルスベクターである。他の特定の実施形態においては、該ベクターはAAVベクターである。他の実施形態においては、該ベクターはレンチウイルスベクターである。
【0074】
もう1つの特定の態様においては、本明細書に記載されている核酸調節要素、核酸発現カセットおよびベクターは遺伝子治療において使用されうる。標的細胞においてインビトロで、また、特にインビボで、治療用遺伝子産物の発現を達成するよう意図された遺伝子治療プロトコールは、当技術分野において詳細に記載されている。これらには、プラスミドDNA(裸またはリポソーム内)の筋肉内注射、間質注射、気道内点滴、内皮への適用、肝実質内への投与、および静脈内または動脈内投与(例えば、肝動脈内、肝静脈内)が含まれるが、これらに限定されるものではない。標的細胞に対するDNAの利用可能性を向上させるための種々の装置が開発されている。単純なアプローチは、DNAを含有するカテーテルまたは移植可能な物質と標的細胞とを物理的に接触させることである。もう1つのアプローチは、高圧下で標的組織内に液体のカラムを噴射する無針ジェット注射装置を使用することである。これらの運搬法は、ウイルスベクターを運搬するためにも用いられうる。標的化遺伝子運搬に対するもう1つのアプローチは、細胞への核酸の特異的標的化のための核酸−またはDNA−結合性物質が結合しているタンパク質または合成リガンドからなる分子コンジュゲートの使用である(Cristianoら,1993)。
【0075】
特定の実施形態においては、肝細胞の遺伝子治療のための、本明細書に記載されている核酸調節要素、核酸発現カセットまたはベクターの使用が想定される。もう1つの特定の実施形態においては、該調節要素、発現カセットまたはベクターの使用はインビボでの遺伝子治療のためのものである。さらにもう1つの特定の実施形態においては、該使用は、血友病を治療するための、特に血友病Bを治療するための遺伝子治療の方法のためのものである。
【0076】
哺乳類肝細胞内への遺伝子導入は、エクスビボ法およびインビボ法の両方を用いて行われている。エクスビボアプローチは、肝細胞の回収、長期発現ベクターでのインビトロ形質導入、および門脈循環内への該形質導入肝細胞の再導入を要する(Kayら,1992;Chowdhuryら,1991)。インビボ標的化は、肝実質、肝動脈または門脈内へのDNAまたはウイルスベクターの注入により、および転写標的化により行われている(Kuriyamaら,1991;Kistnerら,1996)。最近の方法は、裸DNAの門脈内運搬(Budkerら,1996)および流体力学的尾静脈トランスフェクション(Liuら,1999;Zhangら,1999)をも含む。
【0077】
もう1つの態様においては、肝細胞内でタンパク質を発現させるための方法を提供する。該方法は、本明細書に記載されている核酸発現カセット(またはベクター)を肝細胞内に導入し、該肝細胞内でトランスジーンタンパク質産物を発現させる工程を含む。これらの方法はインビトロおよびインビボの両方で行われうる。
【0078】
遺伝子治療を要する対象に対する遺伝子治療方法も提供する。該方法は、治療用タンパク質をコードするトランスジーンを含有する核酸発現カセットを該対象の肝臓内に導入し、治療量の該治療用タンパク質を肝臓内で発現させる工程を含む。もう1つの実施形態においては、該方法は、治療用タンパク質をコードするトランスジーンを含有する核酸発現カセットを含むベクターを該対象の肝臓内に導入し、治療量の該治療用タンパク質を肝臓内で発現させる工程を含む。
【0079】
非常に特定の実施形態においては、該核酸発現カセット内のトランスジーンによりコードされる治療用タンパク質は因子IXであり、該方法は、血友病Bの治療方法である。遺伝子治療により肝臓内で因子IXを発現させることにより、血友病Bが治療されうる(Snyderら,1999)。
【0080】
もう1つの態様においては、治療用タンパク質をコードするトランスジーンを含有する核酸発現カセットと医薬上許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。もう1つの実施形態においては、該医薬組成物は、治療用タンパク質をコードするトランスジーンを含有する核酸発現カセットを含有するベクターと医薬上許容される担体とを含む。他の特定の実施形態においては、該トランスジーンは因子IXをコードしており、該医薬組成物は血友病Bを治療するためのものである。
【0081】
これらの医薬組成物の製造のための、本明細書に開示されている調節要素の使用も想定される。
【0082】
