説明

胃排出を評価するための方法及びシステム

胃排出分類システム、ディスプレイ、胃排出データを分類するための方法、患者を治療する方法、及び胃排出分類システムを明らかにする方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年12月21日に出願した米国仮出願第61/016011号に対する優先権を請求し、これはさらに2007年5月10日に出願した米国仮出願第60/917202号に対する優先権を請求するものであり、これら各々の全ての内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
一般的に食物の処理と利用には、消化管により達成される5つの機能がある。これらには、運動、分泌、消化、吸収及び排出の機能がある。食物の処理は口腔内で開始され、ここで食物は、咀嚼、唾液による潤滑化、及び唾液中に存在するアミラーゼによる酵素的処理により機械的に解体される。処理は胃内でも継続し、ここで食物は、キームスを作製するように胃内を覆う細胞から分泌される胃液及び酵素により液化される。キームスは、肝臓から作られる胆汁塩及び膵臓から作られる消化酵素によるさらなる処理のために、幽門括約筋を介して小腸に進入する。小腸は、その壁を通してキームスからほとんどの成分を吸収し、大腸はその後小腸で吸収されなかった成分を処理する。最終的に大腸は、老廃物を結腸に押し出し、これらは腸運動により便が排出されるまで通常1日か2日の間そこに留まる。
【0003】
食物を処理及び消化するのに異常に長時間かかる人、又は食物の処理が非常に速い人がいる。この異常な胃腸機能は、胃の障害か胃以外の障害のいずれであるかに関係なく、消化管に影響を及ぼす障害の原因となり得る。通常、障害は胃で発生し、食物を胃から小腸へ非常に速く排出させるか、非常に長時間経過後に排出させる原因となる。胃排出障害(運動不全)は、食事が胃から排出され小腸に進入する速度(胃排出時間)を測定することにより診断できる。その速度が加速されると、摂取された食物が早期に胃から小腸へ放出され、「急速排出(rapid emptying)」又は別名ダンピング症候群と呼ばれる症状を発症する。反対に速度が減速されると、摂取された食物の胃から小腸への動きが遅延し、「遅延排出(delayed emptying)」又は別名胃不全麻痺と呼ばれる症状を発症する。
【0004】
胃排出速度を測定するための2つの既知の検査としては、定量的なシンチグラフィー検査と胃排出呼気検査(GEBT)がある。シンチグラフィー検査では、患者は、食物の成分が放射標識された食物を少なくとも1種含む食事を摂取する。標識食物が胃から排出される際に、放射性標識物からのガンマ線放射をシンチレーションカメラで測定する。胃に残存する放射標識された食事から発生するガンマ放射をカメラが直接測定するため、胃排出のシンチグラフィー測定は直接的である。呼気検査では、患者は、非放射活性マーカー又は標識、例えば炭素の安定な非放射活性同位体である炭素13(13C)を含む食事を摂取する。非放射活性標識された食物が消化管で処理されると、患者の呼気中に検出される、例えば13CO2等の標識成分が作られる。シンチグラフィーとは対照的に、呼気検査を用いる胃排出の測定は間接的である。両タイプの検査の結果は、胃不全麻痺又は加速排出のいずれかについて、陽性(異常)又は陰性(正常)のいずれかであると解釈される。従って検査の結果は二分した観点から見られる。
【0005】
特定の実施態様は、異常領域、境界領域、及び正常領域を含む診断的胃排出分類システムを提供し、ここで異常領域は、遅延排出領域又は急速排出領域のいずれかであり、各々の異常領域、境界領域、及び正常領域は、健常患者からの胃排出測定、及び健常被験者と軽度の障害を持つ被験者における、被験者内の正常な日々の生物変動の測定を用いて明らかになった。
【0006】
その他の実施態様は、胃排出の結果を図示するためのディスプレイを提供する。このディスプレイは一連の時点と、一連の時点の中の各時点に関連する胃排出分類システムを含み、かかる胃排出分類システムは、異常領域、境界領域、及び正常領域を含んでなり、ここで異常領域は、遅延排出領域又は急速排出領域である。
【0007】
さらなる実施態様は、患者の胃排出機能を評価するための方法を提供し、この方法は、患者に胃排出検査を実施するステップ、少なくとも1の所望の時点で胃排出測定値を得るステップ、胃排出測定値を分類するステップを含み、かかる分類は異常領域、境界領域、又は正常領域からなる群から選択される診断領域に胃排出測定値を分類するステップを含んでなり、ここで異常領域は遅延排出か急速排出のいずれかであるとともに、各々の異常領域、境界領域、及び正常領域は、健常患者からの胃排出測定、及び健常被験者と軽度の障害を持つ被験者における、被験者内の正常な日々の生物変動の測定を用いて明らかになったものである。
【0008】
その他の実施態様は、患者を治療する方法を提供し、これは患者に胃排出検査を実施するステップ、少なくとも1の所望の時点で胃排出測定値を得るステップ、当該所望の時点で胃排出測定値を分類するステップ、及び選択された領域に適する治療措置のレベルを選択するステップを含み、前記分類は異常領域、境界領域、及び正常領域からなる群から選択される1又は複数の診断領域に胃排出測定値を類別することを含んでなり、ここで異常領域は遅延排出か急速排出のいずれかであるとともに、境界領域は、遅延排出境界領域か急速排出境界領域のいずれかである。前記選択は、正常領域が選択される場合には措置を行わないことを選択すること、遅延排出境界領域が選択される場合には遅延排出の穏和な措置又は遅延排出の積極的な措置を選択すること、遅延排出領域が選択される場合には遅延排出の積極的な措置又は遅延排出の非常に積極的な措置を選択すること、又は急速排出領域が選択される場合には急速排出の積極的な措置又は急速排出の非常に積極的な措置を選択すること、を含むことができる。
【0009】
その他の実施態様はさらに、胃排出領域分類システムを明らかにするための方法を提供し、かかる方法は一連の健常患者で異内容排出検査を実施するステップ、所望の時点でその健常患者の胃排出の測定値を得るステップ、前記所望の時点の基準範囲を形成する胃排出測定値を用いるステップ、正常胃排出測定値を異常胃排出測定値から区別するためのカットオフ点として基準範囲の上方フラクタイル又は下方フラクタイルを使用するステップ、被験者内の生物変動測定値を得るために前記所望の時点で健常患者及び軽度の障害を持つ患者の日々の被験者内生物変動を測定するステップ、並びに正常領域、境界領域、及び異常領域を計算するステップを含み、ここでかかる境界領域は被験者内生物変動測定を用いてカットオフ点周辺で計算される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1a】図1aは、健常患者と、遅延胃排出と一致する症状及び/又は病歴を示す患者の両方で観察されたシンチグラフィーでの胃排出測定値の、単峰の略ガウス分布を示すグラフである。
【図1b】図1bは、健常患者と、遅延胃排出と一致する症状及び/又は病歴を示す患者の両方で観察された呼気検査での胃排出測定値の、単峰の略ガウス分布を示すグラフである。
【図2a】図2aは、特定の検査の時点で遅延排出、遅延排出境界、及び正常に分類される患者のディスプレイのある実施態様である。
【図2b】図2bは、特定の検査の時点で急速排出、急速排出境界、及び正常への患者分類のディスプレイのある実施態様である。
【図2c】図2cは、特定の検査の時点で急速排出、急速排出境界、正常、遅延排出境界、及び遅延排出への患者分類のディスプレイのある実施態様である。
【図3】図3は、経時でのGEBT結果のグラフである。
【図4】図4は、経時でのGEBT結果のグラフであり、3人の患者での胃排出測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
出願人は、既知の胃排出方法を用いて広範に及ぶ研究を実施し、胃排出は、二分法(単純な陽性又は陰性)アプローチよりも、領域アプローチで最良の分類がなされることを発見した。胃排出測定に関しては歴史的及び普遍的に二分法での分類がなされており、二分法の検査に関連する問題点、及び多区分法の領域アプローチを用いることの利点は知られておらず、診断結果としての領域アプローチを使用することに、当業者は想到しなかった。さらに、従来の研究では領域アプローチは最良の機能する可能性を示す十分なデータが明らかにされておらず、どのように当該領域を決定すべきか知られていなかった。
【0012】
多くの他の診断検査とは異なり、胃排出の測定には従来述べられていない複雑な問題が存在する。第一に、健常で正常な基準被験者に対して、胃運動不全の患者、例えば遅延胃排出の症状の患者で観察された胃排出速度の分布は、重複し、別々の独立した分布を形成しない。これは疾患の有る者及び無い者を区別する点で、複雑性及び不確実性を生じさせる。第二に、診断分類、胃排出生理学で発生する、顕著で自然な被験者内の日々の生物変動によりさらに複雑化される。
【0013】
