説明

股付き衣類

【課題】 足先を暖かい状態に保つことができ、その一方で体幹に対する保温効果が過度になることを十分に防止できる股付き衣類を提供すること。
【解決手段】 本発明は、保温性を有する素材で形成された保温部2と、保温部2よりも低い保温性を有する素材で形成された本体部1とを備える股付き衣類であって、保温部2は、着用者の鼠径靭帯、長内転筋および縫工筋に囲まれた部位、いわゆるスカルパ三角の少なくとも一部を覆う位置に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、股付き衣類に関し、より詳しくは、着用者の大腿部の特定箇所のみを局所的に保温できる股付き衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
冬の寒い時期など、足先が暖まらないと寝床に入ってからなかなか寝付くことができず、就寝時に靴下や保温衣類を着用したり、就寝前にお風呂で体を温めたりする人がいる。
【0003】
寒さ対策のための保温衣類としては、以下の特許文献1〜3に記載されているようなものがある。特に特許文献1に記載の保温衣類は、放熱効率が高い大腿部の前面部または大腿部の全周を保温して、加齢にともない低下する人体の体温調整反応を補い、体温の低下を防止しようとするものである。
【特許文献1】特開平10−168604号公報
【特許文献2】実公平4−9号広報
【特許文献3】実開平7−40706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者らの調査によると、就寝時に足先などの末梢の血管が拡張している状態、すなわち足先が暖まっている状態であるとスムーズに寝付くことができ、睡眠時においては、体幹の温度が低い状態に保たれていると睡眠が深くなることが分かった。
【0005】
本発明者らは、この調査結果から、就寝時に靴下や上述のような保温衣類を着用していると、これらの保温効果によって人間の生理反応である体温調節反応が妨げられ、深い睡眠が得られる温度よりも体幹の温度が高くなるため睡眠が浅くなるとの知見を得た。
【0006】
これは従来の保温衣料においては、一般に、大腿部など筋肉量が多く、発熱効率が高い部位を保温することによって体温が低下することを防止するものであり、人体からの放熱が抑制されるためと考えられる。
【0007】
一方、就寝前にお風呂に入って体を温めた場合は、足先などの末梢の血管が拡張した状態となるのでスムーズに寝付くことができるが、就寝後、入浴により温まった効果が薄れるにつれ、足先などが冷えてきて目が覚めてしまったりして、十分にぐっすりと眠ることができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、足先を暖かい状態に保つことができ、その一方で体幹に対する保温効果が過度になることを十分に防止できる股付き衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、保温性を有する素材で形成された保温部と、この保温部よりも低い保温性を有する素材で形成された本体部とを備える股付き衣類であって、保温部は、着用者の鼠径靭帯、長内転筋および縫工筋に囲まれた部位の少なくとも一部を覆う位置に形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明者らは、スカルパ三角と呼ばれる鼠径靭帯、長内転筋および縫工筋に囲まれた部位(以下、「スカルパ三角」という)を局所的に保温することによって、着用者の足先を暖かい状態に維持できることを見出した。
【0011】
本発明の股付き衣類によれば、着用者のスカルパ三角を局所的に保温することができるため、足先を暖かい状態に保つことができ、その一方で体幹に対する保温効果が過度になることを十分に防止できる。
【0012】
図1にスカルパ三角の位置を示す。図1は人体下肢部を前側から見たときの筋肉および骨格を表した正面図である。図1に示すように鼠径靭帯101、長内転筋102および縫工筋103に囲まれた部位がスカルパ三角100である。なお、鼠径靭帯101は、外腹斜筋の腱膜の下縁であり、上前腸骨棘111を起点とし、恥骨結合112に至る。