本明細書においては本発明の装置に関する特定の実施形態、特定の構成および配置ならびに物質が記載されているが、本発明の範囲および精神から逸脱することなく形態および詳細における種々の変更または修飾が施されうると理解されるべきである。以下の実施例は、特定の実施形態を更に例示するために記載されており、それらは本出願を限定するものとみなされるべきではない。本出願は特許請求の範囲のみにより限定される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】pAAV−TTRmin(E)−FIXIA構築物の概要図を示し、トランスチレチンの最小プロモーターの上流に種々の肝特異的エンハンサーが挿入されている箇所が示されている。該エンハンサーの名称および略語が該構築物の下の表に挙げられている。用いられている略語は以下のとおりである:ITR:ウイルス逆方向末端反復;TTRmin:トランスチレチン最小プロモーター;FIX第1エキソン:ヒト因子IX遺伝子の第1エキソン;イントロンA:ヒト因子IX遺伝子の第1イントロンの1.4kb断片;hFIX:ヒト因子IX遺伝子のエキソン2〜8;3’UTR:70bpにおいてトランケート化されている、ヒト因子IX遺伝子の3’非翻訳領域;bGHpA:ウシ成長ホルモンのポリアデニル化シグナル。
【図2】トランスチレチン最小プロモーターの上流に肝特異的エンハンサー反復を含有するpAAV−TTRmin(E)n−FIXA構築物の概要図である。A1×2:ApoC4エンハンサー(配列番号4)の2つのコピー;Serp×3:セルピナ(serpina)1エンハンサー3配列(配列番号3)の3つのコピー;S2×6:セルピナ1エンハンサー2配列(配列番号2)の6つのコピー。他の略語は図1の場合と同じである。
【図3】肝細胞特異的エンハンサーのインビボ妥当性を詳細に示す。成体C57Bl/6マウスにおける2μgのプラスミドDNAの流体力学的遺伝子運搬によるトランスフェクションの2日後にヒトFIX特異的ELISAを用いて、因子IX(FIX)の発現を測定した。エンハンサーの略語に関しては表IIIを参照されたい。Serpエンハンサー(配列番号3)が矢印で示されている。
【図4】三重反復セルピナ(serpina)1エンハンサー3(配列番号3)配列のインビボ妥当性を示す。成体C57Bl/6マウスにおける0.5、1または2μg(示されているとおり)のプラスミドDNAの流体力学的遺伝子運搬によるトランスフェクションの24または48時間後にヒトFIX特異的ELISAを用いて、因子IX(FIX)の発現を測定した。TTRmin:エンハンサーの非存在下にトランスチレチン最小プロモーターを含有する構築物;Serpx3:図2に示されている三重反復セルピナ1エンハンサー3(配列番号3)配列を含有する構築物;ApoE−HCR−AAT:既に記載されているとおりの(Miaoら,2000)、ApoEエンハンサーおよびAATプロモーターを兼ね備えている構築物。
【図5】マウスにおけるAAV9−TTRminSerp−FIXIA(丸印)およびC57/Bl6マウス(n=3〜5)におけるAAV9−TTRmin−FIXIA(正方形)の静脈内注射後のFIX発現を示す。hFIX発現レベルを、種々の時間間隔(dpi:感染後日数)で集めたクエン酸化血漿においてELISAにより測定した。
【図6】ヒトFIX(hFIX)mRNA発現が専ら肝臓に限局され、一方、FIX遺伝子はいずれの他の組織においても発現されなかった(3×1012 ベクターゲノムでの注射の際)ことを示している。A.AAV9−TTRminSerp−FIXA注射マウスの種々の器官からの全RNAに関するRT−qPCR。マウスグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(mGAPDH)ハウスキーピング遺伝子が定量的遺伝子発現に関する対照として使用されている。B.RT−qPCRにより測定された種々の器官における(肝臓におけるhFIX mRNAコピー数に対する)相対hFIX mRNAコピー数。
【実施例】
【0084】
(実施例1)
肝特異的調節配列の特定
序論
組織特異的エンハンサー/調節モジュールを発見し特徴づけるための計算的アプローチを用いた。そららが含有するモチーフの予備知識は不要である。該アプローチは以下の工程から実質的になる:
(1)正常組織のマイクロアレイ発現データの統計解析に基づいて高度に発現される組織特異的遺伝子の特定。
(2)公的に利用可能なゲノムデータベースからの対応プロモーター配列の抽出。
(3)新規距離差行列(DDM)アプローチ(De Bleserら,2007)を用いる、調節モジュールおよびそれらが含有するモチーフの特定。DDMアプローチにより、調節要素、エンハンサーおよびサイレンサーの両方を検出した。ついでこれらの要素を、それらが含有するモチーフのセットとしてモデル化した。
(4)つぎに、高発現組織特異的遺伝子のゲノムコンテクストを、これらのセットの一部であるモチーフのクラスターに関して検索した。これらのクラスターが、幾つかの種において高度に保存された領域に一致する場合、これらの領域を推定エンハンサーモジュールとみなした。低発現組織特異的遺伝子および推定サイレンサーモジュールに関して、同じことが行われうることに注目されたい。
【0085】
最小構築物内の含有がレポーター遺伝子の発現を増強するかどうかを試験することにより、該候補エンハンサーモジュールの妥当性評価を行った(実施例2および3を参照されたい)。
【0086】
距離差行列(DDM)アプローチ
