説明

肝障害改善組成物

【課題】肝障害改善効果を発揮する健康食品および医薬品を包含する肝障害改善組成物を提供する。
【解決手段】本発明の肝障害改善組成物は、グロビン蛋白分解物を有効成分とすることを特徴とする。本発明が対象とする肝障害には、種々の原因により引き起こされた肝障害が含まれるが、例えば、肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされる肝障害が含まれる。特に好ましい実施形態において、本発明の肝障害改善組成物は、アルコール性肝障害の予防又は改善を目的とした食品として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝障害改善組成物に関するものである。更に詳しくは、本発明は、肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされる肝障害に対して予防または改善効果を有する肝障害改善組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の食生活の欧米化に伴い、肝障害の患者の増加には著しいものがある。肝障害は、脂肪及びコレステロールの過剰摂取によって脂質代謝に異常を来す場合があり、これによって肝機能の低下が引き起されることが知られている。肝臓は生体の化学工場として解毒、物質代謝などに中心的役割を果たし、種々の機能を有する主要な臓器として働いている。しかし、肝臓は、薬物の副作用、環境毒物、アルコール及びウイルスの侵害によって急性的或いは慢性的に障害を引き起こすことは周知のこととなっている。生体の正常機能を維持する為には、副作用のない有効な肝障害改善剤の開発が広く要求されていた。
【0003】
グロビン蛋白分解物は、従来より血中の中性脂肪の上昇抑制を目的として用いられてきたペプチド混合物であるが(例えば、特許文献1等参照)、肝障害を改善する作用を有することはこれまで全く知られていない。
【特許文献1】WO89/006970国際公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のように、肝障害改善組成物を提供することを目的とする。特に肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされる肝障害に対して予防または改善効果を有する肝障害改善組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、従来より血中の中性脂肪上昇の抑制に用いられてきたグロビン蛋白分解物が、肝障害改善作用を有することを見出し、特に肝炎ウイルス、アルコール、または薬剤等により引き起こされる肝障害に対して予防または治療効果があることを確認した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、グロビン蛋白分解物を有効成分とすることを特徴とする肝障害改善組成物である。
【0006】
具体的には、本発明には下記の態様が含まれる:
項1.グロビン蛋白分解物を有効成分とする肝障害改善組成物。なお、当該肝障害改善組成物には医薬組成物および食品組成物が含まれる。
項2.前記肝障害が肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされる肝障害である項1に記載する肝障害改善組成物。
項3.アルコール性肝障害の予防又は治療剤である項1または2に記載する肝障害改善組成物。
項4.グロビン蛋白分解物を、肝障害改善効果を発揮する有効量含有する健康食品である、項1または2に記載する肝障害改善組成物。
項5.肝障害を有するか、またはそれが懸念されるヒトを専ら対象とした健康食品である、項1、2および4のいずれか一項に記載する肝障害改善組成物。
項6.アルコール性肝障害の予防又は治療を目的に使用される健康食品である、項1、2、4および5のいずれか一項に記載する肝障害改善組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の肝障害改善組成物は、その有効成分としてグロビン蛋白分解物を使用することにより、顕著な肝障害改善作用を発揮することを特徴とする。本発明の肝障害改善組成物によれば、そのような肝障害改善作用を有することにより、肝障害によって生じる肝機能低下を予防し、また改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(1)肝障害改善組成物
本発明が提供する肝障害改善組成物には、後述するように医薬組成物および食品組成物が含まれる。ここで本発明が対象とする医薬組成物は、肝障害を有する患者、特に肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされた肝障害を有する患者またはそれが懸念される患者に対して、専らその予防(肝機能低下抑制)または治療(肝機能向上)を目的として用いられる医薬品が含まれる。また本発明が対象とする食品組成物は、肝障害を有するヒト、特に肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされた肝障害を有するヒトまたはそれが懸念されるヒトに、専らその予防(肝機能低下抑制)または改善(肝機能向上)を目的として用いられる健康食品が含まれる。