【0013】
スカルパ三角は大腿部の上部に位置する部位であり、スカルパ三角の近傍である大腿部の上方内側部の皮膚表面近くには大腿動脈および大腿静脈が流れている。この大腿動脈および大腿静脈は、覆われている脂肪や筋肉が少ないため、スカルパ三角を保温しない状態では、ここを通過する血液から熱が逃げ、足先が冷えてしまう。
【0014】
本発明の股付き衣類によれば、スカルパ三角を局所的に保温し、この部位に位置する大腿動脈および大腿静脈を流れる血液からの放熱を抑制できるので、足先を暖かい状態に維持できる。また、保温する部位が局所的であるため、他の部位から体幹の余剰な熱を放熱することができ、体幹に対する保温効果が過度になることを防止できる。これにより、人体の体温調節反応が妨げられることが十分に防止され、深い睡眠が得られる適温に体幹の温度が自然に調節される。なお、「体幹」とは、人体における四肢(上肢および下肢)を除く部位をいう。
【0015】
また、本発明の股付き衣類は、いわゆるショートタイプとよばれる、丈の長さが短いタイプとすることができる。すなわち、本発明の股付き衣類は、保温性を有する素材で形成された保温部と、保温部よりも低い保温性を有する素材で形成された本体部とを備える股付き衣類であって、当該股付き衣類の裾は、着用者の大腿部の付根部から大腿部の周方向に沿って形成されており、保温部は、着用者の鼠径靭帯、長内転筋および縫工筋に囲まれた部位の少なくとも一部を覆う位置に形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の股付き衣類は、いわゆるセミロングタイプとよばれる、上記ショートタイプよりも丈の長さが長いタイプとすることができる。すなわち、本発明の股付き衣類は、保温性を有する素材で形成された保温部と、保温部よりも低い保温性を有する素材で形成された本体部とを備える股付き衣類であって、当該股付き衣類の裾は、着用者の大腿部の付根部から膝関節部までの間の大腿部において、大腿部の周方向に沿って形成されており、保温部は、着用者の鼠径靭帯、長内転筋および縫工筋に囲まれた部位、並びに、長内転筋の少なくとも一部を覆う位置に形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明において、保温部は、保温性を有する布材を本体部と縫合させることにより構成されることが好ましい。保温部が本体部に固定されていると着用時に保温部の位置のずれが防止され、安定的にスカルパ三角を保温できる。また、この固定が縫合によるものであると、保温部を本体部に重ねて縫い合わせたり、接着したりした場合と比較し、全体を薄手に仕上げることができ、着用時のごわつき感を防止できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、足先を暖かい状態に保つことができ、その一方で体幹に対する保温効果が過度になることを十分に防止できる股付き衣類が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明にかかる股付き衣類の詳細な構成や機能をショートタイプの睡眠用ボトムの実施形態により説明する。なお、図面の説明において、同一要素には同一符号を付し、重複説明は省略する。
【0020】
本実施形態にかかる睡眠用ボトムの狙いとコンセプトは、以下の通りである。例えば、冬の時期など温度が低い部屋で就寝しようとする場合には、足先が冷えてしまい寝付きが悪くなる。これに対し、靴下や保温衣類等を着用して就寝した場合は、睡眠時に体内の余剰の熱が放出されないため、体幹が過度に暖かく感じられ、ぐっすり眠れなくなる傾向となる。このような、「寝付きの悪さ」や「ぐっすり眠れないこと」を防止し、スムーズに寝付きたい、しかもぐっすりと眠りたい、という着用者のニーズを満足させることが本実施形態の「狙い」とするところである。そして、コンセプトは、着用者のスカルパ三角を局所的に保温することで足先を暖かい状態に維持し、しかも保温を局所的にすることで体幹の余剰の熱を効果的に放出し、体幹の温度を睡眠に適した温度に保つこと、である。