DDM法のための入力として、59個の高(過剰)発現肝特異的遺伝子の転写開始部位の上流の配列のセット、および59個の過少発現肝特異的遺伝子の転写開始部位の上流の配列の等サイズのセットを使用した。参照配列番号(RefSeq;公開2008年3月28日;配列修正に関してはhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/sutils/girevhist.cgiを参照されたい)により示されている該肝特異的遺伝子の一覧を表1に示す。該DDM法の目的は、過剰または過少発現に強く関連している転写因子結合部位を特定することであった。
【0087】
【表1】

【0088】
距離差行列アプローチは他文献に詳細に記載されている(De Bleserら,2007)。簡潔に説明すると、ある与えられた刺激に対する、示差的に調節される肝特異的遺伝子のプロモーターの2つのセットの応答性は、プロモーターの両セットにより共有される転写因子結合部位(TFBS)により説明されうると予想されうる。尤も、これは応答の方向性を説明しないかもしれない。TFBSの共通セットと並んで、プロモーターの各セットは、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされる遺伝子群のプロモーターに、より特徴的な1以上のTFBSを含有する可能性があり、観察される示差的挙動を少なくとも部分的に説明しうるであろう。これらの「示差的(differential)」TFBSは、以下の手法を用いて見出されうる。第1に、Match(商標)プログラム(KeIら,2003)、または位置特異的重み行列(PWM)のプレコンパイル化ライブラリーを使用して当該プログラム上でTFBSを予測するいずれかの他の類似プログラムのための入力として、各セットの各プロモーターを使用する。プロモーター当たりのPWM当たりの予測TFBSの数(さらに、カウントと称される)であるその結果を、各行がプロモーター配列に対応し列が使用PWMに対応する行列の形態で集める。該列は更に、PWM−ベクトルと称され、PWMを、プロモーター当たりの予測TFBSのその数により特徴づけるものである。プロモーター当たりのPWM当たりの予測TFBSの総数を用いる選択は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の調節領域が多コピーの強固モチーフおよびより弱いコピーを含有するというPapatsenkoら(Papatsenkoら,2002)の観察により動機づけられる。一般に、転写因子に対する複数の結合部位の存在は重要な役割を果たしていると考えるのが合理的である。さらに、TFBSのペアを共有するプロモーターを伴う遺伝子は、ただ1つのTFBSを共通に有するプロモーターを伴う遺伝子よりも、共発現される可能性が有意に高いことが、酵母において示された(Pilpelら,2001)。この観察と一致して、複合エンハンサー要素を得るための単一肝特異的TFBSの単なる組合せは、失望させる結果を与えた(Lemkenら,2005)。DDM法は過剰表現(overrepresentation)および関連性(association)の両方を考慮するものであるため、プロモーター当たりの複数のマッチを考慮することは、過剰表現による推定機能性TFBSを発見するのを助けうる。2つのTFBSは、行列内のそれらの対応列が類似している場合に、相関しているとみなされる。それらの列の間の類似性は、距離関数を用いて測定されうる。このアプローチを用いて、プロモーターの両セットにおけるTFBSに関して、全てのTFBS関連性を要約する距離行列を構築する。最後に、DDMを計算し、この行列上で多次元尺度法(MDS)を行って二次元におけるその含量を可視化することにより、観察された示差的遺伝子発現に寄与しないTFBS(それらはDDM−MDSプロットの原点付近に位置づけられる)を、観察された示差的遺伝子発現をもたらす可能性のある「偏向」TFBSから区別することが可能である。MDS法は、強く関連しているTFBSを、より弱く関連しているTFBSよりも密集してプロットするため、それは、他の方法を用いた場合にはしばしば曖昧となる該プロモーターデータベース内のTFBS間の相互作用のほとんどを際立たせて表示する。あるいは、結果は表において要約されうる。
【0089】
この手法の原理は、(他方の条件と比較した場合の一方の条件の)個々の過剰表現および関連性に基づく。実際、多数の転写因子は肝臓内で特異的にアップレギュレーションされることが公知であるが、これは、これらがインビボでの遺伝子発現のアップレギュレーションに関与していることを必然的に示唆するものではない。一方の条件においては重要であるが他方の条件においては重要でないモジュールは、それらを構成するTFBSの過剰表現により特徴づけられ、関連づけられるであろう。これは2つの関連TFBSに関しては低いDD値を与え、一方、過剰表現されたTFBSおよび共通のTFBSに関するDD値は高くなるであろう。TFBS(およびモジュール)がプロモーターの第1または第2セットのいずれかに典型的なものであるかどうかは、元のDDMの列値の和の符号から推論されうる。
【0090】
最高肝特異的遺伝子発現に(非常にストリンジェントな条件を用いた場合に)関連している因子を表IIに要約する。
【0091】
【表2】

【0092】
