説明

肥料組成物およびその使用方法並びに得られる生物

【課題】本発明は、必須アミノ酸のシステイン、メチオニンおよび二次代謝物の同定、移動、代謝速度などを精緻な解明を容易にする事を目指し、硫黄の安定同位体を使用する肥料組成物、該組成物を使用した生育方法およびそこから得られる生物を提供することにある。
【解決手段】上記目的を達成するために、従来の炭素、窒素を主にした標識でなく、硫黄元素に着目した安定同位体を使用した標識により上記課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥料に関し、特に、硫黄の安定同位体濃度を高めた肥料およびそれを使用する方法並びにそれを使用して得られる生物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、創薬に関する分野で植物、動物などの二次代謝物が重要な役割を果たしている。二次代謝物を同定する上で、安定同位体で標識された物質は、特に、高性能な処理能力で効率的な質量分析装置(MS)により重要性が増している。この技術は、分子質量に関していかなる制限を課すことなく多くの様々な潜在的被検体に対して使用することができるが、個々の物質の検出において、分解スペクトルおよび個々の分子ピークの両方を適宜特定しなければならないという問題が生じる可能性がある。信頼性のあるLC−MSの利用および方法を確実にするために、いわゆる内部標準物質がますます重要になってきた。内部標準は、標的被検体そのものに極めて似ている、すなわち、特に、同じ分子構造を有する可能性があるが、分子量は異なる物質である。それゆえ、標的被検体の同位体標識した分子、すなわち、分子内の1個または数個の原子がこれらの同位体に置き換えられている分子は、理想的な内部標準であることがわかった。現在、このような物質は、例えば、炭素または窒素を対応するより重い同位体で置換する有機合成によって生成されている。また、該当する生物の代謝物を標識して標準化することも行われてきた。
【0003】
そのため、炭素、窒素の元素の安定同位体化合物が使用され、以下の特許文献に見られるように一定の成果を挙げてきたが、全解析を行うには未だ充分とは言えない状況にある。
【0004】
また、生体を活用して得られる生成物を標識する為にも、安定同位体を含有する培地の記載があるが、その使用法がバイオポリマー等に限定的であり、生物が生産する二次代謝物を深く究明するものになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−53099
【特許文献2】特表2002−523073
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前項の課題を解決する為に、従来の炭素、窒素を主にした標識でなく、硫黄元素に着目し、必須アミノ酸のシステイン、メチオニンおよび二次代謝物の同定、移動、代謝速度などを精緻な解明を容易にする事を目指した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
硫黄の安定同位体使用することを特徴とする肥料組成物により、生物を育成し、必須アミノ酸のメチオニン、システインおよび二次代謝物の分かり易い解析を行う事が期待される。
【0008】
分析手段としては、生物を抽出、酸による分解処理により脂質も抽出後、アミノ酸および二次代謝物に注目して質量分析計により解析する。
【0009】
硫黄の安定同位体として、34Sおよび33Sが存在する。天然存在比は、34Sが約4.2%、33Sが約0.75%で存在する。上記、質量分析計での解析は、LC−MSで両方の安定同位体化合物について可能であるが、工業的な観点から、34Sが価格の面で対応がし易い。
【0010】
最近では、赤外またはラマン分光法で存在を求める事も可能であり、有効な解析が可能となる。
【0011】
一方、33Sは核スピン3/2を有し、NMR解析で有効である為、重水やクロロホルムなどの有機溶媒などで33Sを使用して育成した生物を抽出、酸による分解処理により脂質も抽出後、アミノ酸および二次代謝物を処理により得られた成分をNMRを用いて解析を行う事ができる。
【0012】
肥料の成分としての化合物は、33Sもしくは34Sの硫酸塩、硫化物、アミノ酸を使用することができる。該化合物の中で、易溶性の物が好ましい。易溶性とは水への溶解度が少なくとも1g/100mLのものを言う。
【0013】
前記化合物において、硫酸塩は好ましいのであるが、その際に使用する、カウンターカチオンは、一価、二価、三価のカチオン種を用いる事ができるが、使用する一価のカチオン種としてはナトリウム、カリウムイオン、アンモニウムイオン、二価のカチオン種としては、マグネシウム、カルシウム、三価のカチオン種には。アルミニウムを例示できるが、好ましくは、アンモニウム、カリウム、マグネシウムである。また、植物のナトリウム−カリウムポンプの為か明快ではないが、ナトリウムイオンを使用しないことが好ましい。
【0014】
具体的な、肥料組成は対象とする生物により異なるが、多量要素のN、P、K、Sおよび微量要素Fe、B、Zn、Moを使用する。
【0015】
このようにして得る肥料組成物は標識生物を育成、飼育する為に、水耕液としても培養液としても応用できるものである。
【0016】
本出願の肥料組成物を使用する対象を例示すれば、一般的な植物、野菜、果実を示す事ができる。具体的には、シロイヌナズナ、バジル、ブロッコリー、サクラソウ、ホレンソウ、トウモロコシ、タマネギ、セイジ、トマト、小麦、赤カブ、チコリー、ポテト、ナス、キウリ、米、イチゴ、リンゴ、モモ、メロンなどを挙げることができる。
【0017】
特に水耕では、クロレラ、スピルリナ、ドナリエラ、フォルフィリディウム、ヘマトコッカス等の微細藻類を対象として、組成を組み立てる事もできる。
【0018】
また、酵母、大腸菌などの菌類を対象として、組成を組み立てる事もできる。前述の生物とは、ここまでに示した植物、微細藻類、酵母、菌類を言う。
【0019】
特に、食性が可能なものについては、動物、昆虫等に食させ、標識を図ることも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)を説明する。
【実施例】
【0021】
実施例1
34S(純度98%:SIサイエンス社調達)3.1gを磁性坩堝に秤量し、該坩堝を3Lの三口セパラブルフラスコに入れた。一つの口から室温下で酸素を700mL/分で導入し、もう一つの口から硫黄の酸化ガスを排出ガスとして取り出した。残る口は系内の温度を測定する為に使用した。酸化ガスは、30%濃度の過酸化水素水4.5mLを500mLの水に溶解させた800mLの吸収ビン3本をシリーズで繋いだ中に導入する事で捕捉した。その後、吸収ビンで捕捉した水溶液を50℃にてエバポレーターを用いて濃縮、乾燥し、7.5gの34S−硫酸を得た(以下、[表3]では「硫酸」という)。収率は84.5%であった。
ここで得た34S−硫酸5.0gを水200mLに溶解させた硫酸水溶液を攪拌しながら、3N水酸化カリウムをゆっくり滴下し34S−硫酸カリウムを製造した。上記と同様に、濃縮、乾燥して34S−硫酸カリウム8.5g得た(95%収率)(以下、[表3]では「硫酸塩」という)。
34S−硫酸カリウムを含む[表1]記載の化合物を用いて、40Lの液体肥料組成物(以下、「組成物」という)を調製した。
【表1】

