説明

肥満症のマーカーとその使用の方法

肥満症、特に小児肥満症のマーカーが、その使用の方法とともに提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国仮出願第61/307,205号(2010年2月23日提出)および米国の仮出願第61/392,679号(2010年10月13日提出)について35U.S.C.§119(e)による優先権を主張する。前記出願は出典明示により本明細書の一部とされる。
【0002】
本発明は、国立衛生研究所により与えられたグラント番号R01 HD056465−01A1のもと政府の支援によりなされた。政府は、本発明について特定の権利を有する。
【0003】
(発明の分野)
本発明は肥満症の分野に関する。具体的には、本発明は、肥満症、特に小児肥満症に関するマーカーおよびその使用の方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
いくつかの刊行物および特許文献が、本発明が属する分野の技術水準を説明するために本明細書を通じて引用される。これらの引用文献はそれぞれ出典明示により完全に記載されたように本明細書の一部とされる。
【0005】
肥満症は現代の社会の大きな健康問題であり、西側社会で、特に小児において有病率が上昇している(Troiano et al. (1998) Pediatrics, 101:497-504)。肥満症およびその付随する表現形であるインスリン抵抗性(Reaven, G.M. (1988) Diabetes, 37:1595-607; DeFronzo et al. (1991) Diabetes Care, 14:173-94)は、米国における主な死因の一因とも考えられており、2型糖尿病(T2D)、心血管疾患(CVD)、高血圧と他の慢性疾患に関する重要な危険因子でもある(National Institutes of Health Consensus Development Conference Statement (1985) Ann. Intern. Med., 103:147-51)。約70%の肥満症の若者は成長して肥満症の成人となる(Nicklas et al. (2001) J. Am. Coll. Nutr., 20:599-608; Whitaker et al. (1997) N. Engl. J. Med., 337:869-73; Parsons et al. (1999) Int. J. Obes. Relat. Metab. Disord., 23(Suppl 8): S1-107)。実際、青年期の肥満が、成人における増加した総死亡率と関係していることが示された(Must, A. (2003) Nutr. Rev., 61:139-42)。
【0006】
ここ30年ににわたる環境の変化、特に座りっぱなしの生活様式と共に便利な非常に高カロリー食品の無制限の供給にもかかわらず、肥満症のリスクに対する遺伝的要素に関する強力な証拠もある(Friedman, J.M. (2004) Nat. Med., 10:563-9; Lyon et al. (2005) Am. J. Clin. Nutr., 82:215S-217S)。これは人種集団間の有病率の差に反映される(Knowler et al. (1990) Diabetes Metab. Rev., 6:1-27; Zimmet et al. (1990) Diabetes Metab. Rev., 6:91-124)。加えて、肥満症の家族性発症は、一卵性(MZ)双生児の間で体脂肪量70〜90%の一致であると報告され、二卵性(DZ)双生児における35〜45%の一致より高いことが長い注目されていた(Stunkard et al. (1986) JAMA 256:51-4; Borjeson et al. (1976) Acta Paediatr. Scand., 65:279-87)。したがって、BMIの推定遺伝率は30〜70%の範囲にある(Hebebrand et al. (2003) Obes. Rev., 4:139-46; Farooqi et al. (2005) Int. J. Obes. (Lond), 29:1149-52; Bell et al. (2005) Nat. Rev. Genet., 6:221-34; Schousboe et al. (2003) Twin Res., 6:409-21)。
【0007】
過去3年で、13の遺伝子座が、主に成人のゲノムワイド関連(GWA)研究の結果からBMIに関連づけられた。インスリン誘発遺伝子2(INSIG2)は、この方法によって肥満症における役割が報告された最初の遺伝子座であったが(Herbert et al. (2006) Science 312:279-83)、再現試行では一致しない結果が得られた(Loos et al. (2007) Science 315:187; Dina et al. (2007) Science 315:187; Rosskopf et al. (2007) Science 315:187; Lyon et al. (2007) PLoS Genet., 3:e61; Hotta et al. (2008) J. Hum. Genet., 53:857-62)。二番目に報告された遺伝子座、体脂肪および肥満症関連の遺伝子(fat mass- and obesity-associated gene)(FTO; Frayling et al. (2007) Science 316:889-94)は、他の方法によりより強固に観察された(Grant et al. (2008) PLoS ONE 3:e1746; Hinney et al. (2007) PLoS ONE 2:e1361; Dina et al. (2007) Nat. Genet., 39:724-6; Scuteri et al. (2007) PLoS Genet., 3:e115)。後のより大規模な研究により、11個のさらなる遺伝子座が明らかにされた(Loos et al. (2008) Nat. Genet., 40:768-75; Thorleifsson et al. (2009) Nat. Genet., 41:18-24; Willer et al. (2009) Nat. Genet., 41:25-34)。加えて、発育遅延のある小児における極度の症候性肥満症に関するコピー数バリエーション(copy number variation)の研究では、形質に寄与する少数のまれなバリアントが報告された(Bochukova et al. (2010) Nature 463:666-70)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Troiano et al. (1998) Pediatrics, 101:497-504
【非特許文献2】Reaven, G.M. (1988) Diabetes, 37:1595-607
【非特許文献3】DeFronzo et al. (1991) Diabetes Care, 14:173-94
【非特許文献4】National Institutes of Health Consensus Development Conference Statement (1985) Ann. Intern. Med., 103:147-51
【非特許文献5】Nicklas et al. (2001) J. Am. Coll. Nutr., 20:599-608
【非特許文献6】Whitaker et al. (1997) N. Engl. J. Med., 337:869-73
【非特許文献7】Parsons et al. (1999) Int. J. Obes. Relat. Metab. Disord., 23(Suppl 8): S1-107
【非特許文献8】Must, A. (2003) Nutr. Rev., 61:139-42
【非特許文献9】Friedman, J.M. (2004) Nat. Med., 10:563-9
【非特許文献10】Lyon et al. (2005) Am. J. Clin. Nutr., 82:215S-217S
【非特許文献11】Knowler et al. (1990) Diabetes Metab. Rev., 6:1-27
【非特許文献12】Zimmet et al. (1990) Diabetes Metab. Rev., 6:91-124
【非特許文献13】Stunkard et al. (1986) JAMA 256:51-4
【非特許文献14】Borjeson et al. (1976) Acta Paediatr. Scand., 65:279-87
【非特許文献15】Hebebrand et al. (2003) Obes. Rev., 4:139-46
【非特許文献16】Farooqi et al. (2005) Int. J. Obes. (Lond), 29:1149-52
【非特許文献17】Bell et al. (2005) Nat. Rev. Genet., 6:221-34
【非特許文献18】Schousboe et al. (2003) Twin Res., 6:409-21
【非特許文献19】Herbert et al. (2006) Science 312:279-83
【非特許文献20】Loos et al. (2007) Science 315:187
【非特許文献21】Dina et al. (2007) Science 315:187
【非特許文献22】Rosskopf et al. (2007) Science 315:187
【非特許文献23】Lyon et al. (2007) PLoS Genet., 3:e61
【非特許文献24】Hotta et al. (2008) J. Hum. Genet., 53:857-62