表IIに示したP値は、MDSプロットの原点とマッピングされたTFBSとの間の距離を計算することにより、DDM−MDSプロトコールを用いて決定した。この距離は、このTFBSが該プロモーターデータセットにおいて過剰表現されている度合を定量する。つぎに、この距離に関してP値を推定する。該DDM−MDS法を10,000個のランダムセットに適用し、それぞれのマッピングされたTFBSからDDM−MDSプロットの原点までの生じた距離を得た。ついで実際の距離のP値を、この実際の距離を超える対応「バックグラウンド距離」の割合から計算した。個々の仮説検定のQ値は、それにおいて該検定が有意とされうる最小「偽発見率(False Discovery Rate)(FDR)」である。FDRは、誤って棄却された帰無仮説(第1種の過誤)の予測比率をコントロールする。例えば、0.02(2%)のq値は、この結果が偽陽性であるという1:50の確率が存在することを意味する。
【0093】
つぎに、それらの59個のアップレギュレーションされる遺伝子のゲノムコンテクストを、表IIに記載されている因子に対するTFBSに富む(種間)保存領域に関して検索した。上流配列および下流配列の両方を考慮した。該検索は、複数の種にわたって保存されている結合部位に関するもの、および単一結合部位ではなくモチーフの組合せに関するものであったため、特定された配列が遺伝子発現の調節に実際に関与している確率は増加する。実際、ある与えられたプロモーターにおける転写因子結合部位の単なる存在または非存在は、高レベルの組織特異的発現をもたらすのに十分なものではないことが、十分に確認されている。高レベルの組織特異的発現をもたらす鍵となるのは、特定の染色体コンテクストにおける「レギュロン」としてのTFBSの組合せである。注目すべきことに、DDMによれば、E12およびE47結合部位以外のTFBSは、異なるメンバーから構成されるモジュールを形成する傾向にある(すなわち、それらは、DDM−MDSプロットにおいて、より「関連」している(より接近(密集)して位置する))。
【0094】
このアプローチは、表IIIに要約されている、前記転写因子結合部位に富む14個の調節配列の特定をもたらした。ついでこれらの14個の配列を、インビボでのそれらの調節(増強)特性の妥当性評価のために選択した。実施例2および3を参照されたい。
【0095】
【表3】

【0096】
(実施例2)
肝特異的調節エンハンサー配列のインビボ妥当性評価
材料および方法
pAAV−TTRmin−FIXIAの構築
まず、DNAeasy Tissueキット(Qiagen)を該製造業者の説明に従い使用して、正常マウス肝ゲノムDNAを抽出した。ついで、トランスチレチンマウス遺伝子の5’配列のPubmed配列(BC024702/M19524)に基づいて設計された以下のプライマーを使用して、このマウス肝ゲノムDNAからTTR最小(TTRmin)プロモーターとその5’UTRの部分とを増幅した。
フォワードプライマー:AAGCGGCCGCGGTACCGTCTGTCTGCACATTTCGTAGAGCGAGTGTTC(配列番号15)(NotIおよびAcc65I制限部位を含有する)。
リバースプライマー:AGCGCTAGCCAGGAGCTTGTGGATCTGTGTGACGGC(配列番号16)(NheI部位を含有する)。
上流エンハンサー配列を欠くTTRminプロモーターはCostaら(Costaら,1986,1989)により記載されている。TTRminの開始位置は−202(Cap部位に対するもの)に位置し、該配列はTTRエキソン1における翻訳開始部位の前の5’非翻訳領域において終結する(配列番号17を参照されたい;NCBI配列BC024702およびM19524を参照されたい)。
【0097】
PCRのために、氷上の高圧滅菌ミクロ遠心チューブに以下の成分を加えた:10× AccuPrime Pfx反応混合物(5.0μl)、プライマー混合物(それぞれ10μM、1.5μl)、鋳型DNA(100ng)、AccuPrime Pfx DNAポリメラーゼ(2.5単位)。それらを高圧滅菌し、蒸留水をつぎ足して50μlとした。該鋳型を95℃で2分間変性させ、ついで35サイクルのPCR(変性:95℃で15秒間、アニーリング:58℃で30秒間、伸長:68℃で1分間)を行い、ついで68℃で5分間の最終伸長(kb当たり)を行った。得られたTTRmin配列は配列番号17として示されている。
【0098】
pAAV−TTRmin−FIXIAプラスミドを得るために、該PCR産物をNotIおよびNheIで制限処理し、pAAV−FIXIAの因子IX小型遺伝子の上流の対応NotI−NheI部位内にクローニングした。FIX小型遺伝子(FIXIAと称される)は、既に記載されているとおり(Miaoら,2001)、ヒトFIX cDNAの第1エキソンおよびそれに続くトランケート化イントロンAおよびFIX cDNAの残部およびトランケート化70bp 3’UTRから構成される。ウシ成長ホルモン(GH)ポリAを転写終結シグナルとして使用した。
【0099】