【0009】
本発明の肝障害改善組成物の有効成分であるグロビン蛋白分解物は、ヘモグロビンやミオグロビン等のグロビン蛋白の加水分解物である。
【0010】
このグロビン蛋白の由来は特に制限されず、例えばヘモグロビンを多量に含む動物や魚類の血液、またはミオグロビンを多く含む動物や魚類の肉類(畜肉、魚肉)を挙げることができる。なお、グロビン蛋白の提供源である動物の種類は特に限定されず、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヒト、ウマ等を広く例示することができる。
【0011】
グロビン蛋白の加水分解に関する操作等は、国際公開公報WO89/06970に記載される方法に従って行うことができる。加水分解は、通常酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ又はアルカリ性プロテアーゼの1種若しくは2種以上の加水分解酵素を用いて行なわれる。具体的には、グロビン蛋白を加水分解するには、まず血液や肉類などのグロビン蛋白含有物を水に5〜30重量%(固形分として)となるように分散させ、酸若しくはアルカリによってプロテアーゼの至適pHに調整し、プロテアーゼを一度に若しくは逐次的に添加して、20〜70℃の温度で3〜48時間、当該酵素を反応させる方法を例示することができる。このようにして得られた蛋白分解物は、そのまま若しくは乾燥して、グロビン蛋白分解物として用いることができるが、さらに、これにカルボキシメチルセルロース若しくはデキストリン等の増量剤を適量加えて、乾燥・固化した状態でグロビン蛋白分解物として用いることもできる。
【0012】
(2)医薬組成物
上記本発明の肝障害改善組成物の一態様として医薬組成物を挙げることができる。
【0013】
本発明が対象とする医薬組成物には、肝障害のなかでも、特に肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされる肝障害の予防または治療剤が含まれる。
【0014】
本発明の医薬組成物は、前述するグロビン蛋白分解物だけからなるものであってもよいが、通常上記グロビン蛋白分解物に加えて薬学的に許容された担体または添加剤とともに調製される。
【0015】
ここで担体としては、医薬組成物(製剤)の投与形態に応じて通常使用される賦形剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、吸収促進剤、滑沢剤、溶解補助剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤などが例示できる。
【0016】
また添加剤としては、製剤の投与形態に応じて通常使用される安定化剤、保存剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤、着色剤、香料、風味剤、甘味剤などが例示できる。
【0017】
またかかる医薬組成物の投与単位形態(医薬製剤形態)は、投与経路に応じて各種適宜選択することができ、これらは大きく経口剤、経肺投与剤、経鼻剤、舌下剤、非経口剤(注射剤、点滴剤)などに分類される。これらは常法に従って、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、及びカプセル剤などの固体投与形態;溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、及びエリキシルなどの液剤投与形態に、調合、成形乃至調製することができる。また、使用前に適当な担体の添加によって液状となし得る乾燥品として調製されてもよい(例えば、ドライシロップや用時調製用の注射剤など)。これらはいずれも常法に従い調製できる。これら各種形態の医薬製剤は、その形態に応じた適切な投与経路を通じて投与することができる。例えば注射剤形態を有する医薬製剤は、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内投与等により、また固剤形態の医薬製剤は、経口投与等により投与することができる。
【0018】
本発明の医薬組成物に配合されるグロビン蛋白分解物の割合は、特に制限されないが、通常、約0.1〜80重量%程度を挙げることができ、本発明の医薬組成物はかかる範囲でグロビン蛋白分解物を含有する製剤形態に調製することができる。
【0019】