【0021】
図2を参照しながら、本実施形態に係るショートタイプの女性用の睡眠用ボトムの構成と機能を詳細に説明する。図2の(a)は、睡眠用ボトムを前面から見た図であり、(b)は、睡眠用ボトムを背面から見た図である。
【0022】
図2に示された睡眠用ボトム10は、着用者の人体(ボトム部)にフィットするものであって、睡眠用ボトム10を主として構成する本体布材(本体部)1と、左右それぞれ一つづつ設けられた保温布材(保温部)2とを備える。図2に示すように睡眠用ボトム10はショートタイプであるため、着用時に睡眠用ボトム10によって覆われる部分は、中腹部、下腹部、臀部および大腿部上部である。なお、睡眠用ボトム10の裾は、着用者の大腿部の付根部105から大腿部の周方向に沿って形成されている。
【0023】
保温布材2は、本体布材1よりも高い保温性を有する布材からなり、着用者のスカルパ三角の上部を覆う位置に形成されている。具体的には、保温布材2は睡眠用ボトム10に対して以下の箇所に形成されている。すなわち、着用時において、大腿部の付根部105から鼠径溝に沿って上前腸骨棘付近まで延びている一辺(以下、「鼠径溝ライン」という。)11と、大腿部の付根部105から大腿部の周方向に沿って大腿部の略正面位置まで延びている一辺(以下、「大腿部周方向ライン」という。)12と、鼠径溝ラインおよび大腿部周方向ラインのそれぞれの終点を結ぶ一辺(以下、「縫工筋ライン」という。)13とからなる略三角形の箇所である。
【0024】
睡眠用ボトム10によれば、スカルパ三角を局所的に保温し、この部位に位置する大腿動脈および大腿静脈を流れる血液からの放熱を抑制できるので、足先を暖かい状態に維持できる。また、保温する部位が局所的であるため、他の部位から体幹の余剰な熱を放熱することができ、体幹に対する保温効果が過度になることを防止できる。
【0025】
また、睡眠用ボトム10を着用した場合、保温布材2の鼠径溝ライン11は鼠径溝に沿っているため、睡眠時に股関節を支点として大腿部を動かしたとしても、保温布材2が折り曲げられたり、保温する部位がずれたりすることが十分に防止されるため、安定的にスカルパ三角を保温できる。
【0026】
保温布材2の寸法及び形成位置は、着用者のスカルパ三角を必要十分に保温するために、以下のようにすることが好ましい。すなわち、大腿部の付根部から各ラインの終点までの距離が、鼠径溝ライン11については、7〜16cm、大腿部周方向ライン12については4〜12cmであることが好ましい。
【0027】
保温布材2に使用する素材は、十分な保温性を有するものであれば特に限定されないが、保温布材2に好適に使用できる素材としては、ウール、アクリル起毛布地、吸湿発熱繊維などが挙げられる。これらの中でも、保温性と優れたフィット感を両立する観点から、伸縮性に優れた吸湿発熱繊維が好ましく、このような吸湿発熱繊維としては、エクス(商品名)やウェルサーモ(商品名)などが挙げられる。
【0028】
保温布材2の保温率は、28〜50%が好ましく、32〜47%がより好ましい。保温布材2の保温率が28%未満であると保温布材2の保温効果が不十分となる傾向があり、50%を超えると過度な保温効果により保温部分に熱がこもり不快感を感じる傾向がある。また、本体布材1の保温率の値に対する保温布材2の保温率の値の比率は、1.35以上であることが好ましく、この比率が1.35未満であると、スカルパ三角を局所的に保温する効果が十分に得られなくなる傾向がある。
【0029】
なお、保温率[%]は、保温性試験機を用いて以下のように求めることができる。すなわち、恒温熱源体を試料布地で覆い、恒温熱源体の温度が30℃となるように調整し、低温度の外気(20℃)に向かって熱源体から放熱される熱量が一定となり、熱源体の表面温度が一定値を示すようになってから10分経過後における熱源体からの放熱量W[J/cm・s]を測定する。一方、熱源体を試料布地で覆わない状態で上記と同様にして熱源体からの放熱量W[J/cm・s]を測定する。これらの値を下記式(1)に代入して試料布地の保温率を求める。保温性試験機としては、例えば、カトーテック株式会社製の「KES−F7サーモラボ2」を用いることができる。