pAAV−FIXIAは、pAAV−ApoHCR−AAT−FIXIAに由来する無プロモーター構築物である。このpAAV−ApoHCR−AAT−FIXIAプラスミドは既に記載されており(VandenDriesscheら,2007)、血友病Bに対する、AAVに基づく肝指向性遺伝子治療治験において既に使用されているAAV−ApoHCR−AAT−FIXベクター(Mannoら,2006)に類似している。
【0100】
pAAV−ApoHCR−AAT−FIXIAの構築
対照目的に使用するpAAV−プラスミドを作製するために、pAAV−MCSプラスミド(Stratagene,La JoIIa,CA,USA)をNotIで制限処理し、pBS−HCRHP−FIXIAプラスミドをSpeIで制限処理した。付着末端をクレノウフラグメントで埋めた後、それらの2つの断片を平滑末端連結により連結した。pBS−HCRHP−FIXIAはUniversity of WashingtonのC.Miao博士から快く贈呈された(Miaoら,2001)。より短いAATプロモーター断片は、より大きなAATプロモーター断片に関して報告されているものより大きな特異性で発現を肝臓に標的化するため(Yullら,1995)、347bpの短いAATプロモーター断片を使用して本発明者らの構築物にクローニングした。
【0101】
エンハンサーの合成およびpAAV−TTRmin−FIXIA内へのエンハンサーの組込み
エンハンサー(表IIIを参照されたい)をAcc65Iに隣接させ、Acc65IでのpAAV−TTRmin−FIXIAの制限処理の後、TTRminの上流にクローニングした。該TTRminの上流に複数のエンハンサーのクローニングが可能となるよう、AscIおよびMluI部位(アイソシゾマー)をAcc65I部位の直前または直後にエンハンサー含有断片内に組込んだ。これらの制限部位に隣接する調節要素は配列番号18〜31として示されている。これは、該ベクターのMluI制限処理、およびMluI/AscI制限処理エンハンサー含有断片への連結の後で達成された。得られた構築物の概要図を図1に示す。また、該エンハンサーの幾つか(Serp(配列番号3)、A1(配列番号4)、S2(配列番号2))に関しては、TTRminプロモーターの上流に複数のエンハンサー反復を挿入した(図2に示されているとおり)。全ての得られた構築物はDNA配列決定により実証された。
【0102】
流体力学的遺伝子運搬
肝細胞系における発現構築物のインビトロ発現レベルはそのインビボ性能を予測しないことが十分に確認されている。実際、ある与えられたトランスジーンの肝臓内発現レベルを直接的に評価するためには、インビボでの流体力学的肝遺伝子運搬により、種々の発現カセットを比較することが、より適切である(Miaoら,2000)。成体C57/Bl6系統を使用した。動物実験はK.U.Leuvenの動物倫理委員会により承認された。動物を生物安全性レベルII条件下で収容した。記載されているとおりに(Liuら,1999)、流体力学的遺伝子運搬によりマウスに注射した。簡潔に説明すると、マウスを拘束ホルダー内に配置し、赤外線灯下で尾部を加熱した後、体積2mlのダルベッコリン酸緩衝食塩水(該マウスの体重の10%と等価)中の種々の用量(0.5−1−2μg)のそれぞれのプラスミドを5〜7秒の短い時間枠で尾静脈内に注射した。この方法は、肝細胞の効率的なインビボトランスフェクションをもたらすことが示されている。Qiagen EndoFreeキット(Hilden,Germany)を該製造業者の説明に従い使用して、内毒素非含有プラスミドDNAを抽出した。全身麻酔下、レトロオービタル(retro−orbital)採血により血液を集めた。20% 0.1Mクエン酸ナトリウム(凝血を防ぐためのもの)を含有する血漿サンプル中のヒトFIXの存在を、酵素結合イムノソルベントアッセイ(Asserachrome FIX ELISA,Diagnostica Stago,Parsippany,NJ,USA)を用いて判定した。各コホートはベクター当たり用量当たり5匹のマウスを含んでいた。
【0103】
結果
インシリコ(in silico)で特定された肝細胞特異的調節エンハンサー要素の、インビボ発現に対する効果を評価するために、hFIXを発現する発現構築物を流体力学的遺伝子運搬(2μg DNA)により肝細胞内にトランスフェクトした。これらの構築物においては、TTRminプロモーターによりhFIX発現を駆動し、あるいはDDMアルゴリズムおよび多次元尺度法により特定された、TFBSに非常に富む進化的に保存された肝細胞特異的エンハンサーと組合されたTTRminプロモーターにより、hFIX発現を駆動した。図3に示されている結果は、試験されたエンハンサーの大多数(AL、A1、A2、Aldo、Apo、F、S1、Serp、S2、T1およびT2)が、hFIX発現を駆動するためにTTRminプロモーターを使用した場合に得られたレベルと比較してレシピエントマウスの血漿中のhFIX発現レベルにおける有意な増加(>40%)をもたらしたことを示している(図3)。したがって、試験したエンハンサーの約80%(11/14)は、有意に改善されたhFIX発現レベルをもたらしており、このことは該DDM予測アルゴリズムの妥当性を更に証明している。特筆すべきことに、特に、より短い特定された配列が発現の増強において効率的である。すなわち、試験された400ヌクレオチドより長い2つの配列(A3、H)は、この実験においては、有意に増加したFIXレベルを与えなかった。しかし、これは、これらの配列の生理的役割を除外するものではない。pAAV−TTRmSerp−FIXIA構築物でのインビボ肝トランスフェクションの後で、最高のFIXレベルが得られた。これらのレベルは、該TTRminプロモーターを使用した場合と比較して7倍増加した。注目すべきことに、因子IX発現は全ての構築物に関して肝臓に限局されており、(例えば脾臓における)発現の「漏出(leakage)」は観察されなかった。