【非特許文献25】FTO; Frayling et al. (2007) Science 316:889-94
【非特許文献26】Grant et al. (2008) PLoS ONE 3:e1746
【非特許文献27】Hinney et al. (2007) PLoS ONE 2:e1361
【非特許文献28】Dina et al. (2007) Nat. Genet., 39:724-6
【非特許文献29】Scuteri et al. (2007) PLoS Genet., 3:e115
【非特許文献30】Loos et al. (2008) Nat. Genet., 40:768-75
【非特許文献31】Thorleifsson et al. (2009) Nat. Genet., 41:18-24
【非特許文献32】Willer et al. (2009) Nat. Genet., 41:25-34
【非特許文献33】Bochukova et al. (2010) Nature 463:666-70
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の概要)
本発明によれば、患者における肥満症に関する増大したリスクを診断する方法が提供される。具体的な実施形態では、前記方法は、患者由来の生体試料における少なくとも1つのコピー数バリエーションの存在を評価することを含む。1つの実施形態において、コピー数バリエーションは、EDIL3、S1PR5、FOXP2、KIF2B、ARL15およびDNAJC15からなる群より選択される遺伝子におけるものである。1つの実施形態において、コピー数バリエーションは、EDIL3、S1PR5、FOXP2、TBCA、ABCB5、ZPLD1、KIF2B、ARL15およびEPHA6からなる群より選択される遺伝子におけるものである。コピー数バリエーションは、欠失または重複であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】各集団の個人ごとにコールされたコピー数バリエーションの数の分布を示すグラフ。
【図1B】各集団の個人ごとにコールされたコピー数バリエーションの数の分布を示すグラフ。
【図1C】各集団の個人ごとにコールされたコピー数バリエーションの数の分布を示すグラフ。
【図1D】各集団の個人ごとにコールされたコピー数バリエーションの数の分布を示すグラフ。
【図2】B−アレル頻度(BAF)およびログR比(LRR)に基づくCNV観察の例。CNV数の分布は、各集団の個人ごとにコールした。LRRは規格化した強度であり、BAFは規格化したジェノタイプ・データである。BAF値およびLRR値は、クラスター中心から各SNPに対する各試料の偏差に基づく。LRRは、予想される2倍体の強度信号を意味する0付近にある傾向がある。LRRが上昇する場合、より多くのDNAは結合されて、重複があることを示す。反対に、LRRの減少した信号は、より少ない程度でしかDNAが結合していないことを示し、欠失と一致する。前後して、BAFは3つの正常な2倍体モード0=AA、0.5=ABおよび1=BBを有する。0.5値がSNPの隣接する領域で観察されない場合、欠失があるおそれがある。0.5値が観察されず、0.33値および0.66値が観察される場合、重複はAABおよびABBジェノタイプを裏付け得る。ROH:ホモ接合性のコピー数ニュートラルラン(copy number neutral run)。ホモ接合性はBAFでは明らかであるが、LRRはゼロから実質的に乖離せず、結果的に、欠失コールではなく、むしろROHコールとなる。
【図3】ヒトゲノムのBuild 36(2006年3月)を供えたUCSCゲノム・ブラウザを用いて、欠失または重複により直接影響を受ける遺伝子座を示す。図3A〜Cは、EDIL3、S1PR5およびFOXP2それぞれに直接影響を与える欠失を示す。図3D〜Fは、KIF2B、DNAJC15とARL15それぞれに影響を与える重複を示す。
【図4】表示の遺伝子座でのCNVsの定量PCR検証のグラフ。エラーバーは4重試行の標準偏差を示す。
【図5】PennCNV(Illumina(登録商標)アレイに対して用いた532,898のSNPs)からのCNVコールの統計情報に関する分析フローダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(発明の詳しい説明)
米国の小児と成人における肥満症の有病率は、過去10年で劇的に増加し、米国の成人集団の30%が30超のBMIを有し、5%が40超のBMIを有する。成人肥満症の多くの遺伝的決定基が、ゲノムワイドな関連解析研究および小児期における症候性肥満症の研究を通じてすでに確立されている。通常の小児肥満症(regular childhood obesity)(BMIの≧95パーセンタイル)に対して罹病性を与えるCNVsを包括的に同定しようとする試みにおいて、全ゲノムCNV検査を、550,000のSNPマーカーを用いて遺伝子型をジェノタイプしたヨーロッパ系の1,080の小児肥満症の事例と2,500の痩せの対照(BMIの<50パーセンタイル)に対して実施した。陽性所見が、アフリカ系の1,479の小児肥満症の事例および1,575の痩せの対照群で評価された。ヨーロッパ系アメリカ人の事例で独特であった35のCNV遺伝子座が同定され、そのうち15(42.9%)がアフリカ系アメリカ人の事例でも独占的に再現された(7つの重複および8つの欠失)。少なくとも3のEAの事例で独特であった17のCNV遺伝子座が同定され、その両方が既に公に報告されたものではなく、定量PCRを用いて確認された。それらの遺伝子座のうち8つ(47.1%)もまたAAの事例で独占的に再現された(6つの欠失および2つの重複)。再現された欠失した遺伝子座は、EDIL3(EGF-like repeats- and discoidin I-like domains-containing protein 3)、S1PR5(endothelial differentiation, sphingolipid)、FOXP2(forkhead box P2)、TBCA(tubulin folding cofactor A)、ABCB5(ATP-binding cassette, sub-family B (MDR/TAP), member 5)、およびZPLD1(zona pellucida-like domain containing 1)を含んだが、一方で、再現された重複の遺伝子座では、KIF2B(kinesin family member 2B)、AGR3(breast cancer membrane protein 11 precursor)、ARL15(ADP-ribosylation factor-like 15)、およびDNAJC15(DnaJ homolog, subfamily C, member 15)、特にKIF2BおよびARL15を含んだ。EPHA6−UNQ6114遺伝子座における欠失についての証拠も、AA集団をディスカバリー・セット(discovery set)として調査した場合に観察された。すべてのバリアントは、定量PCRを用いて実験的に検証された。これらのバリアントは、肥満症の病因の重要なメディエーターである神経機能に関係する遺伝子を標的とする。これらの結果は、CNVsが複数の民族で肥満症に関する遺伝的罹病性に寄与することを示す。
【0012】
定義
以下の定義は、本発明の理解を容易にするために提供される。
【0013】
本明細書中で用いられる用語「肥満症」は被検体における過剰の体脂肪がある状態を一般に意味する。「肥満症」は、被検体が30.0kg/m以上のボディーマスインデックス(BMI;身長の平方メートルあたりの体重(kg/m))を有することによる状態を意味し得る。「肥満症の被検体」は、30.0kg/m以上のボディーマスインデックス(BMI)を有する被検体である。「体重超過の被検体」は25.0kg/m超から30.0kg/mまでのBMIを有する被検体である。
【0014】
用語「コピー数」は、本明細書で用いられるように、試料のゲノムDNAにおける特定領域のコピーの数を意味する。あるゲノム領域が「コピー数バリエーション」を有する場合、そのゲノム領域は、ゲノムのその他の平均コピー数のそれ(例えばヒトでは2コピー)と異なるコピー数を有する。
【0015】
本明細書で用いられる「生体試料」は、被検体、好ましくはヒト被検体、例えば組織、組織標本、細胞試料、腫瘍サンプルおよび生体液(例えば血液、尿または羊水)から得られる生体物質試料を意味する。特定の実施例において、生体試料は血液である。
【0016】
本明細書で用いられる「診断」は、被検体における疾患または障害を検出および同定することを意味する。本用語は、疾患または障害を有することが知られている患者において、該疾患または障害の状態(進行、退行、安定化、処置に対する応答など)を評価または判断することも包含し得る。
【0017】
本明細書で用いられる用語「予後」は、被検体の将来の健康(例えば予想される病的状態または死亡率、糖尿病に罹る可能性および心血管疾患のリスク)に関する疾患または障害の存在による影響に関する情報を提供すること(例えば、本発明の診断法で決定されるように)を意味する。換言すれば、用語「予後」は、疾患/障害から見込みのある経過および結果の予測、または疾患/障害からの回復の可能性を提供することを意味する。
【0018】
本明細書で用いられる用語「処置」は、疾患または障害に苦しむ患者に利益をもたらす処置、例えば、患者の状態(例えば1以上の症状)における改善、状態の進行における遅延などをもたらす種類の処置を意味する。
【0019】