保温率[%]=(1−W/W)×100 (1)
【0030】
睡眠用ボトム10を主として構成する本体布材1に使用する素材は、保温布材2よりも低い保温性を有するものであれば特に限定されないが、本体布材1に好適に使用できる素材としては、綿、ナイロン、レーヨン、絹、ウールなどが挙げられる。これらの中でも、着用時の締め付け感を防止する観点及び睡眠時の着用感という観点から綿などの天然素材が好ましい。また、着用時のごわつき感を防止する観点から、本体布材1に使用する布地としては薄手のものが好適である。
【0031】
本体布材1の保温率は、16〜35%が好ましく、20〜28%がより好ましい。本体布材1の保温率が16%未満であると本体布材1で覆われた部位の保温効果が不十分となる傾向がある。一方、35%を越えると本体布材1で覆われた部位が熱すぎると着用者が感じる場合がある。なお、本体布材1の保温率は、保温布材2と同様にして求めればよい。
【0032】
睡眠用ボトム10は、着用者の中腹部、下腹部、臀部および大腿部の上部を締め付けないサイズに設計されている。このため、柔らかなはき心地が得られ、これを着用して睡眠しても不快となるような締め付け感を十分に防止できる。なお、腹部、臀部および大腿部を締め付けないとの観点から、睡眠用ボトム10を構成する本体布材1および保温布材2としては十分な伸縮性を有する布材を使用することが好ましい。
【0033】
次に、睡眠用ボトム10の製造方法について、図3を参照しながら説明する。図3は睡眠用ボトム10の製造プロセスを説明する図である。同図(a)のように、所定の寸法に裁断された本体布材1および保温布材2を準備し、本体布材1と保温布材2とを縫合し、同図(b)のように折り返して本体布材1および保温布材2の縁部からなる縫合部5を突き合わせ、両者を縫い合わせる。同図(c)は、縫合部5を縫合後の睡眠用ボトム10を前側から観察した図である。
【0034】
なお、本体布材1に対して保温布材2を固定する手段としては、縫合の他にも編み、縫着、貼着および接着などが挙げられるが、固定が縫合によるものであると睡眠用ボトム10の全体を薄手に仕上げることができ、着用時のごわつき感を防止できる。
【0035】
上記実施形態においては、ショートタイプの睡眠用ボトムについて説明したが、本発明の股付き衣類はショートタイプに限定されるものではなく、セミロングタイプのものであってもよい。
【0036】
図4を参照しながら、他の実施形態であるセミロングタイプの女性用の睡眠用ボトムの構成と機能を詳細に説明する。図4の(a)は、セミロングタイプの睡眠用ボトムを前面から見た図であり、(b)は、セミロングタイプの睡眠用ボトムを背面から見た図である。
【0037】
図4に示された睡眠用ボトム20の構成は、保温布材の寸法および丈の長さが異なる点以外は、睡眠用ボトム10と同様であり、睡眠用ボトム10と同様にして縫製できる。睡眠用ボトム20の裾は、着用者の大腿部の付根部105から膝関節部106までの間の大腿部において、大腿部の周方向に沿って形成されている。
【0038】
睡眠用ボトム20が備える保温布材22は、保温布材2と保温布材2aとからなる。保温布材2は、睡眠用ボトム10における保温布材2と同様のものを使用できる。一方、保温布材2aは、保温布材2の大腿部周方向ライン12から大腿部の長さ方向に形成されており、保温布材2と同一素材からなり、保温布材2と一体となっている。具体的には、保温布材2aは睡眠用ボトム20に対して、図4に示すように大腿部周方向ライン12と、大腿部の付根部から大腿部の長さ方向に沿って裾の位置まで延びている一辺(以下、「大腿部長さ方向ライン」という。)14と、縫工筋ラインを延長したライン13aと、裾の周方向のライン15とで囲まれる箇所に形成されている。
【0039】