【0104】
(実施例3)
幾つかの肝特異性調節エンハンサー配列のモジュールのインビボ妥当性評価
これらのエンハンサー/調節要素の効力の妥当性を更に評価するために、複数のエンハンサー反復をTTRminプロモーターの上流に組込んだ(例えば、A1:反復2×、S2:反復6×またはSerp:反復3×;図2を参照されたい)。該結果は、複数のエンハンサーの組込みが循環hFIXレベルにおける付加的な増加をもたらしたことを示している(図3および4)。実際、Serp3エンハンサーの三重反復を含有するpAAV−TTRmSerp3−FIXIA構築物でのインビボ肝トランスフェクションの後で、最高のFIXレベルが得られた(図4)。これは、試験した全ての用量(0.5−1−2μg DNA)で確認された。その構築物で得られたFIXレベルは、pAAV−TTRmin−FIX構築物で得られたレベルより約20〜25倍高く、公知の最も強固(ロウバスト)な肝細胞特異的発現カセットの1つ(すなわち、pAAV−Apo−HCR−AAT−FIX)で得られたものより有意に高い(図4)。僅か2μgのDNAを使用して、ほぼ生理的なFIXレベルを得ることができた(正常FIXレベル:5000ng/ml=100%)。注目すべきことに、pAAV−Apo−HCR−AAT−FIXプラスミドで得られたFIX濃度は、この構築物での生理的FIXレベルの10〜40%の既に報告されている濃度(Miaoら,2000)と良く合致しており、これは該データの信頼性を証明している。総合すると、これらの結果は、肝細胞特異的プロモーター/エンハンサーの新規作製が強固(ロウバスト)なFIX発現レベルをもたらしたことを示しており、これにより、該エンハンサー修飾構築物の優秀性を証明している。
【0105】
(実施例4)
調節要素の更なる組合せ
同一エンハンサーの幾つかのコピーを使用する代わりに該エンハンサーの種々の組合せをつくることにより、該エンハンサーの妥当性を更に評価する。相補的TFBSを有するエンハンサーを使用する組合せとして類似した転写因子結合部位を有するエンハンサーを使用する両方の組合せをTTR最小プロモーターとの組合せにおいて試験する。特定された調節要素の一部分を使用して、例えば、配列番号1〜14の或る領域のみ、特に、転写因子結合部位を有するそれらの領域を使用して(必ずしもそれらに限定されるわけではない)、更なる組合せをつくる。そのようにすることにより、新たなより一層強力な調節/増強配列が得られうる。
【0106】
(実施例5)
AAVベクター遺伝子運搬による肝特異的調節エンハンサー配列のインビボ妥当性評価
材料および方法
細胞系および培養条件
2mM L−グルタミン(Gln)、100 IU/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシンおよび10% 熱不活性化ウシ胎児血清(FBS,Invitrogen,Merelbeke,Belgium)で補足されたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)内で細胞を培養した。
【0107】
AAVベクターの製造:AAV9−TTRminSerp−FIXIA
実施例2と同じ肝細胞特異的発現構築物(pAAV−TTRmin−FIXIA)から因子IXを発現する、AAVに基づくベクターを作製した。特に、エンハンサーSerp(配列番号3;表IIIを参照されたい)の組込みを有する構築物をAAVウイルスベクター内へのパッケージングに使用した。一例としては、該構築物をパッケージングするために、遺伝子治療のための有望なベクターであることが知られているAAV血清型9ウイルスベクター(Vandendriesscheら 2007)を選択して、AAV9−TTRminSerp−FIXIAを得た。Gaoら(2002)、Mingozziら(2003)およびGehrke(2003)に記載されているとおり、AAV9血清型の製造のために、製造業者の説明(リン酸カルシウムトランスフェクションキット,Invitrogen)に従うリン酸カルシウムトランスフェクションによりAAV2−ベクターDNA(26μg/10cmディッシュ)、アデノウイルスヘルパープラスミド(52μg/10cmディッシュ)ならびにRepおよびCapを発現するAAVヘルパープラスミド(26μg/10cmディッシュ)で293細胞をトランスフェクトすることにより、ヒトFIXを発現するAAVベクターが高力価で製造された。
【0108】