出願人は、例えば胃不全麻痺などの胃運動不全の症状を示す患者における、胃排出速度(例えば、呼気検査又はシンチグラフィー検査のいずれか)は、速度0から、健常な障害のない患者で観察されるものと同じ速度、及びかなり速い速度の範囲まで、排出速度の単様式分布になることを発見した。この患者の値についての単峰の略ガウス分布は、それ自身もまた実際には単峰の略ガウス分布である、健常な(基準)被験者において観察される値の分布と完全に重複する。この状況では、結果を2つの単純なカテゴリー、つまり陽性又は陰性に単純に二分することは適切ではない。ただし、有病者 対 無病者の検査結果の頻度分布が明らかに分離している場合は、二分する分類(陽性又は陰性)は十分に適切である。例えば、バクテリウム・ヘリコバクター・ピロリに感染した患者は、13炭素呼気検査(H.ピロリ用の13C−尿素呼気検査)で感染を検査できる。感染者対非感染者でのこの呼気検査の値は、完全に分離した分布であり重複がない。別の例としては、妊娠 対 非妊娠の被験者がある。これらの分布は重複しないため、単純なカットオフ点の使用により、当該患者を陽性又は陰性のいずれかに一義的に分類できる。胃排出測定の場合はこれに該当しない。
【0014】
患者 対 正常で健常な被験者における胃排出速度の分布における重複の例は、図1a及び図1bのいずれにおいても示されている。この図は、胃シンチグラフィーの方法(図1a)及び呼気検査の方法(図1b)により、健常で正常な(基準)個体の群で観察された胃排出の速度と比較して、胃不全麻痺を検査した115人の患者において観察された胃排出速度を示すものである。全115人の患者における胃排出の速度は、実質的に速度0から、正常で健常な(基準)個体で観察された排出速度まで、幅広い範囲に及んだ。線10は、胃不全麻痺の症状を示し、臨床的に罹患した疑いのある115人の患者における胃排出速度の分布を示し、一方、線20は、正常で健常な(基準)個体の群で観察された胃排出速度の分布を示す。影をつけた領域30で示される、大きな重複領域に留意されたい。患者における胃排出速度の分布は単峰型で、且つ実際は略ガウス分布であるとともに、分布の大部分が健常な(基準)被験者において観察された速度の分布と重複しているため、患者の特徴付け及び臨床的管理のための単純な二分法アプローチは、遅延胃排出の評価として不適切であり、臨床的な現実と一致しない。
【0015】
さらに、115人の患者のうちかなりの人数が、図1A及び1Bにおける線40で示される単純な二分カットオフ点(COP)の値又はその周辺の値の胃排出速度であった。COPは、正常胃排出を低速胃排出から区別し、正常で健常な(基準)患者において得られた測定から定められる。患者の分布中この領域は非常に人数が多く、これらの患者について、診断的及び治療的介入を幾分わかり難いものとしている。例えば、90分の時点で、シンチグラフィー法で定めた正常胃排出速度の下限は、図1aで示した通り49.4%排出である。49.4%の値の患者を正常で治療不要と分類するのに対し、49.3%の値の患者を陽性で治療必要として分類することは、臨床的に非現実的である。
【0016】
胃排出の結果の解釈を特に困難にさせる第二の問題は、胃運動性における、顕著で自然な被験者内の時間に関連する生物変動についての交絡要素である。任意の個体において、通常胃運動性は日常的に、且つ一日を通しても大きく変動する。従って、同じ被験者における胃排出検査の個々の結果は、一日の間でも、日によっても変動するだろう。この正常な生物変動は、胃排出検査、特に反復検査の結果の解釈を、天然の生物変動性が少ないか、全くない他の種類の検査の解釈よりも困難にさせる。
【0017】
患者において観察される、二分COPの値又はその周辺値の胃排出速度は、胃排出生理学における、この自然で日常的な被験者内生物変動のために、非常に診断としては不確実になるだろう。当初の結果がCOP領域付近である同じ患者の反復検査は、単に生物変動のために、前の診断分類とは結果が逆転する可能性がある(正常 対 低速、逆も同様)。不確実性の量は、被験者内生物変動の予測的に集められた測定を利用することにより、定量化できる。測定されると、観察された生物変動の度合いを利用する二分COP付近で、境界領域を独自に構築できる。
【0018】
出願人は、胃内容排出の測定に関して、重複分布の問題に対処し、胃排出データを類別するための方法を開発した。さらに出願人は、被験者内の日常的な顕著な生物変動を測定し、胃排出の結果を分類する多区分領域のアプローチを構築するために、観察された生物変動の量を独自に利用した。当該分類システムは、診断確実性を向上させ、治療的介入のためのより多大な明確性を提供する。
【0019】
出願人は、当該境界領域を考慮するとともに、シンチグラフィー検査法にも呼気検査法にも適用できる胃排出データを類別するための方法を開発した。
【0020】
すなわち、いくつかの実施態様は、胃分類システム及び胃排出データを分類する方法を提供する。分類システムには、診断領域が含まれ、これは当該領域が検査結果を解釈するために特に有用になるよう、自然な生物変動を考慮する。いくつかの事例によれば、分類システムには、異常領域、境界領域、及び正常領域が含まれる。前記異常領域は、急速排出領域又は遅延排出領域があり得る。その他の事例によれば、分類システムには急速排出領域、境界急速領域、正常領域、境界遅延排出領域、及び遅延排出領域が含まれる。この多区分の分類システムは、臨床的現実と一致する患者の運動性の状況のより正確な分類を提供するだけではなく、生物変動を踏まえて検査結果を適切に管理するように当該領域を作り出すこともできる。多くの場合、健常患者の胃排出測定値及び生物変動測定値を用いて計算する。
【0021】
診断領域分類システムはまた、1又は複数の時点での胃排出測定値を分類する。いくつかの事例によれば、かかる1又は複数の時点には、選択した食事の排出特徴によるが、45分、90分、120分、150分、及び/又は180分がある。
【0022】
分類される胃排出検査は、当業界で既知の任意の検査を用いることができる。いくつかの事例によれば、検査はシンチグラフィー検査であり、分類システムはシンチグラフィー測定値を分類する。シンチグラフィー検査は、当業界で既知の方法で実施できる。いくつかの事例によれば、シンチグラフィー検査は、シンチグラフィー標識を含有する食事を患者に供給することにより施される。シンチグラフィー標識は、当業界で既知の標識で、例えば99mTc硫黄コロイド(テクネチウム)等を用いることができる。いくつかの事例によれば、99mTc硫黄コロイドが約0.5mCiの用量で食事中に含まれる。
【0023】
食事は、ヒトの消費に適する任意の食物タイプを用いることができる。本明細書で「食事」なる用語は、一回の食事で摂取される任意の数の食物成分のことを言う。一回の食事は、時点を指定でき、おそらく30分、20分、又は10分未満の期間である。多くの場合、食事には主食成分と任意の副食及び液体が含まれる。特定の事例によれば、食事には、標準化、フリーズドライ化又は凍結乾燥した成分由来の成分が含まれる。好適なフリーズドライ化成分としては、米国特許出願第10/435,092号があり、その全内容が参照により本明細書中に組み込まれる。ある実施態様によれば、食事には、凍結乾燥卵由来の成分が含まれる。ある特定の実施態様によれば、食事には、再構成され、99mTc硫黄コロイドを添加された凍結乾燥全卵が含まれる。特定の実施態様によれば、食事には、99mTc硫黄コロイドを伴う卵、パン、及びミルク、又は99mTc硫黄コロイドを伴う卵、クラッカー又及び水が含まれる。特定の事例によれば、食事には、99mTc硫黄コロイドを伴うスクランブルエッグ、一切れの小麦パン、及び8オンスのスキムミルクが含まれる。
【0024】
シンチグラフィー検査を分類する方法及びシンチグラフィー領域分類システムを使用する例をここで記載する。好ましくは患者は、検査が施される前にある一定期間、例えば少なくとも8時間絶食する。さらに、好ましくは患者は、検査前1時間までに約4液量オンス以上の水を飲むことを控える。患者はシンチグラフィー標識を含む食事を与えられる。
【0025】
食事を消費すると、食事の動き及び胃の外部のシンチグラフィー標識を記録するために、患者の腹部にガンマ放射カメラを設置する(背面及び腹面のガンマ放射カメラが使用される)。カメラは、異なる時点、おそらく45、90、120、150、180、及び240分の時点でのシンチグラフィー標識からのガンマ放射のスキャンを取り、各時点での胃排出測定を決定する。
【0026】
シンチグラフィー検査測定は、当業者に既知の任意の測定法を用いて表現できる。いくつかの事例によれば、シンチグラフィー測定はProptとして表現され、これは所与の時間tでの胃から排出される標識の比率である。注目の区域が、各時点の腹面及び背面画像上の腹部周辺で描かれる。減衰を補正するために、各カウントを乗じ、得られた値の平方根から相乗平均を得る。他の事例によれば、シンチグラフィー測定はt1/2で表され、これは食事の半排出時間を計量的に表すものである。ここで、胃排出は、指数モデルで数学モデル化され、ここから診断結果t1/2を計算する。
【0027】
各時点でのシンチグラフィー検査測定を決定すると、これらは診断領域に分類される。領域は、異常領域、境界領域、及び正常領域からなる群から選択される。異常領域は、遅延排出領域又は急速排出領域とすることができる。特定の事例によれば、かかる領域は急速排出領域、境界急速排出領域、正常領域、境界遅延排出領域、及び遅延排出領域からなる群から選択される。出願人は、ある特定の胃排出分類システムを計算した。この分類システムは、表1に示され、低速又は遅延胃排出の恐れのある患者を分類するために使用できる。この分類システムにおけるかかる領域は、以下に詳しく記載するように、健常被験者における胃排出の正常生物変動を考慮する。この例字的な3つの領域分類を、卵及び放射活性99mTc硫黄コロイド含有の225kCalの標準化食事の投与が行われる、シンチグラフィー検査と組み合わせて使用するよう設計する。分類システムではまた、正常な患者が10分以内で全食事を摂取し、健常被験者においては、全食事は約180分(3時間)で排出されると仮定する。
【0028】
【表1】