このようにして得られる医薬組成物の投与量は、医薬組成物の目的(肝障害の予防または治療)、当該組成物の投与方法、投与形態、投与する患者の肝障害の種類や症状、年齢および体重等に応じて適宜選択される。一般には、有効成分であるグロビン蛋白分解物の投与量が成人1日当り、約0.1g〜10g程度、好ましくは0.5〜5g程度となる範囲で投与するのが好ましい。なお、当該投与は必ずしも1日1回である必要はなく1日3〜4回に分割して投与することも可能である。
【0020】
本発明の医薬組成物は、後記実験例で示すように有効成分として含むグロビン蛋白分解物に起因して肝障害を改善する作用を発揮する。ここで対象とする肝障害は、特に肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされるものであり、本発明の医薬組成物は、かかる肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされた肝障害を有する患者またはそれが懸念される患者に対して、その予防(肝機能低下抑制)または治療(肝機能向上)に有効に用いることができる。
【0021】
(3)食品組成物
上記本発明の肝障害改善組成物の他の一態様として食品組成物を挙げることができる。
本発明が提供する食品組成物には、肝障害改善作用を付与した健康食品(機能性食品、および特定保健用食品を含む)が含まれる。
【0022】
ここで健康食品とは、通常の食品より積極的な意味での保健、健康維持・増進等の目的をもった食品をいう。なお、肝障害改善作用を付与した特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)は、肝障害を予防または改善する有効量のグロビン蛋白分解物を含有することを特徴とするものであって、食品の包装パッケージまたは広告にその作用効果(肝障害改善作用)に関する記載を付することが可能な食品であり、他の食品との差別化を図ることができる点で、本発明においても好適な態様のものである。
【0023】
本発明の食品組成物は、上記のグロビン蛋白分解物を、肝障害改善作用を発揮する有効量を含有するものであれば、グロビン蛋白分解物だけからなるものであってもよいが、通常当該グロビン蛋白分解物に加えて食品として使用が可能な担体または添加剤とともに、また他の食品素材とともに調製される。
【0024】
当該食品組成物には、上記グロビン蛋白分解物を、必要に応じて食品上許容される担体や添加剤とともに、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、または溶液(ドリンク)等の、医薬組成物に関して前述するような各種の製剤形態に調製してなる、肝障害の予防または改善を目的としたサプリメントの類が含まれる。また本発明の食品組成物には、上記グロビン蛋白分解物を、一般の食品に添加することにより(言い換えれば、グロビン蛋白分解物を食品の原材料の一つとして使用することにより)調製される、肝障害の予防もしくは改善を目的・機能とする健康食品(飲食物)が含まれる。
【0025】
かかる飲食物として、例えば乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果汁飲料、アルコール飲料、粉末飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料などの飲料類;カスタードプリン、ミルクプリン、スフレプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、ミルクアイスクリーム、果汁入りアイスクリーム及びソフトクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、氷菓等の冷菓類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類(以上、菓子類);コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工用果実;ハム、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工品;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、鯨ベーコン等の水産練り製品;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中葦そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類;その他、各種総菜等の種々の加工食品を挙げることができる。好ましくは飲料及び菓子類である。
【0026】
上記食品組成物中に含有されるべき有効成分(グロビン蛋白分解物)の量は、食品組成物の摂取量に応じて適宜調整することができる。食品組成物の摂取量は、食品組成物の種類、対象とするヒトの肝障害の種類や症状の程度、並びにその他の諸条件によっても異なるが、通常体重60kgのヒトに対して1日当たりグロビン蛋白分解物の量が約0.1〜10g、好ましくは0.5〜5gとなるような割合を挙げることができる。
【0027】