トランスフェクションの2日後、連続的な凍結−解凍サイクルおよび音波処理により細胞を細胞溶解した。ライセートをベンゾナーゼ(Merck)およびデオキシコラート(Sigma−Aldrich)で処理し、ついで連続的な3ラウンドの塩化セシウム密度超遠心分離に付した。AAV粒子を含有する画分を、Amiconフィルター(Milliore)を使用して濃縮し、PBS 1mM MgClで洗浄した。TaqMan(登録商標)プローブ、およびヒト因子FIX(hFIX)cDNA配列に特異的なプライマー(フォワード[エキソン5]5’AGGGATATCGACTTGCAGAAAA(配列番号32)、プローブ[エキソン5−エキソン6]5’AGTCCTGTGAACCAGCAGTGCCATTTC(配列番号33)、リバース−エキソン6:5’GTGAGCTTAGAAGTTTGTGAAACAG(配列番号34))またはポリアデニル化シグナル(フォワード:5’GCCTTCTAGTTGCCAGCCAT(配列番号35)、プローブ:5’TGTTTGCCCCTCCCCCGTGC(配列番号36)、リバース:5’GGCACCTTCCAGGGTCAAG(配列番号37))を使用する定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)により、ベクターゲノム力価を測定した。
【0109】
動物研究
動物実験手法はK.U.Leuvenの動物倫理委員会により承認された。動物を生物安全性レベルII条件下で収容した。Vandendriesscheら(2007)に記載されているとおりに、AAV9−TTRmin−FIXIAまたはAAV9−TTRminSerp−FIXIAベクターをマウスに注射した。簡潔に説明すると、3×10または3×1012 AAVベクターゲノム(vg)を成体C57Bl6マウス(2〜5マウス/群)の尾静脈内に注射(i.v.)した。全身麻酔下、レトロオービタル(retro−orbital)採血により血液を集めた。ヒトFIX特異的ELISA(Asserachrome/Diagnostica Stago,Parsippany,NJ,USA)を用いて、クエン酸化マウス血漿中でヒトFIX発現を測定した。
【0110】
シリカ膜に基づく精製キット(Invitrogen)により種々の器官から単離された全RNAにおいて、ヒトFIX mRNAレベルを分析した。簡潔に説明すると、cDNA合成キット(Invitrogen)を使用して各サンプルからの2μgの全RNAを逆転写に付し、ついで、全RNAの20ngに対応するcDNA量を、前記のFIXプライマーを使用する(Q)PCRにより増幅した。TaqMan(登録商標)プローブおよびプライマー(フォワード:TGTGTCCGTCGTGGATCTGA(配列番号38)、プローブ CCTGGAGAAACCTGCCAAGTATGATGACA(配列番号39)、リバース CCTGCTTCACCACCTTCTTGA(配列番号40))を使用して、hFIX mRNAレベルをマウスグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子のmRNAレベルに対して正規化した。ゲノムDNA増幅を排除するためのRTの存在下および非存在下、RNAサンプルを増幅した。増幅されたPCR断片のサイズを1.5% アガロースゲル上で確認した。
【0111】
結果
前記実施例においては、ウイルスベクターに頼らずに高圧裸DNA遺伝子運搬(流体力学的トランスフェクション)により、DNAを肝臓に運搬した。ここでは、pAAV−TTRmin−FIXIAおよびpAAV−TTRminSerp−FIXIA構築物をAAVウイルスベクター内にパッケージングした。これらのベクターは、高圧流体力学的トランスフェクションに頼ることなく、遺伝子を肝臓内に直接的に導入しうる。肝臓内へのAAV遺伝子運搬は臨床的に重要なアプローチであり、それらはウイルス遺伝子を欠き、長期的遺伝子発現の可能性を有する。一例として、AAV血清型9を使用した(Vandendriessche 2007)。
【0112】
AAV9ベクターでの肝形質導入の後、Serpエンハンサー(配列番号3;表IIIを参照されたい)の優れた性能が証明された。特に、AAV9−TTRmin−FIXIAおよびAAV9−TTRminSerp−FIXIAベクターを5×10 ゲノムコピー(gc)/マウスの用量で成体C57Bl/6マウスへの尾静脈注射により静脈内注射した。図5に示す結果は、Serpエンハンサーの組込みがFIX発現レベルにおける強固な増加を招いたことを示している。また、該AAV9ベクターにおけるSerpエンハンサーの含有の後のFIXタンパク質レベルの増加は、AAV9−TTRmin−FIXIAをAAV9−TTRminSerp−FIXIAと比較した場合の相対FIX mRNAレベルにおける10倍の増加と一致した。特筆すべきことに、AAV9−TTRminSerp−FIXIAベクターは、比較的低い用量(200日後に5×10 gc/マウスにおいて正常FIXレベルの>30%)で、持続的な治療FIXレベルに到達した。これはその効力を強調するものである。
【0113】