【0029】
患者の各時点でのシンチグラフィー測定は、3つの領域の1つに分類される。臨床医は、1又は複数の時点で観察及び分類できる。例に従って、ここでは120分(2時間)時点での患者の結果の分類について記載する。患者が120分時点で食事の<56.1%を排出した場合、患者は遅延排出を患っており、胃疾患であるとみなされる。かかる値が低くなればなるほど、胃排出の速度が遅くなり、0の場合は、完全に非機能的(運動性のない)胃である。同様に、患者が120分で食事の>79.5%を排出した場合、胃排出速度は正常であるとみなされる。最後に、患者が120分で56.1%〜79.5%の間で排出した場合、胃排出は境界であるとみなされる。
【0030】
いくつかの事例では、45分、90分、120分、150分、及び/又は180分の時点でのシンチグラフィー検査測定値を分類する方法を提供する。分類には、(1)45分の時点での、シンチグラフィー検査測定値が6.3%未満の排出の場合、遅延排出領域を選択し、シンチグラフィー検査測定値が6.3〜29.9%の排出の場合、境界領域を選択し、及びシンチグラフィー検査測定値が29.9%超の排出の場合、正常領域を選択し、(2)90分の時点での、シンチグラフィー検査測定値が36.2%未満の排出の場合、遅延排出領域を選択し、シンチグラフィー検査測定値が36.2〜62.6%の排出の場合、境界領域を選択し、及びシンチグラフィー検査測定値が62.6%超の排出の場合、正常領域を選択し、(3)120分の時点での、シンチグラフィー検査測定値が56.1%未満の排出の場合、遅延排出領域を選択し、シンチグラフィー検査測定値が56.1〜79.5%の排出の場合、境界領域を選択し、及びシンチグラフィー検査測定値が79.5%超の排出の場合、正常領域を選択し、(4)150分の時点での、シンチグラフィー検査測定が67.0%未満の排出の場合、遅延排出領域を選択し、シンチグラフィー検査測定値が67.0〜87.8%の排出の場合、境界領域を選択し、及びシンチグラフィー検査測定値が87.8%超の排出の場合、正常領域を選択し、又は(5)180分の時点での、シンチグラフィー検査測定値が79.4%未満の排出の場合、遅延排出領域を選択し、シンチグラフィー検査測定値が79.4〜95.6%の排出の場合、境界領域を選択し、及びシンチグラフィー検査測定値が95.6%超の排出の場合、正常領域を選択することを含む。
【0031】
いくつかの事例では、患者の結果が3つの領域の1つに分類されるだけでなく、その結果が領域内で分類されることもある。各領域は、低領域内、中領域内、及び高領域内等の領域内分類をすることができる。例えば、結果が遅延排出領域に類別される場合、その結果はその後、低領域内(非機能胃の近傍)、高領域内(境界領域の近傍)、又は中領域内として示すことができる。例えば、120分の時点での55%の結果は最初に遅延排出領域に分類され、その後高領域内に分類される。同様に、120分の時点での57%の結果は、最初に境界領域に分類され、その後低領域内に分類される。また、67%の結果は、最初に境界領域に分類され、その後中領域内に分類される。最後に、81%の結果は、最初に正常領域に分類され、その後低領域内に分類される(又は単に正常領域に分類される)。
【0032】
表1に示した基準範囲は、調整及び変化でき、例えば異なる組成物の新規な食事が開発された場合等である。当業者は、いかなる基準範囲(及び境界領域)が得られ、新たなデータを用いてそれを作れることを理解するであろう。さらに、呼気検査及びシンチグラフィー検査(例えばt1/2測定)の測定値を分類する他の機序は、正常、境界、又は異常の結果に患者を分類するために使用できる。
【0033】
全ての時点の領域(及びおそらく領域内分類)が決定されると、分類は有用な形式で表現できる。いくつかの実施態様によれば、得られた分類を、読み易いディスプレイで表示でき、例えば図2a〜2cに示すディスプレイの例がある。図2aは、異常(遅延)排出、境界遅延排出、及び正常の分類を示すディスプレイである。図2bは、異常(急速)排出、境界急速排出、及び正常の分類を示すディスプレイである。図2cは、急速排出、境界急排出、正常、境界遅延排出、及び遅延排出の分類を示すディスプレイである。ディスプレイを、コンピュータ・スクリーンで見るためのコンピュータ化された形式、及び/又は結果の印刷物として提供できる。また、当該ディスプレイを、呼気検査又はシンチグラフィー検査等の胃排出検査の任意の型で得られるデータのために利用できる。
【0034】
図2a〜2cに示す通り、各時点での患者の結果は、領域の範囲内と領域内の範囲内の両方がある。本質的には、結果が単に特定の領域内に含まれないが、その領域の範囲内のどこにでも表示され得るような患者の結果を表示する範囲を、各分類が提供できる。例えば、境界遅延排出では、結果は、胃不全麻痺の近傍又は正常の近傍又はその間のものとして表示され得る。ディスプレイは、正常の結果で、境界遅延排出の近傍、又は境界遅延排出及び境界急速排出の間、又は境界急速排出の近傍のいずれからも結果が得られることを示すこともある。図示したディスプレイにおいて、各領域の中で3つの領域内に分ける。3つの領域内には、低領域内、中領域内、及び高領域内がある。ただし、当業者であれば任意の数の領域内、例えば2、3、又は5つの領域内が使用できることを理解するであろう。
【0035】
別の事例によれば、分類された胃排出検査は、胃排出呼気検査(GEBT)であり、検査は当業者に既知の方法により実施できる。いくつかの事例によればGEBTは13C標識を含有する食事を患者に供給することにより施される。13C標識はヒトの消費に適する任意の供給源から提供できる。例えば、供給源は13Cを組み込むオクタン酸、又は13C標識した藻類、例えば、高度濃縮13C環境で生育したスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)、アオコ(blue green algae)等がある。13C標識されたスピルリナ・プラテンシスを用いる呼気検査は、本明細書で「13C−SpGEBT」と言う。13C含有の藻類は、同一出願人による米国特許第6,872,516号で開示される(当該開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)、13C濃縮環境で藻類細胞を生育させることにより得てもよい。スピルリナ・プラテンシスは、1981年に米国食品医薬品局により合法であると承認され、現在、栄養補助食品として米国で消費される。スピルリナ・プラテンシスは、13Cでおよそ99%の存在レベルで均一に標識でき、50〜60%のタンパク質、30%のスターチ、及び10%の脂質を含有する。13C−スピルリナ・プラテンシスは、200mg以下の用量で提供することもできる。特定の事例によれば、当該用量は、およそ100mgであり、これはおよそ43mgの13Cを含有する。
【0036】
胃排出を評価し、その後に消化の健康状態を評価するための、13C標識呼気検査の原理は、CO2の形成をもたらす食物の消化及び代謝のプロセスをうまく利用する。非放射活性炭素には、本来的には我々の体、及び我々が食べる食物という2つの主要な形態がある。炭素−12は12Cと表示するが、これは天然の存在割合がおよそ99%である。炭素−13は13Cと表示するが、これは天然の存在割合がおよそ1%である。炭素の第三の型(同位体)は放射活性炭素−14であるが、その天然存在量は非常に少なく、安定な呼気検査では使用されない。呼気検査の対象物が12Cの代わりに13Cが豊富となるよう「逆標識される」場合、その後、対象物が消化、吸収及び代謝を受けた後の呼気において、患者への非内因性13Cの導入によるシグナル増加を検出できる。消化及び代謝のプロセスは、最終産物としてCO2を発生させる。それ故、13C標識された食事が胃で粉砕されると、それは、幽門を通って腸に入り、そこで13C標識された対象成分、例えばスピルリナ・バイオマス様の対象物が消化、吸収、及び代謝され、呼気中に吐き出される13CO2を発生させる。呼気サンプルは、食事の前後の戦略的時点において回収され、これを、各呼気サンプル中の13CO212CO2比率を決定するために分析する。その後、この比率を、経時での13CO2排出における変化を計算するために使用する。経時での13CO2排出における変化を測定することにより、胃排出の比率を決定できる。
【0037】
呼気検査食事には、ヒトの消費に適する任意の食物タイプを含むことができ、シンチグラフィー検査について上記のタイプの食事が可能である。1の特定の実施態様によれば、食事には、共に凍結乾燥され、その後解凍された、全卵及び13C−スピルリナ・プラテンシスが含まれる。例えば、低温殺菌され混合された卵ミックス、及びおよそ100mgの13C−スピルリナ・プラテンシスの両方を含有する凍結乾燥粉末を、飲用水で再水和する。その後、卵ミックスを例えば電子レンジで調理する。患者に、かかる調理した卵ミックスを、他の任意の食物成分、例えば6個のナビスコ・プレミアム・クラッカー(PREMIUM Saltine)及び6オンスの飲用水と共に投与することができる。
【0038】
呼気検査を分類し、呼気検査分類システムを使用する、1つの例示的な方法をここで記載する。検査が施される前にある一定期間、例えば少なくとも8時間絶食する。さらに、好ましくは患者は、検査前1時間までに約4液量オンス以上の水を飲むことを控える。患者はシンチグラフィー標識を含む食事を与えられる。ベースライン(食事前)呼気中の13CO212CO2比率を決定するため食事の投与前にベースラインの呼気サンプルを回収する。その後患者に、>95%の13C標識化スピルリナ・プラテンシスを含む食事を与える。患者はまた、好ましくは10分以内の時間枠で、1回で食事を消費する。
【0039】
食事の消費後、食事後から定期的な時点、例えば、45、90、120、150、180、及び240分の時点で呼気サンプルを得る。いくつかの事例によれば、ストローを用いてガラス管の含有空気と置き換えるように管の底に息を吹き込み、呼気サンプルを回収する。管に蓋をし、各管の(及び各時点の)呼気の13CO2含量を、ガス同位体比率質量分析(Gas Isotope Ratio Mass Spectrometry)及び/又は赤外線分光学法を用いて決定する。例えば、ガス同位体比率質量分析器(gas isotope ratio mass spectrometers)(Europa Scientific製, UK)及び赤外線分光計(Otuska Electronics Co., Ltd.から購入可能)が、ヒトの呼気中の13CO212CO2比率の測定用としてFDAに承認されている。検査食事前後に回収された呼気サンプルを、サンプル中の13CO212CO2比率を決定するために分析する。その後、経時での13CO2排出の変化を計算するため、即ち呼気検査測定値を提供するためにこの比率を使用する。
【0040】
呼気検査測定値は、当業界で既知の任意の測定基準(metric)を用いて表現できる。出願人は、共通して呼気検査測定値を表現する、新規な2つの測定基準、kPCD及びCumPCDを開発した。即ち、特定の事例によれば、呼気検査測定値はkPCD及びCumPCDとして表現される。PCD測定基準は、検査食事の消費後、時間tで排出された13Cの用量パーセント(Percent Dose)(略してPCD)である。より便利なスケールを提供するため、PCDに1000を乗じて、任意の時間tでのkPCDを算出する。CumPCDは、時間tで排出された13Cの累積用量である。kPCD及びCumPCDは、食事の消費後の各時点、通常45、90、120、150、180、及び240分の時点で決定できる。各時点tで、kPCDは以下の通りに計算できる。
【数1】

