説明

育苗用給水材及びこの給水材を使用した育苗ポット

【課題】育苗ポット等の苗を健苗状態のまま保管・輸送することができる育苗用給水材及び育苗ポットを提供する。
【解決手段】育苗中の苗に供給する水とこの水を保持する給水材材料とからなる給水材であって、電気伝導率が0.3〜10mS/cmである育苗用給水材である。上記給水材材料としては、界面活性剤や水溶性高分子などが挙げられ、また、ゲル形成能もしくは増粘作用を有することが好ましい。また、給水材には、電気伝導率を調整するために無機塩を含有させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、育苗ポット等の苗を健苗状態のまま保管または輸送できるように苗に給水するための育苗用給水材、及びこれを使用した育苗ポットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、花や野菜苗などの育苗は個々の農家による生産が主体であった。近年、農業の近代化、さらに農家の老齢化等も加わって、セルトレイを中心としたポット育苗体系が確立され、苗生産が農業協同組合や農家の集合体および苗生産業者に移行してきた。そして、苗の安定供給が可能となった現在において、苗生産とその後の栽培との分業化が急速に進んでいる。
【0003】
その反面、苗生産の分業化は、天候不良などの環境条件によって圃場の作業が計画通り進行しないと定植が遅延することから、苗に貯蔵性が求められるという問題点を抱えている。
【0004】
また、ガーデニングを支える苗販売でも、計画通りに販売が進まないと、スーパーや小売販売の店頭で苗は何日かを過ごすことになる。この場合、管理者は1日何回かの潅水によって販売する苗の維持を図っているが、苗は軟弱化してしまうのが通例である。
【0005】
また、育苗場と利用者である植付け圃場あるいは苗販売店との距離が離れていることが多く、苗輸送中における育苗ポットの培土の乾燥、それに伴う苗の萎れや、輸送中に育苗ポットを収納するトレイから育苗ポットが飛び出し転倒することによって苗が損傷するなど、改善すべき問題点が多い。
【0006】
そのため、育苗業者は軟弱を避け、極力乾燥に耐え得る水切り育苗に努めているが、それが店頭での健苗貯蔵につながっていないのが現状である。
【0007】
これらの問題を解決するため、育苗ポットを給水容器に搭載し、該給水容器に充填された給水材により育苗ポットに給水する方法が提案されており、このような給水材として有機または無機の保水ゲル等が用いられている。
【0008】
例えば、給水材として粘度の高い有機ポリマー水溶液をゲル化して用いる手法(特開平8−134447号公報、特開平10−14423号公報、特開平11−151041号公報)、育苗ポットの底部に密封槽を設けて水分を含む有機ポリマーなどを充填する手法(特開平9−248066号公報)、無機系ゲル形成材に温水(40℃)を加え給水容器内で瞬時(30秒内)にゲル化する方法(GB2,310,352A)などがある。
【0009】
また、本発明者らによって先に提案された方法として、育苗ポットを搭載して給水する給水床を、水ガラスの水希釈液をゲル状に固化してなる給水材で形成する方法がある(特開2001−78597号公報)。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、育苗中の苗の健苗状態での保管または輸送を一層効果的に達成することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記従来技術の改良を目的として鋭意検討していく中で、給水材の電気伝導率をある一定の範囲内にすることにより、育苗中の苗を一層効果的に健苗状態のまま保管または輸送できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の育苗用給水材は、育苗中の苗に供給する水とこの水を保持する給水材材料とからなる給水材であって、電気伝導率が0.3〜10mS/cmであることを特徴とする。
【0013】
上記給水材材料としては、界面活性剤や水溶性高分子などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。また、給水材材料は、ゲル形成能もしくは増粘作用を有することが好ましい。給水材には、電気伝導率を調整するために無機塩を含有させてもよい。
【0014】
本発明の育苗ポットは、上記した育苗用給水材を使用したものであり、具体的には、該給水材を給水容器に入れ、該給水容器に育苗ポットを搭載してなる給水容器付きの育苗ポットや、該給水材を育苗ポット内の培養材に吸収させた育苗ポットが挙げられる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0016】