さらに、AAV9−TTRminSerp−FIXIAが注射されたマウスの種々の器官からの全RNAに対するRT−qPCRにより、hFIX mRNA発現は専ら肝臓に限局され、該FIX遺伝子はいずれの他の組織においても発現されないことが示された(図6)。マウス当たり3×1012 ゲノムコピー(gc)の極端に高いベクター用量(これは他の組織における遺伝子運搬を保証するものである)が注射された場合でさえも、これが確認され、極めて高いFIXレベル(100%または5,000ng/mlとして定められる正常hFIXレベルの>10000%、すなわち、500,000ng/mlを超える)が得られた。それでも、FIX mRNAは肝臓内でしか発現されず、これは該発現の組織特異性を証明している。
【0114】
【表4】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列、またはそれらの機能性断片からなる群から選ばれる配列を含む、肝特異的遺伝子発現を増強するための600ヌクレオチドまたはそれ未満の核酸調節要素。
【請求項2】
配列番号3、配列番号1、配列番号2、これらの配列のいずれかに対して95%の同一性を有する配列、またはそれらの機能性断片からなる群から選ばれる配列を含む、請求項1に記載の核酸調節要素。
【請求項3】
請求項1に記載の調節要素またはその相補体にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする600ヌクレオチドまたはそれ未満の核酸調節要素。
【請求項4】
プロモーターおよびトランスジーンに機能的に連結された請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸調節要素を含む核酸発現カセット。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の2以上の核酸調節要素を含む、請求項4に記載の核酸発現カセット。
【請求項6】
それらの2以上の調節要素が同一である、請求項5に記載の核酸発現カセット。
【請求項7】
該プロモーターが肝特異的プロモーターである、請求項4〜6のいずれか1項に記載の核酸発現カセット。
【請求項8】
該プロモーターがトランスチレチン(TTR)遺伝子由来である、請求項7に記載の核酸発現カセット。
【請求項9】
該プロモーターが最小プロモーターである、請求項4〜8のいずれか1項に記載の核酸発現カセット。
【請求項10】
該トランスジーンが治療用タンパク質をコードしている、請求項4〜9のいずれか1項に記載の核酸発現カセット。
【請求項11】
該治療用タンパク質が凝固因子である、請求項10に記載の核酸発現カセット。
【請求項12】
該治療用タンパク質が因子IXである、請求項11に記載の核酸発現カセット。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の調節要素を含むベクター。
【請求項14】
請求項4〜12のいずれか1項に記載の核酸発現カセットを含む、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
ウイルスベクター、特にレンチウイルスまたはAAVベクターである、請求項13または14に記載のベクター。
【請求項16】
遺伝子治療における、請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸調節要素の使用。
【請求項17】
・請求項4〜12のいずれか1項に記載の核酸発現カセットを肝細胞内に導入し、
・トランスジーンタンパク質産物を該肝細胞内で発現させることを含む、肝細胞においてタンパク質を発現させるための方法。
【請求項18】
・請求項10に記載の核酸発現カセット、または請求項10に記載の核酸発現カセットを含むベクターを対象の肝臓内に導入し、
・治療量のタンパク質を肝臓内で発現させることを含む、遺伝子治療を要する対象に対する遺伝子治療の方法。
【請求項19】
・請求項11もしくは12に記載の核酸発現カセット、または請求項11もしくは12に記載の核酸発現カセットを含むベクターを対象の肝臓内に導入し、
・治療量の凝固因子を肝臓内で発現させることを含む、血友病Bの治療のための、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−517955(P2011−517955A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505486(P2011−505486)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054724
【国際公開番号】WO2009/130208
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(509333933)
【出願人】(502014363)ライフ・サイエンシーズ・リサーチ・パートナーズ・フェレニゲング・ゾンデル・ウィンストーメルク (12)
【氏名又は名称原語表記】LIFE SCIENCES RESEARCH PARTNERS VZW
【出願人】(500454046)
【Fターム(参考)】