なお、当該本発明の食品組成物の摂取は必ずしも1日1回である必要はなく、1日3〜4回にわけて摂取することも可能である。
【0028】
すなわち、食品組成物に配合されるグロビン蛋白分解物の割合は、上記グロビン蛋白分解物の大人一日当たりの摂取量が上記範囲となるように、通常、約0.1〜80重量%の範囲から適宜選択設定することができる。
【0029】
本発明の食品組成物は、後記実験例で示すように有効成分として含むグロビン蛋白分解物に起因して肝障害、特に肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされる肝障害を改善する作用を発揮する。ゆえに本発明の食品組成物は、かかる肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされた肝障害を有するヒトまたはそれが懸念されるヒトに対して、専らその予防(肝機能低下抑制)または改善(肝機能向上)を目的として用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を調製例及び実験例によって更に詳細に説明する。但し、これらの実験例は本発明を何ら限定するものではない。なお、下記の実験例において、特に言及しない限り、%は重量%を意味するものとする。
【0031】
調製例 グロビン蛋白分解物の製造
以下にウシ赤血球を用いたグロビン蛋白分解物の製法の詳細を示す。新鮮なウシ赤血球100kgに水250リットルを加えて充分溶血させ、リン酸を加えてpHを2.8に調整した後、アスペルギルス・ニガーの酸性プロテアーゼ30 2.6×107単位を添加し、50℃で3時間反応させた。反応後、反応液を80℃で30分間加熱して反応を停止させた後、水酸化カルシウムの水懸濁液を加えてpHを6.5に調整し、珪藻土10kgを加え、フィルタープレスを用いて濾過し、得られた濾液を噴霧乾燥して、グロビン蛋白分解物の粉末23kgを得た。得られたグロビン蛋白分解物の分子量分布を、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いて調べた。
【0032】
当該クロマトグラフィーは以下の条件で実施した。
<ゲル濾過クロマトグラフィー>
装置:高速液体クロマトグラフ((株)島津製作所,LC−6A型)
カラム:PolyHYDROXYETHYL A,5FLm,9.4×200m,PolyLCInc製
溶出溶媒:50mMギ酸
流速:0.5ml/分
検出:紫外吸収221nm。
【0033】
上記ゲル濾過クロマトグラフィー法によるグロビン蛋白分解物のゲル濾過クロマトグラムを図1に示す。
【0034】
実験例1 ガラクトサミン:急性肝障害モデル
ガラクトサミンによって引き起こされる肝炎は、症状などがヒトのウイルス性肝炎に比較的似ており、急性肝炎モデルとしてよく利用されている。
【0035】
6匹のddY系マウスを一つの群とし、腹腔内にD-ガラクトサミンを600mg/kgの割合で投与することにより、各マウスに肝障害を誘発させた。グロビン蛋白分解物は0.1%又は1%の割合で飼料に混合し、7日間摂取させた後D-ガラクトサミンを投与した。また、D-ガラクトサミンもグロビン蛋白分解物も投与せず水のみを投与した群(正常群)及びD-ガラクトサミンと水のみを投与した群(対照群)を設けた。D-ガラクトサミン投与の20時間後に、腹部大静脈より血液を採取し、ヘパリンを添加した後、血漿を分離した。この採血した血液を用いて、肝細胞の破壊により血中濃度が上昇することが知られている酵素、すなわち、AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(GOT)活性と、ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ(GPT)活性とを市販の測定キット(和光純薬工業(株)製)により測定した。また、肝臓を摘出し、肝総脂質量を測定した。そして、これらの酵素活性及び総肝脂質量の増減を肝障害の指標とした。
【0036】
酵素活性(AST活性、ALT活性)及び肝総脂質量の増減の結果を、それぞれ図2、3及び4に示す。図2及び3に示したとおり、D-ガラクトサミンを投与した対照群では正常群に比べて顕著に両酵素(AST、ALT)の活性値が上昇しており、肝細胞の壊死がおきていることが示唆された。これに対して、グロビン蛋白分解物(GD)を投与した群では、D-ガラクトサミンによる両酵素活性(AST活性、ALT活性)の上昇が大きく抑制され、これからグロビン蛋白分解物(GD)に優れた肝障害改善効果があることが示された。また、図4に示すとおり、肝総脂質量についても、D-ガラクトサミンを投与した対照群では正常群に比べて、その値は顕著に上昇していたが、GDの投与によりこの上昇が抑制され、これからもグロビン蛋白分解物(GD)に肝障害改善効果があることが認められた。なお、各図中の*印は対照群に比べて統計的に有意に差があることを示している(p<0.05、t-検定)。
【0037】