本明細書で用いられる用語「プローブ」は、プローブに対して相補的な配列を有する核酸にアニーリングまたは特異的にハイブリダイズすることができる、純粋な制限酵素消化で天然に生じた又は人工的に生成されたオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸、RNAもしくはDNAのいずれかを意味する。プローブは一本鎖または二本鎖のいずれであってもよい。プローブの正確な長さは、多くの因子、例えば温度、プローブの供給源および方法の使用に依存し得る。例えば、診断適用に関しては、目標配列の複雑さに応じて、オリゴヌクレオチドプローブは概して約10−100、約10−50、約15−30、約15−25、約20−50、またはそれ以上のヌクレオチドを含むが、より短いヌクレオチドを含んでいてもよい。本明細書中のプローブは、特定の目標核酸配列の異なるストランドに相補的となるように選択されてもよい。これは、プローブが所定の条件セット下で各々の標的ストランドと「特異的にハイブリダイズする」またはアニールすることができるように、十分に相補的でなければならないことを意味する。従って、プローブ配列は標的の正確な相補的配列を反映する必要はないが、反映していてもよい。例えば、プローブ配列の残りの部分が標的ストランドと相補的であれば、相補的でないヌクレオチド断片がそのプローブの5’または3’端に付着されてもよい。あるいは、プローブ配列が標的核酸配列と十分に相補的であり、標的核酸と特異的にアニールするのであれば、相補的でない塩基または長い配列がそのプローブ中に挿入されていてもよい。
【0020】
本明細書中で用いられる用語「プライマー」は、RNAまたはDNAのいずれかの、一本鎖または二本鎖のいずれかの、生物系に由来するか、制限酵素消化により生成するか若しくは合成的に製造される、オリゴヌクレオチドであって、適当な環境に置いた場合に、テンプレート依存的な核酸合成の開始物質として機能的に作用することができるオリゴヌクレオチドを意味する。適当な核酸テンプレート、核酸の適切なヌクレオシド三リン酸前駆体、ポリメラーゼ酵素、適当な補因子および適当な温度やpHなどの条件にプライマーを置いた場合に、ポリメラーゼまたは同様の活性の作用によるヌクレオチドの付加によりその3’末端で伸長し、プライマー伸長産物を得ることができる。プライマーは、特定の条件およびアプリケーションの要求に応じて長さを変更することができる。例えば、診断適用では、オリゴヌクレオチドプライマーは典型的に約10〜25以上のヌクレオチド長である。プライマーは、所望の伸長産物の合成を開始するために、即ち、ポリメラーゼもしくは類似の酵素による合成の開始に使用する適当に並置されたプライマーの3’ヒドロキシル部分を提供するのに十分な様式で所望のテンプレート鎖とアニールを可能とするために、該所望のテンプレートと十分に相補的でなければならない。プライマー配列が所望のテンプレートの正確な相補鎖である必要はない。例えば、相補的でないヌクレオチド配列が、それ以外は相補的なプライマーの5’端に付着されてよい。あるいは、そのオリゴヌクレオチドプライマー配列が所望のテンプレート鎖の配列と十分に相補的であり、伸長産物の合成のためのテンプレート−プライマー複合体を機能的に提供できる場合、相補的でない塩基がオリゴヌクレオチドプライマー配列内に挿入されていてもよい。
【0021】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は米国特許4,683,195、4,800,195および4,965,188に記載され、それらの全開示内容は出典明示により本明細書の一部とされる。
【0022】
一本鎖核酸、特にオリゴヌクレオチドに関し、用語「特異的にハイブリダイズする」は、当分野で一般に用いられる所定の条件下でのハイブリダイゼーションを可能にするのに十分に相補的な配列からなる2つの一本鎖ヌクレオチド分子間の会合を意味する(場合により、「実質的に相補的」と称される)。特に、前記用語は、本発明の一本鎖DNA分子内に含有される実質的に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを意味し、一本鎖核酸の相補的でない配列を有するオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを実質的に排除することを意味する。種々の相補性を有する一本鎖核酸分子の特異的なハイブリダイゼーションを可能にする適当な条件は、当該分野では周知である。
【0023】
例えば、特定の配列相同性を有する核酸分子間のハイブリダイゼーションを実施するために要求されるストリンジェントな条件は、以下に記載される(Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press):
Tm = 81.5 ℃ + 16.6Log [Na+] + 0.41(%G+C) - 0.63(%ホルムアミド) - 600/二本鎖の#bp
【0024】
上記式の例証として、[Na+]=[0.368]および50%ホルムアミド、GC含有率42%および平均プローブサイズ200塩基対を用いた場合、Tmは57℃である。二本鎖DNAのTmはホモロジーが1%低下するごとに1〜1.5℃ずつ低下する。このように、約75%超の配列同一性を有する標的は、42℃のハイブリダイゼーション温度を用いることで観察され得る。
【0025】
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーおよび洗浄は、主に溶液の塩濃度および温度に依存する。一般に、プローブのその標的とのアニーリング率を最大にするためには、そのハイブリダイゼーションを通常、算出されたそのハイブリッドのTmよりも20〜25℃低い温度条件および塩条件で行う。洗浄条件は、プローブの標的に対する同一性の程度について、可能な限りストリンジェントにすべきである。一般に、洗浄条件は、ハイブリッドのTmよりも約12 20℃以下となるよう選択される。本発明の核酸に関し、中程度のストリンジェントハイブリダイゼーションは、6×SSC、5×Denhardt溶液、0.5%SDSおよび100μg/mlの変性サケ精子DNA(denatured salmon sperm DNA)における42℃でのハイブリダイゼーション、及び2×SSCおよび0.5%SDSにおける55℃での15分間の洗浄と規定される。高ストリンジェントハイブリダイゼーションは、6×SSC、5×Denhardt溶液、0.5%SDSおよび100μg/mlの変性サケ精子DNAにおける42℃でのハイブリダイゼーション、及び1×SSCおよび0.5%SDSにおける65℃での15分間の洗浄と規定される。非常に高いストリンジェントハイブリダイゼーションは、6×SSC、5×Denhardt溶液、0.5%SDSおよび100μg/mlの変性サケ精子DNAにおける42℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSCおよび0.5%SDSにおける65℃での15分間の洗浄と規定される。
【0026】
用語「単離された」は、それに天然に付随し得る他の化合物から十分に分離された化合物または複合体を意味し得る。「単離された」は、他の成分または物質を含む人工または合成混合物、或いは基本的な活性もしくは後のアッセイと干渉しない不純物および例えば不完全な精製のために存在し得る不純物の存在、又は安定化剤の添加を排除することを意味するものではない。
【0027】
本明細書で用いられる「使用説明書類」は、本発明に係る方法を実施するための本発明に係る組成物の有用性を伝達するために用い得る刊行物、記録、図表またはその他のいずれかの表現媒体を含む。
【0028】
語句「固体支持体」は、いずれかの固体表面を意味し、限定するものではないが、いずれかのチップ(例えば二酸化ケイ素ベースのガラスまたは金のチップ)、ガラススライド、メンブレン、プレート、ビーズ、固体粒子(例えばアガロース、セファロース、ポリスチレンまたは磁気ビーズ)、カラム(またはカラム材料)、試験管またはマイクロタイター皿を含む、固体表面を意味する。
【0029】
本明細書中で用いられる用語「アレイ」は、ハイブリダイズ可能なアレイされる構成因子(例えば、タンパク質、核酸、抗体など)の整然とした配置を意味する。アレイされる構成因子は、少なくとも1つ以上の異なるアレイされる構成因子が固体支持体上に存在するよう配置される。特定の実施形態において、アレイされる構成因子はオリゴヌクレオチドプローブを含む。
【0030】
「医薬上許容される」は、動物、より具体的にはヒトでの使用に関しての、連邦政府または州政府の監督機関による承認を指す、或いは米国薬局方または他の一般に承認された薬局方にリストされていることを指す。
【0031】
「担体」は、例えば、本発明の活性物質が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、補助剤またはビヒクルを意味する。医薬上許容される担体は、水および油などの滅菌液、例えば石油、動物、植物もしくは合成起源の油、例えば落花生油、大豆油、鉱油、胡麻油などであってよい。水または水性塩溶液および水性デキストロースおよびグリセロール溶液が、担体として、特に注射溶液として好ましくは用いられる。適切な医薬担体は、E.W. Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. (1990, Mack Publishing Co., Easton, PA 18042))および「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」(Ed. Troy; Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, MD)に記載されている。
【0032】
診断方法、キットおよびスクリーニング方法