ここで、
DOB=任意の時点tでの食事後呼気標本とベースライン呼気標本との間の13CO212CO2比率における、測定された差異である。
CO2PR=Scholfield等式を用いて計算される、CO2生産速度(mmolCO2/分)。Scholfield等式は、年齢、性別、身長、及び体重に応じて、13CO2生産速度に密接に関連する基礎代謝率(BMR)を推定するための人に適する等式のセットである。この等式は当業者に既知であり、検査される個体の特定のCO2生産の計算が可能となる。
S=0.0112372、国際参照基準(international reference standard)(Pee Dee ベレムナイト)における、比率[13CO212CO2]である。
13=13Cの原子量。
10=変換単位の定数因子。
用量=検査食事における、患者に投与された13C−スピルリナ・プラテンシスの用量中の13Cの重量(mg)。例えば、13C−スピルリナ・プラテンシスは、13C重量がおよそ43%であり、100mgの用量では13Cがおよそ43mgである。
【0041】
kPCDは、各時点で計算され、特定の事例では、45、90、120、150、180、及び240分の時点である。出願人はCumPCD(累積PCD)も計算する。CumPCDは、PCD曲線下面積の計算であり、台形積分により達成される。
【数2】

ここで、PCDi及びtiは、i番目の呼気回収時点でのPCD値(μmol/分)及び時間(分)である。
【0042】
各時点でのGEBT測定値を決定して、これらを領域に類別する。領域は、異常領域、境界領域、及び正常領域からなる群から選択できる。異常領域には、遅延排出領域又は急速排出領域があり得る。具体的な事例によれば、領域は、急速排出、境界急速排出、正常、境界遅延排出、及び遅延排出からなる群から選択される。表2は、遅延胃排出の疑いのある患者を分類するための、例示的な3つの領域分類スキームを示す。この例示的な3つの領域分類システムは、卵及び13C−スピルリナ・プラテンシスを含有する食事を患者に投与することが必要である呼気検査と組み合わせて使用するよう設計される。分類システムはまた、通常の患者は、3時間(180分)以内で食事を摂取及び排出すると仮定する。例示的な分類システムはまた、図3に図示され、ここで線38は、正常排出から遅延排出を区別するための、単純な二分カットオフ点である。線38の上部の影付きの領域32は、正常領域を表し、線の下部の領域36は、遅延排出領域を表し、且つ領域32と36との間の領域34は、境界領域を表す。
【0043】
【表2】