実験例2 エチオニン:アルコール性肝障害モデル
エチオニンによって引き起こされる肝障害は、アルコール性肝障害のモデルとして利用されている。
【0038】
8匹のddY系マウスを一つの群とし、皮下にDL-エチオニンを600mg/kgの割合で投与することにより、各マウスに肝障害を誘発させた。グロビン蛋白分解物は1%の割合で飼料に混合し、14日間摂取させた後DL-エチオニンを投与した。また、DL-エチオニンもグロビン蛋白分解物も投与せず水のみを投与した群(正常群)、及びDL-エチオニンと水のみを投与した群(対照群)を設けた。
【0039】
DL-エチオニン投与の20時間後に、腹部大静脈より血液を採取し、ヘパリンを添加した後、血漿を分離した。この採血した血液を用いて、肝細胞の破壊により血中濃度が上昇することが知られている酵素、すなわち、AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(GOT)活性と、ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ(GPT)活性とを市販の測定キット(和光純薬工業(株)製)により測定した。また、肝臓を摘出し、肝総脂質量を測定した。そして、これらの酵素活性及び肝総脂質量の増減を肝障害の指標とした。
【0040】
酵素活性(AST活性、ALT活性)及び肝総脂質量の増減の結果を、それぞれ図5、6及び7に示す。図5及び6に示すように、DL-エチオニンを投与した対照群では正常群に比べて顕著に両酵素(AST、ALT)の活性値が上昇しており、肝細胞の壊死がおきていることが示唆された。これに対して、グロビン蛋白分解物(GD)を投与した群では、DL-エチオニン投与による両酵素活性(AST活性、ALT活性)の上昇が大きく抑制され、これからグロビン蛋白分解物(GD)に優れた肝障害改善効果があることが示された。また、肝総脂質量についても、D- DL-エチオニンを投与した対照群では正常群に比べて、その値は顕著に上昇していたが、GDの投与によりこの上昇が抑制され、これからもグロビン蛋白分解物(GD)に肝障害改善効果があることが認められた。なお、各図中の*印は対照群に比べて統計的に有意に差があることを示している(p<0.05、t-検定)。
【0041】
実施例3 初代培養肝細胞を用いるin vitro試験
コラゲナーゼ灌流法を用いてラット(Wistar、雄、6−8週齢)から肝細胞を単離し、37℃、5%CO2条件下で一晩培養した。この肝細胞に、5mM四塩化炭素(DMSOに溶解:肝障害誘導物質)を含む培地を加え、24時間インキュベートした。培地中に漏出してくる肝障害のマーカーである乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase:LDH)の活性をLDH測定キット(細胞障害性検出キット:ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて測定した。
【0042】
得られた結果を図8に示す。図からわかるように、培地中にDMSOのみを添加した場合のLDH活性は、0.1unit/ml以下であったが、四塩化炭素(CCl4)をDMSOに溶解して培地中に添加すると、LDH活性は約0.6unit/mlに上昇し、肝細胞障害が惹起された。一方、四塩化炭素と同時にグロビン蛋白分解物(GD)1mg/mlを培地中に添加すると、このLDH活性の上昇は顕著に抑制され、DMSOのみ添加した場合とほぼ同程度となった。この結果から、グロビン蛋白分解物(GD)に肝細胞障害抑制効果があること、すなわちGDに肝細胞障害を予防する効果があることが明らかとなった。なお、図中の**印は5mM四塩化炭素を添加した培地に比べて統計的に有意に差があることを示している(p<0.01、t-検定)。
【0043】
以上の実験例で示すように、マウスを用いた肝障害のモデルにおいて、グロビン蛋白分解物は、肝障害誘発処理前に投与した場合、肝障害の指標である、AST値及びALT値の上昇を抑制し、肝総脂質量の増加を抑制した。また、ラットの初代肝細胞についても、四塩化炭素で惹起した細胞障害を有意に抑制した。これらのことから、本発明のグロビン蛋白分解物は肝障害の改善剤または予防剤として有用であり、かかる目的に有効に用いることができる。
【0044】
[処方例]
上記調製例に記載する方法に従って調製したグロビン蛋白分解物を用いて、下記処方からなる組成物を調製した。
【0045】
処方例1 清涼飲料水
下記の処方配合に従って清涼飲料水を調製した。
【0046】
<清涼飲料水処方>
還元麦芽糖水飴 5.0g
エリスリトール 5.0g
グロビン蛋白分解物 2.0g
酸味料 0.2g
保存料 0.01g
香料 微量
精製水 適量
合計 100 ml。
【0047】
約800リットルの精製水に還元麦芽糖水飴50 kg及びエリスリトール50 kgを溶解し、次にグロビン蛋白分解物20 kg、酸味料2 kg、保存料0.1 kgを順次添加し、完全に溶解させた後、精製水を加えて全量1000リットルとし、肝障害改善作用を有する清涼飲料水を調製した。