本発明は、被検体(例えば、動物、ヒト)における肥満症に対する罹患率/リスクを診断および/または測定する方法を提供する。本方法は、関連する健康問題についての予後を提供することをさらに含み得る。被検体が肥満症のリスクがあると診断された場合、その被検体の食事は肥満症を回避/低減/処置するために変更することができる;その被検体は肥満症を予防/処置するための治療薬を投与され得る;および/またはその被検体は運動療法が提供され得る。
【0033】
1つの実施形態において、本方法は、患者から得られた生体試料中の表3、4または7で提供される少なくとも1つの遺伝子座のゲノムコピー数を決定することを含む。他の実施形態において、本方法は、患者から得られた生体試料中のEPHA6、EDIL3、S1PR5、FOXP2、TBCA、ABCB5、ZPLD1、DERA、PNLIPRP1、PRR20A、BC015432、CDS2、CACNA2D4、LRTM2、CENTD1、KIF2B、BC073935、CR611653、BRDT、DNAJC15、AGR3、DFNB31、COL27A1、AKNA、ATP6V1G1、ORM1、ORM2、C9orf91、ARL15、PKD1L2、BCMO1、MICB、COMT、SLCO1A2、NXPH1、EGFL11、NAALADL2、GPR98、PCDH20、BC048997、AK091626、APOBおよびRPAP3からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子のコピー数を決定することを含む。
【0034】
他の実施形態において、遺伝子は、S1PR5、FOXP2、TBCA、ABCB5、PNLIPRP1、BC015432、CDS2、CACNA2D4、LRTM2、CENTD1、BC073935、CR611653、DNAJC15、AGR3、DFNB31、COL27A1、AKNA、ATP6V1G1、ORM1、ORM2、C9orf91、ARL15、PKD1L2、BCMO1、MICB、COMT、NXPH1、GPR98、BC048997およびAK091626からなる群より選択される。
【0035】
さらなる他の実施形態において、遺伝子は、EDIL3、S1PR5、FOXP2、TBCA、ABCB5、ZPLD1、KIF2B、BC073935、CR611653、BRDT、DNAJC15、AGR3、DFNB31、COL27A1、AKNA、ATP6V1G1、ORM1、ORM2、C9orf91およびARL15からなる群より選択される。
【0036】
よりさらなる他の実施形態において、遺伝子は、EDIL3、S1PR5、FOXP2、KIF2B、ARL15およびDNAJC15からなる群より選択される。さらなる他の実施形態において、遺伝子は、EDIL3、S1PR5、FOXP2、TBCA、ABCB5、ZPLD1、KIF2BおよびARL15からなる群より選択される。
【0037】
特定の実施形態において、遺伝子がEPHA6、EDIL3、S1PR5、FOXP2、TBCA、ABCB5、ZPLD1、DERA、PNLIPRP1、PRR20A、BC015432、CDS2、CACNA2D4、LRTM2およびCENTD1からなる群より選択される場合、肥満症のコピー数バリエーション指標は欠失(deletion)である。
【0038】
他の実施形態において、遺伝子がKIF2B、BC073935、CR611653、BRDT、DNAJC15、AGR3、DFNB31、COL27A1、AKNA、ATP6V1G1、ORM1、ORM2、C9orf91、ARL15、PKD1L2、BCMO1、MICB、COMT、SLCO1A2、NXPH1、EGFL11、NAALADL2、GPR98、PCDH20、BC048997、AK091626、APOBおよびRPAP3からなる群より選択される場合、肥満症のコピー数バリエーション指標は重複(duplication)である。
【0039】
上記遺伝子のNCBI GeneID番号およびGeneBank受入番号(ヌクレオチドおよびアミノ酸配列を提供する)は以下のとおりである:
EDIL3(EGF-like repeats and discoidin I-like domains 3):GeneID: 10085
S1PR5sphingosine-1-phosphate receptor 5; also known as EDG8; 別名EDG8):GeneID: 53637
FOXP2(forkhead box P2):GeneID: 93986
TBCA(tubulin folding cofactor A):GeneID: 6902
ABCB5(ATP-binding cassette, sub-family B (MDR/TAP), member 5):GeneID: 340273
ZPLD1(zona pellucida-like domain containing 1):GeneID: 131368
DERA(2-deoxyribose-5-phosphate aldolase homolog):GeneID: 51071
PNLIPRP1(pancreatic lipase-related protein 1):GeneID: 5407
PRR20A(proline rich 20A; 別名FLJ40296):GeneID: 122183
BC015432:GenBank Accession No. BC015432.1
CDS2(CDP-diacylglycerol synthase (phosphatidate cytidylyltransferase) 2):GeneID:8760
CACNA2D4(calcium channel, voltage-dependent, alpha 2/delta subunit 4):GeneID: 93589
LRTM2(leucine-rich repeats and transmembrane domains 2):GeneID: 654429
CENTD1(centaurin, delta 1; 別名ARAP2):GeneID: 116984
KIF2B(kinesin family member 2B):GeneID: 84643
BC073935:GenBank受入番号BC073935.1
CR611653:GenBank受入番号CR611653.1
BRDT(bromodomain, testis-specific):GeneID: 676
DNAJC15(DnaJ (Hsp40) homolog, subfamily C, member 15):GeneID: 29103
AGR3(anterior gradient homolog 3):GeneID: 155465
DFNB31(deafness, autosomal recessive 31):GeneID: 25861
COL27A1(collagen, type XXVII, alpha 1):GeneID: 85301
AKNA(AT-hook transcription factor):GeneID: 80709
ATP6V1G1(ATPase, H+ transporting, lysosomal 13kDa, V1 subunit G1):GeneID: 9550
ORM1(orosomucoid1):GeneID: 5004
ORM2(orosomucoid2):GeneID: 5005
C9orf91(chromosome 9 open reading frame 91):GeneID: 203197
ARL15(ADP-ribosylation factor-like 15):GeneID: 54622
BCMO1(beta-carotene 15,15'-monooxygenase 1; 別名BCDO):GeneID: 53630
PKD1L2(polycystic kidney disease 1-like 2):GeneID: 114780
MICB(MHC class I polypeptide-related sequence B):GeneID: 4277
COMT(catechol-O-methyltransferase):GeneID: 1312
SLCO1A2(solute carrier organic anion transporter family, member 1A2): GeneID: 6579
NXPH1(neurexophilin 1):GeneID: 30010
EGFL11(EGF-like-domain, multiple 11; 別名EYS):GeneID: 346007
NAALADL2(N-acetylated alpha-linked acidic dipeptidase-like 2):GeneID: 254827
GPR98(G protein-coupled receptor 98; 別名KIAA0686):GeneID: 84059
PCDH20(protocadherin 20):GeneID: 64881
BC048997:GenBank受入番号BC048997.1
AK091626:GenBank受入番号AK091626.1
APOB(apolipoprotein B):GeneID: 338
RPAP3(RNA polymerase II associated protein 3):GeneID: 79657
EPHA6(ephrin receptor A6; UNQ6114; MIM 600066):Gene ID: 285220
【0040】
コピー数バリエーションは、当分野で公知のいずれかの方法によって検出できる。例えば、コピー数バリエーションは、PCR(例えばqPCR)、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーションおよびバーチャル染色体分析により検出することができる。
【0041】