【0044】
1又は複数の時点での患者の結果を、3つの領域の1つに類別する。例として、120分(2時間)の時点での患者の結果の分類を、ここで記載する。120分での患者のkPCD値が<33.1である場合、この値は遅延排出領域に分類され、120分の時点での患者の胃排出は遅延であるとみなされる。値が低ければ低いほど、胃排出の速度は遅くなり、0は完全な非機能胃となる。同様に、120分での患者のkPCD値が>55.3である場合、この値は正常領域に類別され、120分の時点での患者の胃排出速度は正常であるとみなされる。最後に、120分での患者のkPCD値が33.1と55.3の間である場合、胃排出速度は、境界領域とみなされる。
【0045】
いくつかの事例は、45分、90分、120分、150分、及び180分の時点での呼気検査測定値を分類する方法を提供する。分類には、(1)45分の時点で、呼気検査測定値が6.3kPCD未満の場合は遅延排出領域を選択し、呼気検査測定値が6.3〜19.5kPDCの場合は境界領域を選択し、及び呼気検査測定値が19.5kPCD超の場合は正常領域を選択すること、(2)90分の時点で、呼気検査測定値が21.9kPCD未満の場合は遅延排出領域を選択し、呼気検査測定値が21.9〜44.2kPDCの場合は境界領域を選択し、及び呼気検査測定値が44.2kPCD超の場合は正常常領域を選択すること、(3)120分の時点で、呼気検査測定値が33.1kPCD未満の場合は遅延排出領域を選択し、呼気検査測定値が33.1〜55.3kPDCの場合は境界領域を選択し、及び呼気検査測定値が55.3 2kPCD超の場合は正常領域を選択すること、(4)150分の時点で、呼気検査測定値が39.5kPCD未満の場合は遅延排出領域を選択し、呼気検査測定値が39.5〜59.1kPDCの場合は境界領域を選択し、及び呼気検査測定値が59.1kPCD超の場合は正常領域を選択すること、又は(5)180分の時点で、呼気検査測定値が38.1kPCD未満の場合は遅延排出領域を選択し、呼気検査測定値が38.1〜54.9kPDCの場合は境界領域を選択し、及び呼気検査測定値が54.9kPCD超の場合は正常領域を選択することを含む。
【0046】
シンチグラフィーと同様に、患者の呼気検査測定値は、3つの領域のうちの1つに分類するだけでなく、領域内での分類もできる。各領域は、領域内分類システム、例えば低領域内、中領域内、及び高領域内を有する。例えば、120分の時点で32kPCDの測定値は、初めに遅延排出領域に入れられ、低領域内にも入れられる(境界領域近傍であることを示す)。同様に、同時点での34kPCDの測定値は、初めに境界領域に入れられ、高領域内にも入れられる(遅延排出領域近傍であることを示す)。また、54kPCDの測定値は、初めに境界領域に入れられ、低領域内にも入れられる(正常領域近傍であることを示す)。最後に、56kPCDの測定値は、初めに正常領域に入れられ、高領域内にも入れられる(境界領域近傍であることを示す)。
【0047】
GEBT結果の診断領域分類は、任意の所望の形式で提供できる。特定の実施態様によれば、GEBT結果は、既に図2a〜2cについて記載した通り、読取容易なディスプレイを用いて表現される。別の事例によれば、結果はグラフの形態で表示でき、おそらく図4で示す通りのグラフである。図4は、図3と同じ領域分類スキームを示すが、さらに3人の患者の結果を含む。線42は正常な患者の結果を表し、線44は境界遅延排出患者の結果を表し、及び線46は遅延排出患者の結果を表す。
【0048】
患者の分類スキームが示されると、臨床医はこのディスプレイを、患者の診断のためだけでなく、患者の胃排出速度を評価し、経時での任意の動向を観察するために使用できる。当該観察は、患者の胃排出パターンを、そのパターンに対応する適切な処置計画と相関させる際に役立てることができる。さらに、図2a〜2cのディスプレイでなされる通り、各々のカテゴリー内での様々な結果を示すことにより、医師は、単に分類を確認するよりも詳細に、異常の可能を評価できるか、又は異常の重症度を評価できる。ディスプレイは、異なる時間で行われる検査、例えば検査が将来反復される場合に、その結果を比較するために使用することもできる。この将来的な検査は、治療計画の導入後、又は治療計画における変化の後に行ってもよく、また胃排出の変化は各時点の結果のディスプレイを比較することにより、より容易に評価できる。このディスプレイを用いる比較は、臨床医が、検査の各時点での治療効果の評価を可能にする。臨床医は、検査の各時点で患者の分類が改善されたかを確認できる(例えば、遅延排出から、境界遅延排出)だけでなく、臨床医は、ある分類の中でも改善も確認できる(例えば、非常に高度又は重症の遅延排出から、境界線近傍の遅延排出への移行)。
【0049】
さらに、胃排出データが領域に従って分類されると、治療措置の度合いはより適切に適用される可能性がある。この方法によれば、選択された治療は、患者の胃排出パターンとより正確に相関させることができる。すなわち、いくつかの実施態様によれば、患者を治療する方法が提供できる。当該方法には、患者における胃排出検査を実施するステップ、所望の時点での胃排出を観察するステップ(例えば、90、120又は180分の時点)、及びその時点での胃排出を分類するステップを含むことができる。分類には、異常領域、境界領域、及び正常領域からなる群から選択される1又は複数の領域に、胃排出測定値を分類するステップが含まれ、ここで、異常領域は、遅延排出領域又は急速排出領域のいずれかがあり、境界領域には、遅延排出境界領域又は急速排出境界領域がある。
【0050】
いくつかの事例によれば、領域は、急速排出、境界急速排出、及び正常からなる群から選択される。他の事例によれば、領域は、遅延排出、境界遅延排出、及び正常からなる群から選択される。さらに他の事例によれば、領域は急速排出、境界急速排出、正常、境界遅延排出、及び遅延排出からなる群から選択される。方法には、選択された領域に基づき治療措置のレベルを選択するステップが含まれる。多くの事例によれば、当該措置は、患者への水分及び栄養を回復させる目的で選択され、また症状を解消しようとするものであり、この症状としては、満腹、吐気、嘔吐、膨満、上腹部不快感がある。
【0051】
選択された治療又は治療措置は、正常患者にはなされず、境界遅延排出患者には遅延排出の穏和な措置又は遅延排出の適度な措置であり、及び遅延排出患者には遅延排出の積極的な措置又は遅延排出の非常に積極的な措置ができる。同様に、選択された治療は、正常患者にはなされず、境界急速排出患者には急速排出の穏和な措置又は急速排出の適度な措置、及びより軽度の治療に応答しなかった急速排出患者又は境界患者には急速排出の非常に積極的な措置又は急速排出の非常に積極的な措置ができる。即ち、遅延又は急速排出の重症度が、積極的治療の方向へと後押しするガイドとして働く。境界領域の(borderlin)患者において、穏和な措置が措置の軽減しなさそうな場合、その後積極的な措置を適用できる。
【0052】
遅延排出の穏和措置には、患者の食事を調節すること及び/又は運動をするよう患者に要求することを含むことができる。いくつかの事例によれば、患者に、高脂肪及び不溶性繊維の食事の摂取は、胃排出を遅延させるので、控えるよう要求する。そのかわり、患者は、炭水化物の複合物からなる、少量で低脂肪の食事を大量に摂取することができる。遅延排出の穏和な措置には、糖尿病患者における血糖コントロールの回復も含まれる。
【0053】
遅延排出の穏和な措置が機能しない場合、又は患者が境界領域を超える遅延排出を有するものとして分類される場合、遅延排出積極的な措置を取ることができる。遅延排出積極的な措置は、胃運動性を向上させるための運動促進措置及び/又は吐気及び嘔吐を処置する抗嘔吐薬等の医薬剤の投与が含まれる。穏和な治療に落ち着いた境界領域の患者のなかには、非常に短期間又は低用量の医薬剤で利益を受けることもある。それ故、医薬剤の初期用量は、領域分類及び/又は症状重症度に相関させることもできる。
【0054】
遅延排出の積極的治療が機能しない場合、又は患者が重症の遅延排出であると分類されるとともに/又はその栄養的健康がかなり危機的である場合、非常に積極的な遅延排出措置をとってもよい。遅延排出の非常に積極的な措置には、非侵襲的方法又は外科的方法、例えばベンティング(venting)又はオストミーの施術(feeding ostomies)、胃ペースメーカーの移植、及びその他の外科手術を用いることができる。例えば、いくつかの重症の胃疾患(gastroparetics)、特に糖尿病において、長期間の幽門の緊張及び収縮の増加が実証されており、これは胃滞留時間の延長を生じさせ得る。これらの患者は、ボツリヌス毒の幽門内注入物を内視鏡的に送達することにより処置でき、これは幽門弁を弛緩させる目的であり、胃排出を改善し、症状を軽減させる。重度の吐気及び嘔吐に見舞われる難治性患者において、胃造瘻管はベンティング又は吸引により胃を減圧にするために使用できる。ベンティング空腸造瘻術は、症状軽減のため、及び非経口的栄養法を患者に与えるために使用してもよい。胃運動性がほとんど機能しない胃疾患は、外科手術的に設置された胃ペースメーカーの処置を受けることができる。
【0055】
急速排出の穏和な措置には、胃排出の速度を低下させるために患者の食事を調節することが含まれる。例えば、患者に、タンパク質、繊維、ペクチン及び低レベルの単炭水化物を増量した食事を摂取することを指導することができる。また、食事と共に液体を最小限にできる。患者に、胃排出速度を低下させるため、例えば食事後に横たわる等の姿勢を変化させることも要求できる。
【0056】
急速排出の穏和な措置が機能しない場合、又は境界領域を超える急速排出を有すると分類される患者にいては、急速排出の積極的な措置をとることができる。急速排出の積極的な措置には、患者への医薬剤の投与が含まれる。医薬剤胃及び腸の運動性を低下させる薬物、例えばアカルボース(炭水化物消化を遅延させる)及びオクトレオチド(腸運動性を低下させる止痢薬)等を使用できる。
【0057】
急速排出の積極的な措置が機能しない場合、又は重症な急速排出であると分類される患者においては、急速排出の非常に積極的な措置をとることができる。急速排出の非常に積極的な措置には、幽門再建又は胃バイパス手術の回復等の外科的手段が含まれる。
【0058】
患者を治療する方法には、日常の胃排出の速度における被験者内の生物変動の度合を測定するステップ、及び治療臨界増加又は臨界減少値を計算するために観察した生物変動を用いるステップが含まれる。胃排出における、正常な被験者内の日々の生物変動を計算すること、及び臨界増加又は臨界減少値を計算する例については以下でより詳細に記載する。臨界増加は、無作為で正常な被験者内の生物変動での患者の結果における、真の変化を反映するため、どれだけ胃排出測定値が増加すべきかを示す。同様に、臨界減少は、患者の結果における真の変化を反映するため、どれだけ胃排出測定が減少すべきかを示す。選択された治療措置の型又は度合いは、どれだけ臨界増加又は減少が大きい又は小さいか、に基づいて決定することもできる。治療を施すと、その後臨床医は、臨界増加又は臨界減少値に到達するかを決定するため、患者に対して追加の胃排出検査を実施できる。
【0059】
いくつかの実施態様は、領域分類システムを明らかにするための方法も提供する。各領域の上限及び下限を決定するため、様々な方法が使用できる。いくつかの実施態様によれば、領域分類システムを明らかにする方法には、胃排出と関連する正常な生物変動の量を使用して、各領域の上限及び下限を計算するステップが含まれる。当該方法には、(1)一連の健常患者に対する胃排出検査を実施するステップ、(2)所望の時点での、一連の健常患者の、胃排出測定値を得るステップ、(3)所望の各時点の基準範囲を形成するために胃排出測定値を使用するステップ、(4)正常胃排出測定値を異常胃排出測定値から区別するためのカットオフ点として基準範囲の上方フラクタイル又は下方フラクタイルを用いるステップ、(5)生物変動測定値を得るために、所望の時点での健常患者及び軽度に罹患した患者の胃排出の被験者な胃生物変動を測定するテップ、及び(6)正常領域、境界領域、及び異常領域を計算するテップ、ここで境界領域は生物変動測定値から観察された生物変動の度合いを用いてカットオフ点周辺で計算される。使用される基準範囲は、95%基準範囲又はより小さい範囲、例えば90%基準範囲又は85%基準範囲があり得る。また、いくつかの事例によれば、上方フラクタイルは、2.5%線より上であり、下方フラクタイルは2.5%線より下である。上方フラクタイルは、急速胃排出測定値から正常胃排出測定値を区別する上部カットオフ点として使用できる。同様に、下方フラクタイルは、遅延胃排出測定値から正常胃排出測定値を区別する下部カットオフ点として使用できる。
【0060】
特定の実施態様によれば、方法には、以下の5つのステップが含まれ、(1)各選択された時点tで健常な被験者における胃排出値を回収するステップ(任意の既知の方法で);(2)各時点tでの95%基準範囲を構成する胃排出値を使用するステップ;(3)低速胃排出値から、正常胃排出値を区別するための、単純な二分カットオフ点として95%基準範囲の下方2.5%フラクタイルを使用するステップ(又は、急速胃排出値から、正常胃排出値を区別するための、単純な二分カットオフ点として95%基準範囲の上方2.5%フラクタイルを使用するステップ);(4)健常な被験者及び軽度に罹患した患者における、胃排出の、自然な日々の正常な生物変動を測定するステップ、及び(5)自然な日々の正常な生物変動測定値を用いて、単純な二分カットオフ点周辺の境界遅延排出領域(又は境界急速排出領域)を計算するステップである。
【0061】
遅延排出、境界遅延排出、及び正常領域等の3つの領域分類システムを明らかにする例示的な方法として、ここで特定の実施態様との関連で記載する。当業者は、これらの方法は急速排出、境界急速排出、及び正常領域を明らかにするためにも使用できることを理解するであろう。
【0062】
出願人は、各々呼気検査及びシンチグラフィーのための3つの分類システムを明らかにする上記のステップを行った。第一に、出願人は、標準化225kCalの食事を用いて65人の健常な被験者に対し、13C−スピルリナ・胃排出呼気検査を行った。ここで前記食事には、飲用水、6つのナビスコ・プレミアム・クラッカー及び凍結乾燥全卵−13Cスピルリナ・プラテンシスが含まれる。同様に、出願人は別に、代わりに99mTc硫酸コロイド添加した凍結乾燥全卵を含む以外は同じ標準化食事を用いて、30人の健常な被験者に対しシンチグラフィー検査を行った。被験者は、医師により行われた健康診断を通過すると共に、「健常」とみなされるための実験室試験を受けた。胃排出値は、45、90、120、150、及び180分の時点で得た。
【0063】
第二に、各方法において、出願人は、各時点で95%基準範囲を構成する胃排出値を使用した。95%基準範囲は、RefValという、国際臨床化学連合(International Federation of Clinical Chemistry)の推奨を基準値の、統計的処理の際に実行するプログラムを使用して、両方のデータセットを計算した。RefValにおいて複数の統計的手法が実行できるが、出願人は、データの2段階式数学的変換に基づくパラメータ推定方法を使用した。(1)マンリー(Manly)の指数変換(ゆがみ除去のため)及び(2)ジョン及びドレイパーの係数変換(John and Draper's modulus transformation)(残存尖度の調整のため)。これらの計算から得られる95%基準範囲を表3に示す。
【0064】
呼気検査及びシンチグラフィーの95%中央基準範囲
【表3】