34Sは[表1]記載の組成物中の全硫黄に対して、100モル%であった。
上記の組成物を使用して、シロイヌナズナを以下の条件にて生育させた。純水に充分水を吸わせて水に浮かせたスポンジ上に、シロイヌナズナを播種し、22℃の無菌箱にて1週間生育させたのち、充分に洗浄したバーミュキュライトを詰めた直径60mmのポリポットに移植して、本組成物を施し、22℃、16時間照明、8時間消灯のサイクルで8週間育成した(以下、「生物」という)。
育成後、充分に水洗し、該生物から完全にバーミュキュライトを取り除いた。その後、凍結乾燥、粉砕し粉末にした。該シロイヌナズナ中の34Sの安定同位体純度を求める為に、該シロイヌナズナ1.0mgと標識硫黄成分を使用しない以外は同一条件化で育成、凍結乾燥後粉末にしたシロイヌナズナ9.2mgとを充分に混合し全量を錫箔(Ludi社製)に包み、質量分析計の前処理装置である元素分析計(Thermo Fisher Scientific社製EA1110)にフィードし、燃焼温度1,020℃、PorapakQSの分離カラムでSO2を分離し、質量分析計(Thermo Fisher Scientific社製DELTA plus Advantage)にて測定した。同様にして、該シロイヌナズナ2.0mgと標識硫黄成分を使用しない以外は同一条件化で育成、凍結乾燥後粉末にしたシロイヌナズナ9.2mgとを充分に混合し全量を錫箔(Ludi社製)に包み、質量分析計の前処理装置である元素分析計(Thermo Fisher Scientific社製EA1110)にフィードし、燃焼温度1,020℃、PorapakQSの分離カラムでSO2を分離し、質量分析計(Thermo Fisher Scientific社製DELTA plus Advantage)にて測定した。元素分析計で測定した両者のシロイヌナズナの硫黄含有量は共に0.79重量%であった。
また、該生物中の34Sの存在量は98%であった(SIサイエンス株式会社、分析センター測定)。シロイヌナズナの成長は良好であった。
【0022】
比較例1
[表1]における34S−硫酸カリウムに代えて、和光純薬製の非標識の硫酸カリウムを使用した以外は同様にして肥料組成物を得た。
該組成物を使用して、実施例1に示したと同一の手法、条件にてシロイヌナズナを生育した。また、同様にして、硫酸バリウムを得て、該生物を実施例1に記載の質量分析手法により測定を行い、該生物中の主となる硫黄の存在量を分析した。それらの結果は、[表3]にまとめて記す。また、シロイヌナズナの成長は良好であった。
【0023】
実施例2
実施例1において、34S(純度98%:SIサイエンス株式会社調達)に代えて、33S(純度98%:SIサイエンス株式会社調達)を3.1g使用した以外は、同様にして33S−硫酸を7.7g得た。収率は89%であった。また、得られた33S−硫酸をから、同様に硫酸カリウムを得て、[表2]に記載される肥料組成物を調製した。
【表2】