本発明の少なくとも1つの遺伝子と特異的にハイブリッド形成するプローブおよびプライマーも本発明に包含される。プローブおよびプライマーは、遺伝子のコピー数を測定するのに用いることができる。プローブは、固体支持体に固定化されてもよい。実際、本発明に係る遺伝子の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも6つ、またはその全てに対する少なくとも1つのプローブを含むアレイも本発明に包含される。特定の実施形態において、アレイは、上記のグループの各遺伝子に対する少なくとも1つのプローブを含む。
【0042】
本発明のプローブ、プライマーおよび/またはアレイは、キットに組み込まれてもよい。キットは、使用説明書類、バッファおよび/または容器を更に含んでもよい。
【0043】
上記に加えて、本発明は、肥満症の処置、阻害および/または予防のための治療薬のスクリーニング(例えば、ハイスループットスクリーニング)方法を含む。本明細書中で特定されるCNVsが肥満症の病因と関係したため、遺伝子およびそれらのコード産物の活性を調節する(例えば、正常レベルに戻す)薬剤を特定する方法は、この状態の処置に有効な治療薬(例えば核酸(例えば、DNA、cDNA、RNA、siRNA、アンチセンスなど)、タンパク質、ポリペプチド、リガンド、抗体、小分子など)の創生を結果的にもたらし得る。特定の実施形態において、試験される薬剤は、合理的な薬物設計によって開発された。例えば、遺伝子の欠失および遺伝子および/または遺伝子産物(例えば上記GeneIDリファレンスで示されるもの)の活性における付随する消失があるCNVsに関しては、活性レベル(例えば、野生型のレベルに)を上昇させる治療薬が望ましいであろう。加えて、遺伝子が重複されている、及び当該遺伝子および/または遺伝子産物の活性における付随する増加があるCNVsに関しては、活性レベル(例えば、野生型レベルに)を低下させる治療薬が望ましいであろう。
【0044】
特定の実施形態において、スクリーニング方法は、本発明の少なくとも1つのCNVを含む細胞を化合物と接触させること、及び該CNVにより影響を受ける遺伝子および/または遺伝子産物の活性が調節されるかどうか(例えば、野生型に近くづくか)を評価し、それによって治療薬を特定することを含む。特定の実施形態において、細胞は被検体から得られる。さらに他の実施形態において、CNVsを試験管内で細胞において生じさせる。細胞内で遺伝子または遺伝子座のCNを調節する方法は、当分野で周知である。さらなる他の実施形態において、スクリーニング方法は、本発明の少なくとも1つのCNVを含む動物(例えばトランスジェニック動物(例えばマウス))にて実施することができる。
【0045】
細胞性代謝における本明細書に記載のCNVsによる役割の説明は、肥満症の処置および診断に有用な医薬組成物の開発を容易にする。これらの組成物は、上記の物質のうちの1つに加え、医薬上許容されるキャリア(例えば、当業者に周知の賦形剤、キャリア、バッファ、スタビライザまたは他の材料)を含んでいてもよい。そのような材料は、無毒であり、かつ活性成分の有効性に干渉しないものでなければならない。個人に与えられる本発明のポリペプチド、抗体、ペプチド、核酸分子、小分子または他の医薬的に有用な化合物であるかどうかに関係なく、投与は、望ましくは「予防上の有効量」または「治療上の有効量」(場合によっては、予防は治療と考えられてもよい)で、これが個人に有益性を示すのに十分な量である。
【0046】
さらなる他の実施形態において、本発明は、薬理ゲノミクスを包含する。より詳しくは、本発明は、治療薬の効能を予測するため、又は処置に最も有効な治療薬を選択するために被検体をスクリーニングする方法を包含する。特定の実施形態において、患者から生体試料を得ること、及び本発明の少なくとも1つのCNVの有無を決定することを含む。次いで、CNVを有する被検体への治療薬の投与が有効であり、許容できない副作用がないことが実際に示される場合に、検体は該治療薬が投与される。
【0047】
以下の実施例は、本発明を実施する方法を例示するものであり、本発明の範囲がいかようにも限定されることを意図するものではない。
【0048】
実施例
方法
試験被験者
すべての被験者は、フィラデルフィア州の子供病院(Children’s Hospital)にて、グレーター・フィラデルフィア地域から2006年から2009年まで連続的に募集された。本研究は、CNVsに関して厳格に確立されたデータ品質閾値に適合する1,080人の白色人種の肥満症児(BMI≧95パーセンタイル)、2,500人の白色人種の痩せ対照(BMI<50パーセンタイル)、1,479人のAAの肥満症児および1,575人のAAの痩せ対照から構成された。これらの参加者は全員、血液を6mlのEDTA血液採取管に採取され、次いでジェノタイピングのためにDNA抽出された。BMI≧95パーセンタイルは、疾病管理センター(Center for Disease control:CDC)z−スコア=1.645(www.cdc.gov/nchs/about/major/nhanes/growthcharts/datafiles.htm)を用いて定義した。被験者は全員、生物学的に無関係であり(利用可能なSNPデータ(ペアワイズIDBを0.25以上の相関性を示す個人を除去するのに用いた)に基づき)、2〜18歳の年齢であった(表1)。被験者は全員、CDC補正したBMIの−3〜+3の標準偏差の間にあった(すなわち、異常値を、潜在的な測定誤差の結果または極度の肥満症のメンデル原因を避けるために除外した;従って、後者のカテゴリーは、CNVディスカバリーに関して既報のカテゴリーに入る個人を特異的に除外した(Bochukova et al. (2010) Nature 463:666-70; Walters et al. (2010) Nature 463:671-5))。自己申告の民族性は、多次元スケーリング法によって確認した。全体的な系統は、ヨーロッパおよびアフリカの人々における特異な集団の民族系統を保証するためにEigenstratを用いて決定された。本研究は、フィラデルフィア州の子供病院の施設内倫理委員会により承認された。親のインフォームドコンセントは、血液採取および以降のジェノタイピングの両方に関する各試験の参加者について行った。
【表1】


表1:研究した集団における性および年齢の分布
【0049】
CNVディスカバリーについてのイルミナ(Illumina(登録商標))Infiniumアッセイ
ハイスループット・ゲノムワイドSNPジェノタイピングは、フィラデルフィア州の子供病院のCenter for Applied Genomicsにおいて、Infinium(商標)II HumanHap550 BeadChip テクノロジー(Illumina(登録商標); San Diego, CA)を用いて実施された。ジェノタイピングアレイにより提供される強度データと共に、ジェノタイプデータの内容は、CNVコールについて高い信頼性を与える。重要なことに、同じ実験設定での強度データおよびジェノタイプデータの同時分析は、正常な2倍体状態およびその何らかの逸脱に関する高い精度の同定を確立する。CNVsをコールするために、複数の情報源、例えば各SNPマーカーにおける対数R比(Log R Ratio:LRR)およびBアレル頻度(B Allele Frequency:BAF)を、SNP間隔(SNP spacing)、trained hidden MarkovモデルおよびBアレルの集団内頻度と共に含むPennCNVアルゴリズム(www.openbioinformatics.org/penncnv/)を用い、CNVコールを生成した。各試料は、事例の状況を伏せられてCNVsがコールされた。陽性の結果を、類似サイズのアフリカ系統の独立した再現集団で評価した。CNVフィルターリングおよび試験工程のフロー図を図5に提供する。
【0050】
CNV品質管理
品質管理(QC)単位(measure)は、低品質のDNA試料および偽陽性CNVsを除外するための統計分布に基づくHumanHap550GWASデータで算出した。第1閾値は、首尾よくジェノタイプされた計画されたSNPsパーセンテージである。コール率>98%の試料だけを含めた。ゲノム全体の強度シグナルは、可能な限りノイズを持たないものでなければならない。規格化した強度(LRR)の標準偏差(SD)<0.30を有する検体だけを含めた。すべての試料は、多次元尺度構成法(MDS)のスコアリングに基づく明らかな白系(Caucasian)またはアフリカ系の民族性を有していなければならず、その他の試料は全て除外した。低品質の全長DNAに関するハイブリダイゼーション・バイアスの結果として生じるGC含有量と概して相関する波長のアーティファクトが、コピー数バリエーションの正確な推定に干渉することが知られている(Diskin et al. (2008) Nucleic Acids Res., 36:e126)。波長のモデルに対してLRRのGC波長の要因が−0.1<X<0.1の間の範囲にある試料だけを受け入れた。PennCNVによるCNVコールのカウントが100を上回る場合(図1)、そのDNAの品質は通常劣っている。かくして、CNVコールカウント<100を有する試料だけを含めた。何らかの重複試料(例えば、1卵双胎)は一方の試料を除外した。
【0051】
CNVsの統計分析