本発明の育苗用給水材は、電気伝導率(EC)が0.3〜10mS/cmとなるように、その塩濃度が調整されたものである。かかる範囲内に電気伝導率を設定することで所期の目的が達成される理由は、定かではないけれど以下の通りに考えられる。すなわち、給水材の電気伝導率が10mS/cm以下であると、苗はその地上部における気孔の閉鎖により水分の蒸散を抑制し結果的に水分保持能力が向上する。電気伝導率の好ましい下限は1mS/cmであり、好ましい上限は8mS/cmである。
【0017】
本発明において給水材材料としては、育苗中の苗に供給する水を保持できるものであれば、特に限定されないが、具体的には、界面活性剤、水溶性高分子などが挙げられ、これらは単独で用いても併用してもよい。
【0018】
界面活性剤としては、具体的には、非イオン性やアニオン性の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤を添加することは培養土への給水性能を向上させ、また培養土の保水性を向上させることができる。
【0019】
ここで、非イオン性界面活性剤としては、高級アルコール、アルキルフェノールもしくはポリプロピレングリコールなどにエチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加してなるアルキレンオキサイド系界面活性剤、グリセリン、ソルビタンもしくはショ糖などを高級脂肪酸でエステル化してなるエステル系界面活性剤、このエステルに更にエチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加してなるアルキレンオキサイド付加エステル系界面活性剤などが挙げられる。また、アニオン性界面活性剤としては、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸などのスルホン酸系界面活性剤、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩もしくは高級アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩などの硫酸エステル塩系界面活性剤が挙げられる。
【0020】
水溶性高分子としては、具体的には、カルボキシメチルセルロース塩(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、デンプン、アルギン酸ナトリウム塩、キサンタンガム、ジェランガム、ポリエチレングリコール(PEG)などが挙げられる。水溶性高分子を添加することは培養土の保水性を向上させ、また培養土の保形性を向上させることができる。
【0021】
本発明において給水材材料としては、ゲル形成能もしくは増粘作用を有するものが好ましい。より好ましくは、ゲル形成能を持ち、給水材を保水ゲルとしてゲル状に固化させることができるものである。ゲル状に固化した給水材であると、苗への給水のみならず、育苗ポットの転倒防止効果も果たさせることができる。
【0022】
本発明の育苗用給水材においては、電気伝導率を調整するために無機塩を添加してもよい。無機塩としては、塩化ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどが挙げられる。
【0023】
本発明の育苗用給水材においては、また、酢酸アルミニウムのような有機塩、四ホウ酸ナトリウムのようなPVA等の水溶性高分子をゲル化させるためのゲル化剤、着色剤、肥料、栄養剤、成長促進剤、酸素発生剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0024】
本発明の育苗ポットは、以上説明した育苗用給水材を用いてなるものであり、第1の実施形態では、上記給水材を給水容器に入れ、該給水容器に育苗ポットを搭載してなる。この場合、給水材の保持する水は、育苗ポットの底部に設けられた給水用開孔から育苗ポット内の培養材に供給される。
【0025】
ここで、育苗ポット及び給水容器としては、特開2001−78597と同様のものを用いることができる。すなわち、育苗ポットは、培養材(培土)が充填される鉢部を有し、苗が植えられるものであれば特に限定されず、通常市販されているものを用いることができる。また、給水容器は、育苗ポットを搭載可能な底板を有し、育苗ポットの少なくとも底部が給水材中に埋まる有底の容器であれば特に限定されない。
【0026】
第1の実施形態においては、給水材がゲル状に固化しており、これにより、給水容器内に給水床としての保水ゲルが形成され、この保水ゲル中に育苗ポットの少なくとも底部が埋まった状態となっていることが好ましい。このようにゲル化により育苗ポットを給水容器に固着することで輸送中の飛び出しや転倒を防止することができる。
【0027】
なお、給水材が固化するまでの時間や固化後の硬度は、給水材材料の種類、水に対する配合比率、水の塩濃度、その他の添加物の種類及び量などにより調整することができる。そのため、使用に際しては、得ようとする給水材の硬度や作業時間を勘案の上、これらを選択すればよい。給水材が固化するまでの時間は、作業者の作業性という観点より0.5〜5時間に設定することが好ましい。