睡眠用ボトム20によれば、スカルパ三角及び長内転筋を局所的に保温し、この部位に位置する大腿動脈および大腿静脈を流れる血液からの放熱を十分に抑制できるので、足先を暖かい状態に維持できる。また、保温する部位が局所的であるため、他の部位から体内の余剰な熱を放熱することができ、体幹に対する保温効果が過度になることを防止できる。
【0040】
睡眠用ボトム20はセミロングタイプであり、睡眠用ボトム10と比較し丈の長さが長くなっており、より足先が冷たくなりやすい人やより低い温度で使用する人に好適である。睡眠用ボトム20においては、睡眠用ボトム10よりも保温布材の面積を大きくすることができ、その保温部位がスカルパ三角に加えて長内転筋にも及んでおり、大腿動脈および大腿静脈を流れる血液からの放熱をより十分に抑制できるためである。
【0041】
また、睡眠用ボトム20を着用した場合、保温布材22の鼠径溝ラインは鼠径溝に沿っているため、睡眠時に股関節を支点として大腿部を動かしたとしても、保温布材22が折り曲げられたり、保温する部位がずれたりすることが十分に防止されるため、安定的にスカルパ三角を保温できる。
【0042】
なお、保温布材2aの形状は必ずしも略四角形でなくてもよく、図5に示すように、睡眠用ボトムの丈の長さに応じて形状を選択すればよい。例えば、丈の長さが図5に示す(c)よりも長い場合は、保温布材2aの形状は略三角形である。この場合の保温布材2aおよび保温布材2により保温される範囲を最大保温範囲とする。この範囲よりも広い範囲にわたって大腿部を保温すると体幹の余剰の熱が効率的に放出されなくなり、着用者によっては熱く感じることもある。この場合の保温布材2aの大きさは、製造する睡眠用ボトムのサイズにもよるが、大腿部長さ方向ライン14の長さは16〜24cmとする。
【0043】
なお、図5において、丈の長さが(a)であるものが、ショートタイプの睡眠用ボトム10であり、丈の長さが(b)であるものが、セミロングタイプの睡眠用ボトム20である。
【0044】
これまで、女性用の睡眠用ボトムについて説明したが、本発明の股付き衣類は女性用に限定されるものではなく、男性用に縫製して製造してもよい。
【0045】
また、本発明の股付き衣類は睡眠時に着用するためのものに限定されるものではなく、睡眠時以外、例えば、日中に着用するためのものであってもよい。本発明の股付き衣類によれば、体幹に対する保温効果が過度とならず、その一方で足元を暖かい状態に維持できるため、例えば、夏の時期にオフィスなどにおいて冷房により足先が冷える人にとっても好適である。
【実施例】
【0046】
以下の実施例および比較例の睡眠用ボトムを製造し、それぞれに対して入眠のしやすさの評価を実施した。
【0047】
<実施例1>
図2と同様のショートタイプの睡眠用ボトムを以下のようにして製造した。すなわち、本体布材として、トルファン綿(商品名)(保温率:20%)を使用し、保温布材としてアクリル起毛布地(保温率:33%)を使用した。本体布材および保温布材を所定の寸法に裁断し、それぞれの布材を縫合して睡眠用ボトムを縫製した。なお、保温布材の形状は略三角形とし、その寸法は、鼠径溝ラインの長さを14cm、大腿部周方向ラインの長さを9cm、縫工筋ラインの長さを9cmとした。
【0048】
<比較例1>
全体をトルファン綿(商品名)(保温率:20%)を用いて製造したことの他は、実施例1と同様にしてショートタイプの睡眠用ボトムを製造した。
【0049】
<実施例2>
丈の長さおよび保温布材の寸法を変更し、スタンダードタイプの睡眠用ボトムを製造した。保温布材の形状は略四角形とし、その寸法は、鼠径溝ラインの長さを14cm、大腿部長さ方向ラインの長さを10cm、縫工筋ラインの長さを31cmとした。なお、丈の長さは10cmとした。本体布材および保温布材として使用した布地は実施例1と同様とした。
【0050】
<比較例2>
全体をアウトラスト(商品名)(保温率:28%、素材:アクリル90%,ナイロン5%,ポリウレタン5%)を用いて製造したことの他は、実施例2と同様にしてスタンダードタイプの睡眠用ボトムを製造した。
【0051】