【0048】
処方例2 チョコレート
100gのチョコレートに、調製例で調製したグロビン蛋白分解物を1.5 g添加して、肝障害改善作用を有するチョコレートを調製した。
【0049】
処方例3 緑茶飲料
緑茶8 kgを80 ℃の熱水300 Lに入れ、同温度で4分間抽出を行った。得られた抽出液を冷却後、遠心分離し、清澄な上清を採取してこれを緑茶抽出物とした。この抽出液にビタミンCを0.4 kg配合し、さらに調製例で調製したグロビン蛋白分解物を10 kg添加して、熱水で最終容量が1000 Lになるように調整した。これを85℃以上に加熱し、金属缶に充填して、レトルト殺菌(125℃、5分)して、肝障害改善作用を有する緑茶飲料を調製した。
【0050】
処方例4 チューインガム
下記の処方配合に従ってチューインガムを調製した。
【0051】
<チューインガム処方>
ガムベース 30重量部
砂糖 29重量部
コーンシロップ 10重量部
グリセリン 1重量部
グロビン蛋白分解物 30重量部
合 計 100重量部。
【0052】
まず、ガムベース、砂糖、コーンシロップ、及びグリセリンを混合し、調製例で調製したグロビン蛋白分解物を添加し、ミキサーで50℃に保温下、均一に混錬した。冷却後、ローラーにより圧展成形し、1枚あたり有効成分としてグロビン蛋白分解物を300 mgの割合で含む板状の肝障害改善作用を有するチューインガムを調製した。
【0053】
処方例5 サプリメント
下記の成分を、常法により練合及び造粒し、乾燥後打錠して、1錠(310 mg)中有効成分としてグロビン蛋白分解物を約65重量%(200 mg)の割合で含む錠剤を得た。当該錠剤は、グロビン蛋白分解物の肝障害改善作用を有するサプリメントとして提供することができる。
<処方> 1錠あたり
グロビン蛋白分解物 200mg
乳糖 100mg
ショ糖脂肪酸エステル 10mg
合 計 310mg。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】グロビン蛋白分解物のゲルクロマトグラムである。
【図2】ガラクトサミン誘発肝障害に対するグロビン蛋白分解物(GD)の効果を、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(GOT)〔AST(GOT)〕活性を指標として見たグラフである(実験例1)。
【図3】ガラクトサミン誘発肝障害に対するグロビン蛋白分解物(GD)の効果をアラニンアミノトランスフェラーゼ(GPT)〔ALT(GPT)〕活性を指標として見たグラフである(実験例1)。
【図4】ガラクトサミン誘発肝障害に対するグロビン蛋白分解物(GD)の効果を、肝総脂質量を指標として見たグラフである(実験例1)。
【図5】エチオニン誘発肝障害に対するグロビン蛋白分解物(GD)の効果をAST(GOT)を指標として見たグラフである(実験例2)。
【図6】エチオニン誘発肝障害に対するグロビン蛋白分解物(GD)の効果をALT(GPT)を指標として見たグラフである(実験例2)。
【図7】エチオニン誘発肝障害に対するグロビン蛋白分解物(GD)の効果を、肝総脂質量を指標として見たグラフである(実験例2)。
【図8】四塩化炭素によって誘発した肝細胞障害に対するグロビン蛋白分解物(GD)の効果を、乳酸脱水素酵素(LDH)を指標として見たグラフである(実験例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グロビン蛋白分解物を有効成分とする肝障害改善組成物。
【請求項2】
前記肝障害が肝炎ウイルス、アルコール、ストレス、薬剤又は免疫異常により引き起こされる肝障害である請求項1に記載する肝障害改善組成物。
【請求項3】
アルコール性肝障害の予防又は治療剤である請求項1または2に記載する肝障害改善組成物。
【請求項4】
グロビン蛋白分解物を、肝障害改善効果を発揮する有効量含有する健康食品である、請求項1または2に記載する肝障害改善組成物。
【請求項5】
肝障害を有するかまたはそれが懸念されるヒトを専ら対象とした健康食品である、請求項1、2および4のいずれか一項に記載する肝障害改善組成物。
【請求項6】
アルコール性肝障害の予防又は治療を目的に使用される健康食品である、請求項1、2、4および5のいずれか一項に記載する肝障害改善組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−105959(P2008−105959A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287569(P2006−287569)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(503075046)エムジーファーマ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】