【0065】
第三に、各時点において、出願人は正常と遅延排出との間を区別するカットオフ点(COP)を設定した。特定の事例によれば、COPは、各方法で測量的規定され中央0.95(95%)基準範囲の0.025フラクタイル(2.5%)限界と定義される。本明細書の例によれば、出願人は、表3に示す各時点tの95%基準範囲の各下限を使用した。表3において、45分の時点でのCOPは、呼気検査の12.9kPCD、及びシンチグラフィー検査の18.1 propである。90分の時点でのCOPは、呼気検査で33.1kPCD、及びシンチグラフィー検査で49.4 prop、などである。この代わりに出願人が、急速排出、急速排出境界、及び正常の分類システムを設定する場合、上方2.5%COPが正常と急速排出との間を区別するCOPとして使用されるはずである。例えば、45分の時点での上方COPは、呼気検査で32.9kPCD、及びシンチグラフィー検査で50.5 prop、などである。
【0066】
第四に、各時点でのCOP決定後、出願人は各時点についての、被験者内、日々の自然な生物変動の量を測定した。この生物変動量は、当業界で既知の方法を用いて測定できる。自然な、日々の、被験者内生物変動を計算するため、出願人は、呼気検査で73人の被験者(65人の健常者と、8人の軽度胃障害者)、及びシンチグラフィーで28人の被験者(20人の健常者と、8人の軽度胃障害者)を調べた。出願人は、別の2日で(即ち、第一日目と第二日目)、同じ胃排出検査(例えば、同じ用量で同じマーカーの同じ食事)を被験者に対し施すことにより、生物変動を測定した。このデータから、プールした被験者内標準偏差(SD)及び変動係数(%CV)を計算した。出願人は、健常被験者で見られる変動性の度合いが、軽度に罹患した患者(その胃排出速度が境界領域にある)で見られるものと、統計的な差異がないことを観察した。出願人は、以下の表4で例示される、例示的な生物変動値を観察した。
【0067】
【表4】

*GEBT結果はkPCDで、シンチグラフィーの結果は排出割合で示す。
**240分のデータは計算不能となっているが、これは試験に使用された225kcalの標準化食事が、〜180分で実質的に100%排出されるためである。
【0068】
第五に、出願人は、設定したCOP周囲の境界領域を数学的に構成する、観察された生物変動の量(SD)を使用した。正常な日々の生物変動のため、遅延又は正常という患者の分類は、単純なCOP近傍の値である患者で解析を反復する際に変化する可能性がある。潜在的な患者内の生物変動が多くの割合を占める分類システムを提供する。境界領域以外の患者の結果は、非常に高い確率(>95%)で正確に分類され続け、例えば分析を反復しても、遅延又は正常と正確に分類された。例えば、正常な被験者内の生物変動とみなされるデータは、以下の等式を用いて境界領域を計算するために使用できる。
【数3】

式中、BVは生物変動である。上記等式中の定数1.645は、95%レベルで設定された診断効率(diagnostic efficiency)を表す。結果は、その限界が、単純なCOPの上部及び下部の、1.645*SDBVの距離と等しいCOP周囲の面積(領域)である。それゆえ、境界領域は、第一COPが境界領域の上限、つまりBVupperであるように、及び第二COPは境界領域の下限、つまりBVlowerであるような、第一COP及び第二COPを有する。上記の境界領域の上限であるBVupperである検査結果は、正常領域に分類され、境界領域の下限であるBVlowerは、遅延排出領域に分類される。BVupper超及びBVlower未満である検査結果値は、検査を反復しても、正常又は遅延として適切に分類される確率が>95%である。結果は3つの領域又は3分された患者分類システムであり、これはより的確に患者の胃運動性の状況を特徴づける。
【0069】
出願人は、非常に信頼のおける分類手法とするために、上記例において95%レベルの診断効率を選択する。ただし、選択された診断効率レベルは、90%、85%又は80%レベルより低く設定してもよい。
【0070】
95%診断効率レベルを使用するBV境界領域を、以下の手法を用いて計算できる。最初に出願人は、既に記載した65人の健常患者で95%基準範囲を計算した。また出願人は、既に記載した被験者及び研究における、プールし、時間に関連した被験者内変動(生物変動)を計算した。この値を、以下の、境界領域の誘導(derivation)で使用する。
【0071】
定義:
μi=i番目の患者における胃排出の真値
i=i番目の患者における胃排出の測定値
0=正常結果の推定限界
μiは、患者の真の胃排出速度である(例えば、これは、誤差のない同じ方法で1000回、患者の胃排出速度を測定することにより明らかになるか、又は少なくともほぼそれに達することができる)。xiは、検査方法で測定した実際の結果である。x0は、生物変動のない場合の使用のための単一COPの値であり、つまり、基準範囲の単純な下方95%二分COPである。例えば、x0は表3からとることができ、ここで45分での12.9、90分での33.1、120分での44.2、150分での49.3及び180分での46.5分である。所与の患者について、感度及び特異性を以下の通りに定義する(我々の事例によれば、異常は正常よりも低い値である):
【数4】

(確率の記載の中の縦棒は、「いずれか(given that)」を意味する)
【数5】

その後、推定された正常の下限で誤差が存在しない、診断効率(感度及び特異性の平均値x0)を、以下の通りに計算する。
【数6】

ここで、
Φ(z)=標準正規(ガウス)分布
【数7】

σABi=分析と、被験者内での時間に関連した生物変動とを組み合わせる標準偏差。
【0072】
式(1)の再配列は、所与の診断効率のための「境界」のカットオフ限界を推定するために使用できる。
【数8】