該組成物を用いたことを除いて、実施例1と同様にシロイヌナズナを育成した。育成された生物を用いて、実施例1と同様にして、生物中の主となる硫黄成分33Sの存在量を測定した。実施例1と同様に各段階のデータを纏めて[表3]に示した。また、シロイヌナズナの成長は良好であった。
【0024】
実施例3
実施例1の肥料組成物を得た条件を基に、改めてスケールアップして、同一の肥料組成物を調製した。該組成物を使用して、ブロッコリーを育成した。実施例1と同様の育成方法で、吸水したスポンジ上に、ブロッコリーを播種し、同一条件で発芽させたものを、無菌、無栄養素のバーミュキュライトに移植して、該肥料組成物を与えて、成長させ、成長に連れて、移植を繰り返した。10週間後に成長したブロッコリーを凍結乾燥、粉砕を経て、質量分析計を使用して、同様に測定して、全量硫黄含有量は0.54重量%であった。34Sの存在量および、各段階のデータは纏めて[表3]に示した。また、ブロッコリーの成長は良好であった。
【0025】
実施例4
以下の条件にて坂口フラスコを使用して、クロレラ・ブルガリスを生育した。水道水1Lに対して、尿素0.6g、第一燐酸カリウム、0.3g、34S−硫酸マグネシウム0.3g、EDTA−鉄15mg、微量元素A5溶液6mL(「藻類実験法」田宮博、渡辺篤編集、南江堂99ページ)にグルコース20gを添加したものを使用し、上記の液体100mLにクロレラ・ブルガリス5×10細胞を加え、30℃、12,000ルクスの空気雰囲気下で生育させた。生育後、遠心分離機で濃縮、水洗後、凍結乾燥し、実施例1に示した方法にてクロレラ・ブルガルス中の34Sの定量を行い、[表3]に示した。
【0026】
実施例5
スピルリナを以下の条件にて生育した。すなわち、水道水1Lに対して、炭酸水素ナトリウム16.8g、第二燐酸カリウム0.5g、硝酸ナトリウム2.5g、34S−硫酸カリウム1.0g、塩化ナトリウム1.0g、34S−硫酸マグネシウム7水和物0.2g、塩化カルシウム2水和物0.04g、硫酸鉄7水和物0.01g、EDTA−2ナトリウム0.08g、A5溶液1mLで構成した液を使用して行った。
生育後、遠心分離機で濃縮、水洗後、凍結乾燥し、実施例1に示した方法にてスピルリナ中の34Sの定量を行い、[表3]に示した。
【0027】
実施例6
[表1]に示した肥料成分中、34S−硫酸カリウムに代えて34S−硫酸アンモニウムを同一重量使用した以外は実施例3に従いトマトを生育した。結果を[表3]に示した。
【0028】
実施例7
実施例1において水酸化カリウムを使用したところを水酸化ナトリウムに代えて、34S−硫酸ナトリウムを合成した。[表4]にその肥料組成を示し、得られた結果および34S−硫酸ナトリウムなどを得る過程の結果を[表3]に示した。
【表4】

【0029】
以上の結果より、本発明の実施例から肥料の構成、製造法が示され性能について比較例に対して、性能が優れることがわかる。また、安定同位体標識された生物についても示された。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄の安定同位体を硫酸塩、硫化物、アミノ酸の一種ないし二種以上として含有する事を特徴とする肥料組成物。
【請求項2】
請求項1において、硫黄の安定同位体が34Sである事を特徴とする肥料組成物。
【請求項3】
請求項1において、硫黄の安定同位体が33Sである事を特徴とする肥料組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3において、硫黄の安定同位体化合物が水に易溶性であることを特徴とする肥料組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4において、硫黄の安定同位体化合物が硫酸塩であり、そのカウンターカチオンがナトリウムでないことを特徴とする肥料組成物。
【請求項6】
植物を育成する際に請求項1ないし5に記載の肥料組成物を使用することを特徴とする方法。
【請求項7】
藻類を育成する際に請求項1ないし5に記載の肥料組成物を使用することを特徴とする方法。
【請求項8】
酵母、菌類を育成する際に請求項1ないし5に記載の肥料組成物を使用することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項6ないし8により生育させた硫黄の安定同位体を天然存在率より高めた事を特徴とする植物、藻類および酵母、菌類

【公開番号】特開2012−246208(P2012−246208A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129590(P2011−129590)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(510109235)SIサイエンス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】