実施例1の睡眠用ボトムを2名の被験者に着用させて、入眠のしやすさについて評価した。図6は、被験者の入床からの心拍のばらつき度合の経時変化を示す。心拍のばらつき度合は以下のようにして数値化した。すなわち、心拍のばらつき度合は、入眠移行期における睡眠深度とローレンツプロットの関係であり、睡眠深度が深くなるにつれて、ローレンツプロットのy=x軸上における原点からの距離(以下、「重心」という)が大きくなり、次第に変化が安定し横ばいになるという知見に基づき、簡易心拍計測装置アクティブトレーサーAC301(商品名、(株)ジー・エム・エス製)を用いて寝時のPRIを測定した。そして、この測定値を用いて入床から60分間の重心のばらつき度合を1分毎に算出し、0〜20分後、21〜40分後、41〜60分後の平均値を求めて数値化した。
【0052】
図6には、比較例1の睡眠用ボトムを2名の被験者に着用させて、同様に入眠のしやすさを評価した結果を併せて示した。心拍のばらつき度合が小さいほど(数値が小さいほど)入眠しやすいことを示しており、実施例1の睡眠用ボトムを着用した場合、比較例1の睡眠用ボトムを着用した場合よりも心拍のばらつき度合が小さく、スムーズに入眠しやすいことが確認された。
【0053】
実施例2および比較例2に対しても、上記と同様に入眠のしやすさの評価をした結果、実施例2の睡眠用ボトムを着用した場合、比較例2の睡眠用ボトムを着用した場合よりも心拍のばらつき度合が小さく、スムーズに入眠しやすいことが確認された。
【0054】
<実施例3>
保温布材として、ウェルサーモ(商品名)(保温率:47%)を使用し、本体布材としても、ウェルサーモ(商品名)(保温率:34%)を使用したことの他は、実施例2と同様にしてスタンダードタイプの睡眠用ボトムを製造した。
【0055】
<比較例3>
保温布材として、ウェルサーモ(商品名)(保温率:47%)を使用し、大腿部のスカルパ三角のみでなく、大腿部の上部の周方向全体を覆うように保温布材を縫合によりセミロングタイプの睡眠用ボトムを製造した。丈の長さは8cmとした。なお、本体布材としても、ウェルサーモ(商品名)(保温率:47%)を使用した。
【0056】
<暖かさに関する感覚評価>
暖かさに関する感覚評価は以下のようにして実施した。すなわち、5人の被験者に実施例3の睡眠用ボトムを着用させ、温度13℃、湿度50%の条件下でふとんに入ってもらった。さらに、実施例3の睡眠用ボトムに代えて比較例3の睡眠用ボトムを着用させ、同様にふとんに入ってもらった。
【0057】
ふとんに入ってから7分経過後の「足先の暖かさ感」、「下半身の暖かさ感」、「体幹の暖かさ感」について、実施例3および比較例3のうち、どちらの睡眠用ボトムを着用した時に暖かさを感じたか意見を聴取した。5人中どちらかの睡眠用ボトムにつき「より暖かさを感じた」と回答した人数を表1に示す。
【表1】



【0058】
暖かさに関する感覚評価において、すべての項目において実施例3の睡眠用ボトムの方が比較例3の睡眠用ボトムよりも暖かさを感じると回答した被験者はいなかった。しかし、各項目について、意見を聴取したところ、以下のような回答が寄せられた。
【0059】
「足先の暖かさ感」については、「実施例3では、比較例3よりもふとんに入ってから足先が暖かく感じるまでに時間がかかる」という回答があった。また、実施例3の睡眠用ボトムを着用時には「じわじわ暖かい」という回答も目立った。
【0060】
「下半身の暖かさ感」については、比較例3の睡眠用ボトムを着用時には「全体にとてもぽかぽか」という回答が目立った。これに対し、実施例3の睡眠用ボトムを着用時には「寒くはないが、暖かく感じるまでに時間がかかる」という回答が目立った。
【0061】
「体幹の暖かさ感」については、比較例3の睡眠用ボトムを着用時には「芯からぽかぽか」という回答がある一方で、「暑すぎる」という回答もあった。これに対し、実施例3の睡眠用ボトムを着用時には「適度に暖かい感じ」という回答が目立った。
【0062】