【0073】
例としては、95%の診断効率を達成するために、正常のための基準範囲の下限を有するGEBTであるx0として50.0及びσABi=5.0と決定され、Z01=1.645と設定すると、COP1及びCOP2の値が出る。この事例によれば、境界領域のカットオフ点(COP1及びCOP2)は、それぞれ50.0 ± 8.2、又は58.2及び41.8である。すなわち、kPCD>58.2である患者は、正常に分類されるはずである。kPCD<41.8である患者は、遅延胃排出に分類されるはずであり、値が41.8と58.2との間である患者は境界胃障害と分類されるはずである。
【0074】
本発明のいくつかの実施態様によれば、遅延排出について境界領域と決定すると、負又は正常の結果は境界領域の上限より大きい全ての値として得られる。正の値は、境界領域の下限より小さい全ての値として得られる。境界領域の上限及び下限の間の値は、境界領域として分類される。結果は3つの領域又は3分した患者分類システムであって、胃の運動不全を含む患者の症状をより的確に特徴づける。胃排出は、被験者内、時間に関連した生物的不正確さが比較的高く、定常的な検査の間に誤った診断分類に導く可能性があるため、これらの領域は有益である。
【0075】
高度の臨床的用途の診断領域を設定する能力に加え、正常な生物変動の測定はさらなる役割を有する。正常な生物変動の測定は、患者の治療を監視する場合に医師を支援できる。正常な生物変動の度合いが未知であれば、その後治療措置が成功可能性度合いは未知となるか、又は誤って理解されるだろう。ただし、この度合いが既知の場合は、胃排出速度がどれだけ変化すべきかに関して、医師に知らせるために使用できる。これはその速度変化が単純な正常で無作為な生物変動ではないからである。特定の実施態様によれば、生物変動の度合いは、臨界増加(Δ↑)又は臨界減少(Δ↓)値を計算するために使用され、これは、治療による患者の結果における真の変化及び無作為でない生物変動を反映するために、どれだけの胃排出値が増加又は減少すべきかを示す。Δ↑又はΔ↓は、生物変動の度合いが既知であれば、標準統計的等式を用いて計算できる。
【0076】
ある実施態様によれば、臨界増加Δ↑は、以下の通りに決定してもよい。患者の結果における、kPCD(呼気検査)又は、排出%(シンチグラフィー)において真の変化を95%超の可能性で示す(即ち、無作為変動には<5%の可能性で起因する(Stot))Δ↑は、以下の式で与えられ、
【数9】

ここで、
1-α=確率(1−α)に対応する標準正規変数(standard normal variable)、[z1-0.5=1.645]であり、
【数10】

p=用量及び検査投与変数を含む分析前の標準偏差、
A=分析標準偏差、
B=標準偏差として表現される被験者内生物変動、
RIS=結果範囲サイズ(Result Interval Size)であり、
kPCDの場合、RIS=0.1
シンチグラフィーの場合、RIS=1.0である。
【0077】
上記計算は、Sp及びSAが要請の時間の間、安定であり、被験者内、時間に関連した生物変動(SB)が、恒常性設定点の周囲での無作為で独立な変動(fluctuation)であり、及び使用されるSTOTを、個々の最初と最後の胃排出検査に適用する、という前提のセットに基づく。GEBT(kPCD)については、90、120、150分の時点で、正常及び遅延排出の被験者では、STOT=6.51であり、シンチグラフィー(排出%)については、90、120、150分の時点で、正常及び遅延排出の被験者では、STOT=7.2である。
【0078】
臨界増加Δ↑の計算の例は、以下の通りに提供される。
GEBT(kPCD)について、95%信頼性
【数11】