【0028】
ここで、給水容器への育苗ポットの搭載は、特開2001−78597と同様、給水材の固化前には限られず、固化直後であってもよく、また、給水材を給水容器に入れる前に育苗ポットを搭載しておいてもよい。
【0029】
第2の実施形態の育苗ポットは、上記給水材を育苗ポット内の培養材に吸収させたものである。第2の実施形態においても給水材がゲル状に固化していることが好ましく、これにより、育苗ポット内には給水床としての保水ゲルが形成される。具体的な方法としては、特願2001−69172の記載と同様の方法を採用することができ、育苗ポットに、予め土、砂、繊維またはその他の充填物からなる培養材を積載・充填しておいた後、該育苗ポットの底部を固化前の給水材に浸漬して、育苗ポット内の底部の培養材に給水材の液体を吸収させ、その後給水材をゲル状に固化させればよい。なお、第2の実施形態では、保管または輸送中の育苗ポットに上面散水(株元への灌注)してもよく、これにより、培養材を浸透して通常であれば底面から排出される余剰の水を育苗ポット中の給水材に吸収保持させて、該給水材から植物への長期間にわたる給水を行うことができる。
【0030】
第2の実施形態の場合、給水容器を不要とすることができ、その分コストを削減することができるとともに、保管及び輸送のためのスペースを削減することができる。また、植物の根部付近に設けた保水ゲルから給水を行うことができるので、植物に対する給水効率が高く、最小限の量の保水ゲルにより十分な給水を行うことができる。
【0031】
【実施例】
以下、実施例をもって本発明を説明するが、これによって本発明を限定するものではない。
【0032】
育苗ポットとして200個のセル(縦横2.5cm角、高さ5cmの角形セル)を有するセルトレイ200穴を用い、各セルに培養土を充填してハクサイを育苗した。
【0033】
これとは別に、下記表1に示す配合にてNo.1〜7の給水材を調製した。詳細には、給水材材料を水中に添加して均一に撹拌溶解し、この液状の給水材を縦65cm×横35cm×高さ4cmの平底プラスチック製の給水容器に移した。
【0034】
次いで、上記で育苗したセルトレイをその底部が給水材中に浸漬するように給水容器上に搭載し、常温で放置して給水容器付き育苗ポットを作製した。その際、No.2及び4の給水材についてはゲル状に固化した。
【0035】
また、上記のNo.1〜7の各給水材について別途に電気伝導率を測定した。その際、ゲル状に固化するものについては給水材を常温で固化させ、固化した給水材の電気伝導率を測定した。電気伝導率は、堀場製作所製の導電率計「DS−12」を用いて測定した。
【0036】
得られた給水容器付き育苗ポットに対し、給水性能試験を行った。すなわち、育苗ポットをビニールハウス内に設置し、経日による苗の状況を観察し、萎れ始めた日を調べた。結果を表1に示す。なお、給水容器に液体を何も入れてないもの(水なし)では、3日目で苗が萎れ始めた。
【0037】
【表1】



【0038】
【発明の効果】
以上の結果から明らかなように、本発明によれば、給水材の電気伝導率を0.3〜10mS/cmとしたことにより、育苗中の苗の健苗状態を一層効果的に保持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
育苗中の苗に供給する水とこの水を保持する給水材材料とからなる給水材であって、電気伝導率が0.3〜10mS/cmであることを特徴とする育苗用給水材。
【請求項2】
前記給水材材料が、界面活性剤及び水溶性高分子からなる群より選ばれた少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1記載の育苗用給水材。
【請求項3】
前記給水材材料がゲル形成能もしくは増粘作用を有することを特徴とする請求項1記載の育苗用給水材。
【請求項4】
無機塩を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の育苗用給水材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の育苗用給水材を入れた給水容器に搭載したことを特徴とする育苗ポット。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の育苗用給水材を育苗ポット内の培養材に吸収させたことを特徴とする育苗ポット。

【公開番号】特開2004−81165(P2004−81165A)
【公開日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−249785(P2002−249785)
【出願日】平成14年8月28日(2002.8.28)
【出願人】(594003104)株式会社テイエス植物研究所 (5)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)