この結果、足先および下半身の暖かさ感について、実施例3の睡眠用ボトムを着用した場合、比較例3の睡眠用ボトムと比較すると暖かさを感じるまでに時間がかかるものの、被験者は足先および下半身に暖かさを十分に感じていたことが確認された。
【0063】
一方、体幹の暖かさについて、実施例3の睡眠用ボトムを着用した場合、被験者は適度な暖かさを感じていた。これに対し、比較例3の睡眠用ボトムを着用した場合、一部の被験者は暑すぎると感じていた。
【0064】
<足先の暖かさの持続性の評価>
実施例2の睡眠用ボトムを着用し、温度23℃、湿度50%の環境下で20分間安静にした被験者の膝から下の皮膚表面温度をサーモグラフィーで観察した。さらに、実施例2の睡眠用ボトムの代わりに比較例3の睡眠用ボトムを着用させ、同条件にて安静にさせた後、同様に皮膚表面温度をサーモグラフィーで観察した。
【0065】
その結果、実施例2の睡眠用ボトムを着用させた場合においても、比較例3の睡眠用ボトムを着用させた場合と同様、十分に足先が暖かい状態に維持されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】人体下肢部を前側から見たときの筋肉および骨格を表した正面図である。
【図2】(a)は、ショートタイプの睡眠用ボトムを前面から見た図であり、(b)は、該睡眠用ボトムを背面から見た図である。
【図3】睡眠用ボトムの製造プロセスを説明する図である。
【図4】(a)は、セミロングタイプの睡眠用ボトムを前面から見た図であり、(b)は、該睡眠用ボトムを背面から見た図である。
【図5】睡眠用ボトムが備える保温布材の形状及び寸法を説明する図である。
【図6】実施例の効果を、比較例との対比で説明する図である。
【符号の説明】
【0067】
1…本体布材(本体部)、2,22…保温布材(保温部)、5…縫合部、10,20…睡眠用ボトム、100…スカルパ三角、101…鼠径靭帯、102…長内転筋、103…縫工筋、105…大腿部の付根部、106…膝関節部、111…上前腸骨棘、112…恥骨結合。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保温性を有する素材で形成された保温部と、前記保温部よりも低い保温性を有する素材で形成された本体部とを備える股付き衣類であって、
前記保温部は、着用者の鼠径靭帯、長内転筋および縫工筋に囲まれた部位の少なくとも一部を覆う位置に形成されていることを特徴とする股付き衣類。
【請求項2】
保温性を有する素材で形成された保温部と、前記保温部よりも低い保温性を有する素材で形成された本体部とを備える股付き衣類であって、
当該股付き衣類の裾は、着用者の大腿部の付根部から大腿部の周方向に沿って形成されており、
前記保温部は、着用者の鼠径靭帯、長内転筋および縫工筋に囲まれた部位の少なくとも一部を覆う位置に形成されていることを特徴とするショートタイプの股付き衣類。
【請求項3】
保温性を有する素材で形成された保温部と、前記保温部よりも低い保温性を有する素材で形成された本体部とを備える股付き衣類であって、
当該股付き衣類の裾は、着用者の大腿部の付根部から膝関節部までの間の大腿部において、大腿部の周方向に沿って形成されており、
前記保温部は、着用者の鼠径靭帯、長内転筋および縫工筋に囲まれた部位、並びに、長内転筋の少なくとも一部を覆う位置に形成されていることを特徴とするセミロングタイプの股付き衣類。
【請求項4】
前記保温部は、保温性を有する布材を前記本体部と縫合させることにより構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の股付き衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−39849(P2007−39849A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227236(P2005−227236)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(306033379)株式会社ワコール (116)