シンチグラフィー(排出%)について
【数12】

上記計算は、例えば以下の表6に示すもののような信頼水準とするために使用できる。
【表5】

上記信頼水準は、結果における変化が、治療によるものか、自然な患者変動によるものかを決定するため、患者データに適用できる。例えば、表4を参照すると、120分でのベースラインGEBT kPCDが40.0であり、遅延排出の境界であると判明している患者は、治療による有意な変化であると95%の信頼性で示すために、治療後のkPCDが≧55.3kPCDとなる必要がある。同様に、120分でのベースライン排出%が60%であり、遅延排出で境界であると判明している患者は、治療による有意な変化であると80%の信頼性で示すために、治療後の排出%が≧70%となる必要がある。
【0079】
それ故、正常又は異常という単純な二分法の結果、例えば、正常 対 低速、又は正常 対 高速等は、胃排出における被験者内の時間に関連する生物変動の決定的要素に対処していないし、健常者 対 病気の患者において観察される胃排出速度の重複する分布の臨床的な現実についても対処していない。単純な二分COPアプローチを用いる場合、診断分類法からこれらの問題を除去することは、胃排出速度の測定値に特有な性質が原因となって検査結果の誤った診断分類をもたらす可能性がある。出願人の診断領域分類システムは、真の胃の病因及び臨床的現実と一致する方法で、患者の胃運動性の状況についてのより的確な評価を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃排出分類システムであって、
異常領域、
境界領域、及び
正常領域を含んでなり、
ここで異常領域は、遅延排出領域又は急速排出領域のいずれかであり、ここで各々の異常領域、境界領域、及び正常領域が、健常患者からの胃排出測定値及び生物変動測定値を用いて明らかにされるシステム。
【請求項2】
前記分類システムが、
遅延排出領域、
境界領域、
正常領域、
第二境界領域、及び
急速排出領域を含んでなり、
ここで各々の遅延排出領域、境界領域、正常領域、第二境界領域、及び急速排出領域が、健常患者からの胃排出測定値及び生物変動測定値を用いて明らかにされる、請求項1に記載の胃排出分類システム。
【請求項3】
前記分類システムが、1又は複数の時点で測定される検査測定値を分類する、請求項1に記載の分類システム。
【請求項4】
前記1又は複数の時点が、45分、90分、120分、150分、及び/又は180分である、請求項3に記載の分類システム。
【請求項5】
前記分類システムが、シンチグラフィー検査測定値を分類する、請求項1に記載の分類システム。
【請求項6】
前記分類システムが呼気検査測定値を分類する、請求項1に記載の分類システム。
【請求項7】
前記分類システムが、45分、90分、120分、150分、及び180分の時点でのシンチグラフィー検査測定値を分類し、
45分の時点で、遅延排出領域が6.3%未満の排出、境界領域が6.3〜29.9%の排出、及び正常領域が29.9%超の排出であり、
90分の時点で、遅延排出領域が36.2%未満の排出、境界領域が36.2〜62.6%の排出、及び正常領域が62.6%超の排出であり、
120分の時点で、遅延排出領域が56.1%未満の排出、境界領域が56.1〜79.5%の排出、及び正常領域が79.5%超の排出であり、
150分の時点で、遅延排出領域が67.0%未満の排出、境界領域が67.0〜87.8%の排出、及び正常領域が87.8%超の排出であり、及び
180分の時点で、遅延排出領域が79.4%未満の排出、境界領域が79.4〜95.6%の排出、及び正常領域が95.6%超の排出であることをさらに含んでなる、請求項1に記載の分類システム。
【請求項8】
前記分類システムが、45分、90分、120分、150分、及び180分の時点での呼気検査測定値を分類し、
45分の時点で、遅延排出領域が6.3kPCD未満、境界領域が6.3〜19.5kPCD、及び正常領域が19.5kPCD超であり、
90分の時点で、遅延排出領域が21.9kPCD未満、境界領域が21.9〜44.2kPCD、及び正常領域が44.2kPCD超であり、
120分の時点で、遅延排出領域が33.1kPCD未満の、境界領域が33.1〜55.3kPCD、及び正常領域が55.3kPCD超であり、
150分の時点で、遅延排出領域が39.5kPCD未満、境界領域が39.5〜59.1kPCD、及び正常領域が59.1kPCD超であり、及び
180分の時点で、遅延排出領域が38.1kPCD未満、境界領域が38.1〜54.9kPCD、及び正常領域が54.9kPCD超であることをさらに含んでなる、請求項1に記載の分類システム。
【請求項9】
前記分類システムが、各々の異常領域、境界領域、及び正常領域について領域内分類をさらに含んでなる、請求項1に記載の胃排出分類システム。
【請求項10】
前記領域内分類システムが、高領域内、中領域内、及び低領域内を含んでなる、請求項1に記載の胃排出分類システム。
【請求項11】
胃排出の結果を図示するためのディスプレイであって、
一連の時点、及び
前記一連の時点において、各時点と関連する胃排出分類システムを含んでなり、当該胃排出分類システムは、異常領域、境界領域、及び正常領域を含んでなり、ここで異常領域は、遅延排出領域又は急速排出領域である、ディスプレイ。
【請求項12】
前記一連の時点が、45分、90分、120分、150分、及び180分である、請求項11に記載のディスプレイ。
【請求項13】
前記ディスプレイが、
遅延排出領域、
境界領域、
正常領域、
第二境界領域、及び
急速排出領域を含んでなる、請求項11に記載のディスプレイ。
【請求項14】
前記各々の異常領域、境界領域、及び正常領域が、領域内分類システムとさらに関連する、請求項11に記載のディスプレイ。
【請求項15】
前記領域内分類システムが、高領域内、中領域内、及び低領域内を含んでなる、請求項14に記載のディスプレイ。
【請求項16】
患者の胃排出を評価するための方法であって、
患者に胃排出検査を実施するステップ、
少なくとも1つの所望の時点の胃排出測定値を得るステップ、
胃排出を分類するステップ、
を含んでなり、ここで分類するステップには、異常領域、境界領域、又は正常領域からなる群から選択される領域に、胃排出測定値を類別することが含まれ、ここで異常領域は、遅延排出領域又は急速排出領域のいずれかであるとともに、各々の異常領域、境界領域、及び正常領域は、健常患者からの胃排出測定値及び生物変動測定値を用いて明らかにされたものである、方法。
【請求項17】
前記分類するステップに、遅延排出領域、境界領域、正常領域、第二境界領域、及び急速排出領域からなる群から選択される1又は複数の領域に、胃排出測定値を類別することが含まれ、各々の遅延排出領域、境界領域、正常領域、第二境界領域、及び急速排出領域は、健常患者からの胃排出測定値及び生物変動測定値を用いて明らかにされたものである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの所望の時点が、45分、90分、120分、150分、及び/又は180分である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記方法がシンチグラフィー検査測定値を分類するステップを含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記方法が、呼気検査測定値を分類するステップを含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記分類するステップに、45分の時点、90分の時点、120分の時点、150分の時点、及び180分の時点でのシンチグラフィー検査測定値を分類するステップを含んでなり、
45分の時点で、遅延排出領域が6.3%未満の排出、境界領域が6.3〜29.9%の排出、及び正常領域が29.9%超の排出であり、
90分の時点で、遅延排出領域が36.2%未満の排出、境界領域が36.2〜62.6%の排出、及び正常領域が62.6%超の排出であり、
120分の時点で、遅延排出領域が56.1%未満の排出、境界領域が56.1〜79.5%の排出、及び正常領域が79.5%超の排出であり、
150分の時点で、遅延排出領域が67.0%未満の排出、境界領域が67.0〜87.8%の排出、及び正常領域が87.8%超の排出であり、及び
180分の時点で、遅延排出領域が79.4%未満の排出、境界領域が79.4〜95.6%の排出、及び正常領域が95.6%超の排出であることをさらに含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記分類するステップに、45分の時点、90分の時点、120分の時点、150分の時点、及び180分の時点での呼気検査測定値を分類するステップを含んでなり、
45分の時点で、遅延排出領域が6.3kPCD未満、境界領域が6.3〜19.5kPCD、及び正常領域が19.5kPCD超であり、
90分の時点で、遅延排出領域が21.9kPCD未満、境界領域が21.9〜44.2kPCD、及び正常領域が44.2kPCD超であり、
120分の時点で、遅延排出領域が33.1kPCD未満、境界領域が33.1〜55.3kPCD、及び正常領域が55.3kPCD超であり、
150分の時点で、遅延排出領域が39.5kPCD未満、境界領域が39.5〜59.1kPCD、及び正常領域が59.1kPCD超であり、及び
180分の時点で、遅延排出領域が38.1kPCD未満、境界領域が38.1〜54.9kPCD、及び正常領域が54.9kPCD超であることをさらに含んでなる、請求項16の記載の方法。
【請求項23】
選択領域中で領域内分類を選択するステップをさらに含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記領域内分類を選択するステップに、高領域内、中領域内、及び低領域内からなる群から選択される領域内を選択するステップが含まれる、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記方法が、以下の、
患者の生物変動を測定するステップ、
患者の生物変動を用いて、臨界増加又は臨界減少を計算するステップ、ここで臨界増加は、患者の結果における真の変化を反映するために、胃排出測定値がどれだけ増加すべきかを示し、臨界減少は、患者の結果における真の変化を反映するために、胃排出測定がどれだけ減少すべきかを示すものであり、及び
臨界増加又は臨界減少に達するかを決定するための、患者における追加の胃排出検査を実施するステップをさらに含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項26】
患者を治療する方法であって、
患者に胃排出検査を実施するステップ、
所望の時点で、胃排出測定値を得るステップ、
所望の時点での胃排出測定値を分類するステップ、ここで分類するステップには、異常領域、境界領域、及び正常領域からなる群から選択される1又は複数の領域に、胃排出測定値を類別することが含まれ、ここで異常領域は、遅延排出領域又は急速排出領域のいずれかであり、境界領域は、遅延排出境界領域又は急速排出境界領域のいずれかであり、及び
選択領域と相関する治療措置を選択するステップを含んでなる方法であり、ここで当該選択するステップは、
正常領域が選択される場合、措置をしないことを選択し、
遅延排出境界領域が選択される場合、遅延排出の穏和な措置又は遅延排出の積極的な措置を選択すること、
急速な遅延排出境界領域が選択される場合、急速排出の穏和な措置又は急速排出の積極的な措置を選択すること、
遅延排出領域が選択される場合、遅延排出の積極的な措置又は遅延排出の非常に積極的な措置を選択すること、又は
急速排出領域が選択される場合、急速排出の積極的な措置又は急速排出の非常に積極的な措置を選択することを含んでなる、方法。
【請求項27】
前記遅延排出の穏和な措置又は急速排出の穏和な措置に、患者の食事を調整することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
遅延排出の積極的な措置又は急速排出の積極的な措置に、患者に医薬剤を投与することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
遅延排出の非常に積極的な措置又は急速排出の非常に積極的な措置に、患者に外科的手術法を行うことを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記方法が、以下の
患者の生物変動を測定するステップ、
患者の生物変動を用いて臨界増加又は臨界減少を計算するステップ、ここで臨界増加は、患者の結果物おける真の変化を反映するために、胃排出測定がどれだけ増加すべきかを示し、臨界減少は、患者の結果における真の変化を反映するために、胃排出測定がどれだけ減少すべきかを示すものであり、及び
臨界増加又は臨界減少に達するかを決定するために、患者における追加の胃排出検査を実施するステップをさらに含んでなる、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
胃排出領域分類システムを明らかにする方法であって、
一連の健常患者に胃排出検査を行うステップ、
所望の時点で、一連の健常患者の胃排出測定値を得るステップ、
前記所望の時点の基準範囲を形成するために胃排出測定値を使用するステップ、
正常胃内排出測定値を異常胃排出測定値から区別するためのカットオフ点として、前記基準範囲の上方フラクタイル(fractile)又は下方フラクタイルを使用するステップ、
生物変動測定値を得るための所望の時点で、一連の健常患者のための生物変動を測定するステップ、
正常領域、境界領域、及び異常領域を計算するステップであり、ここで境界領域は、生物変動測定値を用いてカットオフ点周辺で計算されるステップ、
を含んでなる方法。
【請求項32】
前記基準範囲が、95%基準範囲、90%基準範囲、及び85%基準範囲からなる群から選択される基準範囲である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記上方フラクタイルが2.5%フラクタイルより高く、下方フラクタイルが2.5%フラクタイルより低い、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
正常胃排出測定値を異常胃排出測定値から区別するためのカットオフ点として、基準範囲の上方フラクタイル又は下方フラクタイルを使用するステップに、正常胃排出測定値を急速胃排出測定値から区別するためのカットオフ点として、基準範囲の上方フラクタイルを使用するステップを含んでなる、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
正常胃排出測定値を異常胃排出測定値から区別するためのカットオフ点として、基準範囲の上方フラクタイル又は下方フラクタイルを使用するステップに、正常胃排出測定値を遅延胃排出測定値から区別するためのカットオフ点として、基準範囲の下方フラクタイルを使用するステップを含んでなる、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記一連の健常患者の生物変動を測定するステップに、
第一日目の胃排出測定値と第二日目の胃排出測定値を得るために、第一日目と第二日目で同じ胃排出検査を、健常患者に行うステップ、
生物変動測定値を得るために、第二日目の胃排出測定値から第一日目の胃排出測定値を減じるステップ、
を含んでなる、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記正常領域、境界領域、及び異常領域を計算するステップが、
生物変動測定値を使用して標準偏差を計算するステップ、
境界領域を計算するために標準偏差を使用するステップ、及び
異常領域としての境界領域の上部又は下部領域、及び正常領域としての反対領域を指定するステップ、
を含んでなる、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記異常領域が急速排出領域であり、並びに正常領域、境界領域、及び急速排出領域を計算するステップに、
標準偏差を計算するために生物変動測定値を使用するステップ、
境界領域上部のカットオフ点及び境界領域下部のカットオフ点を有する境界領域を計算するために標準偏差を使用するステップ、ここで境界領域上部のカットオフ点が、境界胃排出測定値を急速胃排出測定値から区別し、境界領域下部のカットオフが、境界胃排出試験から正常胃排出測定を区別するものであり、
上記の境界領域上部のカットオフ点を急速排出領域と指定するステップ、
上記の境界領域下部のカットオフ点を正常領域と指定するステップ、
を含んでなる請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記異常領域が遅延排出領域であり、並びに正常領域、境界領域、及び急速排出領域を計算するステップに、
標準偏差を計算するための生物変動測定値を使用するステップ、
境界領域上部のカットオフ点及び境界領域下部のカットオフ点を有する境界領域を計算するために標準偏差を使用するステップ、ここで境界領域上部のカットオフ点が、境界胃排出測定を正常胃排出測定から区別し、境界領域下部のカットオフが、境界胃排出試験から遅延胃排出測定を区別するものであり、
上記境界領域上部のカットオフ点を正常領域と指定するステップ、
上記の境界領域下部のカットオフ点を遅延排出領域と指定するステップ、
を含んでなる請求項31に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−528263(P2010−528263A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507609(P2010−507609)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/062840
【国際公開番号】WO2008/141024
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(504416677)アドバンスド ブレス ダイアグノスティクス,リミティド ライアビリティー カンパニー (4)
【Fターム(参考)】