事例と対照との間のCNV頻度は、フィッシャーの正確確率検定を用いて各SNPを評価した。事例と対照との間で有意であった(p<0.05)遺伝子座であって、ヨーロッパ系アメリカ人の場合、ディスカバリー集団(discovery cohort)では同じバリエーションを有し、アフリカ系アメリカ人で再現され、いずれの対照被験者でも発見されず、独立した方法によっても検証された遺伝子座だけを考慮した。統計学的極小が、互いに1Mb以内に存在するSNPsを含む名目上有意な領域に関して関連を狭くすることが報告されている。結果として生じる有意なCNVRsが以下の基準のいずれかを満たす場合、それらを除外した:i)テロメアまたはセントロメア近傍のサイトバンド(cytoband)に存在する;ii)CNVコールの境界端(boundary truncation)における変動により生じる共通のCNVの「島(peninsula)」に生じている;iii)ゲノム領域がハイブリダイゼーション・バイアスをもたらす過度のGC含有量を有する;またはiv)試料が多重CNVRsに寄与する。DAVID(Database for Annotation, Visualization, and Integrated Discovery)(Dennis et al. (2003) Genome Biol., 4:P3; Huang da et al. (2007) Genome Biol., 8:R183)を用いて、独立して関連づけられたCNV結果のInterProカテゴリーへの機能的アノテーション・クラスタリングの有意性を評価した(上位の結果がUniProtカテゴリーである:ビジョン(Vision) P=0.0069(CACNA2D4、GPR98、DFNB31))。実施した試験数を調整するために、16の欠失および19の重複CNVRsの補正を、ヨーロッパ系アメリカ人集団の有意性に基づいて行った。
【0052】
CNVフィルターリング工程
多重CNVフィルターリング工程を分析の一部として実施した。第1に、Illuminaアレイ上の532,898のSNPsのうち、ヨーロッパ系アメリカ人のディスカバリー集団における少なくとも3つ以上の無関係な事例で8,672(1.627%)が欠失を示し、そして6,763(1.269%)が重複を示した点は注目すべき重要なことである(頻度≧0.278%)。3つの事例の閾値を選択する。なぜならば、所定の領域でのコールに関する再現性を与えるための最小の事例頻度のためである。この事前の除外は、GWA SNPジェノタイプ研究における1%のマイナー・アレル頻度(Minor Allele Frequency)に関する内包の閾値(inclusion threshold)と非常に類似している。これで、ゲノムワイド試験について補正するために実施される試験の数が劇的に減る。
【0053】
第2に、すべてのSNVsを事例と対照の両方で同時にコールし、マルチスクリプトで規定されたようにCNVRsに分類した。合計272の欠失および174の重複CNVRsが確認された。第3に、新規CNVsを調査するために、白色人種の対照集団で観察された全てのCNVRsを除去して事例における独占性を確立し、そして生データ(BAFおよびLRR)を、方法の項で記載したように正確なCNVコーリングおよび統計学的な有意性のために慎重に批評した。これで、12の欠失および19の重複のCNVRsが残った。
【0054】
従って、このデータセットは、新規な肥満CNVsについて試験するために用いたディスカバリー集団からのCNVRsを規定する。次いで、これらのCNVRsの再現を独立したアフリカ系アメリカ人の事例−対照データセットで試験した。6つの欠失および7つの重複CNVRsが再現基準に対して残り(アフリカ系アメリカ人の事例で観察され、アフリカ系アメリカ人対照セットでは無かった)、次いで、少なくとも1つの独立した方法(QPCRおよびFISH)により実験的に検証した。これらの結果を表3に示す。
【0055】
多数の理由で、例えば、提供されるDNAにおける変動性、アレイタイプ、DNA処理、データ処理、品質管理、CNVコーリング・アルゴリズム、ゲノム特徴、ゲノムの範囲および領域の統計学的提示に関するいずれかのプラットフォームによって、CNVコーリングが明確に達成されないことは注目すべき重要なことである。これが、交絡する寄与度をそれぞれ規格化および調節するための多大な努力にもかかわらず、最初の検査での高い擬陽性率をもたらし得る。
【0056】
定量PCR(QPCR)によるCNV検証
ユニバーサル・プローブ・ライブラリー(UPL; Roche, Indianapolis, IN)のプローブを、ProbeFinder v2.41 Software(Roche, Indianapolis, IN)を用いて選択した。定量PCRを、ABI 7500 Real Time PCR InstrumentまたはABI Prism(商標)7900HT Sequence Detection System(Applied Biosystems, Foster City, CA)にて実施した。各試料を、25μlの反応混合液(250nMのプローブ、900nMの各プライマー、ロシュ(Roche)のFast Start TaqMan Probe Master、および10ngのゲノムDNA)または10μlの反応混合液(100nMのプローブ、200nMの各プライマー、インビトロジェン(Invitrogen)のROXを含む1×Platinum Quantitative PCR SuperMix-Uracil-DNA-Glycosylase(UDG)および25ngのゲノムDNA)のいずれかで4重に分析した。その値を、Sequence Detection Software v2.2.1(Applied Biosystems, CA)を用いて評価した。データ分析は、ΔΔC法を用いて更に実施した。COBL(MIM 610317)、GUSB(MIM 611499)、およびSNCA(MIM 163890)から選択したリファレンス遺伝子を、最小の変動係数に基づいて含め、次いで、データを正常対照の値を1に設定することによって規格化した。これらの稀なCNVsは、アレイに存在する単一の共通SNPによっても効果的にタグ付けされることはなかった。
【0057】
【表2−1】

【0058】
【表2−2】

【0059】
表2:マーカー間の連鎖不平衡レベルを反映する、CNVsに対する最良のSNPジェノタイプ代替物および各々のr値。SNPs>1%の一般的性質およびCNVs<1%の稀な性質のために、CNVsに関する代替SNPジェノタイプを同定することは挑戦的なことである。CNVの1Mb内でジェノタイプされたSNPsのr値はほとんどゼロに近かった。
【0060】
結果
本研究は、厳格に確立されたCNVsに関するデータ品質閾値に適合する1,080人の白色人種の肥満症児(BMI≧95パーセンタイル)、2,500人の白色人種の痩せ対照(BMI<50パーセンタイル)、1,479人のAA肥満症児および1,575人のAA痩せ対照(2−18歳)から構成された。しかしながら、被験者はすべて、潜在的な測定誤差の結果または極端な肥満のメンデル原因となり得る異常値を排除するために、CDC補正したBMI標準偏差が−3〜+3の間になければならない。実際、後者のカテゴリーは、CNVディスカバリーに関して既報のカテゴリーに入る個人を特異的に除去する。
【0061】
PennCNVソフトウェア(Wang et al. (2007) Genome Res., 17:1665-74)を用いて、ヨーロッパ系アメリカ人(EA)事例および対照それぞれにおいて、個人につき平均22.0および19.5CNVコールを行い、93%の被験者が8−45CNVコールを有した(図3)。4つの異なるコピー数状態をEAの事例/対照集団についてコールし、919/2,109ホモ接合性欠失(コピー数またはCN=0)、13,678/28,917ヘミ接合性欠失(CN=1)、6,767/16,689の1コピー重複(CN=3)および344/1,139の2コピー重複(CN=4)を含んだ。図2は、BeadStudioソフトウェアで概観される生のイルミナ・データの例および結果的に得られるCNVコールを示す。CNVコールは3〜7903SNPsに及び、CNVコールあたり平均19SNPsを有し、および、そのサイズは50bp〜33Mbの範囲であり、平均81kbサイズであった。
【0062】
93%のアフリカ系アメリカ人(AA)被験者も、8−45のCNVコールを有していた(図1)。個人あたり平均24.1および25.1のCNVコールが、AA事例および対照でそれぞれなされた。それらの中で、897/1,026CN=0、25,650/28,793CN=1、8,778/10,251CN=3および418/535CN=4が確認された。CNVは3〜7903のSNPに及び、CNVコールあたり平均15のSNPsを有し、および、それらのサイズは50bp〜33Mbの範囲にあり、67kbの平均サイズであった。
【0063】
EA被験者において潜在的に無症候性小児肥満症に寄与する新規ゲノム座を同定するために、対照と比較される事例に、より頻繁なコピー数変化を有する連続的なSNPsについてゲノムをスキャンするセグメントベースのスコアリングアプローチを適用した。これらの連続的なSNPsのためのゲノムスパンが、一般のコピー数バリエーション領域またはCNVRsを定める。
【0064】
局所系統(Local ancestry)を平均300のSNPジェノタイプを含む各CNV遺伝子座を囲む1MBの領域を用いて評価し、結果として、有意に逸脱した個人を含まないよくクラスター形成された集団となった。統計学的極小が、互いに1Mb以内に存在するSNPsを含む名目上有意な領域に関して関連を狭くすることが報告されている。結果として生じる有意なCNVRsが以下の基準のいずれかを満たす場合、それらを除外した:i)テロメアまたはセントロメア近傍のサイトバンドに存在する;ii)CNVコールの境界端における変動により生じる共通のCNVの「島」に生じている;iii)ゲノム領域がハイブリダイゼーション・バイアスをもたらす過度のGC含有量を有する;またはiv)試料が多重CNVRsに寄与する。
【0065】
少なくとも3つのEAの事例に独占的に存在した34の推定CNVR遺伝子座(15の欠失および19の重複)が同定された(P0.05)。しかしながら、欠失のうちの3つは、CNVsの独立した検証に一般的に用いられる方法である定量PCR(qPCR)を用いた検証過程の間に偽陽性であることが判明した(図3および図4)。実験的検証はすべて、いずれのバイアスも最小に抑えるために盲検様式で独立した研究グループにより実施された。これは別のレベルの信用を実験の検証結果に加えるものである。CNV再発(recurrence)に関連した問題、精度、遺伝子座依存(locus dependence)およびGC含有量に関連する困難は、qPCRを4重に実施し、試行にまたがる低い標準偏差を観察し、同一ゲノム領域に関する対照試料をアッセイし、そして異なるゲノム領域で同じ試料をアッセイすることにより緩和した。
【0066】
【表3−1】

【0067】
【表3−2】

【0068】
表3:ヨーロッパ系アメリカ人における及びアフリカ系アメリカ人での再現試行における小児肥満症に独占的なSNPレベルでのCNVs(qPCR検証されたが公に存在するかについては選別されていない)。アフリカ系アメリカ人の事例で独占的に再現されたCNVsを太字で強調する。配置(co-ordinate)はUCSC Build hg 18から得た。「近接遺伝子からのBP(BP from nearest gene)」カラムは、CNVが列挙された遺伝子を包含する場合はゼロを、又はCNVが列挙された遺伝子の近傍にある場合は値を記入する。個々のCNVコールはSNPベースの統計値として割り当てられる。従って、事例がゼロでない値および対照がゼロ値を示す隣接SNPsは、列挙されたCNVRsであるCNV領域を形成する。試験したSNPは、再現において正確なオーバーラップを確実にするためにCNVR領域の中央のSNPである。
【0069】
再現試行で、31の検証されたCNVR遺伝子座のうち13(41.9%)が、1以上のAAの事例に独占的に存在することも明らかとなった(6つの欠失および7つの重複)(表3)。CNVR遺伝子座のうち17のみが、この集団に特有であり(即ち、Genomic VariantsのDatabaseにより対照において報告されていない)、そのうち8つ(47.1%)がAAの事例で独占的に再現された(6つの欠失および2つの重複)(表4)。再現の目的に関して異なる人種群の使用は、同じ民族で類似の試行を行うことよりも高い障壁を意味する。例えば、2型糖尿病と関連したTCF7L2(MIM 602228)における共通のバリアントが、アフリカ人でのその疾患とも類似の程度で関連した場合(Helgason et al. (2007) Nat. Genet., 39:218-225)、それは、この疾患における役割を有するものとして、より確定されるものと考えられた;加えて、最近の喘息GWAS研究結果がアフリカ系アメリカ人でも観察され、それは、我々にこの観察のより高いレベルでの確実性をもたらした(Sleiman et al. (2010) New Eng. J. Med., 362:36-44)。多くのバリアントが異なる人種集団で異なる頻度を有することが示されたため、それぞれ同じ表現型のEAとAA集団において独占的なものと同じCNVの観察は、集団の階層化(population stratification)の影響を交絡させる可能性を最小限に抑える。図3は、ヒトゲノムのUCSC Genome Browser with Build hg18(March 2006; genome.ucsc.edu/ cgi-bin/hgGateway)を用いた欠失または重複により最も頻繁に影響を受ける代表的な遺伝子座を可視化する。鍵となるCNVsのいずれかが、データを利用できた家族の肥満症と一緒に分離されたかどうかも評価し、少なくとも4つのCNVsが肥満症の親から遺伝的に受け継がれ、そして少なくとも4つがデノボであったことを立証できた(表5)。
【0070】
【表4−1】

【0071】
【表4−2】

【0072】
表4:ヨーロッパ系アメリカ集団およびアフリカ系アメリカ人での再現試行における小児肥満症に独占的なSNPレベルでのCNVs(公に存在するか及びqPCR検証もしていない)。アフリカ系アメリカ人の事例で独占的に再現されたCNVsを太字で強調した。配置はUCSC Build hg18から得た。「近接遺伝子からのBP」カラムは、CNVが列挙された遺伝子を包含する場合はゼロを、又はCNVが列挙された遺伝子の近傍にある場合は値を記入する。これらの遺伝子座は、寄与試料にわたって、欠失遺伝子座についてはCN=1および再現遺伝子座についてはCN=3を示した。その他の状態、例えばCN=0又はCN=4はこれらの遺伝子座では観察されなかった。個々のCNVコールはSNPベースの統計値として割り当てられる。従って、事例がゼロでない値および対照がゼロ値を示す隣接SNPsは、列挙されたCNVRsであるCNVの領域を形成する。試験したSNPは、再現における正確なオーバーラップを確実にするためにCNVR領域の中央のSNPである。
【0073】
【表5】


表5:利用可能な家族データに基づき観察されたCNVsの遺伝的形質。
【0074】
これらの知見の有意性をさらに確立するために、分布の他のテイル(tail)(すなわち対照の中の独占的なCNVRs)を調べた。最初に、3人の肥満症被験者に対する独占性がEAの事例の中で名目上有意な観察を構成したのに対し、本研究での豊富な対照のために、10人のEA対照が同じ有意な閾値に到達するために要求された。このように分析され、独占的な欠失は観察されなかった、そして、EA対照における独占的な重複が4つだけ観察された。しかしながら、これらの重複のいずれも、AA対照では独占的に再現されなかった。このように、これらの対照観察と対照的に、多量の独占的なCNVRsにわたる高い有意性が、EA事例で見られ、AAの事例でも独占的に再現することは、偽陽性ディスカバリー率が12%より低いことを明らかにした。
【0075】
既報の<1%の個人に>500kbのサイズで存在する大型の稀な欠失(Bochukova et al. (2010) Nature 463:666-670)を評価したが、ゲノムワイドの過度の大型の稀な欠失は観察されなかった(表6)。これは、以前の報告が重篤な早期発症肥満症が単独で評価された場合でなく発育遅延の被験者を含む場合の有意性を見出しただけであったと想定すれば、予想外のことではない。
【0076】
【表6】


表6:ゲノムワイドな大型の稀なCNV負荷(load)の比較
【0077】
両方の民族からの事例で独占的な欠失を保有する遺伝子座は、直接的に影響を与えた4つの遺伝子、すなわちS1PR5(endothelial differentiation, sphingolipid;MIM605146)、FOXP2(forkhead box P2;MIM 605317)、TBCA(tubulin-specific chaperone a;MIM 610058)およびABCB5(ATP-binding cassette, sub-family B, member 5;MIM 611785)から成る一方で、2つの欠失がEDIL3(EGF-like repeats- and discoidin I-like domains-containing protein 3;MIM 606018)およびZPLD1(zona pellucida-like domain containing 1)にそれぞれ近接していた。
【0078】
両方の民族からの事例で独占的な重複を保有する遺伝子座は、直接的に影響を与えた4つの遺伝子、すなわちBC073935−CR611653、DNAJC15(DnaJ homolog, subfamily C, member 15)、AGR3(breast cancer membrane protein 11 precursor)およびARL15(ADP-ribosylation factor-like 15)に加えて、9q32の遺伝子クラスターから成った。加えて、2つの重複は、KIF2B(kinesin family member 2B)およびBRDT(testis-specific bromodomain protein)に近接していた。
【0079】
グローバルとローカルの両方の対号IBDは、EDIL3欠失を有する5つの事例の間でゼロに近い低い値を示した;事例間を分ける正確なCNVの分断点は分析の必要なパラメータではなかったが、それは特異的なコピー数多形性が観察されたことを示すものである。両方の民族性からの事例で独占的な重複を保有する2つの遺伝子座は、直接的に影響を与えた1つの遺伝子、即ち、ARL15(ADP-ribosylation factor-like 15)およびKIF2B(kinesin family member 2B)に近接したものから成った。
【0080】
本研究で明らかにされた遺伝子座に保有する遺伝子の大多数が、これまでは肥満症には関わっていないものとされていた。しかしながら、最も顕著な発見はARL15であり、それは、冠状動脈性心疾患および2型糖尿病のより高いリスクとも関係している同じリスクのアレルで、アディポネクチン・レベルのGWA研究において最近明らかにされた(Richards et al. (2009) PLoS Genet., 5:e1000768)。
【0081】
加えて、ヒトForkhead−box(FOX)遺伝子ファミリのメンバーが代謝の形質に強く関係しているとされたが(Katoh et al. (2004) Int. J. Oncol., 25:1495-500)、FOXP2における突然変異がヒトでの発育上の発話障害と言語障害を引き起こすことで最も有名である(Vernes et al. (2008) N. Engl. J. Med., 359:2337-45)。自閉症がEA事例の1つで記録され、ADHDがAA事例の1つ(報告された合併症とで再現された遺伝子座のうちの唯一のもの)で記録されたが、FOXP2のCNVsにより影響を受ける小児には典型的な症候群の所見がなかった。ヒトの言語および発話の成長と小児肥満症との関わりは明白ではないが、発話に関する問題が、社会的孤立の大きな可能性をもたらし、こうして低い活動性をもたらすという仮説を立てることができそうである。実際、この仮説は、はっきりした発話特徴および言語特徴が一般に病的肥満症を呈するプラダーウィリ症候群を有する小児にあるという事実によって裏づけられる(Akefeldt et al. (1997) J. Intellect Disabil. Res., 41:302-11; Kleppe et al. (1990) J. Speech Hear. Disord., 55:300-9)。
【0082】
EA集団をディスカバリーに用いた。なぜならば、このディスカバリー設定で独占的で最も包括的に観察及び確立をするために、利用可能な対照群がこの民族で非常に多かったためである。しかしながら、更なる独占的な遺伝子座の可能性を探索するために、AA集団もディスカバリー集団として分析し、EA集団における再現を試みた(表7)。5つのAA事例に対する独占性が、この集団のより少ない痩せの対照のために、この設定でのディスカバリー段階で名目上の有意性を達成することが必要とされたが、AA事例で独占的であったEPHA6−UNQ6114遺伝子座(MIM 600066;例えば、www.ncbi.nlm.nih.gov/omim/ 600066)での欠失に関する証拠が観察された。
【0083】
【表7】

【0084】
表7:ディスカバリー集団としてのアフリカ系アメリカ集団および再現としてのヨーロッパ系アメリカ人。ヨーロッパ系アメリカ人の事例で独占的に再現されたCNVsを太字で強調した。アフリカ系アメリカ人集団で独占的な最低5つのCNVsが、ディスカバリーにおける名目上の有意性(P0.05)に到達するために必要とされたことに留意すべきである。主として、集団における痩せのヨーロッパ系アメリカ人に対して痩せのアフリカ系アメリカ人のメンバーが少ないためである。
【0085】
【表8−1】

【0086】
【表8−2】


表8:頻度閾値に対するディスカバリーの有意性の正当化(justification)。
【0087】
現在まで、成人での設定における遺伝子座を明らかにするだけの研究では、小児肥満症のGWA研究に関する不足は顕著であり(Frayling et al. (2007) Science 316:889-94; Grant et al. (2008) PLoS ONE 3:e1746; Hinney et al. (2007) PLoS ONE 2:e1361; Dina et al. (2007) Nat. Genet., 39:724-6; Scuteri et al. (2007) PLoS Genet., 3:e115; Loos et al. (2008) Nat. Genet., 40:768-75; Thorleifsson et al. (2009) Nat. Genet., 41:18-24; Willer et al. (2009) Nat. Genet., 41:25-34)、現在まで、症候性形態(syndromic form)とは対照的に非症候性形質(non-syndromic trait)と有意に関係するCNVsを報告した研究はなかった(Bochukova et al. (2010) Nature 463:666-70; Walters et al. (2010) Nature 463:671-5)。このように、本研究は、小児肥満におけるCNVsの最初の大規模な不偏のゲノムワイド・スキャンを意味する。本研究で明らかにさらた遺伝子座は、小児肥満症で初めて独占的に観察され、異なる民族性から独立したケースコントロール・データセットで再現される。この結果は、定評のあるFTO(Frayling et al. (2007) Science 316:889-94; Grant et al. (2008) PLoS ONE 3:e1746; Hinney et al. (2007) PLoS ONE 2:e1361; Dina et al. (2007) Nat. Genet., 39:724-6; Scuteri et al. (2007) PLoS Genet., 3:e115)としての追加の信憑性を与えるものであり、遺伝子座はEA集団においてBMIと肥満症の両方と非常に強い関連性がある(Grant et al. (2008) PLoS One, 3:e1746; Zhao et al. (2009) 2型糖尿病GWAS遺伝子座に関する調査は、小児のBMI.糖尿病に影響を与える遺伝子座としてHHEX−IDEを明らかにする)。興味深いことに、発育遅延を有する極度の症候性小児肥満症において既に報告されたCNVsのいずれとも関連が観察されなかった(Bochukova et al. (2010) Nature 463:666-70)。加えて、NEGR1(MIM613173)に隣接するまたはSH2B1(MIM608937)を包含する既報の共通するCNVはさらに研究されなかった。
【0088】
これらを併せると、全ゲノムを評価するための本件の不偏アプローチは、2つの異なる民族における事例に独占的であって、以前には肥満症という面に直接関係するものはなく、さらなる特徴付けを待つこともなかったCNVsにより影響を受ける新規な遺伝子を明らかにした。更なる機能研究を行い、小児肥満症に関するこれらの遺伝子座でのより完全に遺伝子機能を特徴づけることができる。
【0089】
本発明の好ましい実施形態の幾つかを記載し、以上で具体的に例示したが、本発明がそのような実施形態に限定されることを意図するものではない。添付する特許請求の範囲に記載される本願発明の範囲および意図を逸脱することなく、上記実施形態に様々な改変を施すことができよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体における肥満症の増大したリスクを診断する方法であって、前記被検体から得られた生体試料中の少なくとも1つの遺伝子のコピー数を決定することを含み、
前記遺伝子が、EDIL3、S1PR5、FOXP2、TBCA、ABCB5、ZPLD1、DERA、PNLIPRP1、PRR20A、BC015432、CDS2、CACNA2D4、LRTM2、CENTD1、KIF2B、BC073935、CR611653、BRDT、DNAJC15、AGR3、DFNB31、COL27A1、AKNA、ATP6V1G1、ORM1、ORM2、C9orf91、ARL15、PKD1L2、BCMO1、MICB、COMT、SLCO1A2、NXPH1、EGFL11、NAALADL2、GPR98、PCDH20、BC048997、AK091626、APOB、RPAP3およびEPHA6からなる群より選択され、
少なくとも1つの前記遺伝子のコピー数におけるバリエーションの存在が、該ヒトにおける肥満症の増大したリスクの指標である、前記方法。
【請求項2】
遺伝子が、EDIL3、S1PR5、FOXP2、TBCA、ABCB5、ZPLD1、KIF2B、BC073935、CR611653、BRDT、DNAJC15、AGR3、DFNB31、COL27A1、AKNA、ATP6V1G1、ORM1、ORM2、C9orf91およびARL15からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
遺伝子が、EDIL3、S1PR5、FOXP2、KIF2B、ARL15およびDNAJC15からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コピー数におけるバリエーションが欠失である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記コピー数におけるバリエーションが重複である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
肥満症の処置のための治療試薬を同定する方法であって、以下の工程:
a)少なくとも1つのコピー数バリアントを発現する細胞を提供すること、ここで、前記コピー数バリアントが、EDIL3、S1PR5、FOXP2、TBCA、ABCB5、ZPLD1、DERA、PNLIPRP1、PRR20A、BC015432、CDS2、CACNA2D4、LRTM2、CENTD1、KIF2B、BC073935、CR611653、BRDT、DNAJC15、AGR3、DFNB31、COL27A1、AKNA、ATP6V1G1、ORM1、ORM2、C9orf91、ARL15、PKD1L2、BCMO1、MICB、COMT、SLCO1A2、NXPH1、EGFL11、NAALADL2、GPR98、PCDH20、BC048997、AK091626、APOB、RPAP3およびEPHA6からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子である;
b)工程a)の細胞を、被検試薬と接触させること;および
c)前記試薬が、前記遺伝子の活性を調節するかどうかを決定すること、ここで、野生型の活性に対するコピー数バリアントの活性の調節が治療試薬の指標である、
を含む、前記方法。
【請求項7】
工程a)の細胞が非ヒト動物におけるものである、請求項6に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−520201(P2013−520201A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555077(P2012−555077)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【国際出願番号】PCT/US2011/025687
【国際公開番号】WO2011/106310
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(301040958)ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア (3)
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
【Fターム(参考)】